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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1205603
審判番号 不服2008-11774  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2009-10-15 
事件の表示 特願2002-275262「画像形成装置のクリーニングユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開、特開2004-109837〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年9月20日の出願であって、平成19年8月23日付けで通知された拒絶理由に対して、同年10月10日付けで手続補正書が提出されたが、平成20年4月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月8日付けで審判請求がなされるとともに、同年5月29日付けで手続補正書が提出され、その後、当審の審尋に対する回答書が平成21年6月1日付けで提出されたものである。


第2 平成20年5月29日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年5月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】ハウジングの開口部に対向した感光体の表面に圧接するクリーニングブレード、及び、前記クリーニングブレードによって前記感光体の表面から落下した転写残留トナー及び紙粉を前記ハウジング内で搬送する回収トナー搬送手段を備えた画像形成装置のクリーニングユニットにおいて、
前記ハウジングの開口部と前記回収トナー搬送手段との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材であって、上端よりも下端の開放端が前記感光体に接近するように傾斜している規制部材を設け、
前記ハウジングの底面が前記感光体に近づくほど低くなるように傾斜していることを特徴とする画像形成装置のクリーニングユニット。
【請求項2】金属化合物外添剤が添加されたトナーによりトナー像が形成される前記感光体の表面から転写残留トナー及び紙粉を回収することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置のクリーニングユニット。」

(補正後)
「【請求項1】ハウジングの開口部に対向した感光体の表面に圧接するクリーニングブレード、及び、前記クリーニングブレードによって前記感光体の表面から落下した転写残留トナー及び紙粉を前記ハウジング内で搬送する回収トナー搬送手段を備えた画像形成装置のクリーニングユニットにおいて、
前記ハウジングの開口部と前記回収トナー搬送手段との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材であって、上端よりも下端の開放端が前記感光体に接近するように傾斜している規制部材を設け、
前記回収トナー搬送手段は、その回転軸が前記規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように配置され、
前記ハウジングの底面が前記感光体に近づくほど低くなるように傾斜していることを特徴とする画像形成装置のクリーニングユニット。
【請求項2】金属化合物外添剤が添加されたトナーによりトナー像が形成される前記感光体の表面から転写残留トナー及び紙粉を回収することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置のクリーニングユニット。」

この補正事項は、補正前の請求項1に規定された「回収トナー搬送手段」について、「前記回収トナー搬送手段は、その回転軸が前記規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように配置され」として、その位置を限定するものであり、この点は、本願の【図2】の記載から、一応、理解されるところであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の補正といえる。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平1-161288号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1a)「(産業上の利用分野)
この発明は、静電複写機、同プリンタなど、静電記録プロセスを利用する画像形成装置、とくにそのクリーニング装置に関するものである。」(第1頁左下欄下から第2行?右欄第2行)

(1b)「ただクリーニングブレードは、トナー除去作用はすぐれているが、この種の画像形成装置において、転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物、装置内高圧部材の存在によって生ずるコロナ生成物などで像担持体表面に付着したものに対する除去機能には欠けるところがあるので、これら異物が高湿環境下で低抵抗化してこれが静電潜像を乱し、ひいては画質の劣化を招来する・・・(中略)・・・ようなものもすでに提案されている。」(第2頁左上欄第3行?右上欄第1行)

(1c)「(実施例の説明)
第1図は本発明を、回転円筒状の像担持体をそなえた画像形成装置に適用した実施例を示すものてある。
紙面に垂直方向にのびていて、矢印A方向に回転する像担持体1に平行にクリーニング装置2が近接配置してあり、これに取着したクリーニングブレード3の一方の端縁のひとつのエッジが該像担持体表面に圧接して、不図示の転写部位において転写に寄与せず、像担持体の残る残留トナーをかき落すものとする。
なお、像担持体の周辺には、一次帯電器、光像信号付与手段、現像器、転写手段その他、画像形成に必要な部材が配設してあることは勿論であるが、それらは本発明には直接関係がないので、すべて省略してある。
クリーニングブレード3によってかき落されたトナーは、像担持体表面にゆるやかに圧接された薄板状のすくいシート4によって外部に逸出することなく、クリーニング装置内の、後述する、スペースS内に貯溜されることになる。
クリーニング装置内、前記すくいシート4の奥側適所には滞留壁5が設けてあり、前記すくいシート4との間にトナー滞留用のスペースSを形成してあり、その高さは、すくいシート4の高さよりも若干高くするのが好適である。
このように構成してあるから、クリーニングブレード3によってクリーニング装置内に回収されたトナーは、前記スーース(当審注:スペースの誤記である。)S内に次第に蓄積されていって、図示のように、すくいシート4の頂部をこえて像担持体表面に直接接触した状態となり、トナーの流動性などにもよるが、ブレード3によってかき落されるトナーと、スペースSからこぼれてさらに奥側のトナー貯溜部に至るトナーとがほぼバランスしてこの状態を維持してゆくことになる。
したがって、像担持体に直接接触するトナーによって像担持体表面が摺擦作用をうけて、前述のような異物を除去することになる。
図示の装置においては、前述のように、滞留壁5をすくいシート4よりも高くしてあるが、流動性が悪く凝集しやすいようなトナーを使用する場合には、滞留壁の方を低くしてもトナーを直接像担持体に当接する状態を維持して上記と同様の摺擦作用を期待できる。
第2図は、本発明の他の実施例を示すものであって、後述する実施例においても同様であるが、第1図々示の装置と対応する部分には同一の符号を付して示してあり、それらについてはとくに必要のないかぎり説明を省略する。
この装置においては、クリーニング装置内部を滞留壁51によって、トナー滞留用のスペースとトナー貯溜部に分割するとともに、該滞留壁51に形成した連通用間隙に、常閉で、図示時計方向に回動して該間隙を開放するような弁部材6を配設してある。
このように構成してあるから、スペースS内に回収されたトナーは、ここに貯溜されていって、ある圧力を呈するようになると前記弁部材6が開放されてトナーが該スペースから排出され、以後この状態を維持してスペース内に存在するトナーが摺擦クリーニング作用を奏することになる。
このように構成することにより、前記間隙が開放となるべきトナー圧を、弁部材6の弾性を変えることによって調整して、摺擦クリーニング作用を調整することが可能となる。
第3図は本発明のさらに他の実施例を示すもので、このものにおいては、クリーニング装置内の滞留壁51に形成した連通間隙に、不図示の駆動手段によって図示矢印方向に回転するトナーかき込み部材7を配設してある。
このように構成することによって、クリーニング装置内の奥側にあるトナー貯溜部に収納されるトナーが、前記間隙の存在によってスーース(当審注:スペースの誤記である。)S内に逆戻り傾向となっても、これに抗して強制的にトナーが該貯溜部に収容されてゆくので、トナー貯溜量を増大することができ、また、該かき込み部材を板状部材に形成することによって、それ自体が滞留壁の作用を奏するので、これをクリーニング装置の底部に形成しても同様の作用を得ることができる。
第4図は本発明のさらに他の実施例を示ものてあって、このものにおいては、トナー滞留壁53の下端によって、スペースSとその奥側のトナー貯溜部とが連通しており、このような構成によっても、すくいシート4の上方部分にトナーの堆積を形成して摺擦クリーニング作用を奏せしめることができる。」(第2頁左下欄第11行?第3頁右下欄第8行)

(1d)第1図?第4図は以下のとおり。


(1e)第2図をみると、次のことが理解される。
・クリーニング装置2は、ハウジングというべき筐体を有しており、そのハウジングの開口部に、像担持体1が対向しており、その像担持体1の表面に、クリーニングブレード3が圧接している。
・スペースSは、ハウジングの開口部側にあって、クリーニングブレード3によってかき落されたトナー及び異物(転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物等)が滞留する。
・滞留壁51は、連通用間隙を挟んで、上側の壁、下側の壁(以下、それぞれ「上側滞留壁」「下側滞留壁」という。)にわかれている。
・弾性のある弁部材6は、上側滞留壁の下部のトナー貯溜部側に配設されている。そして、弁部材6は、トナー滞留用のスペースSとトナー貯溜部の両方に面しており、スペースS内に滞留するトナー及び異物(転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物等)がトナー貯溜部に移動する経路中に露出するものといえる。

これら記載事項(特に第2図のもの)によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ハウジングの開口部に対向した像担持体1の表面に圧接するクリーニングブレード3を備えた、画像形成装置のクリーニング装置2において、
ハウジングの開口部側にあるスペースS内に滞留する、クリーニングブレード3によってかき落されたトナー及び異物(転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物等)がトナー貯溜部に移動する経路中に露出する、弾性のある弁部材6であって、上側滞留壁の下部のトナー貯溜部側に配設され、滞留壁51に形成した連通用間隙に対して常閉で、スペースS内に滞留するトナーがある圧力を呈するようになると、連通用間隙を開放し、滞留するトナーがスペースSからトナー貯溜部に排出される、弁部材6を設けた、
画像形成装置のクリーニング装置2。」

(2)刊行物2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2001-42720号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(2a)「【0007】
【作用効果】請求項1記載の画像形成装置によれば、トナー像を担持する回転体である像担持体上のトナー像が転写された後に像担持体上に残留しているトナーが、像担持体の表面に接触するクリーニングブレードによって掻き取られて除去され、この掻き取られたトナーがすくいシートですくわれる。また、前記クリーニングブレードで掻き取られたトナーを前記像担持体の表面に摺接可能に堆積させる堆積用部材が設けられているので、この堆積用部材によって堆積されたトナーによって、像担持体の表面に付着している紙粉等がブレードとの接触部に達する前に捕捉されるようにして除去されることとなる。」

(2b)「【0013】クリーニング装置20は、上記転写後に、感光体10の外周面に残留し付着しているトナー(残留トナー)を掻き取る感光体用ブレード(クリーニングブレード)21と、このブレード21によって掻き取られ、落下するトナー(T)をすくうすくいシート22と、落下するトナーを堆積させる堆積部23と、この堆積部23から溢れ出したトナーを受ける受け部24と、この受け部24内のトナーを図示しない廃トナーボトルに搬送するスクリュー25と、ケース26とを備えている。」

(2c)「【0024】(b)堆積用部材23bが、上方に向かって徐々に像担持体10表面との間隔が大きくなるように構成されているので、前述したトナーTの循環移動が効率よくなされることとなる。したがって、紙粉等が、像担持体の表面11と接する頻度および、クリーニングブレード21と像担持体10との接触部Cに達するおそれがより一層少なくなり、結果として、像担持体の表面11およびこれと当接しているブレード21の先端縁21aが削られてしまうおそれがより一層少なくなる。しかも、堆積用部材23bが、上方に向かって徐々に像担持体表面11との間隔が大きくなるように構成されている結果として、下方においては像担持体表面11との間隔が小さくなっており、その分、画像形成装置の使用初期においてトナーが速やかに堆積されることとなる。」

(2d)図2は以下のとおり。



3.対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「像担持体1」「クリーニングブレード3」「ハウジングの開口部側にあるスペースS内に滞留する、クリーニングブレード3によってかき落されたトナー及び異物(転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物等)」は、本願補正発明の「感光体」「クリーニングブレード」「前記クリーニングブレードによって前記感光体の表面から落下した転写残留トナー及び紙粉」に相当する。
刊行物1記載の発明の「画像形成装置のクリーニング装置2」は、ユニットとして把握することも可能であるので、実質的に、本願補正発明の「画像形成装置のクリーニングユニット」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「トナー貯溜部」と、本願補正発明の「回収トナー搬送手段」のある場所とは、「ハウジング内部のトナー貯留部」の点で共通するから、
刊行物1記載の発明の「ハウジングの開口部側にあるスペースS内に滞留する、クリーニングブレード3によってかき落されたトナー及び異物(転写材としておもに使用される紙から析出するロジン、タルクなどの析出物等)がトナー貯溜部に移動する経路中に露出する、弾性のある弁部材6」と、
本願補正発明の「前記ハウジングの開口部と前記回収トナー搬送手段との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材」とは、
「前記ハウジングの開口部とハウジング内部のトナー貯留部との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材」の点で共通するということができる。

そうすると、両発明の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「ハウジングの開口部に対向した感光体の表面に圧接するクリーニングブレードを備えた画像形成装置のクリーニングユニットにおいて、
前記ハウジングの開口部とハウジング内部のトナー貯留部との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材を設けた、画像形成装置のクリーニングユニット。」

[相違点1]
本願補正発明では、規制部材が、上端よりも下端の開放端が感光体に接近するように傾斜しているのに対し、
刊行物1記載の発明では、そのような特定が規制部材(弁部材6)にない点。

[相違点2]
本願補正発明では、ハウジングの底面が感光体に近づくほど低くなるように傾斜しているのに対し、
刊行物1記載の発明では、そのような特定がない点。

[相違点3]
本願補正発明では、クリーニングブレードによって感光体の表面から落下した転写残留トナー及び紙粉をハウジング内で搬送する回収トナー搬送手段を有し、その回収トナー搬送手段は、その回転軸が規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように配置されているのに対し、
刊行物1記載の発明では、トナー貯留部はあるものの、回収トナー搬送手段の存在について明記されていない点。

次に相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1の第2図をみると、連通用間隙の上側にある「上側滞留壁」であって弁部材6が固定されている位置よりも、連通用間隙の下側にある「下側滞留壁」は、若干、像担持体1(感光体)寄りにあるようにもみえる。
また、弁部材6が、スペースS内に滞留するトナーからの圧力(トナーの重力を含む)を効率的に受けるためには、弁部材6は、若干、上端よりも下端の開放端が感光体に接近するように傾斜させること(その分、重力も受け止め易い)が有利であることは、当業者であれば普通に考えることである。

しかも、刊行物2の上記(2c)には、「堆積用部材23bが、上方に向かって徐々に像担持体表面11との間隔が大きくなるように構成されている結果として、下方においては像担持体表面11との間隔が小さくなっており、その分、画像形成装置の使用初期においてトナーが速やかに堆積されることとなる。」という記載があるから、
刊行物2に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明においても、画像形成装置の使用初期において、スペースS内に速やかにトナーが堆積するために、滞留壁を、多少なりとも、下に行くほど感光体に接近するように傾斜させてみようとするものであり(つまり、刊行物1の第2図では、スペースSの上方にある滞留壁部分が感光体側に突出しているが、更に、その下方の、スペースS部分の滞留壁も、下に行くほど感光体側に接近させる)、そうすると、連通用間隙を開閉する弁部材6も必然的に、上端よりも下端の開放端が感光体に接近するように傾斜することになる。

したがって、刊行物1記載の発明において、規制部材(弁部材6)を、上端よりも下端の開放端が感光体に接近するように傾斜させることは、当業者が容易になし得ることである。

なお、刊行物1の第2図をみると、弁部材6は小さめ(短め)であるが、連通用間隙を大きくして、弁部材6も大きい(長い)ものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願補正発明の規制部材は、「前記ハウジングの開口部と前記回収トナー搬送手段との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する」と規定されるだけであるから、そのサイズ等は特定されておらず(これでは、例えば、ハウジングに剛性の高い支持具が設けられ、その支持具の先端部に、小さな規制部材(弾性体)が取り付けられている態様を含む。)、また、規制部材は、上記移動経路中に露出していればよいものである。そうすると、本願補正発明の規制部材であれば、転写残留トナーの回収量が急激に増大した場合における対応能力が格別に高い(審判請求の理由での主張)とは必ずしもいえない。

(相違点2について)
一般に、クリーニング装置において、ハウジングの底面を傾斜させることはよくなされており、そのうち、ハウジングの底面を感光体に近づくほど低くなるように傾斜させることも、種々の目的から、周知の技術である。例えば、実願昭63-95976号(実開平2-17764号)のマイクロフィルム(各図)、特開平2-221990号公報(第2図)、特開平3-158886号公報(各図)、特開平4-1781号公報(第2図)、特開2002-169434号公報(各図)を参照。

また、刊行物1記載の発明の、弾性のある弁部材6は、滞留壁51に形成した連通用間隙に対して常閉であるが、スペースS内に滞留するトナーがある圧力を呈するようになると、連通用間隙を開放し、これにより、滞留するトナーがスペースSからトナー貯溜部に排出されるものである。
刊行物1の第2図は、連通用間隙が開放されて、トナーがトナー貯留部に排出される状態を示したもので、トナー貯留部にはあまりトナーが堆積しておらず、堆積高さは、弁部材6の高さに到達していない。このようにトナー貯留部に堆積するトナーが増大しても、弁部材6の高さに到達していない場合には、スペースS内の滞留トナー量が多いとき、弁部材6に対する圧力が大きく、弁部材6の弾性による圧力に勝り、連通用間隙が開放されるものといえる(これを以下「第1の態様」という)。
しかし、連通用間隙が開放される状態としては、第1の態様と異なることもあり得る。すなわち、トナー貯留部に堆積するトナーが増大して、弁部材6の高さに到達している場合である。これは、弁部材6を挟んで、スペースS内のトナーとトナー貯留部内のトナーが押し合うような状態で、連通用間隙が弁部材6により閉鎖されたり開放されたりする態様であり(これを以下「第2の態様」という)、本願の図3に類似するものである。このような第2の態様があり得ることは、当業者であれば、簡単に思い付くことである(参考までに、刊行物1の第3図は、弁部材6の代わりに、トナーかきこみ部材7を用いた例ではあるが、連通用間隙の高さを越える量のトナーがトナー貯留部に堆積している状態を示している)。
つまり、第2の態様では、弁部材6に対するスペースS内に滞留するトナーによる圧力が、弁部材6に対するトナー貯溜部におけるトナーによる圧力及び弁部材6自身の弾性による圧力の合計より、若干大きくなり、弁部材6が連通用間隙を開放するものである。そのような状態において、スペースSで滞留するトナーは適度な堆積量となり、感光体に対する摺擦クリーニング作用が良好になされることになる。なお、第2の態様であれば、スペースS内の適度な滞留トナー量は、第1の態様のものよりも、大きくなるから、実際的には、どちらかの態様を選択して、トナー貯留部でのトナー堆積量(トナー貯留部からのトナー排出能力)や弁部材6の弾性等を調整することになろう。
そして、第2の態様では、画像形成装置の使用初期において、そのような均衡する状態を速やかに実現するためには、多少なりとも、ハウジングの底面が感光体に近づくほど低くなるように傾斜させておくこと(それにより、トナー貯溜部において、弁部材6の付近に多くのトナーが速やかに堆積・集積して、弁部材6に対する圧力が早期に得られる)が、有利であることは、刊行物1に接した当業者にとって、明らかである。

次にスペースSに目を転じると、刊行物1の第2図の「下側滞留壁」(51)は、クリーニングブレードによって感光体の表面から落下してくるトナーをスペースS内に確実に留めおき、スペースS内にトナーを堆積させやすくする役割も果たしているといえるから、この点では、請求人が平成19年10月10日付けの意見書で主張した、本願補正発明の相違点2に係る作用効果と同様のことが期待できる。
そして、刊行物1の第2図の「下側滞留壁」(51)からすくいシート4に至るまでの形状としては、上記(相違点1について)で示した「スペースS部分の滞留壁を下に行くほど感光体側に接近させる」ことと相まって、感光体に向けて傾斜をつける程度のことは、当業者が適宜なし得ることである。

以上のことから、刊行物1記載の発明において、ハウジングの底面を感光体に近づくほど低くなるように傾斜させることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点3について)
刊行物1記載の発明には、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)の存在は明記されていない。
しかし、一般に、クリーニング装置において、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)を設けることは、文献を示すまでもなく、周知技術であるから、刊行物1記載の発明において、トナー貯溜部に回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)を設けることは、当業者にとり、何の困難もなく、普通に行うことである。
その際、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)の詳細な設置位置については、
まず、上記(相違点2について)で検討したように、刊行物1記載の発明では、第2の態様において、弁部材6に対するスペースS内に滞留するトナーによる圧力が、弁部材6に対するトナー貯溜部におけるトナーによる圧力及び弁部材6自身の弾性による圧力の合計よりも、若干大きい程度になるように維持して、クリーニングブレードによって感光体の表面からスペースSに落下してくるトナー量と、スペースSからトナー貯溜部へのトナー排出量とを上手にバランスさせて、スペースS内での適度なトナー堆積量を維持することが必要であるから、当業者であれば、この点を考慮して、トナー貯溜部に回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)を設けることは当然である。
そして、そのためには、弁部材6の付近の高さ、ないしはそれ以上の高さで、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)を稼働させることが、弁部材6に対するトナー圧力を調整する上で、効果的であることは当然である。
したがって、刊行物1記載の発明において、本願補正発明のごとく、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)の回転軸が規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように、回収トナー搬送手段を配置することは、当業者が適宜なし得ることである。

なお、本願補正発明は、回収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)の回転軸が規制部材の下端の開放端よりも上側に位置する旨を規定するが、スクリューのサイズが大きい、回転が速く、搬送能力が大きいという場合には、ハウジングの底面近くのトナーも搬出することがあり得るので、請求人の主張する作用効果が常に得られるとまではいえない。
また、請求人は、回答書において、「収トナー搬送手段(搬送スクリュー等)の回転軸が規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように配置する」に代えて、「前記回収トナー搬送手段は、前記ハウジング内の転写残留トナー及び紙粉の表面が前記規制部材の開放端よりも上側に位置するように前記ハウジングの底面から離間して配置され」という補正案を提示するが、そのような事項は、明細書(【0032】等)や図面の記載、技術常識からみても、自明とはいえず、新たな発明を実質的に示すもので、新規事項である。また、仮に新規事項でないとしても、非常に作用的な記載であり、物の発明として構成が特定されないし(クリーニング方法の発明であるかのようである)、また、上記のとおり容易でもある。

(まとめ)
以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年5月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成19年10月10日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】ハウジングの開口部に対向した感光体の表面に圧接するクリーニングブレード、及び、前記クリーニングブレードによって前記感光体の表面から落下した転写残留トナー及び紙粉を前記ハウジング内で搬送する
回収トナー搬送手段を備えた画像形成装置のクリーニングユニットにおいて、
前記ハウジングの開口部と前記回収トナー搬送手段との間の転写残留トナー及び紙粉の移動経路中に露出する弾性部材からなる規制部材であって、上端よりも下端の開放端が前記感光体に接近するように傾斜している規制部材を設け、
前記ハウジングの底面が前記感光体に近づくほど低くなるように傾斜していることを特徴とする画像形成装置のクリーニングユニット。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された次の刊行物の記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。
(1)刊行物1:特開平1-161288号公報
(2)刊行物2:特開2001-42720号公報

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明の「前記回収トナー搬送手段は、その回転軸が前記規制部材の下端の開放端よりも上側に位置するように配置され、」という限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-31 
結審通知日 2009-08-04 
審決日 2009-08-28 
出願番号 特願2002-275262(P2002-275262)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 恭  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 柏崎 康司
伊藤 裕美
発明の名称 画像形成装置のクリーニングユニット  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  
代理人 小澤 壯夫  
代理人 小森 久夫  

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