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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1204432
審判番号 不服2006-23112  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 平成8年特許願第91437号「薬物含有脂肪乳剤」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月28日出願公開、特開平9-278673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成8年4月12日の出願であって、平成16年8月10日付け拒絶理由通知に対して平成16年10月18日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成18年9月6日付けで拒絶査定がなされ、平成18年10月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年11月9日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成21年3月10日付けで審尋が行われ、これに対し平成21年6月10日付けで上申書が提出された。

第2.平成18年11月9日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年11月9日付け手続補正を却下する。

[理由]
平成18年11月9日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正前の特許請求の範囲(平成16年10月18日付け手続補正書を参照。):
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 薬物(但し、ビタミンA及びEを除く。)、油成分、ヨウ素価が5以下のリン脂質からなる乳化剤および水を含有する脂肪乳剤からなる、薬物の血中滞留性向上化剤。
【請求項2】 ヨウ素価が5以下のリン脂質が、水素添加された卵黄レシチンまたは大豆レシチンであってヨウ素価が5以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の薬物の血中滞留性向上化剤。
【請求項3】 ヨウ素価が5以下のリン脂質が、下記一般式(I)?(VI)
【化1】

(式中、R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立して飽和脂肪酸残基を表す。)のいずれかで表されるグリセロリン脂質であることを特徴とする請求項1に記載の薬物の血中滞留性向上化剤。
【請求項4】 グリセロリン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリンまたはジミリストイルホスファチジルコリンであることを特徴とする請求項3に記載の薬物の血中滞留性向上化剤。」
を、以下の補正後の特許請求の範囲(平成18年11月9日付け手続補正書を参照。):
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 プロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤、油成分、ヨウ素価が5以下のリン脂質からなる乳化剤および水を含有する脂肪乳剤からなる、プロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤の血中滞留性向上化剤。
【請求項2】 プロスタグランジンがプロスタグランジンE_(1)であり、ステロイド系抗炎症剤がデキサメタゾンパルミテートである、請求項1に記載のプロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤の血中滞留性向上化剤。 【請求項3】 ヨウ素価が5以下のリン脂質が、水素添加された卵黄レシチンまたは大豆レシチンであってヨウ素価が5以下のものであることを特徴とする請求項1または2に記載のプロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤の血中滞留性向上化剤。
【請求項4】 ヨウ素価が5以下のリン脂質が、下記一般式(I)?(VI)
【化1】

(式中、R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立して飽和脂肪酸残基を表す。)のいずれかで表されるグリセロリン脂質であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤の血中滞留性向上化剤。
【請求項5】 グリセロリン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリンまたはジミリストイルホスファチジルコリンであることを特徴とする請求項4に記載のプロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤の血中滞留性向上化剤。」
に補正するものである。(下線部分が変更箇所である。)
上記補正は、補正前の請求項1について、発明特定事項である「薬物(但し、ビタミンA及びEを除く。)」を、「プロスタグランジンまたはステロイド系抗炎症剤」、及び「プロスタグランジンE_(1)またはデキサメタゾンパルミテート」にそれぞれ限定し、新たな請求項1と請求項2に分けたことによって、補正前の請求項1?4が、補正後は請求項1?5となって、請求項の数が増加したものであり、その結果、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係にないものとなった。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものには該当せず、また、請求項の削除、誤記の訂正、及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的としたものにも該当しない(東京高判平16.4.14平15(行ケ)230を参照)。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成16年10月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「薬物(但し、ビタミンA及びEを除く。)、油成分、ヨウ素価が5以下のリン脂質からなる乳化剤および水を含有する脂肪乳剤からなる、薬物の血中滞留性向上化剤。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭60-260511号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

<摘記事項A>
「水素添加レシチンを含有することを特徴とするエマルジョン製剤」(特許請求の範囲第1項)

<摘記事項B>
「軟膏剤、坐剤、クリーム等のエマルジョン製剤は、医薬品製剤技術の中で、古くから一つの有効な製剤技術として幅広く利用されているが、一方、近年では、静注用脂肪乳剤、脂溶性医薬の乳化製剤、また、人工血液乳剤などに代表されるように、ドラッグデリバリーシステムの一環として種々の目的の剤型が研究され注目をあびている。」(第1頁右下欄第2?8行)

<摘記事項C>
「また、注射剤では、薬物を溶解させた油を微粒子化し、静脈内で安全かつ効率的に所望の代謝経路へ投与できることを目的に作られている。・・・・近年では、代謝のリンパ指向性を利用し、制癌剤やプロスタグランジンの有効な、かつ副作用を軽減した製剤の開発も行なわれている。」(第1頁右下欄第15行?第2頁左上欄第1行)

<摘記事項D>
「エマルジョン製剤は言うまでもなく、その構成成分として薬物の他に水相、油相、そして界面活性剤の三つのものから成っており、・・・・」(第2頁左上欄第3?5行)

<摘記事項E>
「・・・・、レシチンを乳化剤としてエマルジョン製剤を作った場合、安全性という点では良いのであるが、逆に製剤の長期保存による変色、製剤自体が黄味を帯び、臭いがするなど安定性上の不安が生じた。
・・・・、上述の不安は、レシチンを水素添加すればよく、後述するごとく酸化安定性もよく、また、色、臭いのないレシチンを得ることができた。また、さらに注目に値するのは、従来レシチンは水素添加により乳化力がやや減退すると言われていたが、本発明者らの試験結果では、むしろ、ヨウ素価を低下させるほど乳化安定性がますことが判明した。」(第2頁右上欄第11行?同頁左下欄第4行)

<摘記事項F>
「本発明に用いるレシチンは、卵黄、大豆、とうもろこし、なたね等より抽出したリン脂質、または中性脂質を含むリン脂質ならばよい。」(第2頁左下欄第10?12行)

<摘記事項G>
「用いる水素添加レシチンのヨウ素価は、安定性、乳化性の点からも通常30以下、望ましくは10以下がよい。」(第2頁右下欄15?17行)

<摘記事項H>
「実験例
・・・・
表1に示すごとく、ヨウ素価が低いほど乳化安定性が増す結果となった。

表1 卵黄油を用いたエマルジョン基剤の安定性

未添加 部分水添 完全水添
(天然)
ヨウ素価 ※1 74 27 3
平均粒径 ※2 2.6 2.4 2.4
ゼータ電位 ※3 -44.5 -45.5 -51.2
乳化安定性 ※4 30日後 14.6 3.0 2.0
60日後 14.8 4.9 2.1
90日後 15.0 14.2 4.0

※1 g/100g,ヨウ素価はウイイス法による。
※2 μm,コールターカウンターによる。
※3 mV,電気泳動装置システム500による。
※4 cm,乳化安定性はエマルジョンをガラス管(30cm)中
20℃に静置し離水層の高さを測定した。

以上、水素添加レシチンをエマルジョン製剤に用いる効果は次のとおりである。
(1)天然のレシチンに比べ乳化力、乳化安定性が改良されたエマルジョン基剤ができる。
(2)・・・・・
(3)製剤調製時に、色素による製剤の着色退色が全くない。このためレシチンの添加量を自由に選べ、大幅にアップさせ、より強固なエマルジョンを作ることができる。」(第3頁左上欄第1行?同頁左下欄第8行)

<摘記事項I>
「実施例1
精製大豆油100gに水素添加精製卵黄レシチン〔ヨウ素価1(g/100g)リン脂質93.0%〕12gを90℃で溶解した。この液をホモミキサー10,000rpmで攪拌しながら、同温の精製水863gおよびグリセリン25gの混液を滴下しながら加え、一次乳化を行なった(30分)。次いで、マントンゴーリン型ホモジナイザーにより一次圧320kg/cm^(2)、二次圧60kg/cm^(2)にて、10回リサイクル乳化を行ない、安定な脂肪乳剤を調製した。」(第3頁左下欄第17行?同頁右下欄第7行)

<摘記事項J>
「実施例3
(油相)中鎖脂肪 200g
β-カロチン 1μg
α-トコフェロール 20mg
水素添加精製卵黄レシチン〔ヨウ素価
10、リン脂質99.1%) 20g
(水相)グリセリン 25g
精製水 755g
以上を実施例1の方法にしたがって、安定なビタミンA,E含有栄養高カロリー輸液を調製した。」(第4頁左上欄第5?14行)

3.引用例に記載された発明
引用例には、「水素添加レシチンを含有することを特徴とするエマルジョン製剤」が記載されており(摘記事項A)、当該エマルジョン製剤は、薬物を含有し油相と水相と乳化剤から成る脂肪乳剤を包含するものであり(摘記事項B?D,I)、油相には精製大豆油等の油成分が用いられ(摘記事項H?I)、水素添加レシチンは、リン脂質であって乳化剤であり(摘記事項E?F)、ヨウ素価が低いほど乳化安定性が増し、ヨウ素価が10以下ものが望ましく(摘記事項E?H)、ヨウ素価3や1の水素添加レシチンを用いた具体例も記載されている(摘記事項H?I)。

以上によれば、引用例には、
「薬物、油成分、ヨウ素価が3又は1のリン脂質からなる乳化剤及び水を含有する脂肪乳剤。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「ヨウ素価が3又は1のリン脂質からなる乳化剤」は、本願発明の「ヨウ素価が5以下のリン脂質からなる乳化剤」に包含されるから、両者は、
「薬物、油成分、ヨウ素価が5以下のリン脂質からなる乳化剤および水を含有する脂肪乳剤」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明は、薬物から「ビタミンA及びEを除く」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(相違点2)
本願発明は、脂肪乳剤からなる「薬物の血中滞留性向上化剤」であるのに対し、引用発明は、そのような特定をしていない点。

5.判断
上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
引用例には、エマルジョン製剤の実施例として、ビタミンA,E含有栄養高カロリー輸液が記載されているが(摘記事項J)、引用例に記載のエマルジョン製剤が含有する薬物は、ビタミンA及びEに限定されているわけではなく、引用例には注射剤として制癌剤やプロスタグランジンのエマルジョン製剤が開発されていることも記載されていることから(摘記事項C)、引用発明の脂肪乳剤には、薬物としてビタミンA及びE以外のものも含まれることは明らかである。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
一般的に薬物を含有する脂肪乳剤において、水溶液製剤と比較して薬物の血中滞留性向上が求められることは、本願出願前に当業者に周知であったと認められる(例えば、国際公開第95/25764号の第4頁第14?18行、特開昭57-16818号公報の第4頁右下欄第1?2行、特開平3-176425号公報の第2頁右上欄第18行、特開平4-173736号公報の第4頁右下欄第1行、特開平4-360824号公報の【0003】?【0004】、特開平7-196510号公報の実験例1、5、図1、3、特開平2-203号公報の第2頁右下欄第12行を参照)。
そうすると、引用発明の脂肪乳剤についても、薬物の血中滞留性が良好なものであるか確認することは、当業者が当然に行うことであり、血中滞留性についての確認試験をすることも格別の困難を伴うものではないから、当該脂肪乳剤についても、血中滞留性が向上化した剤であることを見出すことは、当業者にとって容易である(東京高判平17.3.3平16(行ケ)259を参照)。
また、引用発明の脂肪乳剤は、ヨウ素価が低い水素添加レシチンを用いることによって、乳化安定性が向上し、より強固なエマルジョンが形成されたものであるから(摘記事項E,G,H)、そのようなエマルジョンが、血中において分解されにくく滞留性が向上することも、当業者ならば予測し得ることであるといえる。

6.小括
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成21年6月10日付け上申書において、本願の当初明細書に記載されていた実施例4に基づいて、特許請求の範囲を次のように減縮する補正案を提示し、補正を行う機会を求めているが、以下の(1)及び(2)の理由により、その要請は受け入れられない。
「[請求項1] 薬物(但し、ビタミンA及びEを除く。)、油成分、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロールおよび水を含有する脂肪乳剤からなる、薬物の血中滞留性向上化剤。」

(1)特許法では、拒絶査定不服審判の請求に際して補正できる期間を定めているから、それ以上の補正の機会を与えることは、法律の規定するところではない。

(2)仮に、上記補正案を検討したところで、ジパルミトイルホスファチジルコリンは脂肪乳剤の乳化剤として用いられる周知のリン脂質の一つであり、コレステロールも脂肪乳剤に添加される周知の安定化剤に過ぎない(例えば、特開昭59-122423号公報(原査定の拒絶理由の引用文献2)の第3頁左下欄第6?8行、特開昭63-264517号公報(原査定の拒絶理由の引用文献3)の第4頁右上欄第5?7行、特開平4-253907号公報(原査定の拒絶理由の引用文献4)の段落【0013】、国際公開第91/7964号(原査定の拒絶理由の引用文献5)の第5頁第15?16行及び第6頁第8?12行、国際公開第95/25764号の第14頁下4?1行及び第21?25頁(製造例1?12)、特開昭57-16818号公報の請求項4及び実施例3、特開平3-176425号公報の第4頁左上欄第10?11行及び同頁右上欄第10?14頁、特開平4-173736号公報の第3頁右下欄第4行及び第4頁左上欄第4?8行、特開平2-203号公報の第4頁右上欄第15?16行を参照)から、引用例に記載の脂肪乳剤において、乳化剤であるリン脂質として周知のジパルミトイルホスファチジルコリンを用い、周知の安定化剤であるコレステロールを添加することは、当業者ならば容易になし得ることであるといえる。
ところで、審判請求人は上記上申書において、ジパルミトイルホスファチジルコリンとコレステロールとを組み合わせることにより、ジパルミトイルホスファチジルコリンを単独で用いる場合と比較して格別顕著な薬物の血中滞留性向上効果を奏することを、比較試験データを示して主張しているが、本願明細書には、ジパルミトイルホスファチジルコリンとコレステロールとの組み合わせの選択的な技術的意義について何ら記載されていないし、実施例4の脂肪乳剤については、血中滞留性等の試験例も記載されていなかったため、請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づくものではなく、採用することはできない。
よって、上記補正案があっても、上記容易性の判断に影響を与えるものではない。

第4.結語
以上のとおりであるから、請求項1以外の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-23 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-10 
出願番号 特願平8-91437
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 井上 典之
内田 淳子
発明の名称 薬物含有脂肪乳剤  
代理人 高島 一  

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