• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1204094
審判番号 不服2007-31112  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-16 
確定日 2009-10-06 
事件の表示 平成10年特許願第525207号「平らな粘着性の薬効成分貼付剤」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月11日国際公開,WO98/25257,平成13年 4月17日国内公表,特表2001-505211,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成9年12月4日(パリ条約による優先権 1996年12月4日 ドイツ)を国際出願日とする出願であり,平成19年8月9日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成19年11月16日に拒絶査定に対する審判請求がされたものであって,その請求項1に係る発明は,平成18年8月2日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,「本願発明」という。)。
「被覆フィルムと少なくとも一種の薬効成分を含む粘着層とを備えた平らな粘着性の薬効成分貼付剤であって,
-その際該貼付剤は更に除去可能の一つの基材(剥離フィルム)を備え,且
-その際該基材は一種の縁取りにより,その部分だけ被覆フィルムと粘着層とを備えた前記貼付剤よりも横に張り出しており,その際該縁取りに距離を置いて配置した二つの切欠きを設け,前記基材に形成し前記粘着層の上に伸びる一本の剥離補助線の一端がそれぞれ前記切欠きに位置するようにした,前記貼付剤。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である,実願平05-075095号(実開平07-040744号)のCD-ROM(原査定の引用文献1,以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】柔軟性を有するシ-ト状の基材を有し,該基材の一面に粘着剤層を設け,該粘着剤層の表面を剥離紙で覆い,上記基材の他面に該基材よりも腰が強いキャリアシ-トを仮着し,上記剥離紙とキャリアシ-トには両側縁部と中央部を別個に剥がし得るような並行的な部片に分割し,剥離紙とキャリアシ-トとでこの並行的な部片が互いに交叉するように形成した貼付材。
【請求項2】上記粘着剤層を設けた基材には,上記剥離紙の両側縁部と中央部に分ける分割部分の近傍に,その両端部から内側へ延びる切取り案内部を設けた請求項1記載の貼付材。」(【特許請求の範囲】)

(b)「上記粘着剤層2は,アクリル系,天然ゴム系,合成ゴム系,シリコ-ン系など適宜の粘着剤を使用して,厚さを約10?50μ程度にするとよい。また,アクリル系の粘着剤を使用すると皮膚に対する刺激が少くて好ましい。この粘着剤層には,経皮吸収性,即ち経皮的に投与できる適宜の薬剤の所要量を混入したり,塗布したりして担持させることもできる。」(段落【0008】)

(c)「図8,図9に示すものは,剥離紙3を側縁部片31,31と中央部片32に分ける切線5,5の両端部に,剥離紙3,粘着剤層2を有する基材1及びキャリアシ-ト4を貫通する略V字の切り込み状の切取り案内部8を設けたものである。
このものは,上記したように剥離紙3の中央部片32,キャリアシ-ト4の側部片41,41と中央片42を場合に応じた適宜の順序で剥がして,患部等の皮膚表面に貼付けた後に,基材に張り残されている剥離紙の両側縁部片31,31を持ち,上記切線5によって形成された側縁部片31の内端辺を,上記基材1の端部から内側へ延びる略V字状の切取り案内部8に当て,これを案内として次第に内側に力を加えて行けば,この丈夫な側縁部片の内端辺によって,粘着剤層2を有する基材1の側縁部片31に張り付いている部分が切り取られて行くようになる。そして,これを切り取った後で側縁部片31とこれに張り付いていた基材1を棄てれば,所要の皮膚表面を基材できれいに覆うことができる。
こうした切取り案内部8は,上記した略V字状の切り込みの他,内側に延びる直線状の切り込みにすることもできる。この切取り案内部は,少くも粘着剤層を有する基材に設ければ足りることもあり,また,上記切線5の上に乗っておらず,そのやや内側や外側にずらした位置に設けても,上記と同様に充分に切り取ることができる。」(段落【0020】?【0021】)

3.対比・判断
引用例1には,請求項1及び2,段落【0020】?【0021】,【図3】並びに【図8】の記載からみて,シ-ト状の基材を有し,該基材の一面に粘着剤層を設け,該粘着剤層の表面を剥離紙で覆い,上記基材の他面にキャリアシ-トを仮着し,上記剥離紙には両側縁部と中央部を別個に剥がし得るような並行的な部片に分割した貼付材であって(請求項1;摘記(a)),上記粘着剤層を設けた基材には,上記剥離紙の両側縁部と中央部に分ける分割部分の近傍に,その両端部から内側へ延びる切取り案内部を設けた貼付材(請求項2;摘記(a))が,記載されており,その切り取り案内部として,切線5の両端部に,剥離紙3,粘着剤層2有する基材1及びキャリアシート4を貫通する略V字の切り込み状の切取り案内部8を設けること(【0020】;摘記(c))が記載されている。
したがって,引用例1には,以下の発明が記載されているものである。
「シ-ト状の基材1を有し,該基材1の一面に粘着剤層2を設け,該粘着剤層2の表面を剥離紙3で覆い,上記基材1の他面にキャリアシ-ト4を仮着し,上記剥離紙3には両側縁部と中央部を別個に剥がし得るような並行的な部片に分割した貼付材であって,上記粘着剤層2を設けた基材1には,上記剥離紙3の両側縁部と中央部に分ける分割部分の近傍に,その両端部から内側へ延びる切取り案内部として,剥離紙3の切線5の両端部に,剥離紙3,粘着剤層2有する基材1及びキャリアシート4を貫通する略V字の切り込み状の切取り案内部8を設けた貼付材」(以下,「引用発明」という。)
そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明における,側縁部片31と中央部片32とからなる剥離紙,剥離紙の上に設けられた切線5,及び,切線の両端に設けられた切取り案内部8は,それぞれ本願発明における「剥離フィルム」「剥離補助線」及び「切欠き」に相当する(摘記(a)及び(c)より)。また,引用例1には,「この粘着剤層には,経皮吸収性,即ち経皮的に投与できる適宜の薬剤の所要量を混入したり,塗布したりして担持させることもできる。」と記載されている(段落【0008】;摘記(b))ので,本願発明の「少なくとも一種の薬効成分を含む粘着剤層」という点でも差異があるものとすることができない。
そうすると,両発明は「被覆フィルムと少なくとも一種の薬効成分を含む粘着層とを備えた貼付剤であって,該貼付剤は更に除去可能の一つの剥離フィルムを備え,剥離フィルム上に距離を置いて配置した二つの切欠きを設け,前記剥離フィルム上に形成し,前記粘着層の上に伸びる一本の剥離補助線の一端がそれぞれ前記切欠きに位置するようにした,前記貼付剤。」である点で一致しており,以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明は,剥離フィルムが貼付剤よりも横に張り出していて,その張り出した剥離フィルムのみに二つの切欠きを形成し,1本の剥離補助線の一端がそれぞれの切欠きに位置するようにしているのに対して,引用発明では,剥離フィルムの張り出しがなく,剥離補助線の両端部に,剥離フィルム及び粘着層に貫通する切欠きが設けられていること。
[相違点2]
本願発明はキャリアシートがないのに対して,引用発明はキャリアシートがある点。

以下,相違点について検討する。なお,上記したように引用発明の「剥離紙」,「切線」及び「切り取り案内部」は,それぞれ本願発明の「剥離フィルム」,「剥離補助線」及び「切欠き」に相当し,また,引用発明の「基材」,「貼付剤」及び「粘着剤層」も,それぞれ本願発明の「被覆フィルム」,「貼付材」及び「粘着層」に相当するので,以下の検討に際しては,これら全ての用語については,本願発明の用語に統一することとする。

引用発明の貼付材は,剥離フィルムに張り出し部のないタイプのものであって,このようなタイプの貼付剤において,切欠きを剥離フィルムのみに設けた場合には,剥離フィルムとしての一部機能を損なうことになるので,そのようなことは,当業者にとっては,むしろ避けるべきことであるので,到底そのようなことを当業者がなし得ることとは考えられないものである。
また,引用発明において,キャリアシート4が被覆フィルムよりも大きく形成されていることから,仮に剥離フィルムについて周辺に張り出すタイプのものを想到し得たとしても,引用発明における切欠きの機能は,この部分に力を加え,剥離フィルムの一部である側縁部片31だけでなく,粘着層と被覆フィルムをともに切り取るためのものであることが理解できることから,たとえ張り出し部が設けられ,そこに切欠きが形成されたとしても,当該切欠きは,剥離フィルム,粘着層,及び被覆フィルムを貫通する構成であることが要求されるものであって,剥離フィルムのみに切欠きが設けられることはないということができる。
さらに,付け加えるならば,本願発明の切欠きは,製造工程上の要請に基づくものであるが,そこには,剥離フィルムとしての機能を損なうことなく,かつ,剥離補助線の機能をも損なうことがないように配慮されているものと理解することができ,そのようなことは,剥離フィルムが周囲に張り出しているタイプにおいて初めて可能となるものであって,引用発明のような剥離フィルムが粘着層と同じ大きさのタイプにおいては,剥離フィルムの機能を損なうことなく,しかも剥離補助線(切線)の機能をも損なうことなく,剥離フィルムに切欠きを設けようとすることは凡そ不可能ともいえるべきものであって,しかも何らメリットもないと考えられるものである。
したがって,引用発明において,剥離フィルムを横に張り出して,その張り出し部に切欠きを設けることは当業者と言えども,容易には想到し得ないものである。

上記したように,相違点1に関して,当業者が容易になし得たとできないものであるから,相違点2については検討するまでもなく,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることができない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし,また,同様に本願請求項2?11に係る発明についても,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないので,何れの請求項に係る発明についても特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとされるものではない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審決日 2009-09-24 
出願番号 特願平10-525207
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
穴吹 智子
発明の名称 平らな粘着性の薬効成分貼付剤  
代理人 本多 弘徳  
代理人 小栗 昌平  
代理人 市川 利光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ