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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1201062
審判番号 不服2008-5162  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-03 
確定日 2009-07-21 
事件の表示 特願2002-360109「平行平面研磨装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-188546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成14年12月12日の特許出願であって、同19年9月14日付で拒絶の理由が通知され、同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同20年1月29日付で拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同年3月3日に本件審判の請求がされ、同年3月14日に明細書を補正対象書類とする手続補正(以下「本件補正」という。)がされ、同21年1月27日に回答書が提出されたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は特許請求の範囲を含む明細書について補正をするものであって、補正前の請求項1ないし3、及び補正後の請求項1の記載は以下のとおりである。

(1) 補正前の請求項1ないし3
「【請求項1】
定盤、樹脂・布等のパッドを貼った定盤、または、研磨用ペレットを貼り付けた定盤によりワークを研磨する平行平面研磨装置において、
定盤は定盤回動体を介して回動自在に軸支されるとともにこの定盤回動体に回動子が設けられ、また、回動子の下側で対向するようにベース部に固定子が設けられ、これら回動子および固定子により形成される定盤駆動源により定盤が回転駆動されることを特徴とする平行平面研磨装置。
【請求項2】
ウェイトを介して取り付けられるドライブ部により回転駆動されるワークホルダと、定盤と、の間に挟み込まれた状態でワークが保持され、ワークホルダおよび定盤を回転させてワークの片面を研磨する平行平面研磨装置において、
定盤が定盤回動体とベース部との間に軸受け部が介在してベース部に回動自在に軸支されるとともに、定盤回動体に回動子が設けられ、また、回動子の下側で対向するようにベース部に固定子が設けられて、回動子および固定子により形成される定盤駆動源により定盤が回転駆動されることを特徴とする平行平面研磨装置。
【請求項3】
外周に歯面を形成するとともに回転方向に複数個のワーク保持孔を穿設したキャリアを、水平面内に配置された太陽歯車と内歯歯車との間に複数個噛合わせておき、このワーク保持孔にワークを挿入するとともにキャリアの表裏両面を下定盤と上下動可能な上定盤との間に挟み込んだ状態にして、太陽歯車と内歯歯車とを回転させることでキャリアを遊星運動させ、同時に下定盤および上定盤をキャリアに対して相対的に回転させてワークを研磨する平行平面研磨装置において、
上定盤に取り付けられて一体に回動する上定盤回動体と、
下定盤に取り付けられて一体に回動する下定盤回動体と、
太陽歯車に取り付けられて一体に回動する太陽歯車回動体と、
内歯歯車に取り付けられて一体に回動する内歯歯車回動体と、
上定盤回動体に取り付けられる上定盤回動子と、
下定盤回動体に取り付けられる下定盤回動子と、
太陽歯車回動体に取り付けられる太陽歯車回動子と、
内歯歯車回動体に取り付けられる内歯歯車回動子と、
上定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる上定盤固定子と、
下定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる下定盤固定子と、
太陽歯車回動子の横側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子と、
内歯歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる内歯歯車固定子と、
を備え、
上定盤および上定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに上定盤回動子および上定盤固定子により上定盤駆動源が形成され、
下定盤および下定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに下定盤回動子および下定盤固定子により上定盤駆動源が形成され、
太陽歯車及び太陽歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに太陽歯車回動子および太陽歯車固定子により太陽歯車駆動源が形成され、
内歯歯車及び内歯歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに内歯歯車回動子および内歯歯車固定子により内歯歯車駆動源が形成され、
上定盤駆動源により上定盤が、下定盤駆動源により下定盤が、太陽歯車駆動源により下定盤が、および内歯歯車駆動源により内歯歯車がそれぞれ回転駆動されることを特徴とする平行平面研磨装置。」

(2) 補正後の請求項1
「外周に歯面を形成するとともに回転方向に複数個のワーク保持孔を穿設したキャリアを、水平面内に配置された太陽歯車と内歯歯車との間に複数個噛合わせておき、このワーク保持孔にワークを挿入するとともにキャリアの表裏両面を下定盤と上下動可能な上定盤との間に挟み込んだ状態にして、太陽歯車と内歯歯車とを回転させることでキャリアを遊星運動させ、同時に下定盤および上定盤をキャリアに対して相対的に回転させてワークを研磨する平行平面研磨装置において、
上定盤に取り付けられて一体に回動する上定盤回動体と、
下定盤に取り付けられて一体に回動する下定盤回動体と、
太陽歯車に取り付けられて一体に回動する太陽歯車回動体と、
内歯歯車に取り付けられて一体に回動する内歯歯車回動体と、
上定盤回動体に取り付けられる上定盤回動子と、
下定盤回動体に取り付けられる下定盤回動子と、
太陽歯車回動体に取り付けられる太陽歯車回動子と、
内歯歯車回動体に取り付けられる内歯歯車回動子と、
上定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる上定盤固定子と、
下定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる下定盤固定子と、
太陽歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子と、
内歯歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる内歯歯車固定子と、
冷却媒体を流通させるため上定盤固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、
冷却媒体を流通させるため下定盤固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、
冷却媒体を流通させるため太陽歯車固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、
冷却媒体を流通させるため内歯歯車固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、
を備え、
上定盤および上定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに上定盤回動子および上定盤固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源であって内部流路を流通する冷却媒体により冷却されながら駆動する上定盤駆動源と、
下定盤および下定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに下定盤回動子および下定盤固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源であって内部流路を流通する冷却媒体により冷却されながら駆動する下定盤駆動源と、
太陽歯車および太陽歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに太陽歯車回動子および太陽歯車固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源であって内部流路を流通する冷却媒体により冷却されながら駆動する太陽歯車駆動源と、
内歯歯車および内歯歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに内歯歯車回動子および内歯歯車固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源であって内部流路を流通する冷却媒体により冷却されながら駆動する内歯歯車駆動源と、
をさらに有し、上定盤駆動源により上定盤が、下定盤駆動源により下定盤が、太陽歯車駆動源により太陽歯車が、および内歯歯車駆動源により内歯歯車がそれぞれダイレクトドライブで回転駆動されるとともに、前記ベース部の冷却媒体を流通させる内部流路により上定盤駆動源、下定盤駆動源、太陽歯車駆動源、および内歯歯車駆動源からの発熱が放熱されることを特徴とする平行平面研磨装置。」

なお、補正後の請求項1には、太陽歯車固定子について、「太陽歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子」と記載されているが、補正前の請求項3には、「太陽歯車回動子の横側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子」と記載され、また、平成21年1月27日の回答書に上記「下側」を「横側」に補正したい旨記載されていることから、補正後の請求項1の「太陽歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子」は、「太陽歯車回動子の横側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子」の誤記であると認める。

2 補正の適否
補正後の請求項1に係る補正は、審判請求理由の「(2)補正の根拠の明示」によれば、補正前の請求項3の記載事項等を根拠とするものである。
補正前の請求項3を補正後の請求項1とする補正は、上定盤駆動源、下定盤駆動源、太陽歯車駆動源、および内歯歯車駆動源をいずれも「ダイレクトドライブ」とし、ベース部に「内部流路」を形成し、内部流路を流通する冷却媒体により上定盤駆動源、下定盤駆動源、太陽歯車駆動源および内歯歯車駆動源を冷却する旨の限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

(1) 補正発明
補正発明は、本件補正により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、上記1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2) 引用例記載事項
この出願前に頒布され、拒絶理由で引用された刊行物である特開平6-278014号公報(以下「引用例1」という。)、特開2000-127033号公報(以下「引用例2」という。)及び特開平10-205537号公報(以下「引用例3」という。)には、以下のとおり記載されている。

ア 引用例1
(ア) 1欄35行-2欄26行
「【0003】第3図は従来のプラネタリ型の4軸駆動の研磨装置の一例を示す研磨盤の断面図で、たとえば電動機等の単一の駆動源1の駆動力を遊星駆動機構2により4軸に分離して、所定の回転方向と回転速度で同軸に設けた第1、第2、第3および第4の駆動軸3、4、5、6にそれぞれ分け与えて回転駆動するようにしている。そして遊星駆動機構2の上面に、下定盤7を配設している。この下定盤7は、たとえば中央に透孔を有する円盤状の硬質鋼材で、上記第3の駆動軸5によって回転駆動するようにしている。そして、この下定盤6の中心部を貫通して内周に太陽ギア8、外周にインターナルギア9をそれぞれ配設している。この太陽ギア8は上記第2の駆動軸4で回転駆動し、インターナルギア9は上記第4の駆動軸6で回転駆動するようにしている。
【0004】そして、上記下定盤7に対面して上定盤10を設けている。この上定盤10も円盤状の硬質鋼材で、第1の駆動軸3および駆動ギア11を介して回転駆動するようにしている。なお上定盤10は、図示しないエアシリンダによって昇降自在に保持している。さらに上定盤10と下定盤7の間には金属薄板からなるキャリア14を配設している。キャリア14は、水晶片等の研磨すべき被研磨物15を保持するために多数の保持孔14aを形成した遊星歯車である。そしてキャリア14は、太陽ギア8とインターナルギア9の間に配設されて、その双方に歯合して回転力を与えられて遊星運動を行う。
【0005】そして遊星駆動機構2により、太陽ギア8とインターナルギア9は同方向に、上定盤10と下定盤7とは互いに反対方向に回転駆動するようにしている。したがって、水晶片15をキャリア14の保持孔14aに保持し、さらに上定盤10を下降させ、太陽ギア8、インターナルギア9、上定盤10、下定盤7をそれぞれ回転駆動する。このようにすれば、水晶片15は、その板面に直角な方向に上定盤10の重量によって適度な加重を与えられて下定盤7に押圧され、キャリア14とともに遊星運動を行なう。そして水晶片15の表裏板面を平行に研磨することができる。なおキャリア13は、たとえば数10ミクロン程度の厚みの金属薄板で、この厚みは研磨すべき水晶片14の厚みよりも薄くなるようにしている。そして、上定盤10、下定盤7間にはカーボランダム等の研磨材を水に溶かして投入して研磨作業を行うようにしている。」
(イ) 3欄25-末行
「【実施例】以下、本発明の一実施例を、第1図に示す研磨盤のブロック図を参照して詳細に説明する。なお第3図と同一部材には同一符号を付与してその説明を省略する。すなわち、第1、第2、第3および第4の駆動軸3、4、5、6の軸端にはそれぞれ平歯車21、22、23、24を設けている。そして上記第1ないし第4の駆動軸3、4、5、6にそれぞれ対応して第1ないし第4の駆動源(たとえばモータ)25、26、27、28を設け、これらの回転力を各駆動源25、26、27、28毎に設けた駆動歯車29を介して上記各平歯車21、22、23、24へ伝達して回転駆動するようにしている。しかして各駆動源21、22、23、24は、互いに独立して対応する駆動軸に連結し、かつ周知の構造を有する速度制御装置30、31、32、33によって回転速度を制御するようにしている。各速度制御装置30、31、32、33は研磨作業の開始によって対応する駆動源25、26、27、28を起動すると所定の速度制御パターンとなるように回転速度を制御するようにしている。」

上記摘記事項を図面を踏まえつつ整理すると、引用例1には、次の事項が記載されていると認める。

「外周に歯面を形成するとともに複数個の保持孔(14a)を穿設したキャリア(14)を、水平面内に配置された太陽ギア(8)とインターナルギア(9)との間に複数個噛合わせておき、この保持孔(14a)に被研磨物(15)を挿入するとともにキャリア(14)の表裏両面を下定盤(7)と上下動可能な上定盤(10)との間に挟み込んだ状態にして、太陽ギア(8)とインターナルギア(9)とを回転させることでキャリア(14)を遊星運動させ、同時に下定盤(7)および上定盤(10)をキャリア(14)に対して相対的に回転させて被研磨物(15)を研磨するプラネタリ型研磨装置において、
上定盤(10)に取り付けられて一体に回動する第1の駆動軸(3)と、下定盤(7)に取り付けられて一体に回動する第3の駆動軸(5)と、太陽ギア(8)に取り付けられて一体に回動する第2の駆動軸(4)と、インターナルギア(9)に取り付けられて一体に回動する第4の駆動軸(6)と、
駆動歯車(29)および平歯車(21)を介して第1の駆動軸(3)を回転駆動する第1の駆動源(25)と、駆動歯車(29)および平歯車(23)を介して第3の駆動軸(5)を回転駆動する第3の駆動源(27)と、駆動歯車(29)および平歯車(22)を介して第2の駆動軸(4)を回転駆動する第2の駆動源(26)と、駆動歯車(29)および平歯車(24)を介して第4の駆動軸(6)を回転駆動する第4の駆動源(28)と、
を備え、
第1の駆動源(25)により上定盤(10)が、第3の駆動源(27)により下定盤(7)が、第2の駆動源(26)により太陽ギア(8)が、第4の駆動源(28)によりインターナルギア(9)がそれぞれ回転駆動されるプラネタリ型研磨装置。」(以下「引用例1記載の発明」という。)

イ 引用例2
(ア) 2欄9-41行
「各々の部分の駆動方式は、駆動源たるモータの回転を減速機等の手段を用いて所定の回転数に落とし、それをベルトあるいはチェーン等を用いて回転体である定盤等に伝達して行く方式を採る。
【0005】上述の方式は、通常の電動モータの高速回転をギア変速による減速機により低速高トルク回転に変換するものであるから、その減速機は相対的に形の大きなものとなり、その回転の伝達機構とを併せるとスペース的に大きく、性能の割には大型の装置となり、同時に重量的にも大変重たい装置となる。そのため、設置場所も限定され、簡便型装置とは言い難かった。
【0006】このような従来の研磨装置は次のような問題点を擁する。すなわち、ギア変速に特有な発熱があり、高精密な加工を行なうためには、この減速機からの熱を定盤に伝えないようにするために、断熱用の遮蔽板を設けたり、通風装置を設けたりすることも必要となり、上述の大型化、重量化の方向に益々拍車をかけることになっていた。更に、被加工体のサイズが大きくなったり、あるいは高生産性の要求を達成するためには定盤の有効径を大きくする傾向があり、その傾向はより顕著になりつつある。更にまた、加工液の供給経路が上部にあると、研磨装置の上部が供給ホースなどで複雑になり、必然的に装置が大型化してしまう要因ともなるといった問題もあった。
【0007】更に、この減速機は、回転に伴い振動を起こしやすくそれが研磨精度を低下させる要因ともなっていた。すなわち、この振動があるがために、被加工体の加工面の面粗さやTTV(トータルシックネスバリェーション)を悪化させるのみならず、被加工体の除去量を検知する定寸装置の精度を狂わしたりする問題点があげられており、また更に、騒音を起こしたりする弊害も挙げられていた。」

(イ) 3欄3-9行
「【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、上述の従来の方式による研磨装置の持つ問題点に鑑み、鋭意検討を行なった結果、ダイレクトドライブモータを用いることによりこれらの問題点が解決し得ることを見出し本発明を完成するに至ったものであり、その目的とする所は、発熱が少なく、嵩張らず軽量で、加工精度に優れかつ騒音や汚染の少ない研磨装置を提供することにある。」

(ウ) 3欄37-46行
「【発明の実施の形態】本発明になる研磨装置の一実施例を図面によって説明する。図1は本発明になる研磨装置である。図面において定盤1は回転軸5に連結し、該回転軸5の下部はダイレクトドライブモータ6(以下DDモータと略記する)に直結して回転駆動されるようになっている。すなわち、回転軸にはロータヨーク9が取り付けられており、ロータ8の周囲を囲むステータ7とによりDDモータ6を形成している。つまり、回転軸5は定盤1の回転軸であり、同時にDDモータ6の回転軸でもある。」

(エ) 4欄43行-5欄4行
「【発明の効果】図1の実施例に示した通り、本発明による装置は、従来の装置にあった減速機および運動の伝達機構の組み込の必要がないため、形状的には極めてコンパクトで軽量なものとなり、その設置面積は小さく特に、その高さをあまり高くしなくてよいという利点がある。すなわち、従来の大型の装置に相当する装置であっても、作業性のよいコンパクトなものとすることができる。また、減速機の温度上昇による定盤の温度の上昇の心配もないので熱遮蔽板や通風装置等の設置に関しても不必要である。更に、減速機や動力伝達機構に起因する振動がないので、加工における形状精度および仕上げ面粗さを格段に向上させることが可能である。」

上記摘記事項より、また、ステータ(7)がベース部に取り付けられ、定盤(1)および回転軸(5)が回動自在に軸支されていることが技術常識より明らかであることより、引用例2には、モータの回転をギアを用いて変速することにより研磨精度が低下し、装置が大型化する問題点を解決するために、モータにより定盤をダイレクトドライブで回転駆動する次の事項が記載されていると認める。

「研磨装置において、定盤(1)に取り付けられて一体に回動する回転軸(5)と、回転軸(5)に取り付けられるロータ(8)と、ロータ(8)に対向するようにベース部に取り付けられるステータ(7)と、定盤(1)および回転軸(5)が回動自在に軸支されるとともにロータ(8)およびステータ(7)により形成されるダイレクトドライブモータ(6)とを備え、ダイレクトドライブモータ(6)により定盤(1)をダイレクトドライブで回転駆動すること。」(以下「引用例2記載の技術的事項」という。)

ウ 引用例3
(ア) 1欄30-36行
「【発明の属する技術分野】本発明は、精密工作機械の主軸に使用される静圧軸受装置に関し、特に、精密工作機械に装備した際、工作機械本体に熱変形等の悪影響を与えることがなく、また、停止時と回転時に軸受け隙間が変化しないため、軸受けと軸との接触事故や、剛性変動による加工精度劣化を防止できるようにした回転型の静圧軸受装置に関するものである。」

(イ) 3欄48行-4欄10行
「【0014】12はスラストハウジング3に固定されたモータコイル、13は回転軸1と一体になったモータマグネットであり、両者によりダイレクトドライブモータを形成している。このモータは、接触部がないため、高い回転精度と耐久性が得られる。14は主軸回転数(回転軸1の回転数)を検出するためのエンコーダのエンコーダディスクであり、15はエンコーダの信号検出部である。主軸回転数の制御は図示しないモータドライバがエンコーダの出力を受け取って、モータの出力を制御することにより行なう。16は主にラジアル軸受け4の発熱を抑えるためのラジアル冷却水路であり、17は主にスラスト軸受け5の発熱とモータコイル12の発熱を吸収するためのスラスト冷却水路である。」

上記摘記事項より、引用例3には、次の事項が記載されていると認める。
「精密工作機械において、回転軸(1)と一体になったモータマグネット(13)とスラストハウジング(3)に固定されたモータコイル(12)とによりダイレクトドライブモータを形成し、モータコイル(12)の発熱を吸収するために、スラストハウジング(3)にスラスト冷却水路(17)を設けて冷却水を循環させること。」(以下「引用例3記載の技術的事項」という。)

(3) 対比
補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「保持孔(14a)」は、補正発明の「ワーク保持孔」に相当しており、以下同様に、「太陽ギア(8)」は「太陽歯車」に、「インターナルギア(9)」は「内歯歯車」に、「被研磨物(15)」は「ワーク」に、「プラネタリ型研磨装置」は「平行平面研磨装置」に、「第1の駆動源(25)」は「上定盤駆動源」に、「第3の駆動源(27)」は「下定盤駆動源」に、「第2の駆動源(26)」は「太陽歯車駆動源」に、「第4の駆動源(28)」は「内歯歯車駆動源」にそれぞれ相当している。
よって、両者は、次の「平行平面研磨装置」で一致している。

「外周に歯面を形成するとともに複数個のワーク保持孔を穿設したキャリアを、水平面内に配置された太陽歯車と内歯歯車との間に複数個噛合わせておき、このワーク保持孔にワークを挿入するとともにキャリアの表裏両面を下定盤と上下動可能な上定盤との間に挟み込んだ状態にして、太陽歯車と内歯歯車とを回転させることでキャリアを遊星運動させ、同時に下定盤および上定盤をキャリアに対して相対的に回転させてワークを研磨する平行平面研磨装置において、
上定盤駆動源と、下定盤駆動源と、太陽歯車駆動源と内歯歯車駆動源と、 を備え、
上定盤駆動源により上定盤が、下定盤駆動源により下定盤が、太陽歯車駆動源により太陽歯車が、および内歯歯車駆動源により内歯歯車がそれぞれ回転駆動される平行平面研磨装置。」

そして、両者は、次の点で相違している。
ア 相違点1
補正発明では、キャリアに複数個のワーク保持孔が回転方向に穿設されているのに対し、引用例1記載の発明では、そのような方向に穿設されているのか明らかではない点。

イ 相違点2
補正発明では、
「上定盤に取り付けられて一体に回動する上定盤回動体と、下定盤に取り付けられて一体に回動する下定盤回動体と、太陽歯車に取り付けられて一体に回動する太陽歯車回動体と、内歯歯車に取り付けられて一体に回動する内歯歯車回動体と、
上定盤回動体に取り付けられる上定盤回動子と、下定盤回動体に取り付けられる下定盤回動子と、太陽歯車回動体に取り付けられる太陽歯車回動子と、内歯歯車回動体に取り付けられる内歯歯車回動子と、
上定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる上定盤固定子と、下定盤回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる下定盤固定子と、太陽歯車回動子の横側で対向するようベース部に取り付けられる太陽歯車固定子と、内歯歯車回動子の下側で対向するようベース部に取り付けられる内歯歯車固定子と、
を備え、
上定盤および上定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに上定盤回動子および上定盤固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源である上定盤駆動源と、下定盤および下定盤回動体が回動自在に軸支されるとともに下定盤回動子および下定盤固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源である下定盤駆動源と、太陽歯車および太陽歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに太陽歯車回動子および太陽歯車固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源である太陽歯車駆動源と、内歯歯車および内歯歯車回動体が回動自在に軸支されるとともに内歯歯車回動子および内歯歯車固定子により形成されるダイレクトドライブの駆動源である内歯歯車駆動源と、
をさらに有し、上定盤駆動源により上定盤が、下定盤駆動源により下定盤が、太陽歯車駆動源により太陽歯車が、および内歯歯車駆動源により内歯歯車がそれぞれダイレクトドライブで回転駆動される」のに対し、
引用例1記載の発明では、回転駆動されるもののダイレクトドライブではない点。

ウ 相違点3
補正発明では、
「冷却媒体を流通させるため上定盤固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、冷却媒体を流通させるため下定盤固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、冷却媒体を流通させるため太陽歯車固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、冷却媒体を流通させるため内歯歯車固定子が取り付けられたベース部に形成される内部流路と、
を備え、
それぞれの内部流路を流通する冷媒流体により、上定盤駆動源、下定盤駆動源、太陽歯車駆動源、および内歯歯車駆動源からの発熱が放熱される」のに対し、
引用例1記載の発明では、放熱機構を有するか明らかでない点。

(4) 相違点の検討
そこで、上記各相違点について、以下検討する。

ア 相違点1について
キャリアに複数個のワーク保持孔を回転方向に穿設することは、キャリアの構成から導かれる設計的事項にすぎない。

イ 相違点2について
上記(2)のイのとおり、引用例2には、駆動源の回転を歯車を用いて変速することにより生じる研磨精度の低下、装置の大型化の問題点とこの問題点を解決するための技術的事項が記載されており、また、引用例1記載の発明は、駆動源の回転を歯車を用いて変速するものであるので、この歯車を用いた変速により生じる上記問題点を解決するために、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項を採用することに格別の困難性はない。
そして、上記採用に際し、引用例1記載の発明は、上定盤駆動源と、下定盤駆動源と、太陽歯車駆動源および内歯歯車駆動源の4つの駆動源を有し、いずれの駆動源も同様な機構であるので、これらのすべての駆動源をダイレクトドライブの駆動源とすることにも格別の困難性はない。
また、回動子(ロータ)を回転対象側とし、固定子(ステータ)を固定部側とすることは当然であり、その配置について、回動子の下側で対向するよう固定子を取り付けたり、回動子の横側で対向するよう固定子を取り付けたりすることは、例えば特開2002-303322号公報の図1,図4おける4a、4bにみられるように、いずれも周知である。
したがって、引用例1記載の発明に、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の各事項を採用することにより、相違点2に係る事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

ウ 相違点3について
ダイレクトドライブの駆動源が発熱することは、例示するまでもなく周知であり、また、引用例1記載の発明である研磨装置のような高い加工精度が要求される工作機械において、冷却媒体により本体の熱変形を防止することも、周知である。
しかも、引用例3には、上記(2)のウのとおり、ダイレクトドライブの駆動源の発熱を吸収することが記載されている。
したがって、上記のとおり、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の各事項を採用して、4つの駆動源をすべてダイレクトドライブの駆動源とするに際し、さらに引用例3記載の技術的事項のごとく周知の事項を採用して、4つの駆動源をすべて冷却するものとし、相違点3に係る事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

エ 補正発明の作用効果について
補正発明が奏する作用効果は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項、及び上記周知の各事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。
したがって、補正発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項、及び上記従来周知の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、請求人は、回答書において、補正の示唆を希望しているが、法令上の根拠がない。
当然のことであるが、製品の価値と、特許性の有無とは、別問題である。

3 むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1乃至5に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1の(1)の補正前の請求項3に示したとおりである。

2 引用例記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に上記引用例1乃至3が引用されておりその記載事項は、上記第2の2の(2)に示したとおりである。

3 対比・判断
補正発明は、上記第2の2の(4)で検討したとおり、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項、及び上記従来周知の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願発明は、上記第2の2で述べたとおり、補正発明の発明特定事項から、上記限定事項が省かれているものであり、そして、上記限定事項は、上記相違点3に相当する。
したがって、補正発明の発明特定事項から上記限定事項が省かれた本願発明は、上記第2の2の(4)のアの相違点1について及びイの相違点2についてで述べたと同様の理由により、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、この出願の請求項1、2、4及び5に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-25 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願2002-360109(P2002-360109)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24B)
P 1 8・ 575- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 筑波 茂樹  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 豊原 邦雄
鈴木 敏史
発明の名称 平行平面研磨装置  
代理人 森田 雄一  

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