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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1201055
審判番号 不服2007-28071  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-12 
確定日 2009-07-21 
事件の表示 特願2006-190356号「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 18766号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1手続の経緯
本願は、平成18年7月11日の出願であって、平成19年9月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年10月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年11月12日付けで手続補正がなされたものである。

2平成19年11月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月12日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本願補正発明について
補正後の特許請求の範囲の請求項1は、
「内周に複数のアウタレースを有し、ナックル部材に固定される外方部材と、車輪取付けフランジを一体に有するハブ輪、およびハブ輪の外周に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記アウタレースと対向する複数のインナレースを有する内方部材と、
対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体と、ハブ輪とトルク伝達可能に結合された外側継手部材を含む等速自在継手とを有する車輪用軸受装置において、
車輪内周に嵌合するパイロット部をブレーキロータに形成すると共に、ハブ輪の車輪取付けフランジの外径部をブレーキロータの案内面にし、かつ等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さくし、外側継手部材に螺合したナット部材の締め込みでハブ輪に対する内輪の軸方向の位置決めを行うと共に、ナット部材からの締め込み力を受けるハブ輪の座面を冷間鍛造で形成し、車輪取付けフランジの内径側で、かつ該フランジの軸方向全域にわたり、前記座面を有するナット収容部を設けたことを特徴とする車輪用軸受装置。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「内輪」の「圧入」に関して「外側継手部材に螺合したナット部材の締め込みでハブ輪に対する内輪の軸方向の位置決めを行うと共に、ナット部材からの締め込み力を受けるハブ輪の座面を冷間鍛造で形成し、」との限定を付加し、同じく「ハブ輪」について「車輪取付けフランジの内径側で、かつ該フランジの軸方向全域にわたり、前記座面を有するナット収容部を設け」との限定を付加しするものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)原査定の拒絶の理由に引用した文献等の記載
[刊行物1]特開2005-096617号公報(原査定の引用例3)
車輪軸受装置に関する発明で、次の技術事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面を有する外方部材と、一端部に車輪取付フランジが一体に形成されたハブ輪と、このハブ輪に圧入された内輪とからなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面を有する内方部材と、前記外側転走面と内側転走面間に収容された複列の転動体と、前記車輪取付フランジにハブボルトを介して締結されたブレーキロータとを備え、車体に対して車輪を回転自在に支承した車輪用軸受装置において、前記ブレーキロータの内径に所定の案内すきまを介して前記車輪取付フランジが嵌挿され、この車輪取付フランジの外径によって前記ブレーキロータが径方向に案内されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記車輪またはブレーキロータのどちらか一方に鍔部が形成され、この鍔部に前記ブレーキロータが所定の案内すきまを介して嵌挿され、前記車輪が前記ブレーキロータによって径方向に案内されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。」
(イ)「【0016】
この車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材10と複列の転動体20、20とを備えている。内方部材1は、ハブ輪2と別体の内輪3とからなり、このハブ輪2は、一端部にブレーキロータRを介して車輪Wを取り付けるための車輪取付フランジ4を有し、他端部に内輪3を圧入する小径段部5が形成されている。また、ハブ輪2の外周にアウトボード側の内側転走面2aが、内輪3の外周にインボード側の内側転走面3aがそれぞれ形成されている。さらにハブ輪2の車輪取付フランジ4には円周等配位置に車輪Wを締結するためのハブボルト6が植設されている。
【0017】
ハブ輪2は、S53C等の中炭素鋼からなり、少なくとも内側転走面2aと小径段部5の表面には表面硬さが54?64HRCの範囲で硬化層が形成されている。熱処理としては、局部加熱ができ、硬化層深さの設定が比較的容易にできる高周波誘導加熱による焼入れが好適である。一方、内輪3はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで硬化されている。
【0018】
外方部材10は、S53C等の中炭素鋼からなり、ナックルNに装着するための車体取付フランジ11を外周に有し、内周に前述した内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが形成されている。少なくともこれら複列の外側転走面10a、10aの表面には表面硬さが54?64HRCの範囲で硬化層が形成されている。熱処理としては、局部加熱ができ、硬化層深さの設定が比較的容易にできる高周波誘導加熱による焼入れが好適である。これらの転走面2a、3aと10a、10a間には複列の転動体20、20が収容され、車体に対して車輪Wを回転自在に支承している。21、21は複列の転動体20、20を転動可能に保持する保持器で、PA66等の熱可塑性合成樹脂で形成されている。」
(ウ)「【0020】
等速自在継手30は、外側継手部材31と、図示しない内輪、ケージ、およびトルク伝達ボールとからなる。外側継手部材31は、カップ状のマウス部32と、このマウス部32の底部をなす肩部33と、この肩部33から軸方向に延びる軸部34とを有し、この軸部34の外周にはトルク伝達手段となるセレーション(またはスプライン)34aが転設されている。このセレーション34aをはじめ、外側継手部材31の内周に形成されたトラック溝31a、および肩部33の表面には、表面硬さが54?64HRCの範囲で硬化層が形成され、耐摩耗性が確保されている。熱処理としては、局部加熱ができ、硬化層深さの設定が比較的容易にできる高周波誘導加熱による焼入れが好適である。
【0021】
ここで、内輪3の端面を外側継手部材31の肩部33に衝合させた状態で、軸部34の先端に螺合した固定ナット35により緊締し、内方部材1と外側継手部材31とが着脱自在に締結されている。この固定ナット35の締付トルクを所定値に規制することにより、所望の軸受すきま範囲に管理することができる。なお、予め軸受を所望のすきま範囲に管理すると共にハブ輪に内輪を圧入し、ハブ輪のインボード側端部を外径方向に塑性変形させて加締部を形成し、この加締部によって内輪を位置決め固定する塑性結合による、所謂セルフリテイン方式の車輪用軸受装置であっても良い。」
(エ)「【0026】図2(a)に示す実施形態では、前述した実施形態と同様、ハブ輪2の車輪取付フランジ4の外径4aを従来より大径に形成し、ブレーキロータRの内径Raに所定の案内すきまを介して車輪取付フランジ4が嵌挿されている。一方、ブレーキロータRの内径部に鍔部8を形成し、この鍔部8の外径に所定の案内すきまを介して車輪Wが嵌挿されている。これにより、^(B)ブレーキロータRは、車輪取付フランジ4の外径4aによって径方向に案内され、また、車輪WはブレーキロータRによって径方向に案内され、ハブ輪2とブレーキロータRおよび車輪Wとの芯合わせが行われて三者の軸心が一致する。したがって、アウトボード側端部には、従来のようなパイロット部は不要となり、装置の軽量・コンパクト化を図ることができる。」
(オ)【図1】,【図2】(a)に図示された事項から、「車輪取付フランジ4の内径側で固定ナット35の座面としての僅かな凹部」が設けられていることが明らかである。

以上の(ア)?(エ)の記載事項の内容及び【図1】,【図2】(a)の図示内容とを総合すると、上記刊行物1には、
「内周に複列の外側転走面10a、10aを有し、ナックルNに固定される外方部材10と、車輪取付けフランジ4を一体に有するハブ輪2、およびハブ輪2の小径段部5に圧入された一つの内輪3からなり、ハブ輪2及び小径段部5の外周に前記外側転走面10a、10aと対向する複列の内側転走面2a、3aを有する内方部材1と、対向する外側転走面10a、10aと内側転走面2a、3aとの間に配置された複列の転動体20,20と、ハブ輪2とトルク伝達可能に結合された外側継手部材31を含む等速自在継手30とを有する車輪用軸受装置において、
その外径に車輪Wが嵌挿されている鍔部8をブレーキロータRの内径部に所定の案内すきまを介して形成すると共に、ハブ輪2の車輪取付フランジ4の外径によってブレーキロータRが径方向に案内され、内輪3の端面を外側継手部材31の肩部33に衝合させた状態で外側継手部材31の軸部34の先端に螺合した固定ナット35により緊締し、内方部材1と外側継手部材31とが着脱自在に締結されていると共に、車輪取付フランジ4の内径側で固定ナット35の座面としての僅かな凹部を設けた車輪用軸受装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

[刊行物2]特開2006-142983号公報(査定時の引用例4)
車輪支持用ハブユニット、及び車輪支持用ハブユニットの軌道輪部材、並びにその製造方法に関する発明で、【図2】(a)(b)(c)(d)の各工程及び【図3】の段付きの窪み部31を備えた頭部32の据え込み成形例には、「ハブ輪全体を冷間鍛造によって形成する」構成(以下「刊行物2の記載事項」という。)が示されている。

以下、「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」する構成の周知例として周知例1?4、また、「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る構成の周知例として周知例5?8を例示する。
[周知例1]特開2005-335585号公報 (査定時の周知例)
【図2】に「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」する構成が示されている。
[周知例2]特開2003-090350号公報(査定時の周知例) 【図8】?【図11】に「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」する構成が示されている。
[周知例3]特開2001-171308号公報(査定時の周知例) 【図1】に「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」する構成が示されている。
[周知例4]特開2005-256938号公報(査定時の周知例) 【図2】に「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」する構成が示されている。
[周知例5]特開2002-070881号公報
【図2】に「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る構成が示されている。
[周知例6]特開平11-190346号公報
【図1】に「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る構成が示されている。
[周知例8]特開平11-240306号公報
【図1】に「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る構成が示されている。
[周知例8]国際公開第2005/028217号(特表2007-502734号公報を参照。)
Fig.1に「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る構成が示されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とは共に車輪用軸受装置の発明であり、その解決しようとする課題においても旋削加工が不可欠なパイロット部をブレーキロータに形成することによりハブ輪の低コスト化と軽量・コンパクト化ということで共通している。
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「複列の外側転走面10a、10a」は本願補正発明の「複数のアウタレース」に、以下同様に、「外方部材10」は「外方部材」に、「ナックルN」は「ナックル部材」に、「車輪取付けフランジ4」は「車輪取付けフランジ」に、「ハブ輪2」は「ハブ輪」に、「一つの内輪3」は「少なくとも一つの内輪」に、「複列の内側転走面2a、3a」は「複数のインナレース」に、「複数列の転動体20,20」は「複数列の転動体」に、「トルク伝達可能に結合された外側継手部材31を含む等速自在継手30」は「トルク伝達可能に結合された外側継手部材を含む等速自在継手」に、「ブレーキロータR」は「ブレーキロータ」に、それぞれ相当している。
上記(2)(エ)の「ブレーキロータの内径部にパイロット部を形成し、このパイロット部の外径に所定の案内すきまを介して車輪Wが嵌挿されている。」の記載及び【図2】(a)から、引用発明の「鍔部8」は、本願補正発明の「パイロット部」に相当し、引用発明の「その外径に車輪Wが嵌挿されている鍔部8をブレーキロータRの内径部に形成する」は、本願補正発明の「車輪内周に嵌合するパイロット部をブレーキロータに形成」に対応している。
上記(2)(イ)の「ハブ輪51は、一端部にブレーキロータRを介して車輪Wを取り付けるための車輪取付フランジ53を有し、他端部には内輪52を圧入する小径段部5が形成されている」の記載から、引用発明の「小径段部54」は本願補正発明の「ハブ輪の外周」に相当している。
また、上記(2)(エ)の「ブレーキロータRは、車輪取付フランジ4の外径4aによって径方向に案内され、また、車輪WはブレーキロータRによって径方向に案内され、ハブ輪2とブレーキロータRおよび車輪Wとの芯合わせが行われて三者の軸心が一致する」の記載及び【図2】(a)からみて、引用発明の「ハブ輪51の車輪取付フランジ53の外径によってブレーキロータRが径方向に案内されている」は、 本願補正発明の「ハブ輪の車輪取付フランジの外径をブレーキロータの案内面にし」に対応している。
さらに、引用発明の「内輪3の端面を外側継手部材31の肩部33に衝合させた状態で外側継手部材31の軸部34の先端に螺合した固定ナット35により緊締し、内方部材1と外側継手部材31とが着脱自在に締結されている」も「この固定ナット35の締付トルクを所定値に規制することにより、所望の軸受すきま範囲に管理することができる。」(上記(2)(イ))ものであるから、本願補正発明の「外側継手部材に螺合したナット部材の締め込みでハブ輪に対する内輪の軸方向の位置決めを行う」に対応している。

そこで、本願補正発明と引用発明とは、
「内周に複数のアウタレースを有し、ナックル部材に固定される外方部材と、車輪取付けフランジを一体に有するハブ輪、およびハブ輪の外周に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記アウタレースと対向する複数のインナレースを有する内方部材と、
対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体と、ハブ輪とトルク伝達可能に結合された外側継手部材を含む等速自在継手とを有する車輪用軸受装置において、
車輪内周に嵌合するパイロット部をブレーキロータに形成すると共に、ハブ輪の車輪取付フランジの外径をブレーキロータの案内面にし、外側継手部材に螺合したナット部材の締め込みでハブ輪に対する内輪の軸方向の位置決めを行うことを特徴とする車輪用軸受装置。」の点で一致し、
以下の点で相違する。
(相違点)
相違点a:本願補正発明では、「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さくし」ているのに対して、引用発明においては、そのような構成が不明である点。
相違点b:本願補正発明では、「ナット部材からの締め込み力を受けるハブ輪の座面を冷間鍛造で形成」するのに対し、引用発明においては、「ハブ輪の座面を冷間鍛造で形成」する点についての明確な言及がない点。
相違点c:本願補正発明では、「車輪取付けフランジの内径側で、かつ該フランジの軸方向全域にわたり、前記座面を有するナット収容部を設けた」のに対し、引用発明においては、「車輪取付フランジ4の内径側で固定ナット35の座面としての僅かな凹部」が設けられているものの「フランジの軸方向全域にわたる」ものではなく「ナット収容部」とは言い難い点。

(4)判断
<相違点a> について、
「内周に複数のアウタレースを有し、ナックル部材に固定される外方部材と、車輪取付けフランジを一体に有するハブ輪、およびハブ輪の外周に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記アウタレースと対向する複数のインナレースを有する内方部材と、対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体と、ハブ輪とトルク伝達可能に結合された外側継手部材を含む等速自在継手とを有する車輪用軸受装置」においては、取り付けの容易性を考慮して「等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さく」することは、周知例1ないし周知例4に示されているように当該分野では周知の技術であるから、引用発明に該周知技術を組み合わせることは、当業者なら適宜成し得る設計的な事項に過ぎないと認められる。

<相違点b> について、
上記刊行物2には「ハブ輪全体を冷間鍛造によって形成する」構成が記載されている。この記載を勘案すると、冷間鍛造を引用発明のハブ輪に適用して、上記相違点bにかかる構成である「ナット部材からの締め込み力を受けるハブ輪の座面を冷間鍛造で形成」する程度のことは、当業者であれば容易に想到なし得ることと認められる。

<相違点c> ついて、
「車輪取付けフランジの内径側で、座面を有するナット収容部を設け」る点は、上記周知例5ないし周知例8に示されているとおり当該分野における周知技術であって、この周知技術を引用発明における車輪取付けフランジの内径側の固定ナット35の座面に適用して、上記相違点cにかかる構成である「座面を有するナット収容部を設け」る構成とすることは、当業者であれば容易に想到なし得たことと認められる。
また、ナット収容部の深さは、外側継手部材とフランジ部の厚み、ブレーキロータの位置関係を考慮して適宜設定する事項であって「フランジの軸方向全域にわたり」なる深さを選択することは、当業者が適宜なし得た設計事項と認められる。さらに、本願補正発明における「フランジの軸方向全域にわたり」の限定は、そうすることによる技術的意義をみいだすことができないものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び刊行物2の記載事項と周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2の記載事項と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3本願発明について
(1)本願第1発明
平成19年11月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年5月14日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、請求項1に係る発明(以下「本願第1発明」という。)は以下のとおりである。
「内周に複数のアウタレースを有し、ナックル部材に固定される外方部材と、車輪取付けフランジを一体に有するハブ輪、およびハブ輪の外周に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記アウタレースと対向する複数のインナレースを有する内方部材と、
対向するアウタレースとインナレースとの間に配置された複数列の転動体と、ハブ輪とトルク伝達可能に結合された外側継手部材を含む等速自在継手とを有する車輪用軸受装置において、
車輪内周に嵌合するパイロット部をブレーキロータに形成すると共に、ハブ輪の車輪取付けフランジの外径部をブレーキロータの案内面にし、かつ等速自在継手の最大外径寸法を、ナックル部材の最小内径寸法よりも小さくしたことを特徴とする車輪用軸受装置。」

(2)刊行物等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物等、および、その記載事項は、前記「2(2)」に記載したとおりである。

(3)判断
本願第1発明は、前記2で検討した本願補正発明から「内輪」の「圧入」に関する限定事項である「外側継手部材に螺合したナット部材の締め込みでハブ輪に対する内輪の軸方向の位置決めを行うと共に、ナット部材からの締め込み力を受けるハブ輪の座面を冷間鍛造で形成し、」の構成と、「ハブ輪」の限定事項である「車輪取付けフランジの内径側で、かつ該フランジの軸方向全域にわたり、前記座面を有するナット収容部を設け」の構成を省いたものである。
そうすると、本願第1発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2(4)」に記載したとおり、引用発明及び刊行物2の記載事項と周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願第1発明も、同様の理由により、引用発明及び刊行物2の記載事項と周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用発明及び刊行物2の記載事項と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-26 
結審通知日 2009-05-27 
審決日 2009-06-09 
出願番号 特願2006-190356(P2006-190356)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
P 1 8・ 575- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 渡邉 洋
中川 真一
発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 田中 秀佳  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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