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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01G
管理番号 1202920
審判番号 無効2008-800288  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-18 
確定日 2009-08-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第4125333号発明「きのこ菌床培地の再生方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4125333号の発明は、平成18年8月29日に出願され、平成20年5月16日に設定登録されたものである。
これに対し、請求人より、平成20年12月18日に、その請求項1乃至4に係る発明の特許を無効とするとの審判請求がなされ、被請求人より、平成21年3月16日に答弁書が提出されている。

第2 本件発明
本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
使用済みのきのこの菌床培地である廃培地を、所要時間水に浸すか蒸気に晒して廃培地中の残留養分やその他のきのこ生育時における生成物質を溶出させ、その後廃培地の水分調整を行うとともに新たに栄養分を加えて攪拌し、熱による乾燥を行うことなく再生培地を得ることを特徴とするきのこの菌床培地の再生方法。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】
前記再生培地を容器に入れた後、殺菌処理することを特徴とする請求項1に記載のきのこの菌床培地の再生方法。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】
前記攪拌は、まず水分調整後の廃培地を攪拌してほぐし、その後栄養分を加えてさらに攪拌することを特徴とする請求項1に記載のきのこの菌床培地の再生方法。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】
前記廃培地を水に浸すか蒸気に晒して廃培地を取り出した際に得られる廃水を、液肥として利用することを特徴とする請求項1に記載のきのこの菌床培地の再生方法。」(以下、「本件発明4」という。)

第3 請求人の主張
1.本件特許第4125333号の請求項1乃至4に係る発明の特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、下記の証拠方法を提出して以下のように主張している。
本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであり,また、請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(特許を無効とする具体的理由の概要)
a.甲第1号証には,「攪拌手段が設けられた容器に植栽土壌基材を投入し、該攪拌手段で植栽土壌基材を攪拌すると共に、前記容器内に蒸気を噴射して植栽土壌基材の攪拌と殺菌を同時に行い、次いで蒸気に変えて冷却用の気体を噴射して植栽土壌の冷却を行い、その後に肥料を加えて攪拌する方法」の発明が記載されている。
そして,請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,両者は,主に以下の2点で相違している。
・出発物質が,本件発明は,使用済みのきのこの菌床培地である廃培地であるのに対して,甲第1号証に記載された発明は,植栽土壌基材である点。
・本件発明は,所要時間水に浸すか蒸気に晒すことによって,廃培地中の残留養分やきのこ育成時における育成物質を溶出させているのに対して,甲第1号証に記載された発明は,蒸気を噴射しているものであるが,廃培地中の残留養分やきのこ育成時における育成物質を溶出させることについては明らかではない点。
しかしながら,
・甲第1号証に記載された発明の植栽土壌はきのこの培養基を含むものであり,植栽土壌基材は植栽土壌として機能すればよいのであるから,新規なものあるいは廃培地を含むものであり,出発物質について実質的な差異はない。
・また,甲第1号証に記載された発明は,蒸気噴射をするものであって,廃培地中の残留養分やきのこ育成時における育成物質を溶出させることは,水分含浸や蒸気噴射の当然の結果に過ぎないものであって,格別な構成ではない。
したがって,請求項1に係る発明は,甲第1号証その他から,容易に想到できるものである。

b.請求項2に記載されている「請求項1に記載する再生培地を,容器に入れた後で殺菌処理する」ことは,甲第1号証から容易に推考できたことであり,従来から使用している通常の技術である。

c.請求項3に記載されている「請求項1に記載する攪拌を,まず水分調整後の廃培地を攪拌してほぐし,その後栄養分を加えてさらに攪拌する」ことは,行程における当然の流れであり,当業者が容易に想到できることである。

d.請求項4に記載されている「請求項1に記載する生成物質を溶出させて得た廃水を液肥として利用する」ことは,甲第2号証の記載から当業者が容易に推考できたことである。また,たとえば米の研ぎ水を植物に与えることは遠い昔から行われて来た知恵であり,当業者であれば容易に利用できるものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2003-38043号公報
甲第2号証:特開2007-106613号公報
甲第3号証:内山虎歳男著「白いエノキタケ栽培法」(昭和52年4月1日,長野県農業改良協会発行)第62頁及び奥付き

第4 被請求人の主張
1.被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、下記の証拠方法を提出して,請求人の上記主張に対して概ね以下のように反論している。
a.本件特許の請求項1に係る特許発明は,「きのこ菌床培地の再生方法」に関するものであり,これに対して,甲第1号証に記載された発明は,「植栽土壌の殺菌方法および殺菌攪拌装置」に関するものであり,発明の対象が全く異なるものであって,甲第1号証に記載された発明が対象とする「植栽土壌の殺菌方法」は,廃培地に対する固有のリサイクル技術を何ら考慮したものではなく,甲第1号証に記載された発明の出発物質である「植栽土壌基材」が廃培地を含むものとし,本件特許の請求項1に係る特許発明の出発物質である「廃培地」とに実質上の差異はないとした判断は失当である。
また,本件発明の「廃培地を所定時間水に浸すか蒸気に晒して廃培地中の残留養分やその他のきのこ育成時における生成物質を溶出させ」る処理は,「廃培地」中の「残留養分やきのこ育成時における生成物質を溶出させる」もので「廃培地」をリサイクル処理するに際しての重要な処理工程であるが,甲第1号証の発明は,新規な基材を対象とするため,わざわざ養分を溶出させる処理を行うとは考えがたく,甲第1号証の「容器内に蒸気を噴射する処理」は,養分を溶出させることのない殺菌のためのものであって,そのための蒸気量と殺菌時間に留まるものであり,また,殺菌のために高温の蒸気が必須である。したがって,本件発明の上記「廃培地を所定時間水に浸すか蒸気に晒して廃培地中の残留養分やその他のきのこ育成時における生成物質を溶出させ」る処理は,甲第1号証の高温の蒸気を噴射させた殺菌を行う処理とは全く異なる処理であって,本件発明の水分含浸や蒸気噴射の当然の結果に過ぎないとする主張は誤りである。

b.請求項4に対して挙げられた甲第2号証の公開日は,平成19年4月26日であって,本件特許の出願日よりも後である。したがって,甲第2号証は,請求項4に係る発明が特許法第29条第2項の規定に違反することの証拠能力を備えていない。

(証拠方法)
乙第1号証:特開平6-7030号公報
乙第2号証:特開平11-299348号公報
乙第3号証:特開平5-176628号公報

第5 甲号各証及びその記載内容
1.甲第1号証:特開2003-38043号公報
本件出願前に公開された,上記甲第1号証には,以下の記載がある。
1a.「攪拌手段が設けられた容器に植栽土壌基材を投入し、該攪拌手段で植栽土壌基材を攪拌すると共に、前記容器内に蒸気を噴射して植栽土壌基材の攪拌と殺菌を同時に行い、次いで蒸気に変えて冷却用の気体を噴射して植栽土壌の冷却を行い、その後に肥料を加えて攪拌することを特徴とする植栽土壌の殺菌方法」(【請求項3】)
1b.「そして、少なくとも上述の容器と攪拌手段とが組み合わされてなるものが攪拌装置であって、その構成要素である容器または攪拌手段の適当な部位から蒸気を噴射させ、植栽土壌基材を攪拌しながらその蒸気で殺菌をも行う方法であり、また、それができる装置である。これによって調整される植栽土壌は、植物や種子等を栽培する時に用いられる土壌であり、また、この土壌はキノコ栽培においては培養基とよばれる。植物とは、葉や茎や根等を有するものであり、また、種子にはキノコ栽培の種菌等も含まれる。」(段落【0009】)
1c.「【作用】 本発明の殺菌方法および殺菌攪拌装置は以上のように構成されているので、植栽土壌基材を攪拌しながら蒸気を噴射して殺菌していることによって、蒸気を短時間で植栽土壌基材の隅々にまで行き渡らせることができる。また、殺菌の間に植栽土壌基材が混ぜ合わせられるので、殺菌の完了と植栽土壌の調整が同時に終了する。さらに、冷却用の気体の噴射によって植栽土壌の温度が素早く下がるので、肥料の投入までの待ち時間が短い。以上の作業、すなわち植栽土壌基材の殺菌から肥料を添加した植栽土壌の調整までを本殺菌攪拌装置で行うことができる。」(段落【0017】)

そして,上記記載事項1bに「これによって調整される植栽土壌は、植物や種子等を栽培する時に用いられる土壌であり、また、この土壌はキノコ栽培においては培養基とよばれる。」とあることから,上記各記載事項における「植栽土壌基材」をキノコ栽培における「培養基材」とよぶと,以上の記載事項1a?1cの記載から,甲第1号証には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「培養基材を容器に投入し,攪拌手段で攪拌すると共に,容器内に蒸気を噴射して培養基材の攪拌と殺菌をし,培養基材の冷却を行った後に肥料を加えて攪拌するキノコの培養基の殺菌,調整方法。」(以下,「甲1発明」という。)

2.甲第2号証:特開2007-106613号公報
請求人が提出した上記甲第2号証は,平成19年4月26日に公開された刊行物であって,該公開日は本件特許の出願日よりも後である。したがって,甲第2号証は特許法第29条第2項で規定する本件特許出願前に頒布された刊行物等に該当しないから,その記載内容の検討を省略する。

3.甲第3号証:内山虎歳男著「白いエノキタケ栽培法」(昭和52年4月1日,長野県農業改良協会発行)第62頁及び奥付き
本件出願前に公開された,上記甲第3号証には,以下の記載がある。
3a.「培養基はオガクズとコヌカが主材であり、この混合比はオガクズ三に対しコヌカ一の割合であるが、・・・
三対一の混合比の培養基材をミキサー(攪拌機)に入れ、そのままの状態で約十五分?二〇分攪拌する。そのあとこれに水を加えて攪拌し、水分で約六二パーセント?六五パーセントの培養基に仕あげる。・・・」(62頁上欄1?8行)

第6 当審での検討
1.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「培養基材」と本件発明1の「廃培地」は,ともに「基材」である点で共通しており,甲1発明である「キノコの培養基の殺菌,調整方法」と本件発明1である「キノコの菌床培地の再生方法」は,ともに「キノコの培養基の処理方法」である点で共通している。
そして,甲1発明の,培養基材が投入された「容器内に蒸気を噴射」することは,本件発明1の,廃培地を「蒸気に晒」すことに相当している。
さらに,甲1発明において「培養基材の冷却を行った後に肥料を加えて攪拌する」ことは,それを培養基材が過度に乾燥もしくは湿潤した状態で行うことは技術常識的に考えられず,培養基材の水分を管理(本件発明1の「水分調整」に相当。)した上で攪拌していることは明らかであるから,本件発明1の「廃培地の水分調整を行うとともに新たに栄養分を加えて攪拌」するに相当し,また,甲1発明が,特に,熱による乾燥を行う必要がないことも当業者にとって明らかである。
以上より,両者は以下の点で一致している。
(一致点)
「基材を蒸気に晒し,その後基材の水分調整を行うとともに新たに栄養分を加えて攪拌するキノコの培養基の処理方法であって,熱による乾燥を行わないキノコの培養基の処理方法。」
そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は,基材が使用済みのきのこの菌床培地である廃培地であって,きのこの菌床培地の再生方法の発明であるのに対して,甲1発明は,基材は使用済みの廃培地ではなく,培養基の殺菌,調整方法の発明である点。。
(相違点2)
上記相違点1に関連して,本件発明1は,使用済みの廃培地を所要時間水に浸すか蒸気に晒すことによって,廃培地中の残留養分やその他のきのこ生育時における生成物質を溶出させているのに対して,甲1発明は,培養基材を入れた容器内に蒸気を噴射することによって培養基材を殺菌している点。

(2)各相違点に対する判断
(相違点1についての判断)
甲第1号証には,基材について使用済みの廃培地である旨の記載は全くない。また,使用済みの廃培地には,死滅菌糸等きのこの生育を阻害する物質が含まれており,そのままきのこの培地として使用することが好ましくないことは当業者にとって常識とするところであって,廃培地の再生には,死滅菌糸等のきのこの育成阻害物質を消失させるための特別な方法が用いられることは当業者にとって周知の事項である(例えば,乙第1号証には,廃培地中に残っている米糖や海藻及び死滅菌糸を除去するために,廃培地を200?400℃に設定した攪拌装置(ロータリーキルン)内で攪拌しながら15?60分間熱風乾燥させる再生方法,乙第2号証には,廃培地に含まれるキノコの菌や雑菌を殺菌するために,廃培地を釜に入れ,釜の内部温度を約90℃で三時間加熱し,さらに温風乾燥機により8時間乾燥させる再生方法が記載されている。)。
そうすると,甲1発明の培養基材の殺菌・調整方法をそのまま廃培地の再生方法として利用することが,当業者に容易に想到しうるとすることはできない。
さらに,甲第3号証をみても,廃培地の再生方法についてはなんら記載されていない。
したがって,上記相違点1に係る本件発明の構成は,甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できるものではない。

(相違点2についての判断)
本件発明1と甲1発明とは,ともに「基材を蒸気に晒し」ている点では同じであるが,本件発明1は,廃培地中の残留養分やきのこ生育時における生成物質が溶出する状態となるように蒸気の温度や圧力,時間を調整して廃培地を晒しているのであって,熱によって殺菌するために蒸気を噴射する甲1発明とは,「基材を蒸気に晒」すことの技術的な意味が異なるものである。
そして,上記「(相違点1についての判断)」で検討したとおり,甲1発明及び甲第3号証に記載された発明は,「廃培地」を再生することは何ら示唆するものではない。
してみると,上記相違点2に係る本件発明1の「使用済みの廃培地を所要時間水に浸すか蒸気に晒すことによって,廃培地中の残留養分やその他のきのこ生育時における生成物質を溶出」させるという構成が,甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できるとは認められない。

(3)まとめ
以上より,本件発明1は,甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2,3について
本件発明2,3は,本件発明1を引用するものであって,上記の通り,本件発明1が甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができないものであるから,同様の理由により,本件発明2,3は,甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.本件発明4について
上記「第5 2.」に記載したとおり,甲第2号証は,本件特許の出願日よりも後に公開されたものであって,その内容を検討するまでもなく,請求人の主張する理由によって無効とすることはできない。

第7 結び
以上,本件特許第4125333号の請求項1乃至4に係る発明の特許は,請求人の主張する無効理由によっては,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-09 
結審通知日 2009-06-12 
審決日 2009-07-01 
出願番号 特願2006-231983(P2006-231983)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
宮崎 恭
登録日 2008-05-16 
登録番号 特許第4125333号(P4125333)
発明の名称 きのこ菌床培地の再生方法  
代理人 下田 茂  
代理人 下田 茂  
代理人 関根 光生  

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