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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011800064 審決 特許
不服20082566 審決 特許
平成24行ケ10299審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
不服200719763 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1204010
審判番号 無効2008-800115  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-24 
確定日 2009-08-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3651161号発明「改善された呈味を有する甘味料組成物」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3651161号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は,平成9年3月10日に,名称を「改善された呈味を有する甘味料組成物」とする特許出願をし,平成17年3月4日,特許庁から特許第3651161号として設定登録を受けた。
これに対して,請求人から平成20年6月23日付けで請求項1及び2に係る発明についての特許に対して,無効審判の請求がなされたところ,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。

手続補正書(請求人): 平成20年9月10日(同月8日付け)
答弁書: 平成20年11月17日
訂正請求書: 平成20年11月17日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成21年 2月13日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成21年 2月13日
口頭審理: 平成21年 2月27日
第2回答弁書: 平成21年 3月27日
弁駁書: 平成21年 3月27日
弁駁書(第2回): 平成21年 4月24日
上申書(被請求人): 平成21年 5月 8日
審尋(被請求人に対して): 平成21年 5月12日
上申書(被請求人): 平成21年 6月 2日
回答書(被請求人): 平成21年 6月 5日
上申書(被請求人): 平成21年 6月17日
上申書(請求人): 平成21年 6月18日

なお,平成21年2月27日の口頭審理において,請求人の平成21年2月13日付け口頭審理陳述要領書における,新たに追加された甲第13のAB及び14号証により立証しようとする事実に基づく主張は,請求書の要旨を変更するものであるので,許可しないと決定された。

第2 訂正請求の可否
1.訂正の内容
被請求人は,平成20年11月17日付け訂正請求書を提出して訂正を求めている。当該訂正の内容は,本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書の通りに訂正しようとするものである。すなわち,請求項2に「フェニルアルアニン」とあるのを「フェニルアラニン」に訂正するものである。

2.判断
請求項1及び発明の詳細な説明には,一貫して「フェニルアラニン」と記載され,「フェニルアルアニン」の記載は一カ所も存在しないのであるから,「フェニルアルアニン」は,「フェニルアラニン」を誤って記載したものであることは明らかであり,上記訂正は,誤記の訂正を目的とし,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,平成20年11月17日付け訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する同法第126条第3項,4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第3 本件発明
本件特許第3651161号の請求項1及び2に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1及び訂正された請求項2に記載された次のとおりのものと認める。(以下,「本件発明1」及び「本件発明2」という。)

「【請求項1】
N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアスパルテームとを含有し,かつ,N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルが,N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアスパルテームの全重量の0.1?35%であることを特徴とする甘味料組成物。
【請求項2】
さらにアセスルファムKをN-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アルパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアスパルテームの全重量の0.5?85%含有せしめたことを特徴とする請求項1記載の甘味料組成物。」

第4 当事者の主張の要点
1.請求人の主張
(1)本件発明1及び2は,甲第4?8及び12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものであり,甲第1?3及び9?10号証を参照すれば,作用効果について,パネラー20名で行ったとされる実施例1?3の官能試験の官能評価結果の信頼性に合理的な疑義が生じ,また,N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン(以下,明細書と同じく「MII」という。)の甘味特性についても疑義が生じる。
したがって,本件発明1及び2は,特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号の規定により本件特許は無効とすべきである。

(2)甲第1?3及び9?10号証を参照すれば,パネラー20名で行ったとされる実施例1?3の官能試験の官能評価結果の信頼性に合理的な疑義が生じるので,発明の詳細な説明が,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは言えず,また,本件発明1及び2が,発明の詳細な説明に記載したものでないことになり,特許法第36条第4項及び同第6項第1号に規定する要件を満たしていないので,特許法第123条第1項第4号の規定により本件特許は無効とされるべきものである。

(3)被請求人第2回答弁書による主張に対して。
乙第10及び11号証は,甲第15?17号証によると,オーストラリアの裁判所で破棄したと証言した文書のようで疑念を抱かざるを得ないものであり,また,乙第10号証の1996年11月14日,15日,26日,27日のいずれの記載をみても,MIIとアスパルテーム(以下,明細書と同じく「APM」という。)を併用することによって先味,後味が早くなるという結果は示されておらず,効果に関しても根拠のない主張をしていることになる。

<証拠方法>
甲第1号証:"DEPOSITION OF MASATO KAWAUCHI April 2, 2005" Nutrasweet EXHIBIT 1045,Ajinomoto v. Nutrasweet Interference 105,246
甲第2号証:佐藤信著「官能検査入門」(1978年10月16日発行,(株)日科技連出版社 156頁)
甲第3号証:"Deposition of HARRY T. LAWLESS, Ph. D. Alexandria Virginia Tuesday, January 11, 2005" Nutrasweet EXHIBIT 1039 Ajinomoto v. Nutrasweet Interference 105.246
甲第4号証:特表平8-503206号公報
甲第5号証:特開昭53-3571号公報
甲第6号証:特開昭57-186459号公報
甲第7号証:"High-Intensity Sweetner Blends: Sweet Choices" Food Product Design, September 1993 pp83-92
甲第8号証:"Advantages of Alternative Sweetner Blends", Food Technology (1993) pp94-102
甲第9号証:"Sensory Properties of Neotame - Comparison With Other Sweetners", non-published, printed 1/17/2008
甲第10号証:"DECLARATION UNDER 37 C.F.R. §1.132 Feb. 25, 2002" Nutrasweet EXHIBIT 1015,Ajinomoto v. Nutrasweet Interference 105,246
甲第11号証:「添加物評価書(案)ネオテーム」食品安全委員会添加物専門調査会(2006年1月)
甲第12号証:特公昭47-23389号公報
甲第13号証AB及び甲第14号証:(略)
甲第15号証:ジョフリー・レビー氏からリチャード・ハマー氏に宛てたディスカバリー手続きに関する書簡(2003年2月7日)
甲第16号証:ジョフリー・レビー氏からリチャード・ハマー氏に宛てたディスカバリー手続きに関する書簡(2003年3月5日)
甲第17号証:「追加的かつ統合的文献リスト」ジョフリー・レビー氏の作成になる,オーストラリア連邦裁判所に提出の書面(2003年5月9日付け)

なお,甲第1?12号証の成立については争いはない。
また,甲第1及び3号証は,本件特許の出願に基づく優先権を主張して米国に出願された米国出願09/355,980号のインターフェアランス手続きにおいて証拠として提出された証言録取書で,甲第3号証はDigital Court Reporting and Video社が,甲第3号証はEsquire Deposition Services社が作成したものである。
甲第10号証は,該米国出願09/355,980号の審査において米国特許商標庁に提出された宣誓書である。

2.被請求人の主張
(1)本件発明1は,MIIの「先味が極端に弱く,後味が極端に強く,渋みが強い」という甘味質としての問題点を,先味が弱く,後味が強いAPMを特定の割合で併用することによって,MIIの甘味料としての問題を解決できたもので,当業者の予測を越えた進歩性を有するものである。
また,本件発明2は,本件発明1のMIIとAPMの組み合わせに,さらにアセスルファムK(以下,明細書と同じく「AceK」という。)を組み合わせたものであり,甘味質のバランスが更に改良できるという優れた利点を有するものである。

(2)甲第10号証において行った「パネラー2名の10回ずつの官能評価」は,十分に信頼性がある試験である。乙9号証には,「評価対象物につき,差があるか否かを判断するような識別テストでは,極端に言えばパネルは1人でもよい。1人が何回かの繰り返しテストを行い,結論を導けば結果の信頼性は高い。」と記載され,甲第10号証の官能評価試験におけるパネラーの人数には何ら問題がない。

(3)本件発明1及び2の作用効果に疑義があるからといって,直ちに特許法第36条第4項違反となるものでないし,特許法第36条第6項第1号違反となるものでない。

(4)本件発明1及び2の発明者の一人である石井昭一は,「’96.10.21?’96.12.23.食品総合研究所FLF-3石井昭一」(乙第10号証)及び「’96.12.24?’97.3.7.食品総合研究所FLF-3石井昭一」(乙第11号証)と題するノートを作成し,これを見る限り,少なくとも5名又は6名のパネラーによる本件実施例に対応する試験が,実際に行われていたことは明らかである。
なお,ごく一部に,明細書の数値と乙第10及び11号証に記載された数値とが一致しない部分があるが,上記結論に何らの影響を与えるものではない。

(5)甲第15?17号証で廃棄したというのは実験の生データであり,乙第10及び11号証ではない。

<証拠方法>
乙第1号証:特公昭63-61909号公報
乙第2号証:米国特許第6180155号公報
乙第3号証:オーストラリア特許第724947号公報
乙第4号証:欧州特許第0908107B1号公報
乙第5号証:米国特許第6432464号公報
乙第6号証:米国特許第6048999号公報
乙第7号証:米国特許第5480668号公報
乙第8号証:TIイメージ図
乙第9号証:古川秀子著「おいしさを測る 食品官能検査の実際」幸書房
乙第10号証:「’96.10.21?’96.12.23.食品総合研究所FLF-3石井昭一」と題するノートの写し
乙第11号証:「’96.12.24?’97.3.7.食品総合研究所FLF-3石井昭一」と題するノートの写し

なお,乙第1?7及び9号証の成立については争いはない。

第5 当審の審尋
1.合議体は,被請求人に対して以下の内容について審尋した。
「請求人は,平成21年4月24日付け弁駁書(第2回)において,「乙10号証の1996年11月14日,15日,26日,27日のいずれの記載をみても,MIIとAPMを併用することによって,そのいずれを単独で用いた場合よりも先味,後味がはやくなるというような結果は示されていません。」と主張している。
そこで,例えば乙10号証の’96.11.15のところを見ると,先味はMIIとAPMの5:5の併用で,平均-0.7と,MII単独の平均-1,APM単独の平均-0.4の中間的な値であるし,後味も,MIIとAPMの5:5の併用で,平均0.8と,APM単独の平均0.8と同じであり,請求人の主張の通りの結果が示されているもので,本件特許において奏される効果に疑義が生じるものである。
また,そこに示されている個々のパネラーの結果を見ても,例えば先味についての結果を見ると,堀川,鎌田及び石井の3名は,MII単独,APM単独及び両者の併用のいずれも同じ値であり,これらの違いの判断ができていないものであるし,金武及び谷本は,APM単独よりも,しょ糖のほうが先味において劣っているという誤った判断をしていることになるし,柿崎も,MII単独よりもAPM単独のほうが先味において劣っているという誤った判断をしていることになり,6名のパネラーの資質においても,相当に疑義が生じるものである。
さらに,乙10,及び乙11号証におけるパネラーそれぞれの値のバラツキが大きく,その誤差範囲を考えると,本件特許明細書に示される効果が導き出されるかについて疑義が生じるものである。

被請求人は,このような合議体が抱いている疑義に対して反論があれば,回答書において主張されたい。

なお,乙10,及び乙11号証や,パネラーの数などについて疑義がある甲10号証により,本件特許明細書に示される効果を立証するには不十分であり,追加実験をして,その結果により本件特許の効果を示そうとする場合,追加実験について疑義が生じないように,請求人と共同で実験することが好ましい。共同ですることが困難であっても,実験を請求人の技術者などに公開することなどにより,実験の詳細について疑義が生じないようにされたい。」

2.被請求人の回答(平成21年6月17日付け上申書による補足も含む)。
(1)’96.11.15のデータはPSE9.3%のコーラベースの予備試験で,本件明細書の段落0020に記載されているようなPSE10%の評価結果は’96.11.20のデータである。
’96.11.27のMII:APM=5:5の先味の評価点は平均-0.7となっているものの,’97.1.14のMII:APM=8:2及びMII:APM=2:8の先味の評価点は,それぞれ平均-0.3及び平均0.1であり,MIIとAPMを併用することによって,そのいずれを単独で用いた場合より先味が強まるという効果が示されている。

(2)乙第10及び11号証のパネラーは,APMを含む甘味料・調味料・食品分野での技術開発に長年従事しており,官能評価もその間日常的に行っており,パネラーとしての資質については問題ない。

(3)官能評価ではパネラー個々の評価点に着目するのではなく,パネラーの平均値に着目し,一定の傾向の有無によって特有の効果が存在するか否かを判断する手法が多く用いられており,発明者も当該手法を採用したわけである。
発明の効果を更に詳しく説明するために追加実験とその結果を資料1及び資料2として示す。先味については,資料1テストAでは正しく評価されておらず,資料2の結果によると,MII,APMそれぞれ単独の場合よりも先味が改善される効果が示され,MIIとAPMを混合することにより,MII単独より先味を早め,後味を弱め,渋味を改善することが有意に示されている結果が裏付けられている。

<添付書類>
資料1:Dr.Tracy Hollowood作成の「ネオテームおよびアスパルテーム混合物の味質評価」
資料2:Dr.Tracy Hollowood作成の「ネオテームおよびアスパルテーム混合物の先甘味評価」
資料3:山口静子氏作成に係る陳述書

第6 当審の判断
1.甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には,「本発明の化合物,すなわちスクロースの10,000倍の甘味力を有するMIIを,・・・本発明の化合物の安定性は,APMの36倍であることがわかった。」(9頁17-22行)と記載され,
「本発明に係る甘味料は,甘味料単体として,またはスクロース,・・・スイートジペプチド誘導体または同類体(APM,アリテーム)・・・アセスルフェイム(acesulfame),・・・およびそのナトリウム塩,カリウム塩・・・などの他の甘味料と組み合わせて食料品に添加することもできる。」(12頁26行-13頁6行)と記載されている。

2.対比
本件発明1と甲第4号証の記載を対比すると,両者はMIIとAPMを含有する甘味料組成物に関するものである点で一致しているが,
本件発明1が,MIIとAPMを特定の量比で用いるものであるのに対し,甲第4号証においてはAPMは,MIIと組み合わせる甘味料として,多くの甘味料の1つとして並記されているだけのものであり,具体的に甘味料組成物としたことも,組み合わせるときの量比も記載されていない点で相違している。

また,本件発明2と甲第4号証の記載を対比すると,甲第4号証に記載されるアセスルフェイムのカリウム塩は,本件発明2のAceKに相当するものであるので,両者は,MIIを含む甘味料組成物に関するものである点で一致しているが,
本件発明2が,MII,APM及びAceKを特定の量比で含有するものであるのに対し,甲第4号証においてはAPM及びAceKは,MIIと組み合わせる甘味料として,多くの甘味料として並記されているだけのものであり,具体的にこれらの三者を組み合わせて甘味料組成物としたことも,組み合わせるときの量比も記載されていない点で相違している。

3.判断
ア)甲第8号証に「複数の甘味料のブレンドを用いることによって,個々の甘味料の限界を克服することができ,個々の甘味料では不可能な製品の開発が可能になる。甘味料のブレンドによって,改善された味覚,より長い品質保証期限,より少ない製造コスト,および消費者の何らかの個々の甘味料のより少ない摂取量,を伴う製品の製造か可能になる。」(94頁左欄34-43行)と記載され,また,例えば,甲第5,6及び12号証や乙第1及び7号証など特許公報のように,甘味料組成物に関する多くの発明がなされていることからも明らかなように,一般に,甘味料同士を混合して組成物とすることにより,両者の特徴を備えた甘味料組成物を得,単独で使用した場合には得られない効果を得る場合があることは,周知の技術的事項である。しかも,甲第4号証には,MIIと組み合わせるべき他の甘味料として,APM及びAceKが明記されているから,この記載に基づいて,当業者は,MIIとAPMを混合したり,さらにAceKを加えたりして組成物とすることに強く動機付けられるというべきものであり,また,その混合割合も自由に変えることができるものである。そうであるから,本件発明1及び本件発明2においては,顕著な作用効果があることが進歩性があることの前提をなし,顕著な作用効果がなければ進歩性もないといわねばならない。
請求人は本件発明1及び2の効果に関して,パネラー20名で行ったとされる実施例1?3の官能試験の官能評価結果の信頼性に疑義があることを主張しているので,以下,検討する。

イ)乙第10及び11号証。
被請求人は,本件明細書の実施例におけるパネラーの人数を示すために,本件発明1及び2の発明者の一人である石井昭一が作成したとするノートの写しを,乙第10及び11号証として提出している。
乙第10及び11号証の表紙には,本件特許の出願日の5ヶ月ほど前から直前までの日付と,本件発明1及び2の発明者の一人である石井昭一の名前がある。そして,96.10.29?’97.1.21の日付の記された頁に多くの官能評価結果がまとめられており,同人が,’97.2.21から特許作成に携わり,’97.2.28に特許の最終案を提出したことが記載されている。
そして,被請求人が主張するように,ごく一部に,明細書の数値と乙第10及び11号証に記載された数値とが一致しない部分があるだけでなく,乙第10及び11号証には,明細書の実施例4のNo.1,5及び6,ならびに実施例5のNo.3及び5?8に対応するものが記載されてはいないが,大体においては,実施例において官能試験を行ったサンプルに対応するものが,そこに記載されている。
以上によれば,本件発明1及び2の発明者の一人である石井昭一が,本件発明1及び2を主体的に行ったもので,乙第10及び11号証は,そのとき実験のデータを集計するなどに使用した実験ノートの写しであると推定できる。

なお,請求人は,乙第10及び11号証は,甲第15?17号証によると,オーストラリアの裁判所で破棄したと証言した文書であると主張しているが,乙第10及び11号証は,甲第17号証において,応答人が所持しているとされるスケジュール1において,パート1の4及びパート2の16として示されているもののようで,廃棄したとされるスケジュール2のものではないようである。

ウ)本件明細書の実施例におけるパネラーの人数。
乙第10及び11号証には,官能試験を5名で行った場合と,6名で行った場合が記載され,明細書に記載されるように,これを20名で行った形跡はない。明細書を作成するにあたり,5,6名を,20名と誤って記載したものか,それとも偽ったものか判然としないが,5,6名で行った実施例1?5の官能試験の官能評価結果の信頼性が低いので,少しでも信頼性が高いと見えるように20名と偽った可能性もあるので,乙第10及び11号証に記載される官能評価結果そのものが信頼できるものか検討する。

エ)本件明細書に示される本件発明1及び2の効果。
本件明細書には,「本発明の課題は,前項に記載のMIIの甘味質特性に鑑み,先味を強め,後味を弱め,渋味を弱めることにより,MIIをスクロースに類似した甘味質の高甘味度甘味料として提供するにある。
本発明者は,前記課題を達成する為,鋭意検討の結果,高甘味度甘味料MIIとアミノ酸系甘味料APMとを特定の量比で組み合わせることにより,先味を強め,後味は弱め,かつ渋味を弱めた,甘味質のバランスがとれた甘味料が得られること,また,それらにAceKを少量組み合わせることにより,甘味質のバランスが更に改良できることを見い出し,本発明を完成するに至った。
先味の改善は,先味の強い甘味料(例えば,グリチルリチン等)を併用すれば可能との類推は容易であるが,実際には,それほど単純ではなく,MIIに,MII程ではないが先味の弱いAPMを組合せることにより,APMの先味も改善されること,従って,MII,APMそれぞれ単独の場合よりも先味が改善され,全体としてバランスの良いスクロースにより近い甘味質の高甘味度甘味料が得られることは,従来の知見からは,予想が困難である。」(段落0005?0007)と記載されている。
このように明細書に,従来の知見からは,予想が困難な顕著な作用効果として示されているものは,先味の改善であるので,先味についての作用効果について検討を進める。

オ)官能検査について
甲第2号証には,「専門家パネルは,一般パネルの中から選択された能力の高いパネリストに対して,さらに高度の訓練を施した人から構成され,製品や工程に対する専門知識ばかりでなく,統計学,心理学などについての理解も必要とされる。パネルの大きさは一般パネルでは30?50人,専門家パネルでは5?20人程度が普通である。」(156頁20-24行)と記載され,
乙第9号証には,「評価対象物につき,差があるか否かを判断するような識別テストでは,極端に言えばパネルは1人でもよい。1人が何回かの繰り返しテストを行い,結論を導けば結果の信頼性は高い。しかし,常に1人で検査を行うのは大変な負担となるため,この人に近い評価基準を持つ人を5?10人ほど確保する。」(16頁8-12行)と記載されている。
これらの記載から明らかなように,パネラーが5,6名であったからといって,それだけで結果が信頼できなくなるものではない。そして,味覚には個人差があるので,能力の高いパネラー5,6名であれば,微妙な差を識別できるであろうし,能力が低ければ,大きな差がある場合しか識別できないことになる。
摘記した甲第2号証の記載に,統計学,心理学などについての理解も必要とされるとあるように,官能評価結果が,統計的に意味があるかが重要であるし,パネラーが先入観を抱かないような試験方法を採用することも重要である。

カ)乙第10及び11号証の官能評価結果。
乙第10及び11号証には,しょ糖10%を標準試料として,各パネラーがサンプルを評価した数値が示され,その平均値が記載されている。
乙第10号証の’96.11.27のところには,MIIの先味の平均が-1.2であり,MII:APM=5:5のものの先味の平均が-0.7であり,APMの先味の平均が-0.6あることが記載され,これはAPM単独の場合よりも先味が改善されてはいないということであり,本件明細書に示される効果とは異なる結果といえる。
このことは,乙第10及び11号証は,本件特許明細書に記載される効果が,実際の実験結果に基づかないものであったことを示すものである。

また,平均値は,当然に誤差を含むものである。上記の’96.11.27のデータでは,MIIの先味の平均が-1.2であり,MII:APM=5:5のものの先味の平均が-0.7であるので,一見,MII単独よりも先味が改善したことが示されているようである。ところが,スチューデントのT検定によってP値を求めると,0.076ほどになり,平成21年 6月 5日付け回答書に添付された資料1及び2にあるようにP<0.05とすると,統計的には有意差がないという結論になるものである。
このように,誤差範囲を考慮して評価されていない乙第10及び11号証の官能評価結果に,本件発明1及び2において奏される効果が明確に示されているとはいえないものである。

キ)乙第10及び11号証の官能試験方法。
甲第1号証の51頁17行から53頁19行には,サンプルにはS-A-1からS-A-4のラベルがつけられ,コントロールは,C-A-1とC-A-2として提供されたことが示されている。これは,試料のラベルに「サンプル」及び「コントロール」の頭文字が付されているとのことであり,パネラーがサンプルをコントロールよりもよりよく評価することが求められていると考えたら,客観的な評価をし難くするものである。
本件発明1及び2の追加データを得るための官能試験がこのように,パネラーが「サンプル」と「コントロール」がどちらか識別でき,先入観を抱きかねないようなもので,また,乙第10及び11号証の官能試験において,発明者もパネラーとして参加していたようであり,いわゆるブラインドテストのような客観的なデータが得られる方法が,乙第10及び11号証の官能試験において,はたして採用されたかという疑念が生じる。

また,乙第10及び11号証の官能試験は,しょ糖10%を標準試料としているだけであるので,しょ糖の先味を0としても,どの程度先味が遅ければ-1と評価するのかという基準を,パネラーが会得することが困難である。2点が定まらないと数値化できないものであり,例えば,しょ糖とAPMを標準試料(パネラーには,標準資料が何であるかは当然知らせない。)として与え,しょ糖標準試料の先味を10,APM標準試料の先味を0として,サンプルの先味をパネラーに評価させるような方法と比べると,乙第10及び11号証の官能試験において,客観的な方法を採用しているとは認められない。

ク)乙第10及び11号証についてのまとめ。
以上の,乙第10及び11号証について検討した点を総合的に勘案すれば,請求人の主張する,パネラー20名で行ったとされる実施例1?5の官能試験の官能評価結果の信頼性についての疑義を払拭することはできず,本件発明1及び2が奏するとされる顕著な作用効果を確認することはできない。

ケ)平成21年 6月 5日付け回答書に添付された資料1及び2について。
資料1においては,「全体として,甘味料の混合物が,個々に用いられる場合に対して,異なり,場合によっては更に望ましい味覚特性を有するかもしれないことを示唆する証拠があった。しかし,この試験は,更に明確な結論を出す前に,MII及びAPMの先甘味の知覚における複雑な特性を評価するための更なる検討を必要とする。」(翻訳文14-15頁の結論の項)と,報告者自らが結論づけており,甘味料の混合物が,場合によらず,顕著な効果があるということを示すものでは全くないものである。
また,資料2においては,「要約すれば,水溶液及びコーラの両方において,人工甘味料の混合物は,MII及びAPMと比較した場合,先甘味について同様の企画プロフィールをゆうしていた。;しかしながら,概して,MIIの先甘味は,全ての甘味料混合物よりも有意に遅く,統計的有意差は認められなかったものの,甘味料混合物はAPMよりも先甘味を与える傾向があった。」(翻訳文10頁の結論の項)と報告者自らが結論づけているように,APMよりも甘味料混合物は先甘味を与えると,統計的有意差をもってはいえないということであり,本件発明1及び2が奏するとされる顕著な作用効果を確認することはできないというべきものである。
さらに,資料2において,厳しい審査を受け,訓練を受けた15名のパネラーが,それぞれ3回繰り返したデータによっても,統計的有意差をもってAPMよりも甘味料混合物は先甘味を与えるといえないということは,仮に,APMよりも甘味料混合物が先甘味を与えると結論づけられたとしても,その先味の改善の程度はわずかであり,顕著とはいえないことになる。

コ)まとめ
以上によれば,本件発明1及び2は,顕著な作用効果がないものと判断せざるを得ず,甲第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたとすべきものであり,本件発明1及び2についての本件特許は,特許法第29条第2項に規定に違反してされたものである。

第7 むすび
以上のとおり,申し立てられた他の無効理由である特許法第36条第4項及び第6項第1号の規定について検討するまでもなく,請求項1及び2に係る発明についての本件特許は,特許法第29条第2項に規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とすべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
改善された呈味を有する甘味料組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアスパルテームとを含有し、かつ、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルが、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン1-メチルエステルとアスパルテームの全重量の0.1?35%であることを特徴とする甘味料組成物。
【請求項2】
さらにアセスルファムKをN-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アルパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアスパルテームの全重量の0.5?85%含有せしめたことを特徴とする請求項1記載の甘味料組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高甘味度甘味料であるN-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステル(以下「MII」と略記する。)とアミノ酸系甘味料であるアスパルテーム(以下「APM」と略記する)とを含有することを特徴とする自然な甘味を有する甘味料に関する。
【0002】
【従来の技術】
高甘味度甘味料であるMIIの甘味強度はスクロースと比較して、重量比で10,000倍(特表平8-503206)、また、アミノ酸系甘味料APMの甘味強度はスクロースと比較して、重量比で約200倍(特公昭47-31031)と報告されている(濃度や共存する成分の種類等により、この重量比は変化する)。
【0003】
MIIの甘味質特性の詳細は報告されていないが、本発明者の知見によれば、さき味(スクロースと同じ様に甘味を早く感じること)が極端に弱く、あと味(スクロースより甘味が遅く出現し感じられること)が極端に強い。又、渋味が強い。従って、スクロースに比べて甘味質のバランスが悪い。一方、APMに関しても、その甘味質特性はMII程ではないが、さき味が弱く、あと味が強い。従って、両者のいずれも、スクロースを自然な甘味とする場合には、さき味が弱く、あと味が強い違和感のある甘味特性を有する。
【0004】
APMの甘味特性の改善については、主にあと味の改善に関する種々の提案がなされており(例えば、特開昭56ー148255、58-141760、58-220668等)、また、スクロースをAPMとを併用する等、スクロースにより近い自然な甘味質を得る方法の提案もみられる(特開昭57ー152862)。
【0005】
【発明が解決しょうとする課題】
本発明の課題は、前項に記載のMIIの甘味質特性に鑑み、先味を強め、あと味を弱め、渋味を弱めることにより、MIIをスクロースに類似した甘味質の高甘味度甘味料として提供するにある。
【0006】
【課題を解決する為の手段】
本発明者は、前記課題を達成する為、鋭意検討の結果、高甘味度甘味料MIIとアミノ酸系甘味料APMとを特定の量比で組み合わせることにより、さき味を強め、あと味は弱め、かつ渋味を弱めた、甘味質のバランスがとれた甘味料が得られること、また、それらにアセスルファムK(以下「AceK」と略記する)を少量組み合わせることにより、甘味質のバランスが更に改良できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
さき味の改善は、さき味の強い甘味料(例えば、グリチルリチン等)を併用すれば可能との類推は容易であるが、実際には、それほど単純ではなく、MIIに、MII程ではないがさき味の弱いAPMを組合せることにより、APMのさき味も改善されること、従って、MII、APMそれぞれ単独の場合よりもさき味が改善され、全体としてバランスの良いスクロースにより近い甘味質の高甘味度甘味料が得られることは、従来の知見からは、予想が困難である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の甘味料組成物は、MIIとAPM及びこれらとAceKを含有してなるが、MIIとAPMの量比は、両者の合計重量に占めるMIIの比率が0.1?35重量%である。MIIの比率が0.1%を下回る又は35%を上回る組成物の場合、併用効果、即ち、各々単独の場合に比べてのさき味、後味、渋みの改善効果に欠ける。従って、MIIが、MIIとAPMの合計重量に占める比率は、0.1%?35%で、甘味特性の改善された甘味料組成物か得られ、更に好ましくは0.3%?3%含有すると、極めて甘味質のバランスがとれたスクロースに類似した甘味料組成物が得られる。
【0009】
同様に、MIIとAPMに更にAceKを併用しても、甘味特性が改善される。この場合、MIIとAPMの全重量に占めるAceKの比率は0.5%?85%、好ましくは1%?75%含有すると、さき味を強め、あと味を弱め、かつ渋味を弱めた、甘味質のバランスがとれた甘味料組成物を得る。
【0010】
本発明の甘味料組成物は、卓上甘味料、飲料、冷菓、ゼリー、ケーキ、パン、キャンディー、チューインガムをはじめとする各種の飲食品、歯磨き剤をはじめとする口腔用組成物、医薬品等に配合され、従来の高甘味度甘味料に比べて、よりスクロースに近い、自然でバランスのとれた甘味質を与えることができる。
【0011】
[実験例1]
市水をイオン交換し蒸留した純水(以降、純水と称する)を用いて実験した。
スクロース10%相当の甘味強度(以降、PSE10%と称する)を有するMII水溶液を調製し、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、あと味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について、スクロース10%水溶液と比較評価した。先味が極端に弱く、あと味が極端に強く、渋味が強い。更に、くせ、しつっこさが強く、味のバランスが極端に崩れ、悪かった。同様に、PSE10%のAPM水溶液とスクロース10%水溶液で比較評価するとMII程ではないが、先味が弱く、後味が強い呈味性を示した。一方、MIIとAPMを甘味強度比で1:9?9:1の割合で変化させ、しかし、PSE10%は一定として、水溶液を調製し、スクロース10%水溶液と比較評価したところ、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が低減され、くせ、苦味はややあるも、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。
【0012】
[実験例2]
PSE10%のMIIの炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価した。水溶液での比較評価結果よりは、くせ、しつっこさが弱まっているが、先味が弱く、後味が強く、渋味が強かった。同様にPSE10%のAPMの炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価したところ、MIIほどではないが、先味が弱く、後味が強く、まろやかさが弱かった。
一方、MIIとAPMを甘味強度比で1:9?9:1の割合で変化させ、しかし、PSE10%は一定として、炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価した。いづれも、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まって、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。特にMII:APMの割合が5:5?1:9の比率の場合、さき味が強まりスクロースの先味の程度と同じになり、バランスの取れた良い呈味を示した。
【0013】
[実験例3]
実験例2と同様に、PSE5%のMIIの炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース5%炭酸コーラ溶液と比較評価した。先味が弱く、後味が強く、渋味が強かった。
一方、MIIとAPMを甘味強度比で1:9?9:1の割合で変化させ、しかし、PSE5%は一定として、炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース5%炭酸コーラ溶液と比較評価したところ、いづれも、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まって、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。特に実験例2と同様APMの割合が大きい方が、さき味を強めてスクロースと同程度となり、バランスの取れた良い呈味を示した。
【0014】
[実験例4]
MIIとAPMとの混合物にAceKを加えて検討した。
PSE10%となるようにMIIとAPMの全量とAceKを甘味強度比で1:9?9:1の割合で変化させ、しかし、PSE10%は一定として、炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価した。その際、MIIとAPMの甘味強度の割合も変化させた。9:1?6:4までは(PSE換算でAceKが40%以下のときは)先味を強め、渋味を弱め、改質効果があった。特にMIIとAPMの甘味強度の割合でAPMの大きい方が顕著であり、バランスの良い呈味性を示した(例えば。PSE換算でMII:APM:AceKが2:7:1の場合)。AceKが多い場合は、先味が少し強まるが、苦味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味が極端に強くなり、すっきり、まろやかが極端に弱くなって、呈味のバランスが崩れた。
【0015】
【発明の効果】
本発明の甘味料組成物は、MIIやAPM、それにAceKの単独使用では、得られない良質のバランスの取れた呈味性を有する高甘味度甘味料を提供する。他の賦形剤(スクロース等も含む)との併用も勿論可能である。特に炭酸コーラではその優位性を発揮するが、これに限定されず、すべての用途で、改善された甘味質の組成物として適用可能である。
【0016】
【実施例】
以下実施例により本発明を更に説明する。
【0017】
[実施例1]
スクロースの8000倍と想定して、PSE10%濃度になるように希釈したMIIの水溶液を調製した。スクロース濃度▲1▼6.94%、▲2▼8.33%、▲3▼10.0%、▲4▼12.0%、▲5▼14.4%の各水溶液を調製し、当該MIIの水溶液が、甘味強度について、どの番号のものと似ているか、試飲して官能評価した。パネラー20名(以降、n=20と表現)の平均点を求めた結果は2.4点であった。次の計算により、当該MIIの水溶液の甘味強度は9.0%であつた。
(10.0-8.33)×0.4+8.33=9.0
従って、MIIの甘味強度はスクロースの7200(=8000×9/10)倍であった。
【0018】
この結果に基づいて、PSE10%のMII水溶液を調製(MII 13.9mgをとり、純水で1000mlにフィルアップ)した。又、スクロース10%水溶液を調製(スクロース100gをとり、純水で1000mlにフィルアップ)した。
このPSE10%のMII水溶液を、スクロース10%水溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した(n=20)。その結果、MII水溶液の甘味質は先味が極端に弱く、後味が極端に強く、渋味が強かった(n=20)。
【0019】
MIIとAPM(PSE換算5:5)のPSE10%水溶液を調製した。
MII6.9mg(=5/7200(g/dl))と、APM395mgを100mlに採り、10倍に希釈した。この水溶液は甘味強度10%であった(n=20)。このときのMIIとAPMの全重量に対するMII含量は1.7%である。APMの重量と甘味強度(PSE%)の関係は次式を使用した(以降同じ)。
Y(甘味強度%)=46.06X(APM重量g)^(0.687)
このMIIとAPM(PSE換算5:5)のPSE10%水溶液を、スクロース10%水溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。その結果、MIIとAPMの併用により甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示すことが判明した(n=20)。
【0020】
[実施例2]
炭酸ガス入りの甘味強度を評価するのは大変難しいので、コーラベースで甘味強度を調製し(PSE10%)、その後、炭酸ガス入りのコーラ(通常)で甘味質比較を行った。
【0021】
コーラベースの基本レシピー:クエン酸(結晶)0.25g、クエン酸ナトリウム0.1g、85%リン酸 0.3g、コーラベース2ml、コーラエッセンス1ml(甘味料を適宜を加え、純水で1000mlにフィルアップした(pH2.8))。
【0022】
スクロースコーラベース溶液の調製:1000mlのメスフラスコに、スクロース▲1▼69.4g、▲2▼83.3g、▲3▼100g、▲4▼120g、▲5▼144gを各々採り、上記コーラベース量を加えて、純水でフィルアップした。
【0023】
MIIのPSE10%コーラベース溶液の調製:MII13.9mgを100mlメスフラスコに採り、純水でフィルアップした(推定PSE100%)。その10mlを、上記のコーラベース量と共に1000mlに希釈した(推定PSE10%)。
このMIIコーラベース溶液の甘味強度が、上記スクロースコーラベース溶液の何番の甘味強度に近いかを官能評価し、その平均点を求めた結果2.45点であり(n=20)。PSEの計算値は9.1%であった。従って、MIIの甘味強度は、コーラベース溶液中では、スクロースの6600倍であつた。
【0024】
そこでPSE10%液を再度調製した。MII15.2mgを100mlメスフラスコに採り、純水でフィルアップした(推定PSE10%)。その10mlを上記のコーラベース量と共に1000mlにフィルアップした。
このMIIコーラベース溶液の甘味強度が、上記スクロースコーラベース溶液の何番に近いかを官能評価し、その平均点を求めところ、2.75点であり(n=20)、PSE10%が確認できた。
【0025】
MIIとAPM(PSE換算5:5)のPSE10%コーラベース溶液の調製:MII 7mg、APM 395mgを100mlメスフラスに採り、純水でフィルアップした(推定PSE100%)。その10mlを上記のコーラベース量と共に1000mlにフイルアップした(推定PSE10%)。このコーラベース溶液の甘味強度を、同様に求めたところ、2.58点であり、PSE9.3%が確認された。
【0026】
そこで、PSE10%液を再度調製した。MII 7.5mg、APM425mgを100mlメスフラスコに採り、純水でフィルアップした(推定PSE100%)。その10mlを上記のコーラベース量と共に1000mlにフィルアップした。同様にして、平均点を求めた結果3.17点であった(計算により、PSE10%)。このときのMIIとAPMの全重量に対するMIIの含量は1.7%である。
【0027】
炭酸ガス入りコーラ溶液の調製:上記で得られた、各種コーラベース溶液1000mlを各々、炭酸ガス封入ボンベに入れ、炭酸ガスを入れる。冷蔵庫にて1夜放置した。充分冷えたところで、静置のまま、開栓し、直ちに、その液を240ml容の缶に封入した。
【0028】
甘味質評価:上記で得られたPSE10%のMIIの炭酸コーラ溶液を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した結果、MII含有炭酸ガス入りコーラの甘味質は先味が極端に弱く、後味が極端に強く、渋味が強かった(n=20)。
【0029】
上記で得られたMIIとAPM(PSE換算5:5)のPSE10%炭酸コーラ溶液を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した(n=20)。
【0030】
[実施例3]
MIIとAPMとAceK(PSE換算4:4:2)のPSE10%水溶液の調製:MII 5.6mg(=4/7200(g/dl))と、APM285mgと、AceK 49mgを採り、純水で1000mlにフィルアッした。この水溶液を、同様に官能評価し甘味強度を求めたところ、3.1点であり(n=20)、PSE10%であることを再確認した。このときのMIIとAPMとAceKの全重量に対するMII含量は1.8%である。AceKの重量と甘味強度(PSE%)の関係は次式を使用した(以降同じ)。
Y(甘味強度%)=19.09X(AceK重量g)0.424
【0031】
このMIIとAPMとAceK(PSE換算4:4:2)のPSE10%水溶液を、スクロース10%水溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価したところ、やや苦味は残るものの、甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した(n=20)。
【0032】
MIIとAPMとAceK(PSE換算4:4:2)のPSE10%コーラベース溶液の調製:MII 6.1mg(=4/6600(g/dl))と、APM285mgと、AceK 49mgを採り、上記のコーラベース量と共に、純水で1000mlにフィルアップした(推定PSE10%)。このコーラベース溶液を、同様に官能評価し甘味強度を求めたところ、3.67点(n=20)であり、PSE11.3%であった。
【0033】
そこで、PSE10%液を再度調製した。MII 5.4mgと、APM 252mgと、AceK 43mgを、上記のコーラベース量と共に、純水で1000mlにフィルアップした(推定PSE10%)。
同様に官能評価し甘味強度を求めた結果、3.2点であり、計算により、PSE10%であった。このときのMIIとAPMとAceKの全重量に対するMIIの含量は1.8%である。
【0034】
このMIIとAPMとAceK(PSE換算4:4:2)のPSE10%コーラベース溶液を、スクロース10%コーラベース溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した(n=20)。
【0035】
[実施例4]
上記の実験方法を用いて下記の割合の炭酸コーラ溶液を調製した。

【0036】
実験No.1,2,4?6の各炭酸コーラ溶液を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した結果、各々、甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した。尚、APMの比率が高まるにつれ、効果は大きかった(n=20)。
【0037】
[実施例5]
上記の実験方法を用いて下記の割合の炭酸コーラ溶液を調製した。

【0038】
実験No.1?3,4?8の各炭酸コーラ溶液を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。その結果、実験No.1?3,5,6(PSE換算比でAceKが1?4の場合)は、各々、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した。尚、APMの比率が高まるにつれ、効果は大きかった。
【0039】
実験No.7,8(PSE換算比でAceKが5以上の場合)は、各々、先味が強まるものの、後味、渋味、苦味、くせが極端に強く、すっきり、まろやかが極端に弱くなり、バランスの崩れた呈味性を示した。特にAceKの比率が高まるにつれ、大きく呈味性のバランスを崩した(n=20)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-06-24 
結審通知日 2009-06-26 
審決日 2009-07-09 
出願番号 特願平9-54582
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 上條 肇
鵜飼 健
登録日 2005-03-04 
登録番号 特許第3651161号(P3651161)
発明の名称 改善された呈味を有する甘味料組成物  
代理人 服部 博信  
代理人 服部 博信  
代理人 小川 信夫  
代理人 平山 孝二  
代理人 小川 信夫  
代理人 園田 吉隆  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 小林 義教  
代理人 平山 孝二  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  

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