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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1200176
審判番号 不服2006-7618  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-21 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 平成11年特許願第217125号「シクラメンの花色合成酵素遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月13日出願公開、特開2001- 37485〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は,平成11年7月30日を出願日とする特許出願であって,平成17年12月6日に拒絶の理由が通知され,平成18年3月16日付で拒絶査定がなされたところ,平成18年4月21日に審判請求がなされたものであって,その請求項1に係る発明は,平成18年2月1日付で手続補正された明細書の記載からみて,以下のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「 配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であって,シクラメンのカルコンシンターゼのタンパク質をコードするDNA。」

2.引用刊行物
(1)引用例1
これに対して,原審の拒絶の理由で引用された,本願出願日前に頒布されたGene, 1989,Vol.81, p.245-257(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。
(1-1)「Petunia hybridaのカルコンシンターゼ多重遺伝子群のクローニング及び分子キャラクタリゼーション。」(p.245, 表題)
(1-2)「フラボノイドは全ての高等植物に豊富な二次代謝産物のクラスを形成する。それらは花の色素沈着,紫外線に対する保護及び植物病原性物質に対する防御において重要な機能を果たす。さらに,フラボノイドはマメ科植物の根粒形成において重要な役割を果たす。カルコンシンターゼ(chs)はフラボノイド生合成の重要な酵素である。それは,三分子のマロニルCoAと一分子の4-クマロイルCoAとの縮合を触媒し,ナリンゲニン-カルコンを生成する。この基本的なフラボノイド骨格は次にナリンゲニン-フラバノンに異性化され,さらに置換されて,フラボノール類,フラバノン類,イソフラボノイド類又はアントシアニン類を産生する。」(p.245左下欄第1行?p.246左欄第9行)
(1-3)P.hybridaのchs遺伝子ファミリーメンバーのDNA配列(Fig.2)及び各種のCHSのアミノ酸配列(Fig.4)。
(1-4)「CHSアミノ酸予想配列がFig.4に示されている。CHS-Aたんぱく質の他の種のものとの類似性の範囲は84?91%である(TableI)。予想されたタンパク質間の変異はいくつかの領域に集中されているようであり,より高い類似性のブロックによって分けられている。」(p.249右欄下から1行?p.251左欄第5行及びTable.I)

(2)引用例2
また,同じく原審の拒絶の理由で引用された,本願出願日前に頒布されたPlant Cell Physiolgy, 1997, Vol.38, No.6,p.754-758(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。
(2-1)「アサガオ及びマルバアサガオにおける花色素沈着のための新規カルコンシンターゼ遺伝子の同定」(p.754,表題)
(2-2)「カルコンシンターゼ(CHS),フラボノイド生合成における重要な酵素,の新規cDNA配列がアサガオ及びマルバアサガオから得られた。これらは,以前記述された同じ植物からの6つのCHS遺伝子よりも他のCHS配列により密接に関連している。新たに単離されたCHS-D遺伝子は色素沈着した花芽において多く発現されており,一方,白い花芽ではその発現が徹底的に減少している。このようにCHS-D遺伝子は花色素沈着のための主なCHS転写物を生成するようである。」(p.754,左欄第1?9行)
(2-3)アサガオ及びマルバアサガオのCHS-D及びCHS-J遺伝子のcDNAの塩基配列。(Fig.1)
(2-4)CHS及び関連するタンパク質をコードするcDNA配列の系統樹及び各種のCHS遺伝子塩基配列のアクセッションナンバー。(Fig.2)

(3)以上の記載事項(1-2)乃至(2-4)からみると,引用例1又は2には,本願出願日当時,カルコンシンターゼは,花の色素であるアントシアニン等のフラボノイド類の生合成に関与する重要な酵素として知られ,多くの種におけるカルコンシンターゼ遺伝子がクローニングされていたこと,及びカルコンシンターゼ遺伝子のDNA配列及びそのコードするアミノ酸配列が記載されているものと認める。

3.対比・判断
(1)対比・判断
本願発明と引用例1又は2に記載された発明とを対比すると,両者は,特定のアミノ酸配列を有するタンパク質であって,植物のカルコンシンターゼのタンパク質をコードするDNAである点で一致し,本願発明は配列番号2に示すアミノ酸配列を有する,シクラメンのカルコンシンターゼのタンパク質をコードするDNAであるのに対し,引用例1又は2には,シクラメンのカルコンシンターゼのタンパク質をコードするDNAは記載されていない点で,両発明は相違する。
しかしながら,シクラメンの花弁において,アントシアニンが合成されていること,またシクラメンにおいて,異なる花色の品種を育成する技術課題があったことは,周知の事項である(九州大学農学部学芸雑誌,1990年,Vol.45,No.1/2,p.83-89,園芸学雑誌,1997年, Vol.66, 別冊 No.2, p.508-509, 神奈川県農業総合研究所試験研究成績書(花き・観賞樹),1998年,Vol.1997,p.1-2等を参照。)。
してみると,シクラメンの花弁から,アントシアニンの生合成に関与するカルコンシンターゼ遺伝子をクローニングし,そのアミノ酸配列及び塩基配列を同定しようと試みることは,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,相同性が高いと予測される核酸プローブを用いて,ハイブリダイゼーションを行い,新規な遺伝子をスクリーニングする手法や,他の生物で単離された遺伝子の保存された配列を基に縮重プライマーを設計し,PCRを行ってプローブを作製する手法は,本願出願日当時に既に確立されている(例えば,真壁和裕著,細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ,バイオ実験イラストレイテッド 4 苦労なしのクローニング,1998年,p.148-150)。
また,本願出願日以前に,既知CHSのコンセンサス配列を基に設計した縮重プライマーを用いて,既知のchs遺伝子と,アミノ酸配列で80?95%,塩基配列で70?78%程度の相同性を有するchs遺伝子をクローニングした事例も報告されている(Molecular Breeding, 1995, Vol.1, p.411-417, Plant Molecular Biology, 1997, Vol.35, p.303-311, 特開平8-89251号公報)。

ここで,本願明細書を参照すると,【0030】-【0046】には,本願発明のDNAは,シクラメン花弁から調整したmRNAを鋳型として,配列番号5及び6を有するプライマーを用いて増幅したcDNAの一部をプローブDNAとし,シクラメン花弁から調整したcDNAライブラリーをスクリーニングして得たものであることが記載されている。
また,配列番号5及び6のプライマーは,具体的にどのような配列をもとに設計されたのかについては記載がないが,本願明細書の【0019】には,「ペチュニア等の既知のCHSをコードする遺伝子・・・で保存されている塩基配列を基に設計したオリゴヌクレオチドを合成し,これをプライマーとして・・・」と説明されている。
さらに,本願明細書の【0053】-【0054】には,本願発明のシクラメンのカルコンシンターゼは,既知のペチュニアのCHSと比較すると,アミノ酸配列において90%,塩基配列では75%の相同性が認められたことが記載されている。

本願明細書の上記記載からみて,本願発明のDNAは,上記周知の手法により,コンセンサス配列を基に縮重プライマーを設計してプローブを作製し,クローニングした結果として得られたものであり,カルコンシンターゼ遺伝子をクローニングするに当たり,何らかの困難があったこと,及びその克服のために格別な相違工夫が必要であったという事情は見当たらない。
さらに,得られたシクラメンのカルコンシンターゼの配列と,既知配列との相同性についても,本願出願日以前にクローニングされている事例と同程度であるから,配列番号5及び6のプライマーの設計が,本願出願日当時の技術水準に照らして,格別に困難であったものとも認められない。

そして,同定されたカルコンシンターゼ遺伝子をコードするDNAを,多様な花色の植物の育種開発に利用できるという,本願発明の効果についても,引用例1及び2から予測し得るものに過ぎない。

(2)審判請求人の主張
審判請求人は,シクラメンCHSの塩基配列と,引用例1のペチュニアCHSの塩基配列との相同性は77%であり,縮重プライマーを設計することは容易ではない旨を述べている。
しかしながら,縮重プライマーの設計については,(1)に記載したとおりであり,本願出願日当時の技術水準に照らして,格別に困難であったものとは認められない。

さらに,審判請求人は,引用例2では,人為的にchs遺伝子の発現を減少させて花色を改変できることを証明した訳ではないと述べ,また,実験成績証明書を提出し,実際にシクラメンにおいてchs遺伝子を導入し,混合色のシクラメンが得られたことは,引用例2からは予測できない効果であること,ペチュニアやアサガオのchs遺伝子ではシクラメンの花色は改変できないことを述べ,本願発明の格別顕著な効果として主張している。
しかしながら,本願明細書には,シクラメンや他種のchs遺伝子をシクラメンに導入して,シクラメンの花色を改変できたことは記載されておらず,人為的にchs遺伝子の発現を減少させて花色を改変できることが裏付けを以て記載されているとはいえず,さらに,導入するchs遺伝子の由来と宿主との組み合わせによって花色改変効果が異なることは,明細書の記載から自明なものでもない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願明細書の記載から推測できるものではないから,審判請求人の主張は採用できない。

念のために,審判請求人の主張する効果について検討すると,chs遺伝子を用いたアンチセンス法やコサプレッション法により,混合色等に花色が改変された個体を得ることは,周知技術である(例えば,HortScience, 1995, Vol.30, p.964-966, 育種学最近の進歩,1997,Vol.39,p.3-6, 育種学雑誌,1998,Vol.48,別冊,p.119)。
そして,アンチセンス法やコサプレッション法では,導入した遺伝子により,宿主遺伝子の発現を抑制するものであるから,導入する遺伝子が,宿主遺伝子と相同性の高いものほど,花色を改変する効果が高いことは当然予想されることである(特に,HortScience, 1995, Vol.30, p.965,左欄第15行?右欄第8行を参照。)。
してみると,ペチュニアやアサガオのchs遺伝子ではシクラメンの花色を改変できないとしても,シクラメンのchs遺伝子を用いれば,シクラメンの花色を改変できるであろうことも,上記周知技術から,当業者が予測できたものといえる。

4.むすび
以上により,本願発明は,引用例1又は2並びに周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-28 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願平11-217125
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 倫子田村 明照  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 齊藤 真由美
吉田 佳代子
発明の名称 シクラメンの花色合成酵素遺伝子  
代理人 松倉 秀実  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  

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