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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1201017 |
審判番号 | 不服2007-32376 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-29 |
確定日 | 2009-07-23 |
事件の表示 | 特願2004-219169「電子写真用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日出願公開、特開2006- 39221〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成16年7月27日の出願であって、平成19年10月22日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年11月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月28日付で手続補正がなされ、その後、前記手続補正に基づいて補正された本願特許出願について審査官により前置審査がなされ、その前置審査の結果としての特許庁長官宛の前置報告書を審判請求人に送付することにより、審査官による前置審査に対する審判請求人の意見を徴集すべく、当審において平成21年1月7日付で審尋したところ、審判請求人から同年3月13日に回答書が提出されたものである。 2.平成19年12月28日付の手続補正についての補正却下の決定 【補正却下の決定の結論】 平成19年12月28日付の手続補正を却下する。 3.理由 3-1.補正内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明特定事項を補正して、次の請求項1としようとする補正事項を含む。 『【請求項1】 結着樹脂、着色剤、離型剤および帯電制御剤を含み、結着樹脂の酸価が5?15mgKOH/gでありかつ帯電制御剤が中心原子としてジルコニウムを有するサリチル酸金属錯体であり、混練機としてオープンロール型混練機を使用する粉砕法によって製造される電子写真用トナーにおいて、 該トナーをヘリウム大気圧マイクロ波誘導プラズマに導入し、炭素原子およびサリチル酸金属錯体に由来する原子を励起・発光させたとき、トナー粒子毎に得られる炭素原子による発光電圧の3乗根に対するサリチル酸金属錯体に由来するジルコニウム原子による発光電圧の3乗根の分布を最小2乗法で近似した近似直線のばらつきを示す絶対偏差が0.08以下であり、 結着樹脂がポリエステル樹脂であり、 着色剤がキナクリドン顔料であり、 離型剤がポリプロピレンワックスであることを特徴とする電子写真用トナー。』 上記補正は、補正前の請求項1に係る発明について、発明を特定するために必要な事項である『結着樹脂』について『ポリエステル樹脂』に限定し、同じく『着色剤』について『キナクリドン顔料』に限定し、同じく『離型剤』について『ポリプロピレンワックス』に限定するものであって、平成18年法律第55号改正付則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、『本願補正発明』という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正付則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3-2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-109576号公報(以下。『引用例1』という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a.『【請求項1】 外部より帯電部材に電圧を印加し被帯電体に帯電を行う帯電工程と、帯電している被帯電体に静電荷像を形成する工程と、静電荷像をトナーによって現像してトナー画像を形成する現像工程と、外部より転写部材に電圧を印加しトナー画像を転写体上に転写する転写工程と、転写後の被帯電体表面をクリーニング部材でクリーニングするクリーニング工程と、トナー画像を1本または2本の弾性を有するローラーを通過させることにより加熱定着する定着工程からなる画像形成方法において、トナーが少なくともバインダー樹脂と着色剤と荷電制御剤からなり、該荷電制御剤が、ジルコニウムと芳香族オキシカルボン酸又はその塩からなるジルコニウム化合物であり、該荷電制御剤のCuKα特性X線に対するブラッグ角2θの主要ピークがピークA:5.5度±0.3度にあり、このX線強度がスキャンスピード0.5?4度/分において2000?15000cpsの範囲にあることを特徴とする画像形成方法。 【請求項2】 前記荷電制御剤のCuKα特性X線に対するブラッグ角2θの主要ピークが少なくともメインピークA:5.5度±0.3度、サブピークB:31.6度±0.3度にあり、この強度比がピークA/B=3?25の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の画像形成方法。 【請求項3】 前記トナーの100?150℃における揮発分が0.10重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の画像形成方法。 【請求項4】 前記荷電制御剤における芳香族オキシカルボン酸又はその塩が3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸であることを特徴とする請求項1?3いずれかに記載の画像形成方法。 【請求項5】 前記バインダー樹脂がポリエステル樹脂を50?100重量%含有し、該ポリエステル樹脂の酸価が5?25mgKOH/gであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の画像形成方法。 【請求項6】 前記帯電工程が、帯電部材を被帯電体に接触させて外部より帯電部材に電圧を印加し、被帯電体を帯電することを特徴とする請求項1?5のいずれか記載の画像形成方法。 【請求項7】 静電潜像担持体上の静電潜像を現像剤により現像し、転写装置を介して現像画像を転写材へ静電転写する工程の際に、静電潜像担持体と転写装置とが当接することを特徴とする請求項1?6記載のいずれかに記載の画像形成方法。』 b.『【0029】 さらに、バインダー樹脂がポリエステル樹脂を50?100重量%含有し、該ポリエステル樹脂の酸価が5?25mgKOH/gであることがよい。ポリエステル樹脂の酸価が5?25mgKOH/gであることにより、ポリエステル樹脂に含まれる遊離状態のカルボキシル基が電子受容性を有するため、トナーの負極性を向上することができる。また、前記芳香族オキシカルボン酸又はその塩がポリエステル樹脂のカルボキシル基と水素結合することにより、擬似的な架橋が形成されトナーが増粘し定着時に画像がつぶれず粒状度がさらに良好な画像を得ることができる。酸価が25mg/KOHを超えると、高湿下での帯電安定性が悪化する。 【0030】 さらに前記芳香族オキシカルボン酸又はその塩が3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸であることが最も好ましく、特に高湿下での帯電量の低下を抑制できる点において好ましい。また、前記ポリエステル樹脂のカルボキシル基との水素結合性においても最も有効である。 【0031】 さらに、粒状度の良好な画像を得るためには前記帯電工程、転写工程において接触方式が有効であり、帯電ローラーや帯電ブレード、転写ベルトなどが使用できる。しかし、これらの不具合として直接感光体に接触するために、トナーが融着するという問題が発生しやすい。しかし、本発明のトナーはもともと帯電量分布がシャープであるために逆帯電トナーの発生量が少なく、そのような不具合を発生しないため好ましい。また、融着のメカニズムの1つとしてトナー表面に凝集体として存在している荷電制御剤が遊離して付着し、これが核となって融着が進行するケースがある。本発明のトナーは荷電制御剤の他材料への分散性が良好であるため、トナー表面に凝集体として存在せず、融着の核とならないため前記帯電工程、転写工程のそれぞれが接触方式であっても、トナーの融着が発生しないと考えられる。』 c.『【0039】 本発明のトナーに用いられる樹脂としては、従来より公知の樹脂が全て使用される。例えば、スチレン、ポリ-α-スチルスチレン、スチレン-クロロスチレン共重合体、スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-塩化ビニル共重合体、スチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体等のスチレン系樹脂(スチレンまたはスチレン置換体を含む単重合体または共重合体)、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、石油樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラート樹脂などが挙げられるが、特にポリエステル樹脂を用いる事が好ましい。 【0040】 ポリエステル樹脂は、アルコールとカルボン酸との縮重合によって得られる。使用されるアルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、1,4-ビス(ヒドロキシメタ)シクロヘキサン、及びビスフェノールA等のエーテル化ビスフェノール類、その他二価のアルコール単量体、三価以上の多価アルコール単量体を挙げることができる。また、カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、マロン酸等の二価の有機酸単量体、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸等の三価以上の多価カルボン酸単量体を挙げることができる。ポリエステル樹脂のTgは58?75℃が好ましい。 【0041】 以上の樹脂は単独使用も可能であるが二種類以上併用しても良い。 また、これら樹脂の製造方法も特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合いずれも使用できる。 【0042】 本発明では、定着時の離型性を向上させるためワックス成分も使用可能である。例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス等のようなポリオレフィンワックスや、キャンデリラワックス、ライスワックス、カルナウバワックス等の天然ワックスが使用可能である。ワックス成分の添加量は0.5?10重量部が好ましい。 【0043】 本発明に使用される着色剤としては、従来からトナー用着色剤として使用されてきた顔料及び染料の全てが適用される。具体的には、カーボンブラック、ランプブラック、鉄黒、群青、ニグロシン染料、アニリンブルー、カルコオイルブルー、オイルブラック、アゾオイルブラックなど特に限定されない。着色剤の使用量は1?10重量部、好ましくは3?7重量部である。』 d.『【0046】 (トナーの製造方法) 本発明に用いるトナーの製造方法は、少なくとも結着剤樹脂、荷電制御剤および顔料を含む現像剤成分を機械的に混合する工程と、溶融混練する工程と、粉砕する工程と、分級する工程とを有するトナーの製造方法が適用できる。また機械的に混合する工程や溶融混練する工程において、粉砕または分級する工程で得られる製品となる粒子以外の粉末を戻して再利用する製造方法も含まれる。 【0047】 ここで言う製品となる粒子以外の粉末(副製品)とは溶融混練する工程後、粉砕工程で得られる所望の粒径の製品となる成分以外の微粒子や粗粒子や引き続いて行われる分級工程で発生する所望の粒径の製品となる成分以外の微粒子や粗粒子を意味する。このような副製品を混合工程や溶融混練する工程で原料と好ましくは副製品1に対しその他原材料99から副製品50に対し、その他原材料50の重量比率で混合するのが好ましい。 【0048】 少なくとも結着剤樹脂、荷電制御剤および顔料、副製品を含む現像剤成分を機械的に混合する混合工程は、回転させる羽による通常の混合機などを用いて通常の条件で行えばよく、特に制限はない。 【0049】 以上の混合工程が終了したら、次いで混合物を混練機に仕込んで溶融混練する。溶融混練機としては、一軸、二軸の連続混練機や、ロールミルによるバッチ式混練機を用いることができる。この溶融混練は、バインダー樹脂の分子鎖の切断を招来しないような適正な条件で行うことが重要である。具体的には、溶融混練温度は、結着剤樹脂の軟化点を参考に行うべきであり、軟化点より低温過ぎると切断が激しく、高温過ぎると分散が進まない。 【0050】 以上の溶融混練工程が終了したら、次いで混練物を粉砕する。この粉砕工程においては、まず粗粉砕し、次いで微粉砕することが好ましい。この際ジェット気流中で衝突板に衝突させて粉砕したり、機械的に回転するローターとステーターの狭いギャップで粉砕する方式が好ましく用いられる。この粉砕工程が終了した後に、粉砕物を遠心力などで気流中で分級し、もって所定の粒径例えば平均粒径が5?20μmの現像剤を製造する。 【0051】 また、現像剤を調製する際には、現像剤の流動性や保存性、現像性、転写性を高めるために、以上のようにして製造された現像剤にさらに先に挙げた疎水性シリカ微粉末等の無機微粒子を添加混合してもよい。外添剤の混合は一般の粉体の混合機が用いられるがジャケット等装備して、内部の温度を調節できることが好ましい。外添剤に与える負荷の履歴を変えるには、途中または漸次外添剤を加えていけばよい。もちろん混合機の回転数、転動速度、時間、温度などを変化させてもよい。はじめに強い負荷を、次に比較的弱い負荷を与えても良いし、その逆でも良い。 使用できる混合設備の例としては、V型混合機、ロッキングミキサー、レーディゲミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサーなどが挙げられる。』 e.『【0054】 【実施例】 以下具体的実施例によって本発明を説明するが本発明はこれにより限定されない。 実施例1?5 (荷電制御剤の製造) 実施例1?5に使用される荷電制御剤として5-メトキシサリチル酸を有するジルコニウム化合物を以下のように製造した。5-メトキシサリチル酸20?30部と25%苛性ソーダ20?30部を水300?400部に溶解し、50℃に5?15℃/分の昇温速度で昇温し、攪拌しながらオキシ塩化ジルコニウム15?25部を水80?100部に溶解した溶液を滴下した。同温度で1時間攪拌後室温に5?15℃/分の速度で冷却し、25%苛性ソーダ5?8部を加えPH7.5?8.0に調整した。析出した結晶をろ過、水洗、乾燥して20?35部の白色結晶を得た。得られたジルコニウムと5-メトキシサリチル酸からなるジルコニウム化合物のCuKα特性X線に対するブラッグ角2θの主要ピークはピークA:5.5度±0.3度にあり、このX線強度は、スキャンスピード0.5?4度/分において表1記載のとおりであった。 【0055】 (トナー処方) スチレン-nブチルアクリレート共重合体 100重量部 カーボンブラック(三菱化成#44) 10重量部 カルナウバワックス 4重量部 上記で得られた5-メトキシサリチル酸を有するジルコニウム化合物 2重量部 以上の処方で2軸エクストルーダーを用いて混練し、粉砕、分級し、表1に記載した所望の重量平均粒径とした。その後ヘンシェルミキサーを用い、シリカ微粉末(R-972:クライアントジャパン製)を混合しトナーを得た。 得られたトナーと平均粒径50μmのフェライト粒子にシリコーン樹脂コートしたキャリアを4.0%トナー濃度で混合し、現像剤を作製した。』 f.『【0059】 実施例6 実施例1において荷電制御剤を以下に記載のジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸化合物とした以外は実施例1と同様にして現像剤を得、同様に評価した。結果を表1に示す。 荷電制御剤は以下の製法により得た。3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸30?40部と25%苛性ソーダ15?28部を水300?400部に溶解し、50℃に5?15℃/分の速度で昇温し、攪拌しながらオキシ塩化ジルコニウム15?26部を水70?120部に溶解した溶液を滴下した。同温度で1時間攪拌後室温に5?15℃/分の速度で冷却し、25%苛性ソーダ5?9部を加えPH7.5?8.0に調整した。析出した結晶をろ過、水洗、乾燥して20?40部の白色結晶を得た。得られたジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸化合物からなるジルコニウム化合物のCuKα特性X線に対するブラッグ角2θの主要ピークはピークA:5.5度±0.3度にあり、このX線強度は、スキャンスピード0.5?4度/分において表1記載のとおりであった。 【0060】 実施例7 実施例6においてバインダー処方を以下のようにした以外は実施例6と同様にして現像剤を得、同様に評価した。結果を表1に示す。 スチレン-nブチルアクリレート共重合体 50重量部 ポリエステル樹脂(酸価25mgKOH/g) 50重量部 【0061】 実施例8 実施例6においてバインダー処方を以下のようにした以外は実施例6と同様にして現像剤を得、同様に評価した。結果を表1に示す。 スチレン-nブチルアクリレート共重合体 0重量部 ポリエステル樹脂(酸価5mgKOH/g) 100重量部 【0062】 実施例9 トナー処方は実施例8のトナー処方と同一であり、同様に現像剤を作製した。画像評価方法において、帯電部を改造し帯電ローラーを装着し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0063】 実施例10?12 トナー処方はポリエステル樹脂を表1記載の含有量含有した以外は実施例8のトナー処方と同一であり、同様に現像剤を作製した。画像評価方法において、実施例9の改造機にさらに転写部を改造し転写ベルトを装着し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。 【0064】 【0065】 なお、上記実施例9?12において、帯電ローラー、転写ベルトへのトナー融着、固着の発生はなかった。』 上記摘記事項を総合勘案すると、引用例1には、以下の発明(以下、『引用例発明』という。)が記載されている。 『バインダー樹脂と顔料と荷電制御剤からなり、定着時の離型性を向上させるためワックス成分が添加され、バインダー樹脂がポリエステル樹脂を100重量%含有し、該ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/gであり、荷電制御剤がジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩からなるジルコニウム化合物であり、バインダー樹脂、荷電制御剤およびカーボンブラックを含む現像剤成分を機械的に混合する工程と、溶融混練する工程と、粉砕する工程と、分級する工程とを有するトナーの製造方法によって製造され、顔料としてカーボンブラックを、ワックス成分としてカルナウバワックスを添加しているトナー。』 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-189309号公報(以下。『引用例2』という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 g.『【0034】静電潜像現像剤用トナー 本発明の静電潜像現像剤用トナーは、以上のトナー粒子と外部添加剤から構成されるが、本発明においては、内部金属錯化合物(帯電制御剤)のトナー粒子での分散状態が重要であり、この分散状態を、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧をXとし、金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧をYとして、XとYを原点を通る直線に一次回帰したときの各元素の相関係数で規定している。 【0035】本発明における相関係数の求め方とその意義を、具体的に説明する。各元素の発光電圧により元素分析を行うパーティクルアナライザー「PT-1000」(横河電機(株)製)にて、個々のトナー粒子の元素分析を実施し、約3000粒の粒子について、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧をXと、内部金属錯化合物由来の元素(Zn)に起因する発光電圧をYとを測定した。このデータをもとに算出した、XとYの関係をそれぞれプロットしたのが、図1及び図2である。図1、図2において、定性的には、各点はトナー粒子を表し、各点でのXは炭素原子(トナー粒子)の粒径を表し、Yは内部金属錯化合物の粒径を表している。 【0036】前記相関図に、回帰式Y=a(X)で表される原点を通る直線を引いたのが、図1、図2でもある。回帰式Y=a(X)の、係数aは、解析ソフトの最小二乗法により求めることができる。各プロットが、この直線に載っていれば、内部金属錯化合物は、トナー粒子の粒径に応じて、各粒子間で均等に分散していることになる。図1と図2を比較すると、本発明の静電潜像現像剤においては、各プロットが、ほぼ直線上に載っている。一方、従来の分散状態が不均一な静電潜像現像剤においては、直線からのバラツキが著しい。このバラツキを定量的に表したのが、絶対偏差である。 【0037】以上のデータをもとに、XとYとを原点を通る直線に一次回帰させ、内部金属錯化合物由来の各元素の絶対偏差(d)を算出した。実際には解析ソフトより求めることができ、絶対偏差(d)を算出したものが、図3、図4である。但し、回帰式を算出する際には、Y=0の粒子(金属錯化合物(帯電制御剤)が全く内添していない粒子)については、金属錯化合物(帯電制御剤)を添加しないトナーを作成し、微量元素分析による観察により、金属錯化合物が無いことが確認されており、測定限界以下の粒子であるとして除外した。なお、図3,4においては、Y=0の粒子については除外し、また、X=0のデータは、金属錯化合物の単独粒子であるとみなし、これらのデータも回帰式、標準誤差(d)を算出するの際には除外した。このときのパーティクルアナライザー「PT-1000」のノイズカットレベルは1.2に設定した。 【0038】本発明の絶対偏差は、トナー粒子間での金属錯化合物(帯電制御剤)の分散状態が均一な程、相関係数の値が0に近づいて行く。本発明においては、この相関係数の値が、0.08より小さくなければならず、0に近いものが好ましい。相関係数の値が、0.08を上回ると、総帯電量は高くなるが、急激に、帯電分布が広がり、十分な現像性が得られなくなったり、非画像部への現像が起こってしまったり、かぶりトナーが増えてしまうなどの弊害が出てくる。 【0039】また、本発明において、トナーは、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧Xと内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧をYとしたときにおいて、Y=0の直線上に存在する粒子に由来するXの総計がその他の粒子に由来するXの総計に対して5%以下の関係にあるトナーであることが好ましい。Y=0の直線上に存在する粒子に由来するXとは、トナー粒子に金属錯化合物(帯電制御剤)を含まない元素に起因する発光電圧をXを意味しており、その総計がその他の粒子に由来するXの総計に対して5%以下とは、具体的には、トナーに金属錯化合物(帯電制御剤)が含まれていないトナーが金属錯化合物を含有するトナーに対して5%以下であることを意味している。つまり、この数値が少なければ、少ないほどトナーに金属錯化合物を含有しないトナーの量が少なく、添加した金属錯化合物が有効に分散されており、5%を超えると、帯電量分布が広くなり、弱帯電性トナーが多く、その結果、地肌汚れやトナー飛散などの弊害が出てくる。』 h.『【0052】 実施例1 母体トナーの製造例1 結着樹脂 ポリエステル樹脂A 100部 着色剤 キナクリドン系マゼンダ顔料 4部 帯電制御剤 サリチル酸の亜鉛化合物 4部 1.上記原析料を、ヘンシェルミキサーにより混合 2.120℃に設定したブスコニーダー(ブス社製)によって溶融混練 3.混練物を冷却後、ターボミル(ターボ工業社製)を用いた粉砕機によって微粉砕 4.風力分級機を用いて、分級し、 個数平均拉径:5.8μm 体積平均粒径:6.4μm 体積平均粒径/個数平均粒径:1.1 のマゼンダ母体トナーaを得た。母体トナーの製造例1の母体トナーa 100部に対し、シリカとしてHDK2000H(Wacker社製・BET比表面積:140m2/g)を0.7重量%及びAEROSIL RX50(日本アエロジル社製・BET比表面積:50m2/g)を1.0重量%、チタニアとしてMT150(テイカ社製・BET比表面積:65m2/g)を0.5重量%添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池社製)で十分混合して、電子写真用トナーを得た。』 i.【0063】[物性測定] 〔粒径〕トナーの粒径は、コールターエレクトロニクス社製の粒度測定器「コールターカウンターTAII」を用い、アパーチャー径100μmで測定した。体積平均粒径及び個数平均粒径は上記粒度測定器により求めた。 〔絶対偏差〕前記の方法により、約3000粒の粒子について、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧をXと、内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧をYとを測定し、内部金属錯化合物由来の各元素の絶対偏差(d)を算出した。 【0064】 【表1】 【0065】表1より、本発明の実施例1?4の静電潜像現像剤は、各外部添加剤由来の元素の相関係数が0.08より小さく、また、内部金属錯化合物のY=0上のXの割合(母体遊離率)が5%以下であり、トナー粒子中に金属錯化合物を内添していないトナーも少ないことが分かる。これに対し、混練条件を変更して得られたトナー粒子を用いた静電潜像現像剤(比較例1)では、内部金属錯化合物由来の元素の絶対偏差が0.08以上となり、内添されている金属錯化合物(帯電制御剤)の分散状態が均一でないことが分かる。粉砕装置を変更して得られたトナー粒子を用いた静電潜像現像剤(比較例3)では、トナー粒子中に金属錯化合物(帯電制御剤)が内添されていないトナー粒子が多いことが分かる。 【0066】〔帯電量〕キャリア(パウダーテック社製:FPC-300)6gにトナーを5wt%を計量し、密閉できる金属円柱に仕込み150rpmで15分攪拌し、得られた現像剤をブローして帯電量を求める。 【0067】[実機評価] (実機評価1)実施例、比較例で得られた静電潜像現像剤について、(株)リコー製「IPSIO Color5000」改造機を用いてコピーテストを実施し、以下の項目について評価を行った。改造機は、「Color5000」のプロセススピードを上げ一分間に6枚A4フルカラーコピーが採取できる状態に設定したものを用いた。また、コピーテストは、黒を含む3万枚フルカラーモードで実施した。コピーテスト開始直後と3万枚コピー実施後において、現像機内の現像剤の帯電量と、得られた画像濃度を測定し、画質を評価した。画像濃度は、「X-rite938」(X-rite社製)を用いて測定した。画質は、画像の濃度ムラ、非画像部かぶり、画像ぬけ等が無いか否かを、目視で評価した。 【0068】 【表2】 【0069】表2より、本発明の実施例1?4の静電潜像現像剤は、(株)リコー製「IPSIO Color5000」改造機を用いたテストで、濃度、画質、地肌汚れにおいて、良好な性能を示し、維持性の観点からも問題が無いことが分かる。一方、比較例1の静電潜像現像剤は、初期から地肌汚れがおこり、転写効率も非常に低かった。3万枚後には更に地肌汚れトナーの量が多くなり、また、コピーされた紙の背景部分にもトナーがのってしまった。比較例2の静電潜像現像剤は、初期は画像品質に問題なかった。3万枚後では、経時での粒径選択によりトナーの粒径が上昇し、トナーの帯電性が異なり、画像上に地肌汚れ、ボソツキ等が発生し色調の変動が発生した。また、比較例3の静電潜像現像剤では、初期から地肌汚れが非常に悪かった。比較例4の静電潜像現像剤は初期は画像品質に問題なかったが、3万枚後には画像濃度が低くなり、更にトナー補給をした際には、画像濃度は高くなったが、地肌汚れが発生してしまった。 【0070】 【発明の効果】 本発明によれば、トナーの流動性、帯電性、現像性、転写性、感材上かぶり、機内汚染性を同時に且つ長期に満足でき、特に初期及び経時での帯電安定性の不具合を改善し、長期にわたり良好な画像を得ることができる静電潜像現像剤用トナー、該静電潜像現像剤用トナーを用いた静電潜像現像剤、及び該静電潜像現像剤を使用する画像形成方法を提供することができる。』 j.図1は、本発明の実施例1の静電潜像現像剤において、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧の三乗根電圧Xと、内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧の三乗根電圧Yとの関係を表し、XとYを原点を通る直線に一次回帰したときの関係を表す図で、図3は上記一次回帰したときの絶対偏差を求めていることを表す図で、絶対偏差は0.0677であることがわかる。 図1 図2は、本発明の比較例1の静電潜像現像剤において、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧の三乗根電圧Xと、内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧の三乗根電圧Yとの関係を表し、XとYを原点を通る直線に一次回帰したときの関係を表す図で、図4は上記一次回帰したときの絶対偏差を求めていることを表す図で、絶対偏差は0.0894であることがわかる。 図2 3-3.対比 引用例発明の『バインダー樹脂』は、本願補正発明の『結着樹脂』に相当する。 引用例発明の『顔料』は、本願補正発明の『着色剤』に相当する。 引用例発明の『荷電制御剤』は、本願補正発明の『帯電制御剤』に相当する。 引用例発明の『ワックス成分』は、本願補正発明の『離型剤』に相当する。 引用例発明の『バインダー樹脂がポリエステル樹脂を100重量%含有し、該ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/gで』あることは、本願補正発明の『結着樹脂がポリエステル樹脂であり』『結着樹脂の酸価が5?15mgKOH/gで』あることに相当する。 引用例発明の『 粉砕する工程と、分級する工程とを有するトナーの製造方法によって製造され』るトナーは、本願補正発明の『粉砕法によって製造される電子写真用トナー』に相当する。 引用例発明の『荷電制御剤がジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩からなるジルコニウム化合物』は、ジルコニウムが4価の陽イオンになって3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸と結びつく構造になることから、本願補正発明の『帯電制御剤が中心原子としてジルコニウムを有するサリチル酸金属錯体で』あることに相当する。 したがって、両者は 『結着樹脂、着色剤、離型剤および帯電制御剤を含み、結着樹脂の酸価が5?15mgKOH/gでありかつ帯電制御剤が中心原子としてジルコニウムを有するサリチル酸金属錯体であり、粉砕法によって製造される電子写真用トナーにおいて、 結着樹脂がポリエステル樹脂である電子写真用トナー。』で一致し、 以下の点で相違する。 (相違点1) 本願補正発明が『混練機としてオープンロール型混練機を使用する』のに対して、引用例発明ではその点に関する記載がない点。 (相違点2) 本願補正発明では『着色剤がキナクリドン顔料』であるのに対して、引用例発明では『顔料としてカーボンブラック』が使用されている点。 (相違点3) 本願補正発明では『離型剤がポリプロピレンワックスである』のに対して、引用例発明では『ワックス成分としてカルナウバワックスを添加している』点。 (相違点4) 本願補正発明では『トナーをヘリウム大気圧マイクロ波誘導プラズマに導入し、炭素原子およびサリチル酸金属錯体に由来する原子を励起・発光させたとき、トナー粒子毎に得られる炭素原子による発光電圧の3乗根に対するサリチル酸金属錯体に由来するジルコニウム原子による発光電圧の3乗根の分布を最小2乗法で近似した近似直線のばらつきを示す絶対偏差が0.08以下』であるのに対して、引用例発明ではその点に関する記載がない点。 3-4.検討 (相違点1について) オープンロール型混練機は、従来周知(原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-296838号公報、特開2004-20731号公報参照。)であるから、上記相違点1に係る構成を採用することに格別の技術的困難性はない。 (相違点2について) 引用例2には『着色剤』として『キナクリドン系マゼンダ顔料』が記載されている(上記h参照)ように、『キナクドリン顔料』を用いることは従来周知である。したがって、上記相違点2に係る構成を採用することに格別の技術的困難性はない。 (相違点3について) 引用例1には、『定着時の離型性を向上させるため』『カルナウバワックス』以外に『ポリプロピレンワックス』も使用可能である点が記載されている(上記c参照)。したがって、上記相違点3に係る構成を採用することに格別の困難性はない。 (相違点4について) 引用例2では、『内部金属錯化合物(帯電制御剤)のトナー粒子での分散状態が重要』であるということから、『この分散状態を、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧をXとし、金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧をYとして、XとYを原点を通る直線に一次回帰したときの各元素の相関係数で規定』している(上記g参照。)。そして、『各元素の発光電圧により元素分析を行うパーティクルアナライザー「PT-1000」(横河電機(株)製)にて、個々のトナー粒子の元素分析を実施し、約3000粒の粒子について、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧をXと、内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧をYとを測定し』、トナー粒子の結着樹脂由来の炭素に起因する発光電圧の三乗根電圧Xと、内部金属錯化合物由来の元素に起因する発光電圧の三乗根電圧Yとの関係を一次回帰したときの『絶対偏差』もしくは『標準誤差』(d)が図1では0.0677、図2では0.0894である結果を得ている(上記gij参照。)ところ、『トナー粒子間での金属錯化合物(帯電制御剤)の分散状態が均一な程』『0に近』く、『0.08より小さくなければならない』と指摘している(上記g参照。)。 このように、引用例2では、金属錯化合物(帯電制御剤)の分散状態を均一に分散させることで、『濃度、画質、地肌汚れにおいて、良好な性能を示し』ていることがわかる(上記i参照。)。 してみると、上記相違点3に係る構成を採用することに格別の技術的困難性はない。 (結着樹脂がポリエステル樹脂であり、帯電制御剤がサリチル酸ジルコニウム錯体であり、着色剤がキナクリドン顔料であり、離型剤がポリプロピレンワックスである場合の作用効果について) 引用例2では、結着樹脂が『ポリエステル樹脂』であり、着色剤が『キナクドリン系マゼンタ顔料』であり、帯電制御剤がサリチル酸金属化合物であるものにおいて、帯電制御剤の分散性を良好にするものである(上記ghij参照。)。 他方、酸価5?15mgKOH/gのポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用い、ジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩からなるジルコニウム化合物の荷電制御剤を用いている引用例発明の実施例8・9・11・12においては、ポリプロピレンワックスが使用されていないが、引用例1【0042】によればポリプロピレンワックスを使用することも前提としている(上記c参照)。 ここで、結着樹脂中におけるポリプロピレンワックスの分散性が悪いことは、従来周知(特開2004-191822号公報【0021】、特開2004-69887号公報【0021】、特開2004-13049号公報【0025】、特開2003-270850号公報【0024】参照。)である。してみると、酸価5mgKOH/gのポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用い、ジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩からなるジルコニウム化合物の荷電制御剤を用い、さらにカルナウバワックスを用いる引用例発明において、カルナウバワックスに代えてポリプロピレンワックスを採用した際にワックスの分散性を良好なものとすることは、当業者が当然考慮している事項である。 以上のことから、本願補正発明の奏する効果は、引用例発明、引用例2に記載された技術的事項及び従来周知の技術から見て、当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。 (請求人の主張について) 請求人は、平成19年12月28日付手続補正書において、以下のように主張する。 『そもそも本発明は、段落[0090]に記載されるように、比較例2,4のように前述の絶対偏差を0.08以下にしても、帯電量の低下が生じ、地肌カブリが発生するという、従来知られていなかった課題を見出してなされたものである。 前述の段落[0090]には、比較例2のトナーにおいて、帯電量の低下が生じる原因として、結着樹脂の酸価が低いことなどに起因して、離型剤がトナー表面に滲出することを挙げている。本願明細書の段落[0010]および[0038]に記載されるように、結着樹脂の酸価は離型剤の分散性に影響し、離型剤の分散性が低いと、離型剤がトナー表面に必要以上に滲出する。したがって前述の離型剤の滲出は、離型剤の分散性が低いことが原因であることが明らかである。 本願の実施例1?6および比較例1?4では、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いている。これに対し、たとえば引用文献1の実施例では、カルナウバワックスが用いられている。本願で用いられるポリプロピレンワックスは極性が低いのに対し、カルナウバワックスはエステル系化合物であって極性が高いので、ポリプロピレンワックスとカルナウバワックスとでは、結着樹脂中における分散性が大きく異なる。したがって、ポリプロピレンワックスと異なる離型剤、たとえばカルナウバワックスを用いた場合、前述のように絶対偏差を0.08以下にしたときに、離型剤の滲出による帯電量の低下の問題が発生するとは限らない。 つまり本発明は、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じるという、従来知られていなかった課題を見出してなされたものである。 また本願明細書の段落[0038]などに、帯電制御剤、着色剤などの分散性が結着樹脂の酸価によって変化することが記載されていることから、結着樹脂中における離型剤の分散性は、離型剤自体の化学構造だけでなく、トナーを構成する他の成分、すなわち結着樹脂、帯電制御剤および着色剤の化学構造に依存することが明らかである。したがって、前述の離型剤の滲出による帯電量の低下の問題は、特定の結着樹脂、帯電制御剤、着色剤および離型剤を組合せて用いた場合、つまり本願実施例のように、結着樹脂がポリエステル樹脂であり、帯電制御剤がサリチル酸ジルコニウム錯体であり、着色剤がキナクリドン顔料であり、離型剤がポリプロピレンワックスである場合に生じるものである。 補正の却下の決定謄本において審査官殿が指摘しておられるように、本願明細書の段落[0054]?[0058]および[0061]には、キナクリドン顔料以外の着色剤およびポリプロピレンワックス以外の離型剤が記載されているが、新請求項1は、前述の本発明の課題に鑑み、着色剤および離型剤を、課題が見出された構成に減縮したものである。 本発明は、このような離型剤がポリプロピレンワックスであり、着色剤がキナクリドン顔料であり、帯電制御剤がサリチル酸ジルコニウム錯体である構成において、前述の絶対偏差を0.08以下にするとともに、酸価が5?15mgKOH/gのポリエステル樹脂を用いることで、前述の優れた効果を達成するものである。 したがって比較例としては、酸価が本願発明の数値範囲にないポリエステル樹脂を結着樹脂として使用した以外は、実施例1?6と同じ着色剤、離型剤および帯電制御剤を用いた比較例1?4が記載されていれば充分であり、実施例1?6と比較例1?4との比較から、前述の新請求項1の本発明の効果を確認することができる。』 しかし、出願当初の明細書には、『離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じるという、従来知られていなかった課題を見出してなされたものである』旨の記載は、確認することが出来ない。 この点について、請求人は審尋に対する平成21年3月13日付の回答書にて次のように主張する。 『まず、原明細書の段落[0072]には、実施例1?6および比較例1?4として、ポリエステル樹脂、キナクリドン顔料、ポリプロピレンワックスおよびサリチル酸ジルコニウム錯体を用いてトナーを製造したことが記載されている。 そして、原明細書の段落[0081]の[表1]には、実施例1?6と比較例1?4のトナー製造における使用成分と製造条件が記載されており、段落[0087]および[0088]の[表2]および[表3]には、表1のトナーの評価結果が記載されており、評価結果では、本願実施例1?6が総合評価において全て○、比較例1?4が全て×となっている。 これらの表から、当業者は、比較例が全て×であった根拠として、酸価が5以下であるか、または15を越えたポリエステル樹脂を用い、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いたトナーは、サリチル酸ジルコニウム錯体の絶対偏差が、0.051?0.10であっても、混練機が二軸押出し型であってもオープンロール型であってもうまくいかないとの記載があることがわかる。 つぎに、当業者であれば、段落[0090]における「比較例2のトナーは、……結着樹脂の酸価が低いことなどに起因し、離型剤がトナー表面に滲出するため、……」との記載から、表1における比較例2と実施例1?6の構成を比較する。 そして、表中には、比較例2について実施例と同じ混練機、同じ混練温度が記載されており、比較例中では実施例に最も近い条件であること、両者の差異は、酸価および絶対偏差が異なるのみであることが記載されているから、詳細に記載を検討し、ポリエステル樹脂の酸価が2.5であれば、帯電制御剤の絶対偏差が0.078(すなわち、0.08以下)であっても、ポリプロピレンワックスの滲出が生じるという問題が記載されていることを理解する。すなわち、当業者であれば、表1?3および前記段落[0090]の記載から、上記の問題があるという記載があることを理解するのである。 すなわち、当業者が読んだ記載をまとめると、「酸価が5以下、15以上のポリエステル樹脂、キナクリドン顔料を用いるトナーにおいては、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じる」ということになる。 そうすると、審査官殿が原明細書に記載がないとして排斥した主張は、上記のとおり、一個所にまとまってはいないが、原明細書に記載があることが容易に理解できる。(ちなみに、上記の下線部分は、審査官殿が本件審判の前置審査において、原明細書には記載がないとした部分である) したがって、これにもとづいて「離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じるという、従来知られていなかった課題を見出してなされたものである」と審判請求人が主張することは、原明細書の記載とおりのことを主張するに過ぎない。 さらに、「離型剤の滲出による帯電量の低下の問題は、特定の結着樹脂、帯電制御剤、着色剤および離型剤を組み合わせて用いた場合……に生じるものである」との主張も、比較例の構成として記載されているものを組み合わせ、さらに段落[0090]の前記記載と合わせて読めば、まとまってはいないが記載されているものとなることは明らかである。 仮に、百歩譲って、審査官殿が上記審判請求人の主張が文言として記載されていないという意味で原明細書に記載がないと判断したと解釈しても、かかる審査官殿の判断はやはり誤っているといわざるを得ない。 すなわち、原明細書に記載されているという意味は、文言のみの記載を意味するものではなく、広く明細書全体から読み取りうることを意味すると解すべきであり、判決においてもこの理が採用されている。 たとえば、審決取消訴訟平成18年(行ケ)10125号事件判決においては、出願原明細書において、明細書から自明な効果を追加することは新規事項の追加にあたらないとされている。 当該事案は、訂正明細書の内容が、原明細書の範囲内にあるかどうかが争われた事例であり、原告(特許出願人)は、訂正明細書において、添付図面に基づき、発明の構成に新たな文言を追加し、かつ当該図面から明白な効果をも追加したものであるが、知財高裁は、訂正明細書において追加された効果について、図面から明白な効果であり、新たな作用効果ではないから、出願当初の明細書に記載がないとすることはできないと説示している(同判決、取消事由4に関する裁判所の判断)。 すなわち、文言として記載されていなくとも、明細書全体から読み取ることが可能であれば、記載があるというべきであることを示しているのである。 したがって、本願発明の課題が、原明細書に、そのとおりの文言として記載されていないとの立場でみても、当業者であれば、上記(2)で述べた原明細書の各記載から審判請求人が主張する課題の存在を容易に理解できるのであるから、当業者にとって自明なものであり、原明細書に記載されていたものであることが明らかである。』 しかしながら、出願当初の明細書及び図面には、上記『酸価が5以下、15以上のポリエステル樹脂、キナクリドン顔料を用いるトナーにおいては、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じる』という認識に対応する記載は、一切認められない。 また、請求人の説明を以て、実施例・比較例さらに段落【0072】【0081】【0087】【0088】【0090】の記載と併せて読んだとしても、あくまでも『帯電制御剤の分散性』を課題としていることが分かるだけである。また、本願明細書の段落【0054】?【0058】および【0061】には、ポリプロピレンワックス以外の離型剤が記載されるとともに、ポリプロピレンワックスは特別の離型剤としてではなくワックスの一例としてすべての実施例及び比較例において用いられている。また、他のワックスを用いた場合での検討もなされていないので、ポリプロピレンワックスを用いた場合の特有の課題であるともいえない。 以上のことから、請求人のいう「離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じるという、従来知られていなかった課題を見出してなされたものである」ことに対応する記載が、原明細書から把握できるとはいえない。 さらに、仮に、『当業者であれば、表1?3および前記段落[0090]の記載から、「酸価が5以下、15以上のポリエステル樹脂、キナクリドン顔料を用いるトナーにおいては、離型剤としてポリプロピレンワックスを用いる場合には、絶対偏差を0.08以下にしても、離型剤の滲出が生じて、帯電量の低下が生じる」という記載があることを理解する』としても、プロピレンワックスが結着樹脂中における分散性が悪いことは、従来周知(特開2004-191822号公報【0021】、特開2004-69887号公報【0021】、特開2004-13049号公報【0025】、特開2003-270850号公報【0024】参照。)であるから、酸価5mgKOH/gのポリエステル樹脂をバインダー樹脂として用い、ジルコニウムと3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩からなるジルコニウム化合物の荷電制御剤を用い、さらにカルナウバワックスを用いる引用例発明において、本願補正発明のように、カルナウバワックスに代えてポリプロピレンワックスを採用した際にワックスの分散性を考慮して、帯電制御剤の分散状態を『絶対偏差』で『0.08より小さい』良好なものにすることに、格別の技術的困難性はない。 3-5.まとめ 上述したとおり、引用例発明において、相違点1ないし相違点3に係る構成を採用することには、いずれも格別の技術的困難性がない。 また、相違点1ないし相違点4に係る構成を組み合わせたことにより、当業者が予期できない格別の効果が奏せられるものとすることもできない。 したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術的事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3-6.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正付則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 4.本願発明について 平成19年12月28日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成18年10月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、『本願発明』という。)は、以下のとおりである。 『【請求項1】 結着樹脂、着色剤、離型剤および帯電制御剤を含み、結着樹脂の酸価が5?15mgKOH/gでありかつ帯電制御剤が中心原子としてジルコニウムを有するサリチル酸金属錯体であり、混練機としてオープンロール型混練機を使用する粉砕法によって製造される電子写真用トナーにおいて、 該トナーをヘリウム大気圧マイクロ波誘導プラズマに導入し、炭素原子およびサリチル酸金属錯体に由来する原子を励起・発光させたとき、トナー粒子毎に得られる炭素原子による発光電圧の3乗根に対するサリチル酸金属錯体に由来するジルコニウム原子による発光電圧の3乗根の分布を最小2乗法で近似した近似直線のばらつきを示す絶対偏差が0.08以下であることを特徴とする電子写真用トナー。』 5.引用例 原査定の本願発明に対する拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記『3-2』に記載したとおりである。 6.対比 本願発明は、前記『3』で検討した本願補正発明から、『結着樹脂』の限定事項である『ポリエステル樹脂』との構成を省き、同じく『着色剤』の限定事項である『キナクリドン顔料』との構成を省き、同じく『離型材』の限定事項である『ポリプロピレンワックス』との構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記『3』に記載したとおり、引用例発明、引用例2に記載された技術的事項、及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明、引用例2に記載された技術的事項、及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術的事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-05-20 |
結審通知日 | 2009-05-26 |
審決日 | 2009-06-08 |
出願番号 | 特願2004-219169(P2004-219169) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄 |
特許庁審判長 |
柏崎 康司 |
特許庁審判官 |
山下 喜代治 赤木 啓二 |
発明の名称 | 電子写真用トナー |
代理人 | 杉山 毅至 |
代理人 | 西教 圭一郎 |