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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2007800196 | 審決 | 特許 |
無効200580069 | 審決 | 特許 |
無効2007800138 | 審決 | 特許 |
無効2009800243 | 審決 | 特許 |
無効2009800029 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部無効 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1204009 |
審判番号 | 無効2006-80137 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-07-31 |
確定日 | 2009-08-10 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2854905号「キレート組成物」の特許無効審判事件についてされた平成19年10月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10061号平成20年4月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2854905号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、審判費用中参加によって生じたものは参加人の負担とし、その他の審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本件特許第2854905号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る発明についての出願は、1989年9月26日(パリ条約による優先権主張;1988年9月27日、米国、1989年2月23日、米国、1989年2月28日、米国、1989年7月12日、米国、1989年7月31日、米国)にサリユーター・インコーポレイテツドによって国際出願され、平成10年11月20日に特許権の設定登録がなされた後、登録名義人が被請求人であるアメルシャム・ヘルス・サリューター・インコーポレイテッドに表示変更された。 本件特許についての無効審判の手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成18年 7月31日 無効審判請求 平成18年12月22日 訂正請求 平成19年 6月15日付 参加決定 平成19年 9月 7日 第1回口頭審理 平成19年10月23日付 審決(訂正認容、全部無効) 平成20年 2月22日 知的財産高等裁判所出訴 (平成20年(行ケ)第10061号) 平成20年 4月14日 訂正審判請求(訂正2008-390040号) 平成20年 4月30日 審決取消の決定(特許法第181条第2項による) 平成20年 5月12日付 訂正請求のための期間指定通知 平成20年 6月17日付 訂正請求書副本送付及び弁駁指令 平成20年 9月 2日付 平成20年7月22日付弁駁書による 請求の理由の補正許否の決定 平成20年10月27日 訂正請求 平成20年11月26日 第2回口頭審理 (注1)平成18年12月22日訂正請求、及び特許法134条の3第5項の規定により訂正2008-390040号の審判請求書に添付された訂正した明細書を援用してなされたとみなされる訂正請求は、それぞれ特許法第134条の3第5項の規定により取り下げられたものとみなされる。 2.訂正請求(平成20年10月27日付け)について (1)訂正の内容 上記の訂正請求は、本件特許明細書をその請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、以下の訂正事項を含んでいる。 a.訂正事項1 請求項1を、以下のとおりに訂正する。 「【請求項1】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有する媒体。」 b.訂正事項2 請求項2を、以下のとおりに訂正する。 「【請求項2】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルポキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する媒体。」 c.訂正事項3 請求項3を、以下のとおりに訂正する。 「【請求項3】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し,該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために等張またはわずかに高張な浸透圧濃度を有する請求項2に記載の媒体。」 d.訂正事項4 請求項5の、請求項1を引用する部分について、以下のように訂正する。 「【請求項4】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項1に記載の媒体。」 e.訂正事項5 請求項5の、請求項2を引用する部分について、以下のように訂正する。 「【請求項5】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項2に記載の媒体。」 f.訂正事項6 請求項5の、請求項3を引用する部分について、以下のように訂正する。 「【請求項6】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項3に記載の媒体。」 g.訂正事項7 請求項4、6、7を削除する。 h.訂正事項8 明細書中の実施例16の第2行(特許公報第9頁右欄第1行)の「DTPA-ビスメチルアミド二水和物」を「DTPA-ビスエチルアミド二水和物」に訂正する。 (注2) 本審決中においては、本件特許明細書にならい、下記の記号で錯形成化合物(錯形成剤ともいう。)を表すことがある。 *DTPA; ジエチレントリアミンペンタ酢酸 *DTPA-BMA; 6-カルボキシメチル-3、9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸 N^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸とも称される。 *DTPA-BMPA; 6-カルボキシメチル-3、9-ビス(N-メチル-N-2、3-ジヒドロキシプロピル-カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸 N^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-[2、3-ジヒドロキシ-N-メチルプロピルカルバモイルメチル]-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸とも称される。 *DTPA-APD; 6-カルボキシメチル-3、9-ビス(2、3-ジヒドロキシプロピル-カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸 N6-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(2、3-ジヒドロキシプロピル-カルボモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸とも称される。 また、ガドリニウムを「Gd」、カルシウムを「Ca」の元素記号で表し、上記錯形成化合物の略称の前に金属の元素記号を付加して、GdDTPA、CaDTPAのように当該金属と錯形成化合物との錯体(「錯化合物」、「キレート」と同義)を表すことがある。 (2)訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、 a.「常磁性金属イオン、ランタニドイオンおよび重金属イオンから選ばれるカチオン」を「ガドリニウム(III)イオン」に、 b.「6-カルボキシメチル-3,9-ビス(カルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸」を、「6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸(以下、上記略称を使用し「DTPA-DMA」という。)」にし、 c.そのガドリニウム(III)キレートの濃度を「500mM」に、そのカルシウムキレートとガドリニウム(III)キレートのモル比を「1:20」に 訂正するものである。 ガドリニウム(III)は常磁性であり、かつランタニドに属し重金属であるからaの訂正は減縮にあたる。 また、bについては、「6-カルボキシメチル-3、9-ビス(カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸」は「カルバモイル」が「H_(2)N-CO-」を意味し(甲第5号証参照)、単一の化合物を意味する場合もあるが、「H_(2)N-CO-」のみならず「置換カルバモイル」をも含めた広義の意味で用いられる場合も見られる(乙第1号証の1?6)。 そこで本件特許明細書では何れの意味で使用されているかをみるに、その発明の詳細な説明(本件特許公報第4頁左欄第7行?同頁右欄下から4行)には「本発明は、6-カルボキシメチル-3、9-ビス(カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸(以後DTPA-ビスアミドと略す)・・・」の記載に続く説明において、当該DTPA-ビスアミドが、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)(構造式は省略する。)の化合物やDTPA-BMA、DTPA-BMPA、DTPA-APD等の各種の化合物を包含することが記載され、さらに、請求項2では、請求項1が引用され、「6-カルボキシメチル-3、9-ビス(カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸」が式Iの化合物を包含するものとして特定されている。 そうすると、「6-カルボキシメチル-3、9-ビス(カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸」は、「置換カルバモイル」であるDTPA-BMAをも包含する広義の技術用語として使用されているのであるから、bの訂正も減縮にあたる。また、cの訂正が減縮であることは自明であるから、したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項1を減縮することを目的とするものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2において、 a.「常磁性金属イオン、ランタニドイオンおよび重金属イオンから選ばれるカチオン」を「ガドリニウム(III)イオン」に、 b. 式I(構造式は省略する。)で表される化合物を、DTPA-BMAに、 c.そのガドリニウムキレート濃度を「500mM」に、そのカルシウムキレートとガドリニウム(III)キレートのモル比を「1:20」とし、 d.さらに「刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する」としたものである。 上記、a?dの訂正は何れも減縮にあたるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項2を引用しイオンが常磁性金属イオンであることを特定した訂正前の請求項3について、当該イオンがガドリニウムであることを限定し、訂正事項2のb?dの内容に加えて、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするための低い浸透圧濃度が「等張またはわずかに高張な浸透圧濃度」であることを限定したものに相当する。 したがって、訂正事項3は、訂正前の請求項3を減縮することを目的とするものである。 (4)訂正事項4?6について 訂正事項4?6は、選ばれたイオンのキレートが0.001?5.0モル/lであることを限定して択一的に請求項1?3を引用する請求項5につき、それぞれ訂正事項1?3の訂正を行い、かつDTPA-BMAのカルシウムキレートをナトリウム塩に限定し、項を分けて記載したものである。 したがって、訂正事項4?6は、特許請求の範囲の請求項5をさらに減縮することを目的とするものである。 (5)訂正事項7について 訂正事項7は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (6)訂正事項8について 訂正事項8は、実施例16の表題が「DTPA-ビスメチルアミド二水和物」であるのに対し、当該実施例ではエチルアミンを使用して、DTPA-ビスエチルアミド二水和物の結晶を得ていることから、表題とその記載内容との不一致を正す訂正であって、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、DTPA-BMAのガドリニウム(III)キレートを使用し、その濃度を500mM、DTPA-BMAのカルシウムキレートのナトリウム塩とガドリニウム(III)キレートのモル比を1:20とする点は本件特許明細書(特許公報7頁右欄49?8頁左欄19行、9頁右欄下から第4行?10頁左欄第31行)の実施例4及び20に記載されており、浸透圧濃度についても本件特許公報第6頁右欄第45?48行に記載されている。 したがって、訂正事項1?8はいずれも、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 請求人は、請求項2の「刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する」、及び請求項3の「刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために等張またはわずかに高張な浸透圧の濃度を有する」は、「診断画像コントラスト媒体」が「非経口投与可能な形態」の場合しか支持されていないのに、請求項2及び3の訂正においては、「診断画像コントラスト媒体」が「非経口投与可能な形態」である旨の要件は加入されなかったので、訂正後の請求項2及び3は、明細書の記載により支持されていない旨主張している。 しかしながら、上記訂正事項2,3には、投与形態を経口投与に特定する訂正は含まれておらず、単にコントラスト媒体の浸透圧濃度を限定するものであって、その態様は前述のとおり本件特許明細書に記載されているのであるから、請求人の主張は採用することができない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、訂正事項1?8に係る訂正は、特許法第134条の2第1項及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、訂正を認める。 3.本件発明 上記のとおり訂正が認容されたので、本件特許第2854905号の請求項1?6に係る発明は、平成20年10月27日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有する媒体。 【請求項2】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する媒体。 【請求項3】 ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために等張またはわずかに高張な浸透圧濃度を有する請求項2に記載の媒体。 【請求項4】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項1に記載の媒体。 【請求項5】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項2に記載の媒体。 【請求項6】 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカンニ酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項3に記載の媒体。 以下、これらの請求項に係る発明を「本件発明1」、「本件発明2」・・・「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。 4.当事者の主張の概要 4-1.請求人の主張の概要 請求人は、「特許第2854905号の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提出し、本件の訂正請求は認められるべきでないとして、本件特許は、特許法第123条第1項第1及び3号(平成5年改正前の特許法)の規定により無効とされるべきであり(理由A?C)、訂正が認められるとしても、訂正後の請求項1?6に係る発明については同法第123条第1項第1号の規定(理由B、C)により無効とされるべきである旨主張している。 理由A. 本件特許の訂正前の請求項2の記載は、訂正前の請求項1との関係において不明瞭であるから、訂正前の本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項(平成2年改正前の特許法)の要件を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第3号の規定により無効とされるべきである。 理由B. 本件特許の請求項1?7(訂正後の1?6)に係る発明は甲第1号証に記載されているから、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであって、本件特許は同法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。 理由C. 本件特許の請求項1?7(訂正後の請求項1?6)に係る発明は、甲第1号証に記載の発明又は甲第1号証及び甲第2号証(訂正後は甲第1、2号証、及び甲第11号証)に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたものであり特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、本件特許は同法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開昭63-145239号公報 甲第2号証:特表昭62-5014l2号公報 甲第3号証:昭和51年(ネ)1813号 昭和54年9月27日 東京高等裁判所判決 甲第4号証:特公昭40-21137号公報 甲第5号証:医学英和大辞典、1976年、南山堂、第267頁 甲第6号証:Physiologica1 Chemistry and Physics and Medica1 NMR,1984,16, p.167?172 甲第7号証:J C1in pharmacol,l997,37,p.587?596 甲第8号証:特開昭60-36452号公報 甲第9号証:特公昭45-27321号公報 甲第10号証:Nucl.Med.Biol.,1988,Vol.15, No.4,p.395?402 甲第11号証:特開昭59-139390号公報 甲第12号証:Radiology,1987,Vol.165(part 3),p.619-642 甲第13号証:Am.J.Roentgenology.(1988),Vol.150,p.817-821 4-2.被請求人及び参加人の主張の概要 被請求人及び参加人(以下、「被請求人ら」という。)は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効の理由A?Cは、いずれも理由がないと主張し、下記の証拠方法を提出している。 <被請求人> 乙第1号証の1:特許第2898256号公報の第1頁 乙第1号証の2:特許第2968842号公報の第1頁 乙第1号証の3:特許第2978033号公報の第1頁 乙第1号証の4:特許第3828574号公報の第1頁 乙第1号証の5:特許第3108097号公報の第1頁 乙第1号証の6:特公平7-62051号公報の第1頁 乙第2号証:標準化学用語事典、平成3年3月、丸善株式会社、353頁 乙第3号証:Magnetic Resonance Imaging, 1990,Vol.8,p.467?481 乙第4号証:MRI用造影剤マグネビストの添付文書、2005年5月改 訂 乙第5号証:平成20年(行ケ)第10061号審決取消請求事件におけ る原告準備書面 乙第6号証:欧州特許出願公開第270483号明細書 乙第7号証:米国特許第5098692号明細書 乙第8号証:マグネビストのインタビューフォーム <参加人> 丙第1号証:標準化学用語事典、平成3年3月30日、丸善株式会社、3 53頁 丙第2号証:医薬品インタビューフォーム、非イオン性MRI用造影剤 オムニスキャン、2005年7月 丙第3号証:医薬品インタビューフォーム、MRI用造影剤マグネビスト 2003年3月 丙第4号証:化学物質安全性評価の実際、昭和50年12月1日、株式会 社薬業時報社、目次、5頁及び30?31頁 丙第5号証:オムニスキャンの承認申請用資料の一部である「オムニスキ ャン概要書」の一部(平成5年11月18日)第一製薬株式会社作成 丙第6号証:製剤開発に関するガイドライン(平成18年9月1日)厚生 労働省医薬食品局審査管理課長 丙第7号証:ドイツ特許公開3640708号明細書 5.当審の判断 5-1.理由A(特許法第36条第4項の主張)について 本件の訂正請求が認容されるべきものであることは上記2.で述べたとおりである。 そして、上記の訂正によって、請求項1、2の錯形成剤は何れもDTPA-BMAに特定された結果、訂正前の「6-カルボキシメチル-3、9-ビス(カルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸」が単一の化合物を意味するのか、本件明細書の式Iの化合物を包含する広義の技術用語であるのか不明であるから、訂正前の請求項2の記載が請求項1との関係において不明瞭であるとする請求人の理由Aの主張の根拠はなくなった。 したがって、本件特許明細書(訂正明細書)の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項の規定を満たしていないとすることはできない。 5-2.理由B(特許法第29条第1項第3号の主張)について 5-2-1.甲第1号証の記載の概要 甲第1号証は、本件特許の優先権主張日より前に頒布された刊行物であり、同号証には、以下の事項が記載されている。 (1a) 「NMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に適当な最低1種の含金属錯化合物を含有する医薬において、1種またはそれ以上の錯形成剤および/または1種またはそれ以上の弱金属錯体またはそれらの混合物を添加物として含有することを特徴とするNMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に適当な含金属錯化合物を含有する医薬。」(特許請求の範囲1) (1b) 「錯形成剤ないしは弱金属錯体の添加量が0.1?10モル%または最高50mモル/Lであることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の医薬。」(特許請求の範囲3) (1c) 「1またはそれ以上の弱金属錯体が、1連のカルシウム、マグネシウム、亜鉛および鉄元素から選択された金属イオンを含有することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の医薬。」(特許請求の範囲4) (1d) 「DTPAのガドリニウム(III)錯体のジ-N-メチルグルカミン塩とDTPAのカルシウム三ナトリウム塩とを添加物として含有することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の医薬。」(特許請求の範囲5) (1e) 「N^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)錯体のジ-N-メチルグルカミン塩とN^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカン二酸とを添加物として含有することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の医薬。」 (特許請求の範囲9) (1f) 「発明が解決しようとする問題点 従って、多種多様な目的で必要であるのは、錯化合物からの該当する重金属イオンの遊離ができるだけ十分に阻止された、十分に相容性の医薬である。」(4頁左上欄下から3行?同頁右上欄2行) (1g) 「本発明によればこの課題が、1種またはそれ以上の遊離の錯形成剤および/または1種またはそれ以上の弱金属錯体またはそれらの混合物を、金属錯体をベースとする医薬に添加することにより、驚異的に申し分なく相容性の錯体が得られることにより解決されると判明した。」 (4頁右上欄6行?11行) (1h) 「この場合錯形成剤は、全3つの場合(診断薬ないし治療薬、錯形成剤添加、弱金属錯体添加)同じかあるいはまた異なっていてもよい。例えば挙げられるのが、・・・ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)・・・欧州特許明細書第130934号(例えば、N^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-[2、3-ジヒドロキシ-N-メチルプロピルカルバモイルメチル]-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸)に記載された錯形成剤、並びに例えばN^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸・・・である。」 (4頁右上欄12行?同頁左下欄下から4行) (1i) 「N^(6)-カルボキシメチル-N^(3)、N^(9)-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3、6、9-トリアザウンデカンジ酸 1、5-ビス(2、6-ジオキソモルホリノ)-3-アザペンタン-3-酢酸17.9g(50mモル)を、水50ml中でメチルアミンの1モル水溶液と混合する。12時間室温で攪拌し、かつ淡黄色の溶液を活性炭上で濾過することにより脱色する。真空中で濃縮することにより、融点78?82℃の白色吸湿性の粉末20.5g(=理論量の98%)。・・ (5頁左上欄12行?同頁右上欄5行) (1j) 「DTPAのカルシウム-トリナトリウム塩 DTPA196.6g(0.5モル)を、炭酸カルシウム50g(0.5モル)とともに水800ml中でガス発生が終了するまで加熱還流する。その後、2n-苛性ソーダ溶液750mlを添加することにより中性の塩溶液(pH7.1)を製造し、これを真空中で蒸発乾涸する。1夜中真空中で乾燥した後、融点178?180℃を有する1水和物としての錯塩246.2gが得られる。 分析(無水の物質に対する):・・ (6頁左上欄15行?右上欄7行) (1k) 「薬理試験 薬理試験で判明したのは、添加成分の遊離の錯形成剤ないしは弱金属錯体が、絶対的および相対的にわずかな用量にもかかわらず重金属イオンの完全な排出を極めて顕著に促進することである。 従って第1表は、造影剤に対しカルシウムナトリウムDTPAをわずかに10%添加することにより、GdDTPAの静脈内注射後1週間でラットの体内に残存するガドリニウム分量が>30%だけ、さらに骨質中の濃度が約45%だけ低減されることを示す。 第1表 (省略) 第2表の値は、GdDTPAをベースとする造影剤に対する遊離のDTPAわずかに2モルパーセントの添加(配合B)が、ラットの肝臓中のガドリニウム濃度を、遊離のDTPA0.08モルパーセントを有するコントロール(配合A)と比べ注射後第28日までに50%以上低減させることを示す。」(6頁左下欄1行?同頁右下欄下から5行) (1l) 「従来より、金属錯体をベースとする造影剤を製造する場合、溶液中に過剰量の金属イオンもまた過剰量の遊離の錯形成剤ないしは弱錯体も存在しないということが不断に慎重に留意された、それというのも遊離の錯形成剤もまた錯形成剤の弱錯体も例えばCa^(2+)のような金属イオンと、診断ないしは治療に適当な重金属イオンを有する強錯体よりも不良に相容可能であることが公知であるからである。 従ってまた本発明の意外なのは、遊離の錯形成剤または弱錯体を、ヒトヘの使用が予定された金属錯体に、金属の結合安定性およびそれとともにその除毒および排除を目的として添加することの極めて大きい効果である。この利点は、重金属およびその固有の毒性の除去が極めて緩慢であることにより、そのため場合により調剤の若干低減せる急性相溶性さえ甘受されうる程度に大きい意味がある。 しばしば、所望の目的を達成するため極めてわずかな濃度および用量で十分である。上限へ向けて、錯形成剤ないしは弱錯体の用量がその急性相容性により制限される。適当な範囲が実際の診断または他に有効な錯形成剤0.01?50モル%または最高250mモル/l、有利に0.1?10モルパーセントまたは50mモル/lである。錯形成剤または弱錯体を、はじめに選択された診断学的または治療に有効な金属錯体と比べ出来上つた調剤の相容性の相応な制限が生じる程度に多量に調剤に添加する必要は全くない。」 (7頁右上欄14行?同頁右下欄3行) (1m) 「例1 ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)のガドリニウム(III)錯体のジ-N-メチルグルカミン塩と添加物としてのDTPAのカルシウム-トリナトリウム塩との溶液の製造 N-メチルグルカミン97.6g(0.5モル)を注射液用(proinjection:p.i.)の水50mlに溶解する。DTPA196.6g(0.5モル)および酸化ガドリニウムGd_(2)O390.6g(0.25モル)を添加した後、2時間加熱還流し、かつ透明溶液を、もう1度N-メチルグルカミン97.6Kg(0.5モル)を添加することによりpH7.2とする。次いで、DTPAのカルシウム-トリナトリウム塩CaNa_(3)DTPAの一水和物24.62g(50mモル)を添加し、水(p.i.)1000mlに充填する。この溶液を限外濾過し、アンプル充填しかつ加熱殺菌し、かつ腸管外用途に使用準備する。」 (8頁左上欄下から2行?同頁右上欄下から5行) 5-2-2.対比・判断 甲第1号証には、「NMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に適当な最低1種の含金属錯化合物を含有する医薬において、1種またはそれ以上の弱金属錯体を添加物として含有することを特徴とする、NMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に適当な含金属錯化合物を含有する医薬。」(前記1a)が記載され、含金属錯化合物としてDTPA-BMAのガドリニウム(III)錯体を用いること(前記1e、1h)は明示されている。 しかし、弱金属錯体については、DTPA-BMAがカルシウム錯体等の弱金属錯体の錯形成剤として用いられることが示唆されるに止まり(前記1h)、DTPA-BMAのガドリニウム錯体とDTBA-BMAのカルシウム錯体の両者を具体的に組合せた例、及びDTBA-BMAのガドリニウム錯体とDTBA-BMAのカルシウム錯体のナトリウム塩との具体的な組合せは甲第1号証には明示されていない。 したがって、診断画像コントラスト媒体中に、GdDTBA-BMAとCaDTBA-BMAを含有する本件発明1?3、GdDTBA-BMAのナトリウム塩とCaDTBA-BMAのナトリウム塩を含有する本件発明4?6が甲第1号証に記載されているということはできない。 5-3.理由C(特許法第29条第2項の主張)について 5-3-1.甲第1,2、11号証の記載の概要 甲第1号証の記載の概要は、5-2-1で示したとおりである。 甲第2号証及び甲第11号証は、本件特許の優先権主張日より前に頒布された刊行物であり、甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (2a) 「磁気共鳴(MR)走査磁場内の被検者の対象領域のMR画像を増強するために、診断上のMR画像形成の間生体内で溶液として使用するための、固体状態の化学的に安定で生理的に許容され得る造影剤であって、 下記式:A-DTPA-PM(+Z) [上式中、 A-DTPAは、エチレントリアミンペンタ酢酸キレート化剤であり、その5個の酢酸基の中の少なくとも1個が生体内環境と機能的に共働するために下記式の官能性アミド基A: A=-CONH-(CH2)(n-1)-CH3 (式中、「n」はアミド基Aの炭素-水素部分中の炭素原子の数を表わす0?16の整数である)になっており、そしてPM(+Z)は、・・・Zの原子電荷を有する常磁性金属イオンである]で表される組成物を含有し、それによって被験者内の対象領域近くのT1緩和時間を減少させる造影剤。」(請求の範囲1) (2b) 「前記組成物内の常磁性金属イオンPM(+Z)が遷移元素のイオン Cr(III)24(クロム)・・・Gd(III)64(ガドリニウム)・・・Dy(III)66(ジスプロシウム)・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、請求の範囲第1項記載の造影剤。」(請求の範囲5) (2c) 「シェリングによって教示された造影剤DTPA-(GdIII)は、水に不溶性であり、以下に示すように陽イオン「C+」(アミン、例えば、グルカミン、N-メチルグルカミン等)の添加を必要とする。・・・これらの造影剤は、生体内イオン濃度を上昇させ、局所の浸透圧モル濃度平衡を乱す。浸透圧モル濃度は、通常、約300ミリ浸透圧モル/lに調節されている。注入されたイオンによって浸透圧モル濃度が高められると、非平衡領域内に水が集められイオン濃度を希釈する。 要約 従って、MR画像形成用の改良されたアミド造影剤を提供することが本発明の目的である。 高安定性および低毒性を有し生理学的に許容できるMRアミド造影剤を提供することが本発明の別の目的である。 低浸透圧モル濃度を有する薬理学的形のアミド造影剤を提供することが本発明の一層の目的である。」(4頁左下欄13行?同頁右下欄17行) (2d) 「本発明の常磁性造影剤は、一般的化学名ジアミドアセチル-ジエチレントリアミントリ酢酸(またはジアミド-DTPA)を有する、DTPA-PMキレートのアミド同族体である。」(5頁左下欄下から4行?下から2行) (2e) 「アミド-DTPA-PMは、その高い安定性のゆえ長い循環時間を有している。アミド造影剤は、単純なイオン-DTPAキレート(シェリング)より酵素分解による影響が少ない。」(7頁右上欄11行?13行) (2f) 「Gdは、最高の常磁性特性を有しているが、高価であり遊離状態では毒性が高い。Gdはキレート化剤内に配置することによって生理学的に許容され得るGdの形を生ずるが、そのことによってGdの常磁性効果が減じられる。」(8頁右上欄2行?5行) (2g) 「本発明の目的は、今まで述べてきたように、高い安定性および低い毒性を有する改良された生理学的に許容され得る造影剤を提供することによって達成されたことが当業者に明らかであろう。本造影剤は、アミド水和水による高い常磁性効果、およびアミド結合による低浸透圧モル濃度を有している。」(8頁右下欄14行?18行) また、甲第11号証には以下の事項が記載されている。 (3a) 造影剤用ガドリニウムキレート溶液の製造例が記載されており、その濃度として例15には730mM、例16には820mM、例17には400mM、例18には500mM、例22には1000mM、例23には600mM、例25には800mM、例27には500mM、例32には1000mM、例33には500mM、例43には100mM、例44には1100mM、例46には1000mM、例49には200mM、例51には500mMのものが示されている。(16頁右下欄?20頁右下欄) 5-3-2.本件発明1について 甲第1号証には、NMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に適当な含金属錯化合物としてDTPAのガドリニウム(III)錯体をジ-N-メチルグルカミン塩として使用し、DTPAのカルシウム三ナトリウム塩とを添加物として含有することを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の医薬。」(摘記1e)が記載されている。これを以下、「引用発明」という。 そこで、本件発明1(前者)とこの引用発明(後者)を対比する。 前者で使用するDTPA-BMAも後者のDTPAも錯形成剤であって、後者の「医薬」は、NMR-、エックス線-、超音波-および放射線診断並びに治療に使用するものであるから、前者の「診断画像コントラスト媒体」に相当する。 また、本件発明1における画像カチオンキレートやカルシウムキレートは完全に中和された塩を含み、対イオンとしてナトリウム、N-メチルグルカミンを使用したものも包含する(本件訂正明細書第11頁第18行?最終行)から、両者は、「ガドリニウムイオンと錯形成剤とのキレートと錯形成剤のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 前者が錯形成剤のカルシウムキレートの含有量を「毒性を減少する量」と特定しているのに対して、後者では含有量について記載がない点 (相違点2) 前者が、錯形成剤としてDTPA-BMAを用いているのに対して、後者が、DTPAを用いている点 (相違点3) 前者は、DTPA-BMAのガドリニウム(III)キレートの濃度が500mMであるのに対して、後者はその濃度について具体的な記載がない点、 (相違点4) 前者はDTPA-BMAのカルシウムキレート対DTPA-BMAのガドリニウムキレートが1:20のモル比であるのに対して、後者では使用比率について具体的な記載がない点 これら相違点1?4について、以下検討する。 (相違点1について) まず、本件発明1における「毒性を減少する量」の意味についてみるに、本件特許明細書(訂正明細書)には以下の記載がある。 「しかしながら、たとえGd DTPAキレートの安定コントラストが非常に高くとも、この化合物は、静脈内投与のあとで、なお非常に毒性のガドリニウムを放出し、したがってその投与量限界および画像応用の範囲は毒性要因によって限定される。」(訂正明細書3頁3?6行) 「・・金属の毒性の問題は、投与後、望ましくない濃度の毒性の金属イオンがキレート錯体から身体中へ放出されるから、高い安定性常数のキレートのついてさえ残存する。金属キレートがコントラスト剤として投与されうる濃度、・・・前記キレートの実用性は、毒性による制限によって限定される。本当にX線画像のためのヒト被験者に関する一般的な使用に対する安全を考慮したキレートの濃度は、効果的であるX線減衰およびMR画像に対して不十分であり、Gd DTPAのような高い安定性定数のキレートでさえその有用性は、ある器官を画像するために要求される投与量がことによると完全および有効な使用のためには毒性高すぎるため、制限されうる。・・毒性の減少した金属キレートを含むコントラスト媒体を開発することが、診断画像、特にX線およびMR画像の分野における目的であった。」(同明細書5頁23?6頁8行) 「本発明は、金属キレート系コントラスト媒体に対して、キレート化剤としてDTPA-ビスアミドを使用することによって、そしてコントラスト媒体中のカルシウムDTPA-ビスアミドキレートを包含させることによって、コントラスト媒体の急性毒性の予測しなかったほどの減少を得ることができ、かくしていちじるしく毒性の減少した、可能性のあるコントラスト媒体、たとえばMRI、X線シンチグラム造影および超音波コントラスト媒体を製造でき、それによってコントラスト媒体・・として金属キレートの使用の可能な分野を広げることができるという本発明者等の驚くべき発見に基づいている。」(同明細書7頁3?11行) これらの記載によれば、望ましくない濃度の毒性の金属イオンがキレート錯体から身体中へ放出されることがコントラスト媒体の毒性の原因であり、そのことによる投与量の制限が問題視されていることが理解できる。本件発明は上記課題の解決を目的としてカルシウムDTPA-ビスアミドキレートを使用するものであって、急性毒性の減少に言及されているが、急性毒性試験は毒性の程度を数値化して評価するための一手段であり、その結果はGdイオンに由来する毒性の減少を反映したものと解される。したがって、本件発明1における「毒性を減少する量」は 「Gdイオンに由来する毒性を減少する量」を意味するものである。 一方、甲第1号証においても、 「大てい金属の錯化合物は、体中での貯蔵中に程度の差こそあれ大部分の金属が有機分子への結合部から遊離されない程度に安定ではない。」(3頁右上欄11?14行) 「金属イオンの結合は、・・・さらに生体中で、錯形成剤への結合周りで種々のイオンの競合が生じ、その結果生体中での重金属イオンの不利かつ場合により危険な遊離の確率が増大する。」(3頁右下欄14行?p4左上欄3行)、 「・・多種多様な目的で必要であるのは、錯化合物からの該当する重金属イオンの遊離ができるだけ十分阻止された、十分に相容性の医薬である。・・・本発明によればこの課題が、・・、驚異的に申し分なく相容性の錯体が得られることにより解決されると判明した。」(摘記1f、1g) 「遊離の錯形成剤または弱錯体を、ヒトへの使用が予定された金属錯体に、金属の結合安定性およびそれとともにその除毒および排除を目的として添加することの大きい効果である。」(摘記1l) と記載されているのであるから、引用発明における、遊離の錯形成剤または弱錯体の添加も遊離金属イオンに由来する毒性の減少を目的とするものに他ならない。 なお、甲第1号証では動物に被験製剤を静脈注射後に骨や、体全体あるいは肝臓の残存Gd濃度を測定し重金属イオンの排出が促進されたとしているが、投与後のGdの残存濃度が低ければ遊離のGdイオンに晒される危険が少ないといえ、本件発明における急性毒性試験と同様、遊離のGdイオンに由来する毒性の減少の程度を評価可能な試験といえる。 このように、引用発明における錯形成剤のカルシウムキレートにしてもGdイオン等の重金属イオンに由来する毒性を減少する量での使用が前提とされているのであるから、相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) 上記のとおり、甲第1号証は、1種またはそれ以上の遊離の錯形成剤および/または1種またはそれ以上の弱金属錯体またはそれらの混合物を、金属錯体をベースとする医薬に添加することによって、重金属イオンに由来する毒性を減少することを目的としているものであって、引用発明は、これの具体例として、GdDTPAとCaDTPAの組み合わせを開示(摘記1d)したものである。 甲第1号証には、錯形成剤として引用発明で使用したDTPA以外に、DTPA-BMAを含む7種の化合物が列挙されており(摘記1h)、DTPA-BMAについては、その合成方法(摘記1i)とともに、そのガドリニウム(III)錯体と遊離酸とを含有した医薬も具体的に記載されている(摘記1e)。 これらは、重金属イオンの遊離ができるだけ十分に阻止された十分に相容性の医薬(摘記1f)を製造するにあたり、DTPA以外の各種の錯形成剤の検討を当業者に十分に動機づける記載であるといえる。 そして、本件特許の優先権主張日当時、上記の錯形成剤の中で、ビスアミド化されたDTPAがDTPAよりも毒性が低いことは、以下に示すように当分野においては、よく知られていたことである。 すなわち甲第2号証には、GdDTPAが、生体内イオン濃度を上昇させ、局所の浸透圧モル濃度平衡を乱すという問題を抱えることが指摘され(摘記2c)、DTPAに代わるものとして、DTPAをビスアルキルアミド化した化合物(DTPA-ビスアルキルアミド)から得られる錯体(摘記2a、2b、2d)が、高安定性及び低毒性を有し、低浸透圧モル濃度を示すもの、ひいては生理的に許容されうる造影剤を提供するものとして紹介されている(摘記2c、2e、2g)。 なお、甲第1号証に参照されている欧州特許明細書第130934号(摘記1h)に対応する甲第8号証には、DTPAの-ビスアルキルアミドである、DTPA-BMPAのガドリニウム錯体(6a化合物)及びDTPA-APDのガドリニウム錯体(6b化合物)が、DTPAのガドリニウム錯体のジ-N-メチルグルカミン塩と比べ2倍のLD_(50)値を示すこと、つまり急性毒性が低いことも示されている(11頁左上欄14行?同頁右上欄7行、化合物名については14頁左下欄9行?同頁右下欄13行)。 そうすると、DTPA-ビスアルキルアミドがDTPAに比べて浸透圧モル濃度による影響が低く、安定で毒性も低いことがよく知られているのであれば、引用発明の錯形成剤であるDTPAに代え、甲第1号証に例示のDTPA-ビスアルキルアミドに属する他の錯形成剤(DTPA-BMAもその1種である)についてそのガドリニウムキレートにカルシウムキレートを併用してその毒性の減少の程度の検討を行うことは当業者が容易に想起しうることである。 (相違点3について) 甲第11号証(9頁 左上欄)において、診断剤は「1l当り錯塩1ミリモル?1モルを含有」とされ、造影剤用の各種のガドリニウム錯体については、例16?18、例22、例23、例25、例27、例32、例33、例43、例44、例46、例49、例51に見られるように100mM?1100mMにわたる範囲で使用されている。 そして、甲第1号証においても例1のみならず例2、例7において、腸管外用途に使用するものとして、ガドリニウム錯体の濃度は500mMが採用されている(摘記1m)。そうすると、本件発明1の500mMという濃度は、DTPA-BMAのガドリニウムキレートの濃度としても、当業者が検討しうる常識的な範囲内の濃度であるということができ、この濃度を採用することに格別の創意を要するとはいえない。 (相違点4について) 甲第1号証では、金属錯体に対して、金属の結合安定性、除毒、排除を目的として添加する遊離の錯形成剤又は弱錯体について「有利には0.1?10モルパーセント又は最高50mモル/l」(摘記1b、1l)とされ、これは1:1000?1:10のモル比に相当する。 さらに、甲第1号証には、薬理試験に使用する静脈注射液としてDTPAのカルシウム三ナトリウム塩10モル%(モル比1:10に相当)、遊離のDTPAについては2モル%(モル比1:50に相当)(摘記1k)が適用され、更に例3(甲第1号証の8頁左下欄下から5行?同頁右下欄8行)ではDOTAのカルシウム-ジナトリウム塩の処方例においては6モル%(ガドリニウム錯体0.5モルに対しカルシウム塩30mモルを使用。モル比1:17に相当。)が示されている。 これらの記載から、上記の1:1000?1:10の範囲内において、金属錯体や遊離の錯形成剤の組合せに応じた比率が設定されていることが理解できる。 そして、遊離錯体や弱金属錯体の用量は、多量に添加すべきでないことや所期の目的を達成するため極めてわずかな濃度および用量で十分である(摘記1l)ことも指摘されている。 そうであるから、引用発明において錯形成剤としてDTPM-BMAを使用する場合のGdキレートとCaキレートの比率を設定するにあたっては、上記に示されたモル比の範囲内において、毒性低減に好適な使用割合を検討し、推奨される比率の範囲内である例えば1:20というモル比に至ることにも格別の困難性は見いだせない。 したがって、相違点2?4は何れも甲第1号証の教示の範囲で当業者が格別の試行錯誤を伴うことなく到達しうる構成であるから、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 被請求人らは、次の(1)?(2)の点を挙げ、甲第1号証には本件発明1に対する阻害要因があるとし、(3)(4)(5)を根拠として本件発明1には、当業者が予測できない顕著な効果がある旨主張している。 (1)甲第1号証の第1表、第2表によれば、カルシウム錯体を使用するよりも遊離の錯形成剤を使用した方が、ガドリニウム残存量の低減という点でより優れた効果を示しているからDTPA以外の造影剤を使用する場合にはむしろ遊離の錯形成剤を使用すると考えるのが合理的である。 (2)甲第1号証の「例6」には、GdDTPA-BMAの濃度は約30mMであり、過剰のフリーリガンドとGdDTPA-BMAの比率は、約1:1の調剤の記載がある。この調剤は、極めて毒性が高い(乙第3号証は、この事実を立証するものである。)から、診断画像コントラスト媒体として到底使用できるものではない。甲第1号証では、カルシウム錯体と遊離の錯形成剤は共通の効果を奏する同等のものであるから、例6に接した当業者は、GdDTPA-BMAとCaDTPA-BMAの組み合わせを実施しようとはしない。 (3)甲第1号証の「従来より、・・溶液中に過剰量の金属イオンもまた過剰量の遊離の錯形成剤ないしは弱錯体も存在しないということが不断に慎重に留意された、それというのも遊離の錯形成剤もまた錯形成剤の弱錯体も例えばCa^(2+)のような金属イオンと、診断ないしは治療に適当な重金属イオンを有する強錯体よりも不良に相容可能であることが公知であるからである。・・・・本発明の意外なのは、遊離の錯形成剤または弱錯体を、ヒトヘの使用が予定された金属錯体に、金属の結合安定性およびそれとともにその除毒および排除を目的として添加することの極めて大きい効果である。この利点は、重金属およびその固有の毒性の除去が極めて緩慢であることにより、そのため場合により調剤の若干低減せる急性相溶性さえ甘受されうる程度に大きい意味がある。」(摘記1l)の記載は、金属の体内残存量改善を図るという所期の目的を図るためには、その調剤自体の急性毒性が増大することは犠牲にしてもよいと解されるから、甲第1号証に記載の発明は急性毒性の改善を目指したものではない。 (4)本件特許明細書の実施例20に示された薬理試験は、動物(マウス)によるin vivo試験であって、急性毒性の指標であるLD50値を測定したものであるが、GdDTPAは、そのカルシウムキレート(CaDTPA)を組み合わせても、或いはDTPA-BMAのカルシウムキレート(CaDTPA-BMA)を組み合わせても、急性毒性の改善は観察されず、却ってLD50値が小さくなる、すなわち毒性は増加するという結果になっているのに対して、本件発明1のGdDTPA-BMAとCaDTPA-BMAの組み合わせの場合は、DTPA-BMA単独のLD50値15.0mmol/kgから、2倍以上も改善されたLD50値34.4mmo1/kg を示しており、大幅に急性毒性が改善されており、また、GdDTPA-BMAにカルシウム以外のどの金属のDTPA-BMAキレートを組み合わせた場合であっても、このような毒性の改善効果は観察されず、カルシウムと同属のマグネシウムのキレートでは、大幅な毒性の上昇が観察されている。 (5)乙3号証の図12のGdDTPA-BMAとDTPA-BMA(フリーリガンド)の組み合わせは、100:1の配合比という1点のみで特異的に良好な結果を示し、それよりわずかでもはずれれば、毒性が急激に増加することを示している。 これに対して、優れた低毒性を広い配合比率の範囲で示す本件発明1のコントラスト剤は、カルシウムキレート対ガドリニウム(III)キレートが1:100?1:20の範囲(実際には、さらに広く、少なくとも1:10迄の範囲)のいずれの点でも急性毒性が低いから、たとえ保存中或いは投与後において重金属イオンを放出することなどによりその比率が変化した場合であっても、毒性が増すことはなく、実際の使用に当たって、安全で極めて有利であり、デザインスペースの面でも製品の品質が確保しやすい。この傾向は丙5号証においても確認できる。 以下、各主張について検討する。 (1)に対して カルシウム錯体と遊離の錯形成剤は共に金属(Gd)の結合安定性、その除毒、排除に優れた効果を呈するものとして甲第1号証に同列に記載されているものである(摘記1l参照)し、第1表及び第2表の薬理試験結果についてみても、カルシウム錯体については、体内及び骨質、遊離の錯形成剤については、肝臓中のガドリニウム残存量であって測定部位が相違するうえ、評価期間もカルシウム錯体については、7日、遊離の錯形成剤については、28日と異なっているから、薬理試験の数値の高低から直ちに遊離の錯形成剤の方が効果上優れていると断ずることはできない。したがって、この表の結果により特段にカルシウム錯体の利用が阻害されるものではない。 (2)に対して 例6の調剤は、腸管内での使用を前提とした配合濃度、配合比のものであるが、通常腸管外投与剤と、腸管内投与剤とではコントラスト媒体中ガドリニウムキレートの濃度は異なるものであることは甲第1号証の各例示の調剤を比較しても、また、甲第12,13号証の使用例からも明らかであり、さらに腸管内投与用の剤の毒性評価にあたり、本件明細書の実施例20のような静脈投与が採用されることもありえない。 腸管外投与に使用するコントラスト媒体としてGdDTPA-BMAとCaDTPA-BMAの組み合わせやその濃度、配合比を決定するにあたり、参照すべきは同じ腸管外投与に向けた造影剤の濃度や配合比の範囲であるから、腸管内投与剤である例6が腸管外投与剤において採用されるガドリニウムキレート濃度やカルシウムキレートの使用比率の最適な値を選択するにあたっての阻害要因とはなるものではない。 (3)に対して 甲第1号証においては「相容性」「長時間相容性」「急性相容性」の用語が「毒性」という語とは別に使用されている。そして、3頁左下欄下から3行?同頁右下欄4行では「特筆すべきなのは、従来より臨床用途で最も進歩した調剤であるガドリニウム-DTPA(欧州特許出願第71567号)の明白に優れた急性相容性である。ガドリニウム-DTPAにより解放される、極めてわずかな数および軽度の性質の急性副次作用は、特定のエックス線技術関連する用途にも適当であると思われる。」と記載され、「相容性」は「副次作用」即ち主目的とする作用以外の悪い作用について被験者が受け入れられる程度を表すものと言い換えできる概念であり、毒性のみに限定されることのない広い概念の用語として使用されていることが理解できる。 甲第11号証(9頁右上欄5?9行)においても「更に、該薬剤は、身体に負担となる異種物質をできる限り少なくするのに必要である高い作用性および検査の無侵襲性を維持するために必要である良好な相容性を示す。」との記載があり、「相容性」が検査の無侵襲性を維持するために必要な性質であるとされている。「侵襲」とは生体内の恒常性を乱す事象全般を指す医学用語であり、生体を傷つけることすべてを指すが、その程度が小さければ相容性が良好であることから、甲第11号証においても「相容性」は、甲第1号証と同様に薬剤の生体に対する悪い作用について被験者が受け入れられる程度を示す広い意味の用語として使用されている。 そうすると、甲第1号証の「・・若干低減せる急性相容性さえ甘受されうる・・」の記載を、特段に急性毒性に言及した記載と解することはできない。 (4)に対して 医薬品の開発にあたっては、その有効性、安全性に関して、投与された薬物の吸収、代謝、排泄等の薬理学的研究を行うとともに、急性毒性等の一般毒性研究が実施されることは周知のことである(丙第4号証参照)。甲第1号証では、GdGTPAにCaGTPAを添加して使用することによりGdの骨や体内の残存量が減少することが確認されているが、この結果からCaキレートの添加が毒性の減少に有効であること、すなわち有効性、安全性についてさらに実施化にむけて検討を進める価値があるものであることが理解できるのであるから、当業者であれば、急性毒性試験等による毒性の評価も当然に行うものということができる。 したがって、甲第1号証に急性毒性試験の結果について記載されていなくても、急性毒性試験を行い、その効果を確認することは、当業者が容易になし得ることであり、本件発明1の、LD_(50)の値が2倍以上改善されたからといって、そのことで顕著な効果があるということはできない。 被請求人らは、錯形成剤としてDTPAを使用した場合はカルシウムキレートを添加しても急性毒性が改善されないとするが、実施例20に示された試験はCaDTPAとGdDTPAの比率を1:20としたものを使用しており、甲第1号証の薬理試験で採用されている比率とは異なる。そして、甲第1号証の薬理試験に使用された第1表の配合B(引用発明)や第2表の配合Bおよび各実施例の配合比をみてもGd錯体と遊離の錯形成剤又は弱金属錯体の使用比率は一律ではないことが理解されるから、これを1:20に固定して行った急性毒性実験の結果から、直ちに錯形成剤の毒性減少の効果が論じられるものではないから、この点から見ても、本件明細書の急性毒性試験の結果を根拠に本件発明1の効果が格別顕著であるということはできない。 なお、通常、急性毒性(LD_(50))の値は、投与量を設定するにあたり考慮されるものであるが、本件のコントラスト媒体の投与量は「一般に患者の体重kg当り0.001?5.0ミリモル」(本件明細書11欄38?43行)である一方、甲第1号証(p8左上欄13?14行)も「一般に0.001?5.0mモル/Kgの量」であって、両者の投与量の上限にも差は見られない。 (5)に対して 被請求人らがその主張の根拠とする乙第3号証、丙5号証は、本件特許の出願後のものであって、GdDTPA-BMAにCaDTPA-BMAを組み合わせた造影剤の配合比率を変えた急性毒性の変化については、本件特許明細書に記載はない。したがって、当該主張は明細書の記載に基づかない主張であって採用できない。 なお、乙第3号証においては、DTPA-BMAとGdDTPA-BMAとの最適比率は1:20ではなく1:100であって、この比率においては、CaDTPA-BMAとGdDTPA-BMAが1:20の場合とほぼ同等な急性毒性値(34mmol/Kg)がえられている。そうすると、上記(4)で述べたように、遊離錯体あるいはCa錯体とGd錯体の比率を1:20に固定して行った急性毒性実験の結果にのみ依拠した効果の主張は適切でないものということができる。 5-3-3.本件発明2、3について 本件発明3は、本件発明1において、その構成要件である「媒体」を、「刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために等張またはわずかに高張な浸透圧濃度を有する媒体」とするものである。 コントラスト媒体の浸透圧について甲第2号証には、GdDTPAが、生体内イオン濃度を上昇させ、局所の浸透圧モル濃度平衡を乱すという問題を抱えることが指摘され(摘記2c)、DTPAに代わるものとして、DTPAをビスアルキルアミド化した化合物(DTPA-ビスアルキルアミド)から得られる錯体(摘記2a、2b、2d)が、高安定性及び低毒性を有し、低浸透圧モル濃度を示すものとして紹介されている(摘記2c、2e、2g)。 さらに、注射液を体液とほぼ同じ浸透圧である等張として、痛みなどの、刺激または他の有害な効果を最小にすることも常套手段である。(甲第8号証においても、高張溶液は血管及び組織を損傷し、心臓及び循環に影響を与え、かつ不所望な利尿作用が生じるとの記載[第10頁左下欄第2?4行]がある。) そうすると、コントラスト媒体を等張にして投与時の有害な効果を防止することは当業者が容易に想起し得ることである。 また、本件発明2は、本件発明1に「刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する」との特定を加えたものであり、 本件発明3の態様を包含するものである。 そうすると、本件発明2,3は、上記理由及び本件発明1と同様の理由により甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 なお、被請求人は、平成20年10月27日付け答弁書第13?15頁において、乙第3号証の表4を示し「低い浸透圧濃度を有することが、急性毒性の低減のような刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために必要であり、この点を明確にした本件発明2は、当業者が容易に発明できないことは明らかである。」と主張しているが、乙第3号証は本件特許出願の優先日以降の文献であるから、本件発明の容易性の判断において考慮すべき前提技術として参照することはできない。 そして、コントラスト媒体を注射剤として血管投与するにあたって、刺激の低減という観点から、その浸透圧の等張化に留意することはすでに当業界の常識であることから、等張化による急性毒性の低減についての認識の有無が、この点を格別困難とする理由とはなり得ず、被請求人の主張は採用できない。 5-3-4.本件発明4?6について 本件発明4、5、6は、 それぞれ本件発明1、2、3において、その構成要件であるDTPA-BMAのカルシウムキレートを、そのナトリウム塩とするものであるが、甲第1号証には、ガドリニウム錯体に配合する弱金属錯体として、弱金属錯体であるDTPAのカルシウム三ナトリウム塩が記載(摘記1d、1k)されているのであるから、上記のカルシウムキレートをナトリウム塩として使用することは当業者が容易に想到しうる範囲のことである。 したがって、本件発明4?6にしても、甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本件発明1?6は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、平成5年法律第26号改正附則第2条第3項の規定により、なお従前の例によるとされた同法第123条第1項第1号の規定により、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、審判費用中、参加によって生じたものは参加人の負担とし、その他の審判費用は、被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 キレート組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有する媒体。 【請求項2】ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有する媒体。 【請求項3】ガドリニウム(III)イオンと6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸とのキレートと毒性を減少する量の6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートを含有する診断画像コントラスト媒体であって、6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のガドリニウム(III)キレートが500mMの濃度で存在し、該カルシウムキレート対該ガドリニウム(III)キレートが1:20のモル比を有し、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために等張またはわずかに高張な浸透圧濃度を有する請求項2に記載の媒体。 【請求項4】6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項1に記載の媒体。 【請求項5】6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項2に記載の媒体。 【請求項6】6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸のカルシウムキレートがナトリウム塩である請求項3に記載の媒体。 【発明の詳細な説明】 本発明は金属キレート組成物、特にジエチレントリアミン五酢酸ビスアミド(DTPA-ビスアミド)とカルシウムおよび常磁性金属イオン、ランタニドイオンまたは他の重金属イオンとのキレートを含むコントラスト剤組成物に関する。 診断画像において、コントラスト剤は像のコントラスト、たとえば異なる器官の間のまたは同じ器官の中の健康な組織と不健康な組織の間の像のコントラストを強調するためにしばしば使用される。コントラスト剤の操作の性質および方法は、画像技術および画像される器官または組織の性質に依存する。 したがって磁気共鳴画像(MRI)においては、像のコントラストは、磁気共鳴(MR)画像が発生させられるMR信号に対して対応する核(一般に身体組織または流体中の水のプロトン)の核スピン再平衡化特性に影響を与える、コントラスト剤を画像される身体の部位中へ導入することによって高められる。 1978年にLauterbur(Dutton等編集、“組織に対する電子-生物学的エネルギー論の限界”1巻、752?759頁、Academic Press,NY,1978年参照)は、MRIコントラスト剤として、Mn(II)のような常磁性金属イオンの使用を提案した。さらに最近Schering AG(欧州特許第71564号および米国特許第4647477号)は、MRIコントラスト剤としてジエチレントリアミン五酢酸のガトリニウム(III)キレート(Gd DTPA)のdimeglumine(イソカルミック酸)塩の使用を提案した。しかしながら、たとえGd DTPAキレートの安定コントラストが非常に高くとも、この化合物は、静脈内投与のあとで、なお非常に毒性のガドリニウムを放出し、したがってその投与量限界および画像応用の範囲は毒性要因によって限定される。 さまざまなDTPA誘導体が他の常磁性金属キレートMRIコントラスト剤に対するキレート化剤として文献に示唆されてきて、それらのいくつかはDTPAキレートより低い毒性を有することが発見された。このように、たとえばSalutar Incによって米国特許第4687659号に記述されたGd DTPA-ビスアミド、特にGd DTPA-ビスアルキルアミド、およびDean等によって米国特許第4826673号およびSchering AGによって欧州特許第130934号に記述されたもののようなGd DTPA-ビス(ヒドロキシル化アルキルアミド)はGd DTPA-dimeglumineよりも実質的に毒性が少ないことが発見された。前記キレートは従ってGd DTPAより実質的に高い量で使用され、そのため広い範囲の画像応用に有用である。しかしながら、これらのようなキレート化合物さえ常磁性金属の生体内の放出が若干あり、したがって低毒性のMRIコントラスト媒体の開発に対する引き続く要望がある。 金属キレートは、コントラストが画像される身体を通過するX線の減衰を変えることによって達成されるX線画像用コントラスト剤としても示唆されてきた。X線減衰効果は一般に原子数と共に増大し、ランタニドおよび50以上の原子数を有する重金属のような元素は身体器官、身体空洞、血管系などのはっきりした鮮明度のために必要とされるコントラストを与えることができる。従って、ヨウ素化有機化合物がX線コントラスト剤として現在広く使用されているけれども、ランタニドおよび他の重金属化合物はX線コントラスト剤として魅力的な可能性を有する(例えば米国特許第4310507号参照)。 これらの金属としてはBa、Bi、CsおよびたとえばCe、Dy、Lu、YbおよびGdのようなランタニドが挙げられる。しかしながら、これらの毒性はこれらの金属の有用性、特に経口または非経口投与の有用性を限定する。これらはこれまで効果的なコントラスト増進に必要とされる投与量または濃度で安全に使用できなかった。さらに以前に知られていたランタニドおよび重金属キレートは、試験官内で安定性を示しているけれども投与後実質的なかつ許容し得ない毒性を示す。 しかしながら従来のヨウ素化X線コントラスト剤は若干の限界、特にコンピュータ断層撮影法(CT)走査に必要とされる高KeV X線放射によるX線減衰の重大な減少を有する。さらに商業的なヨウ素化化合物の処方は一般に高い粘性を有し、あまり容易に投与されない。さらに、ヨウ素化X線コントラスト剤の毒性レベルは一般に許容しうるけれども、前記の化合物は物理化学的毒性投与量、関連反応および無関連特異質反応-投与量を増大させることができる(たとえば、Brasch“小児科の放射線医学”ワークショップ,Berlin,8月22?24日,1985,NY,Karger(1987)参照)。 Seltzer等はInvest.Radiol.14:400(1979)において、原子番号58?68を持つ元素はそのより高いかまたは低い原子番号を持つ元素よりも多く120KVp Xビームを減衰し、従って前記の元素の化合物はX線コントラスト剤として可能性を有することを報告した。120KVp多種エネルギーのX線ビームを使用する肝臓のCT走査におけるコントラスト剤として、ランタニド系列の酸化物、たとえばセリウム、ガドリニウムおよびジスプロシウムの酸化物の使用はHavron等によってJ.Comput.Assist.Tomogr.4:642?648頁(1981)に報告された。同様の実験がSeltzer等によってJ.Comput.Assist.Tomogr.5:370?374頁(1981)に報告された。 米国特許第4478816号は、コントラスト剤としてジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン-N,N′-ビス(2-ヒドロキシフェニル酢酸)(EHPG)およびN,N′-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N′-二酢酸(HBED)の希土類キレートを使用するデジタルラジオグラフィーの方法を記述している。ルテチウムおよびイットリウムのキレートは60KeV近い高エネルギーレベルでのK-エッヂ質量減衰係数の不連続のため、デジタル蛍光透視による血管の診断の研究に特に有用であるといわれる。上記米国特許第4647447号はまたX線コントラスト剤として金属キレートを記述しており、米国特許第4176173号は高エネルギーX線源に関してコントラスト剤として、特に腸の画像研究に使用できるタンタルおよびハフニウムのキレートを記述している。 CTスキャンのような高エネルギーレベルでのX線応用はより良好なコントラスト剤から利益を得るものである。コントラスト(ヨウ素/軟質組織のコントラスト)の最大相対比率は、X線ビームのエネルギーが不規則に広がれば広がるほどますますK-エッヂでの質量減衰係数の不連続が大きくなるときに達成されるであろう。しかしながら、すべてのヨウ素化コントラスト剤に対して、患者に対する過剰曝露の考慮および低エネルギーレベル(33KVp近い)での不十分なX線管出力強度はK-エッヂ減衰法研究方法の利用を無効にする。不幸なことに、ヨウ素化合物は高KVpビームに対し必要な減衰を与えることなく、必要とされる像改善レベルを与えない。 X線コントラスト画像のためのランタニドおよび重金属を投与することに対する安全で有効な形は、したがってこの分野においては非常に重要な必要事項である。 このように診断画像、特にX線画像のコントラスト剤として常磁性金属のキレート並びにランタニドおよび他の重金属のキレートの使用が知られており、広く記述されているけれども、主要なX線コントラスト剤は特にその金属に伴う毒性の問題のために、引き続きヨウ素化化合物である。 ランタニドの薬理学および毒物学の概要は、たとえばHaleyによってJ.Pharm.Sci.54:663?670頁(1965)に与えられている。 金属種の毒性はキレート化合物としての組成物によって一般にいちじるしく減少し、多くのキレートは遊離金属酸化物に対して改善された溶解度を有するが、上述のように金属の毒性の問題は、投与後、望ましくない濃度の毒性の金属イオンがキレート錯体から身体中へ放出されるから、高い安定性常数のキレートのついてさえ残存する。金属キレートがコントラスト剤として投与されうる濃度、およびそれゆえにコントラスト剤としての前記キレートの実用性は、毒性による制限によって限定される。本当にX線画像のためのヒト被験者に関する一般的な使用に対する安全を考慮したキレートの濃度は、効果的であるX線減衰およびMR画像に対して不十分であり、Gd DTPAのような高い安定性定数のキレートでさえその有用性は、ある器官を画像するために要求される投与量がことによると完全および有効な使用のためには毒性高すぎるため、制限されうる。 それゆえ、毒性の減少した金属キレートを含むコントラスト媒体を開発することが、診断画像、特にX線およびMR画像の分野における目的であった。 上述のように、一つの研究方法はいろいろなキレート剤を研究することであり、たとえばMRI分野においては常磁性金属イオンをキレート化するための多くの異なる錯化剤の使用を提案する多数の刊行物がある。前記刊行物の例としてはPCT特許WO89/00557号(Nycomed AS)、ヨーロッパ特許第292689号(Squibb)、同第232751号(Squibb)、同第230893号(Bracco)、同第255471号(Schering)、同第277088号(Schering)、同第287465号(Guerbet)およびその中に引用された文書が挙げられる。(ここに述べたすべての文書の全体の開示は、これへの参照によって本明細書へ取入れられている)。 代わりの研究方法がコントラスト剤と他の材料との処方によってコントラスト媒体の生物受容性を高めるために探し求められてきた。 かくしてヨーロッパ特許第270483号において、Scheringは生体内でのGd DTPAからのガドリニウムの放出を認め、Scheringは重金属錯体からの重金属(すなわちガドニウム)の身体内の停留率が、重金属錯体を1種以上の弱金属錯体および/または1種以上の遊離錯化剤と一緒に調合することによって減少することを見出したことを開示した。Scheringはこの刊行物において、遊離錯化剤または弱錯体は重金属の結合の安定性、従ってその脱毒性化および脱離に関して非常に強い効果を有すると述べたが、この陳述はこの効果がこの利益に対する値段として許容されることが必要であることをその高い毒性を考慮することによって認められる。 一般に金属キレート含有コントラスト体中の過剰のキレート化剤の包含物は文献から知ることができる。 本発明は、金属キレート系コントラスト媒体に対して、キレート化剤としてDTPA-ビスアミドを使用することによって、そしてコントラスト媒体中のカルシウムDTPA-ビスアミドキレートを包含させることによって、コントラスト媒体の急性毒性の予測しなかったほどの減少を得ることができ、かくしていちじるしく毒性の減少した、可能性のあるコントラスト媒体、たとえばMRI、X線シンチグラム造影および超音波コントラスト媒体を製造でき、それによってコントラスト媒体、特にMRIおよびX線画像のコントラスト媒体として金属キレートの使用の可能な分野を広げることができるという本発明者等の驚くべき発見に基づいている。 それゆえ、一態様として、本発明は6-カルボキシメチル-3,9-ビス(カルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸(以後DTPA-ビスアミドと略す)と常磁性金属イオン、ランタニドイオンおよび重金属イオンから選ばれるカチオン(以後画像カチオンと略す)とのキレート、および毒性を減少する量のDTPA-ビスアミドのカルシウムキレートを含むことからなる診断画像コントラスト媒体を提供する。 好ましくは、本発明のコントラスト媒体中のキレートは式I (式中、R_(1)?R_(4)はおのおの、独立的に、水素、低級(たとえばC_(1?6))アルキル、ヒドロキシ低級アルキル、またはポリヒドロキシC_(1?18)アルキルである) の化合物に関するキレートである。 上記の置換基R_(1)?R_(4)の定義において、アルキルは不飽和および好ましくは飽和基だけでなく直鎖または分枝基を含むと考えられる。 式Iの好ましいDTPA-ビスアミドとしては式Ia (式中、R_(3)およびR_(4)は水素であり、そしてR_(1)およびR_(2)は上記に定義した通り、特に水素または低級アルキル(特にメチル)である) のもの、同様に式Ib (式中、R_(1)およびR_(2)は独立的にC_(1?6)モノ-またはポリ-ヒドロキシアルキルであり、そしてR_(3)およびR_(4)は独立的に水素またはC_(1?6)アルキル、特にメチルである) のものが挙げられる。式Iの特に好ましいDTPA-ビスアミドとしては式Ic (式中、R_(1)およびR_(2)は両方とも水素またはヒドロキシプロピルを表わし、そしてR_(3)およびR_(4)は両方とも水素またはメチルを表わす) のものが挙げられる。式Iの特に好ましいDTPA-ビスアミドとしては 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(メチルカルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸(DTPA-BMA); 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(N-メチル-N-2,3-ジヒドロキシプロピル-カルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸(DTPA-BMPA);および 6-カルボキシメチル-3,9-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピル-カルバモイルメチル)-3,6,9-トリアザウンデカン二酸(DTPA-APD)が挙げられる。 好ましくはカルシウムキレートおよび常磁性/ランタニド重金属キレートは式IaのDTPA-ビスアミドの両方のキレートであるかまたは式IbのDTPA-ビスアミドの両方のキレートであるかまたは式IcのDTPA-ビスアミドの両方のキレートである。特に好ましくはカルシウムおよび常磁性/ランタニド/重金属キレートは同じDTPA-ビスアミドの両方のキレートである。 本発明のコントラスト媒体は種々の異なる型の診断画像、たとえばMR、X線、超音波およびシンチグラム造影画像に使用できるが、MRIまたはX線コントラスト媒体として使用するために特に適している。このことについては、画像カチオンの選択はもちろんコントラスト媒体が使用されることを意図される画像技術の性質に依存することがよくわかる。 このようにMRIコントラスト媒体に関して、画像カチオン常磁性金属イオン、好ましくは非放射性種であり、好都合にはその金属は遷移金属すなわちランタニド、好ましくは原子番号21?29、42、44または57?71を有するものである。金属種がEu、Gd、Dr、Ho、CrまたはFeである金属キレートが特に好ましく、Gd^(3+)およびDy^(3+)が特別に好ましい。 X線および超音波コントラスト媒体の場合には、画像カチオンはランタニドまたは重金属種、たとえば37以上の、好ましくは50以上の原子場合を持つ非放射性金属、たとえばCe、Dr、Er、Eu、Au、Ho、La、Lu、Hg、Nd、Pr、Pm、Sm、Tb、Th、Ybなどのカチオンである。好ましい金属としてはLa、Yb、DyおよびGdが挙げられ、Dy^(3+)およびGd^(3+)が特に好ましい。 シンチグラム造影コントラスト媒体のためには、画像カチオンはもちろん放射性でなければならなくて、DTPA-ビスアミドにより錯体形成可能などのような従来の放射性金属同位元素も使用できる。 キレート錯体、特に画像カチオンのキレート錯体は中性であることが特に好ましく、すなわちカチオンの正電荷はキレート部分の等しい負電荷によって調和させられるべきである。従って式IのDTPA-ビスアミドのキレートの場合には、画像カチオンは、たとえばガドリニウム(3価)またはジスプロシウム(3価)のように、好ましくはM^(3+)カチオンである。 本発明のコントラスト媒体の驚くべき有効性を裏打ちする相互作用の特別の理論に限定されることなく、金属キレートコントラスト剤の主要毒性は、普通体内に存在する、内因性金属イオン、特にZn(2価)によるキレートからの画像カチオンの置換に由来すると信じられる。本発明に係るコントラスト媒体が投与されるとき、置換に利用できる亜鉛(2亜)はカルシウムDTPA-ビスアミドキレートからカルシウムを優先的に置換し、体内へ非毒性カルシウムを遊離(放出)させ、安定なキレート中に確保される画像カチオンを残すと信じられる。カルシウムDTPA-ビスアミドキレートは、明らかにそれらはこの相互作用において類のない方法で作用するから、毒性を改善するために比類なく好適であることが発見された。DTPA-ビスアミド(たとえば、Ca DTPA)以外のキレート化剤のカルシウムキレートの投与、およびDTPA-ビスアミド以外のキレート化剤を使用した画像カチオンのキレート(たとえば、Gd DTPA)を持つカルシウムDTPA-ビスアミドキレートの投与は、本発明に係る組成物で達成される毒性レベルの驚くべき改善を生じることが見出されなかった。 本発明のコントラスト媒体によって与えられる毒性の低下によって、画像コントラストは安全性を大きく増大することができ、高投与量のコントラスト剤、すなわち画像カチオンを安全に投与でき、広範囲の画像応用、たとえば広範囲の器官に対し画像コントラストを高める能力を与えることができる。 上述のように、毒性の低下は画像カチオンの亜鉛(2亜)置換に結び付けられ、従って画像カチオンは都合よくは亜鉛(2亜)によってDTPA-ビスアミドキレートから置換できる、たとえばランタニドまたは重金属カチオンである。この定義の範囲内にある金属イオンの例としてはCe、Dy、Er、Eu、Gd、Au、Ho、La、Lu、Hg、Nd、Pr、Pm、Sm、Tb、Th、Ybなどのイオンが挙げられる。 上記式Iのもののような、DTPA-ビスアミドキレート化剤は、文献から分かるかまたは文献に記述されたものと類似した方法で調製できるかのどちらかである。このように、たとえばDTPA-ビスアルキルアミドおよびその製造方法は米国特許第4,687,659号に開示されており、DTPA-ビス(ヒドロキシアルキル-アミド)およびその製造方法は米国特許第4,826,673号およびヨーロッパ特許第130,934号に開示されている。 DTPA-ビスアミドの金属キレート、すなわち、画像カチオンとカルシウムとを持つキレートは、従来の方法、たとえば水溶液中で化学量論的量のDTPA-ビスアミドとキレートされる金属種を遊離するために溶解する金属の化合物、たとえば金属酸化物または水酸化物(水酸化カルシウムまたは酸化ガドリニウムのような)またはカルシウムもしくは画像カチオンの可溶性塩を混合することによって調製することができる。 水溶液中のカルシウムキレートは好ましくは完全に中和された塩である。カルシウムキレート錯体に対する対イオンおよび画像カチオンキレート錯体に対し本体に必要などのような対イオンも、どのような薬学的に許容しうる非毒性イオンでもありうる。適切な対イオンとしては、リチウム、カリウムおよびナトリウムのような1価のカチオンが挙げられ、カルシウムおよびマグネシウムのような2価のカチオンも使用できる。有機塩基の適切なカチオンとしては、たとえば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、グルカミン、N,N-ジメチルグルカミン、およびN-メチルグルカミンが挙げられる。リジン、アルギニンおよびオルニチンのようなアミノ酸、および他の塩基性の天然産の酸のイオンもまた考えられる。 コントラスト媒体はDTPA-ビスアミドと可溶性カルシウムおよび常磁性金属、ランタニドまたは他の重金属化合物を水性媒体中で反応させることによって調製でき、そのような方法は本発明の別の態様を形成する。しかしながら、好ましくは金属キレートは別個に調製され、次いで所望の比率で混合される。 本発明のコントラスト媒体は、カルシウムキレートが除外されているがその他の点では同一である組成物に対比してその組成物の毒性を低下させるために十分な量のカルシウムDTPA-ビスアミドキレートを含むべきである。しかし、どのような量のカルシウムキレートも一般に若干の改善を与えるものである。しかしながら、存在するカルシウムキレートの量は毒性限界より下であるべきである。都合良くは、組成物は1:200?1:5、好ましくは1:200?1:10、特別に1:100?1:10、特に1:100?1:20、さらに特に1:30?1:15、特別に約1:20の範囲内のカルシウムキレート対画像イオンキレートのモル比を有する。カルシウムキレートの投与量は好都合には患者の体重に関して0.001?5ミリモル/kg、好ましくは0.001?1ミリモル/kg、特に好ましくは0.004?0.08ミルモル/kgの範囲内の生理学的に許容される濃度でありうる。 カルシウムキレートは亜鉛イオンによるキレートからの画像イオンの置換を妨害することによって画像イオンキレートの生物的耐性を改善できるから、したがってコントラスト媒体が投与される被験体の血漿亜鉛濃度に対してカルシウムキレートの濃度すなわち投与量を調和させることが望ましい。 本発明の組成物中の画像イオンキレートの濃度は、画像技術に対する従来の濃度または従来の濃度より高濃度でありうる。一般に本発明のコントラスト媒体は、画像イオンキレートを0.001?5.0モル/l、好ましくは0.1?2モル/l、なかんずく0.1?1.2モル/l、特に0.5?1.2モル/l含みうる。MRIコントラスト媒体については、常磁性金属キレートの濃度は好都合には0.001?5、特に0.1?1.2モル/lであり、一方X線コントラスト媒体に関しては、ランタニドまたは重金属キレートの濃度は都合良くは0.1?2、好ましくは0.5?1.2モル/lである。 本発明のコントラスト媒体は、特別の画像技術を使用して所望のコントラストを生じさせるために十分な量で画像のために患者に投与される。一般に患者の体重kg当り0.001?5.0ミリモルの画像イオンキレートの投与量が十分なコントラスト増進を達成するために効果的である。大多数のMRI応用に対して画像イオンキレートの好ましい投与量は、0.02?1.2ミリモル/kg体重の範囲内にあるが、一方X線応用に対しては0.5?1.5ミリモル/kgの投与量が一般にX線減衰を達成するために効果的である。大多数のX線応用に対する好ましい投与量は、ランタニドまたは重金属のキレート0.8?1.2ミリモル/kg体重である。 ランタニドまたは重金属キレートを使用したX線透過写真法における一般的な使用に関して、少なくとも1ミリモル/kgの投与量が最適コントラストに必要とされる。適当な安全のマージンと考えられるラットのLD_(50)対最大有限投与量の比は約15である。Gd DTPAは5.5ミリモル/kgのLD_(50)を有する。Gd DTPA-ビス(メチルアミド)(Gd DTPA-BMA)は15ミリモル/kgのLD_(50)を有する。CaNa DTPA-BMAとGd DTPA-BMAの混合物のLD_(50)は、有効なX線画像コントラストに対し必要とされる程度よりはっきり上の、34.4ミリモル/kgである。 本発明のコントラスト媒体は従来の薬学的または獣医学的調剤助剤、たとえば安定剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調節剤などを使用して調製でき、非経口的または経腸投与、たとえば注射もしくは注入または外部逃避管を有する体腔、たとえば消化管、膀胱または子宮への直接的投与に適した形でありうる。このように本発明のコントラスト剤は、錠剤、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、分散液、シロップ、坐薬などのような従来の薬学的投与形態でありうる。しかしながら、生理学的に許容しうる担体媒体、たとえば注射用水中の溶液、懸濁液および分散液が一般的に好ましい。 本発明に係るコントラスト媒体は、したがって当該技術分野で公知の方法で生理学的に許容しうる担体または賦形剤を使用する投与のために調製することができる。たとえば、場合によっては薬学的に許容しうる賦形剤と共に、キレート成分は水性媒体に懸濁または溶解でき、次いで生成した溶解または懸濁液は殺菌される。上述したように、適切な添加剤としては、たとえば、薬理学的に生物的相溶可能な緩衝剤(たとえば、トロメタミン塩酸塩のような)、他のキレート剤(たとえば、ジエチレントリアミン五酢酸のような)の僅かな添加、または場合によっては、カルシウムもしくはナトリウム塩(たとえば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウムまたは乳酸カルシウム)が挙げられる。 もしコントラスト媒体が、たとえば経口投与のために水または生理食塩水中に懸濁液の形で調製されるなら、少量の可溶性キレート塩が経口溶液および/または界面活性剤および/またはフレーバー芳香剤中に伝統的に存在する1種以上の不活性成分と混合できる。 身体のいくつかの部位のMRIおよびX線画像に関して、コントラスト剤として金属キレートを投与するための最も好ましい様式は、非経口、たとえば、静脈内投与である。非経口投与可能な形態、たとえば静脈内溶液は殺菌されて生理学的に許容し得ない薬剤があってはならなく、刺激または投与での他の有害な効果を最小にするために低い浸透圧濃度を有すべきであり、したがってコントラスト媒体は好ましくは等張または僅かに高張でなければならない。適切なビヒクルとしては塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸化リンゲル注射液およびREMINGTONの薬科学(PHARMACEUTICAL SCIENCES),15版,Easton:Mack Publishing Co,1405?1412頁および1461?1487頁(1975)並びに国民医薬品集(THE NATIONAL FORMULARY)XIV,14版,ワシントン,米国薬学協会(American Pharmaceutical Association)(1975)に記載されているような他の溶液が挙げられる。その溶液は非経口溶液に慣例的に使用される防腐剤、殺菌剤、緩衝剤および酸化防止剤、賦形剤およびキレートと相溶可能であり、生成物の製造、貯蔵または使用を妨害しない他の添加剤を含むことができる。 もちろん、本発明のコントラスト媒体はまた投与前希釈する濃縮または乾燥形態でありうる。 更に別の態様として、本発明は本発明に係るコントラスト媒体の調製のためのカルシウムDTPA-ビスアミドキレートの使用を提供する。 なお更に別の態様として、本発明は本発明に係るコントラスト媒体の調製のためのDTPA-ビスアミドの使用を提供する。 別の態様として、本発明は本発明に係るコントラスト媒体の調製のため、常磁性金属カチオン、ランタニドカチオンおよび他の重金属カチオンから選ばれるカチオンとのDTPA-ビスアミドのキレートの使用を提供する。 更に別の態様として、本発明はヒトまたは動物の身体の画像を発生させる方法を提供する。この方法は本発明に係るコントラスト媒体を前記の身体に投与すること、およびたとえば前記の身体の所望の部位に分布させるために媒体に対し十分な時間を経過させた後、前記身体の少なくとも一部の像、たとえばMR、X線、超音波、シンチレーション造影などの像を発生させることを含んでなる。 MR像を改善するためにMRIコントラスト媒体を応用する方法、MRI装置およびMRI操作手順はValk等によって、核磁気共鳴画像の基本原理(Basic Principles of Nuclear Magnetic Resonance Imaging),ニューヨーク:Elsevier,109?114頁(1985)に記載されている。 X線画像のため、本発明のX線コントラスト媒体は、他のコントラスト媒体と同じ方法で慣用的な装置を使用して標準的な慣用的なX線手順に使用できる。他の画像技術のために、標準的な装置および手順もまた使用できる。 本発明のコントラスト媒体を使用して、効果的である画像コントラストが腎臓、尿道、膀胱、脳、脊椎、心臓、肝臓、脾、副腎種、卵巣、骨格筋などのようなさまざまな器官について得ることができる。 本発明を次の非限定実施例および添付図面によってさらに説明する。なお、第1、2および3図は強度/金属中心対イオヘキソール、Gd DTPA-BMAおよびDy DTPA-BMAに対する濃度のそれぞれ80KeV、120KeVおよび140KeVでのCTスキャンのプロットである。 別記しないかぎり、温度は℃で、濃度は重量%で示す。 実施例1 DTPA-ビスメチルアミド二水和物 4lビーカー中のメチルアミン(40%溶液,1.52kg)を氷浴で冷却した。固体DTPA-ビス無水物(1.0kg)を30?60分にわたって激しく撹拌しながら加えた。添加中温度を35℃以下に保持した。その後氷浴を取り除き、茶色溶液を室温で2時間撹拌した。混合物を濃塩酸でpH約3まで酸性化し、その溶液を60?70℃で濾過し、微量の不溶物を除去した。熱溶液に2.5lのエタノールと2.5lのイソプロパノールを加えた。6?24時間室温まで冷却した後、無色の多量の黄褐色結晶を濾過によって分離した。フィルターケーキをエタノールで洗浄し、次いで3lのエタノール、3lのイソプロパノールおよび3lの水に再溶解した。活性炭を熱溶液に加え、続いて減圧濾過した。溶液を室温まで冷却させた。6?24時間後、輝きのある白色結晶を収集し、エタノール2lで洗浄し、12?24時間乾燥した。乾燥後標題の生成物838g(収率67%)を得た。融点110?113℃。 実施例2 Gd DTPA-ビスメチルアミド三水和物 DTPA-ビスメチルアミド二水和物(455.5g,1.0mol)、Gd_(2)O_(3)(181.2g,0.50mol)および水(750ml)を化合させ、6?8時間、すなわちすべての固体が溶解するまで還流下で加熱した。その後混合物をキシレートオレンジを使用し遊離ガドリニウムの存在を検査した。遊離ガドリニウムが存在していたらアミドをさらに5g加え、混合物を2時間還流下で加熱した。キシレノールオレンジ試験を繰り返し、必要ならびさらにアミドを加えた。遊離ガドリニウムが存在しなくなり反応混合物がいったん透明になったら、それを室温まで冷却し、pHを検査した。混合物のpHを6.0?6.5に調節するため少量の1N NaOHを加えた。その溶液を濾過し、撹拌しながら同体積のアセトンを加えた。4?6時間後、無色の結晶を収集し、250mlのアセトンで洗浄し、12?24時間真空中で乾燥した(1mmHg,60?80℃)生成物Gd DTPA-BMAが540g(86%)の収量で得られた。 上の手順でGd_(2)O_(3)をYb_(2)O_(3)あるいはLa_(2)O_(3)に置き換えることによってDTPA-BMAの対応するYbまたはLaキレートを生成した。 実施例3 NaCa DTPA-ビスメチルアミド 実施例2の手順を繰り返し酸化Gd_(2)O_(3)を化学量論的モル等量のCaOで置き換えることにより対応するNaCa DTPA-BMAを生じた。CaO及びDTPA-ビスエチルアミドまたはDTPA-ビスプロプルアミドを使用して同様にNaCa DTPA-ビスエチルアミドおよびNaCa DTPA-ビスプロピルアミドを生成した実施例16および18参照。 実施例4 Gd DTPA-ビスメチルアミドおよびNaCa DTPA-ビスメチルアミドの調合 固体ガドリニウムDTPA-ビスメチルアミド三水和物(3.14g,5.0ミリモル)を約6mlの水に撹拌しながら溶解した。ナトリウムカルシウムDTPA-ビスメチルアミド三水和物(0.13g,0.25ミリモル)を加え、pHは6.0であった。1NのNaOHを10μl(0.01ミリモル,0.2モル%)加えpHを6.25に増加させた。無色の混合物を10mlに希釈し、血清小びん中に殺菌濾過し500mMのガドリニウムDTPA-ビスメチルアミドおよび25mMのナトリウムカルシウムDTPA-ビスメチルアミド処方物を得た。 Gd GTPA-ビスエチルアミドおよびNaCa DTPA-ビスエチルアミドあるいはGd DTPA-ビスプロピルアミドおよびNaCa DTPA-ビスプロプリアミドを含む処方物は、実施例17、19および3のガドリニウムおよびカルシウムのキレートを使用して同様に調製できた。NaCa DTPA-BMAまたはNaCa DTPA-ビスエチルアミドおよびDTPA-BMAまたはDTPA-ビスエチルアミドのYbまたはLaのキレートを含む組成物は実施例2、3および17のキレートを使用して同様に調製した。 実施例5 DTPA-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピルアミド)二水和物 54.8g(600ミリモルの3-アミノ-1,2-プロパンジオール、84ml(600ミリモル)のトリエチルアミン、および200mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を室温で撹拌しながら化合させた。DTPA無水物(71.5g,200ミリモルを10分間にわたって分割して加えた。室温で2時間撹拌した後、こはく色の反応混合物を減圧下で濃縮した。粗製の反応生成物を6N HClでpH3.5に調節し、次いでAG1-X4陰イオン交換樹脂(アセテート形)のカラム上でクロマトグラフ分析した。生成物を1N酢酸で溶解し、油として103g(89%)のDTPA-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピルアミド)二水和物(DTPA-APD二水和物)を生成した。凍結乾燥により無色の固体が得られ、水和した2つの水をもっていることが決定された。 実施例6 Gd DTPA-APD 酸化ガドリニウム(18.128g,50ミリモル)、と54g(94ミリモル)のDTPA-APD二水和物を60mlの水中で化合させ、還流下で加熱した。追加のDTPA-APD二水和物を過剰のガドリニウムイオンに対するキシレノールオレンジテストが陰性を示すまで還流下で6時間にわたり少量ずつ加えた。総量57.75g(100ミリモル)のリガンドが必要であった。冷却後、反応混合物を水で150mlに希釈し、濾過した(0.2ミクロン膜フィルター)。この667mMのGd DTPA-APD溶液は実施例8および9に記述する組成物のために使用した。 実施例7 NaCa DTPA-APD DTPA-APD二水和物(1.44g,2.5ミリモル)と水酸化カルシウム(186mg,2.5ミリモル)を3mlの水中で化合させ、約1.5mlの1N NaOH溶液を加えることによってpH6.6に調節した。これを直接実施例9に記述する組成物に使用した。 実施例8 500mM Gd DTPA-APDの調製 実施例6に記述した667mMのGd DTPA-APD貯蔵溶液のうち67.5ml(45ミリモル)を1NのNaOH溶液でpH6.0に調節した。90mlに希釈後、結果として生じる500mMのGd DTPA-APD溶液を血清小びん中に殺菌濾過し、121℃で30分オートクレーブで殺菌した。 実施例9 500mMのGd DTPA-APDおよび25mMのNaCa DTPA-APD溶液の処方 実施例6で記述した667mMのGd DTPA-APD貯蔵溶液のうち75ml(50ミリモル)を実施例7のNaCa DTPA-APD調合品(2.5ミリモル)と化合させた。その結果生じた溶液を1NのNaOHでpH5.9に調節し、100mlに希釈した。その溶液を血清小びん中に殺菌濾過し、121℃で30分オートクレーブで殺菌した。 実施例10 DTPA-ビス(N-メチル-2,3-ジヒドロキシプロピルアミド) N-メチルアミノプロパンジオール(50.0g,139.9ミリモル)をDMSO(250ml)に溶解しDTPA-ビス無水和物を窒素雰囲気下で加えた。一夜(10時間)撹拌後、生成物をエーテルとクロロホルムの1:1混合物で沈殿させた。結晶を水(150ml)に溶解し、もう一度エタノール(1400ml)で沈殿させた。1時間後、生成物を溶媒から分離した。エタノール(600ml)で撹拌すると白色粉末が生成し、真空乾燥させた。DTPA-ビス(N-メチル-2,3-ジヒドロキシプロピルアミド)(DTPA-BMPA)の収量は45.0g(56%)であった。融点75?80℃。FAB-MS:568(M+1)。 実施例11 Gd DTPA-BMPA DTPA-BMPA(39.0g,68.7ミリモル)を水(50ml)に溶解した。エタノールを除去するため水を蒸留して除き、油分を水(250ml)に溶解し、Gd_(2)O_(3)(11.2g,31.0ミリモルを加えた。その混合物を100℃で16時間撹拌し、濾過し、溶媒を除去した。生成物をメタノール(110ml)に溶解し、アセトン(250ml)で沈殿させた。生成物を水に溶解し、乾燥させた。これを2度繰り返し、痕跡のアセトンを除去した。収量40.4g(81%)。融点280℃。FAB-MS:723(M+1)。 元素分析結果 C_(22)H_(38)GdN_(5)O_(12) 計算値:C 35.60 H 5.31 N 9.70 実測値:C 36.12 H 5.25 N 10.39 実施例12 NaCa DTPA-BMPA DTPA-BMPA(5.0g,8.8ミリモル)を水(50ml)に溶解し、Ca(OH)_(2)(0.65g,8.8ミリモル)を加えた。混合物を室温で約1.5時間撹拌した。その溶液を2MのNaOHで中和し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて乾燥し、NaCa DTPA-BMPA化合物を白色粉末として単離した。収量5.2g(84%)。融点230?233℃。FAB-MS:628(M+1)。 元素分析結果 C_(22)H_(38)CaN_(5)NaO_(12) 計算値:C 42.10 H 6.10 N 11.16 実測値:C 41.48 H 5.96 N 10.96 実施例13 Gd DTPA-BMPAおよびNaCa DTPA-BMPA溶液 Gd DTPA-BMPA(3.61g,5ミリモル)およびNaCa DTPA-BMPA(0.157g,0.25ミリモル)を水(7ml)に溶解した。pHを5.5と6.5の間に調節し、水(10mlになるように)を加えた。その溶液を10ml小びんに殺菌濾過した。溶液はGdを0.5ミリモル/ml含んでいた。 実施例14 Dy DTPA-ビスメチルアミド三水和物 実施例1の手順に従って調製したDTPA-ビスメチルアミド二水和物(DTPA-BMA)(22.77g,50.0ミリモル)、Dy_(2)O_(3)(9.32g,25.0ミリモル)および水(60ml)を化合させ、6?8時間、すなわちすべての固体が溶解するまで、還流下で加熱した。混合物を遊離ジスプロジウムについてキシレノールオレンジで検査した。遊離ジスプロジウムが存在していたら、さらに0.25gのアミドを加え、混合物を還流下で2時間加熱した。キシレノールオレンジテストを繰り返し、必要ならばさらにアミドを加えた。キシレノールオレンジテストでいったん遊離ジスプロシウムの不在を確認したら、混合物を50?60℃に冷却し、pHを検査した。必要ならば温かい(40?50℃)1N NaOHを使用して、混合物のpHを6.0?6.5に調節した。 無色から鮮明な黄色である溶液を三角フラスコ中に濾過した。室温で撹拌した溶液に同体積(約75ml)のアセトンを加えた。4?24時間にわたって無色の結晶を沈殿させた。結晶を収集し、15mlのアセトンで洗浄し、12?24時間真空(1mmHg,60?80℃)乾燥した。室温に冷却した後、25.3g(80%)のDy DTPA-ビスメチルアミド三水和物(Dy DTPA-BMA)を得た。 実施例15 Dy DTPA-ビスメチルアミドおよびNaCa DTPA-ビスメチルアミドの調合 50mlのメスフラスコに固体Dy DTPA-BMA(25.3g,40ミリモル)と25mlの水を加えた。混合物をすべての固体が溶解するまで撹拌しながら55?60℃まで加熱した。温溶液にNaCa DTPA-ビスメチルアミド(1.0g,2ミリモル)を撹拌しながら加えた。すべての固体が溶解した後、pH6.0のレモン色溶液を室温まで冷却し、水で50mlに希釈し、血清小びん中に殺菌濾過し、800mMの溶液を得た。 実施例16 DTPA-ビスエチルアミド二水和物 DTPA-ビス無水物(50.0g,140ミリモル)を氷冷し、撹拌したエチルアミン70%溶液(63.1ml,780ミリモル)に30分にわたって分割して加えた。(30ml)を加え、混合物をさらに12時間周囲の温度で撹拌した。混合物を減圧下で油状に濃縮し、水(100ml)で希釈し、濃塩酸でpH2.5に調節した。生成したこはく色の結晶を収集し、エタノールから再結晶し、DTPA-ビスエチルアミド二水和物の無色結晶を得た。収量44.2g(71%)、融点105?109℃。 ^(1)H NMR(250MHz,D_(2)O)δ 3.68(s,4H)、3.56(s,4H)、3.49(s,2H)、3.19(m,4H)、3.06(m,8H)、0.91(t,J=7.0Hz,6H)。 元素分析結果 C_(18)H_(37)N_(5)O_(10) 計算値:C 44.71 H 7.71 N 14.48 実測値:C 44.64 H 7.85 N 14.19 実施例17 Gd DTPA-ビスエチルアミド三水和物 Gd DTPA-ビスエチルアミド三水和物を定量的収量でin-situに調製した。水(30ml)中のDTPA-ビスエチルアミド二水和物(12.1g,25.0ミリモル)とGd_(2)O_(3)(4.53g,12.5ミリモル)の混合物を5時間還流させた。溶液を1M NaOHでpH6.5に調節した。Gd DTPA-ビスエチルアミド三水和物の無色結晶がまもなく生成した。融点>200℃、陽イオンFAB MS:603(M+H)^(+)。 元素分析結果 C_(18)H_(36)GdN_(5)O_(11) 計算値:C 32.97 H 5.53 N 10.68 実測値:C 33.39 H 5.58 N 10.55 上記の操作でGd_(2)O_(3)をYb_(2)O_(3)またはLa_(2)O_(3)に置き換えることにより対応するDTPA-ビスエチルアミドのYdまたはLaキレートを生成した。 実施例18DTPA-ビスプロピルアミド二水和物 標題の化合物を実施例1及び16のビスメチルアミド、およびビスエチルアミドの二水和物と同様に合成した。 さらに、プロピルアミンおよび、高級アルキルアミンは室温でニート(neat)の液体であるから適当なニートの有機溶媒中でのDTPA無水物とアミンの直接の反応によってこれらのDTPA-ビスアルキルアミドを調製することが可能であり、水性媒体を除去することで、理論的に二無水物の加水分解を排除してジアミドの収量を増加させた。 実施例19 Gd DTPA-ビスプロピルアミド 標題の化合物を実施例2および17のGd DTPA-ビスアミドキレートと同様に調製した。 実施例20 急性毒性 急性毒性(LD_(50))値を、500mM Gd DTPA-BMAだけ、または25mMのDTPA-BMAの亜鉛、マグネシウム、鉄、あるいはカルシウムのキレートも一緒に含む組成物について、500mMのGd DTPA-APDだけ、または25mMのDTPA-APDのカルシウムキレートも一緒に含む組成物について、そして、さらに比較のために、500mMのGd DTPA-ジメグルミンだけまたは25mMのDTPAもしくはDTPA-BMAのカルシウムキレートも一緒に含む成分に対して測定した。急性毒性はスイスウエブスターマウスに対する組成物の静脈内投与によって測定した。 上に展示した結果は本発明を使用して達成しうるコントラスト媒体の毒性の予測できなかった驚くべき減少を示した。 上のLD_(50)値との比較により、ヨウ素化されたX線コントラスト剤をメグルミンジアトリゾエートおよびイオパミドールに対するLD_(50)値がそれぞれ18および25.4(マウス、ラット)であることに気づく。 実施例21 腎臓の蛍光透視検査 ジアトリゾエートナトリウムを使用した携帯用蛍光透視機により雑種犬の腎臓の位置限定後、ヨウ素化剤を取り除いた。腎臓の浄化が完了した後、Gd DTPA-BMAの1.5mmol/kgの投与量でCT増進を生じた。 実施例22 X線減衰性 次のデータをGE9800臨床CT機で得た。イオヘキソール、Gd DTPA-BMAおよびDy DTPA-BMAの連続的な希釈溶液を試験管にいれ、表示されたエネルギーで画像を得た。関心を持たせる強度範囲の値を測定した。その結果を表A、BおよびC並びに添付図面の図1、2および3のそれぞれ対応するプロットに示した。 実施例23 粘度 Gd DTPA-ビスメチルアミドの粘度を測定し、従来のヨウ素化されたX線コントラスト剤に対する粘度と共に下表Dに示す。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2009-02-02 |
結審通知日 | 2007-09-21 |
審決日 | 2007-10-23 |
出願番号 | 特願平1-509759 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(A61K)
P 1 113・ 534- ZA (A61K) P 1 113・ 113- ZA (A61K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 上條 のぶよ |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
谷口 博 星野 紹英 |
登録日 | 1998-11-20 |
登録番号 | 特許第2854905号(P2854905) |
発明の名称 | キレート組成物 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 結田 純次 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 三輪 昭次 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 松本 研一 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 松本 研一 |
代理人 | 福本 積 |
代理人 | 竹林 則幸 |
復代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 石田 敬 |