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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1204467
審判番号 不服2007-28894  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-24 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 平成 9年特許願第116888号「太陽電池モジュール用保護シート」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月17日出願公開、特開平10-308521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年5月7日の出願であって、平成19年9月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月22日に手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項に係る発明は、平成19年11月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「太陽電池モジュールの保護層として用いる、表面に真空蒸着法により珪素酸化物薄膜が形成されたフッ素樹脂フィルム層を含むシートであって、該シートの酸素透過率が5cc/m^(2)・day・atm以下、水蒸気透過率が5g/m^(2)・day以下、光線透過率が80%以上であり、上記フッ素樹脂フィルム層が、厚みが10?100μm、厚み精度がフィルムの幅方向及び流れ方向において各々±20%以下、130℃での熱収縮率が5%以下、80℃で50g/10mmでの引張伸び率が10%以下であり、且つ、珪素酸化物薄膜の厚みが150?400Åであり、該膜の密着強度が200g/15mm以上であることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シート。」

2.刊行物記載の発明
原査定において引用された特開平7-202236号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光入射面側にフッ素フィルムを被覆材として使用し、その被覆材フィルムの表面に防湿用けい素酸化物層をもうけた太陽電池モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】太陽電池は有用なエネルギー資源としての太陽エネルギー利用の面から鋭意研究され実用化が進んでいる。各種の太陽電池の中で、アモルファスシリコンや化合物半導体を用いた屋外設置用大面積太陽電池は製造コストの低減と軽量化が大きな課題となっている。この課題を解決するため光電変換セルの表面を被覆し、長期に亘る過酷な暴露環境下においても、セルを保護する被覆材の種類及び構造の研究が最も重要な項目である。さらに、軽量化を実現する為に、被覆材料にプラスチック基材が好んで用いられてきた。」

(2)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは上記の問題点すなわち、フッ素系プラスチック素材の本来性である高透明性、高耐候性を損うことなく防湿性を高めると同時に接着性も改善することに成功した。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らはフッ素系プラスチック素材の表面にけい素酸化物ならびにアルカリ金属、アルカリ土類金属、マグネシウム、ベリリウムのフッ化物の中から選ばれる一種または二種以上である金属フッ化物から構成される薄膜を付加することにより水蒸気遮断性を高めることに成功した。またこの薄膜は主体が金属酸化物であるため公知の接着剤で容易に他の素材と接着することができるので上記の問題点を同時に解決でき発明を完成することができた。更に具体的に本発明を説明する。図1は本発明による太陽電池モジュールの概念図である。10の光電変換素子は12の接着層により11の裏面カバーと13の本発明による薄膜層を有する14のフッ素系プラスチック基板によりサンドイッチ状にラミネート接着されている。
【0007】本発明に使用する10の光電変換素子は既に公知のアモルファスシリコンや化合物半導体などから公知の方法で製造された素子を用いる。11の裏面カバーとしてはステンレス板などの金属板が主として使用されるが、光入射面と同様に13の本発明による薄膜層を有する14のフッ素系プラスチック素材を使用することもできる。12の接着層は酢酸ビニルエチレン共重合体(EVA)樹脂・・・(中略)・・・その他接着性ポリオレフィン樹脂が使用できる。・・・」

(3)「【0012】
【実施例】実施例により本発明を更に詳しく説明する。
実施例1
厚さ25μのETFEフィルム(ダイキン株式会社製)に真空蒸着法を用い、一酸化けい素とフッ化マグネシウムの9対1(重量比)の混合物を蒸着し、500オングストロームの薄膜を付着させた。このフィルムの光透過率を測定したところ未処理フィルムと比較し全く低下は認められなかった。水蒸気遮断性を評価した結果透湿度0.8g/m^(2)日であり蒸着処理を施さなかった状態の10分の1であった。またこの蒸着面にEVA樹脂を100μの厚さにエクストルジョンコーティングしEVA樹脂と蒸着膜の接着強度を測定した結果、フィルムの凝集強度以上の強度を有し剥離不能であった。」

(4)上記記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。

「厚さ25μのETFEフィルムに、真空蒸着法を用いて、一酸化けい素とフッ化マグネシウムの混合物を蒸着し、500オングストロームの薄膜を付着させてなるフィルムであって、このフィルムの光透過率を測定したところ未処理フィルムと比較し全く低下は認められず、水蒸気遮断性を評価した結果透湿度が0.8g/m^(2)日であり、蒸着面にコーティングされたEVA樹脂と蒸着膜との接着強度がフィルムの凝集強度以上である、太陽電池モジュールにおける光電変換セルの表面を被覆し、長期に亘る過酷な暴露環境下において前記光電変換セルを保護する機能を有するフィルム。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを以下に対比する。

(1)引用発明の「ETFEフィルム」、「光透過率」および「透湿度」は、それぞれ本願発明の「フッ素樹脂フィルム層」、「光線透過率」および「水蒸気透過率」に相当する。
そして、引用発明の「ETFEフィルム」の厚みが25μであることから、引用発明は、本願発明の「フッ素樹脂フィルム層が、厚みが10?100μm・・・であり」との構成を備えているといえる。

(2)引用発明の「フィルム」は、「太陽電池モジュールにおける光電変換セルの表面を被覆し・・・前記光電気変換セルを保護する機能を有する」のであるから、本願発明の「『太陽電池モジュールの保護層として用いる』『太陽電池モジュール用保護シート』」に相当することは明らかである。

(3)引用発明の「薄膜」は、一酸化けい素とフッ化マグネシウムの混合物を真空蒸着法を用いて、ETFEフィルムに形成されるものである。
したがって、引用発明の「薄膜」と、本願発明の「珪素酸化物薄膜」とは、フッ素樹脂フィルム層の表面に真空蒸着法により形成され、珪素酸化物を含む薄膜である点で一致する。

(4)上記(1)?(3)によれば、両者は、
「太陽電池モジュールの保護層として用いる、表面に真空蒸着法により珪素酸化物を含む薄膜が形成されてなるフッ素樹脂フィルム層を含むシートであって、前記フッ素樹脂フィルム層の厚みが10?100μmである太陽電池モジュール用保護シート。」である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
保護シートについて、本願発明では、酸素透過率が5cc/m^(2)・day・atm以下、水蒸気透過率が5g/m^(2)・day以下、光線透過率が80%以上であるのに対して、引用発明では、本願発明と同一の測定方法で測定した時の、酸素透過率、光線透過率および水蒸気透過率が明らかでない点。

[相違点2]
フッ素樹脂フィルム層について、本願発明では、厚み精度がフィルムの幅方向及び流れ方向において各々±20%以下、130℃での熱収縮率が5%以下、80℃で50g/10mmでの引張伸び率が10%以下であるのに対して、引用発明では、厚み精度、熱膨張率、引張伸び率いずれも明らかでない点。

[相違点3]
フッ素樹脂フィルム層の表面に形成されてなる薄膜について、本願発明では、厚みが150?400Å、密着強度が200g/15mm以上の珪素酸化物薄膜であるのに対して、引用発明では、一酸化けい素とフッ化マグネシウムの混合物を蒸着した500オングストロームの薄膜であり、密着強度が明らかでない点。

4.判断
便宜上、相違点2から検討する。
(1)[相違点2]について
ア.フッ素樹脂フィルム層の厚み精度、熱収縮率および引張伸び率に上限値を設定したことの技術的意義について検討するに、本願明細書には次のような記載がある。

「【0008】フッ素樹脂フィルムとしては、保護シートの製造方法における種々の因子の影響があり限定的なものではないが、好ましくは、フィルム厚みが10?100μm、厚み精度がフィルムの幅方向及び流れ方向において各々±20%以下、130℃での熱収縮率が5%以下、80℃で50g/10mmでの引張伸び率が10%以下の物性を有するものであり、・・・(中略)・・・。所望のフィルム強度を得るためにはフィルム厚みを通常上記の範囲とする必要がある。また、シート化した際の高いガスバアリア性や層間の高密着性を発現するためには厚み精度に特に留意する必要があり、厚み精度低下はフィルムの巻じわ増加を意味し、シート物性を顕著に低下させる。更に、熱収縮率や引張伸び率が大きいと保護シートのしわや亀裂の原因となりやすく、シート物性の低下を招く。」(下線は審決にて付与した。)

イ.上記記載(特に、下線部)は、厚み精度、熱収縮率および引張伸び率について、シートとして通常求められる特性を単に規定した以上のものではなく、しわや亀裂の発生を抑制するという効果も技術常識に照らして予想外のものとはいえないから、相違点に係る各物性値の上限値を本願発明のように設定することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)[相違点3]について
ア.珪素酸化物薄膜の厚みを150?400Åとした点について
本願明細書の【表-1】に記載された実施例1と比較例3とは、珪素酸化物薄膜の膜厚が、前者では300Åであるのに対して、後者では800Åである点においてのみ相違している(段落【0022】および【表1】参照。)から、珪素酸化物薄膜の膜厚の上限値が臨界的意義を有しているか否かは、本願明細書等の記載および技術常識からみて明らかとはいえない。
加えて、珪素酸化物薄膜の厚みを大きくすると酸素透過率や水蒸気透過率等は良好となる(低下する)が、全光線透過率は悪化(低下する)することは、技術常識に照らして自明であるから、引用発明において、各物性値を調整するために珪素酸化物薄膜の厚みを調整し、本願発明に規定された上記数値範囲となすことは当業者が容易になし得たことである。

イ.珪素酸化物薄膜の密着強度を200g/15mm以上とした点について
密着強度の測定方法に関して、本願明細書には次の記載がある。
(ア)「【0019】(5)珪素酸化物薄膜の密着強度評価蒸着フィルムの蒸着面に接着剤として、東洋モートン(株)社製のウレタン系接着剤(ADー900:AD-RT5=10:1.5の混合物)を塗布して、厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルム(東京セロファン紙(株)製、TUX-TC)をドライラミネートし、60℃で3日間エージングした。次いで、この積層フィルムを幅15mm、長さ100mmの短冊状に切りだして試験片とした。
【0020】試験片の蒸着フィルムと低密度ポリエチレンフィルムとの界面の一端を予め50mm剥離させて、両剥離面をそれぞれオートグラフ(JIS K7127に準じる試験装置、島津製作所(株)製のDSSー100)の固定つかみ具と可動つかみ具とに、つかみ具間距離100mmで取り付けて、可動つかみ具を引張り速度300mm/分で60mm移動させ、この間にひずみ計に記録させた引張荷重の波状曲線の中心線の値を求め、試験片3本における平均値を密着強度(単位:g/15mm)とし、以下の判定を行った。
(判定)○:>200g、△:100?200g、×:<100g」

(イ)上記記載によれば、本願発明における珪素酸化物薄膜の密着強度とは、当該薄膜とその上に形成された接着剤との密着強度と解されるから、引用発明において、これに対応する物性値は「EVA樹脂と蒸着膜の接着強度」に他ならない。

(ウ)ところで、引用発明の「EVA樹脂と蒸着膜の接着強度」は「フィルムの凝集強度以上」とされていることから、当該接着強度は大きければ好ましいとの技術思想が引用発明に存在することは明らかである。
以上によれば、引用発明において、接着強度を本願発明のように設定することは当業者が容易になし得たことである。

ウ.膜成分について
本願明細書の段落【0010】の記載によれば、本願発明の「珪素酸化物薄膜」は、酸化珪素単独のものでもよいと認められるところ、太陽電池を保護するためのフィルムとして、フッ素系透明樹脂にケイ素酸化物単独からなる薄膜を形成したフィルムを用いることは周知(例えば、特開平4-239634号公報(請求項2、【0013】参照。)、特開平4-99165号公報(特許請求の範囲第3項、第4頁右上欄の実施例1参照。))であるから、引用発明において「珪素酸化物を含む薄膜」の膜成分を、ケイ素酸化物単独とすることは当業者が適宜なし得る設計事項である。

(3)[相違点1]について
ア.太陽電池モジュール用保護シートに求められる物性として、酸素透過率、水蒸気透過率が低いこと、光線透過率が高いことが望ましいことはいずれも技術常識(例えば、引用例1(上記「2.c.」参照。)、特開平4-99165号公報(透湿度や酸素透過率について、第4頁左上欄1行?6行参照。)、特開平7-74378号公報(酸素透過率および防湿性について、請求項4、段落【0003】参照。)、および特開平4-239634号公報(透湿度や透明性について、段落【0026】?【0027】参照。))である。

イ.そして、太陽電池モジュール用保護シートを構成する部材、フッ素樹脂フィルム層、珪素酸化物薄膜について、厚みや接着強度等の各種物性値を調整することによって、上記アの物性を調整できることは当業者に自明であるから、引用発明の太陽電池モジュール用保護シートにおいて、上記アの酸素透過率および水蒸気透過率について上限値を、光線透過率について下限値をそれぞれ設定することは当業者が容易になし得たことである。

(4)したがって、本願発明は、引用発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-22 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-13 
出願番号 特願平9-116888
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 里村 利光
吉野 公夫
発明の名称 太陽電池モジュール用保護シート  
代理人 大谷 保  

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