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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1204943 |
審判番号 | 不服2008-5537 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-03-06 |
確定日 | 2009-10-08 |
事件の表示 | 特願2002-103355「静電潜像の測定方法および測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月15日出願公開、特開2003-295696〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成14年4月5日の出願であって、平成19年1月29日付けで通知された拒絶理由に対して、同年4月2日付けで手続補正書が提出され、続いて同年6月12日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して同年8月20日付けで手続補正書が提出されたが、平成20年1月24日付けで、平成19年8月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたものであって、これに対して、平成20年3月6日付けで審判請求がなされるとともに、同年4月7日付けで手続補正書が提出され、その後、平成21年5月8日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出されたものである。 第2.平成20年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年4月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 平成20年4月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年4月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲を以下のように補正しようとする補正事項を含む。 (補正前) 「【請求項1】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する方法であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内で、試料面を荷電粒子ビームで走査し、試料に対して帯電させるとともに、検出試料上に電荷分布による静電潜像を生成させることを特徴とする静電潜像測定方法。 【請求項2】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する方法であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内で、試料面を荷電粒子ビームで走査して試料に対して帯電させ、これを露光光学系で露光させ電荷分布による静電潜像を生成させることを特徴とする静電潜像測定方法。 【請求項3】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する装置であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内に、試料に電子ビームを照射することにより試料に対して帯電させる手段と、露光させるための光学系手段とにより電荷分布による静電潜像を生成させる手段を有することを特徴とする静電潜像測定装置。 【請求項4】 試料に対して帯電させる手段は、試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で電子ビームを照射することにより試料をマイナス帯電させるものである請求項3記載の静電潜像測定装置。 【請求項5】 2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で電子ビームを照射することにより試料をマイナス帯電させる手段と、2次電子放出比が1となる加速電圧で試料を観察する手段を有する請求項3記載の静電潜像測定装置。 【請求項6】 荷電粒子ビームの走査領域内に既知となる参照電位を配置し、この参照電位の2次電子信号強度と測定試料の信号強度を比較することにより、電位量を算出する手段を有することを特徴とする請求項3、4または5記載の静電潜像測定装置。 【請求項7】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面の静電潜像を測定する方法において、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内で、試料を移動させながら試料面に荷電粒子ビームを照射し、試料に対して帯電させるとともに、試料面の静電潜像を測定することを特徴とする静電潜像の測定方法。 【請求項8】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面の静電潜像を測定する方法において、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内で、試料を移動させながら試料面に荷電粒子ビームを照射し、試料に対して帯電させ、これを露光光学系で露光させ荷電分布を有する試料を移動させながら試料面の静電潜像を測定することを特徴とする静電潜像の測定方法。 【請求項9】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により、試料面の静電潜像を測定する装置において、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内に、電荷分布を有する試料を移動させながら、上記荷電粒子ビームを照射することによって試料に対して帯電させる手段、および試料面の静電潜像を測定する手段を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。 【請求項10】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により、試料面の静電潜像を測定する装置において、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる感光体であり、 荷電粒子ビームを走査する装置内に、試料に上記荷電粒子ビームを照射することによって試料に対して帯電させる手段と、静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、電荷分布を有する試料を荷電粒子ビーム照射位置に移動させて測定する測定手段を有することを特徴とする静電潜像の測定装置。」 (補正後) 「【請求項1】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する方法であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体であり、 内部が真空の装置内で、試料面をこの試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査することで、試料を所望の電位にマイナス帯電させ、 この所望の電位にマイナス帯電した試料を、上記装置内において光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成し、 この潜像パターンを、生成した直後に測定することを特徴とする静電潜像測定方法。 【請求項2】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する方法であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体であり、 内部が真空の装置内で、試料を移動させながらこの試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査することで、試料を所望の電位にマイナス帯電させ、 上記装置内において上記所望の電位にマイナス帯電した試料を移動させながら、光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成し、 上記装置内において上記潜像パターンを、生成した直後に測定することを特徴とする静電潜像測定方法。 【請求項3】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する装置であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体であり、 内部が真空の装置内に配置され、試料面にこの試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを照射することにより試料を所望の電位にマイナス帯電させる手段と、 上記真空の装置内に配置され、光源にレーザーダイオードを使用していて上記所望の電位にマイナス帯電した試料を上記装置内で露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成する露光光学系と、 上記真空の装置内に配置され、上記潜像パターンを、生成した直後に測定する測定手段と、を有することを特徴とする静電潜像測定装置。 【請求項4】 静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する装置であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体であり、 内部が真空の装置内に配置され、この装置内で試料を移動させながらこの試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを照射することにより試料を所望の電位にマイナス帯電させる手段と、 上記真空の装置内に配置され、光源にレーザーダイオードを使用していて上記所望の電位にマイナス帯電した試料を上記装置内で移動させながら露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成する露光光学系と、 上記真空の装置内に配置され、上記潜像パターンを、生成した直後に測定する測定手段と、を有することを特徴とする静電潜像測定装置。 【請求項5】 荷電粒子ビームの走査領域内に既知となる参照電位が配置され、この参照電位の2次電子信号強度と測定試料の信号強度を比較することにより、電位量を算出する手段を有することを特徴とする請求項3または4記載の静電潜像測定装置。」 上記補正について、平成20年4月7日付け審判請求書には、補正前の請求項1?10をどのように、補正後の新たな請求項1?5と補正したかについての説明がないため、両者の関係が明確ではない。したがって、補正後の新たな請求項1?5の補正箇所である下線を参照すると、上記補正は、補正前の請求項4,5,7?10を削除し、補正前の請求項1,2,3、6に記載された発明を特定するために必要な事項である「感光体」、「装置内で」、「荷電粒子ビームで走査」、「帯電させ」、「試料上に電荷分布による静電潜像を生成」、「測定」を、各々「電子写真装置に用いる感光体」、「内部が真空の装置内で」、「試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査」、「所望の電位にマイナス帯電させ」、「装置内において光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成」、「潜像パターンを、生成した直後に測定」と限定し、新たな補正後の請求項1,2,3,5とするものである。 しかしながら、上記補正に加えて、補正後の請求項4は、事実上新たな請求項として追加されており、さらに補正後の請求項5も、新たに追加された補正後の請求項4を引用している。 したがって、補正後の請求項4及び5に関する補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項の請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの目的にも該当しない。 よって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 2.予備的判断 上記補正後の新たな請求項4及び5が仮に補正前の請求項1?10のいずれかの請求項の限定的減縮であったとして、補足的に、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)引用刊行物の記載事項 (1-1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平3-49143号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は当審で付与した。 (1-1a)「2.特許請求の範囲 1.走査型電子顕微鏡(1)の試料台にセットされ静電潜像が形成されている試料(2)にバックバイアスを印加する電源(3)を設け、 該顕微鏡の電子ビーム走査と、二次電子信号の処理と、前記電源の制御を行なう制御部(6)により、前記試料を予め部分的に電子ビームで走査し、得られた二次電子信号の量により、適切な電位コントラストが得られるバックバイアス値を検知して、該バックバイアスを試料に印加するように電源を制御し、 然る後、該制御部により改めて試料を電子ビーム走査し、得られた二次電子信号により前記静電潜像を表わす画像信号を出力することを特徴とする電子ビームによる静電潜像の画像取得方法。」(1頁左下欄4行?18行) (1-1b)「〔産業上の利用分野〕 本発明は、電子ビームによる静電潜像の画像取得方法に関する。 医療用、あるいは複写機等に用いられる電子写真を作成する過程で生成される静電潜像は、導電性支持体上に製膜された高絶縁性光導電体層で作られた感光材をコロナ電極による放電によって帯電させ、露光またはX線等の放射線による曝射によって感光材上に電位(静電荷)分布像として形成される。この静電潜像は、そのままでは目に見えず、また時間とともに減衰・消失してしまうため、現像操作により可視化する必要がある。本発明はこの可視化(画像取得)に係るものである。」(1頁右下欄20行?2頁左上欄12行) (1-1c)「〔作用〕 本発明では静電潜像を形成した試料2を走査型電子顕微鏡1の試料台にセットし、制御部6により電子ビームを偏向制御して試料2を部分的に走査する。試料2は第5図の感光材と同種のもので導電性支持体と光導電層との積層体である。 走査要領を第3図に示す。(a)は放射状、(b)は渦巻き状であるが、いずれも粗く、試料面全面を走査する。 この走査で二次電子信号5が得られ、これを制御部6で処理し、表示すると、第2図の7の如き画面が得られる。画面7は全体に高輝度で白っぽくなり、明暗(電位差)がはっきりしない画像である。このような全体に高レベルの画面に対しては、電源3の出力電圧を制御して試料2のバックバイアスを変え、電位分布が±20V程度の範囲に入るようにして、画面8のような適正輝度の画像にする。なおこの第2図の7,8は縦軸は二次電子信号量、横軸は走査位置のグラフであり、これで7は全体が高レベルで白っぽい画面、8は適正なレベルで明暗のはっきりした画面、としている。 二次電子は高電位の部分からは発生しにくく、低電位の部分から発生し易いという性質がある。 従って低電位で、二次電子が多量に発生し、画面が白っぽい画面7になった場合は、バックバイアスを下げて二次電子の発生を抑え、この逆に高電位で、二次電子発生が少なく、画面が黒っぽくなった場合はバックバイアスを上げて二次電子の発生を促せばよい。このバックバイアスの調整は自動的に行なう他、オペレータがデイスプレィの画面を見ながら手動操作することができる。 このように本発明では、予め電子ビームで試料2上を走査し、得られた二次電子信号5の量から試料2の電位分布を検知し、電源3は適正な電位コントラストが得られるようなバックバイアスを試料2に印加する。その後あらためて電子ビームによって試料2を走査することによって、明暗の差がはっきりした静電潜像の画像を取得することが可能となる。」(2頁右下欄4行?3頁右上欄4行) (1-1d)上記(1b)及び(1c)の記載から、静電潜像を生成した直後に、電子ビームで走査して、この走査で得られる二次電子信号により静電潜像の画像を取得することは明らかである。 また、静電潜像が任意の潜像パターンを有することも明らかである。 上記(1-1a)?(1-1d)の摘記事項等を総合して勘案すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「静電潜像が形成された試料面を電子ビームで走査し、この走査で得られる二次電子信号により静電潜像の画像を取得する方法であって、 上記試料は静電潜像の減衰・消失を生じる電子写真に用いられる感光材であり、 試料を帯電させ、 この帯電した試料を、露光することで試料上に静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成し、 潜像パターンを生成した試料を、走査型電子顕微鏡の試料台にセットして、 静電潜像を生成した直後に、電子ビームの走査で得られる二次電子信号により静電潜像の画像を取得する方法。」 (1-2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平3-200100号公報(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は当審で付与した。 (1-2a)「[実施例] 以下、この発明の一実施例を別紙添付図面に従って詳述する。尚、説明の都合上、従来公知に属する技術事項も同時に説明する。 第1図に於て(1)はX線顕微鏡である。該X線顕微鏡(1)は電子ビームプローブスキャナ(2)と、X線源であるマイクロフォーカスX線管(3)との光軸を対向させて配置している。前記電子ビームプローブスキャナ(2)は鏡筒(4)と2次電子検出器として用いるマルチチャンネル形映像増倍管(以下、MCPという。)(5)並びに前記鏡筒(4)の制御と画像信号処理を行う制御部(6)とから構成されている。前記鏡筒(4)の真空チャンバ(7)の下端部には電子写真感光体(8)が脱着自在に取付けられている。該電子写真感光体(8)の-面はアモルファスセレン等の光導電性半導体膜にて光導電層(9)が形成され、該光導電層(9)を真空チャンバ(7)内に向けている。前記鏡筒(4)は図中上方から電子銃(10)、集束レンズ(11)、走査コイル(12)、ズーミング自在な電子レンズ及び絞りに(13)が配設され、ストロボ走査型電子顕微鏡と同一構成とし、ストロボパルス状の電子ビームにて電子写真感光体(8)の結像面を走査するものである。該鏡筒(4)の結像面に於ける空間分解能は1μ程度であり、電子ビームプローブスキャナ(2)単体で300倍程度のズーミング観察ができる。又、前記電子写真感光体(8)の上方且つ、鏡筒(4)の電子ビーム光路の側方にMCP(5)を設け、後述する静電潜像を読出すようにしている。 前記MCP(5)の出力は制御部(6)のA/Dコンバータ(14)を介して、コントロールコンピュータ(15)に入力される。該コントロールコンピュータ(15)は入力信号をデジタル処理し、映像回路(図示せず)を駆動してCRT(16)にて再現するとともに、スキャンジェネレータ(17)を介して鏡筒(4)の走査コイル(12)を制御し、該鏡筒(4)の電子ビームとCRT(16)の走査を同期させている。 一方、同図中下方に配設されたマイクロフォーカスX線管(3)は、真空チャンバ(18)内に収納され、電子銃(19)から発射された電子ビームを集束レンズ(20)にて集束し、ターゲット(21)へ衝突させて微小焦点のX線を上方の電子写真感光体(8)へ放射する。又、走査コイル(22)はターゲット(21)への電子ビーム衝突位置を変化させるものである。 次に、当該X線顕微鏡(1)の作動を説明する。先ず、電子写真感光体(8)の光導電層(9)をスコロトロン(図示せず)のコロナ放電、或は電子ビームプローブスキャナ(2)の電子ビームによって均一に静電帯電させる。このとき、後述する理由から負電荷に帯電させることが好ましい。そして、試料(P)を電子写真感光体(8)とマイクロフォーカスX線管(3)の放射口(3a)との間に位置させるが、該位置により前記電子写真感光体(8)に密着させた当倍撮影から100倍程度での拡大撮影ができる。従って、前記電子ビームプローブスキャナ(2)の倍率と相俟って数万倍の倍率が得られている。 而して、マイクロフォーカスX線管(3)からX線を照射して試料(P)を撮影し、光導電層(9)に該試料(P)の静電潜像を形成すると同時に、或は撮影後に電子ビームプローブスキャナ(2)の電子ビームをズーム倍率に応じコリメートして前記光導電層(9)を走査する。このとき、第2図に示すように、光導電層(9)の電子ビーム照射点(S)から2次電子(E)(E)・・・が発生し、グリッド(23)により加速されてMCP(5)に入射する。前記2次電子量は光導電層(9)とMCP(5)との空間によるエネルギーフィルタ効果により、電子ビーム照射点(S)の電位に比例した電子量として捉えられ、間接的に測定された静電潜像の電位は制御部(6)にて映像信号に変換される。該制御部(6)はMCP(5)との組合せによって10数mV程度の電位分解能があり、階調分解能は10ビット以上となっている。」(2頁左下欄2行?3頁右上欄12行) (1-2b)上記(1-2a)で参照している第1図は以下のとおりである。 (1-2c)X線顕微鏡は、電子ビームを走査することから内部が真空の装置であることは明らかである。 よって、上記(1-2a)?(1-2c)の摘記事項等を総合して勘案すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「内部が真空の装置内で、電子写真感光体の光導電層を電子ビームプローブスキャナの電子ビームによって均一に負電荷に静電帯電させ、マイクロフォーカスX線管からX線を照射して試料を撮影し、光導電層に該試料の静電潜像を形成し、電子ビームプローブスキャナの電子ビームを走査し、光導電層の電子ビーム照射点から2次電子が発生し、当該2次電子量を捉えて、静電潜像の電位を間接的に測定して映像信号に変換されるX線顕微鏡。」 (2)対比 そこで、本願補正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、 刊行物1記載の発明の「電子ビーム」、「二次電子信号」、「静電潜像の減衰・消失を生じる電子写真に用いる感光材」、「帯電」、「静電潜像からなる任意の潜像パターン」は、それぞれ、本願補正発明1の「荷電粒子ビーム」、「検出信号」、「電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体」、「所望の電位に帯電」、「電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターン」に相当する。 刊行物1記載の発明の「静電潜像の画像を取得する方法」は、試料面の静電潜像を測定することによって画像を得ていることから、本願補正発明1の「試料面を測定する方法」及び「静電潜像測定方法」に相当する。 したがって、両者は、 「静電潜像が形成された試料面を荷電粒子ビームで走査し、この走査で得られる検出信号により試料面を測定する方法であって、 上記試料は電荷の暗減衰を生じる電子写真装置に用いる感光体であり、 試料を所望の電位に帯電させ、 この所望の電位に帯電した試料を、露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成し、 この静電潜像を、生成した直後に測定する静電潜像測定方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。 (3)相違点 (3-1)相違点1 本願補正発明1は、内部が真空の装置内で、2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査することで、試料を所望の電位にマイナス帯電させるのに対して、刊行物1記載の発明は、潜像パターンを装置外で帯電させており、かつ、その具体的帯電方法は特定されていない点。 (3-2)相違点2 本願補正発明1は、装置内において光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光するのに対して、刊行物1記載の発明は、装置外で露光しており、かつ、具体的な露光方法は特定されていない点。 (4)相違点についての判断 上記相違点について検討する。 (4-1)相違点1について 内部が真空の装置内で、荷電粒子ビーム(電子ビーム)を走査することで、電子写真感光体を所望の電位にマイナス帯電させることが、刊行物2に記載されている。 したがって、刊行物2記載の発明は、本願補正発明1と同じ走査型顕微鏡を基礎とする静電潜像の測定装置に関する技術であって、刊行物1記載の発明において、感光体を帯電させるにあたり、刊行物2記載の発明の帯電方法を採用して、相違点1に係る構成を有するものとすることは当業者なら容易に想到しうるものである。 また、荷電粒子ビームを走査することによって感光体を所望の電位にマイナス帯電させるにあたり、2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査することは、当業者なら、必要に応じて適宜設定しうる程度の設計的事項である。 (4-2)相違点2について 内部が真空の装置内に電子写真感光体を設置し、露光を行うことが、刊行物2には記載されている。 そして、刊行物2記載の発明は、本願補正発明1と同じ走査型顕微鏡を基礎とする静電潜像の測定装置に関する技術であって、刊行物1記載の発明において、感光体を露光させるにあたり、刊行物2記載の発明の感光体を装置内に設置して露光する方法を採用して、相違点2に係る構成を有するものとすることは当業者なら容易に想到しうるものである。 さらに、露光方法として、光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することは、例をあげるまでもなく、周知慣用の技術である。 また、露光手段を真空内に設けるか、真空外に設けるかは、適切に露光を行うという点のおいて差異はなく、当業者なら、必要に応じて適宜選択しうる設計的事項に過ぎない。 (5)効果について そして、全体として、本願補正発明1によってもたらされる効果は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から、当業者なら予測しうる程度のことであって、格別なものではない。 (6)まとめ よって、本願補正発明1は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3.むすび したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するか、または、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願の請求項1に係る発明 平成20年4月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成19年4月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2 1.(補正前)」のとおりのものである。 2.引用刊行物の記載事項 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平3-49143号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開平3-200100号公報(以下、「刊行物2」という。)の記載事項は、前記「第2 2. (1)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明1は、前記「第2 1.」で検討した本願補正発明1の「電子写真装置に用いる感光体」、「内部が真空の装置内で」、「試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で荷電粒子ビームを走査」、「所望の電位にマイナス帯電させ」、「装置内において光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することで試料上に電荷分布による静電潜像からなる任意の潜像パターンを生成」、「潜像パターンを、生成した直後に測定」から、各々「電子写真装置に用いる」、「内部が真空の」、「試料の2次電子放出比が1となる加速電圧より大きな加速電圧で」、「所望の電位にマイナス」、「装置内において光源にレーザーダイオードを使用した露光光学系で露光することで」及び「任意の潜像パターン」、「潜像パターンを、生成した直後に」という限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「第2.2.(6)」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2号の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-05 |
結審通知日 | 2009-08-11 |
審決日 | 2009-08-24 |
出願番号 | 特願2002-103355(P2002-103355) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 下村 輝秋、金田 理香、宮崎 恭 |
特許庁審判長 |
木村 史郎 |
特許庁審判官 |
伏見 隆夫 大森 伸一 |
発明の名称 | 静電潜像の測定方法および測定装置 |
代理人 | 石橋 佳之夫 |