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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服20062586 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1204896
審判番号 不服2005-6432  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-11 
確定日 2009-10-07 
事件の表示 平成 7年特許願第503833号「難溶性活性物質のための医薬製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月19日国際公開、WO95/01786、平成 8年12月24日国内公表、特表平 8-512303〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成6年7月8日(優先権主張1993年7月8日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成21年3月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、以下のとおりのものである。

「キャリヤー組成物中の,ラパマイシン及びタクロリムスから成る群から選択される医薬活性物質を可溶化するための医薬組成物であって、前記キャリヤー組成物が、
a)キャリヤー組成物に対して10?50重量%の、親水性と親油性のバランス(グリフィンによるHLB値)が10未満で、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルの群から選ばれた実質的に純粋な又は混合物として存在する補界面活性剤;
b)キャリヤー組成物に対して5?40重量%の,実質的な親油性成分としてトリグリセリドを含む,実質的に純粋な又は混合物として存在する医薬として慣用されている油;及び
c)キャリヤー組成物に対して10?50重量%の、HLB値が10より高い実質的に純粋な又は混合物として存在する15?60個のエチレンオキシド単位からなる親水性構成成分をもつノニオン界面活性剤の成分;並びに、必要に応じてさらに、医薬として認められる助剤;
を含むことを特徴とする組成物。」

2.引用例の記載の概要
当審が通知した拒絶の理由において特開昭53-72814号公報(以下、引用例Aという。)、特開平2-255623号公報 (以下、引用例Bという。)、特開昭62-215592号(以下、引用例Cという)、特開平4-211012号公報(以下、引用例Dという。)が引用された。以下、引用例A、Bについてその記載事項の概要を摘記する。

<引用例A>
(1) 1.単位用量の製薬学的活性成分および自己乳化性オイルより成る製薬学的組成物。
11.該自己乳化性オイルが、オイル成分および表面活性成分より成ることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載の製薬学的組成物。
13.該オイル成分が・・多価アルコールとのエステル・・・より成ることを特徴とする、特許請求の範囲第11項記載の製薬学的組成物。
15.該エステルが脂肪酸のトリグリセリドを包含することを特徴とする、特許請求の範囲第13項記載の製薬学的組成物。(特許請求の範囲)
(2) ところで本発明によれば、有利に薬剤は、自己乳化性オイルより成るキャリヤと一緒に投与されうることが判明した。(3頁右上欄11?13行)
(3) 一般に、本発明の組成物で使用される自己乳化性オイルは、2つの成分、すなわちそのそれぞれが成分の混合物であることができるオイルまたは溶剤成分および表面活性または乳化性成分より成る。・・・・ この油状成分は水と混和せざる疎水性オイルであり、かつ多数の種類の無毒性オイルが、本発明組成物の自己乳化性オイルの油状成分として使用されることができる。従って、該オイルは、……高級脂肪酸のトリグリセリドを包含し、かつこれらは、天然のオイル、例えば、胡麻油、ココ椰子油、分別化ココ椰子油および、商標名ミグリオール……のような、商業的に使用可能な精製植物油から誘導された純粋なエステルまたは精製もしくは半精製トリグリセリドより成ることができる。(3頁右下欄2行?4頁左上欄4行)
(4) 自己乳化性オイルの他の成分は表面活性成分であり、かつこれは、唯一の表面活性剤または、2種またはそれ以上の表面活性剤の混合物より成ることができる。表面活性剤として、1種またはそれ以上の非イオン性表面活性剤を使用するのが有利であると判明した。……適当な非イオン性表面活性剤は、高級脂肪酸とソルビタンとより成るエステル(例えばソルビタンモノオレエート;スパン(Span)80)、このようなエステルのポリエトキシ化誘導体(例えばポリソルベート(Polysorbate)80)、1分子当り平均エチレンオキシ基数20を有するポリエトキシ化ソルビタンモノオレエートを包含する。(4頁左上欄8行?右上欄3行)
(5) 勿論、自己乳化性オイルの成分は、自己乳化性組成物を得ることができる量で存在させる必要がある。オイル成分対表面活性成分の相対的割合を、自己乳化性オイルを得ることを要する任意のそれぞれの場合に一般化することは不可能である。それというのもこれが、オイル成分および表面活性成分の特性に依存するからである。しかしながら、任意のそれぞれの組成が十分な自己乳化性を有するかまたは有しないかを確定することは簡単な実験の問題であり、・・いわゆる”CIPAC”試験が使用されることができる。(4頁右上欄13行?左下欄4行)
(6) 良好な自己乳化特性が得られる組成の範囲は、オイル成分または表面活性成分の特性に極めて大きく依存する。同様にまた、医薬をこの系に含有させると、良好な自己乳化特性が得られる範囲が変動することが注目される。また、当然、本発明の組成物は製薬学的に活性な物質を含有し、この条件は、合成または半合成的に製造された製薬学的に活性な化合物だけでなく、天然の原料から誘導された製薬学的に活性な物質にも適用されることが予定される。
殊に本発明の組成物は、相対的に水に不溶性の製薬学的活性物質(以下単に医薬と呼称する)を投与するのに適当である。従って有利に、本発明の組成物は極めて多数の種類の医薬を含有することができ、かつ単なる実施例としてではあるが、デキサメタゾン・・のようなステロイド系医薬、グリゼオフルビンのような抗真菌剤、ジアゼパム・・のような精神安定剤および鎮痛剤、フルスイミドのような利尿剤、インドメタシン、インシュリンのような抗炎症および鎮痛剤、および親油性ペニシリンのような抗生物質が挙げられる。(5頁左上欄7行?右上欄11行)
(7) 本発明の製薬学的組成物中に存在する医薬は、その中に溶解および/または懸濁されていることができ、その場合有利に該医薬は微細に分配された状態である。・・・本発明の組成物の効力は、胃液のような生理学的水性液と接触し、医薬を含有する自己乳化性オイルが該液体中で分散または乳化されるに至り、かつそれにより、吸収に役立つ組成物表面積が大巾に増大する事実によると考えられる。
前記せるように殊に本発明の組成物は、軟質弾性のゼラチンカプセル中に含有せる単位剤形で投与されるのに適当である。(5頁右上欄12行?左下欄4行)
(8) 図面及び図面の説明において、分別化ココ椰子油/ポリソルベート80/モノオレエート系の3成分系図表(第6図)、ミグリオール812/ポリソルベート80/ソルビタンモノオレエート系の3成分系図表(第8図)及び胡麻油/ポリソルベート80/ソルビタンモノオレエート系の3成分系図表(第9図)が示され、図中の2’はトウイーン80、3’はスパン80であることが示されている。(4頁右下欄10?18行、6頁右上欄10行?左下欄5行及び7頁の図)

<引用例B>
(9) シクロスポリン類は高い疎水性を特徴としていること。(4頁右上欄9?10行)
(10) (a)有効成分としてのシクロスポリンを、
(b)脂肪酸トリグリセリド、
(c)グリセリン脂肪酸部分エステルまたはプロピレングリコールまたはソルビトール完全または部分エステル、および
(d)少なくとも10のHLBを有する界面活性剤
から成る担体媒質中に含む医薬組成物……。(特許請求の範囲の請求項1)
(11)特に、この発明による組成物は、吸収/生物学的利用能レベルを同時に高め、および/または、シクロスポリン療法を受けている個々の患者において、および個体間の両方に関して達成される吸収/生物学的利用能レベルの変動を低下させる有効なシクロスポリン投与を可能にすることが見出された。・・・この発明の組成物は、処置される対象の胃腸管における天然界面活性成分、例えば胆汁酸または塩類の相対的生物学的利用能に対する依存性が全く無いか、または実質的に低減化した形で、シクロスポリンの吸収を可能にすることが見出された。この発明の教理を適用することにより、用量間および個体間で達成されるシクロスポリン血液/血清レベルの変動を低下させるシクロスポリン用量形態が得られる。7頁右上欄14行?左下欄8行)(12)さらにこの発明の組成物は、・・・改善された安定性を呈し、特に例えばカプセル、例えばゼラチン硬または軟カプセル形態としての製剤化により適合したものである。エタノール不含有または実質的不含有であるこの発明の発見による組成物は、例えばゼラチン軟カプセル封入形態の包装に関して例えば先に述べた、包装上の問題点を排除または実質的に低減化させるという特別な利点を有する。(7頁右下欄6?15行)

イ、対比・判断
引用例Aには、相対的に水に不溶性の製薬学的活性物質(単に「医薬」ともいう。)を投与するための単位用量の製薬学的活性成分及び自己乳化性オイルより成る製薬学的組成物が記載され、その自己乳化性オイルは、オイル又は溶剤成分及び表面活性又は乳化性成分よりなること(上記 (3))、その具体例として分別化ココ椰子油、胡麻油、ミグリオール812を各々オイル成分とし、ポリソルベート80(なお、第6,8,9図の2’のトウィーン80とポリソルベート80は同一物質である。)及びスパン80を含有させた自己乳化性オイル(上記 (8))が示されている。この3成分よりなる自己乳化性組成物を以下、「引用発明」という。

引用発明の自己乳化性組成物は医薬のキャリヤーであって、相対的に水に不溶性の医薬を可溶化するための医薬組成物であるといえる。
また、分別化ココ椰子油、胡麻油、ミグリオール812は医薬製剤によく用いられるトリグリセリドであり、ポリソルベート80(HLB15)は、本願明細書中でも10以上のHLBを有するノニオン界面活性剤としてあげられている「POE-(20)-ソルビタンモノオレエート」の商品名であり、20個のエチレンオキシド単位からなる親水性構成成分をもつノニオン界面活性剤である。さらに、スパン80(HLB4.3)も本願明細書中でHLBが10以下のソルビタン脂肪酸エステルとして挙げているソルビタンモノオレエートの商品名である。

そこで、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「キャリヤー組成物中の、医薬活性物質を可溶化するための医薬組成物であって、前記キャリヤー組成物が、
a)HLB値が10未満のソルビタン脂肪酸エステルである実質的に純粋な又は混合物として存在する界面活性剤、
b)実質的な親油性成分としてトリグリセリドを含む、医薬として慣用されている油
c)HLB値が10より高い実質的に純粋な又は混合物として存在する20個のエチレンオキシド単位からなる親水性構成成分をもつノニオン界面活性剤を含む組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
可溶化される医薬活性物質が、前者はラパマイシン及びタクロリムスから成る群から選択されると限定しているのに対して、後者は特に限定していない点。
・相違点2
キャリヤー組成物のa)、b)及びc)成分のキャリヤー組成物に対する配合割合をそれぞれ10?50重量%、5?40重量%、10?50重量%と限定しているのに対して、後者ではこの特定がされていない点。

そこで、相違点について以下検討する。

・相違点1について
引用例Aには、自己乳化性オイルに含有させることができる医薬活性物質としては合成または半合成的に製造された製薬学的に活性な化合物、天然の原料から誘導された製薬学的に活性な物質が予定されること、殊に相対的に水不溶性の医薬が適当であるとされ、薬効及び化学構造に格別関連性がない各種の医薬が具体的に列挙され(摘記(6))、当該組成物を使用して軟質ゼラチンカプセルが製造可能であることが開示されている(摘記(7))。
これらの記載は、引用例Aの自己乳化系が、相対的に水不溶性の医薬活性物質に普遍的に使用可能であり、該医薬活性物質の経口用ゼラチンカプセル製剤化に有用なキャリアとなることを当業者が理解するに十分なものである。
一方、ラパマイシンやタクロリムスは何れも水難溶性のマクロライド系抗生物質であることはよく知られており(ラパマイシンは水に20μg/mlしか溶解しないことは引用例C(3頁左上欄)に、FK506の水に対する溶解性は常温下3μg/mlであることは引用例D(段落【0024】)に記載されている。)、これらの薬物は注射によっても投与されるが、通常、注射よりも経口投与剤のほうが患者にとってコンプライアンスが良いことは当業者のよく知るところであり、引用例Aに例示の水不溶性医薬の外、シクロスポリン、アセトアミノフェン、塩酸メクリジンなどの例(引用例B、特開昭63-33324号公報、特開昭63-130535号公報)にも見られるように、難溶性の医薬活性物質をオイルと界面活性剤を含有する基剤とともに軟カプセルに封入し、経口投与剤とすることは当業界における常套の手段である。
そうすると、水不溶性の医薬活性成分のためのキャリヤ-であり、コンプライアンスが良く、かつ吸収性の問題もない軟化カプセル製剤の製造を可能にする引用発明の組成物に含有させる医薬活性成分として、水難溶性の医薬活性物質であるラパマイシンやタクロリムスは、当業者が容易に想起する範囲のものである。

・相違点2について
引用例Aには、自己乳化性オイルの配合割合は、オイル成分と表面活性成分(界面活性剤と同義)の特性に依存するほか、溶解させる医薬の種類によっても自己乳化性が得られる組成範囲は変化する(摘記(6))が、自己乳
化性の有無については簡単な実験の問題であり、”CIPAC”試験により容易に決定可能(上記 (5))であるとされているのであるから、ラパマイシンやタクロリムスを配合するにあたり、これらに適したオイル成分と界面活性成分の配合割合の範囲を決定することにも格別の困難性を見いだすことはできない。
そして、本願発明の溶解性、吸収能力、バイオ有効性の増進などの効果にしても、引用例Aの「本発明の組成物の効力は、胃液のような生理学的水性液と接触し、医薬を含有する自己乳化性オイルが該液体中で分散または乳化されるに至り、かつそれにより、吸収に役立つ組成物表面積が大幅に増大する事実によると考えられる。」(上記 (7))との記載から、当業者が十分に予測することができるものである。

したがって、本願発明は、引用例A?Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-27 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願平7-503833
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 内田 淳子
穴吹 智子
発明の名称 難溶性活性物質のための医薬製剤  
代理人 福本 積  
代理人 西山 雅也  
代理人 鶴田 準一  
代理人 樋口 外治  
代理人 石田 敬  

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