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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1200244
審判番号 不服2008-17157  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2004-172363「現像ローラ及びそれを備えた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-352117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年6月10日に出願され、その特許請求の範囲に係る発明は、平成20年5月7日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲・請求項1?15に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。(以下、「本願発明」という。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層と、該弾性層の外周面に形成された少なくとも一層の樹脂被覆層とを備えた現像ローラにおいて、
前記樹脂被覆層が非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂及び/又は化合物と紫外線硬化型樹脂とを含んでなることを特徴とする現像ローラ。」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな特開平4-56881号公報(原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献1」である。)及び、特開2003-140420号公報(同じく「引用文献2」である。)には、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審で付与した。)

<引用文献1>
ア)特許請求の範囲
「(1)トナー担持体として弾性体ロールを用い、該弾性体ロール上にトナーを担持し、静電潜像担持体に対して該弾性体ロール上のトナーを接触させて現像を行う現像装置において、
前記弾性体ロールの表面を硬化型含フッ素単量体およびこれと共重合可能な単量体の共重合体によりコーティング処理をすることを特徴とする現像装置。
(2)トナー担持体として弾性体ロールを用い、該弾性体ロール上にトナーを担持し、静電潜像担持体に対して該弾性体ロール上のトナーを接触させて現像を行う現像装置において、
前記弾性体ロールの表面に硬化型含フッ素単量体およびこれと共重合可能な単量体の混合物をコーティングし、その混合物を活性光線により共重合させることを特徴とする現像装置。
(3)前記弾性体ロールを多孔質ウレタンで形成することを特徴とする請求項1または2記載の現像装置。
(4)前記共重合体が含フッ素アクリレートおよび/または含フッ素メタクリレートを含有するものであることを特徴とする請求項1または2記載の現像装置。」

イ)[産業上の利用分野]欄(2頁左上欄11行?同頁右上欄11行)
「 本発明は、電子写真装置において静電潜像を一成分系現像剤を用いて現像するための現像装置に関する。
電子写真の一例としては、帯電、露光、現像、転写、および定着の各工程の繰り返しによって印刷物を得る方法が一般的である。・・・
前記現像は、現像装置により行われ、現像装置は、例えば静電潜像が形成された像担持体へのトナー供給装置として弾性体ロールをトナー担持体として用いる。」

ウ)[発明が解決しようとする課題]欄(2頁左下欄13行?3頁右上欄5行)
「しかしながら、従来の現像装置にあっては、前記のようなトナー担持体を用いた場合、初期には比較的良好な印字が行われる場合が多いが長期にわたり該トナー担持体を使用すると、トナー担持体表面にトナーが粘着することによる摩擦係数の変化や、トナー担持体表面の凹部に対しトナーが目詰まりを起こすなどの理由により、トナー担持体のトナー搬送能力が変化したり、トナー担持体の弾性が変化することにより適切な現像ニップが得られなくなるという問題点が生じていた。・・・
本発明は、このような従来の問題点に鑑みなされたもので、トナー担持体表面へのトナーの粘着や凹部へのトナーの目詰まりを防止し、長期にわたり安定した現像特性を有し、また、トナー担持体とトナー間の摩擦帯電特性を任意にコントロールすることができる現像装置を提供することを目的とする。」

エ)[課題を解決するための手段]欄(3頁左下欄11行?4頁右上欄1行)
「・・・前記弾性体ロールの表面に硬化型含フッ素単量体およびこれと共重合可能な単量体の混合物をコーティングし、その混合物を活性光線により共重合させるものである。
以下、必要に応じて第1図を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
第1図において、1はトナー担持体として用いられた弾性体ロール、2は弾性体ロール1の表面に形成されたコーティング層、3は弾性体ロール1内に装着された導電体である。 本発明においては、含フッ素共重合体をコーティング層2とすることにより弾性体ロール1の表面エネルギーは低下し、トナーに対す良好な非粘着性を発揮する。非粘着性を付与するためのコーティング層2のコーティング材としてポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどが著名である。しかし、これらの含フッ素共重合体は、化学的に安定であるが故殆どの溶媒に不溶であり、コーティングを施すためには表面に該含フッ素共重合体を付着させた後、高温で、例えば300℃程度以上の温度環境下で該含フッ素共重合体を溶融させるなどの方法を取る必要があった。
本発明では被コーティング部材であるトナー担持体が、ウレタン等に代表される高分子弾性体であり、通常、このような弾性体部材の耐熱温度はポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素共重合体の溶融温度より低く、該含フッ素共重合体を熱溶融させてコーティングする方法を取ることができない。 そこで本発明では、含フッ素共重合体として含フッ素アクリレートおよび/または含フッ素メタクリレートを必須構成成分とする樹脂をトナー担持体上にコーティングすることにより、上記問題点の解決をはかった。その樹脂のコーティング方法には次の2通りある。
(1)含フッ素アクリレートおよび/または含フッ素メタクリレート単重体をあらかじめラジカル重合可能な単量体と共重合したのち溶剤でとかし、トナー担持体にディップコート後低温で乾燥させ、コーティングする方法。
(2)含フッ素アクリレートおよび/または含フッ素メタクリレート単重体および必要に応じてラジカル重合可能な単重体、重合開始剤を混合したのち、トナー担持体ディップコートし、熱重合および/または光重合によって硬化させる方法。
(1)(2)共に利用可能であるが、(1)では溶剤へ溶解させるため、共重合させる単重体は架橋剤を使うことができないが、(2)の場合トナー担持体上で重合させるため架橋剤も使用でき、硬度をコントロールすることが可能になる。さらに光重合を行えば、低温で重合が進みさらに有利である。」

オ)[実施例]欄(5頁左下欄3行?6頁左上欄17行)
「・・・
実施例3
実施例1と同様の単量体(スチレン30重量部、ブチルアクリレート40重量部、トリフロロメチルメタクリレート30重量部:当審注)およびベンゾイン(光重合開始剤:当審注)を用いて、これらを混合し、コーティング液とした。 このコーティング液を多孔質ウレタン製の弾性体ロールにディップコーティングし、200W/インチの高圧水銀灯を用いて、5cmの距離で15分間紫外線を照射し、コーティング液を硬化した。 コーティング後のトナー担持体断面をSEM像により観察し、コーティング層の膜厚を計測した結果、コーティング膜厚は0.5?0.8μmであった。
次に、該トナー担持体を一成分用プリンタに組み込み、アミド化合物(針入度10;JIS-K2530試験法)をバインダとした負極性圧力定着用トナーを用いて、連続印刷試験を行った。その結果、6000シートの連続印刷後も初期と変わらぬ印字特性を示した。また、トナー担持体表面を目視観察したところ、トナーの粘着は殆ど認められなかった。」

してみると、引用文献1には、実質的に以下の発明が記載されているといえる。
「導電体の外周に形成された多孔質ウレタン製の弾性体層を有し、その弾性体層の外周面に、トリフロロメチルメタクリレート、スチレン、ブチルアクリレートの3種の単量体と光重合開始剤とを含むコーティング剤を施して、紫外線を照射し、コーティング剤を硬化させて、コーティング層を形成して得られる、導電体(中心軸)/弾性体層/含フッ素コーティング層(外周面)の構成をもつトナー担持体用弾性体ロール。」

<引用文献2>
カ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真装置や静電記録プロセスに用いられる現像装置、転写装置、クリーニング装置等に使用される導電部材及び該導電部材を用いた現像装置、転写装置又はクリーニング装置を具備した電子写真装置に関する。」

キ)「【0007】
従来、これら現像ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ等の導電部材としては、例えば、ゴムやウレタンフォーム等の弾性層の表面に、表面の平滑性確保や抵抗調整、帯電特性向上のため、アクリル、ウレタン、ナイロン、ポリエチレン、エポキシ、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、フェノール、ABS、ポリアミド、ウレタン変性アクリル樹脂等の樹脂溶液をディッピング法やスプレー法により塗布して樹脂層を形成したものが知られている。」

ク)「【0011】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
・・・
【0012】[初期かぶり・耐久かぶり]・・・即ち、現像ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ等の導電部材においてトナー付着が多くなったり、トナーが取れにくくなる性質を有する場合、トナーフィルミング・トナー融着など導電部材へのトナーダメージによるかぶりが発生することとなる。そして、最外樹脂層の摩擦性が高い場合、感光体と導電部材との間での剪断応力が過剰になって、たるみ、しわ、穴あき等のダメージによりかぶりが発生してしまう。
・・・
【0017】そして、50重量%以上のウレタン樹脂成分と50重量%以下の上記フッ素樹脂及び/又はフッ素化合物成分とを含有する樹脂材料で現像ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ等の導電部材の最外樹脂層を形成することにより、[初期かぶり・耐久かぶり]の問題を解消し得る上記「表面帯電電位特性」を有する最外樹脂層を得ることができ、しかも「耐久カブリ」の問題をより確実に解消し得る上記「摩擦特性」、及び[OPC密着]の問題を解決し得る上記「表面接触角」を有する最外樹脂層を容易に形成することができ、過酷な条件下においても良好な現像操作、転写操作、クリーニング操作を確実に行うことができ、良好な画像を安定的に得ることができる導電部材が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
・・・
【0020】上記最外樹脂層を形成する樹脂材料に用いられるウレタン樹脂としては、導電部材の基体となる弾性層上に成膜し得るものであればよく、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリエーテルエステル系等、種々のウレタン樹脂を用いることができる。
・・・
【0022】これらウレタン樹脂は、電気特性、力学特性が良好で導電部材の表皮層として好ましい物性も有するものの、粘着性が高く摩擦も大きいという不利な性質も有する。そこで、本発明では、フッ素樹脂成分又はフッ素化合物成分を添加併用することにより、上記電気特性及び力学特性を維持しつつ、上記粘着性及び摩擦性の問題を解消したものである。
・・・
【0027】このフッ素化合物成分と上記ウレタン樹脂とは、単にブレンドされているだけでもよい・・・
【0029】・・・
またフッ素樹脂成分又はフッ素化合物成分が少なすぎると、十分な低摩擦性、低密着性、低トナー付着性が得られない場合があり、一方多すぎると、溶液中での相分離の発生、表面性の悪化、ひび割れ等の発生が生じる場合がある。
・・・
【0031】この最外樹脂層を導電部材に形成する方法は、特に制限されるものではないが、上記各成分を含む塗料を調製し、この塗料をディッピング法やスプレー法などにより導電部材に塗布する方法が好ましく用いられる。」

してみると、引用文献2には、下記の事項が記載されているといえる。
「現像ローラ等のゴム弾性体表面に対して、ウレタン系樹脂など成膜性の良いベース塗料にフッ素樹脂を添加混合して塗布して樹脂被覆層を形成すると、単純にフッ素樹脂をブレンドするだけでもフッ素樹脂の添加作用により、樹脂被覆層が低摩擦性、低密着性、低トナー付着性となる。」

3.対比
引用文献1に記載の発明における「導電体」、「多孔質ウレタン製の弾性体層」、「含フッ素コーティング層」、「トナー担持体用弾性体ロール」、「紫外線照射で重合硬化されるコーティング剤」は、それぞれ本願発明における「シャフト」、「シャフトの外周に形成された弾性体層」、「樹脂被覆層」、「現像ローラ」、「紫外線硬化型樹脂」に相当する。
してみると、本願発明と引用文献1に記載の発明とは、 「シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層と、該弾性層の外周面に形成された少なくとも一層の樹脂被覆層とを備えた現像ローラにおいて、前記樹脂被覆層が紫外線硬化型樹脂を含んでなる現像ローラ。」で一致し、下記の点でのみ相違する。

相違点:樹脂被覆層が、本願発明では、「非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂及び/又は化合物」を含んでいるのに対し、引用文献1に記載の発明では、それを含まない点

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、上掲のとおり、「現像ローラのゴム弾性体表面に対して、成膜性の良いベース塗料にフッ素樹脂を添加混合して塗布して樹脂被覆層を形成すると、単純にフッ素樹脂をブレンドするだけでもフッ素樹脂の添加作用により、樹脂被覆層が低摩擦性、低密着性、低トナー付着性となる」ことが記載されている。
そして、引用文献1に記載の「紫外線照射で重合硬化されるコーティング剤」は、無溶剤型の塗料の一種であるから、引用文献2の記載に習い、該コーティング剤にフッ素樹脂、すなわち、「非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂」を単純にブレンドして樹脂被覆層を形成すれば、添加したフッ素樹脂の作用により、さらに低摩擦性、低密着性、低トナー付着性の樹脂被覆層が得られると期待できる。
してみると、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が本願発明を想到することは容易に為し得たことであるし、その作用効果も特段のものとは認められない。

〈請求人の主張について〉
審判請求人は、請求の理由に於いて、 引用文献1の「非粘着性を付与するためのコーティング層2のコーティング材としてポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどが著名である。しかし、これら・・・は、化学的に安定であるが故・・・熱溶融させてコーティングする方法を取ることができない。
そこで本発明では、含フッ素共重合体として含フッ素アクリレートおよび/または含フッ素メタクリレートを必須構成成分とする樹脂をトナー担持体上にコーティングすることにより、上記問題点の解決をはかった。」(上掲2.エの摘記事項を参照)との記載を取り上げて、
「引用例1には、当業者が非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂及び/又は化合物を使用する上での明確な阻害要因が存在するため、当業者は引用例1と引用例2とを組み合わせることができません。」と主張する。
しかし、引用文献1の該記載は、
ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンというフッ素含量の極めて高いフッ素系ホモポリマー単独による樹脂被覆層の形成が、高分子弾性体の表面に施工する温度制限などから無理である旨を示しているだけであり、
「非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂」すべての使用・併用を否定しているものでは無いから、引用例1と引用例2とを組み合わせる「阻害要因」は存在せず、該主張は認められない。

なお、付記するに、
例えば、本願発明の実施例3で「非紫外線硬化型のフッ素含有樹脂」として使用されている「THV220A(住友スリーエム製)」は、各種塗料などに添加することで、非粘着性、低摩擦性、耐摩耗性の樹脂被覆層が形成できる「パウダー状添加剤」として、出願前から広く市販されているものに過ぎないし、本願発明は、それを単純に、現像ローラの樹脂被覆層に適用しただけのものであるから、当業者であれば、引用文献2記載の発明に必ずしも依らずとも、引用文献1記載の発明のみから、本願発明を想到することは容易とも言える。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-22 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2004-172363(P2004-172363)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伊藤 裕美
伏見 隆夫
発明の名称 現像ローラ及びそれを備えた画像形成装置  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 憲司  
代理人 澤田 達也  
代理人 冨田 和幸  

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