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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1202382
審判番号 不服2007-24457  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-06 
確定日 2009-08-13 
事件の表示 特願2004- 36989「半導体集積回路装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日出願公開、特開2004-221606〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年3月4日(優先権主張平成9年3月5日)に出願した特願平10-538367号の一部を平成16年2月13日に新たな特許出願としたものであって、平成19年2月5日付け拒絶理由通知に対して、平成19年4月16日付けで手続補正がなされたが、平成19年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年9月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年4月16日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
以下の工程を含む半導体集積回路装置の製造方法;
(a)半導体ウエハを枚葉式酸化炉の熱処理チャンバへ導入する工程、
(b)前記熱処理チャンバ内のガス雰囲気を窒素によって置換する工程、
(c)第1の温度で、触媒を用いて酸素と水素から水分を合成する工程、
(d)前記工程(b)の後、前記合成した水分を気体状態を維持したまま、前記酸化炉の熱処理チャンバへ導入して、前記熱処理チャンバ内の半導体ウエハの第1主面上に水分を含んだ酸化性雰囲気を形成する工程、
(e)前記熱処理チャンバ内の前記水分を含んだ酸化性雰囲気において、前記第1の温度より高い第2の温度まで前記半導体ウエハの主面をランプ加熱して、前記半導体ウエハの第1主面上のシリコン表面を熱酸化処理して絶縁膜を形成する工程、
(f)前記工程(e)の後、前記熱処理チャンバ内の前記水分を含んだ酸化性雰囲気を窒素によって置換する工程。」

2.引用例及びその記載事項並びに引用発明
(1)一方、原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-333918号公報(以下、「引用例1」という。)には、図1とともに、以下の事項が記載されている。

〔1a〕「【請求項1】 不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気中、あるいは、不活性ガスと水分と水素の活性種と水素とからなる弱酸化性雰囲気中において、半導体基体を加熱することにより該基体表面に絶縁酸化膜を形成することを特徴とする絶縁酸化膜の形成方法。
【請求項2】 前記弱酸化性ガスは、不活性ガスと酸素と水素との混合ガスを、水素を活性化させる作用を有する触媒に接触させることにより生成せしめたものであることを特徴とする請求項1記載の絶縁酸化膜の形成方法。
・・・
【請求項4】 前記弱酸化性ガス中における水分濃度を1ppb?10%としたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の絶縁酸化膜の形成方法。
【請求項5】 前記弱酸化性ガス中における水分濃度を1ppm?1%としたことを特徴とする請求項4に記載の酸化膜形成方法。
【請求項6】 絶縁酸化膜の形成を1050℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の絶縁酸化膜の形成方法。
【請求項7】 絶縁酸化膜の形成を500?1000℃の温度で行うことを特徴とする請求項6に記載の絶縁酸化膜の形成方法。
【請求項8】 前記混合ガスと前記触媒との接触は、200?600℃で行うことを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の絶縁酸化膜の形成方法。
【請求項9】 請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の方法により形成された絶縁酸化膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項10】 前記絶縁酸化膜は、MOS半導体のゲート酸化膜であることを特徴とする請求項9記載の半導体装置。」(【特許請求の範囲】)

〔1b〕「本発明は以上の現状に鑑みなされたものであり、絶縁耐圧が高く、リーク電流が小さく、注入電荷量を大きくとることができる絶縁酸化膜を半導体上に形成することが可能な絶縁酸化膜の形成方法を提供することを特徴とする。」(【0006】)

〔1c〕「図1に水分発生装置のー構成例を示す。・・・
酸化膜形成装置100は、酸化炉101(例えばステンレス製、しかし石英製でもよい)と、試料(ウエハ)109の加熱器102と、ガス供給システム103と、ロードロックシステム104で構成されている。ここでロードロックシステム104はなくてもかまわない。・・・
先ず、酸化炉101内への試料109の搬入方法を説明する。試料は、ロードロックシステム104の試料収納チャンバーに入れ、大気成分を極力低減するため真空引きを行う。その後超高純度アルゴンガスを導入して不活性ガス雰囲気にし、酸化炉に搬入する。よって、酸化炉101内ヘの不純物の混入は、極力低減され超清浄雰囲気を形成できる。・・・
次いで、水分及び水素の活性種の製造方法を説明する。ガス供給システム103には、アルゴン(窒素でもよい)、酸素、水素のガスが供給されており、それぞれMFC(マスフローコントローラ)で流量制御されている。水分及び水素の活性種は、任意の濃度の酸素ガスを含んだ不活性ガス雰囲気の反応管105(例えばステンレス製、低温で水素を分解できる触媒作用を有するものであれば他の材質でもかまわない)を、例えば、500℃(200℃?600℃の範囲が好ましく、300℃?500℃がより好ましい。)に加熱器106で加熱し、任意の濃度の水素を添加して発生させる。水素は、反応管105の触媒効果で分解され、酸素濃度の2倍以上添加することにより、酸素濃度の2倍の水分と水素の活性種を発生できる。例えば、酸素濃度0.05%に対して例えば水素濃度5%添加すると、0.1%の水分と水素の活性種が発生できる。・・・
なお、反応管105内には、例えば、繊維状のニッケルなどの触媒を充填しておいてもよい。・・・
(酸化膜形成手順)前記要領で発生させた水分及び水素の活性種は、例えばアルゴンとの混合ガスとしてガス導入口107から酸化炉101に供給される。・・・
試料109の温度は、加熱器102で制御され、例えば800℃に制御すればよい。なお、前述した通り、1050℃以下が好ましく、500℃?1000℃がより好ましい。ここで、酸化温度及び水分、酸素と水素の混合比は、所望の値に適宜選択可能であり、また、アルゴンの代わりに窒素ガスその他の不活性ガスを用いてもよい。」(【0026】?【0032】)

〔1d〕「試料(ここではP型(100)シリコンウエハ)109を、ロードロックシステム104を用いて酸化炉101(本例では石英製)内に搬入した。また、シリコンウエハ109はN型でもよい。また、半導体は、シリコンに限ることなく、化合物半導体(例えば、GaAs)を含む他の半導体にも適用可能であるが、シリコンの場合が特に有効である。」(【0037】)

〔1e〕図1には、ロードロックシステムを用いて酸化炉内に1枚ずつウエハを搬入することが示されている。

(2)同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平7-283210号公報(以下、「引用例2」という。)には、図1、図2とともに、以下の事項が記載されている。

〔2a〕「本発明は、反応性ガスを用いて基体表面に絶縁膜を形成するための絶縁膜形成装置、及び絶縁膜形成方法に関する。」(【0001】)

〔2b〕「(実施例1)実施例1の絶縁膜形成装置の概要を図1に示す。絶縁膜形成装置は、反応性ガス源10、絶縁膜形成室20、及び反応性ガス源10と絶縁膜形成室20とを結ぶ反応性ガス導入管30を備えている。反応性ガス源10には、酸素ガス導入部11及び水素ガス導入部12が設けられている。反応性ガス源10は、酸素と水素の燃焼によって水蒸気を生成させる燃焼装置から成る。絶縁膜形成室20には、バルブ24を介して窒素ガス等の不活性ガス源(図示せず)に結ばれた不活性ガス導入部23、絶縁膜形成室内のガスを外部に排気するためのガス排気部25が設けられている。絶縁膜形成室20の内部には、例えばシリコン半導体基板から成る基体50を収納・保持した基体保持具21が配置される。また、絶縁膜形成室20の周囲にはヒーター22が配設されている。反応性ガス源10と絶縁膜形成室20とを結ぶ石英製の反応性ガス導入管30には、バルブ31が配置されている。」(【0027】)

〔2c〕「本発明の絶縁膜の形成方法の実施に際しては、先ず、バルブ24,25を開き、不活性ガス源から不活性ガス導入部23を介して絶縁膜形成室20内に不活性ガス(例えば、窒素ガス)を導入し、絶縁膜形成室20内を不活性ガス雰囲気(窒素ガス雰囲気)としておく。・・・そして、基体保持具21に収納・保持された基体50を、絶縁膜形成室20内に図示しない搬入出装置を用いて搬入する。絶縁膜形成室20内は不活性ガスで充填されているので、基体50の表面に絶縁膜が形成されることを抑制することができる。
・・・
一方、絶縁膜成膜のための反応性ガス(水蒸気+O_(2))を、所謂外部燃焼装置である反応性ガス源10で生成する。反応性ガスの生成に際しては、予め、バルブ31を閉じ、バルブ41を開いておく。そして、先ず、酸素ガス導入部11を介して酸素ガス源(図示せず)から反応性ガス源10に酸素ガスを導入し、反応性ガス源10内を酸素ガスで充填する。酸素ガスの流量を、例えば5SLMとする。反応性ガス源10から流出した酸素ガスは、バルブ41を介して排気手段40から外部に排気される。バルブ31を閉じているので、酸素ガスが絶縁膜形成室20内に流入することがない。従って、基体50の表面に絶縁膜は形成されない。・・・
次に、酸素ガスで充填された反応性ガス源10内に、水素ガス導入部12を介して水素ガス源(図示せず)から水素ガスを導入する。水素ガスの流量を、当初、例えば1SLMとする。尚、酸素ガスを反応性ガス源10内に導入し続ける。反応性ガス源10内は、図示しないヒーターによって、例えば750゜Cに保たれており、この熱によりO_(2)とH_(2)が反応し、1SLMの水蒸気が生成され、4.5SLMのO_(2)が残る。・・・
・・・
結果的に、5SLMの水蒸気を2.5SLMの酸素ガスで希釈した反応性ガスが、反応性ガス源10で生成されたことになる。
・・・
所定の流量及び組成を有する反応性ガスが反応性ガス源10で安定的に生成され始めた後、バルブ41を閉じ、排気手段40からの反応性ガスの系外への排気を中止する。同時に、あるいはバルブ41の閉と前後して、反応性ガス導入管30に配置されたバルブ31を開き、所定の流量及び組成を有する反応性ガスを絶縁膜形成室20内に導入する。同時に、あるいは反応性ガスの絶縁膜形成室20への導入の前に、バルブ24を閉じ、絶縁膜形成室20への不活性ガスの導入を中止する。・・・
これにより、絶縁膜形成室20は所定の流量及び組成の反応性ガスで満たされ、基体50の表面に例えばSiO_(2)から成る絶縁膜が成膜され始める。・・・
所定の膜厚の絶縁膜が基体50の表面に成膜された時点で、反応性ガス導入管30に配置されたバルブ31を閉じ、同時にあるいは前後して排気手段40に配置されたバルブ41を開き、排気手段40から反応性ガスを系外に排気する。同時に、バルブ24を開いて、不活性ガスを絶縁膜形成室20に導入し、絶縁膜形成室20内を窒素ガス等の不活性ガスで満たす。以上で基体50の表面における絶縁膜の形成が終了する。次いで、図示しない搬入出装置を用いて、基体50を絶縁膜形成室20から搬出する。」(【0029】?【0038】)

(3)引用例1の上記摘記事項〔1a〕?〔1e〕及び図1の記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「MOS半導体のゲート酸化膜である絶縁酸化膜の形成方法において、
シリコンからなる試料(ウエハ)を、ロードロックシステムの試料収納チャンバーに入れ、大気成分を極力低減するため真空引きを行った後、超高純度のアルゴンガスを導入して不活性ガス雰囲気にし、1枚ずつ酸化炉に搬入する工程と、
ガス供給システムにアルゴン又は窒素と、酸素、水素のガスを供給し、例えば、ステンレス製の、低温で水素を分解できる触媒作用を有する材質からなる反応管を任意の濃度の酸素ガスを含んだ不活性ガス雰囲気にして、例えば500℃に加熱器で加熱し、上記水素を反応管の触媒作用で分解して、酸素濃度の2倍の水分と水素の活性種を発生させる工程と、
上記水分と水素活性種を、例えばアルゴンとの混合ガスとしてガス導入口から酸化炉に供給する工程と、
不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気中において、試料である半導体基体の温度を加熱器で例えば800℃に制御するように加熱することにより、該基体表面に絶縁酸化膜を形成する工程と、
を含む絶縁酸化膜の形成方法。」

3.対比
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)引用例1発明は、「MOS半導体のゲート酸化膜である絶縁酸化膜の形成方法」に係るものであるが、MOS半導体は、半導体基体(ウエハ)上に多数が集積して電子回路を構成するように配置されるのが通常であるから、上記形成方法は、本願発明における「半導体集積回路装置の製造方法」に相当するといえる。
(イ)引用例1発明における「シリコンからなる試料(ウエハ)」乃至「半導体基体」は、本願発明における「半導体ウエハ」に相当する。
(ウ)引用例1発明における「酸化炉」は、1枚ずつ搬入された試料(ウエハ)を加熱器で加熱しつつ酸化処理するものであるから、本願発明における、枚葉式酸化炉の「熱処理チャンバ」に相当する。
(エ)引用例1発明における「ガス供給システムにアルゴン又は窒素と、酸素、水素のガスを供給し、例えば、ステンレス製の、低温で水素を分解できる触媒作用を有する材質からなる反応管を任意の濃度の酸素ガスを含んだ不活性ガス雰囲気にして、例えば500℃に加熱器で加熱し、上記水素を反応管の触媒作用で分解して、酸素濃度の2倍の水分と水素の活性種を発生させる工程」は、本願発明における「第1の温度で、触媒を用いて酸素と水素から水分を合成する工程」に相当する。
(オ)引用例1発明における「不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気」は、水分を含み、かつ半導体気体の表面に絶縁酸化膜を形成する雰囲気であるから、本願発明における「水分を含んだ酸化性雰囲気」に相当する。
(カ)引用例1発明における「上記水分と水素活性種を、例えばアルゴンとの混合ガスとしてガス導入口から酸化炉に供給する工程」は、酸素濃度の2倍の水分と水素の活性種を発生させる工程により発生させた水分及び水素活性種を、アルゴンガスとの混合ガスとして、即ち、気体状態を維持したまま、酸化炉に供給する工程であり、当該酸化炉内を「不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気」とする工程であるから、上記混合ガス供給前に該酸化炉内に搬入された試料(ウエハ)の表面上には、「不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気」、即ち「水分を含んだ酸化性雰囲気」が形成されているといえる。
よって、本願発明と引用例1発明とは、「合成した水分を気体状態を維持したまま、前記酸化炉の熱処理チャンバへ導入して、前記熱処理チャンバ内の半導体ウエハの第1主面上に水分を含んだ酸化性雰囲気を形成する工程」を含む点で一致する。
(キ)シリコンからなる半導体気体の表面がシリコン表面であることは明らかであるから、引用例1発明における「不活性ガスと水分と水素の活性種とからなる弱酸化性ガス雰囲気中において、試料である半導体基体の温度を加熱器で例えば800℃に制御するように加熱することにより、該基体表面に絶縁酸化膜を形成する工程」は、本願発明における「前記熱処理チャンバ内の前記水分を含んだ酸化性雰囲気において、前記第1の温度より高い第2の温度まで前記半導体ウエハの主面を加熱して、前記半導体ウエハの第1主面上のシリコン表面を熱酸化処理して絶縁膜を形成する工程」に対応する。

そうすると、本願発明と引用例1発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「以下の工程を含む半導体集積回路装置の製造方法;
(a)半導体ウエハを枚葉式酸化炉の熱処理チャンバへ導入する工程、
(c)第1の温度で、触媒を用いて酸素と水素から水分を合成する工程、
(d)前記合成した水分を気体状態を維持したまま、前記酸化炉の熱処理チャンバへ導入して、前記熱処理チャンバ内の半導体ウエハの第1主面に水分を含んだ酸化性雰囲気を形成する工程、
(e)前記熱処理チャンバ内の前記水分を含んだ酸化性雰囲気において、前記第1の温度より高い第2の温度まで前記半導体ウエハの主面を加熱して、前記半導体ウエハの第1主面上のシリコン表面を熱酸化処理して絶縁膜を形成する工程。」

一方、本願発明と引用例1発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明が、上記工程(d)の前に「(b)熱処理チャンバ内のガス雰囲気を窒素によって置換する工程」を含み、かつ上記工程(e)の後に「熱処理チャンバ内の水分を含んだ酸化性雰囲気を窒素によって置換する工程」を含むのに対して、引用例1発明は、それらの工程を含まない点

<相違点2>
上記工程(e)における半導体ウエハ主面の加熱が、本願発明では「ランプ加熱」に限定されているのに対して、引用例1発明では、単に「加熱」とされ、ランプ加熱に限定されない点

4.判断
そこで、上記各相違点について、以下に検討する。

<相違点1について>
引用例2の摘記事項〔2a〕?〔2c〕の記載によれば、引用例2には、シリコン半導体基板からなる基体の表面にSiO_(2)から成る絶縁膜を形成する際に、上記絶縁膜を形成するための絶縁膜形成室内に絶縁膜成膜のための反応性ガスを導入する前に、該絶縁膜形成室内を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすること、及び所定の膜厚の絶縁膜が基体の表面に成膜された時点で、絶縁膜形成室内を窒素ガス等の不活性ガスで満たすことがそれぞれ記載されている。そして、これらの窒素ガス充填工程を設けることにより、実質的に目的の絶縁膜を成膜する工程以外の段階で基体表面に不要な絶縁膜を形成されることを抑制するという作用効果が奏されると認められる。
一方、引用例1発明においても、実質的に目的の絶縁膜の形成する段階である工程(d)及び(e)に相当する工程の前後の段階で、半導体ウエハ上に不要な酸化膜が形成されることを抑制すべきことは当業者にとって当然の課題にすぎず、これを解決する手段として、引用例2記載の各窒素ガス充填工程を採用し、上記工程(d)の前に「(b)熱処理チャンバ内のガス雰囲気を窒素によって置換する工程」を含み、かつ上記工程(e)の後に「熱処理チャンバ内の水分を含んだ酸化性雰囲気を窒素によって置換する工程」を含む、本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、審判請求人(出願人)は、平成19年4月16日付け意見書において、「(2)引用文献2、特開平7-283210号公報(吉越発明):この発明はホットウォール(Hot wall)形式のバッチ炉ですから、常に高温ですので、パージは必須です。一方、本願発明はコールドウォール(Cold wall)形式の枚葉ランプ炉ですから、酸化時間だけ高温になります。従いまして、短時間処理を目指す、触媒水分合成ランプ方式のプロセスでは、短時間化の障害であるパージ手続きを単純に導入するとは考えられません。」と主張しているが、抵抗加熱等によるホットウォール型加熱方式であっても、ランプ加熱によるコールドウォール型の加熱方式であっても、実質的に目的とする絶縁膜(酸化膜)を形成する工程以外の段階で自然酸化膜等の余分な絶縁膜が形成されることを抑制すべきことは、工程の短時間化という一般的要請とともに、当業者が考慮すべき事項であるから、これらの要素を総合的に勘案した上で、引用例2記載の上記各窒素ガス充填工程を引用例1発明に適用することは十分可能であり、引用例2記載の技術がホットウォール型加熱方式に係るものであったとしても、そのことが当該技術を引用例1発明に適用するに際しての阻害事由になるとは認められない。
よって、上記主張は採用することができない。

<相違点2について>
枚葉式酸化炉のチャンバ内に試料(ウエハ)を載置し、その表面をウエット方式で熱酸化する際に、上記試料(ウエハ)をランプ加熱により加熱することは、以下の周知例1、2に記載されるように、本願優先権主張日当時既に周知の技術にすぎず、これを引用例1発明における半導体ウエハ主面の加熱手段に適用することは、当業者が容易になし得たことである。

周知例1:特開平7-273101号公報

〔周1a〕「載置部4に載置されたウエハW表面に、ウエット酸化によって酸化膜を形成する場合には、まずポンプ65、加熱ヒータ66を作動させて、伝熱媒体である不凍液を処理容器2内の流路61内を循環させ、処理容器2内壁の温度を結露温度以上、例えば200゜Cに加熱する。また同時に交流電源74を作動させて、加熱板71によってシャワーヘッド21の支持板22と拡散板23も200゜Cに加熱しておく。また処理容器2内は常圧にしておく。・・・
そして加熱ランプ11を作動させてこのウエハWを例えば1100゜Cにまで加熱し、この状態で燃焼装置42で発生した水蒸気を、シャワーヘッド21を通じて処理容器2内に流出させると、ウエハW表面に、5000オングストローム?10000オングストロームの比較的厚い酸化膜を形成させることができる。」(【0038】?【0039】)

〔周1b〕図1には、ウエハWを1枚ずつ処理する、枚葉式の熱処理装置が示されている。

周知例2:特開平7-297181号公報

〔周2a〕「本実施例では、熱酸化処理は具体的には次のように行った。即ち、まず被処理基板2(ウェハ)は、従来の技術と同様、ゲートバブル10により、インナーチューブ4内のホルダー3上に挿入され、ガス導入口14より窒素ガスが導入され、インナーチューブ4内の空気と置換される。十分置換が行われた後、窒素ガスは、本実施例では酸素ガスと水蒸気との混合ガスに切り替わり、加熱機構1であるランプに通電され赤外線が放射され(符号5は反射板である)、被処理半導体基板2(ウェハ)が加熱されて、ウェハ表面が酸化される。」(【0030】)

〔周2b〕図1には、被処理半導体基板を1枚ずつ処理する、枚葉式の熱酸化処理装置が示されている。

<本願発明の効果について>
審判請求人(出願人)は、平成19年4月16日付け意見書において、「(3)本願の発明者等は、枚葉方式で短時間のプロセスを可能とするために、ランプ加熱+触媒水分合成を採用しましたが、意外なことに、薄膜化に伴い、それだけでは初期酸化膜等を十分に排除できないことを見出し、ホットウォール形式でバッチ処理の技術思想であるパージを導入したものです。」と主張しているが、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面には、発明の実施の形態として、以下の事項が記載されてはいるものの、ランプ加熱方式の採用した場合にパージガスの導入を行った例やその場合の作用効果については直接記載されていないことから、これに本願優先権主張日当時の技術常識を加味して考慮したとしても、ランプ加熱と触媒水分合成を採用した酸化膜形成方法において、パージを導入することで初期酸化膜等を十分排除できるとの上記主張にいう効果が奏されるとは推認されない。
よって、上記主張は採用することができない。
そして、本願発明の効果は、引用例1発明、引用例2に記載された事項及び周知技術から当業者が予測可能な範囲のものであって、格別顕著でない。

本願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載事項:

〔本a〕「半導体ウエハ1Aの加熱は、ヒータ121a、121bによる加熱方式の他、例えば図12に示すようなランプ130による加熱方式を採用してもよい。」(【0073】)

〔本b〕「上記酸化膜形成装置100を使ったゲート酸化膜形成のシーケンスの一例を図15を参照しながら説明する。・・・
まず、酸化膜形成室107のチャンバ120を開放し、その内部にパージガス(窒素)を導入しながら半導体ウエハ1Aをサセプタ123の上にロードする。半導体ウエハ1Aをチャンバ120に搬入してからサセプタ123の上にロードするまでの時間は55秒である。その後、チャンバ120を閉鎖し、引き続きパージガスを30秒間導入してチャンバ120内のガス交換を十分に行う。サセプタ123は、半導体ウエハ1Aが速やかに加熱されるよう、あらかじめヒータ121a、121bで加熱しておく。」(【0079】?【0080】)

〔本c〕「前記図14に示すように、ゲート酸化膜14の形成が完了した後、まず酸化膜形成室107のチャンバ120にパージガスを2分20秒間導入し、チャンバ120内に残った酸化種を排気する。続いて半導体ウエハ1Aをサセプタ123から55秒でアンロードし、チャンバ120から搬出する。」(【0091】)

したがって、本願発明は、引用例1発明、引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用例1発明、引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-10 
結審通知日 2009-06-16 
審決日 2009-06-29 
出願番号 特願2004-36989(P2004-36989)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 粟野 正明
加藤 浩一
発明の名称 半導体集積回路装置の製造方法  
代理人 筒井 大和  

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