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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1205627
審判番号 不服2007-14678  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-22 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 特願2003-276460「燃料電池車」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日出願公開、特開2004-327415〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月18日(優先日平成15年4月11日)の出願であって、平成17年12月6日付けで手続補正がされ、平成19年4月16日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年5月22日に審判請求がされたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成17年12月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「ガソリン、メタノール、天然ガス、液化石油ガスなどの燃料と水蒸気とを混合させバッテリーからの電力で作動する加熱手段からの熱により高温状態にして反応させる蒸気発生手段と、二酸化炭素除去手段を有する水素の改質手段とを備える水素生成手段を設けた燃料処理装置を搭載するとともに、酸素供給装置が接続されて前記燃料処理装置で生成される水素を貯蔵する燃料電池と、バッテリーとを駆動源として搭載し、前記燃料電池とバッテリーとを切り替え手段を介してモータに接続したことを特徴とする燃料電池車。」
(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 原査定の理由の概要
原審における拒絶査定(以下、「原査定」という。)の理由は、概略、以下のものである。

本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物2,4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物2:特開2002-10411号公報
刊行物4:特開2002-329519号公報

第4 刊行物4の記載事項
原査定の理由に引用した刊行物4には、以下の事項が記載されている。

[A]「【請求項1】 水素と酸素の化学反応を利用して発電した電力を負荷に供給可能な燃料電池と、前記燃料電池に供給する水素を改質反応により生成させる改質装置を備えた燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池が供給する電力を充電する電気バッファと、
前記改質装置が供給する水素を収容する水素バッファとを備え、
前記燃料電池の発電量に相当する水素量を前記改質装置及び前記水素バッファから放出される水素量で賄い、前記負荷の必要電力を前記燃料電池の発電量及び前記電気バッファから放出される電力で賄うことを特徴とする燃料電池発電システム。」

[B]「【0012】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図1の燃料電池発電システムの全体構成を示すブロック図に示すように、燃料電池発電システム1は、改質装置2で液体の原燃料を改質して得られる水素と、空気供給装置3から供給される空気に含まれる酸素を燃料電池4において電気化学反応させて、電気エネルギを取り出し、この電気エネルギをモータ等を含む電力供給ライン5に供給するものである。
【0013】燃料電池4は、パーフロロカーボンスルホン酸膜等からなる固体電解質膜をアノード極とカソード極で挟持したセルを多数配列させた構造(不図示)を有している。各セルのそれぞれのアノード極に供給された水素は、白金系触媒によりプロトン化(イオン化)し、固体電解質中を移動してカソード極側に到達し、酸素と反応して水を生成する。水素のプロトン化の際に発生する電子は、電流として取り出され、生成した水や未反応ガスは、オフガスとして排出される。」

[C]「【0014】改質装置2は、水・メタノールの混合液からなる原燃料を貯蔵するタンク6を有し、原燃料を空気と混合しつつ蒸発させる燃料蒸発器7、蒸発した水・メタノール及び空気の混合気体を改質して水素を生成させる改質器8、改質時に発生する一酸化炭素(CO)を除去するCO除去器9が、直列に配置されている。CO除去器9を通過した改質ガスに含まれる水素は、燃料電池4のアノード極に供給されるが、その一部を、燃料電池4よりも前段に位置する水素バッファMHB内の水素吸蔵合金に吸蔵させることも可能である。本実施の形態において燃料蒸発器7は、燃料電池4のアノード極から排出されるアノードオフガスに含まれる未利用の水素を燃焼させる触媒燃焼器7aを備え、触媒燃焼器7aで発生させた熱を用いて原燃料を蒸発させている。さらに、改質装置2の触媒燃焼器7a、改質器8、CO除去器9のそれぞれには燃焼を促進させたり、反応を調整したりするための空気が導入可能な不図示の空気供給ラインを有している。」

[D]「【0017】電力供給ライン5は、燃料電池4の電流取り出しポートに電気的に接続されたモータや、車内用エアコン、照明類、メータ等の補機類からなる負荷12と、燃料電池4に対して負荷12と並列に接続され、余剰電力を蓄電できる電気バッファCAPAとを有している。ここで、燃料電池4から取り出される電流値の制御や、電気バッファCAPAへの電力供給の切り換えは、図示しない制御回路で行われている。
【0018】本実施の形態において電気バッファCAPAは、電気二重層コンデンサであり、例えば1kWhの容量を有している。この電気バッファCAPAは、燃料電池4が発電した電力の一部や、自動車の制動時の回生エネルギを電気エネルギとして蓄えることができる。燃料電池発電システム1の起動時や、出力変化の過渡期において、この電気バッファCAPAから負荷12に電力を供給することで、起動までの時間を短縮化する等して、燃料電池発電システム1の応答性を高めている。」

[E]「【0042】なお、本発明は前記の実施の形態に限定されずに広く応用、変形させることができる。例えば、…電気バッファCAPAは、電気二重層コンデンサに限らず、電気を充放電できるものであれば良い。」

第5 当審の判断
1.刊行物に記載された発明
ア 刊行物4の[A]には、「水素と酸素の化学反応を利用して発電した電力を負荷に供給可能な燃料電池と、前記燃料電池に供給する水素を改質反応により生成させる改質装置を備えた燃料電池システム」であって、「前記燃料電池が供給する電力を充電する電気バッファ」と、「前記改質装置が供給する水素を収容する水素バッファ」とを備え、「前記燃料電池の発電量に相当する水素量を前記改質装置及び前記水素バッファから放出される水素量で賄い」、「前記負荷の必要電力を前記燃料電池の発電量及び前記電気バッファから放出される電力で賄う…燃料電池システム」が記載されており、[B]?[E]には、上記燃料電池システムの実施の形態が記載されている。

イ [B]の「改質装置2で液体の原燃料を改質して得られる水素と、空気供給装置3から供給される空気に含まれる酸素を燃料電池4において電気化学反応させて、電気エネルギを取り出し」の記載、及び[C]の「CO除去器9を通過した改質ガスに含まれる水素は、燃料電池4のアノード極に供給されるが、その一部を、燃料電池4よりも前段に位置する水素バッファMHB内の水素吸蔵合金に吸蔵させることも可能である。」の記載によると、この燃料電池システムの「燃料電池」は、『空気供給装置が接続されて』いるとともに、『改質装置で生成された水素を貯蔵する水素バッファ』を有するといえる。

ウ また、[C]の「改質装置2は、水・メタノールの混合液からなる原燃料を貯蔵するタンク6を有し、原燃料を空気と混合しつつ蒸発させる燃料蒸発器7、蒸発した水・メタノール及び空気の混合気体を改質して水素を生成させる改質器8、改質時に発生する一酸化炭素(CO)を除去するCO除去器9が、直列に配置されている」、「燃料蒸発器7は、燃料電池4のアノード極から排出されるアノードオフガスに含まれる未利用の水素を燃焼させる触媒燃焼器7aを備え、触媒燃焼器7aで発生させた熱を用いて原燃料を蒸発させている」の記載によれば、この燃料電池システムの「改質装置」は、『メタノールと水とを混合させ、触媒燃焼器で発生させた熱により高温状態にして水・メタノールの混合蒸気を発生させる燃料蒸発器、前記混合蒸気を改質して水素を生成させる改質器、COを除去するCO除去器』とを備えると認められる。

エ そして、[D]の「電力供給ライン5は、燃料電池4の電流取り出しポートに電気的に接続されたモータや、車内用エアコン、照明類、メータ等の補機類からなる負荷12と、燃料電池4に対して負荷12と並列に接続され、余剰電力を蓄電できる電気バッファCAPAとを有している」、「電気バッファCAPAは、電気二重層コンデンサであり、…燃料電池4が発電した電力の一部や、自動車の制動時の回生エネルギを電気エネルギとして蓄えることができる。燃料電池発電システム1の起動時や、出力変化の過渡期において、この電気バッファCAPAから負荷12に電力を供給する」の記載によれば、この燃料電池システムは、『燃料電池車』に用いられ、『燃料電池と電気バッファとをモータを含む負荷の駆動源として搭載している』とともに、燃料電池発電システムの起動時や、出力変化の過渡期には、モータを含む負荷に対して電気バッファから電力供給が行えるように、すなわち、『燃料電池と電気バッファとを切換手段を介してモータに接続している』ものと認められる。

オ さらに、[E]の記載によると、この電気バッファは、「電気二重層コンデンサに限らず、電気を充放電できるもの」である。

カ 以上の記載によると、刊行物4には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる。

『メタノールと水とを混合させ、触媒燃焼器で発生させた熱により高温状態にして水・メタノールの混合蒸気を発生させる燃料蒸発器、前記混合蒸気を改質して水素を生成させる改質器、COを除去するCO除去器とを備える改質装置を搭載するとともに、空気供給装置が接続されて、前記改質装置で生成された水素を貯蔵する水素バッファを有する燃料電池と、電気を充放電できる電気バッファとを駆動源として搭載し、燃料電池と電気バッファとを切換手段を介してモータに接続した燃料電池車』

2.対比
ア 本願発明(前者)と刊行物発明(後者)とを、以下に対比する。

イ 後者の『メタノールと水とを混合させ、触媒燃焼器で発生させた熱により高温状態にして水・メタノールの混合蒸気を発生させる燃料蒸発器』は、メタノールと水を混合し、加熱手段からの熱により高温状態のメタノール蒸気と水蒸気とするものであり、後者の『前記混合蒸気を改質して水素を生成させる改質器』は、この高温状態の混合蒸気を改質して水素を生成するものであるから、後者の上記『燃料蒸発器』と上記『改質器』とは、併せて、前者の「…メタノール…燃料と水蒸気とを混合させ…加熱手段からの熱により高温状態にして反応させる蒸気発生手段」に相当する。

ウ 後者の『改質装置』は、メタノールを改質して水素を生成する手段を有する燃料処理装置といえるから、前者の「水素生成手段を設けた燃料処理装置」に相当する。

エ 後者の『空気供給装置』、『前記改質装置で生成された水素を貯蔵する水素バッファを有する燃料電池』は、それぞれ前者の「酸素供給装置」、「前記燃料処理装置で生成される水素を貯蔵する燃料電池」に相当し、後者の『電気を充放電できる電気バッファ』は、前者の「バッテリー」を含むものである。

オ そうすると、両者は、以下の一致点、及び相違点を有するものと認められる。

<一致点>
メタノール燃料と水蒸気とを混合させ、加熱手段からの熱により高温状態にして反応させる蒸気発生手段を備える水素生成手段を設けた燃料処理装置を搭載するとともに、酸素供給装置が接続されて前記燃料処理装置で生成される水素を貯蔵する燃料電池と、電気を充放電できる電気バッファとを駆動源として搭載し、前記燃料電池と電気を充放電できる電気バッファとを切り替え手段を介してモータに接続した燃料電池車」

<相違点>
相違点1:前者は、蒸気発生手段において、「バッテリーからの電力で作動する加熱手段からの熱」により高温状態とするのに対して、後者は、『触媒燃焼器で発生させた熱』により高温状態とする点
相違点2:前者は、水素生成手段が「二酸化炭素除去手段を有する水素の改質手段」を有するのに対して、後者は、二酸化炭素除去手段を有する水素の改質手段を有するのか不明である点
相違点3:前者は、駆動源として搭載する電気を充放電できる電気バッファが、「バッテリー」であるのに対して、後者は、「バッテリー」に特定されない点

3.判断
(1)相違点1について
刊行物2の【0008】、【0012】の記載によると、燃料電池に用いる液体燃料の蒸気発生手段において、触媒燃焼器による燃焼熱を利用するか、電気ヒーターの通電による熱を利用するかは、当業者が適宜選択し得る設計事項と認められるところ、燃料電池で発生した電力を蓄電池(バッテリー)を経由して電気ヒーターを含む負荷に供給することは、刊行物2の図1において、バッテリー2から水素供給装置5に至る矢印が他の電気供給路9,12,13と同じく電気供給路を示していると認められる点や、原査定の拒絶理由で引用文献1として引用した特開平9-147897号公報(以下、「周知文献」という。)の【0030】、【0031】の記載からみて、周知の事項であると認められる。
したがって、刊行物発明において、触媒燃焼器で発生させた熱により蒸気発生手段を高温状態にすることに代えて、燃料電池で発生しバッテリーを経由した電力で作動する電気ヒータからの熱により高温状態とすることは、刊行物2の記載事項及び上記周知の事項に基いて当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
メタノールと水蒸気との反応により水素の改質を行うと、二酸化酸素が生成されることは、周知文献の【0005】に記載の化学反応の機序により自明の事項であって、より高純度の水素ガスを燃料電池に供給するために、改質ガス中の二酸化炭素を分離除去して燃料電池に供給することは、周知文献の【0033】や、特開平1-213965号公報の特許請求の範囲に記載されるように周知の事項であると認められる。
そうすると、刊行物発明の水素生成手段において、より高純度の水素ガスを燃料電池に供給するために、二酸化炭素除去手段を有する水素の改質手段をさらに設けることは、上記の周知の事項に基いて当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点3について
「電気を充放電できる電気バッファ」として、「バッテリー」は周知慣用のものであるから、刊行物発明における「電気を充放電できる電気バッファ」として、「バッテリー」を選択することは、単なる設計事項である。

(4)小括
したがって、本願発明は、刊行物発明、刊行物2の記載事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-02 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-12 
出願番号 特願2003-276460(P2003-276460)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
植前 充司
発明の名称 燃料電池車  
代理人 久保 司  

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