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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580227 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H02P
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H02P
審判 全部無効 2項進歩性  H02P
管理番号 1200666
審判番号 無効2006-80260  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-14 
確定日 2009-06-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3231553号「インバータ制御装置の制御定数設定方法」の特許無効審判事件についてされた平成20年 5月 8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10214号、平成21年 1月20日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

(1)本件特許第3231553号の請求項1及び2に係る発明の出願は、昭和61年5月9日に出願した特願昭61-106469号の一部を平成6年7月25日に新たな特許出願としたものであって、平成13年9月14日に特許権の設定の登録がなされ、その後、平成17年10月20日に訂正審判(訂正2005-39192号)が請求され、同年11月18日付でその訂正を認める審決がなされ確定したものである。(以下、訂正確定後の明細書を「訂正確定明細書」、訂正確定後の請求項1及び2に係る発明を併せて「訂正特許発明」という。)

(2)これに対して請求人は、平成18年12月14日に特許無効審判を請求して訂正特許発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、大略以下の(2-1)及び(2-2)のとおりであるから、訂正特許発明の特許は、昭和60年改正特許法第123条第1項第3号の規定により無効とされるべきであると主張している。

(2-1)訂正特許発明の明細書の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないから、昭和60年改正特許法第36条第4項の規定を満たしておらず、訂正特許発明の特許は無効とされるべきものである。(以下「無効理由A」という。)

(2-2)訂正特許発明の明細書の発明の詳細な説明は、訂正特許発明を当業者が容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載したものではないから、旧特許法第36条第3項に規定の要件を満たしておらず、訂正特許発明の特許は無効とされるべきものである。(以下「無効理由B」という。)

(3)これに対して被請求人は、平成19年8月30日に訂正請求書を提出して訂正(以下「第1回訂正」という。)を求めた。

(4)これに対して当審より平成19年10月16日付で、第1回訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに規定する要件を満たさない訂正を含むのでこれを認めない旨の訂正拒絶理由を通知した。

(5)その後、平成19年12月12日付で、第1回訂正は認められないことを前提に、訂正特許発明の特許は、いずれもその出願前に頒布された刊行物である電気学会研究会資料 回転機研究会 RM-85-26「ベクトル制御のオートチューニング」1985.7.17(以下「引用文献1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び、「石崎彰 平山勝己、誘導電動機の特性算定のための定数決定法、電気学会雑誌 Vol.87-1,No.940,January,1967 第173?180頁」の177?178頁 4.定数の決定法(以下「引用文献2」という。)、「尾本義一 米山信一 山下英男 執行岩根,電気学会大学講座 電気機器工学I電気学会 昭和50年6月25日 249?250頁」(以下「引用文献3」という。)、「宮入庄太 大学講義 最新電気機器学 丸善 昭和55年3月20日、第172?173頁」(以下「引用文献4」という。)、「礒部直吉、鈴木勝己、三相誘導電動機特性の直接算定法、昭和53年電気学会全国大会講演論文集〔5〕電気学会 昭和53年4月、第506?507頁」(以下「引用文献5」という。)、及び「坪井和夫、山本竜彦、普通かご形誘導電動機の運転特性算定のためのT形等価回路定数決定法、電気学会研究会資料 回転機研究会 RM-86-13?17、電気学会、1986年4月18日、第21?33頁」(以下「引用文献6」という。)に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してなされたものである旨の無効理由(以下「無効理由C」という。)を通知した。

(6)被請求人は、平成20年1月16日に新たな訂正請求書を提出して訂正(以下「第2回訂正」という)を求めた。第2回訂正の内容は、訂正確定明細書を、新たな訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおり訂正するものである。
(なお、上記第1回訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。)

(7)そして、平成20年5月8日、第2回訂正を認めた上で、第2回訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10214号、平成21年1月20日判決言渡、以下「本件判決」という)がなされ確定した。

(8)なお、被請求人は、訂正特許発明に対して、平成19年11月16日に、第2回訂正請求書と全く同一の内容の訂正審判(訂正2007-390134号)を請求し、これに対し、平成20年3月14日に訂正を認めない旨の審決がなされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成20年(行ケ)10140号、平成21年1月20日判決言渡)がなされ確定した。


2.第2回訂正の請求について

(1)第2回訂正の内容
被請求人が求めた第2回訂正の内容は、下記訂正事項1ないし訂正事項14のとおりである。

・訂正事項1
訂正確定明細書の特許請求の範囲の請求項1に
「誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ、
(b)前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d)検出された前記電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」
とあるのを、
「誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b’)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c’)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d’)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e’)前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」(以下「本件訂正発明1」という。)
と訂正する。

・訂正事項2
訂正確定明細書の特許請求の範囲の請求項2に
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令(V1d*・V1q*)に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ、
(b)前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d)前記電圧指令、前記周波数指令、および検出された前記電流のベクトル成分に基づいて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」
とあるのを、
「誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令(V_(1d)*・V_(1q)*)に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b’)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c’)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d’)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流のベクトル成分を用いて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e’)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f’)前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」(以下「本件訂正発明2」という。)
と訂正する。
(また、「本件訂正発明1」と「本件訂正発明2」とを併せて、以下「本件訂正発明」という。)

・訂正事項3
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0007】の【課題を解決するための手段】に、
「上記目的を達成する第1の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ、
(b)前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d)検出された前記電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」
とあるのを、
「上記目的を達成する第1の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b’)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c’)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d’)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e’)前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」
と訂正する。

・訂正事項4
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0007】の【課題を解決するための手段】に、
「上記目的を達成する第2の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令(V_(1d)*・V_(1q)*)に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ、
(b)前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d)前記電圧指令、前記周波数指令、および検出された前記電流のベクトル成分に基づいて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」
とあるのを、
「上記目的を達成する第2の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令(V_(1d)*・V_(1q)*)に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b’)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c’)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d’)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流のベクトル成分を用いて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e’)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f’)前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。」と訂正する。
(なお、訂正特許発明と本件訂正発明の訂正内容とを区別するために、訂正内容に対して当審で便宜的に各ステップの記号に(’)を付した。)

・訂正事項5
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0008】の【作用】に、
「第1の発明では、制御装置の制御定数の設定に用いる電流を、誘導電動機を回転させた状態で検出している。誘導電動機を回転させる、すなわち周波数指令を与えると、回転停止状態に比べて、誘導電動機内で発生する誘導起電力が大きくなる。このため、電圧指令値と誘導起電力との誤差が小さくなり、検出電流に対する前記誤差の影響が少なくなる。従って、検出された電流に基づいて設定される、1次インダクタンスと関係する制御定数の精度が向上する。
第2の発明では、誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、1次インダクタンスの精度が向上し、1次インダクタンスに基づいて演算される制御定数の精度も向上する。更に、誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、この演算に要する時間が短縮され、インバータを制御するコンピュータの負荷率が低減される。
好ましくは、周波数指令及び電圧指令を徐々に増加させて、誘導電動機を回転させる。周波数指令および電圧指令を徐々に増加させることにより、始動時に発生する突入電流を防止できる。」
とあるのを、
「第1の発明では、前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定し、無負荷状態において制御装置の制御定数の設定に用いる電流を、誘導電動機を回転させた状態で検出している。無負荷状態において誘導電動機を回転させる、すなわち周波数指令を与えると、回転停止状態に比べて、誘導電動機内で発生する誘導起電力が大きくなる。このため、電圧指令値と誘導起電力との誤差が小さくなり、検出電流に対する前記誤差の影響が少なくなる。従って、検出された電流に基づいて設定される、1次インダクタンスと関係する制御定数の精度が向上する。
第2の発明では、無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、1次インダクタンスの精度が向上し、1次インダクタンスに基づいて演算される制御定数の精度も向上する。更に、無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、この演算に要する時間が短縮され、インバータを制御するコンピュータの負荷率が低減される。
好ましくは、周波数指令及び電圧指令を設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、誘導電動機を回転させる。周波数指令及び電圧指令を設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させることにより、始動時に発生する突入電流を防止できる。」
と訂正する。

・訂正事項6
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0016】の式(1)の
「v_(w)*=」の式の右辺の符号「-」を、「+」と訂正する。

・訂正事項7
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0024】の式(5)の右辺の
「r_(1)i_(1)d」を、「r_(1)i_(1d)」と訂正する。

・訂正事項8
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0025】の式(6)の右辺の
「r_(1)i_(iq)」を、「r_(1)i_(1)_(q)」と訂正する。

・訂正事項9
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0042】に
「v_(1d)=v_(1d)=0,v_(1q)=v_(1q)*αw_(1)*」とあるのを、
「v_(1d)=v_(1d)*=0,v_(1q)=v_(1q)* ∝ w_(1)*」と訂正する。

・訂正事項10
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0051】に
「i_(1q)」とあるのを、「i_(1q)*」と訂正する。

・訂正事項11
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0055】に
「v_(1q)」、「v_(1q)*」とあるのを、「v_(1q)*」と訂正する。

・訂正事項12
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0055】に
「電動機定数値」とあるのを、「電動機定格値」と訂正する。

・訂正事項13
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0059】の式22の
「r_(1)*」を、「r_(1)」と訂正する。

・訂正事項14
訂正確定明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0060】に
「i_(1q)*」とあるのを、「i_(1)_(d)*」と訂正する。
(注:下線の一部は当審にて付加した。)

(2)第2回訂正に関する当審の判断
上記訂正事項1から14の訂正の可否について検討する。

ア.まず、訂正事項1及び2において、「(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ」及び「(e)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ」を、「(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ」及び「(e’(訂正事項2ではf’))前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで……増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ」とする訂正について検討する。

第2回訂正前の記載は、電圧指令および周波数指令を所定値に設定し且つ徐々に増加させるものとなっているため、固定値であるはずの「所定値」と「徐々に増加させる」こととの相関関係が不明瞭となっているというべきである。
一方、第2回訂正後の記載は、固定値である「所定値」を設定し、その「所定値」に向かって周波数指令および電圧指令を徐々に増加させていくことが明りょうになっているといえる。
したがって、上記訂正は、明りょうでない記載の釈明といえる。

また、訂正確定明細書の段落【0042】?【0055】には、〔l_(1)+L_(1)の測定法〕について記載されており、その段落【0055】には、「図6では、先ず、ブロック61にて、w_(1)*とv_(1q)を電動機定数値に設定し運転する。なお始動時の突入電流を避けるため、w_(1)*とv_(1q)*は一定レートにて立ち上げ加速終了後、ブロック62にてi_(1d),i_(1q)の信号取込み、ブロック64にて(18)式よりl_(1)+L_(1)を演算する。」(なお、l_(1)は1次漏れインダクタンス、L_(1)は1次有効インダクタンス、w_(1)*は周波数指令、「v_(1q)」は「v_(1q)*」の誤記であり、v_(1q)*は電圧ベクトルのq軸成分の指令、i_(1d)及びi_(1q)は検出された電流のベクトル成分である。)と記載されており、また、図6には、周波数指令と電圧指令を定格値に設定しこの設定された周波数指令と電圧指令と、測定した電流値を用いてl_(1)+L_(1)を演算することが示されており、上記図6に関する明細書の記載と図6の記載から見て、w_(1)*とv_(1q)*が電動機定格値になった状態でi_(1d),i_(1q)の信号取込みを行うものと認めることができる。
そして、請求項1および2における「所定値」とは、実施例では「電動機定格値」のことであると認められるから、上記訂正は、訂正確定明細書の段落【0055】及び図6に記載した事項の範囲内でなされたものであって、しかも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないと認められる。

イ.次に、訂正事項1及び2において、上記ステップ(b)及び(d)の構成を上記ステップ(b’)及び(d’)の構成とする訂正、訂正事項1で、ステップ(e)の構成を(e’)の構成とする訂正、及び訂正事項2で、ステップ(f)の構成をステップ(f’)の構成とする訂正は、請求項1、2に係る発明の構成に欠くことのできない事項である「誘導電動機を回転させるステップ」について「無負荷状態において」行うものとの限定を付加し、同じく「制御定数を設定するステップ」について検出された電流の他に「所定値に設定された電圧指令、所定値に設定された周波数指令」に基づいて設定するものとの限定を付加し、同じく「周波数指令および電圧指令を徐々に増加させ」る際に「かつ一定レートにて」増加させるものとの限定を付加するものであって、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、これらの訂正は、上記「ア.」と同様に訂正確定明細書の段落【0055】及び図6に記載した事項の範囲内でなされたものであって、しかも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないと認められる。

ウ.訂正事項2において、(V1d*・V1q*)を(V_(1d)*・V_(1q)*)とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、この訂正は、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、しかも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないものと認められる。

エ.訂正事項3ないし5は、訂正事項1及び2に対応させて発明の詳細な説明の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正は、訂正確定明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、しかも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないものと認められる。

オ.訂正事項6ないし14は、いずれも誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、しかも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないものと認められる。

カ.なお、請求人は平成19年10月9日付審判事件弁駁書4頁5行?6頁23行、及び、平成20年3月14日付審判事件弁駁書の「6.弁駁の理由 II.本件訂正発明が訂正要件に違反すること」の項において、「(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令を所定値に設定するステップ」を「(a’)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ」とし、「(e)前記(b)のステップにおいて、前記周波数指令および前記電圧指令を徐々に増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ」を「(e’(訂正事項2ではf’))前記(b’)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで……増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ」とする訂正は、訂正前は、所定値に設定された「電圧指令」および「周波数指令」は、ステップ(b)において増加させる周波数指令及び電圧指令の増加の基点であることを意味していたものが、訂正後は増加の到着点を意味するものになったものであり、訂正前に明確であった事項を変更する訂正である旨主張しているが、上記「ア.」での検討のとおりであって、訂正前に、所定値に設定された「電圧指令」および「周波数指令」は、ステップ(b)において増加させる周波数指令及び電圧指令の増加の基点であったとは認められない。

以上のとおりであるから、第2回訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに掲げる目的に該当し、同条第5項の規定によって準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.請求人の主張
(1)無効理由Aについて
ア.本件訂正発明における「制御定数」及び「1次インダクタンスと関係する制御定数」という用語の技術的意味が不明確であるため、本件訂正発明を、客観的に本件訂正明細書及び図面の記載から認定することができない。したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、「発明の詳細な説明の項に記載した発明」の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでない。
「制御定数」に関して、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「制御定数」が電動機定数に基づいて設定されるものである、という説明はある。しかし、これらの記載だけでは、「制御定数」の技術的意味を理解することはできず、どのようなパラメータが「制御定数」に含まれるのか不明であり、かつ、制御定数をどのようにして「電動機定数」に基づいて設定するのか理解することができない。

イ.本件訂正発明の「電圧指令および……周波数指令の所定値」とは如何なるものであるのか、本件訂正明細書の記載からは理解できない。したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、「発明の詳細な説明の項に記載した発明」の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでない。

(2)無効理由Bについて
本件訂正発明1及び2における「制御定数を設定する」方法について、本件訂正明細書及び図面には何も説明がなく、出願当時の技術常識を参酌しても、制御定数をどのように演算し、設定するのか、という点について、明細書及び図面の記載からは、当業者といえどもこれを理解することができない。すなわち、本件訂正発明1及び2について、本件訂正明細書における発明の詳細な説明は、その発明を当業者が容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載したものではない。

本件訂正明細書及び図面は、「制御定数」を設定する方法について一切開示するものではない。本件訂正明細書の段落【0009】及びそれ以降に記載されている実施例に関連して説明されている演算は、電動機定数の演算方法であって、制御定数の演算方法ではない。


4.被請求人の主張
(1)無効理由Aについて
ア.本件訂正明細書の記載及び出願当初の技術的常識を参酌すれば「制御定数」の技術的意味は明りょうである。
本件訂正明細書の段落【0042】の〔l_(1)+L_(1)の測定法〕に記載されているように、1次インダクタンスが演算され、同書の段落【0044】の〔T_(2)の測定法〕に記載されているように2次時定数が演算される。T_(2)は、1次インダクタンスをr_(2)’で除算したものであるので、1次インダクタンスに関係したものである。
また、同書の段落【0059】には、「制御定数(r_(1),l_(1)+l_(2)’,l_(1)+L_(1))は定数演算器9の演算結果より設定する。」と記載されている。そして、例えば、図7を参照すると、電圧指令設定器3に、制御定数(r_(1),l_(1)+l_(2)’,l_(1)+L_(1))がマイクロプロセッサにより自動的に設定され、同電圧指令設定器3において式(21)、式(22)に基づき電圧指令v_(1d)*、v_(1d)*を演算することが記載されている。したがって、「電圧指令設定器3」を構成するコンピュータが、1次インダクタンスに関連する制御定数(l_(1)+L_(1))を設定することが示されている。
また、段落【0063】には、「ここでのT_(2)も定数演算器9の測定結果を用いて自動設定する。」と記載されており、「電圧指令設定器3」を構成するコンピュータが、1次インダクタンスに関連する制御定数T_(2)を設定することが示されている。
つまり、定数演算器9で演算された「電動機定数」は、ベクトル制御を行おうとする誘導電動機の特性を反映した定数であり、その定数を制御上使用する値に加工するなどして電圧指令設定器3内の記憶装置等に「制御定数」として設定すると、その誘導電動機のベクトル制御を行うときに、その制御定数を用いて、指令信号v_(1d)*、v_(1q)*が演算されて精確な制御が可能となる。
「誘導電動機のベクトル制御において制御装置に誘導電動機の電動機定数に基づく制御定数を設定する」ことは、本件訂正発明の出願当初の時点で当業者にとって周知の技術常識であったことが明らかであるから、かかる内容をこと細かに明細書に記載するまでもないことであって、どのようなパラメータを「制御定数」として用いるか、制御定数をどのようにして「電動機定数」に基づいて設定するかについて具体的で詳細な説明がないから、本件訂正発明を理解することができないというわけではなく、請求人の主張する無効理由Aには根拠がない。

イ.本件訂正明細書の段落【0055】に記載されているように「電動機定格値」が「所定値の一例」であり、立ち上げ加速終了後の、電流を検出するときの電圧及び周波数の値が「電圧指令および……周波数指令の所定値」であることが明確であり、本件訂正発明については、請求人主張の無効理由(記載不備)はない。

(2)無効理由Bについて
電動機定数が、例えば、設計値によって求まれば、誘導電動機のベクトル制御において、制御装置誘導電動機の電動機定数に基づく制御定数を適宜設定することは、本件訂正発明の出願当初において当業者にとって周知の技術常識であった。
よって、上記技術常識を参酌すれば、当業者が、電動機定数に基づいて制御定数を設定することができる。
したがって、請求人の主張する無効理由Bには理由がない。

(3)無効理由Cについて
引用された刊行物には無効理由Cが認定する上位概念の記載がなく、無効理由Cは、一致点と相違点の認定を誤った違法があり、また、相違点に対する判断を誤った違法がある。


5.無効理由に関する当審の判断

(1)無効理由Aについて
ア.制御定数とは一般的に、制御装置の有するパラメータの一種であって、その値は、制御装置の系全体の特性に対して、入力値から所望の出力値が得られるように定められる値であり、制御装置の設計に際して求められる値であると認めることができる。
本件訂正明細書には、「電動機定数」と「制御定数」を明りょうに区別することなく記載されているが、これは、本件訂正発明が電動機定数が変更された場合にも所望の制御を行うことが可能になるように電動機定数を演算により求めるものであることから、電動機定数に対応した制御定数が定められた制御装置において、所望の出力に変更がない限り、電動機定数と制御定数との関係は一義的に対応するものとの前提に立ったことによるものと解するのが自然である。
そして、制御定数の設定方法については例えば被請求人の提出した乙第5号証(特開昭58-17599号公報)の第1頁右欄5?9行に、制御定数の設定後の再設定に関し「その後制御部に不具合等が生じ、制御部内のアンプ或いはプリント基板等を交換した際は、電動機の制御部の定数決定記録表或いは試験成績表等を参考にして、制御アンプ、プリント基板の定数を再設定してきた。」と記載されているように、容易に再設定できることが周知であったものと認めることができる。
さらに、本件訂正発明は、制御定数を設定するための発明ではあっても、そのための電動機定数を求める方法を主要部とする発明であり、電動機定数に基づいて制御定数を求める方法は、制御分野で普通に行われる方法によるものであって、この方法が記載されていないからといって本件訂正発明の構成が不明であるとすることはできない。また、「1次インダクタンスと関係する制御定数」は、上記制御定数の設定方法と同様に、その演算に電動機定数である1次インダクタンスを用いて設定される制御定数であると認められ、技術的意味が不明とすることはできない。

イ.「電圧指令および周波数指令の所定値」とは、前記「2.(2)ア.」で述べたとおり、実施例では「電動機定格値」のことであると認められ、当業者であれば如何なるものであるか理解することができるものといえる。

したがって、無効理由Aは理由があるということはできない。

(2)無効理由Bについて
本件訂正発明は、本件訂正明細書の段落【0004】以降に、解決しようとする課題として、従来は、電動機定数の設定値に基づいて制御定数をマニュアル設定しているために電動機定数の設計値と実際値の不一致により、制御演算誤差を生じトルクが変動すること、この問題に対処するため検出電圧値と電流指令値との関係より電動機定数を測定し、その結果に基づき制御定数を設定するものは、検出精度が低く、定数測定精度が低いという問題があることを指摘しており、したがって、電動機定数がわかれば制御定数はわかることを前提としたものである。
そして、本件訂正発明の出願時において、制御系全体の応答特性を測定することで電動機定数と制御定数との関係を容易に求めることができることが当該分野の技術常識と認められるので本件訂正特許発明1及び2における「制御定数を設定する」方法について、電動機定数を演算する方法を開示すれば、電動機定数と制御定数との関係に基づいて当業者が制御定数を容易に設定することができたものと認めることができる。

したがって、無効理由Bは理由があるということはできない。

(3)無効理由Cについて

(3-1)引用文献記載事項

ア.引用文献1には図面と共に以下の事項が記載されている。

・「周知のように誘導電動機(以下.IMと略す)のベクトル制御においては、IMの等価回路を制御モデルとして制御するため、制御装置には前もって適用するIMの等価回路定数に基づく制御定数を設定する。」(61頁7?10行)

・「本論文では、ベクトル制御装置に電動機定数測定機能を持たせ、実運転前に電動機定数や慣性モーメントを高精度に自動測定し、これに基づき制御定数を自動設定することを目的に、電動機定数の測定法とこれをディジタルインバータ装置に適用するときのオートチューニング方式について報告する。」(61頁17?20行)

・「先に開発した速度センサレス・ベクトル制御を例に、オートチューニングの必要性について述べる。図1は同制御システムの構成を示す。ベクトル制御は電動機モデルを基準として、インバータ出力電流の大きさと位相及び周波数を制御するため、モデルの定数を電動機定数に応じて予め設定する必要がある。」(61頁22?26行)

・「ここで、V_(1d),V_(1q)及びI_(1d),I_(1q)は角周波数ω_(1)で回転する座標上の電圧、電流成分であり、V_(1d),V_(1q)は後述するように検出可能、またI_(1d),I_(1q)はベクトル制御の制御信号から間接的に検出可能であるため、これらを与えて(4)式を解くことができる。さらに、特定の条件を与えれば定数や変数を消去できるので測定すべき定数を簡単に求めることができる。すなわち、定常状態ではP(d/dt)=0とおけ、また直流励磁ではω_(1)=0、回転停止状態ではω_(1)=ω_(S)、さらにI_(1d)=0又はI_(1q)=0の条件を設定すると定数及び変数が消去でき、測定すべき定数に関する電圧方程式が導ける。以上が測定原理である。」(62頁下から6行?63頁2行)

・「すなわち、この条件下での電動機の等価回路は図3(a)に、また、電圧Vと電流Iの関係は同図(b)のベクトル図に示すようになる。このとき電圧Vのd,q軸成分において、電流と同相成分V_(d)は抵抗r_(1),r_(2)による電圧降下に、直交成分V_(q)は漏れインダクタンスl_(1),l_(2)’による電圧降下に相当する。」(64頁8?11行)

・「本測定法は、IMをベクトル制御で無負荷運転した条件で励磁インダクタンスL_(1)を求める。この条件では、(4)式において 定常状態P=0,ω_(S)≒0,I_(1q)≒0とおけ、次式が成立する。

{V_(1q)=(l_(1)+L_(1))ω_(1)I_(1d)+Mω_(1)I_(2d)
0=r_(2)I_(2d) } …(14)

さらに、l_(1)≪L_(1)とすれば、L_(1)は次式より求められる。

L_(1)=V_(1d)/ω_(1)I_(1d) …(15)」(66頁13?19行)

・「測定においては周波数指令ω_(1)^(*)を定格に設定し、そのときの電流指令値Im^(*)(AERにより定格電流となるよう設定される)と電圧検出信号V_(q)より(15)式の演算でL_(1)が求まる。」(66頁20?22行)

・「4.ベクトル制御のオートチューニング
速度センサレス・ディジタルベクトル制御に前章で述べた電動機定数の測定法を適用し、その自動測定と測定結果に基づく制御定数のオートチューニング法について述べる。
4.1 オートチューニング法
図7は、今回開発したオートチューニング法のフローチャートである。
オートチューニングに先立ち、IM定格、定格回転数、極数及び目標応答はイニシャル設定し、これよりチューニングの動作に入る。
先ず、図2に示す周波数制御(AFR)、起電力制御(AER)、速度制御(ASR)を休止させ、IMが回転停止状態において、入力指令Im^(*),ω_(1)^(*)に所定値を設定し、IMを交流励磁する。そのときの電圧検出信号V_(d),V_(q)により、3.2節で述べた方法で(r_(1)+r_(2)')及び(l_(1)+l_(2)’)を演算する。」
次に、ω_(1)^(*)=0でIm^(*)に所定値を入力し、IMに直流電流を流す。そのときの相電圧指令V_(u)^(*)と相電流信号I_(u)より、3.2.1項で述べた方法でr_(1)を測定する。
以上の測定によりr_(1),r_(2)'及びl_(1)+l_(2)'を正規化演算し、起電力検出器の内部インピーダンスを設定する。これによりベクトル制御が行える条件が確立できたので、次に全制御を活し、速度入力指令ω^(*)に定格値を設定し、IMを無負荷運転する。そのときのIm^(*),ω_(1)^(*)とV_(q)の信号より、3.3節の方法で励磁インダクタンスL_(1)を測定する。
なお2次時定数T_(2)はこのL_(1)と先に求めたr_(2)'より演算する。このT_(2)とL_(1)に基づきすべり演算器とIm^(*)の最適設定を行う。」(68頁下から12行?69頁19行)

・「速度センサレス・ディジタルベクトル制御インバータに上記電動機定数測定機能を付加し、電動機定数が不明な状態から制御定数を自動設定するオートチューニング方式を開発し、その効果を加減速性能及び速度精度より実証した。」(70頁22?25行)

・また、62頁の図1には、オートチューニングのフローと称して、インバータの電流指令を出力するための周波数指令を出力するマイコン即ちコンピュータにより電動機定数を演算し制御定数を自動設定する構成が示されている。

イ.引用発明の認定に関する判示事項

ここで、引用発明の認定に関し、本件判決において次のような判示がなされている。

『カ 上記引用発明における電動機定数の検出方法につき検討すると,引用発明においては適宜(任意)の値として電流指令の初期値Im^(**)を設定し,その後,ベクトル制御運転を行うことにより,自動的にIm^(*)が無負荷運転時の定格電流となるよう調整される。これによれば,電流指令値Im^(*)はベクトル制御運転により次第に定格電流に収束していくものであり,その定格電流は,駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスL_(1)によって異なるものであって,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Im^(*)の具体的数値は,誘導電動機の回転前には知り得ない。したがって,引用発明では,誘導電動機の回転前に予め電流指令値Im^(*)を定格電流となるよう設定したものではない。そうすると,審決が,引用発明の内容として,無負荷状態において誘導電動機を回転させるステップ(ステップ(b))の前に,「(a)前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステップ」(18頁8行?9行)を備えるものと認定したことは誤りである。
また,引用発明では,予め定格電流,すなわち,電流指令の定格値を具体的に知ることができないから,無負荷定常回転状態に至るまでは,「定格値に基づいて」運転することができない。したがって,この意味において審決が引用発明の内容として「(b)無負荷状態において,前記定格値に基づいて前記インバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に印加することにより,前記誘導電動機を回転させるステップ」(18頁10行?12行)を備えると認定したこともまた誤りである。
キ そして,1[審決注:判決においては「丸付き数字の1」が記載されている。](a)のステップにおいて,第1の電気量指令を設定する際に,訂正発明2は,電圧指令の所定値を設定するのに対して,引用発明では,その後に補正される電流指令の初期値(Im^(**) )を設定する点,2[審決注:判決においては「丸付き数字の2」が記載されている。]無負荷状態において誘導電動機を回転させるステップについて,訂正発明2は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回転させるのに対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値に至るまでこれを補正しながら,誘導電動機を回転させるものである点,の2点については,引用発明と訂正発明2との相違点として認定されるべきである(原告の主張する相違点イの一部,及び同ウに当たる。)。なお,訂正発明1は,訂正発明2の電圧指令につき「直交するベクトルの」との限定をせず,1次インダクタンスと関係する制御定数を設定するものであるから,上記訂正発明2に関するものと同様である。』(以下、「判示事項1」という)

ウ.引用発明の認定
判示事項1のうち、特に
「引用発明においては適宜(任意)の値として電流指令の初期値Im^(**)を設定し,その後,ベクトル制御運転を行うことにより,自動的にIm^(*)が無負荷運転時の定格電流となるよう調整される。」
「(a)のステップにおいて,第1の電気量指令を設定する際に・・・引用発明では,その後に補正される電流指令の初期値(Im^(**) )を設定する」
「無負荷状態において誘導電動機を回転させるステップについて,訂正発明2は,所定値に設定された電圧指令及び周波数指令に基づいて回転させるのに対し,引用発明は,ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し,無負荷定格電流指令値に至るまでこれを補正しながら,誘導電動機を回転させるものである点」
なる判示事項、及び引用文献1の上記摘記事項によれば、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。

「誘導電動機に電力を供給するインバータを電流指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電流指令を出力するための周波数指令を出力するマイコンによりオートチューニングする方法において、次のステップを有するベクトル制御装置の制御定数を自動設定する方法。
(a)その後に補正される電流指令の初期値(Im^(**))および前記誘導電動機の周波数指令の定格値を設定するステップ、
(b)ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し、無負荷定格電流指令値に至るまでこれを補正しながら、誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機の電圧を検出するステップ、
(d)前記無負荷定格電流指令値、前記定格値に設定された周波数指令、および前記検出された電圧に基づいて、前記マイコンにより、前記誘導電動機の励磁インダクタンスを演算し、得られた前記励磁インダクタンスに基づき前記マイコンによりIm^(*)の最適設計を行うステップ、
(e)前記(b)のステップにおいて、電流指令の初期値(Im^(**))を設定し、その後、ベクトル制御運転を行うことにより自動的にIm^(*)が無負荷定格電流指令値となるよう調整されるステップ。」(以下「引用発明」という。)

(3-2)本件訂正発明1に対する対比・判断
まず、本件訂正発明1について検討する。

ア.本件訂正発明1と引用発明との対比

本件訂正発明1は、上記「2.(1)・訂正事項1」のとおりであるから、上記判示事項1を踏まえて、本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、
後者の「電流指令」と前者の「電圧指令」とは、「第1の電気量指令」との概念で共通しており、
後者の「電流指令を出力するための周波数指令を出力する」態様と前者の「電圧指令を出力する」態様とは、「指令を出力する」との概念で共通している。
また、後者の「マイコンによりオートチューニングする」態様が、前者の「コンピュータにより設定する」態様に相当しており、以下同様に、
「ベクトル制御装置の制御定数を自動設定する方法」が「インバータ制御装置の制御定数設定方法」に、
「誘導電動機の周波数指令の定格値」が、「誘導電動機の周波数指令の所定値」に、それぞれ相当している。
続いて、後者の「(b)ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電流指令値および定格値に設定された周波数指令値に基づいてインバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し、無負荷定格電流指令値に至るまでこれを補正しながら、誘導電動機を回転させるステップ」と前者の「(b’)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ」とは、「(b)無負荷状態において、前記誘導電動機を回転させるステップ」との概念で共通しており、以下同様に、
後者の「誘導電動機の電圧」と前者の「誘導電動機に流れる電流」とは、「誘導電動機の第2の電気量」との概念で、
後者の「無負荷定格電流指令値」と前者の「所定値に設定された電圧指令」とは、「第1の電気量指令の最終値」との概念で、それぞれ共通している。
更に、後者の「励磁インダクタンスを演算し、得られた前記励磁インダクタンスに基づき前記マイコンによりIm^(*)の最適設計を行う」態様が前者の「誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定する」態様に相当している。
加えて、後者の「電流指令の初期値(Im^(**))を設定し、その後、ベクトル制御運転を行うことにより自動的にIm^(*)が無負荷運転時の定格電流となるよう調整される」態様と前者の「周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させる」態様とは、「第1の電気量指令の最終値となるように調整しながら誘導電動機を回転させる」との概念で共通している。

したがって、本件訂正発明1と引用発明とは、
「誘導電動機に電力を供給するインバータを第1の電気量指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有するインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記第1の電気量指令、および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b)無負荷状態において、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機の第2の電気量を検出するステップ、
(d)第1の電気量指令の最終値、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された第2の電気量に基づいて、前記コンピュータにより前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて、第1の電気量指令の最終値となるように調整しながら誘導電動機を回転させるステップ。」
である点で一致し、以下の点において相違する。
[相違点1]
「第1の電気量指令」が、本件訂正発明1では、「電圧指令」であるのに対し、引用発明では、「電流指令」であり、「誘導電動機の第2の電気量」が、本件訂正発明1では、「誘導電動機に流れる電流」であるのに対し、引用発明では、「誘導電動機の電圧」である点。
[相違点2]
コンピュータの出力が、本件訂正発明1では、「電圧指令」であるのに対し、引用発明では、「電流指令を出力するための周波数指令」である点。
[相違点3]
(a)のステップにおいて、第1の電気量指令を設定する際に、本件訂正発明1は、「電圧指令の所定値」を設定するのに対して、引用発明では、「その後に補正される電流指令の初期値(I m^(**))」を設定する点。
[相違点4]
無負荷状態において誘導電動機を回転させるステップについて、本件訂正発明1は、「所定値(に設定された電圧指令)」及び周波数指令に基づいて回転させるのに対し、引用発明は、「ベクトル制御をしながら前記初期値に設定された電流指令値」および定格値に設定された周波数指令値「に基づいてインバータから出力される交流電流を前記誘導電動機に供給し、無負荷定格電流指令値に至るまでこれを補正しながら、誘導電動機を回転させる」ものである点。
[相違点5]
第1の電気量指令の最終値が、本件訂正発明1では(a)のステップにおいて予め設定された「所定値に設定された電圧指令」であるのに対し、引用発明では(b)のステップにおいて初期値に設定された電流指令値を補正しながら誘導電動機を回転させることにより至った「無負荷定格電流指令値」である点。
[相違点6]
(e)のステップに関し、本件訂正発明1は「周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させる」ステップであるのに対し、引用発明では「電流指令の初期値(Im^(**))を設定し、その後、ベクトル制御運転を行うことにより自動的にIm^(*)が無負荷定格電流指令値となるよう調整される」ステップである点。

イ.相違点の判断に関する判示事項

ここで、相違点に対する判断に関し、本件判決において次のような判示がなされている。

『ク 審決は,上記のとおり引用発明の認定を誤り,訂正発明2との相違点を看過したものであるが,次にこの相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼすものであるかにつき検討する。
(ア) まず,上記キの認定すべき相違点の1[審決注:判決においては「丸付き数字の1」が記載されている。]の点について検討すると,既に上記で検討したとおり,引用発明は,電流指令値Im^(*)がベクトル制御運転により次第に定格電流に収束していくものであり,その定格電流は,駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスL1によって異なるものであるから,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Im^(*)の具体的数値は,誘導電動機の回転前には知り得ず,引用発明において電流指令値を予め所定値に設定することは原理的にできない。
一方,訂正発明2は,電圧指令を選択することにより,特許請求の範囲記載の(c)のステップである電流検出を行うための無負荷定常回転状態の電圧指令値を予め設定することが可能である。そして,定格電圧での無負荷定常回転状態で上記(c)のステップを行う場合には,電動機の銘板に記載された定格電圧と定格周波数を各指令の所定値として選択できる等,条件設定が簡便になる作用効果があることが明らかである。
(イ) なお審決は,訂正発明2が電圧指令に基づいてインバータを制御している点に関し,相違点(ア)の判断において「インバータを電圧指令に基づいて制御することは,インバータ制御の分野で良く知られた手法」である(20頁下6行?下5行)として,特開昭60-255065号公報(発明の名称「PWMインバータ」,出願人 三菱電機株式会社,公開日 昭和60年12月16日,甲13),特開昭60-187282号公報(発明の名称「誘導電動機のベクトル制御装置」,出願人 株式会社日立製作所,公開日 昭和60年9月24日,甲14),特開昭59-169383号公報(発明の名称「ベクトル制御方式におけるインバータ出力電圧制御装置」,出願人 株式会社明電舎,公開日 昭和59年9月25日,甲15)を挙げているので検討する。

[審決注:甲13?甲15からの摘記部分省略]

(ウ) 上記によれば,甲13?15は,いずれもインバータを電圧指令に基づき制御する構成を示すものであるものの,甲13には,インバータ出力電圧指令Vrをどのように設定するかにつき上記摘記の記載のみで十分な開示がなく,甲14には,演算器34によりトルク電流指令I_(t)^(*)とトルク電流I_(t)の偏差を演算して電圧指令E_(q)^(*)を作成し,演算器33で励磁電流指令Im^(*)と検出値Imの偏差を演算して電圧指令E_(d)^(*)を作成することが開示されているが,ベクトル制御運転における偏差の演算を用いることなく直接E_(d)^(*),E_(q)^(*)を所定値に設定することは開示されていない。甲15には,電動機の磁束を一定に制御するためのα相一次電流設定値i_(1α)^(*)と二次電流を制御するためのβ相一次電流設定値i_(1β)^(*)と電源角周波数ω_(0)とを入力する補正演算回路3によってα,β相一次電圧e_(1α),e_(1β)を得ることが開示されているが,ベクトル制御装置の制御定数設定前にα,β相一次電圧e_(1α),e_(1β)を設定することは記載されてい。
したがって,甲13?15には,訂正発明2における無負荷定常回転状態の電圧指令を電動機の回転開始前に設定することについては何ら開示がなく,インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技術によっても,引用発明と訂正発明2との相違点とすべき上記1[審決注:判決においては「丸付き数字の1」が記載されている。]について,容易想到と認めることはできない。
ケ 次に,上記キの認定すべき相違点の2[審決注:判決においては「丸付き数字の2」が記載されている。]の点について検討する。
(ア) 訂正発明2における「無負荷状態において,前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより,前記誘導電動機を回転させる」(ステップ(b))と記載された運転について,その具体的な運転制御方法は特許請求の範囲からは一義的に明らかとはいえない。そこで訂正明細書(甲24)の発明の詳細な説明を参酌すると,段落【0042】に「無負荷状態においてV_(1q)^(*)とW_(1)^(*)を所定値に設定し,いわゆるV/F一定制御運転(磁束一定条件)を行う。」と記載されており,誘導電動機の運転制御において既に知られたV/F一定制御運転を想定したものと解される。
ここで引用発明は,無負荷電流の定格値を求める前提としてベクトル制御運転を行う必要があり,そのため,AER(起電力制御)及びAFR(周波数制御)を用いることから,既に検討したようにr_(1)と(l_(1)+l_(2)’)を励磁インダクタンスL_(1)の演算測定に先だって測定演算することが必要である。一方,訂正発明2は,上記のとおりV/F一定制御運転を行うことにより,引用発明のようにAER及びAFRを必要とせず,事前にr_(1)と(l_(1)+l_(2)’)等の他の電動機定数を測定演算することなく,誘導電動機の1次インダクタンスを測定演算することができるものである。

(イ) インバータを電圧指令に基づき制御することに関する周知技術である上記甲14には,電圧指令に基づいてインバータを制御し,誘導電動機をベクトル制御する制御装置であって,指令値と実測値の偏差を演算し,それを補償するように指令を調整する制御手段を利用したベクトル制御運転についての記載がある(特許請求の範囲の記載)。しかし,ベクトル制御装置における偏差を調整する制御手段を利用せずに,特定の電圧指令と周波数指令によりインバータを制御し,誘導電動機に交流電圧を印加することは,上記甲14には何ら開示されていない。
コ 以上の検討によれば,審決の引用発明の認定の誤り・訂正発明2との相違点の看過は,審決の結論に影響を与えることが明らかである。よって,原告の主張する取消事由1は理由がある。
(2) 被告の主張に対する補足的判断
被告は引用発明においても無負荷定常回転となって安定した段階では電流指令値Im^(*)は安定した特定の値(「定格電流となるよう設定」された値)となっており,その時点においては,定格値のIm^(*)とω_(1)^(*)を指令値として設定し,当該指令値に基づいてインバータから出力される電力を誘導電動機に印加し,誘導電動機の無負荷定常回転をしているとみなすことができ,訂正発明2と同様である旨を主張する。
しかし,訂正発明2は,「(f)前記(b)のステップにおいて,周波数指令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて,前記誘導電動機を回転させるステップ」を備えており,この記載に基づけば(b)のステップは,誘導電動機の回転開始時から,各指令が,設定された所定値となって安定した無負荷定常回転状態となるまでの期間を意味するステップであると解される。そうすると,訂正発明2は,(b)のステップ前に「(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ」を行うのであるから,電圧指令の設定は,誘導電動機の回転開始前に行うものである。
したがって,訂正発明2の「(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の(周波数指令の所定値を設定するステップ」は,誘導電動機の回転開始前に行うステップであると位置付けられるのに対し,引用発明は,電流指令の定格値を誘導電動機の回転開始前に設定することはできないから,最終的に電流指令が定格値が設定されるとしても,引用発明が「(a)前記電流指令および前記誘導電動機の周波数指令に定格値を設定するステップ」を備えているということはできない。被告の上記主張は採用することができない。』(以下、「判示事項2」という)

『3 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
原告は取消事由2として審決の進歩性判断の誤りを主張するところ,原告の主張は取消事由1における原告主張の相違点ア?カに基づき進歩性判断の誤りを主張するものであって直ちには採用の限りではない。しかし,原告の相違点オに関する主張において,審決が認定した相違点(ア)についての進歩性判断について審決の誤りを主張するので,以下この点につき検討する。
まず審決が相違点(ア)について「…引用発明において,制御装置を,イ,ンバータ制御装置を電流指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものに換えて,インバータ制御装置を電圧指令に基づいて交流電圧を印加してベクトル制御するものを用い,それに伴って前記交流電圧を印加し,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定する周知技術のもとに,指令電気量を電圧とすると共に検出電気量を電流とすることで相違点(ア)に係る本件訂正発明1の構成とすることは当業者が任意になし得るところである」(21頁8行?14行)と判断した点について検討する。
引用発明の(15)式(摘記3-7[審決注:判決においては「丸付き数字の7」が記載されている。])は,誘導電動機の電圧方程式に基づいて導かれ,無負荷運転の定常状態という前提の下に定められた幾つかの近似条件(ω ≒0,I ≒0等)を満足する限りにおいて成立する,励磁インダクタンスL_(1)と各物理量の関係を表した理論式である。したがって,誘導電動機が無負荷かつ定常状態の回転をしていれば,上記(15)式は成立するから,(15)式に代入する各物理量を,指令値とするか検出値とするかは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜選択し得ることのようにも考えられる。
しかし,電動機の運転において,指令値と出力値(検出値)が正確に一致しない場合があることは良く知られたことであり,検出値が測定誤差を生じる可能性があることも,知られている。訂正発明に関しても,訂正明細書(甲24)には以下のとおり,その課題が記載されている。
「一方,上記問題に対処するものとしては特願昭59-212543号がある。これはインバータ装置を用いて,その電流指令に基づいてインバータより電動機に電圧を印加し,そのときの電圧を検出し,該検出電圧値と電流指令値との関係より電動機定数を測定し,その結果に基づき制御定数を設定するものである。しかし,この特願昭59-212543号に示される例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要があり,また,電圧波形が歪波形であることから,検出精度が低く,すなわち,定数測定精度が低いという問題がある。」(段落【0005】)
「本発明の目的は,制御装置の制御定数の精度を向上できるインバータ制御装置の制御定数設定方法を提供することにある。」(段落【0006】) したがって訂正発明2は,電圧の検出は検出精度が低いことを技術課題とし,これを解決するために,歪みの少ない電流を検出値として,各電動機定数を測定したものである。
一方,引用発明(甲7)には「この電圧検出法では,基本波成分が直流,に変換されるため高調波分と分離し易く,検出精度が高いという特徴がある。」(摘記3-4[審決注:判決においては「丸付き数字の4」が記載されている。])と記載されているものの,その前の記載である摘記3-3[審決注:判決においては「丸付き数字の3」が記載されている。]の記載から明らかなように,引用発明における検出精度の高さは,α-β軸からd-q軸への座標変換を行うことによるもので,この点に関する検出精度向上については,同じくα-β軸からd-q軸への座標変換を行って,電流の基本波成分を直流信号で検出する訂正発明2においても全く同様である(段落【0021】,【0022】)。
したがって,引用発明に訂正発明2の技術課題に対する開示がないばかりか,引用発明において採用する電圧検出法の検出精度が高いという利点を前提として,電流指令によるベクトル制御装置及びそのオートチューニング方式を構成しているから,電圧検出を電流検出に変更することは想定していないというべきである。
(2) また審決は,相違点(ア)に関し,「誘導電動機に所定の値を有する交流電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の検出電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定することが引用文献2ないし6に記載されており,周知技術である。」(20頁下3行?末行)と認定,判断した。
そこで上記引用文献2?6である甲16?20について検討する。
ア 甲16(「 誘導機の特性算定のための定数決定法」石崎彰,平山勝己,電気学会雑誌Vol.87-1,No.940,昭和42年1月〔January,1967 ,173頁?180頁,電気学会。審決の引用文献2)には,以下の記載がある。
「4.定数の決定法
まずr_(1)は一次抵抗測定によって決定できる。次に無負荷試験について考えてみると,このときs=0とみなされるので,このときの等価回路は第11図のようになる。したがって,無負荷試験のときの電圧,電流,入力を測定すれば,r_(M)とX_(1)とは容易に決定できる。」(177頁右欄18行?24行)
「5.特性算定のための試験と計算法
この特性算定を行なうには,一次抵抗測定,無負荷試験および低周波拘束試験を行ないその結果から次のような手順により定数を決定する。…
(2) 無負荷試験 定格周波数に保って,定格電圧より少し高い電圧からしだいに電圧を変化し,ほぼ同期速度を保つ最低値までの各点で,電圧,電流,入力を測定する。」(178頁右欄19行?32行)
イ 甲17(「 電気学会大学講座 電気機器工学I」執筆委員尾本義一ら,昭和50年6月25日18版発行,249頁?250頁,電気学会。引用文献3)には「3.10 電動機定数の測定」(249頁1行)として,以下の記載がある。
「3.10.2 無負荷試験
電動機に定格電圧を加えて無負荷運転をし,1相当たりの電圧V0,電流I0,電力P0を測定する。」(249頁10行?13行)
ウ 甲18(「大学講義 最新電気機器学 改訂増補」宮入庄太著,昭和55年3月20日第3刷発行,172頁?173頁,丸善株式会社。引用文献4)には,以下の記載がある。
「〔例題10.2〕…の定格をもつかご形三相誘導電動機がある。
(1) 無負荷試験
定格電圧を加えて無負荷( 「加」は誤り)運転したところ
「入力電流:3.9〔A〕,入力250〔W〕

であった。
この電動機の等価回路を求めよ。」(172頁8行?17行)
エ 甲19(「三相誘導電動機特性の直接算定法」磯部直吉,鈴木克巳,昭和53年 電気学会全国大会 講演論文集〔5〕電気機器(I),506頁?507頁。引用文献5)には,以下の記載がある。
「2.特性式 三相誘導電動機の1相を電源から見た場合のインピーダンスZは(1)式で与えられる。」(506頁左欄7行?8行)
「X(判決注:リアクタンス) 定格電圧V0,無負荷時の電流I0とすれば X =V0/√3I … (19)
である。この値は1次抵抗や無負荷損の影響をほとんど受けない。」(506頁右欄下5行?下1行)
オ 甲20(「普通かご形誘導電動機の運転特性算定のためのT形等価回路定数決定法」坪井和男,山本竜彦,「電気学会研究会資料 回転機研究会RM-86-13?17」社団法人 電気学会,昭和61年〔1986年〕4月18日,引用文献6)には,以下の記載がある。
「…定格電圧無負荷試験を行ない,定格電圧に対応する…および励磁リアクタンスxmを求める。」(26頁10?11行)
(3) 以上によれば,甲16?20には,誘導電動機に所定の値を有する交流3電圧を印加して無負荷状態で回転させ,その際の電流に基づいて一次インダクタンスと関係する定数を決定することが記載されており,これは審決が周知技術の内容として認定したとおりである加えて甲18の図10.9(無負荷試験時の等価回路)中の電流I0,電圧V_(1)の記号の上には,これらがベクトル量であることを示す「・」(ドット)が記載されており,被告が主張」するとおり,甲18においては電流及び電圧をベクトル値として取り扱い,定数の計算をしていることがみてとれる。
しかし,甲16?20で用いられている電流・電圧は,インバータから出力されたものではないから,インバータから出力される電力を誘導電動機に印加した場合の電流や電圧の歪みに関する知見を与えるものではない。
(4)そうすると周知技術を参照しても引用発明において第1の電気量を「電流」から「電圧」に代えるとともに,「第2の電気量」を「電圧」から「電流」に換えることは,当業者が容易になし得ることではない。また,訂正発明2は,直交するベクトルの指令が「電圧(V_(1d)*・V_(1q)*)」指令であり,ベクトル成分を検出する対象が「回転している誘導電動機に流れる電流」であって,検出された「電流」のベクトル成分を用いて演算することにより,訂正明細書記載の作用・効果を奏するものと認められる。
(5) 以上の検討によれば,審決の引用発明と訂正発明2との相違点(ア)に関する判断も誤りであり,この点は訂正発明1との関係でも同様であるから原告主張の取消事由2についても理由があることになる。』(以下、「判示事項3」という)

ウ.本件訂正発明1に対する判断

・相違点1について
相違点1は判示事項3で検討されている点と同一であるから、相違点1に関する判断は、判示事項3に拘束されるものである。
そうすると、たとえ、引用文献2から6に記載されている周知技術を参照したとしても、引用発明において相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

・相違点2について
判示事項3に示されるように、引用発明において第1の電気量を「電流」から「電圧」に代えることは当業者が容易になし得ることではないから、引用発明において相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

・相違点3及び4について
相違点3及び4は判示事項2で検討されている点と同一であるから、相違点3及び4に関する判断は、判示事項2に拘束されるものである。
そうすると、例えば、特開昭60-255065号公報、特開昭60-187282号公報、特開昭59-169383号公報等に示されているように、電圧指令に基づいてインバータを制御することが周知技術であったとしても、相違点3及び4について容易想到とはいえない。

・相違点5について
「引用発明は,電流指令値Im^(*)がベクトル制御運転により次第に定格電流に収束していくものであり,その定格電流は,駆動する誘導電動機の励磁インダクタンスL_(1)によって異なるものであるから,無負荷定常回転となった最終的な電流指令値Im^(*)の具体的数値は,誘導電動機の回転前には知り得ず,引用発明において電流指令値を予め所定値に設定することは原理的にできない(判示事項2)」ものであるから、引用発明の「無負荷定格電流指令値」を、(a)のステップにおいて予め設定された「所定値に設定された電圧指令」として、相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

・相違点6について
上記「相違点5について」と同様の理由により、引用発明において、電流指令の初期値(Im^(**))と、無負荷定格電流指令値との大小関係は、回転開始前に知り得ないから、引用発明において「設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させ」ることは、原理的にできないといえる。
したがって、引用発明において相違点6に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

以上のことから、本件訂正発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないというべきである。

(3-3)本件訂正発明2について
次に、本件訂正発明2について検討する。
本件訂正発明2は、上記「2.(1)・訂正事項2」のとおりであって、本件訂正発明1の「電圧指令」に関して「直交するベクトルの」電圧指令との限定を付加し、且つ、「電流を検出する」ステップに関して「電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出する」との限定を付加すると共に、「誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、制御装置の制御定数を設定するステップ」を「誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ」と「得られた前記1次インダクタンスに基づきコンピュータにより制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ」とに分けたものである。

そうすると、本件訂正発明2と引用発明とを対比した際の相違点は、上記「(3-2)ア.」で検討した相違点1から相違点6を含むことになるため、上記「(3-2)ウ.」での検討内容を踏まえれば、本件訂正発明2は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないというべきである。

したがって、無効理由Cは理由があるということはできない。


6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び当審で提示した理由と証拠方法によっては、本件特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インバータ制御装置の制御定数設定方法
(57)【特許請求の範囲】
1.誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定した所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。
2.誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令
(V_(1d)^(*),V_(1q)^(*))に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することを特徴とするインバータ制御装置の制御定数設定方法。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流のベクトル成分を用いて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f)前記(b)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、インバータ制御装置の制御定数設定方法に係り、特に誘導電動機の電動機定数を演算し、演算された電動機定数に基づいて制御装置の制御定数を設定するインバータ制御装置の制御定数設定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にベクトル制御装置においては、電動機定数、例えば励磁インダンタンス及び2次時定数などに基づいて各制御定数が設定される。
【0003】
例えば、特願昭59-173713号及び特願昭58-39434号に示されるベクトル制御装置においては、電圧指令信号を演算する際の制御定数は、電動機定数の1次抵抗,漏れインダクタンス,1次インダクタンス及び2次抵抗に応じて設定する必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、電動機定数の設定値に基づいてそれらをマニュアル設定している。そのため、使用する電動機毎に制御定数を変更する必要があり、煩雑となり、また、電動機定数の設計値と実際値の不一致により、制御演算誤差を生じトルクが変動するなどの問題がある。
【0005】
一方、上記問題に対処するものとしては特願昭59-212543号がある。これはインバータ装置を用いて、その電流指令に基づいてインバータより電動機に電圧を印加し、そのときの電圧を検出し、該検出電圧値と電流指令値との関係より電動機定数を測定し、その結果に基づき制御定数を設定するものである。しかし、この特願昭59-212543号に示される例では定数測定用として専用に電圧検出器を設ける必要があり、また、電圧波形が歪波形であることから、検出精度が低く、すなわち、定数測定精度が低いという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、制御装置の制御定数の精度を向上できるインバータ制御装置の制御定数設定方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する第1の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを電圧指令に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令のを所定値を設定するステップ、
(b)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流を検出するステップ、
(d)前記所定値に設定された電圧指令、前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流に基づいて、前記コンピュータにより、前記誘導電動機の1次インダクタンスと関係する、前記制御装置の制御定数を設定するステップ。
(e)前記(b)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。
上記目的を達成する第2の発明の特徴は、誘導電動機に電力を供給するインバータを直交するベクトルの電圧指令(V_(1d)^(*),V_(1q)^(*))に基づいて制御する制御装置の制御定数を、前記制御装置の前記電圧指令を出力するコンピュータにより設定する方法において、次のステップを有することにある。
(a)前記電圧指令および前記誘導電動機の周波数指令の所定値を設定するステップ、
(b)無負荷状態において、前記所定値に基づいて前記インバータから出力される交流電圧を前記誘導電動機に印加することにより、前記誘導電動機を回転させるステップ、
(c)前記回転している誘導電動機に流れる電流の、前記電圧指令の1つのベクトル成分に対応するベクトル成分を検出するステップ、
(d)前記所定値に設定された電圧指令,前記前記所定値に設定された周波数指令、および前記検出された電流のベクトル成分を用いて、前記コンピュータを用い前記誘導電動機の1次インダクタンスを演算するステップ、
(e)得られた前記1次インダクタンスに基づき前記コンピュータにより前記制御装置の制御定数を演算し、この制御定数を設定するステップ。
(f)前記(b)のステップにおいて、周波数指令および電圧指令を前記設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させて、前記誘導電動機を回転させるステップ。
【0008】
【作用】
第1の発明では、制御装置の制御定数の設定に用いる電流を、無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出している。無負荷状態において誘導電動機を回転させる、すなわち周波数指令を与えると、回転停止状態に比べて、誘導電動機内で発生する誘導起電力が大きくなる。このため、電圧指令値と誘導起電力との誤差が小さくなり、検出電流に対する前記誤差の影響が少なくなる。従って、検出された電流に基づいて設定される、1次インダクタンスと関係する制御定数の精度が向上する。
第2の発明では、無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、1次インダクタンスの精度が向上し、1次インダクタンスに基づいて演算される制御定数の精度も向上する。更に、無負荷状態において誘導電動機を回転させた状態で検出した電流の、電圧指令の1つのベクトル成分に対応したベクトル成分を用いて1次インダクタンスを演算するため、この演算に要する時間が短縮され、インバータを制御するコンピュータの負荷率が低減される。
好ましくは、周波数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐々にかつ一定レートにて増加させて、誘導電動機を回転させる。周波数指令および電圧指令を設定された所定値まで徐々に且つ一定レートにて増加させることにより、始動時に発生する突入電流を防止できる。
【0009】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0010】
図1には、本発明の一実施例が示されている。
【0011】
図において、2は誘導電動機1に可変周波数の交流を供給するインバータでPWM制御により1次電圧を制御する。座標変換器4は電圧指令設定器3からの電圧指令v_(1d)*,v_(1q)*(回転磁界座標)及び電圧位相基準信号sinw_(1)*t,cosw_(1)*tから3相電圧指令信号v_(u)*,v_(v)*,v_(w)*を演算する。比較器6では該電圧指令信号と三角波発生器5からの搬送波とを比較しPWM信号を出力する。
これによりインバータの出力電圧は該PWM信号によりパルス幅変調制御され、その基本波瞬時値量は電圧指令信号に比例して制御される。
【0012】
一方、電動機1の3相電流i_(u),i_(v),i_(w)が電流検出器7より検出され、座標変換器8において2軸成分の電流信号i_(1d),i_(1q)(回転磁界座標)が検出される。
【0013】
また、9は定数演算器で検出電流信号i_(1d),i_(1q)と電圧指令信号v_(1d)*,v_(1q)*と周波数指令信号w_(1)*及び電動機に速度検出器が取り付けられている場合には、それからの速度信号w_(r)を取り込み電動機定数を演算する。
【0014】
ここで、電圧指令設定器3や定数演算器9の処理にはマイクロプロセッサやその周辺LSIを用い、データの入出力は自動化している。
【0015】
先ず、該インバータ装置を用いた電動機定数の測定法の原理について述べる。それは運転に先立ち、インバータ装置を用いて所定の電圧を電動機に印加し、その結果発生する電動機電流に基づいて電動機定数を演算するものである。ところで、電動機電圧はv_(1d)*,v_(1q)*及びw_(1)*に応じて以下に述べるようにして制御される。座標変換器4はv_(1d)*,v_(1q)*及び電圧位相基準信号cosw_(1)*t及びsinw_(1)*tに基づいて次式に従い3相交流の電圧指令v_(1)*(v_(u)*,v_(v)*,v_(w)*)を作る。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
【数3】

【0019】
そして、インバータの出力電圧V_(1)をv_(1)*に比例して制御する。
【0020】
一方、電動機電流i_(1d),i_(1q)(回転磁界座標)は図1に示す電流検出器7及び座標変換器8を用いて次式に従い検出される。
【0021】
【数4】

【0022】
i_(u)?i_(w):電動機各相電流
図1のPWM電圧制御方式の場合においては、電動機相電流の歪は小さく正弦波に近い。そして、この電流を(4)式に従ってd軸成分i_(1d)とq軸成分i_(1q)に分けて検出する本方式は、基本波成分(w_(1))が直流信号で検出でき、その検出精度は高い。
【0023】
ところで、定常時における誘導電動機の電圧方程式をd,qの2軸理論に基づいて表わすと次式で与えられる。
【0024】
【数5】
v_(1d)=r_(1)i_(1)d-w_(1)(l_(1)+L_(1))i_(1q)-w_(1)Mi_(2q) …(5)
【0025】
【数6】
v_(1q)=w_(1)(l_(1)+L_(1))i_(1d)+r_(1)i_(1q)+w_(1)Mi_(2d) …(6)
ここに、i_(2d),i_(2q):2次電流のd軸及びq軸成分
r_(1):1次抵抗
l_(1):1次漏れインダクタンス
L_(1):1次有効インダクタンス
M:相互インダクタンス
ここで、2次電流はかご形誘導機の場合測定できないのでこれを以下のようにして消去する。2次電流と1次電流の関係は回転子2次回路に関する電圧方程式に基づいて次式で示される。
【0026】
【数7】
w_(s)・Mi_(1q)=r_(2)i_(2)d-w_(s)(l_(2)+L_(2))i_(2q) …(7)
【0027】
【数8】
-w_(s)・Mi_(1d)=w_(s)(l_(2)+L_(2))i_(2d)+r_(2)i_(2d) …(8)
ここに、w_(s):すべり角周波数
r_(2):2次抵抗
l_(2):2次漏れインダクタンス
L_(2):2次有効インダクタンス
(7),(8)式を用いて(5),(6)式のi_(2d),i_(2q)を消去すれば
【0028】
【数9】

【0029】
【数10】

【0030】
となる。この関係式を基にして、次に個々の電動機定数の測定原理について述べる。
【0031】
〔r_(1)+r_(2)′,l_(1)+l_(2)′の測定〕
v_(1d)=v_(1d)*,v_(1q)=v_(1q)*=0,w_(1)=w_(1)*,w_(1)=w_(s)、すなわち、v_(1d)*を所定値に設定し、略回転停止にて一定周波数で励磁する条件を設定すれば、(9),(10)式は次式で与えられる。
【0032】
【数11】

【0033】
【数12】
0≒w_(1)(l_(1)+l_(2)′)i_(1d)+(r_(1)+r_(2)′)i_(1q) …(12)
ここにr_(2)^(2)≪w_(1)^(2)(l_(2)+L_(2))^(2)
r_(2)′:1次換算の2次抵抗
l_(2)′:1次換算の2次漏れインダクタンス
さらに両式(11),(12)を連立させると、電動機抵抗及び漏れインダクタンスは次式で測定演算できる。
【0034】
【数13】

【0035】
【数14】

【0036】
しかし、本測定法で求まる定数の大きさは、1次と2次の合成値であり、特に抵抗に関しては分離した値が要求される。分離は次のようにして行う。
【0037】
〔r_(1)の測定法〕
v_(1d)=v_(1d)*,v_(1q)=v_(1q)*=0,w_(1)*=0、すなわち、v_(1d)*を所定値に設定し、直流電圧を印加する条件を設定すれば、(1)?(3)式から各相電圧は次式に比例した電圧となる。
【0038】
【数15】
v_(u)*=v_(1d)*,v_(v)*=v_(w)=-v_(1d)*/2 …(15)
これにより、電動機に直流電流が流れ、その時検出されd,q成分の電流は(4)式より求まり、
【0039】
【数16】
i_(1d)=i_(u),i_(1q)=0 …(16)
となる。したがって、d軸成分の電圧指令値v_(1d)*と電流検出値i_(1d)から、1相当りの1次抵抗r_(1)が次式より測定演算できる。
【0040】
【数17】

【0041】
なお、2次抵抗r_(2)は前測定法で求めた(13)式の演算結果より(17)式の演算結果を差し引けば演算できる。
【0042】
〔l_(1)+L_(1)の測定法〕
v_(1d)=v_(1d)*=0,v_(1q)=v_(1q)* ∝ w_(1)*,w_(1)=w_(1)*,w_(s)≒0
すなわち、無負荷状態においてv_(1q)*とw_(1)*を所定値に設定し、いわゆるV/F一定制御運転(磁束一定条件)を行う。ここで、(10)式において無負荷条件である故i_(1q)≒0となり、したがって(l_(1)+L_(1))は次式より測定演算できる。
【0043】
【数18】

【0044】
〔T_(2)の測定法〕
2次時定数T_(2)は次式で与えられる。
【0045】
【数19】

【0046】
ここで、r_(2)′は前述の測定演算の(13)と(17)式より求めることができ、また、1次換算値のl_(2)′+L_(2)′は概略次式で表わすことができる。
【0047】
【数20】

【0048】
ここで、l_(2)′≒1_(1)とする。
【0049】
したがって、T_(2)は前記(18)式の結果(l_(1)+L_(1))をr_(2)′で除算して求めることができる。
【0050】
以上述べた電動機定数の演算は定数演算器9において行われ、その演算結果に基づいて電圧指令設定器3内のベクトル制御の制御定数が設定される。なお、これらの演算や設定処理にはマイクロプロセッサを用いて自動的に行うため、次にそのプログラムの内容を図2?図6のフローチャートより説明する。
【0051】
いま、始動スイッチが投入されると、図2に示すフローが開始され、ブロック21にて電動機定数の自動測定を行うかどうかの判別を行う。すでに測定済みで再度行う必要がない場合には、ブロック24にジャンプされ、記憶要素に書込まれた電動機定数を用いてベクトル制御に必要な演算、すなわち、後述するように電流指令i_(1d)*,i_(1q)*及び周波数指令w_(1)*に基づいてv_(1d)*,v_(1q)*を演算する。
一方、測定を実施する場合は、ブロック22において図3に示す順序に従い、電動機定数を測定,演算し、その結果を記憶要素に記憶し、次にブロック23にて上記結果を基にブロック24において用いられるベクトル制御の制御定数を演算し記憶要素に記憶する。次に、ブロック24においてベクトル制御の演算を上述の制御定数を用いて行い電動機を速度制御する。
【0052】
電動機定数の測定は、図3に示すようにブロック31?33まで3つのモードがあり、順に、r_(1)+r_(2)′及びl_(1)+l_(2)′,r_(1),l_(1)+L_(1)の各測定を行う。各測定については前述したので、以下では各測定法の手順について図4?図6のフローチャートを用いて説明する。
【0053】
図4では、先ずブロック41にてv_(1q)*=0,v_(1d)*,w_(1)*を所定値に設定する。このとき、v_(1d)が小さく、トルクが小さいことから電動機は回転停止のままであり前述したw_(s)=w_(1)の条件が成立する。次にブロック42にてi_(1d),i_(1q)の信号を取込み、ブロック43にて(13)式よりr_(1)+r_(2)′を演算、またブロック44にて(14)式に従いl_(1)+l_(2)′を演算する。
【0054】
図5では、先ずブロック51にてv_(1q)*=0,w_(1)*=0,v_(1d)*を所定値に設定する。次にブロック52にてi_(1d)の信号を取込みブロック53にて(17)式よりr_(1)を演算する。さらにブロック54にてこのr_(1)をブロック43にて演算されたr_(1)+r_(2)′より差し引きr_(2)′を演算する。
【0055】
図6では、先ず、ブロック61にて、w_(1)*とv_(1q)*を電動機定格値に設定し運転する。なお始動時の突入電流を避けるため、w_(1)*とv_(1q)*は一定レートにて立上げ加速終了後、ブロック62にてi_(1d),i_(1q)の信号取込み、ブロック63にて(18)式よりl_(1)+L_(1)を演算する。さらにこの結果を基にブロック64にてT_(2)を
T_(2)=l_(1)+L_(1)/r_(2)′
より演算する。
【0056】
以上の測定結果に基づいて、制御定数を設定し、その後、ベクトル制御による速度制御を行う。
【0057】
次に、電圧形ベクトル制御装置(例えば特開昭58-39434号記載)に本発明を適用した場合において、図7を参照して説明する。図において1?10は図1と同一であるので説明は省略する。本制御方式は速度指令w_(r)*と速度検出信号w_(r)の偏差に応じたトルク電流指令i_(1q)*及び励磁電流指令i_(1d)*及び周波数指令w_(1)*に応じて次式に従い電圧指令v_(1d)*,v_(1q)*を演算する。
【0058】
【数21】
v_(1d)*=r_(1)i_(1d)*-(l_(1)+l_(2)′)w_(1)*i_(1q)* …(21)
【0059】
【数22】
v_(1q)*=(l_(1)+L_(1))w_(1)*i_(1q)*+r_(1)i_(1q)* …(22)
ここで制御定数(r_(1),l_(1)+l_(2)′,l_(1)+L_(1))は定数演算器9の演算結果より設定する。
【0060】
また、励磁電流指令i_(1d)*は電動機磁束が所定値(φ=L_(1)i_(1d)*)になるよう励磁電流指令器32により設定される。
【0061】
一方、i_(1q)*は速度指令w_(r)*と実速度w_(r)の偏差に応じて速度調節器(ASR)33の出力より得られる。なおASRのゲインは機械系の慣性モーメントJに応じて決定されるが、Jは例えば特願昭59-212543号記載の方法にて測定できる。
次に、w_(1)*は速度検出器10よりの実速度信号w_(r)とすべり周波数演算器34の信号w_(s)*の和より求め、発振器35より2相信号sinw_(1)t*,cosw_(1)t*を出力する。ここで演算器34は次式に従い、i_(1d)*,i_(1q)*及びT_(2)よりすべり角周波数w_(s)*を演算する。
【0062】
【数23】

【0063】
ここでのT_(2)も定数演算器9の測定結果を用いて自動設定する。
【0064】
以上述べたように、ベクトル制御装置内の電動機定数に関係する制御定数の設定に関し、本発明を用いれば、実運転前において、ベクトル制御装置の電圧制御信号及び電流検出信号により電動機定数を簡便に測定し、その結果に基づいて制御定数を自動調整するため、調整の手間が大幅に削減され、取扱い容易なベクトル制御装置を提供できる。
【0065】
図8は、本発明を応用した他の実施例であり、速度センサを用いないベクトル制御装置への適用例を示す。同装置の動作の詳細は特願昭59-173713号に述べているので、ここでは簡単に述べる。図において1,2,4?9,31?34は図7と同一物であるので説明は省略する。図7と異とするところは速度検出器を用いずにベクトル制御する。それにはインバータ出力電流i_(1)と電圧位相基準信号sinw_(1)t,cosw_(1)*tを基にトルク成分電流i_(1q)を検出し、その指令値i_(1q)*との偏差に応じて周波数調節器(AFR)35で1次周波数w_(1)*を制御する。さらにすべり周波数演算器34において、i_(1q)からすべり角周波数w_(s)*を演算し、w_(1)*からそれを差し引き回転速度の推定値w_(r)を求め速度制御する。
【0066】
本制御装置においても電動機定数は電圧指令信号及び電流検出信号より定数演算器9で演算し、これをもとに各制御部の制御定数を決定することができる。
【0067】
【発明の効果】
第1の発明によれば、検出された電流に基づいて設定される、1次インダクタンスと関係する制御定数の精度が向上する。
第2の発明によれば、1次インダクタンスの精度が向上し、1次インダクタンスに基づいて演算される制御定数の精度も向上する。更に、1次インダクタンスの演算に要する時間が短縮され、インバータを制御するコンピュータの負荷率が低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示すインバータ装置の構成図。
【図2】
本発明における演算内容のフローチャート。
【図3】
本発明における演算内容のフローチャート。
【図4】
本発明における演算内容のフローチャート。
【図5】
本発明における演算内容のフローチャート。
【図6】
本発明における演算内容のフローチャート。
【図7】
本発明を適用した制御装置の構成図。
【図8】
本発明の他の実施例を示すベクトル制御装置の構成図。
【符号の説明】
1…誘導電動機、2…インバータ、3…指令設定器、4,8…座標変換器、7…電流検出器、9…電動機定数演算器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-04-15 
結審通知日 2008-04-24 
審決日 2009-04-17 
出願番号 特願平6-172269
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H02P)
P 1 113・ 532- YA (H02P)
P 1 113・ 531- YA (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡本 俊威米山 毅片岡 弘之田良島 潔千葉 輝久  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 仁木 浩
小川 恭司
登録日 2001-09-14 
登録番号 特許第3231553号(P3231553)
発明の名称 インバータ制御装置の制御定数設定方法  
代理人 竹内 英人  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 高石 秀樹  
代理人 篁 悟  
代理人 松尾 和子  
代理人 隈部 泰正  
代理人 篁 悟  
代理人 大塚 文昭  
代理人 近藤 直樹  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 隈部 泰正  
代理人 奥村 直樹  
代理人 井坂 光明  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 井坂 光明  
代理人 那須 威夫  

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