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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24D
管理番号 1203101
審判番号 不服2007-19833  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-17 
確定日 2009-09-04 
事件の表示 特願2003-404522「研磨用品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-148500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、1994年1月3日(パリ条約による優先権主張1993年1月14日、米国)を国際出願日とする特願平6-516131号の一部を平成15年12月3日に新たな特許出願としたものであって、平成19年3月19日付けで手続補正がなされ、同年4月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月10日付けで明細書を補正対象とする手続補正(以下、同手続補正を「本件補正」という。)がなされたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含し、
該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる方法。
【請求項2】複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、製造用具から連続的に分離する工程;
を包含し、
該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる方法。」
と、補正された。

(2)補正事項
上記補正は、以下の事項からなる。

補正事項1
請求項1,2に記載された発明を特定する事項である混合物に含まれる「照射硬化性バインダー前駆体」に関して、「該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる」と補正する。

(3)補正の目的
補正事項1は、「照射硬化性バインダー前駆体」が、「垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体」、「少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体」、「少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体」、及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いることを限定するものであって、これは、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)請求項1に係る発明について
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4-1)前置引用例
前置報告書に引用された国際公開第92/013680号(以下、「前置引用例」という。)には、関連する国内出願の公表特許公報(特表平6-505200)の訳によれば、「構造を有する研磨用品」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

(ア)公表公報第4頁左下欄第5?13行
「上述のように、バインダーは照射硬化性であるうる。照射硬化性バインダーは照射エネルギーにより少なくとも部分的に硬化されるか、または少なくとも部分的に重合されうるいずれかのバインダーである。典型的には、これらのバインダーはフリーラジカル機構により重合される。好ましくは、これらは、アクリレート化ウレタン、アクリレート化エポキシ、垂れ下がったα,β-不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、エチレン性不飽和化合物、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択される。」

(イ)公表公報第5頁右下欄第11行?第6頁左上欄第2行
「本発明の被覆研摩用品は以下の操作により調製されうる。まず、研摩グレインおよびバインダーを含有するスラリーを製造用具に導入する。第2に、前側および裏側を有する裏材料を製造用具の外側表面に導入する。スラリーは裏材料の前側を濡らすことにより中間用品を形成する。第3に、バインダーが少なくとも部分的に硬化またはゲル化され、その後製造用具の外側表面から中間用品が除去される。第4に、製造用具から被覆研摩用品が除去される。好ましくは、4工程は連続的に行なわれる。
本発明の方法の模式的な工程図を図2に示す。スラリー100は圧力または重力により充填口102から製造用具104上に流れ、その中のキャビティ(非表示)中に満たされる。スラリー100がキャビティを完全に満たさない場合は、得られる被覆研摩用品は研摩コンポジットの表面上および/または研摩コンポジットの内部にボイドまたは微小な不完全部分を有する。製造用具にスラリーを導入する他の方法にはダイ被覆および真空ドロップダイ被覆が含まれる。
製造用具104に導入される前にスラリー100は加熱されることが好ましい。典型的には、40?90℃の範囲の温度に加熱される。スラリー100が加熱される場合は、それは製造用具104のキャビティ中により容易に流れ、そのことにより、不完全部分が最低限となる。研摩スラリーの粘度はいくつかの理由で精密に制御することが好ましい。たとえば、粘度が高過ぎると研摩スラリーを製造用具に導入することが困難になる。」
(ウ)公表公報第6頁左上欄第3行?第6頁左上欄第24行
「製造用具104はベルト、シート、被覆ロール、被覆ロール上に装着されたスリーブまたはダイでありうる。製造用具104は被覆ロールであることが好ましい。典型的には、被覆ロールは24および45cmの間の直径を有し、金属のような剛性材料で構成される。製造用具104が一旦被覆装置上に装着されると、これは出力駆動モータにより駆動される。
製造用具104は表面上に少なくとも1個の特定された形状の予め定められた配列を有する。これは本発明の用品の研摩コンポジットの予め定められた配列および特定形状の逆(inverse)である。この方法のための製造用具は金属、たとえば、ニッケルから調製されうるけれども、プラスチックの用具も用いうる。金属製の製造用具は、彫り込み、ホビング(hobbing)、所定の形状に機械加工された複数の金属部分を束として組み立てること、または他の機械的手段、または電気的形成により作製される。好ましい方法はダイヤモンド加工(diamondo turning)である。このような技術は、ポリマー科学および技術百科、第8巻、ジョン・ワイレイ&サンズ社、1968年、第651?655頁、および米国特許第3,689,346号、第7欄、第30?55行にさらに記載されており、これらすべてをここに参照として挙げる。
ある場合には、オリジナルの用具からプラスチックの製造用具を複製しうる。金属用具と比較した場合のプラスチック用具の利点はコストである。ポリプロピレンのような熱可塑性樹脂は金属用具上でその溶融温度においてエンボス可能であり、金属用具の熱可塑性レプリカを提供する。このプラスチックのレプリカも製造用具として用いうる。
照射硬化性バインダーのためには、製造用具は、典型的には30?140℃の範囲に加熱され、そのことにより、より容易な処理および研摩用品の剥離を提供する。」

(エ)公表公報第6頁左上欄第25行?第6頁右上欄第22行
「裏材料106は巻き戻しステーション108から出発し、ついで、アイドラーロール110およびニップロール112を通過することにより適当な張力を得る。ニップロール112は、裏材料106をスラリー100に押しつけ、そのことによりスラリーを裏材料106に濡らしつけ、中間用品を形成する。
中間用品が製造用具104を離れる前にバインダーが硬化またはゲル化される。ここで用いられる「硬化」という用語は固体状態に重合させることを意味する。「ゲル化」はほぼ固体状に非常に粘性となることを意味する。硬化またはゲル化の後に研摩コンポジットの被覆研摩用品が製造用具104から分離した後は、研摩コンポジットの特定形状は変化しない。ある場合には、まずバインダーがゲル化され、ついで、中間用品が製造用具104から除去されうる。ついで、バインダーがその後硬化される。寸法的な特徴が変化しないために、得られる被覆研摩用品は非常に正確なパターンを有する。したがって、被覆研摩用品は製造用具104の逆のレプリカ(inverse replica)である。
バインダーは、熱、赤外線照射または、電子線照射、紫外線照射または可視光照射のような他の照射エネルギーのようなエネルギーを提供するエネルギー源114により硬化またはゲル化される。用いるエネルギー源は、用いられる特定の接着剤および裏材料に依存する。縮合硬化性樹脂は熱、ラジオ周波数、マイクロ波または赤外線照射により硬化されうる。
付加重合性樹脂は、熱、赤外線、または好ましくは電子線照射、紫外線照射または可視光照射により硬化されうる。好ましくは、電子線照射は0.1?10Mrad、より好ましくは1?6Mradの線量レベルを有する。紫外線照射は200?700nm、より好ましくは250?400nmの範囲の波長を有する非粒子照射である。可視照射は400?800nm、より好ましくは400?550nmの間の範囲の波長を有する非粒子照射である。紫外線照射が好ましい。一定のレベル照射における硬化速度はバインダーの厚さ、ならびに密度、温度および組成物の特性に依存して変化する。」

(オ)公表公報第6頁右上欄第23行?第6頁左下欄第18行
「被覆研磨用品116は製造用具104から出発し、アイドラーロール118を横切って巻き取りスタンド120に達する。研摩コンポジットは裏材料に良好に接着する必要がある。そうでなければ、コンポジットが製造用具104に残ることとなる。被覆研摩用品116の剥離を増大させるために、製造用具104は、シリコーン材料のような剥離剤で被覆されるか、それらを含有することが好ましい。
用いられる特定のパターンおよび研摩用品に意図される用途に依存して、研摩用品は使用前に可撓化されることが好ましい場合もある。
また、研摩用品は以下の方法によっても製造される。第1に、バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を有するスラリーが前側および裏側を有する裏材料に導入される。このスラリーは裏材料の前側を濡らし、中間用品を形成する。第2に、中間用品が製造用具に導入される。第3に、中間用具が製造用具の外側面から分離する前にバインダーが少なくとも部分的に硬化またはゲル化され、研摩用品が形成される。第4に、研摩用品が製造用具から除去される。好ましくは、この工程は連続的に行なわれる。そのことにより、被覆研摩用品を調製するための効率的な方法が提供される。
第2の方法は、第1の方法とほぼ同様であるが、最初にスラリーが製造用具にではなく裏材料に設けられる点で異なる。たとえば、スラリーは巻き戻しステーション108とアイドラーロール110との間において裏材料に設けうる。第2の方法の他の工程および条件は第1の方法と同様である。製造用具の表面の特定の構成に依存して、第1の方法の代わりに第2の方法を用いることが好ましい。
第2の方法では、スラリーは、ダイ被覆、ロール被覆または真空ダイ被覆のような方法により裏材料の前側に設けられうる。スラリーの重量は裏材料の張力およびニップ圧およびスラリーの流速により調製されうる。」

(カ)公表公報第2頁左下欄第2行?右下欄第5行
「12.(1)バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを製造用具上に導入する工程;
(2)裏材料の片側の主要表面をスラリーが濡らすように製造用具の外側表面に裏材料を導入することにより、中間用品を形成する工程;
(3)該中間用品が製造用具の外側表面から分離する前にバインダーを少なくとも部分的に硬化またはゲル化させることにより、被覆研摩用品を形成する工程;
および
(4)該被覆研摩用品を製造用具から除去する工程;
を包含する被覆研摩用品を作製する方法。
13.前記バインダーが照射エネルギーにより硬化される請求項12記載の方法。
14.前記製造用具がシリンダー形状である請求項12記載の方法。
15.前記製造用具がベルトである請求項12記載の方法。
16.前記バインダーが熱エネルギーにより硬化される請求項12記載の方法。
17.製造用具から除去した後に被覆研摩用品を完全に硬化させる工程をさらに包含する請求項12記載の方法。
18.(1)バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを、このスラリーが裏材料の前側を濡らすように裏材料上に導入することにより、中間用品を形成する工程;
(2)外側表面を有する製造用具であって該製造用具の外側表面が特定のパターンを有するものに該中間用品を導入する工程;
(3)中間用品が製造用具の外側表面から分離する前に少なくとも部分的にバインダーを硬化またはゲル化させることにより、被覆研摩用品を形成する工程;および
(4)該製造用具から被覆研摩用品を除去する工程;
を包含する被覆研摩用品を作製する方法。
19.前記バインダーが照射エネルギーにより硬化される請求項18記載の方法。
20.前記製造用具がシリンダー形状である請求項18記載の方法。
21.前記製造用具がベルトである請求項18記載の方法。
22.前記バインダーが熱エネルギーにより硬化される請求項18記載の方法。
23.製造用具から除去した後に被覆研摩用品を完全に硬化させる工程をさらに包含する請求項18記載の方法。」

以上、記載事項(ア)?(カ)によれば、前置引用例には、
「ベルト、シート、被覆ロール、被覆ロール上に装着されたスリーブまたはダイであり、外側表面が特定のパターンを有する製造用具を提供する工程;
バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを製造用具上に導入する工程;
裏材料の片側の主要表面をスラリーが濡らすように製造用具の外側表面に裏材料を導入することにより、中間用品を形成する工程;
該中間用品が製造用具の外側表面から分離する前にバインダーを、赤外線照射または、電子線照射、紫外線照射または可視光照射のような他の照射エネルギーにより、少なくとも部分的に硬化またはゲル化させることにより、被覆研摩用品を形成する工程;
および
該被覆研摩用品を製造用具から除去する工程;
を包含し、
前記バインダーは、アクリレート化ウレタン、アクリレート化エポキシ、垂れ下がったα,β-不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、エチレン性不飽和化合物、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、被覆研摩用品を作製する方法。」
との発明(以下、「前置引用例発明1」という。)が開示されていると認められる。

また、同様に前置引用例には、
「ベルト、シート、被覆ロール、被覆ロール上に装着されたスリーブまたはダイであり、外側表面が特定のパターンを有する製造用具を提供する工程;
バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを、このスラリーが裏材料の前側を濡らすように裏材料上に導入することにより、中間用品を形成する工程;
外側表面を有する製造用具であって該製造用具の外側表面が特定のパターンを有するものに該中間用品を導入する工程;
中間用品が製造用具の外側表面から分離する前に少なくとも部分的にバインダーを、赤外線照射または、電子線照射、紫外線照射または可視光照射のような他の照射エネルギーにより、硬化またはゲル化させることにより、被覆研摩用品を形成する工程;および
該被覆研摩用品を製造用具から除去する工程;
を包含し、
前記バインダーは、アクリレート化ウレタン、アクリレート化エポキシ、垂れ下がったα,β-不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、エチレン性不飽和化合物、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、被覆研摩用品を作製する方法。」
との発明(以下、「前置引用例発明2」という。)も開示されていると認められる。

(4-2)審査引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-83172号公報(以下、「審査引用例」という。)には、「研磨テープ及びその製造方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「(1)フィルム基材の少なくとも片面に多数の凹陥部を有する研磨層を設けてなる研磨テープであって、上記凹陥部の開口幅が0.1?200μm、凹陥部の深さが0.1?100μm、凹陥部のピッチが10?500μmであることを特徴とする研磨テープ。
(2)フィルム基材の少なくとも片面に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布した後、未硬化状態にある塗工層に多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムを積層し、次いで、塗工層を硬化せしめた後、該賦形用フィルムを剥離することを特徴とする研磨テープの製造方法。
(3)多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムの該突起面側に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布した後、未硬化状態にある塗工層側をフィルム基材と対峙させて積層し、次いで塗工層を硬化せしめた後、該賦形用フィルムを剥離することを特徴とする研磨テープの製造方法。
(4)研磨層形成用塗料として電離線硬化性塗料を使用し、電離放射線を照射して塗工層を硬化させる請求項2又は3記載の研磨テープの製造方法。
(5)賦形用フィルムの賦形用突起をエンボス法にて形成してなる請求項2、3又は4記載の研磨テープの製造方法。」

(イ)(公報第2頁右下欄第1?7行)
「以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図は本発明の研磨テープの一例を示すもので、本発明研磨テープ1は基材フィルム2と、該フィルム基材2の片面に設けられた研磨層3とからなり、該研磨層3には多数の特定の凹陥部4が付与されて構成されている。」

(ウ)公報第3頁左上欄第5?7行
「本発明における研磨層3の凹陥部4は、研磨の際に被研磨体から生成する研磨屑を収容して溜める機能を果たすものである。」

(エ)公報第3頁右上欄第17?20行
「研磨層3のバインダー成分として使用される研磨層形成用塗料としては大別して、溶剤塗料、熱硬化性塗料、電離放射線硬化性塗料等が挙げられる。」

(オ)公報第3頁左下欄第18行?右下欄第9行
「電離放射線硬化性塗料は、硬化物の架橋密度が高いため耐摩性、耐熱性等の物性に優れ、また硬化速度が速いため生産性が良好である点で好ましい。この電離放射線硬化性塗料には電子線硬化性塗料と紫外線硬化性塗料とがあり、この2種は後者が光重合開始剤や増感剤を含有することを除いて成分的に同様なものであり、一般的には被膜形成成分としてその構造中にラジカル重合性の二重合結合を有するポリマー、オリゴマー、モノマー等を主成分とし、その他必要に応じて非反応性のポリマー、有機溶剤、ワックス、その他の帯電防止剤等の添加剤を含有するものである。」

(カ)公報第4頁左下欄第1行?第5頁左上欄第18行
「次いで、上記塗工層6が未硬化状態にあるうちに、該塗工層6上に別途準備する賦形用フィルム7を積層する。賦形用フィルム7は、上述した凹陥部4を賦形せしめるための賦形用突起8が多数形成されたものであり、賦形用突起8を塗工層6面に対峙させて重ね合わせ、必要に応じて適度に加圧して積層する。賦形用フィルム7の基材としてはポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂からなるフィルム又はこれらの積層フィルム、或いは紙等に上記合成樹脂等をコーティングした複合フィルム等を使用することができる。これらのフィルムはそれ自体が塗工層7に対して離型性を有しないものである場合はその表面に離型処理を施すことができる。賦形用フィルム7の厚さは、凹陥部の深さ、塗工層への押圧・剥離適性、フィルム強度等を考慮して設定するが、12?100μmが好ましい。
賦形用フィルム7の賦形用突起8の形成に当たっては従来周知の方法を採用することができ、特に規則性を有した突起パターンを任意に且つ安定して設けることができる点でエンボス法が好ましい。この場合、賦形用突起を付与したエンボスロールにより賦形用フィルム基材表面にエンボスを行う。
次いで、賦形用フィルム7を積層した状態で塗工層6を硬化させるための硬化処理を行う。塗工層6が熱硬化性塗料からなる場合は加熱処理を施して硬化せしめ、また塗工層6が電離放射線硬化性塗料からなる場合は第5図に示すように電離放射線9を照射して硬化せしめる。電離放射線9の照射は腑形用フィルム7側若しくはフィルム基材2側から行う。この電離放射線照射は、例えば、塗工層が電子線硬化の場合にはコックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速機から放出される50?1000KeV、好ましくは100?300KeVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線硬化の場合には超高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光源から発する紫外線等が利用される。
塗工層6を硬化させた後、賦形用フィルム7を剥離する(第6図)。この剥離によって賦形用フィルム7の賦形用突起8に対応した形状が塗工層7表面に賦形され、結果として、凹陥部4を有する研磨層3がフィルム基材2上に形成された研磨テープ1が得られる。
また本発明製造方法は、上述のフィルム基材2に研磨層形成用塗料5を塗布した後に賦形用フィルム7と積層させる工程に代えて、まず研磨層形成用塗料5を賦形用フィルム7の賦形用突起8面側に塗布し、しかる後、未硬化状態にある塗工層6側を基材フィルム7に対峙させて積層させることが可能であり、これ以降は前記製造方法と同様の塗工層の硬化工程、賦形用フィルムの剥離工程を経て、凹陥部4を有する研磨層3がフィルム基材2上に形成された研磨テープを得ることができる。」
そして、第5図によれば、電離放射線9は賦形用フィルム7を通して塗工層6に照射されているから、賦形用フィルム7は照射エネルギー伝達性であることがみてとれる。また、第6図によれば、研磨テープ1からある程度の角度をつけて賦形用フィルム7を剥離することが示されている。

以上、記載事項(ア)?(カ)によれば、審査引用例には、
「フィルム基材を提供し、照射エネルギー伝達性賦形用フィルムを提供し、多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムの該突起面側に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布した後、未硬化状態にある塗工層側をフィルム基材と対峙させて積層し、次いで賦形用フィルムを通して照射エネルギーを連続的に伝達して、塗工層を硬化せしめた後、
該賦形用フィルムを剥離することを特徴とする研磨テープの製造方法。」
との発明(以下、「審査引用例発明1」という。)が開示されていると認められる。
また、同様に審査引用例には、
「フィルム基材を提供し、照射エネルギー伝達性賦形用フィルムを提供し、フィルム基材の少なくとも片面に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布した後、未硬化状態にある塗工層に多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムを積層し、次いで、賦形用フィルムを通して照射エネルギーを連続的に伝達して塗工層を硬化せしめた後、該賦形用フィルムを剥離することを特徴とする研磨テープの製造方法。」
との発明(以下、「審査引用例発明2」という。)も開示されていると認められる。

(4-3)対比その1
そこで、本願補正発明1と前置引用例発明1とを比較すると、前置引用例発明1の「被覆研摩用品を作製する方法」は、製造用具の外側表面が特定のパターンを有するから、複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製しており、また、被覆研磨用品が連続的に作製されているのも明らかであるから、本願補正発明1の「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法」と一致している。
そして、後者の「バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを製造用具上に導入する工程」は、前者の「c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程」に相当し、以下同様に、後者の「裏材料の片側の主要表面をスラリーが濡らすように製造用具の外側表面に裏材料を導入することにより、中間用品を形成する工程」は、前者の「d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程」に、後者の「前記バインダーは、垂れ下がったα,β-不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである」点は、前者の「該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる」点に、夫々相当していることは明らかである。
更に、後者が「裏材料」を準備しているのは明らかであり、この点は、前者の「a.表表面を有する裏材料を提供する工程」に相当している。
さらに、後者の「ベルト、シート、被覆ロール、被覆ロール上に装着されたスリーブまたはダイである製造用具を提供する工程」は、製造用具が「照射エネルギー伝達性」である点を除いて、前者の「b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程」の点に相当し、後者の「該中間用品が製造用具の外側表面から分離する前にバインダーを、赤外線照射または、電子線照射、紫外線照射または可視光照射のような他の照射エネルギーにより、少なくとも部分的に硬化またはゲル化させることにより、被覆研摩用品を形成する工程」は、製造用具を通して照射エネルギーを伝達することを除いて、前者の「e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程」に相当し、後者の「該被覆研摩用品を製造用具から除去する工程」は、製造用具との分離直後の角度が30度を超える点を除いて、前者の「f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、該製造用具から連続的に分離する工程」に相当している。

以上の通りであるから、両者は、
<一致点1>
「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、製造用具を提供する工程;
c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程;
e.照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含し、
該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1の1>
本願補正発明1では、製造用具が「照射エネルギー伝達性」であり、これにより、「製造用具を通して照射エネルギーを伝達する」に対し、前置引用例発明1の製造用具はそのようなものであるのか不明であり、前置引用例発明1の被覆研摩用品を形成する工程がそのように照射エネルギーを伝達しているかは不明である点。

<相違点1の2>
本願補正発明1では、成形された取り扱い可能な構造物を、「製造用具との分離直後の角度が30度を超える」ようにして、該製造用具から連続的に分離しているのに対して、前置引用例発明1においては、被覆研摩用品を製造用具から除去することのみ示され、分離直後の角度は前置引用例発明1には明示的には示されていない点。

(4-4)判断その1
○相違点1の1について
相違点1の1について検討すると、製造用具を「照射エネルギー伝達性」とすること、および、「製造用具を通して照射エネルギーを伝達する」点は、審査引用例発明1に示されている。
そして、前置引用例発明1と審査引用例発明1は、ともに被覆研摩用品の製造という同一の技術分野に属し、製造用具によって研摩表面を成形する際にシートを用いる点でも共通しているから、審査引用例発明に接した当業者ならば、これらの相違点1の1に係る事項を前置引用例発明1へ転用することは自然に想到できるものである。
してみれば、相違点1の1に係る構成の違いは、前置引用例発明1に審査引用例発明1を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

○相違点1の2について
相違点1の2について検討すると、前置引用例1の図2を詳細に検討すると、ここには典型的な製造用具として被覆ロール104が示され、この被覆ロール104上でエネルギー源114により照射エネルギーを提供されスラリーが硬化した被覆研摩用品116は、二つあるアイドラーロール118のうち、図示右側のアイドラーロール118によって、被覆ロール104から除去(分離)されている。二つあるアイドラーロール118は被覆ロール104に対して、被覆ロール104の直径方向に並べて配置されているから、このときの被覆研摩用品116の「製造用具との分離直後の角度」は、約90°とみることができる。
してみれば、相違点1の2は、前置引用例1に実質的に記載された事項であるということができる。
そして、審査引用例発明1においても、ある程度の角度をつけて賦形用フィルム7を剥離することが示されている。本願補正発明1が、製造用具との分離直後の角度が30度を超えることに関して、明細書には臨界的意義はなんら示されていないから、このように数値を限定した点は、単なる設計的事項の変更にすぎない。
さらにいえば、接着されたシート状物を剥がす場合に、ある程度の角度をつけて引き剥がすことは周知の事項である。例えば、巻かれた粘着テープを使うときや、一回貼られた粘着テープを剥がすときなど、30度以下という浅い角度で引き剥がすことはなく、90度やそれ以上の角度で引き剥がすといったことは、当業者に限らず、広く一般的に常識的な事項である。
してみれば、相違点1の2に係る構成の違いは、単なる設計的事項の限定により、あるいは前置引用例発明1に周知事項を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

以上のとおりであるから、本願補正発明1は、前置引用例発明1、審査引用例発明1、および、設計的事項、または周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求項2に係る発明について
同様に、本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)についても検討する。

(5-1)対比その2
本願補正発明2を前置引用例発明2とを比較すると、後者の「バインダーと複数の研摩グレインとの混合物を含むスラリーを、このスラリーが裏材料の前側を濡らすように裏材料上に導入することにより、中間用品を形成する工程」は、前者の「c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程」に相当し、同様に、後者の「外側表面を有する製造用具であって該製造用具の外側表面が特定のパターンを有するものに該中間用品を導入する工程」は、前者の「d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程」に相当している。

以上のとおりであるから、両者は、
<一致点2>
「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、製造用具を提供する工程;
c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程;
e.照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含し、
該照射硬化性バインダー前駆体に、垂れ下がった不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個の垂れ下がったアクリレート基を有するイソシアネート誘導体及びこれらの組合せから選択された少なくとも1種を用いる方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点2の1>
本願補正発明2では、製造用具が「照射エネルギー伝達性」であり、これにより、「製造用具を通して照射エネルギーを伝達する」に対し、前置引用例発明2の製造用具はそのようなものであるのか不明であり、前置引用例発明2の被覆研摩用品を形成する工程がそのように照射エネルギーを伝達しているかは不明である点。

<相違点2の2>
本願補正発明2では、成形された取り扱い可能な構造物を、「製造用具との分離直後の角度が30度を超える」ようにして、該製造用具から連続的に分離しているのに対して、前置引用例発明2においては、被覆研摩用品を製造用具から除去することのみ示され、分離直後の角度は前置引用例発明2には明示的には示されていない点。

(5-2)判断その2
上記相違点2の1、および相違点2の2は、(4-2)対比その1で述べた相違点1の1、および相違点1の2と同じであるから、その判断も(4-3)判断その1で述べた判断と同様である。

してみれば、本願補正発明2は、前置引用例発明2、審査引用例発明1、および、設計的事項、または周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成19年3月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1,2に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含する方法。
【請求項2】複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、製造用具から連続的に分離する工程;
を包含する方法。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、前記第2.の(4-2)審査引用例で述べた審査引用例(特開平2-83172号公報)であり、その記載事項は、前記第2.の(4-2)審査引用例のとおりである。

(3)対比その1
本願発明1と、審査引用例発明1を比較するにあたって、審査引用例発明1の「被覆テープの製造方法」を検討すると、この製造方法は、研磨テープの表面に多数の凹陥部が賦形されているから、複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する研磨テープを作製しているとみることができ、また、研磨テープはテープ状であるから、連続的に作製されているのも明らかである。してみれば、審査引用例発明1の「被覆テープの製造方法」は、本願発明1の「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法」と一致している。
そして、後者の「照射エネルギー伝達性賦形用フィルムを提供し」についてみると、「フィルム」と「シート」に実質的な違いがなく、また前述のとおり、研磨テープは連続的に作製されており、その作製のための賦形用フィルムも同様に連続したものとするのが自然であるから、この点は、前者の「b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、連続シートからなる、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程」に相当する。
また、後者の「フィルム基材を提供し」は、前者の「a.表表面を有する裏材料を提供する工程」に相当し、以下同様に、後者の「多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムの該突起面側に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布」は、前者の「c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程」に、後者の「未硬化状態にある塗工層側をフィルム基材と対峙させて積層し」は、前者の「d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程」に、後者の「賦形用フィルムを通して照射エネルギーを連続的に伝達して塗工層を硬化」は、前者の「e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程」に、後者の「該賦形用フィルムを剥離する」は、前者の「f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、該製造用具から連続的に分離する工程」の内の、「f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程」の点に、夫々相当している。

以上のとおりであるから、両者は、
<一致点1>
「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、連続シートからなる照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンの上の混合物を、この混合物が裏材料の表表面を濡らすように、裏材料の表表面と連続的に接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明1では、成形された取り扱い可能な構造物を、「製造用具との分離直後の角度が30度を超える」ようにして、該製造用具から連続的に分離しているのに対して、審査引用例発明1においては、賦形用フィルムを剥離することのみが示され、剥離直後の角度は審査引用例発明1には明示的には示されていない点。

(4)判断その1
審査引用例発明1においても、ある程度の角度をつけて賦形用フィルム7を剥離することが第6図に示されている。本願補正発明1が、製造用具との分離直後の角度が30度を超えることに関して、明細書には臨界的意義はなんら示されていないから、このように数値を限定した点は、単なる設計的事項の変更にすぎない。
さらにいえば、接着されたシート状物を剥がす場合に、ある程度の角度をつけて引き剥がすことは周知の事項である。例えば、巻かれた粘着テープを使うときや、一回貼られた粘着テープを剥がすときなど、30度以下という浅い角度で引き剥がすことはなく、90度やそれ以上の角度で引き剥がすといったことは、当業者に限らず、広く一般的に常識的な事項である。
してみれば、相違点1に係る構成の違いは、単なる設計的事項の限定により、あるいは審査引用例発明1に周知事項を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

以上のとおりであるから、本願発明1は、審査引用例発明1、および設計的事項、または周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)対比その2
本願発明2と、審査引用例発明2を比較すると、(3)対比その1で述べたと同様に、審査引用例発明2の「被覆テープの製造方法」は、本願発明2の「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法」の点と一致している。
そして、後者の「フィルム基材を提供し」は、前者の「a.表表面を有する裏材料を提供する工程」に相当し、以下同様に、後者の「照射エネルギー伝達性賦形用フィルムを提供し」は、前者の「b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、連続シートからなる、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程」に、後者の「フィルム基材の少なくとも片面に研磨剤を含有した研磨層形成用塗料を塗布」は、前者の「c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程」に、後者の「未硬化状態にある塗工層に多数の凹陥部賦形用突起が付設された賦形用フィルムを積層し」は、前者の「d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程」に、後者の「賦形用フィルムを通して照射エネルギーを連続的に伝達して塗工層を硬化」は、前者の「e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程」に、後者の「該賦形用フィルムを剥離する」は、前者の「f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具との分離直後の角度が30度を超えるようにして、該製造用具から連続的に分離する工程」の内の、「f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程」の点に、夫々相当している。

以上のとおりであるから、両者は、
<一致点2>
「複数の研磨粒子集合体を有する研磨表面を有する被覆研磨用品を作製するための成形された取り扱い可能な構造物を連続的に調製する方法において、
a.表表面を有する裏材料を提供する工程;
b.独立したキャビティーのパターンを有する連続した接触表面を有し、連続シートからなる、照射エネルギー伝達性製造用具を提供する工程;
c.該裏材料の表表面上に、複数の研磨粒子および照射硬化性バインダー前駆体を含む混合物を連続的に設ける工程;
d.該裏材料の表表面上の混合物を、この混合物が該製造用具の接触表面及び独立したキャビティーのパターンを濡らすように、該製造用具の連続した接触表面及び独立したキャビティーのパターンに連続的に直接接触させる工程;
e.該製造用具を通して照射エネルギーを連続的に伝達することにより、該バインダー前駆体を少なくとも部分的に硬化させて、成形された取り扱い可能な構造物を提供する工程;及び
f.該成形された取り扱い可能な構造物を、該製造用具から連続的に分離する工程;
を包含する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点2>
本願発明2では、成形された取り扱い可能な構造物を、「製造用具との分離直後の角度が30度を超える」ようにして、該製造用具から連続的に分離しているのに対して、審査引用例発明2においては、賦形用フィルムを剥離することのみが示され、剥離直後の角度は審査引用例発明2には明示的には示されていない点。

(6)判断その2
相違点2は、前述の相違点1と同様であり、その判断も前記(4)判断その1で述べた相違点1についての判断と同様である。
以上のとおりであるから、本願発明2は、審査引用例発明2、および設計的事項、または周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

以上のとおりであるから、本願発明2は、審査引用例発明2及び周知事項、及び設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成21年1月28付け回答書において、補正案を提示し、「ただ、引用文献1との差異をより明確にするため、請求項1と2の『ロール、エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される』を『エンドレスベルト及び連続シートからなる群から選択される』と補正する用意はございます。」と述べ、「ロール」を特許請求の範囲から除く補正の用意があるとしているが、前記第2.(4-1)前置引用例、で述べたとおり、製造用具としての「ベルト、シート」は前置引用例記載の事項であり、また、同(4-2)審査引用例、および第3.(3)対比その1で述べたとおり、連続シートと実質的に相違しない「賦形用フィルム」が審査引用例記載の事項であるから、上記補正案によっても拒絶の理由は解消しない。

(7)むすび
以上のとおり、本願発明1、2は、審査引用例発明1、2及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-03 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-20 
出願番号 特願2003-404522(P2003-404522)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 段 吉享筑波 茂樹  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 尾家 英樹
菅澤 洋二
発明の名称 研磨用品の製造方法  
代理人 田村 恭生  
代理人 田中 光雄  
代理人 北原 康廣  

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