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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C21C
管理番号 1200128
審判番号 不服2006-15272  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-14 
確定日 2009-07-08 
事件の表示 特願2000-601210「装入物を予熱し溶融し精錬し鋳造する連続電気炉製鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成12年8月31日国際公開、WO00/50648、平成14年11月12日国内公表、特表2002-538295〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年2月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1999年2月23日,米国 1999年6月25日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年4月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月14日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成20年6月17日付けで、平成18年8月11日付け手続補正書による手続補正が却下されるとともに、当審より拒絶の理由が通知され、同年12月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成20年12月22日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?27に記載されたとおりのものである。そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)、及び請求項27に係る発明(以下、「本願発明27」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための装置であって、
微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む金属装入材料を受け取るために装入区域に配置されたベルトコンベアと、
前記ベルトコンベアから前記金属装入材料を受け取るための装入コンベアと、
材料の入口および材料の出口を有し、前記装入コンベアに連結された動的ガス密封手段と、
前記動的ガス密封手段の前記材料の出口に連結されて、前記装入コンベアと連通している、装入コンベア上の装入材料を予熱するための予熱器と、
前記予熱器および前記装入コンベアに脱着可能に連結された、装入材料を炉浴に供給するための連結手段と、
脱着可能な炉天井部を有し、前記連結手段から受け取った前記金属装入材料をそこで溶融して精錬することにより、溶融金属を形成するための電気アーク炉と、
溶融金属を排出するための前記炉を傾動するための手段と、
前記炉から排出された前記溶融金属を受け取るための位置出し可能な、直接注ぎ込まれる冶金用中間容器と、
前記冶金用中間容器から前記溶融金属を受け取る連続鋳造設備と
を備える装置。」

及び
「【請求項27】鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための方法であって、
装入コンベアに連結された予熱器により、金属装入材料を予熱する工程と、
前記予熱された金属装入材料を前記装入コンベヤに取外し可能に連結された連結手段に供給する工程と、
電気アーク炉の内部に、前記連結手段上の前記予熱された金属装入材料を連続的に供給する工程と、
溶融金属を作るべく、脱着可能に構成された炉天井部を有する電気アーク炉中の前記装材料を連続的に精錬する工程と、
冶金用中間容器に前記溶融金属を排出する工程と、
前記冶金用中間容器内の前記溶融金属を連続鋳造設備へ案内する工程と、
前記溶融金属が凝固を開始する連続鋳造モールド内へ、連続鋳造設備から前記溶融金属を仕向ける工程と、
前記モールドから、部分的に凝固した金属を引き出す工程と、
前記引き出した金属を、ビレットにすべく冷却する工程と、
前記ビレットの全体に亘って該温度を均一化する工程と、
前記ビレットを所望の圧延金属生産物にすべく圧延する工程と
を備える方法。」(【請求項27】における「溶融金属をを連続鋳造設備へ」という記載のの「をを」は、「を」の明らかな誤記といえる。)

3.当審拒絶理由の概要
当審より通知された拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。

本願請求項1?27に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平6-145760号公報
刊行物2:特開昭59-193210号公報

4.引用刊行物とその記載事項
当審より通知された拒絶の理由で引用された刊行物1(特開平6-145760号公報)には、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:特開平6-145760号公報
(1a)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するためになしたもので、第1の発明は、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を電気炉内に投入し、加熱溶融する工程、電気炉から出鋼を行う工程、出鋼した溶鋼を移送台車に載置した取鍋に収容する工程、溶鋼を収容した取鍋を載置した移送台車を連続鋳造設備の位置まで移送する工程、溶鋼を収容した取鍋を移送台車からタンディッシュの上方位置まで移送するとともに移送台車を元の電気炉の位置まで移送する工程、溶鋼を取鍋からタンディッシュに注ぐ工程、及びタンディッシュに注がれた溶鋼を連続鋳造する工程を含み前記各工程を連続してかつ総合的に制御して製鋼を行うことを要旨とする。
(中略)
【0008】第5の発明は、前記第1の発明である連続自動製鋼方法の発明の実施に直接使用する装置の発明であって、該装置が、電気炉及び連続鋳造設備を配設するとともに、前記2つの設備の間を往復する取鍋を載置するための移送台車を設けてなる連続自動製鋼装置において、前記連続鋳造設備は取鍋を移送台車からタンディッシュの上方位置まで移送する取鍋移送手段を有し、さらに前記電気炉、連続鋳造設備及び移送台車を総合的に制御する制御手段を有することを要旨とする。」

(1b)「【0014】電気炉1は予熱した鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を連続して投入しながら電気炉を傾動することによって出鋼を行うための製鋼用材料投入手段11並びに出鋼手段12としての電気炉1と電気炉台座18間に介在するローラ及び油圧シリンダからなる電気炉傾動手段並びにスライドゲート(図示せず)を有している。電気炉1は密閉式の電気炉で、製鋼用材料の投入、加熱溶融及び出鋼を外気に触れない密閉状態で行うことができる。また、電気炉1は電極15を有しており、電極15は電源装置16に接続されている。さらに、出鋼側の反対側には、スラグポット18を載置した別の移動台車17を配備する。製鋼用材料投入手段11は、鉄含有スクラップを余熱しながら造滓材等とともに電気炉内に外気に触れない状態で連続して投入することができるように、ヒーターを有する有蓋の密閉式コンベア装置を電気炉1の側面に直結するように構成し、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料の貯蔵場所の近傍に排煙ダクト13を有している。
【0015】電気炉1はここではアーク炉を使用しているがこれに限定されるものではなく、誘導炉等の公知の電気炉を使用することも可能である。また、電気炉1はここでは密閉式のものを使用しているが、これに限定されるものではなく、開放式のものを使用することも可能である。さらに、製鋼用材料投入手段11はここでは密閉連続投入方式のものを使用しているが、これに限定されるものではなく、公知の単なる連続投入方式のものやバッチ方式のものを使用することも可能であり、また、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料は、予熱せずに常温のまま電気炉に投入することもできる。さらに、出鋼操作はここでは電気炉傾動手段により電気炉1を傾動することにより行っているが、これに限定されるものではなく、出鋼手段として公知のリップ・ポアリング法、タップ・ホール法等を使用することも可能である。」

(1c)「【0019】次に、前記の連続自動製鋼装置による連続自動製鋼の工程について説明する。電気炉1の側方から製鋼用材料投入手段11を用いて鉄含有スクラップを余熱しながら造滓材等とともに電気炉1内に外気に触れない状態で連続して投入し、投入された製鋼用材料を加熱溶融する。製鋼用材料を電気炉1内に投入しながら電気炉1と電気炉台座18間に介在するローラ及び油圧シリンダからなる電気炉傾動手段12を用いて電気炉1を傾動してスライドゲートから出鋼及びスラグの排出を行う。上記製鋼用材料の投入、加熱溶融及び出鋼は外気に触れない密閉状態で行う。出鋼した溶鋼を移送台車4に載置した取鍋5に収容する。
【0020】溶鋼を収容した取鍋5を載置した移送台車4を取鍋精錬炉2の位置まで移送する。移送台車4が取鍋精錬炉2の位置に移送されると移動手段23を用いて電極21及び取鍋の蓋22を取鍋5の上部に移動、設置し、移送台車4に取鍋5を載置した状態で取鍋5に収容した溶鋼の精錬を行う。この精錬工程では、測定装置24によって行った溶鋼の測温及びサンプリングに基づいて、取鍋に収容された溶鋼中に精錬用粉末添加材をキャリヤーガスとともに吹き込み介在物のコントロール、脱硫、脱酸等を行う。なお、取鍋精錬炉2による精錬は、溶鋼の品質に応じて省略することができ、この場合には、溶鋼を収容した取鍋5を載置した移送台車4を、直接次の工程を行う連続鋳造設備3の位置まで移送する。
【0021】精錬した溶鋼を収容した取鍋5を載置した移送台車4を連続鋳造設備3の位置まで移送する。移送台車4が連続鋳造設備3の位置に移送されると門型フレーム34上を移動し、取鍋5の吊上げ手段33を有する取鍋吊上げ移送台車32を用いて、精錬した溶鋼を収容した取鍋5を移送台車4からタンディッシュ35の上方位置まで移送、設置する。一方、移送台車4を元の電気炉1の位置まで移送する。タンディッシュ35の上方位置に設置した取鍋5からタンディッシュ35に溶鋼を注ぎ、モールド36、ピンチロール37、電磁誘導撹拌装置、切断装置等の設備を適宜用いることにより溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する。電気炉1、取鍋精錬炉2、連続鋳造設備3及び移送台車4はそれぞれ電気炉1の制御手段71,取鍋精錬炉2の制御手段72,連続鋳造設備3の制御手段73,及び移送台車4の制御手段74によりその稼働状態を制御するが、さらに各制御手段71,72,73,74を制御手段7により総合的に制御する。」

5.当審の判断
5-1.本願発明1について
(1)引用装置発明
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物1の上記(1a)には、「第1の発明は、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を電気炉内に投入し、加熱溶融する工程、電気炉から出鋼を行う工程、・・・タンディッシュに注がれた溶鋼を連続鋳造する工程を含み前記各工程を連続してかつ総合的に制御して製鋼を行うことを要旨とする。・・・第5の発明は、前記第1の発明である連続自動製鋼方法の発明の実施に直接使用する装置の発明であって、・・・」と記載されているから、刊行物1には、この第5の発明として、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を電気炉内に投入して加熱溶融し、前記製鋼用材料を精錬して溶鋼とし、鋳造する工程を連続して行う装置、すなわち、鋼を連続的に溶融し精錬し鋳造するための装置について記載されているといえる。
そして、この鋼を連続的に溶融し精錬し鋳造するための装置は、次の構成を備えるものといえる。

A.(1b)【0014】の「製鋼用材料投入手段11は、鉄含有スクラップを余熱しながら造滓材等とともに電気炉内に外気に触れない状態で連続して投入することができるように、ヒーターを有する有蓋の密閉式コンベア装置を電気炉1の側面に直結するように構成し、」という記載(この記載における「余熱」は、(1b)の「電気炉1は予熱した鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を連続して投入しながら」という記載からみて、「予熱」の明らかな誤記といえる。)によれば、この装置は、鉄含有スクラップ及び造滓材等を含む製鋼用材料を外気に触れない状態で受け取り、連続して電気炉内に投入するための密閉式コンベア装置、及び当該コンベア装置上の製鋼材料を予熱するためのヒーターを備えるといえる。
そして、密閉式コンベア装置である以上、当該コンベア装置の製鋼用材料の入口及び出口には、コンベア内のガスを密閉するガス密閉手段が連結して存在するといえるし、それは、製鋼材料の入口から出口への搬送に伴う製鋼材料の動きに応じて動くようにされたもの、すなわち動的なものといえる。

B.(1c)【0019】の「製鋼用材料を電気炉1内に投入しながら電気炉1と電気炉台座18間に介在するローラ及び油圧シリンダからなる電気炉傾動手段12を用いて電気炉1を傾動してスライドゲートから出鋼及びスラグの排出を行う。」という記載、及び(1b)【0015】の「電気炉1はここではアーク炉を使用しているがこれに限定されるものではなく、誘導炉等の公知の電気炉を使用することも可能である。」という記載によれば、電気炉をアーク炉、すなわち電気アーク炉とすることができるから、この装置は、製鋼用材料をそこで溶融して精錬することにより、溶鋼を形成するための電気アーク炉と、溶鋼を排出するための前記炉を傾動するための手段とを備えるといえる。

C.(1c)【0019】の「出鋼した溶鋼を移送台車4に載置した取鍋5に収容する。」という記載、及び【0021】の「タンディッシュ35の上方位置に設置した取鍋5からタンディッシュ35に溶鋼を注ぎ、モールド36、ピンチロール37、電磁誘導撹拌装置、切断装置等の設備を適宜用いることにより溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する。」という記載によれば、この装置は、電気アーク炉から排出された溶鋼を受け取り、直接注ぎ込まれる取鍋、及びこの取鍋から溶鋼を受け取り、モールド等の連続鋳造設備に受け渡すタンディッシュを備えるといえる。

刊行物1の上記記載事項及び該記載事項から認定した上記事項を、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用装置発明」という。)が記載されているといえる。

「鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための装置であって、
鉄含有スクラップ及び造滓材を含む製鋼用材料を受け取る密閉式コンベア装置と、
製鋼材料の入口及び出口を有し、前記密閉式コンベア装置に連結された動的ガス密閉手段と、
前記密閉式コンベア装置上の製鋼用材料を予熱するためのヒーターと、
前記密閉式コンベア装置から投入された製鋼用材料をそこで溶融して精錬することにより、溶鋼を形成するための電気アーク炉と、
溶鋼を排出するための前記炉を傾動するための手段と、
前記炉から排出された前記溶鋼を受け取るための直接注ぎ込まれる取鍋及び前記取鍋から前記溶鋼を受けるタンディッシュと、
前記タンディッシュから前記溶鋼を受け取る連続鋳造設備と
を備える装置。」

(2)本願発明1と引用装置発明との対比
引用装置発明の「鉄含有スクラップ及び造滓材を含む製鋼用材料」について、鉄含有スクラップ及び造滓材は、それぞれ、本願発明1の装入材料及びスラグ形成剤(slag formers)に相当するものであり、これらの材料を、炉へ装入するにあたり、微小なものとすることが普通に行われていることであるから、引用装置発明の「鉄含有スクラップ及び造滓材を含む製鋼用材料」は、本願発明1の「微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む金属装入材料」に相当するといえる。そして、この「微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む金属装入材料」に相当する「鉄含有スクラップ及び造滓材を含む製鋼用材料」を受け取る密閉式コンベア装置は、本願発明1の「前記(微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む)金属装入材料を受け取るための装入コンベア」に相当する。
また、「ヒータ」、「取鍋」と「タンディシュ」、及び「溶鋼」は、それぞれ、本願発明1の「予熱器」、「冶金用中間容器」、及び「溶融金属」に相当する。この点を踏まえて、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための装置であって、
微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む金属装入材料を受け取るための装入コンベアと、
材料の入口および材料の出口を有し、前記装入コンベアに連結された動的ガス密封手段と、
装入コンベアの装入材料を予熱するための予熱器と、
金属装入材料をそこで溶融して精錬することにより、溶融金属を形成するための電気アーク炉と、
溶融金属を排出するための前記炉を傾動するための手段と、
冶金用中間容器から溶融金属を受け取る連続鋳造設備と
を備える装置。」という点で一致し、次の点で相違するといえる。

相違点(イ)
本願発明1は、「微小な装入材料およびスラグ形成剤(slag formers)を含む金属装入材料を受け取るために装入区域に配置されたベルトコンベア」と、「前記ベルトコンベアから」前記金属装入材料を受け取るための装入コンベアとを備えるのに対して、引用装置発明は、このようなベルトコンベアを備えているか否か不明であり、装入コンベアが該ベルトコンベアから金属装入材料を受け取るものであるか、否か不明である点

相違点(ロ)
予熱器が、本願発明1では、「前記動的ガス密封手段の前記材料の出口に連結されて、前記装入コンベアと連通している、」のに対して、引用装置発明では、動的ガス密封手段の前記材料の出口に連結されて、前記装入コンベアと連通しているか否か不明である点

相違点(ハ)
本願発明1は、「前記予熱器および前記装入コンベアに脱着可能に連結された、装入材料を炉浴に供給するための連結手段」とを備えるのに対して、引用装置発明は、このような連結手段を有するか否か不明である点

相違点(ニ)
電気アーク炉が、本願発明1では、「脱着可能な炉天井部」を有するのに対して、引用装置発明では、このようなものであるか否か不明である点

相違点(ホ)
本願発明1は、「前記炉から排出された前記溶融金属を受け取るための位置出し可能な、直接注ぎ込まれる冶金用中間容器」を備え、連続鋳造設備が前記溶融金属を受け取るのは、炉から排出された前記溶融金属を受け取るための位置出し可能な、直接注ぎ込まれる「前記冶金用中間容器から」であるのに対して、引用装置発明は、前記炉から排出された前記溶鋼を受け取るための直接注ぎ込まれる取鍋及び前記取鍋から前記溶鋼を受けるタンディッシュを備える点

(3)本願発明1と引用装置発明との相違点の検討
そこで上記相違点について検討する。
(3-1)相違点(イ)について
装入コンベアの前段に別途コンベアを備えることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることといえる。そして、この前段に設けるコンベアを微小な装入材料およびスラグ形成剤を含む金属装入材料を搬送するのによく用いられるベルトコンベアとすることも、当業者が容易に想到することといえる。

(3-2)相違点(ロ)について
金属装入材料の予熱器として、装入コンベアと連通している予熱器は、特開平8-157930号公報、特開平7-198270号公報、特開平7-151470号公報、特開平6-128657号公報、特開平5-312475号公報、特開昭58-115294号公報、特開昭53-146342号公報等に示されるように、本出願前当業者に周知の事項であるから、引用装置発明の金属装入材料の予熱器として、本出願前当業者に周知のものを用いることは、当業者が容易に想到することといえる。また、予熱器を、金属装入材料の予熱効果を考慮して、電気アーク炉から排出されたガスが比較的高温である状態で金属装入材料と熱交換できるように、炉から排出された高温のガスの移動方向上流に、すなわち動的ガス密封手段の前記材料の出口に連結させて設けることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

(3-3)相違点(ハ)について
予熱器及び装入コンベアの炉に近接する箇所は、炉からの高熱の影響を受け、損耗度が激しいことは、明らかといえるから、損耗度が激しい箇所を予熱器及び装入コンベアとは別部材、すなわち(炉との)連結手段とし、かつこの連結手段を交換可能なように、脱着可能とすることは、その必要性に応じて当業者が適宜なし得ることといえる。
してみると、前記予熱器および前記装入コンベアに脱着可能に連結された、装入材料を炉浴に供給するための連結手段を備えることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-4)相違点(ニ)について
電気アーク炉として、脱着可能に構成された炉天井部を有するものは、本出願前当業者に周知の事項であるから、引用装置発明の電気アーク炉として、本出願前当業者に周知のものを用いることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-5)相違点(ホ)について
炉から排出された溶融金属を受け取る冶金用容器として、連続鋳造設備のモールドに溶融金属を供給する冶金用容器(タンディシュ)とすることは、特開昭59-193210号公報に示されるように、本出願前当業者に周知の事項といえるから、引用装置発明において、炉から排出された溶融金属を受け取る容器を取鍋とすることなく、タンディシュ、すなわち炉から排出された前記溶融金属を受け取るための、直接注ぎ込まれる冶金用容器とすることは、当業者が容易に想到することといえる。また、(1c)【0021】に「電気炉1、取鍋精錬炉2、連続鋳造設備3及び移送台車4はそれぞれ電気炉1の制御手段71,取鍋精錬炉2の制御手段72,連続鋳造設備3の制御手段73,及び移送台車4の制御手段74によりその稼働状態を制御するが、さらに各制御手段71,72,73,74を制御手段7により総合的に制御する。」と記載されているように、連続鋳造設備は制御されているといえるから、溶融金属を確実に受け取り易くするために、溶融金属を受け取る容器であるタンディッシュ、すなわち前記冶金用容器を位置出し可能とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることといえる。

(4)本願発明1についての小括
したがって、本願発明1は、引用装置発明、刊行物2に記載された周知事項及び本出願前当業者に周知の事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

5-2.本願発明27について
(1)引用方法発明
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物1の上記(1a)の「鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を電気炉内に投入し、加熱溶融する工程、電気炉から出鋼を行う工程、・・・溶鋼を取鍋からタンディッシュに注ぐ工程、及びタンディッシュに注がれた溶鋼を連続鋳造する工程を含み前記各工程を連続してかつ総合的に制御して製鋼を行う」という記載によれば、鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を電気炉内に投入して加熱溶融し、前記製鋼用材料を精錬して溶鋼とし、鋳造する工程を連続して行うものといえるから、刊行物1には、鋼を連続的に溶融し精錬し鋳造するための方法について記載されているといえる。
そして、この鋼を連続的に溶融し精錬し鋳造するための方法(以下「この方法」という。)は、次の工程を備えるものといえる。

A.(1c)の「電気炉1の側方から製鋼用材料投入手段11を用いて鉄含有スクラップを余熱しながら造滓材等とともに電気炉1内に外気に触れない状態で連続して投入し、投入された製鋼用材料を加熱溶融する。」という記載(この記載における「余熱」は、(1b)の「電気炉1は予熱した鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を連続して投入しながら」という記載からみて、「予熱」の明らかな誤記といえる。)及び(1b)の「電気炉1はここではアーク炉を使用しているがこれに限定されるものではなく、誘導炉等の公知の電気炉を使用することも可能である。」によれば、電気炉をアーク炉、すなわち電気アーク炉とすることができるから、この方法は、電気アーク炉の内部に予熱された鉄含有スクラップ、造滓材等の製鋼用材料を連続的に供給する工程と、供給された製鋼用材料を溶融する工程を備えるといえる。

B.(1c)の「電気炉1を傾動してスライドゲートから出鋼及びスラグの排出を行う。・・・出鋼した溶鋼を移送台車4に載置した取鍋5に収容する。」という記載によれば、この方法は、取鍋に出鋼する工程を備えるといえる。

C.(1c)の「タンディッシュ35の上方位置に設置した取鍋5からタンディッシュ35に溶鋼を注ぎ、モールド36、ピンチロール37、電磁誘導撹拌装置、切断装置等の設備を適宜用いることにより溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する。」という記載によれば、この方法は、溶鋼を取鍋からタンディッシュに注ぐ工程と、タンディッシュに注がれた溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する工程を備えるといえる。

刊行物1の上記記載事項及び該記載事項から認定した上記事項を、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用方法発明」という。)が記載されているといえる。

「鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための方法であって、
電気アーク炉の内部に、前記予熱された製鋼用材料を連続的に供給する工程と、
溶鋼を作るべく、電気アーク炉中の前記製鋼用材料を連続的に精錬する工程と、
取鍋に溶鋼を排出(出鋼)する工程と、
溶鋼を取鍋からタンディッシュに注ぐ工程と、
タンディッシュに注がれた溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する工程を備える方法。」

(2)本願発明27と引用方法発明との対比
引用発明の「製鋼用材料」、「取鍋」と「タンディシュ」、「溶鋼」は、それぞれ、本願発明の「金属装入材料」、「冶金用中間容器」、「溶融金属」に相当する。また、引用発明の、タンディッシュに注がれた溶鋼を所定の鋼片に連続鋳造する工程は、タンディシュ(冶金用中間容器)内の溶鋼(溶融金属)を、連続鋳造設備へ案内して、溶鋼が凝固を開始する連続鋳造モールド内に注入することであるから、本願発明27の「前記冶金用中間容器内の前記溶融金属を連続鋳造設備へ案内する工程と、前記溶融金属が凝固を開始する連続鋳造モールド内へ、連続鋳造設備から前記溶融金属を仕向ける工程」とを、明らかに含むといえる。この点を踏まえて、本願発明27と引用発明とを対比すると、両者は、
「鋼を連続的に予熱し溶融し精錬し鋳造するための方法であって、
電気アーク炉の内部に、前記予熱された金属装入材料を連続的に供給する工程と、
溶融金属を作るべく、電気アーク炉中の前記装材料を連続的に精錬する工程と、
前記溶融金属を排出する工程と、
冶金用中間容器内の前記溶融金属を連続鋳造設備へ案内する工程と、
前記溶融金属が凝固を開始する連続鋳造モールド内へ、連続鋳造設備から前記溶融金属を仕向ける工程を備える方法。」という点で一致し、次の点で相違するといえる。

相違点(ヘ)
本願発明27は、「装入コンベアに連結された予熱器」により、金属装入材料を予熱する工程を備えるのに対して、引用方法発明は、装入コンベアに連結された予熱器により、金属装入材料を予熱する工程を備えるか否か、不明である点

相違点(ト)
本願発明27は、前記予熱された金属装入材料を「前記装入コンベヤに取外し可能に連結された連結手段に供給する工程」を備えるのに対して、引用方法発明は、装入コンベヤに取外し可能に連結された連結手段に供給する工程を備えるか否か、不明である点

相違点(チ)
溶融金属の排出が行われる容器が、本願発明27は、「冶金用中間容器」(引用発明のタンディシュに相当する。)であるのに対して、引用方法発明は、タンディシュでなく、取鍋である点

相違点(リ)
連続鋳造工程が、本願発明27は、「前記モールドから、部分的に凝固した金属を引き出す工程と、
前記引き出した金属を、ビレットにすべく冷却する工程と、
前記ビレットの全体に亘って該温度を均一化する工程と、
前記ビレットを所望の圧延金属生産物にすべく圧延する工程と」を備えるのに対して、引用方法発明は、このような工程のものか否か、不明である点

相違点(ヌ)
電気アーク炉が、本願発明27は、「脱着可能に構成された炉天井部を有する」のに対して、引用方法発明は、脱着可能に構成された炉天井部を有する否か、不明である点

(3)本願発明27と引用方法発明との相違点の検討
そこで、上記相違点について、検討する。
(3-1)相違点(ヘ)について
金属装入材料を予熱するにあたり、装入コンベアに連結された予熱器により、行うことは、特開平8-157930号公報、特開平7-198270号公報、特開平7-151470号公報、特開平6-128657号公報、特開平5-312475号公報、特開昭58-115294号公報、特開昭53-146342号公報等に示されるように、本出願前当業者に周知の事項であるから、引用方法発明の金属装入材料の予熱にあたり、本出願前当業者に周知のものを用いることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-2)相違点(ト)について
予熱された金属装入材料を炉に装入するにあたり、装入コンベアとは別部材の装入コンベヤに取外し可能に連結された連結手段を設けることは、当業者が適宜なし得ることといえるから、引用方法発明において、電気アーク炉の内部に、前記予熱された製鋼用材料を連続的に供給するにあたり、装入コンベアとは別部材の装入コンベヤに取外し可能に連結された連結手段を設けることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-3)相違点(チ)について
炉から排出された溶融金属を受け取る冶金用容器と連続鋳造設備のモールドに溶融金属を供給する冶金用容器とを共通のものとすることは、拒絶理由で引用した刊行物2(特開昭59-193210号公報)に示されるように、本出願前当業者に周知の事項といえるから、引用方法発明の溶融金属の排出が行われる容器を取鍋に換えて、タンディシュ(冶金用中間容器)とすることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-4)相違点(リ)について
連続鋳造工程として、モールドから、部分的に凝固した金属を引き出す工程と、前記引き出した金属を、ビレットにすべく冷却する工程と、前記ビレットの全体に亘って該温度を均一化する工程と、前記ビレットを所望の圧延金属生産物にすべく圧延する工程とを備えるものは、本出願前当業者に周知の事項であるから、引用方法発明の連続鋳造工程として、本出願前当業者に周知のものを用いることは、当業者が容易に想到することといえる。

(3-5)相違点(ヌ)について
電気アーク炉として、脱着可能に構成された炉天井部を有するものは、本出願前当業者に周知の事項であるから、引用方法発明の電気アーク炉として、本出願前当業者に周知のものを用いることは、当業者が容易に想到することといえる。

(4)本願発明27についての小括
したがって、本願発明27は、引用方法発明と、刊行物2に記載された周知事項及び本出願前当業者に周知の事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明1及び本願発明27は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-05 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-23 
出願番号 特願2000-601210(P2000-601210)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 平塚 義三
守安 太郎
発明の名称 装入物を予熱し溶融し精錬し鋳造する連続電気炉製鋼  
代理人 一色国際特許業務法人  

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