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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1205566
審判番号 不服2007-22491  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-14 
確定日 2009-10-14 
事件の表示 特願2004- 2637「供給装置および供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月21日出願公開、特開2005-197102〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年1月8日の出願であって、平成19年3月20日付けで手続補正がされ、同年7月6日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年8月14日に審判請求がされるとともに、同年9月13日付けで手続補正がされたものであり、当審における、前置報告書に基づく平成20年7月4日付けの審尋に対し、同年9月9日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成19年9月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成19年9月13日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成19年9月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む。

(A)「【請求項1】 風力発電、水力発電、太陽光発電、波動発電、地熱発電および商用電源などのエネルギー源からの電力が導入される電気分解装置と、冷却器に接続されて前記電気分解装置で水を電気分解して得られた水素を貯蔵する貯蔵装置と、水素を供給するステーションに設置されてこの貯蔵装置に接続される熱交換器と、この熱交換器を介して前記貯蔵装置に接続され水素が供給される燃料電池とで構成することを特徴とする供給装置。」
(B)「【請求項1】 風力発電、水力発電、太陽光発電、波動発電、地熱発電および商用電源などのエネルギー源からの電力が導入される電気分解装置と、冷却器に接続されて前記電気分解装置で水を電気分解して得られた水素を貯蔵する貯蔵装置と、 この貯蔵装置に接続される熱交換器と、この熱交換器を介して前記貯蔵装置に接続され水素が供給される、水素供給ステーションや家庭に設置の燃料電池とで構成することを特徴とする供給装置。」
(下線部は補正箇所を示す。)

すなわち、特許請求の範囲の請求項1に係る上記の補正事項は、以下の補正事項a、bよりなるものである。
補正事項a:「この貯蔵装置に接続される熱交換器」について、「水素を供給するステーションに設置されて」と限定する記載を削除する。
補正事項b:「燃料電池」について、「水素供給ステーションや家庭に設置の」と限定する記載を付加する。

II.当審の判断
1.補正事項aについて
補正事項aは、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「この貯蔵装置に接続される熱交換器」について限定する記載を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものである。

2.補正事項bについて
本件補正前の特許請求の範囲は、燃料電池の設置場所を発明特定事項とするものではないから、燃料電池の設置場所を「水素供給ステーションや家庭」に限定する補正事項bは、発明特定事項を限定して減縮するものではない。

3.「水素を供給するステーション」又は「水素供給ステーション」について
補正事項a、bにより、「水素を供給するステーション」又は「水素供給ステーション」(以下、ともに「水素供給ステーション」という。)の技術的意味が変更されている。
すなわち、本件補正前の「水素供給ステーション」は、「熱交換器」が設置される場所であるが、本件補正後は、熱交換器の設置の有無を問わずに「燃料電池」が設置される場所であるから、補正事項a、bは、特許請求の範囲を変更するものである。

4.小括
したがって、補正事項a,bよりなる上記の補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しないし、同法第17条の2第4項1,3又は4項に規定の請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことが明らかである。

III.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
I.本願発明
本願の平成19年9月13日付けの手続補正は、上記のとおり、却下されることとなる。
したがって、本願の請求項1,2に係る発明は、平成19年3月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は上記「第2 I.(A)」に示すとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

II.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定(以下、「原査定」という。)の理由は、概略、以下のものである。

[理由1]
この出願の請求項1,2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]
この出願の請求項1,2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2000-54173号公報
刊行物2:特開2000-54174号公報
刊行物3:特開平5-251105号公報

III.刊行物3の記載事項
原査定の理由に引用した刊行物3には、以下の事項が記載されている。

[A]「【請求項1】太陽光電池の発電電力を水電解装置に供給して水素を生成して貯蔵し、貯蔵した水素を必要に応じて燃料電池に供給して電力に変換し、得られた電力を負荷に供給するものにおいて、前記水素電解装置で生成した水素を水素吸蔵合金に吸収して貯蔵する水素貯蔵装置を備えてなることを特徴とする太陽光電源システム。」

[B]「【0011】
【実施例】以下、この発明を実施例に基づいて説明する。図1はこの発明の実施例になる太陽光電源システムの構成を簡略化して示すシステムフロ-図であり、…。図において、水素貯蔵装置13は、その内部に粉状または粒状の水素吸蔵合金14と、水素吸蔵合金14を加熱,冷却する熱交換器15とを備え、太陽光電池1が太陽光を受けて発電した電力P_(S) を、水電解装置2が一対の電極間に受けて電気分解により水素H_(2) を生成し、この水素を水素貯蔵装置13の水素吸蔵合金14がその金属格子の隙間に捕捉して金属水素化物に変化することにより、生成した水素を安定して貯蔵することができる。」

[C]「【0012】一方、燃料電池5は固体高分子電解質型燃料電池,りん酸形燃料電池等の低温動作形燃料電池であり、単位セルの積層体からなる燃料電池積層体の温度をそれぞれの運転温度(固体高分子電解質型燃料電池で約80°c,りん酸形燃料電池で約190°c)に保持するために、複数単位セル毎に冷却板6Aが積層され、循環ポンプ6Bおよび熱回収用熱交換器6Cを含む冷却水循環系6が冷却板6Aの冷却パイプに連結され、燃料電池の運転温度より10?20°c程度低い温度の冷却水6Wを冷却パイプに循環して燃料電池をそれぞれの運転温度に保持するよう構成される。」

[D]「【0013】この実施例になる太陽光電源システムの場合、水素貯蔵装置13の熱交換器15が弁8A,8Bを介して冷却水循環系6に連結され、上記温度の温水または熱水状態の冷却水6Wの一部を熱交換器15に循環または熱交換器15を介して放出するよう構成される。また、水素吸蔵合金14には水素放出反応を起こす温度が冷却水6Wの温度に近い水素吸蔵合金材が選択して使用される。したがって、電力需要に応じて冷却水6Wを熱交換器15に供給し、金属水素化物となった水素吸蔵合金14をその水素放出反応温度に加熱することにより、吸蔵水素を放出して燃料電池5の燃料電極に供給することができる…」

[E]「【0014】なお、水素吸蔵合金14はその水素吸蔵反応に際して少ないながら発熱するので、弁8A,8Bに三方切換弁を用い、水素吸蔵反応に際して熱交換器15に常温の冷却水15Wを供給するよう構成すれば、水素吸蔵合金14の温度上昇を防止して予期しない水素の放出を防ぐことができる。…」

IV.当審の判断
1.刊行物3に記載された発明
ア 刊行物3の[A]には、「太陽光電池の発電電力を水電解装置に供給して水素を生成して貯蔵し、貯蔵した水素を必要に応じて燃料電池に供給して電力に変換し、得られた電力を負荷に供給するものにおいて、前記水素電解装置で生成した水素を水素吸蔵合金に吸収して貯蔵する水素貯蔵装置を備えてなることを特徴とする太陽光電源システム」が記載されており、[B]?[E]には、上記太陽光電源システムの実施例が記載されている。

イ [B]には、「水素貯蔵装置13は、その内部に粉状または粒状の水素吸蔵合金14と、水素吸蔵合金14を加熱,冷却する熱交換器15とを備え」と記載されており、[C]には、「燃料電池5は…単位セルの積層体からなる燃料電池積層体の温度をそれぞれの運転温度(…)に保持するために、複数単位セル毎に冷却板6Aが積層され、循環ポンプ6Bおよび熱回収用熱交換器6Cを含む冷却水循環系6が冷却板6Aの冷却パイプに連結され、燃料電池の運転温度より10?20°c程度低い温度の冷却水6Wを冷却パイプに循環して燃料電池をそれぞれの運転温度に保持するよう構成される」と記載されており、[D]には、「水素貯蔵装置13の熱交換器15が弁8A,8Bを介して冷却水循環系6に連結され、上記温度の温水または熱水状態の冷却水6Wの一部を熱交換器15に循環または熱交換器15を介して放出するよう構成される。…電力需要に応じて冷却水6Wを熱交換器15に供給し、金属水素化物となった水素吸蔵合金14をその水素放出反応温度に加熱することにより、吸蔵水素を放出して燃料電池5の燃料電極に供給することができる」と記載されている。

ウ 以上の記載によると、上記実施例において、水素貯蔵装置13は、水素吸蔵合金14と熱交換器15とを備え、熱交換器15は、弁8A、8Bを介して、燃料電池5を運転温度に保持するための温水または熱水状態の冷却水を循環する冷却水循環系6に連結されており、水素吸蔵合金14は、熱交換器14に供給された上記冷却水により水素放出反応温度に加熱されて、水素を放出し、放出された水素は燃料電池5の燃料電極に供給されると認められるから、この『熱交換器』は、『水素吸蔵合金から燃料電池に水素を供給する場所に設置されてこの水素吸蔵合金に接続される』といえるとともに、この『燃料電池』は、『この熱交換器を介して水素吸蔵合金に接続され水素が供給される』ものといえる。

エ また、[E]には、「水素吸蔵合金14はその水素吸蔵反応に際して少ないながら発熱するので、弁8A,8Bに三方切換弁を用い、水素吸蔵反応に際して熱交換器15に常温の冷却水15Wを供給するよう構成すれば、水素吸蔵合金14の温度上昇を防止して予期しない水素の放出を防ぐことができる」と記載されている。

オ そうすると、上記実施例における「熱交換器15」は、水素吸蔵反応に際して、弁8A,8Bを切り換えることにより、常温の冷却水15Wを供給し、水素吸蔵合金14を冷却して水素の放出を防ぐものとも認められるから、水素吸蔵合金に熱的に接続した『冷却器』であるともいえる。

カ 以上によると、刊行物3には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

「太陽光電池の発電電力が導入される水電解装置と、冷却器に接続されて前記水電解装置で水を電気分解して得られた水素を貯蔵する水素吸蔵合金と、水素吸蔵合金から燃料電池に水素を供給する場所に設置されてこの水素吸蔵合金に接続される熱交換器と、この熱交換器を介して前記水素吸蔵合金に接続され水素が供給される燃料電池とで構成する太陽光電源システム」

2.対比・判断
2-1.理由1について
本願発明(前者)と刊行物発明(後者)とを対比すると、後者の『太陽光電池の発電電力』は、前者の「風力発電、水力発電、太陽光発電、波動発電、地熱発電および商用電源などのエネルギー源からの電力」のうちの「太陽光発電からの電力」に相当し、後者の『水電解装置』、『水素吸蔵合金』、『水素吸蔵合金から燃料電池に水素を供給する場所』、『太陽光電源システム』は、それぞれ前者の「電気分解装置」、「貯蔵装置」、「水素を供給するステーション」、「供給装置」に相当すると認められる。
そうすると、両者は、「太陽光発電からの電力が導入される電気分解装置と、冷却器に接続されて前記電気分解装置で水を電気分解して得られた水素を貯蔵する貯蔵装置と、水素を供給するステーションに設置されてこの貯蔵装置に接続される熱交換器と、この熱交換器を介して前記貯蔵装置に接続され水素が供給される燃料電池とで構成する供給装置」である点で一致し、相違するところはない。
したがって、本願発明は刊行物3に記載された発明である。

2-2.理由2について
本願発明における「水素を供給するステーション」を、発明の詳細な説明に具体的に記載された「燃料電池車に水素を供給するステーション」であると解すると、本願発明は、刊行物発明との対比において、熱交換器が「燃料電池車に水素を供給するステーション」に設置される点で、『燃料電池に水素を供給する場所』に設置される刊行物発明と相違するといえる。
しかし、「水素を供給するステーション」として、「燃料電池車に水素を供給するステーション」は、例えば、特開2000-128502号公報【0001】、【0002】や、特開2003-254499号公報【0001】に記載される周知の事項であるし、「燃料電池車に水素を供給するステーション」においても、水素吸蔵合金から水素を放出させるために水素吸蔵合金に熱を供給する手段が必要であることは、当業者が当然に理解するところであるから、刊行物発明における水素吸蔵合金への熱供給手段である『熱交換器』の設置場所を、「燃料電池車に水素を供給するステーション」とすることは、上記の周知の事項に基いて、当業者が容易になし得ることといえる。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-25 
結審通知日 2009-07-21 
審決日 2009-08-06 
出願番号 特願2004-2637(P2004-2637)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭田 敦  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
植前 充司
発明の名称 供給装置および供給システム  
代理人 久保 司  

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