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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1200179
審判番号 不服2006-8279  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-27 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 平成 9年特許願第184184号「シアル酸転移酵素及びそれをコードするDNA」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月26日出願公開、特開平11- 18778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成9年7月9日にされた特許出願につき,拒絶の理由が平成17年8月24日付けで通知されたところ,同年10月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年12月2日付けで拒絶の理由が通知されたところ,平成18年2月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され,拒絶査定が同年3月22日付けでされ,同月28日に発送されたところ,拒絶査定不服審判が同年4月27日に請求されたものであって,本願発明は,「シアル酸転移酵素及びそれをコードするDNA」に関するものである。


2.原審の拒絶の理由

原査定において,平成17年12月2日付けで通知された拒絶の理由1の概要は,

「1. 平成15年10月28日付けでした手続補正は,下記の理由Fの点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

理由F
出願人によって提出された平成15年10月28日付けの手続補正書は,本願に係る発明の配列番号1で示される塩基配列を有するDNAがヒト由来であることを削除する補正をしようとするものである。
しかしながら,出願当初明細書に記載された配列番号1で示される塩基配列を有するDNAはヒトのHL-60細胞由来のものであることが一貫して記載されている。
したがって,補正前の明細書にはヒトから配列番号1で示される塩基配列を有する核酸が単離できることは記載されているとはいえ,マウスから配列番号1で示される塩基配列を有する核酸が単離できることまでもが記載されているとは言えない。
ところが,【0029】段落にはヒトと並んでマウスの癌細胞由来のシアル酸転移酵素遺伝子を単離できることが示唆されていることから,当該補正はマウスからも配列番号1で示される核酸を単離できるとする事項を追加することとなる。
したがって,出願人によって提出された平成15年10月28日付けの手続補正書による補正は,出願当初明細書等に記載した範囲内でする補正とは認められない。」というものである。

また,拒絶査定の理由の概要は,

「たとえ『本願明細書段落番号0048?0055及び0056には,具体的な操作条件を含む実験の詳細が明確に記載』されていたとしても,この実験を追試,つまり具体的に実験しなければわからないような誤記は,当初明細書等の記載から自明な事項であったとは認められないことから,そのような誤記の訂正は当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正に該当する。
また,たしかに『実施例の記載(及び実施例に基づく配列表における起源の記載)以外に,配列番号1で示される塩基配列を有するDNAがHL-60細胞由来であるという記載は』ないものの,逆に該DNAが『HL-60細胞由来ではない』という記載は当初明細書等のどこにもない上,該DNAがHL-60細胞由来のものではないことが,具体的な実験なしに容易に判断することができたとも認められないところ,該DNAの由来は誤記であると判断するよりはむしろ実施例の記載に基づいてHL-60細胞由来であると判断する方が自然である。
さらに,当初明細書等では配列番号1で示される塩基配列はヒト由来のものであることが記載されているだけであって,由来不明のものからも該DNAを取得できることまでもが記載されていたとは認められない上,通常同じ遺伝子であっても種間もしくは細胞株間で塩基配列が若干異なることが技術常識であることから,由来不明の細胞から該DNAを取得するということは,当初明細書等に明示的に記載された事項であるとも,当初明細書の記載から自明な事項であるとも認められないところ,当該補正は新規事項の追加に該当する。」というものである。


3.意見書及び審判請求書における請求人の主張の要点

請求人の主張の要点は,以下のとおりである。

(1)平成18年2月13日付け意見書における請求人の主張の要点

「平成15年10月28日付けの手続補正書による補正は,当業者であれば容易に認識することのできる誤記の訂正を目的としてなされたものです。
本願明細書段落番号0048?0055及び0056には,具体的な操作条件を含む実験の詳細が明確に記載されており,当業者であれば,この実験を追試することにより,出発材料の株名に誤記があったことは容易に認識できると思料します。すなわち,当業者は,出願当初明細書を検討すれば,実施例で得られたcDNAは,HL-60株とは異なる株から得られたものと理解するのが通常であり,『補正前の明細書にはヒトから配列番号1で示される塩基配列を有する核酸が単離できることは記載されている』とは理解しないと思料します。
また,配列番号1で示される塩基配列を有するDNAはヒトのHL-60細胞由来のものであることが一貫して記載されているとのご指摘ですが,本願明細書段落番号0029には,HL-60細胞の他の種々の細胞も例示されており,実施例の記載(及び実施例に基づく配列表における起源の記載)以外に,配列番号1で示される塩基配列を有するDNAがHL-60細胞由来であるという記載はありません。この点からも,実施例における出発材料の株名の誤記であることが支持されます。
さらに,上記補正は,配列番号1がマウス由来であると特定するものではありません。誤記を訂正して,出願当初明細書の実質的な開示内容に整合させたもの,すなわち,由来不明の配列としたものであり,新規事項の加入にはならないと思料します。
従って,平成15年10月28日付けの手続補正書による補正は,出願当初明細書等に記載した範囲内でするものであると思料します。」

(2)審判請求書における請求人の主張の要点

「(b) 平成15年10月28日付けの手続補正書による補正の説明
この補正は,本願発明のDNAが取得された経緯を説明する実施例において,出発材料の細胞の株名に誤りがあったため,誤りであった株名を削除したものです。実施例で取得されたDNAの配列は,出願当初の明細書に明確に記載されており,出発材料の細胞の株名が削除されても,その物質としての実体はなんら変わるものではありません。また,当初開示されていなかった性質等が追加されるものでもありません。すなわち,この補正により,新たな技術上の意義が追加されないことは明らかです。従って,新たに追加される事項はありませんので,出願当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内の補正です。
平成17年12月13日発送(平成17年12月2日起案)の拒絶理由通知書の理由F,及び,平成18年3月28日発送(平成18年3月22日起案)の拒絶査定の備考には,上記補正が新規事項の追加に当たる理由として,それぞれ,『当該補正はマウスからも配列番号1で示される核酸を単離できるとする事項を追加することとなる』(理由F),『由来不明のものからも該DNAを取得できることまでもが記載されていたとは認められない上,通常同じ遺伝子であっても種間もしくは細胞株間で塩基配列が若干異なることが技術常識であることから,由来不明の細胞から該DNAを取得するということは,当初明細書等に明示的に記載された事項であるとも,当初明細書の記載から自明な事項であるとも認められない』(拒絶査定備考)と説明されています。
しかしながら,上記補正は,実施例における出発材料の株名の削除ですから,新規事項の追加に当たるか否かの判断においては,実施例の記載全体(特にその文脈)が考慮されるべきであると思料します。実施例の記載全体を考慮すれば,その補正によって『マウスからも配列番号1で示される核酸を単離できる』ことや『由来不明のものからも該DNAを取得できる』(下線は出願人が追加しました)ことが読み取れるようになるとは到底考えられません。拒絶査定備考に記載されているように,『通常同じ遺伝子であっても種間もしくは細胞株間で塩基配列が若干異なることが技術常識である』のですから,当業者は,何らかの出発材料を用いたと理解するのが通常であり,他のものからも同じ配列が取得できるとは理解しないと思料します。
従いまして,上記補正は,出願当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものです。

さらに,配列により明確に特定されているDNAに関し,その取得の経緯の説明において出発材料の株名が誤りであったため,その株名を削除することは,土壌から取得された細菌株を寄託した場合に当てはめれば,その土壌を採取した『A県A市』の地名が誤りであったため,その地名を削除した場合と同様といえます。この場合,地名を削除しても,なんら新規事項が追加されるものではないことは明らかです。出発材料の株名の削除によりマウスからも配列番号1で示される核酸を単離できるとする事項を追加することとなるとする理由Fは,寄託番号で特定されている細菌株に関し,『A県A市』の地名を削除したことにより,寄託株が,A県A市以外の土地の土壌からも得られることになる,と言っているのと同じであり,不合理であることは明らかです。
なお,本願明細書には,シアル酸転移酵素をコードするDNAの具体的な塩基配列が明確に記載されていますので,由来が不明であっても,当業者は,当該配列に基づいて,DNA合成などの周知の技術により,本願発明を容易に実施することができます。」


4.当審の判断

(1)補正について

平成15年10月28日付けの手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)は,本願明細書段落番号0048及び段落番号0060における記載を,次のとおり補正することを含むものである(下線は,合議体による。)。

(1-a)出願当初の本願明細書段落番号0048及び段落番号0060の記載
「【0048】
【実施例】
以下に本発明を実施例によりさらに詳説するが,本発明の目的を超えない限りこれに限定されるものではない。
(1)HL-60細胞の分化誘導とcDNAの構築
HL-60をTPA 24nMを含むRPMI-1640(ニッスイ製)中で5vol%CO_(2),95vol%空気,37℃の条件下で48時間培養し,分化を誘導した。上記細胞を1000×gの遠心処理により回収し,グアニジンチオシアネート-酸-フェノール-クロロホルム法(AGPC法)により全RNAを調製した。5×10^(6)個の分化した細胞から約40μgのRNAが得られた。このRNAからオリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィーによりポリ(A)^(+)RNAを精製した。」

「【0060】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:2121
配列の型:核酸
鎖の数:両形態
トポロジー:直鎖状
配列の種類:cDNA
起源
生物名:ヒト
セルライン:骨髄性白血病細胞株HL-60
配列の特徴
特徴を示す記号:CDS
存在位置:202..1278
特徴を決定した方法:P
配列の特徴
特徴を表す記号:transmembrane domain
存在位置:247..288
特徴を決定した方法:P
配列の特徴
特徴を示す記号:potential N-glycosylation site
存在位置:871..879
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:potential N-glycosylation site
存在位置:1201..1209
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:sialyl-motif
存在位置:616..750
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:sialyl-motif
存在位置:1048..1116
特徴を決定した方法:S
配列
CCCGGGCTGG ・・・(以降,省略。)」

(1-b)平成15年10月28日付けの手続補正書により補正された本願明細書段落番号0048及び段落番号0060の記載

「【0048】
【実施例】
以下に本発明を実施例によりさらに詳説するが,本発明の目的を超えない限りこれに限定されるものではない。
(1)癌細胞の分化誘導とcDNAの構築
TPA 24nMを含むRPMI-1640(ニッスイ製)中で5vol%CO_(2),95vol%空気,37℃の条件下で48時間培養し,分化を誘導した癌細胞を1000×gの遠心処理により回収し,グアニジンチオシアネート-酸-フェノール-クロロホルム法(AGPC法)により全RNAを調製した。5×10^(6)個の分化した細胞から約40μgのRNAが得られた。このRNAからオリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィーによりポリ(A)^(+)RNAを精製した。」

「【0060】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:2121
配列の型:核酸
鎖の数:両形態
トポロジー:直鎖状
配列の種類:cDNA
配列の特徴
特徴を示す記号:CDS
存在位置:202..1278
特徴を決定した方法:P
配列の特徴
特徴を表す記号:transmembrane domain
存在位置:247..288
特徴を決定した方法:P
配列の特徴
特徴を示す記号:potential N-glycosylation site
存在位置:871..879
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:potential N-glycosylation site
存在位置:1201..1209
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:sialyl-motif
存在位置:616..750
特徴を決定した方法:S
配列の特徴
特徴を示す記号:sialyl-motif
存在位置:1048..1116
特徴を決定した方法:S
配列
CCCGGGCTGG ・・・(以降,省略。)」

(2)本願の当初明細書等に記載された事項

本願の当初明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(下線は,合議体による。)。

(2-a)「【0008】【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記シアル酸転移酵素の遺伝子発現調節機構,タンパク質化学的解析及び酵素学的解析を進めることにより,細胞分化の制御を解明すべく鋭意検討を重ねた結果,発現クローニング法により上記GM3合成に関与するシアル酸転移酵素をコードする塩基配列を有するcDNAの単離に成功し,当該cDNAの塩基配列をもとに上記シアル酸転移酵素の構造を明らかにした。その結果,当該酵素が既知のシアル酸転移酵素と比して相同性が低く,また前記Sandhoff,K.らが同一と推定したα2-8シアル酸転移酵素とも別の新規酵素であることが明らかとなった。」

(2-b)「【0015】・・・また,本明細書中では,以下,シアル酸供与体からシアル酸受容体であるラクトシルセラミドに含まれるガラクトース残基の3位水酸基へ選択的にシアル酸を転移してガングリオシドGM3を生成する活性を有する本発明のシアル酸転移酵素を便宜的にシアル酸転移酵素-1又はSAT-1とも記載する。」

(2-c)「【0016】【発明の実施の形態】
以下に,本発明の実施の形態を説明する。
<1>本発明のシアル酸転移酵素-1をコードするDNA(本発明DNA) 本発明DNAには,それが有する塩基配列によってコードされるポリペプチドを含むシアル酸転移酵素が以下のような理化学的性質を有するものが包含される。
▲1▼作用:
シアル酸供与体から,シアル酸受容体であるラクトシルセラミドに含まれるガラクトース残基の3位水酸基へ選択的にシアル酸を転移してガングリオシドGM3を生成する。すなわち,上記シアル酸受容体のガラクトース残基の3位の水酸基以外には実質的にシアル酸を転移しない。シアル酸供与体としてはCMP-シアル酸が好適には挙げられる。
▲2▼至適反応pH:
本酵素は,実施例中に記載の酵素活性測定方法において,酵素反応液のpH6.0?7.0の範囲,特にpH6.5付近で高いシアル酸転移活性を有する。
▲3▼阻害及び活性化:
10mM Mn^(2+)存在下で,非存在下と比して1.5倍以上に活性が上がる。」

(2-d)「【0021】本発明DNAが有する塩基配列としてより具体的には,配列番号1に示す全塩基配列又はその部分配列を有するDNAが挙げられ,かつ好ましい。このようなDNAとして具体的には,配列番号1における塩基番号202?1278の塩基配列からなるDNAが挙げられる。」

(2-e)「【0027】ところで,一般に哺乳動物のシアル酸転移酵素では,アミノ酸配列に高い相同性を有することが知られており,本発明DNAがコードするポリペプチドも,種間におけるアミノ酸配列の相同性は約65%以上と想定される。従って,本発明で具体的に開示しているDNAがコードするポリペプチドと高い相同性を有するポリペプチド及びそれをコードするDNAも本発明に包含される。」

(2-f)「【0029】スクリーニングによって,通常には上記SAT-1の完全長cDNAを選択する。
以下に,本発明DNAを製造する方法の一例を具体的に説明する。(1)癌細胞の分化誘導
癌細胞としては,浮遊系細胞が好ましく,そのような癌細胞として血球系のリンパ種及び白血病の細胞が挙げられ好ましい。そのような細胞として,例えばヒト由来のHL-60(ATCC CCL240),MOLT-4(ATCC CRL1582),U937(ATCC CRL1593),マウス由来のM1(ATCC TIB192)等の哺乳類由来の細胞が好ましく,新鮮骨髄性白血病細胞なども用いることが可能である。そのような癌細胞の中でもヒト由来の細胞が最も好ましく,特にHL-60が分化誘導を行いやすいため好ましい。培養したこの癌細胞株に分化誘導剤を添加して20時間以上,好ましくは24?48時間程度培養することによって分化を誘導する。・・・例えば癌細胞としてHL-60,分化誘導剤としてTPAを使用する場合は,24nM程度のTPA存在下で48時間培養することにより,HL-60は単球・マクロファージ様に分化し,形態の変化が観察される。
【0030】(2)分化した癌細胞からのcDNAの構築
・・・
【0034】(3)ガングリオシドを発現した宿主細胞の検出
・・・
【0035】(4)SAT-1のcDNAのソーティングとcDNAの取得
・・・最終的に約2.1Kbpのインサート(4C7)を含む単一のクローン,pCEV4C7を得ることができる。
【0036】(5)SAT-1をコードするcDNA 4C7の塩基配列の決定
・・・
【0037】上記のようにして決定されたSAT-1をコードするcDNAの塩基配列及びこの塩基配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号1に,アミノ酸配列のみを配列番号2に示す。・・・」

(2-g)「【0048】【実施例】
以下に本発明を実施例によりさらに詳説するが,本発明の目的を超えない限りこれに限定されるものではない。
(1)HL-60細胞の分化誘導とcDNAの構築
HL-60をTPA 24nMを含むRPMI-1640(ニッスイ製)中で5vol%CO_(2),95vol%空気,37℃の条件下で48時間培養し,分化を誘導した。上記細胞を1000×gの遠心処理により回収し,グアニジンチオシアネート-酸-フェノール-クロロホルム法(AGPC法)により全RNAを調製した。5×10^(6)個の分化した細胞から約40μgのRNAが得られた。このRNAからオリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィーによりポリ(A)^(+)RNAを精製した。
【0049】このポリ(A)^(+)RNAを逆転写反応の鋳型とし,DNAの一次鎖を構築し,更にこのDNAを用いて2本鎖cDNAを合成した(Gubber, V. and Hoffman, B.J., Gene, 25, 283(1983))。
【0050】このようにして得られた2本鎖cDNAに,制限酵素BSTX1アダプターを連結し,pCEV18のBSTX1部位に導入してcDNAライブラリーを構築した。
【0051】(2)cDNAの3LL-HK46細胞へのトランスフェクション
上記のcDNAライブラリーを3LL-HK46細胞にエレクトロポレーション法を用いて導入し,48時間,5vol%CO_(2),95vol%空気,37℃条件下で培養をした。
【0052】(3)ガングリオシドを発現した宿主細胞の検出とcDNAの調製
培養後の3LL-HK46細胞を抗GM3抗体であるM2590とFITC標識ウサギ抗マウスIgG抗体により免疫染色を行った。この染色した細胞をフローサイトメーター(FACScalibur)で蛍光が陽性の細胞を検出した。陽性側の5%の細胞を回収し,プラスミドDNAを調製した後,さらに2回,3LL-HK46細胞へのエレクトロポレーション法による導入と48時間培養,免疫染色及びフローサイトメーターによる検出,回収を繰り返した。
【0053】この方法で最終的に得られたプラスミドを,pBKCMVGD3(ストラタジーン社製のpBKCMVプラスミドベクターにヒトα2-8シアル酸転移酵素(GD3合成酵素)を導入したプラスミド)と共に3LL-HK46細胞に導入した。この細胞を48時間培養した後,抗GD3抗体であるR24とFITC標識ウサギ抗マウスIgG抗体で免疫染色して,フローサイトメータにより蛍光の強い細胞の5%を検出し,回収した。
【0054】この細胞から,プラスミドDNAを調製し,エレクトロポレーション法により大腸菌DH10B(ギブコ社製)を形質転換した。トランスフェクションとアンピシリンによる選別とを2回繰り返した後,陽性コロニー群を96穴マイクロプレート1穴あたり100コロニーの割合で小分けした。9枚のマイクロプレートに植菌し,シブセレクション法を行い1穴に絞り込み,この1穴に由来する2,400コロニーを1穴あたり1コロニーの割合で,96穴マルチプレート25枚に広げ,更にシブセレクションを行い陽性クローン(pCEV4C7)を得た。このpCEV4C7を3LL-HK46細胞に一過性に発現させて上記と同様に抗GM3抗体(M2590)によるフローサイトメトリー解析を行った。対照としてpCEV18を一過性に発現させた3LL-HK46細胞は細胞膜上にGM3を発現していなかったが,pCEV4C7を一過性に発現させた3LL-HK46細胞は細胞膜上にGM3を発現し,蛍光が検出された。
【0055】(4)塩基配列の決定
pCEV4C7の二本鎖DNAの塩基配列を,オートサイクルシークエンシングキット(ファルマシア社製)と,ファルマシア A.L.F. DNAシークエンサー(ファルマシア社製)を用いたデオキシチェーンターミネーション法により決定した。このように決定された塩基配列とその塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号1に,アミノ酸配列のみを配列番号2に示す。・・・この配列をGenBankに登録されている遺伝子データベースで検索した結果,高度に相同性を示す配列は認められなかった。しかし,シアル酸転移酵素の配列の中央部及びC末端側領域に存在するシアル酸転移酵素相同領域のシアリルモチーフ(L及びS)については,多少の置換が見られたものの,比較的高い相同性が認められた(図2)。」

(3)本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものか否かの判断

「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる(参考判決:平成18年(行ケ)10563号)から,本件補正が,これに該当するか否か検討する。

(3-a)本願の当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項

上記(2-c),(2-d)及び(2-f)のとおり,本願の当初明細書の段落番号0029?0038における記載は,より具体的な場合においては,配列番号1に示す全塩基配列又はその部分配列を有するDNAを有するとされる,本発明DNA,すなわち,配列番号1に示す全塩基配列又はその部分配列を有するもののみに何ら限定されない,段落番号0016に記載された特定の理化学的性質を有する,シアル酸転移酵素-1(SAT-1)に係るcDNAを製造する方法の一例の具体的な説明であって,本願明細書の段落番号0029における細胞に関する記載は,当該シアル酸転移酵素-1に係るcDNAを得る際にその起源として利用される,好ましい癌細胞のいくつかを例示したものである。

そして,当初明細書の段落番号0037には,段落番号0029?0036に記載された方法により決定された,シアル酸転移酵素-1をコードするcDNAの塩基配列及びこの塩基配列から予想されるアミノ酸配列が,配列番号1であると記載されているが,当該段落の前に記載された段落番号0035及び0036における記載によれば,それはcDNA 4C7(pCEV4C7)という特定のクローンに関するものであって,ここで,上記(2-g)のとおり,当該特定クローンpCEV4C7は,HL-60を由来とすることが,実施例に記載されている。

してみると,配列番号1に係る段落番号0037は,HL-60以外の,段落番号0029に例示されたような他の細胞を由来としても得られる,シアル酸転移酵素-1をコードするcDNAの塩基配列及びこの塩基配列から予想されるアミノ酸配列が,配列番号1のものとなることを記載するものではなく,段落番号0016に記載された特定の理化学的性質を有する,シアル酸転移酵素-1に係るcDNAを製造する方法の一例の具体的な説明において,本願の当初明細書において実施例としても記載されているものを,その具体的なものとして,HL-60を由来として得られるpCEV4C7に係る塩基配列及び予想されるアミノ酸配列について記載しているにすぎない,と理解するのが相当である。

上記(1-a)及び(2-g)のとおり,本願の当初明細書の段落番号0048には,配列表に配列番号1として記載された塩基配列とその塩基配列から予測されるアミノ酸配列は,ヒト骨髄性白血病細胞株HL-60を由来として得られたことが,実施例として記載されており,また,上記(1-a)のとおり,当初明細書の段落番号0060において,配列番号1の塩基配列とその塩基配列から予測されるアミノ酸配列は,ヒト骨髄性白血病細胞株HL-60を起源とすることが記載されている。

さらに,上記(2-e)のとおり,哺乳動物のシアル酸転移酵素では,生物種間でアミノ酸配列に高い相同性があるとはいっても,通常,酵素等の同じ種類のタンパク質についてその塩基配列やアミノ酸配列が,異なる生物種間で全く相違しないことなどほとんどありえないことは,当該分野の技術常識である。

なお,請求人は,本願の当初明細書に記載された実験を追試することにより,出発材料の株名に誤記があったことを当業者は理解できると主張するが,本願の当初明細書の段落番号0029には,「ヒト由来の細胞が最も好ましく,特にHL-60が分化誘導を行いやすいため好ましい」と記載され,段落番号0048?0055に,本願発明の実施例において,HL-60をTPAで分化を誘導したものからcDNAライブラリーを構築し,そこから本願発明のpCEV4C7をクローニングしたことが具体的かつ詳細に,技術的な矛盾なく記載されているのであるから,当業者が出発材料の株名に誤記があったと考える特段の事情はない。

そして,実施例を追試してみなければ分からない誤りを,当業者が明細書の記載の誤りとして認識できるとはいえない。

仮に,当業者が追試の結果として誤りに気づいた場合について検討しても,当業者が本願の当初明細書の記載を参考に,HL-60から配列番号1のcDNAを得ようとして,異なる配列のDNAを取得しても,発明者等が取得したcDNAとは異なるアイソザイムかシアル酸転移酵素ファミリーの類似した別の酵素を得たと考えるのが普通で,配列番号1のものがマウスのcDNAであることを知って初めて,何かの手違いで,当初明細書の実施例の記載と配列番号1の配列に齟齬を来していることに思い至るのである。そして,実験中に実験材料を取り違えたとか,コンタミネーションがあったなどの可能性や,明細書の作成において,配列を取り違えた可能性もあるから,出発材料の株名に関する記載のみが,当初明細書における誤りであるとの結論に帰着しえないことは明白である。

請求人は,本件補正は,誤記を訂正するものであると主張しているが,ここで「誤記の訂正」とは,「本来その意であることが明細書等の記載から明らかな字句・語句の誤りを,その意味内容の字句・語句に正す」ことであるが,上記のとおり,本願の出発材料の株名に関する記載の変更及び削除に係る本件補正は,これに該当しないから,請求人の上記主張は,受け入れられない。

また,平成17年12月2日付け拒絶理由通知において,引用文献等一覧の3,4として示された,発明者等が出願後に発表した文献に記載される,HL-60株からのcDNAがクローニングされたベクターの固有名のpCEV4C7が,本願の実施例のものと同じであることからみれば,出発材料の株名が誤記とするなら,実施例全体の記載も誤記ということになる。

以上のことをふまえれば,本願について当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とはあくまでも,「配列番号1に係る特定のシアル酸転移酵素-1は,ヒト骨髄性白血病細胞株HL-60のみをその由来とする」というものであり,このことは,本願の当初明細書における出発材料の株名に関する記載が,本願出願時に知られていなかった科学的真実に照らせば明らかに誤りであるという,本願出願後に判明しえた事実によって何ら左右されるものではない。

(3-b)本件補正により本願明細書等に導入される技術的事項

上記(1-b)のとおり,本件補正は,本願の当初明細書の段落番号0048及び0060における上記HL-60に係る記載を変更及び削除するものであり,その結果,「配列番号1に係る特定のシアル酸転移酵素-1は,ヒトのものに限定されない,任意の細胞のうちのいずれかをその由来とする」という技術的事項が,当該補正により新たに本願明細書に導入されることとなる。

(3-c)対比・判断

そして,本件補正の結果導入される上記技術的事項,すなわち,「配列番号1のものはヒトのものに限らない任意の細胞のうちのいずれかを由来とする」というものは,本願の当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる上記技術的事項,すなわち,「配列番号1のものは上記HL-60のみをその由来とする」というものとは明らかに相違するものであって,本願補正を,新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。

したがって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものに該当しない。


5.むすび

したがって,平成15年10月28日付けでした手続補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-07 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願平9-184184
審決分類 P 1 8・ 55- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉森 晃上條 肇  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
森井 隆信
発明の名称 シアル酸転移酵素及びそれをコードするDNA  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  
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