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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1205014
審判番号 不服2008-12618  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-19 
確定日 2009-10-07 
事件の表示 特願2005-311080「免疫グロブリン変異体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月30日出願公開、特開2006- 83180〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯・本願発明
本願は、平成4年6月15日を国際出願日(パリ条約による優先権主張、1991年6月14日 米国)とする特願平5-501103号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とする特願2004-168507号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により平成17年10月26日に新たな特許出願としたものであって、平成19年3月5日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。
「ヒトの、重鎖の可変(VH)ドメイン及び軽鎖の可変(VL)ドメイン内に取り込まれた非ヒト相補性決定領域(CDR)アミノ酸残基を含み、さらに、1つ以上のヒトと非ヒトとのフレームワーク領域(FR)置換を含むヒト化抗体であって、ここで、少なくとも1つのFR置換が、Kabatにおいて示された番号付与系を利用する4L、35L、36L、38L、43L、44L、46L、58L、62L、64L、65L、66L、68L、69L、70L、71L、73L、85L、87L、98L、2H、4H、24H、36H、37H、39H、43H、45H、49H、58H、60H、68H、69H、70H、73H、74H、75H、76H、78H、92H、又は93Hから選択される部位おいてである、ヒト化抗体。」(以下、「本願発明」という。)
2.特許法第29条第2項について
(1)引用例
本願優先日前の1990年7月26日に頒布された刊行物であり原審の拒絶の理由で引用された国際公開第90/7861号(以下、「引用例」という。)には、
(i)「19.ヒトアクセプター免疫グロブリンからのフレームワーク領域および抗原に結合することができるドナー免疫グロブリンからの相補性決定領域(CDR)を有するヒト化免疫グロブリン鎖の設計方法であって、下記のような免疫グロブリン中の位置において、アクセプター免疫グロブリンの少なくとも1つのヒトフレームワークアミノ酸をドナー免疫グロブリンからの対応するアミノ酸で置換する段階を含んで成る方法:(a)アクセプター免疫グロブリンのヒトフレームワーク領域中のアミノ酸がその位置においてまれであり、そしてドナー免疫グロブリンの対応するアミノ酸がヒト免疫グロブリン配列中の前記位置において普通である;または(b)該アミノ酸がCDRの1つのすぐ近くである;または(c)該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3A以内に側鎖原子を有しそして抗原とまたはヒト化免疫グロブリンのCDRと相互作用することができると予想される。」(請求項19)、
(ii)「22.請求項18,19または20に従って設計されたヒト化免疫グロブリン。」(請求項22)、
(iii)「所望の抗原に対し非常に強力な親和力を有するヒト化抗体を生産するために、本発明はヒト化免疫グロブリンを設計するのに次の4つの基準を使用する。それらの基準を単独でまたは必要な時は組み合わせて使用し、所望の親和力または他の特徴を獲得することができる。
基準l:アクセプターとして、ヒト化しようとするドナー免疫グロブリンに非常に相同である特定のヒト免疫グロブリンからのフレームワークを使用するか、または多数のヒト抗体からの共通のフレームワークを使用すること。例えば、データバンク(例えば、National Biomedical Research Foundation Protein Identification Resource)中のヒト重鎖(または軽鎖)可変領域に対するマウス重鎖(または軽鎖)可変領域の配列の比較は、異なるヒト可変領域に対する相同性の程度が典型的には約40%から約60?70%まで大幅に異なることを示す。アクセプター免疫グロブリンとしてドナー免疫グロブリンの重鎖(それぞれ軽鎖)に最も相同であるヒト重鎖(それぞれ軽鎖)の1つを選択することにより、ドナー免疫グロブリンからアクセプター免疫グロブリンに移る際にほとんどアミノ酸が変化しないであろう。よって、ヒト化免疫グロブリンを含んでなるヒト化抗体の正確な全形状がドナー抗体の形状と非常によく似ており、CDRを歪める見込みを減らすことができる。」(第12頁第9行?第13頁第2行)、
(iv)「基準II:ヒトアクセプター免疫グロブリンのフレームワーク中のアミノ酸が、普通でない、即ち「まれである」・・場合、またはその位置のドナーアミノ酸がヒト配列に典型的である、即ち「普通である」・・場合、アクセプターよりもむしろドナーアミノ酸が選択されるだろう。この基準は、ヒトフレームワーク中の普通でないアミノ酸が抗体構造を破壊しないことを保証するのに役立つ。」(第13頁第22行?第34行)、
(v)「基準III:ヒト化免疫グロブリン鎖中の3つのCDRの直に接する位置において、アクセプターアミノ酸よりもむしろドナーアミノ酸が選択されるだろう。それらのアミノ酸は、おそらく特にCDR中のアミノ酸と相互作用し、もしアクセプターから選択されればドナーCDRを破壊しそして親和力を低下させるであろう。更に、隣接のアミノ酸は抗原と直接相互作用し(Amit et al.,Science,233,747-753(1986)、これは参考として本明細書に組み込まれる)、ドナーからそれらのアミノ酸を選択することは、元の抗体における親和力を提供する全ての抗原接触を維持するのに望ましいかもしれない。
基準IV:典型的には元のドナー抗体の3次元モデルは、CDRの外側の幾つかのアミノ酸がCDRに密接しておりそして水素結合、ファンデルワールス力、疎水的相互作用等によりCDR中のアミノ酸と相互作用する相当な確率を有することを示す。それらのアミノ酸位置では、アクセプター免疫グロブリンアミノ酸よりもむしろドナーアミノ酸が選択され得る。この基準に従ったアミノ酸は、通常はCDR中の或る部位の約3A単位内に側鎖原子を有し、そして確立された化学的力、例えば上記に列挙した力に従ってCDR原子と相互作用することができるような原子を含まなければならない。抗体などのタンパク質のモデルを作成するためのコンピュータープログラムが一般に利用可能であり、そして当業者に周知である。 …省略… 実際、全ての抗体が類似の構造を有するので、Brookhaven Protein DataBankから入手可能である既知の抗体の構造が、必要であれば別の抗体のおおざっぱなモデルとして利用することができる。商業的に入手可能であるコンピュータープログラムを用いてコンピューター画面にそれらのモデルを表示し、原子間の距離を算出し、そして種々のアミノ酸相互作用の可能性を評価することができる。」(第14頁第1行?第15第第1行)、と記載されている。
そして、引用例の実施例では、抗-Tacマウス抗体をヒト化するために、上記基準Iに沿ってまず、ヒト抗体の重鎖のうち、ドナーである抗-Tacマウス抗体重鎖と最も相同性の高いヒトEu抗体の重鎖をアクセプターとして使用し、両者のアミノ酸配列を比較して、上記基準IIからIVに沿ってヒトFR領域のアミノ酸をマウスの対応するアミノ酸に置換し、同様に軽鎖においても上記基準を適用してヒト化抗体を作製し、このヒト化抗体が抗-Tacマウス抗体と同程度に抗原と結合したことが記載されている(図10)。
(2)対比・判断
(2-1)本願発明について
本願発明に係るヒト化抗体は、ヒト抗体の重鎖可変(以下、「VH」という。)領域及び軽鎖可変(以下、「VL」という。)領域のそれぞれの相補性決定領域(以下、「CDR」という。)を非ヒト(以下、便宜上「マウス」ともいう。)のCDRアミノ酸残基に置換する、いわゆるCDRグラフト化ヒト化抗体のフレームワーク領域(以下、「FR」という。)において、1つ以上の非ヒトへのアミノ酸置換を含むものであって、その置換するFRの部位が41箇所特定されているものの、その抗体の抗原は特定されていない。
また、ヒトのVH及びVLには、それぞれ多種類のサブグループが存在するが、どのようなヒトVH及びVLかが特定されていないので、本願発明は、生体内、生体外に存在する無数ともいえる多種多様な抗原のうち、いかなる抗原に対するCDRグラフト化ヒト化抗体において、ヒトVH及びVLのサブグループは任意のものであり、かつ、少なくとも1つのFRの特定の部位のアミノ酸置換を含むヒト化抗体に係るものであるといえる。
さらに、本願請求項1を引用して記載された請求項2には、「上記に記載された残基以外の非ヒトFR残基が全く置換されていない、請求項1に記載のヒト化抗体。」と記載され、上記に記載された残基以外の非ヒトFR残基が置換されていてもよいことを含意していること、及び(2-3)で後述する、本願明細書の実施例において顕著な効果が確認されているhuMAb4D5-8というヒト化抗体は、71Hの部位が置換されており、この71Hは、本願発明において特定されていない部位であることから、本願発明には、FRにおける合計41の特定の部位における1以上の置換の他にも、他のFRの部位に置換を有するヒト化抗体も包含されていると解されるので、本願発明に包含されるヒト化抗体には、無数といえる程多くの態様が存在するものである。
(2-2)引用例の記載
引用例には、CDRグラフト化ヒト化抗体において問題となっていた抗原親和性の低下を改善するための方法に用いる基準であって、その4つの基準はおおよそ、特定の抗原に対するマウス抗体のVH領域及びVL領域のアミノ酸配列と、ヒト抗体のVH領域及びVL領域のアミノ酸配列を比較して、最も相同性の高いヒトVH及びVLをデータベースから選択してアクセプターとして、そこにマウスのCDRをグラフト化するだけでなく、FRにおいても、CDRに隣接するアミノ酸、あるいは、三次元モデル上CDRに密接しており、CDR中のアミノ酸と相互作用する相当な確率を有するアミノ酸を、CDRと相互作用するアミノ酸として、マウスのアミノ酸に置換するというものであり、その基準に従って抗-Tacヒト化抗体を作成している。
(2-3)対比
そこで、本願発明と引用例に記載された事項を比較すると、両者は、ヒトのVHドメイン及びVLドメイン内に取り込まれた非ヒトCDRアミノ酸残基を含み、さらに、1つ以上のヒトと非ヒトとのFRにおけるアミノ酸置換を含むヒト化抗体である点で一致するが、両者は、FRにおける少なくとも1つの置換するアミノ酸部位が、前者では、Kabatにおいて示された番号付与計を利用する4L、35L、36L、38L、43L、44L、46L、58L、62L、63L、64L、65L、66L、68L、69L、70L、71L、73L、85L、87L、98L、2H、4H、24H、36H、37H、39H、43H、45H、49H、58H、60H、68H、69H、70H、73H、74H、75H、76H、78H、92H、又は93Hから選択される部位におけるものであるのに対して、後者では、これらのアミノ酸部位を置換する部位とすることは具体的に記載されていない点で相違する。
(2-4)判断
本願優先日前、CDRグラフト化ヒト化抗体において、CDRのみをマウスのCDR配列に置換するだけでは、一部の例外を除いてその抗原親和性が低下してしまうことは周知の事柄であり、そのため、CDRに隣接するFRのアミノ酸、あるいは近接していなくてもマウス抗体の三次元モデルから推定される、CDR中のアミノ酸と相互作用する確率の高いFRのアミノ酸等をマウスのアミノ酸に置換することにより、抗原との親和性を向上させることは、引用例にも記載され、また、原審の拒絶理由で示した文献を含む本願優先日前公知の文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.86, p.10029-10033 (1989)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.88, p.2869-2873 (April 1991)、Nature, Vol.332, p.323-327 (1988)、J. Mol. Biol., Vol.196, p.901-917 (1987)及びNature, Vol.342, p.877-883 (1989))に記載されている。
例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.86, p.10029-10033 (1989)には、マウス由来の抗Tac抗体のCDRおよびヒトEu抗体のFRを用いてヒト化抗体を製造する際に、
「既知の結晶構造を有する他の抗体Vドメインとの相同性およびエネルギーの最小化に基づいて、コンピュータプログラムが抗TacVドメインのもっともらしい分子モデルを構築するために使用された(図3)。グラフィック操作はCDRの外側の多くのアミノ酸残基が実際に構造に影響を与えるか、抗原と直接相互作用をする程充分に、CDRに近接していることを示している。これらの残基が抗TacとEu抗体で異なる場合には、ヒト化された抗体における残基はEu残基よりもむしろ抗Tac残基であるように選択された。この選択はヒト化された重鎖の27,30,48,67,68,98,106残基およびヒト化された軽鎖の47および59残基において行われた。」(第10031頁右欄下から第21行?下から第9行)と、
「Euの重鎖および軽鎖のV領域を他のサブグループIのヒトV領域と視覚的に比較して決定されるように、Eu抗体はヒト化重鎖の93,95,98,106,107,108,110および軽鎖の47,62に対応する部位に普通でない残基を含んでいる。Eu抗体はいくつかの他の普通でない残基を含んでいるが、挙げられた部位ではマウス抗Tac抗体は実際Euよりもよりヒト配列において典型的な残基を有している。それゆえ我々は、より抗体を一般的にヒト化するために、これらの部位では、ヒト化抗体においてEu残基よりもむしろ抗Tac残基を使用することが選択された。これらの残基のいくつかは、上述したように、CDRとの近接性から既に選択されている。」(第10032頁左欄第2行?第15行)と記載され、また、Proc.Natl.Acad. Sci.USA,Vol.88, p.2869-2873 (April 1991)には、マウスのFd79抗体のCDRとヒトPomのFRを用いてヒト化抗体を製造する際に、
「コンピュータプログラムENCADが、Fd79V領域のモデルを構築するために使用された。マウスFd79の正確なモデルの検討は、CDR残基と非常に接触するフレームワーク内の二つのアミノ酸残基を示した(表1)。軽鎖49位のリジンは、軽鎖のCDR2の3つのアミノ酸(L50Y、L53N、L55E、コーディングシステムについては表1を参照)と重鎖内のCDR3の二つのアミノ酸(H99D,H100Y)と接触する。重鎖93位のロイシンは、重鎖のCDR2内のアミノ酸(H35S)と、重鎖内のCDR3内のアミノ酸(H100cF)と相互作用することを示す。よって、ヒトPomフレームワーク残基に置換することがCDRへのひずみを誘導するであろうことから、L49KとH93Lは、ヒト化Fd79において保持された。」(第2871頁右欄第第1行?第15行)と記載されている
このような本願優先日当時の技術水準の下、抗体医薬に期待されるマウス抗体をヒト化する際に、マウス抗体のアミノ酸配列を決定後、上記引用例に記載の基準に沿ってCDRグラフト化を行い、CDRと相互作用すると予測されるFRのアミノ酸を置換することは、当業者であれば格別の創意工夫なくなし得ることである。そして、そのようにして作成される様々な抗原に対するヒト化抗体のうちには、本願発明において列挙されるFRの部位のうち少なくとも一部の部位を置換するものが含まれることは、たとえば、本願発明で特定された部位である、35L、36H、及び49Hは、引用例のEuにおけるCDRに隣接する部位であるし、また、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.88, p.2869-2873 (April 1991)には、上記のように「H93Lは、ヒト化Fd79において保持された。」と記載され、本願発明で特定された部位である93Hがマウスアミノ酸に置換されたことが記載されていることからも明らかである。
そして、本願発明に係るヒト化抗体のうち、本願明細書でその顕著な効果が確認されているのは、huMAb4D5-8という特定の抗体についてのみであり、当該抗体以外の非常に多くのヒト化抗体を包含する本願発明において奏される効果が、引用例の記載から予測できないほどの格別なものであるとはいえない。
さらに、抗原によって、あるいはヒト抗体VHまたはVLのサブグループによって、その抗体のVH領域及びVL領域中のCDRの位置あるいはアミノ酸残基の数は異なるものもあり、種々の抗原に対するマウス抗体に上記引用例に記載の基準を適用してFR置換して得られるヒト化抗体の中には、上記(2-1)で述べたように、抗原もヒト抗体のサブクラスも特定されていない本願発明のヒト化抗体に含まれるものが必ず存在するともいえる。
以上の理由から、本願発明は、引用例の記載から当業者であれば容易に想到し得たものである。
(3)小括
したがって、本願発明は引用例の記載に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.特許法第36条第4項違反について
(1)拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の1つは、請求項1に記載された41という様々な残基の中から、優れた抗原結合性を有する残基の組み合わせを有するヒト化抗体を選択することは、当業者にとって過度の試行錯誤を求めるものであるから、本願発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載の発明を当業者が容易に実施できる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていないというものである。
(2)本願明細書の記載
本願発明のFR置換の部位に関する本願明細書の記載は、段落【0262】であって、例えば、「8.上記の分析を完了した後、計画したヒト化配列を決定し、試料を調製し、試験する。この試料が標的抗原に十分に結合しないときには、移入およびヒト化残基の間の残基同一性の問題にかかわらず、以下に挙げる特定の残基を調べる。
a.位置的に巨大分子抗原と直接相互作用する可能性がある特定の周辺(非CDR)可変ドメイン残基を調べる。これには次の残基が含まれる(ここで、*は結晶構造に基づいて抗原と相互作用することが見い出された残基を示す):
i.可変軽鎖ドメイン:36、46、49*、63-70
ii.可変重鎖ドメイン:2、47*、68、70、73-76。
b.可変ドメインCDRの立体配座と相互作用しうるか、または他の方法でこれに影響を及ぼしうる特定の可変ドメイン残基を調べる。これには次の残基が含まれる(CDR残基それ自体は含まない;これは、CDRが互いに相互作用するので、あるCDR中のあらゆる残基が別のCDR残基の立体配座に影響を及ぼしうると考えられるためである)[Lは軽鎖であり、Hは重鎖であり、下線で示した残基はChothiaら, Nature 342: 877 (1989)により構造的に重要であることが示されており、そして、( )内の残基はQueenら(PDL), Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86: 10029 (1989)およびProc.Natl.Acad.Sci.USA 88: 2869 (19
91)によりヒト化中に変化させた]:
i.可変軽ドメイン:
a)CDR-1(残基24L-34L):2L、4L、66L-69L、
71L
b)CDR-2(残基50L-56L):35L、46L、(47L)、
48L、(49L)、58L、62L、64L-66L、71L、
73L
c)CDR-3(残基89L-97L):2L、4L、36L、98L、
37H、45H、47H、58H、60H
ii.可変重ドメイン:
a)CDR-1(残基26H-35H):2H、4H、24H、36H、
71H、73H、76H、78H、92H、(94H)
b)CDR-2(残基50H-55H):49H、69H、69H、
71H、73H、78H
c)CDR-3(残基95H-102H):このループは他のCDRよりも大きさ
と立体配座が大きく変化するので、このループとの可能な相互作用パートナ
ーとして全ての残基を調べる。
9.工程8の後にヒト化した可変ドメインがなお所望の結合を欠いているときには、工程8を繰り返す。さらに、VL-VH界面に影響を与えうるがCDR立体配座に直接影響を与えることはないであろう全ての埋没残基を再吟味する。また、非CDR残基の溶媒へ接近性を評価する。」と記載され、本願発明の実施例に相当する本願明細書の実施例1には、マウス抗p185^(HER2)抗体をヒト化することが記載され、FRの71H、73H、78H、93H、66Lの部位をマウスアミノ酸に置換したヒト化抗体huMAbD5-8が、抗原親和性に優れ、抗細胞増殖活性を有することが確認されている。
しかしながら、71H、73H、78H、93H、66L以外の部位をFR置換した抗p185^(HER2)抗体ヒト化抗体を製造したことは記載されておらず、それらの親和性は確認されていない。
(3)当審の判断
本願発明は、1つ以上のFRの特定の部位の置換を含むヒト化抗体であり、その抗原との親和性については特定されていないが、本願発明の解決しようとする技術的課題及び本願明細書の段落【0018】の「本発明の別の目的は、抗体の効率的なヒト化、すなわちある抗原に対する非ヒト供与抗体の親和性を保持または改良するような様式でヒト抗体の背景配列に輸入(移入)するための非ヒトアミノ酸残基を選択するための方法を提供することである。」という記載からみて、少なくとも、CDRのみをマウスCDRに置換したヒト化抗体よりも、親和性が向上したヒト化抗体でなければならないと解される。また、2.(2-1)で述べたように、本願発明は、抗原も、ヒト抗体も特定されていない、FRにおける41の特定の部位を1つ以上アミノ酸置換したヒト化抗体に係るものである。
一方、本願明細書には、41の特定の部位が抗原結合性に関与している部位であることを予測した理由は記載されているが、実際に製造し、抗原親和性の向上が確認されているのは、抗ヒトp185^(HER2)抗体でのFRの71H、73H、78H、93H、66Lの5箇所置換したものだけであり、それ以外の部位の置換については、その効果が確認されていない。
CDRグラフト化抗体において、免疫グロブリンの三次元の構造等から予測されたアミノ酸部位をマウスのアミノ酸に置換しても必ずしも親和性は増加しないこと、FRにおけるアミノ酸の置換数が増加すれば、抗原との親和性が増加するものでもないこと等、その効果が予測できないことが本願優先日当時の技術常識であった。そのため、抗原との親和性の増加したヒト化抗体を作製するためには、予測に基づいて実際に抗体を製造してみて抗原との結合親和性を確認しなければならないところ、本願明細書では、p185^(HER2)という特定の抗原に対する抗体のその特定の4箇所のFR置換の効果が確認されているだけであり、本願発明における37箇所の他の部位のFR置換の効果は不明であり、また効果があることの合理的説明もなされていない。
したがって、本願発明に包含される41箇所のFR置換部位を含むヒト化抗体の中には、抗原親和性の向上が期待できないものも多く含まれ、その中から、抗原親和性が向上したヒト化抗体を選択するためには、当業者といえども過度の実験、試行錯誤を要するものである。
ましてや、本願発明に包含される、p185^(HER2)以外の他の抗原に対するヒト化抗体の中から、その抗原親和性が向上したヒト化抗体を選択するためには、なおさら当業者に過度の実験、試行錯誤を求めるものであるから、本願請求項1に記載の発明について、本願発明の詳細な説明に当業者が容易にその実施をできるよう発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また本願は、請求項1に記載の発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-07 
結審通知日 2009-05-12 
審決日 2009-05-25 
出願番号 特願2005-311080(P2005-311080)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
P 1 8・ 531- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 森井 隆信
平田 和男
発明の名称 免疫グロブリン変異体  
代理人 津国 肇  
復代理人 齋藤 房幸  
復代理人 鈴木 音哉  

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