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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20093483 審決 特許
無効2007800001 審決 特許
不服200720710 審決 特許
不服200520859 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1201647
審判番号 不服2006-10932  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-26 
確定日 2009-07-27 
事件の表示 平成9年特許願第527981号「局所的局所麻酔薬組成物を用いる頭痛の痛みを処置するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月26日国際公開,WO98/52567,平成13年8月21日国内公表,特表2001-512415〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成9年5月20日を国際出願日とする出願であって,平成16年2月26日付けの拒絶理由通知書に対して,その指定期間内である同年6月8日付けで手続補正がなされたが,さらに平成17年6月7日付けの拒絶理由通知書が通知されて,これに対して意見書が提出されたが,平成18年2月16日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年6月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年6月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年6月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]

(1)補正の内容

平成18年6月26日付けの手続補正書による補正(以下,単に「本件補正」という)は,特許請求の範囲の請求項1の記載を以下の通りに補正しようとするものである。
「【請求項1】
後頭部領域および眼窩上領域において,後頭部神経および眼窩上神経に近位の角質化皮膚部位において塗布するための,片頭痛およびそれに関連する痛みを,該片頭痛に関連する該後頭部神経および眼窩上神経における伝達をブロックすることにより処置するための局所的局所麻酔薬組成物であって,浸透増強剤としてのオイカリプトールと組み合わせた有効量の局所麻酔薬を含み,ここで該局所麻酔薬は接続基を介して芳香族基と連結したアミンである,局所的局所麻酔薬組成物。」(下線部は合議体において記入)

一方,本件補正前の請求項1(平成16年6月8日付け手続補正書の請求項1)の記載は,次のようなものである。
「【請求項1】
後頭部領域および眼窩上領域において,後頭部神経および眼窩上神経に近位の角質化皮膚部位において塗布するための,頭痛の痛みを,該頭痛の痛みが伴う該後頭部神経および眼窩上神経における伝達をブロックすることにより処置するための局所的局所麻酔薬組成物であって,浸透増強剤としてのオイカリプトールと組み合わせた有効量の局所麻酔薬を含み,ここで該局所麻酔薬は接続基を介して芳香族基と連結したアミンである,局所的局所麻酔薬組成物。」(下線部は合議体において記入)

すなわち,本件補正は,請求項1において「頭痛の痛み」なる記載を「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更することを含むものである。
(なお,本件補正は請求項3においても同様な変更を含むものである。)

(2)新規事項の追加
本件補正は,平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「旧特許法」という)第17条の2第3項の規定により,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないので,以下この点について検討する。

本件補正は,上記したように,補正前の「頭痛の痛み」なる記載を「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更することを含むものであることから,このような変更により,新たな技術事項が追加されたこととなるか否かについて検討する。
変更後の「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる表現は,「片頭痛」と「それに関連する痛み」(すなわち「片頭痛に関連する痛み」)の両者を含むものである。
前者の「片頭痛」は頭痛の一種であり,しかも本出願の願書に最初に添付した明細書(以下,「当初明細書」という。)の第8頁第12行以降の「実験」において対象としている患者が罹患している疾患であるので,当初明細書に記載した事項の範囲内であるとすることができる。
一方,「片頭痛に関連する痛み」については,かかる表現によって表される「痛み」とは如何なるものが含まれるのかが,その記載のみによっては明らかでない。そこで明細書の記載を参酌して解釈しようとするにしても,明細書には「片頭痛に関連する痛み」といったそのままの表現がないばかりでなく,この表現によって表される「痛み」とはどのようなものかについて説明した記載も,また,それを伺わせる記載も見あたらない。
そこで,「片頭痛に関連する痛み」なる表現を技術常識を加味して解釈するに,例えば,片頭痛に伴う肩の痛みや首の痛みなど,片頭痛に伴う頭以外の部位の痛みも含まれ得るものと解される。
これに対して,このような片頭痛に伴う頭以外の部位の痛みについても本願発明の対象とすることについて,当初明細書に記載した事項の範囲内とすることができる否かについて検討すると,当初明細書においては,一貫して「頭痛」或いは「片頭痛」について記載しているのみであって,「片頭痛に伴う頭以外の部位の痛み」について記載されているものとすることができないし,また,片頭痛に伴う頭以外の部位の痛みを対象とすることが,当初明細書の記載から自明な事項であるとすることもできない。
したがって,「頭痛の痛み」なる記載を「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更することは,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものとすることができない。
上記したように,本件補正は,「頭痛の痛み」なる記載を「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更することを含むものであって,しかもこのような変更は当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものとすることができないのであるから,本件補正は旧特許法第17条の2第3項の規定を満たすものとすることができない。

(3)補正の目的
次に,本件補正は,旧特許法第17条の2第4項各号の何れかの事項を目的とするものでなければならないので,以下この点について検討する。
上記(2-1)に記載したように,「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載は,片頭痛に伴う頭以外の部位の痛みをも含みうる記載である一方,補正前の明細書における「頭痛の痛み」なる表現は,通常は頭以外の部位の痛みを含む表現ではなく,また頭以外の部位の痛みをも含むものであることについて明細書に説明されているものではない。
してみると,補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「頭痛の痛み」を「片頭痛およびそれに関連する痛み」と変更することは,旧特許法第17条の2第4項第2号に該当するものとすることができない。
また,かかる変更が,請求項の削除でないこと,誤記の訂正でないこと,及び,拒絶の理由に示した事項についてする明りょうでない記載の釈明にも該当しないないことも明らかである。
したがって,本件補正は旧特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものではない。

(4)小括
以上,(2-1)及び(2-2)に記載したように,本件補正は,旧特許法第17条の2第3項に違反したものであり,また,同条第4項に違反したものであるので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

なお,本件補正における,「頭痛の痛み」なる記載を「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更することは,本件審判の「請求の理由」における請求人の主張等に照らすと,補正前の発明特定事項である「頭痛の痛み」を限定する意向をもって「片頭痛およびそれに関連する痛み」なる記載に変更しようとしていることが伺われるものであるが,このように解することができないことは,上記(2-1)において記載したとおりであるし,また,仮に請求人の意向どおりに解することができたとしても,下記3.(2)で引用する刊行物A(欧州特許出願第754453号明細書)には,例えば,摘示事項(A-1)において「本発明は,片頭痛を含む頭痛症候群…」と記載されているように,該刊行物Aにおける発明は片頭痛をも対象にしていることが明らかにされていることから,本件補正に基づく発明特定事項の限定によって,刊行物A記載の発明と本件補正後の発明との間に新たな相違点が生ずるものではなく,下記3.(2)?(4)に記載した特許法第29条第2項の拒絶理由は依然として解消されないものである。すなわち,本件補正について請求人の意向どおりに解釈できたとしても,本件補正は独立特許要件を満たすものではないとされるものであって,やはり特許法第53条第1項の規定によりに却下されるべきものと判断されることとなる。

3.本願発明について

(1)本願発明

平成18年6月26日付け手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1?19に係る発明は,平成16年6月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は以下のとおりである。
「【請求項1】
後頭部領域および眼窩上領域において,後頭部神経および眼窩上神経に近位の角質化皮膚部位において塗布するための,頭痛の痛みを,該頭痛の痛みが伴う該後頭部神経および眼窩上神経における伝達をブロックすることにより処置するための局所的局所麻酔薬組成物であって,浸透増強剤としてのオイカリプトールと組み合わせた有効量の局所麻酔薬を含み,ここで該局所麻酔薬は接続基を介して芳香族基と連結したアミンである,局所的局所麻酔薬組成物。」

(2)引用刊行物

A.欧州特許出願第754453号明細書(原審の引用文献1)
B.刊行物B:Tschirner M. et al.,Headache therapy with local anesthetics,
Zeitschrift fuer Militaermedizin,1987年,Vol.28, No.6,p.279-81
(原審の引用文献2)
C.特開昭58-15910号公報(原審の引用文献3)

原査定の拒絶の理由に引用され,この出願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな上記A?Cの各刊行物には,それぞれ以下のことが記載されている。

(2A)刊行物Aの記載事項(独文のため訳文で記す)
(A-1)第1欄第3?5行
「本発明は,片頭痛を含む頭痛症候群の局所治療の方法と構成に関する。」
(A-2)第1欄第50?58行
「より有効な薬理学的な方針として,低投与量の局所麻酔剤を適切な形で適用することが考えられる。アミド系やエステル系の麻酔剤,例えばアミド系のリドカインは,薬理学的な作用メカニズムとしては,神経線維における急速なナトリウムイオンフラックスを抑制することが分かっている。リドカインは,これを通して神経路の刺激伝導をブロックする。それが,局所の神経線維すべてに及ぶ。」
(A-3)第2欄第10?21行
「頭部局所への注射によって局所麻酔薬を適用することは技術的には可能であり,たびたび実施されている。しかし,局所麻酔は痛みを伴うだけでなく,患者自身側からも,それ自体,決して実施できないものである。局所的に,表面に注射する技術は,いわゆる急所神経経治療に基づいており(…),経験豊かな医師による処置と技術を前提とする。従って,それは,臨床的に非常に重要な障害での適用に限定されている。従来の局所的な処方,例えばクリーム療法の使用は,正確な投与も位置決めもなされていなければ,より長期の適用期間をおいても少しも浸透し続けない。」
(A-4)第2欄第29?47行
「本発明は,頭痛症候群の治療を改善するという課題に基づいている。
この課題は,治療的な投与量の局所麻酔剤が入っている傷つけない前頭部及びこめかみ部皮膚に適した局所着用システムを用い,そのシステムの下にある皮膚部位に向かって麻酔剤を浸透させることによって解決される。
治療を拡大するためには,他の発明の形態において,局所麻酔剤を含む局所着用システムの直ちの,そして新たな治療適用分野には,片頭痛も含まれる。
局所治療の有効性と許容性を改良するために,他の発明の形態では,アミド系またはエステル系の局所麻酔剤に,特にリドカイン,テトラカイン,ブピバカイン,プリロカイン,メピバカイン,エチドカインならびにプロカインおよびベンゾカインを含ませた。この場合,これらの物質の濃度は,0.5?40%の範囲にあった。」

(2B)刊行物Bの記載事項(独文のため訳文で記す)
(B-1)第279頁左欄「Zunsammenfassung」の項
「慢性頭痛の治療構想では,遮断治療のための局所麻酔が不動の位置価値を占める。前提条件と適応を説明した後に,度重ねて鍛えた技術の基本的特徴を詳述し,頭痛症候群の場合の局所麻酔の作用方法を明らかにする。」
(B-2)第280頁左欄最下段の「Tabelle 1」
「表1
遮断治療に使用した薬剤
主な特徴 最重要代表体 作用期間
短期的作用 プロカイン 1時間
中期的作用 リドカイン 4時間まで
長期的作用 ブピバカイン 8時間まで
持続遮断 エチルアルコール 約1年 」
(B-3)第280頁中欄下から29行?右欄末行
「2.2 頭痛治療のための最もよく利用された遮断技術
2.2.1 異なる三叉神経分枝の遮断
5番目の脳神経として顔面の大部分を感知して管理する(図1)三叉神経のすべての3つの分枝は,比較的容易に遮断技術によって到達できる。眼部の神経,上眼窩の神経及び上滑車の神経の末端分枝の遮断:周知の伝達点(上眼窩の神経:上眼窩孔,眼窩上縁で矢状面の2.5cm外側;上滑車の神経:上方の内側眼窩隅)に入れた後に,麻痺感覚が誘発されることなく骨接触によって0.5?1.0mlの局所麻酔剤を注入する。
(省略)
2.2.2 後頭部の神経網遮断
項部筋力組織を通った出口位置での,大及び小後頭部神経網の遮断は,それへ入るための線状項部と後頭部無痛感が重要な伝達点であるが,骨接触から到達することによって,0.5?1mlの局所麻酔薬の注入を通して引き起こされる(図2)。…。

(図省略)

図2
後頭部神経網へ入れる伝達点」

(2C)刊行物Cの記載事項
(C-1)特許請求の範囲
「1.有効量の生物影響剤が美容および治療の性質のある皮膚剤の皮膚に有効な量または治療剤の全身に有効な量からなる少なくとも1種の生物影響剤の生物学的に有効な量およびユーカリプトールの皮膚浸透を高める量からなることを特徴とする局所適用のための物質組成物(原文の「組生物」は明らかな誤記)。」(カッコ内は審決注)

3.該皮膚剤が…,局所麻酔剤,…である特許請求の範囲第1項記載の組成物。」

5.該皮膚剤が…,ベンゾカイン,プロカイン,プロポキシカイン,ジブカイン又はリドカイン…である特許請求の範囲第3項記載の組成物。」
(C-2)公報第5頁右上欄第16行?同頁左下欄第2行
「本発明は驚くべきことに種々の生物影響剤の皮膚浸透割合が増大する組成物および方法を提供する。皮膚の下にある組織に吸収される皮膚薬剤の量…は本発明の組成物および方法を利用して劇的に増大することができる。」
(C-3)公報第6頁右上欄最終行?同第7頁右下欄16行
「…本発明に従って皮膚の保護層を通して浸透を高めることによってさらに有用にすることができるかかる皮膚薬剤は次の分類の物質によって例示されるがそれらに限定されるものではない。
(a)…
(中略)
(e)局所麻酔剤,例えばベンゾカイン,プロカイン,プロポキシカイン,ジブカインおよびリドカイン。かかる薬剤は皮膚に吸収されにくいがユーカリプトールと処方した場合増大した麻酔特性を示すことができる。」
(C-4)公報第11頁左上欄下から9行?同頁右上欄
「実施例II
前で記載した試験管拡散細胞法をユーカプリトールおよびN,N-ジエチル-m-トルアミド中プロカインの飽和懸濁液の浸透を比較するために用いた。溶媒1mlに飽和点以上にプロカインを添加し,32°で平衡にすることによってサンプルを調製した。100μlサンプルを毛髪のないマウスの皮膚に適用した。…
表II
(省略)

(C-5)公報第12頁左下欄第1行?同頁右下欄
「実施例VII
ジブカインの浸透をユーカプリトール,ユーカプリトールとDEETの1:1混合液,イソプロピルミリステートおよびユーカプリトールとイソプロピルミリステートの1:1混合液の飽和懸濁液中前で記載した拡散細胞法を用いて比較した。サンプルを実施例Vで記載した通り調製し,100μlを毛髪のないマウスの皮膚に適用した。…
表VII
(省略)

(C-6)公報第13頁左下欄下から3行?同頁右下欄
「実施例XI
ベンゾカインの拡散をユーカプリトール,プロピレングリコール,ユーカプリトールとDEETの1:1混合物および細胞の固定を…板で閉塞したユーカプリトール中ベンゾカインの飽和懸濁液に対して実施例Xでのように試験した。
表XI
(省略)


(3)対比

刊行物Aには,その(A-1)及び(A-4)の記載に照らし,「治療的な投与量のリドカイン等の局所麻酔剤が入っている前頭部及びこめかみ部皮膚に適した局所着用システムであって,そのシステムの下にある皮膚部位に向かって麻酔剤を浸透させることによる,頭痛症候群を治療するための局所着用システム。」が記載されている。ここで,局所着用システムに入れられる局所麻酔剤は,当然組成物の形態で組み込まれることも含まれるものと解されるし,また,リドカイン等の局所麻酔剤の薬理学的作用機構は,神経路の刺激伝導をブロックすることによるものであることも記載されている(A-2)。
したがって,上記刊行物Aには,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものである。
「前頭部及びこめかみ部皮膚において,その皮膚部位に向かって麻酔剤を浸透させて,頭痛の痛みを,神経路の刺激伝導をブロックすることにより処置するための,治療的な投与量のリドカイン等の局所麻酔剤が入っている局所的局所麻酔剤。」
そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,リドカインは,

の構造を有することから,本件補正発明における「接続基を介して芳香族基と連結したアミン」に相当するものである。
したがって,両者は,
「神経に近位の皮膚部位に適用するための,頭痛の痛みを,該頭痛の痛みが伴う神経における伝達をブロックすることにより処置するための局所的局所麻酔薬組成物であって,有効量の局所麻酔薬を含み,ここで該局所麻酔薬は接続基を介して芳香族基と連結したアミンである,局所的局所麻酔薬組成物。」の点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では,「後頭部神経及び眼窩上神経に近位の皮膚部位において塗布するための」と特定しているのに対して,引用発明では,「前頭部及びこめかみ部の皮膚に適した局所着用システムを用い,そのシステムの下にある皮膚部位に向かって麻酔剤を浸透させる」としている点。
[相違点2]
本願発明では,「浸透増強剤としてのオイカリプトールと組み合わせる」としているのに対して,引用発明では,そのような浸透増強剤と組み合わせるものではないこと。

(4)検討

以下,上記相違点について検討する。
(4-1)[相違点1]について
引用発明においては,頭痛の治療に際して,局所麻酔剤を経皮吸収させる部位として「前頭部及びこめかみ部の皮膚」とするものである。
また,刊行物Aには,従来たびたび実施されていた,頭部への注射による局所投与には,経験豊かな医師によらなければならないなどの問題点があることが指摘されていて(A-3),この問題を解決するための方法として,引用発明に係る経皮吸収による投与が考え出されたものと理解することができる。
一方,頭痛の治療のために局所麻酔剤を注射投与することにより神経伝達をブロックすることが記載されている刊行物Bにおいては,リドカイン等の局所麻酔剤を注射する部位として,三叉神経分枝の遮断のために眼窩上神経の近位である眼窩上縁部を,後頭部神経の遮断のために該神経の近位の項部領域を,それぞれ指示しているものである((B-1)?(B-3))。
そして,引用発明も,上記したように,そもそも注射による局所麻酔剤の投与を改善する目的で考え出されたものと解されるので,当業者ならば,刊行物Bにおいて注射による投与部位として指示されている箇所を,引用発明における適用部位に代えて,局所麻酔剤の投与対象部位として採用してみることは,容易に想到することである。
すなわち,刊行物Bの記載を参考にして,引用発明において「前頭部及びこめかみ部の皮膚」とされている局所麻酔剤の適用部位を「後頭部神経及び眼窩上神経に近位の皮膚部位」に変更してみることは,当業者が容易になし得ることである。
また,引用発明に係る組成物を皮膚に対して適用する際に,着用システムを通して浸透させるか,皮膚に直接塗布するかについては,当業者が適宜選択し得る程度のことであって格別の創意工夫を要するものではない。

なお,付言するならば,引用発明においては,(A-3)の記載を参酌すると,投与部位の位置決めをより正確なものとするために,着用システムを利用しているものと理解することができるから,着用システムを利用することなく直接皮膚に塗布することは,(A-3)の記載において,引用発明の前段階の適用方法として,黙示的に示唆されていると言えるものでもある。

(4-2)[相違点2]について
引用発明が記載されている刊行物Aには,浸透増強剤と組み合わせる旨の記載はなされていないものであるが,刊行物Cには,ユーカプリトール(「オイカプリトール」と同義。)を各種皮膚剤と組み合わせることにより皮膚の下にある組織に吸収される皮膚薬剤の量を劇的に増大することができることが記載されており((C-1)及び(C-2)),また,その皮膚剤の例示としてベンゾカインやリドカイン等を含む局所麻酔剤が上げられていて((C-1)及び(C-3)),しかも,プロカイン,ジブカイン及びベンゾカインについては実際にマウスに適用したデータを伴った実施例としても記載されている((C-4)?(C-6))ものである。
このように刊行物Cには,ベンゾカインやリドカイン等を含む局所麻酔剤に対してユーカプリトールを組み合わせることにより経皮吸収量が劇的に高まる旨記載されているのであるから,当業者ならば,この刊行物Cの記載を参考にして,引用発明における局所麻酔剤に対してユーカプリトールを組み合わせて,局所麻酔剤の経皮吸収量を高めようとすることはごく自然に考えることである。
したがって,引用発明における局所麻酔剤に対してオイカプリトールを組み合わせることは当業者が容易になし得ることである。

また,明細書に記載された本願発明による効果に関しては当業者が予測しうる範囲を超えるものではない。

なお,本願明細書において実際に患者に対して適用しその治療効果を確認した例は唯一例のみであって,頭痛の鎮静効果に関しては患者個人の精神面の影響も場合によっては大きく作用する可能性があることを考慮すると,個体差やプラシーボ効果の排除といった面で甚だ不十分である上,さらには使用されている組成物は,上記本願発明で特定されている成分の他明細書において薬剤の浸透増強作用を有するとされているN,N-ジエチル-m-トルアミドをも含むものであることから,このような実験例をもって本願発明の効果を裏付ける根拠とすることは技術的な合理性に欠けるものとせざるを得ないものである。

(5)むすび

以上のとおり,本願発明は,刊行物A?Cに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2009-03-05 
結審通知日 2009-03-06 
審決日 2009-03-17 
出願番号 特願平9-527981
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
谷口 博
発明の名称 局所的局所麻酔薬組成物を用いる頭痛の痛みを処置するための方法  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 安村 高明  

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