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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M |
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管理番号 | 1201371 |
審判番号 | 不服2006-16002 |
総通号数 | 117 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-26 |
確定日 | 2009-07-30 |
事件の表示 | 特願2004-328146「燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 1日出願公開、特開2006-140012〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年11月11日の出願であって、平成18年6月16日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年7月26日に審判請求がされるとともに、同年8月24日付けで手続補正がされ、同年10月25日付けで前置審査における拒絶理由が通知され、同年12月28日付けで手続補正がされた。 その後、平成19年3月16日に本願についての前置報告がされたので、平成20年2月28日付けで当審において前置報告に基づく審尋を行ったところ、同年5月2日付けで回答書が提出され、同年9月19日に、請求人と面接を行い、同年10月20日付けで上申書及び手続補足書が提出された。 そこで、同11年28日付けで当審拒絶理由を通知したところ、平成21年1月28日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 この出願の請求項1,2に係る発明は、平成21年1月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。 「酸性水型燃料電池において、電解質として純水を電気分解しているときに陽極近傍に生成される陽子水であって水酸化物イオン水で中和して水にすることができ中和塩を生じない陽子水を使用することを特徴とする燃料電池。」(以下、「本願発明」という。) 第3 当審の拒絶理由 当審における拒絶査定の理由の一つは、この出願は、発明の詳細な説明が、請求項1,2にかかる発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項及第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。 第4 当審の判断 1.発明の詳細な説明の記載 本願の願書に添付した明細書及び図面(平成21年1月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面。以下、「本願明細書等」という。)の発明の詳細な説明には、【0011】?【0017】に【発明を実施するための最良の形態】として、以下の記載がされている。 「【0011】 図1に陽子水型燃料電池の模式図を示す。水素ガスは燃料極気体拡散層1を通り、燃料極層2において、水素イオンH+(陽子)になり、電解質溶液保持層(セルロースまたは布)3に入る。酸素ガスは、空気極気体拡散層5を通り、空気極層4で酸素イオンO_(2)^(-)になり、電解質溶液保持層(セルロースまたは布)3に入る。陽子水に触れる部分の構造材6はポリプロピレンである。電解質溶液は電解質溶液導入口7から入れて、電解質溶液排出口8から取り出すことができる。 【0012】 陽子水とは、純水を電気分解しているときに陽極近傍に生成する水のことであり、陽子(=水素イオン)を多く含み、酸性を示す水のことをいい、本発明では、燃料電池での反応における触媒を含まず、水酸化物イオン水で中和して水にすることができ中和塩を生じない陽子水を用いる。 【0013】 燃料電池での反応は式 H_(2) + (1/2)O_(2 )-> H_(2)O(液) + 68.3kcal で与えられる。 【0014】 電解質を含浸させる綿100%の布(電解質溶液保持層3)の厚みは厚いほど、機械的強度は高くなるが、電気抵抗も高くなり、効率低下を招く。反対に布の厚みを薄くすれば電気抵抗は低くなり、効率は高くなるが、0.1mm未満の厚みでは、薄すぎて短絡事故が起こり安くなる。従って、電解質を含浸させる綿100%の布の厚みは0.2mmから0.3mmが望ましい。 【0015】 電解質を陽子水に限定することにより、構造材として綿やポリプロピレンなどの安価な材料を使用する燃料電池を実現することができる。 【0016】 カソード(空気極層4)とアノード(燃料極層2)に白金を使用し、電解液として陽子水を使用し、マトリクス(電解質の陽子水を含浸させる基材:電解質溶液保持層3)に綿100%の布を用いた。 【0017】 陽子水型燃料電池PWFCの単電池(単セル)は陽子水を保持したマトリクス(電解質溶液保持層3)を、ガス拡散電極(空気極層4及び燃料極層2)で挟んだ板状の構造をとることが望ましい。この電池の空気極側に酸素(を含む空気)、燃料極側に水素(を含む改質ガス等)を流通し発電させる。通常は複数のセルを電気的に直列になるように積層したセルスタックとして使用する。」 2.発明の詳細な説明の記載の検討 本願明細書等の【0011】?【0017】には、本願発明1に係る燃料電池(以下、「陽子水型燃料電池」という。)の実施の形態に関連して、【0011】に陽子水型燃料電池の模式図の説明、【0012】に陽子水の定義、【0013】に水素を燃料とする燃料電池の反応式と反応熱、【0014】に電解質溶液保持層の材料及び厚さの説明、【0015】、【0016】に陽子水型燃料電池に使用するカソード、アノード、電解質、及び電解質溶液保持層の材料、【0017】にその使用態様についての一般的な説明が記載されていると認められる。 そうすると、上記の記載に基いて、陽子水型燃料電池としての各要素を有する組立体を組み立てることは、当業者にとって可能であると認められる。 しかし、燃料電池とは、実際に発電能力を示して初めて燃料電池といえるところ、発明の詳細な説明には、上記の組立体に関して、【0017】に「発電させる」との記載はあるものの、「発電させた」とする記載はされていないし、具体的な発電データも全く示されていない。 また、本願明細書等の全記載及び技術常識を加味しても、上記の陽子水型燃料電池としての各要素を有する組立体が、実際に発電し得るとの心証を得ることはできない。 したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に記載された発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 3. 請求人の主張に対する補足 なお、請求人は、平成20年10月20日付け上申書の手続補足書として、電解質にpH4.18の酸性水を使用した燃料電池において最大+0.34mVの起電力が生じる旨を示そうとする実験データを記載した書面の写しを提出し、平成21年1月28日付け意見書において、上記の起電力は、負荷抵抗が1オームの場合のものであって、負荷抵抗に数キロオームの一般的な機器を使用すれば、オームの法則により、実用的な電圧が得られるから、発明の詳細な説明は本願発明を当業者が実施可能な程度に記載したものである旨を主張していると認められる。 しかしながら、まず、「pH4.18の酸性水」が、本願発明の「陽子水」に相当することが自明であるとはいえないし、「pH4.18の酸性水」が「陽子水」であると証するに足る証拠が提出されているわけでもないから、上記の実験データが、本願発明の「陽子水型燃料電池」についてのものかどうか、不明である。 次に、仮に、上記の実験データが、本願発明の「陽子水型燃料電池」について得られたものであるとしても、オームの法則は、「V(電圧)=I(電流)×R(抵抗)」であって、当該燃料電池の負荷抵抗を1オームから数キロオームに変更した場合に、当該燃料電池の電流値がどのように変化するかは全く不明であるから、変更後の起電力が実用的なレベルに達するかどうかも、全く不明である。 したがって、請求人の上記主張は当を得たものではなく、陽子水型燃料電池の実施をすることができるのかどうか不明である。 よって、依然として、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度の明確且つ十分な記載がされているとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願は当審の拒絶理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-05-29 |
結審通知日 | 2009-06-02 |
審決日 | 2009-06-16 |
出願番号 | 特願2004-328146(P2004-328146) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01M)
P 1 8・ 536- WZ (H01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小川 進 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
鈴木 由紀夫 守安 太郎 |
発明の名称 | 燃料電池 |
代理人 | 内野 美洋 |
代理人 | 内野 美洋 |