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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1205747
審判番号 不服2006-26255  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-21 
確定日 2009-10-19 
事件の表示 平成 8年特許願第222614号「愛玩動物用しつけ剤」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月10日出願公開、特開平10- 67603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年8月23日の出願であって、平成18年6月23日付けで拒絶理由が通知されたのち同年10月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月21日に審判請求がされ、さらに同年12月20日に手続補正書とともに審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、その後、平成20年12月3日付けで審尋がされ、平成21年2月2日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年12月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年12月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年12月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)には、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】 愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分と揮発性の低い有効成分を配合したことを特徴とする愛玩動物用しつけ剤。
【請求項2】 揮発性の高い有効成分として、ミント系香料、シトラス系香料、グリーン系香料の成分から選ばれた少なくとも一種とし、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料の成分から選ばれた少なくとも一種としたことを特徴とする請求項1記載の愛玩動物用しつけ剤。
【請求項3】 剤形をエアゾール剤としたことを特徴とする請求項1または2記載の愛玩動物用しつけ剤。」

「【請求項1】愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分として、ミント系香料、シトラス系香料(但し、リモネン、シトラール、ゲラニオールを含んだシトラス系香料を除く)、グリーン系香料の成分から選ばれた少なくとも一種と、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合したエアゾール剤、液剤、乳剤のいずれかとし、噴霧処理した場合に香りが最初は揮発性の高い香料のものから、その後揮発性の低い香料のものへと変化して、愛玩動物に対して、匂いの受容器レベルでの順応を起こりにくくさせたことを特徴とする愛玩動物用しつけ剤。」
とする補正事項を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の有無及び補正の目的について
上記補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除すると共に、請求項1の引用形式であった請求項2を独立形式として請求項1とし、さらにシトラス系香料については、但し、リモネン、シトラール、ゲラニオールを含んだシトラス系香料を除く、とし、ラベンダー系材料については、但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く、として香料の種類を限定するものである。
よって、かかる補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、しかも補正前の請求項2に係る発明とその補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 明細書のサポート要件について
特許法第36条第6項は、「・・・特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、本願の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

イ 本願明細書の特許請求の範囲の記載について
平成18年12月20日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には、
「愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分として、ミント系香料、シトラス系香料(但し、リモネン、シトラール、ゲラニオールを含んだシトラス系香料を除く)、グリーン系香料の成分から選ばれた少なくとも一種と、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合したエアゾール剤、液剤、乳剤のいずれかとし、噴霧処理した場合に香りが最初は揮発性の高い香料のものから、その後揮発性の低い香料のものへと変化して、愛玩動物に対して、匂いの受容器レベルでの順応を起こりにくくさせたことを特徴とする愛玩動物用しつけ剤。」と記載されている。

ウ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
平成18年12月20日付けの手続補正による補正後の明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項a
「【発明の属する技術分野】この発明は、愛玩動物に排尿場所をしつけたり、いたずらされたくない場所等に近づかせないようにしつけるためのしつけ剤に関するものである。」(段落【0001】)

・摘示事項b
「【従来の技術】従来、この種の愛玩動物用しつけ剤としては、愛玩動物の嫌う香料を排尿をさせたくない場所や、引っ掻いたり噛んだり等のいたずらされたくない場所等に噴霧するものとしていた。この愛玩動物用しつけ剤は、一種の揮発性有効成分のみが配合されていたり、あるいは二種以上の揮発性有効成分が配合されていても、同様の揮発度を有するものが配合されていた。
したがって、揮発性有効成分の匂いとしては、最初から最後までほとんど変化することはなく、そのままの匂いが弱くなっていくだけであった。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の愛玩動物用しつけ剤は、揮発性有効成分が上記のような配合であったため、愛玩動物がその匂いに慣れてしまい、持続時間が三時間ほどで非常に短く、しつけ効果が低いという課題を有していた。
そこで、この発明は、二種以上の揮発性有効成分を配合してなる愛玩動物用しつけ剤において、対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供することを目的としてなされたものである。」(段落【0002】?【0005】)

・摘示事項c
「【課題を解決するための手段】
そのため、この発明の愛玩動物用しつけ剤は、愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分として、ミント系香料、シトラス系香料(但し、リモネン、シトラール、ゲラニオールを含んだシトラス系香料を除く)、グリーン系香料の成分から選ばれた少なくとも一種と、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合したエアゾール剤、液剤、乳剤のいずれかとし、噴霧処理した場合に香りが最初は揮発性の高い香料のものから、その後揮発性の低い香料のものへと変化して、愛玩動物に対して、匂いの受容器レベルでの順応を起こりにくくさせたものとしている。」(段落【0006】)

・摘示事項d
「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の高い有効成分として、メントール、メントン、シネオール等を含んだミント系香料、リモネン、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール等を含んだシトラス系香料、青葉アルコール、青葉アルデヒド等を含んだグリーン系香料の成分が挙げられる。そして、ミント系香料としては、ペパーミント油、スペアミント油等が用いられ、シトラス系香料としては、レモン油、オレンジ油等が用いられ、グリーン系香料としては、ユーカリ油、ゼラニウム油等が用いられる。
また、この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の低い有効成分として、リナリルアセテート、リナロール等を含んだラベンダー系香料の成分が挙げられる。そして、ラベンダー系香料としては、ラベンダー油、ラバンジン油等が用いられる。」(段落【0010】【0011】)

・摘示事項e
「そこで、この発明の愛玩動物用しつけ剤をシトラス系香料とミント系香料とラベンダー系香料を配合したエアゾール剤とし、排尿をさせたくない場所に噴霧処理した場合には、香りが、最初は揮発性の高い香料のものから、その後揮発性の低い香料のものへと変化する。犬の場合、一般的に嗅覚刺激が連続的に与えられた場合には受容器レベルで短時間に順応が起こり、その匂いを感じなくなる傾向が認められる。しかしこのような場合にも、別の異なった匂いに対しては、充分に匂いを感じることができ、選択疲労と呼ばれる現象があることが知られている。したがって、この発明の愛玩動物用しつけ剤が噴霧処理された場所では、数時間レベルで香りが変化することになり、犬、猫等の愛玩動物に対して、匂いの受容器レベルでの順応(慣れ)を起こりにくくさせる。
すなわち、この発明の愛玩動物用しつけ剤は、噴霧後、その香りが「シトラスミント」から「ラベンダー」に変化する。これは、シトラス系香料とミント系香料の揮発性が、ラベンダー系香料の揮発性より高いため、両者の揮発量のバランスが時間と共に変化していくからである。
これを実証するため、上記この発明の愛玩動物用しつけ剤を噴霧処理した直後の濾紙上の成分と、噴霧処理した後室内に放置し4時間後に濾紙上に残る成分を回収して、ガスクロマトグラフ分析により成分組成比を比較した。図1(噴霧処理直後)、図2(4時間後)にその結果を示したが、明らかに揮発性の高い香料の減少量が多くなることが確認された。
図1


図2


」(段落【0013】?【0015】)

・摘示事項f
「【実施例】(実施例1?3、比較例1、2)表1に示す量(単位:g)の香料を配合したこの発明の愛玩動物用しつけ剤と従来の愛玩動物用しつけ剤を噴霧処理した濾紙上に、市販のドッグフードを置き、犬の接近および摂食状況を経時的に観察した。結果を表2に示す。なお、表2中、しつけ効果のあるものは(○)、しつけ効果のないものは(×)とした。
【表1】


【表2】


」(段落【0016】?【0018】)

・摘示事項g
「【発明の効果】この発明の愛玩動物用しつけ剤は、以上に述べたように構成されているので、排尿をさせたくない場所やいたずらされたくない場所等に噴霧すると、その持続時間が長いので、しつけ効果の高いものとなる。」(段落【0019】)

エ 本願補正発明の課題について
上記摘示事項a「【発明の属する技術分野】この発明は、愛玩動物に排尿場所をしつけたり、いたずらされたくない場所等に近づかせないようにしつけるためのしつけ剤に関するものである。」、及び上記摘示事項b「【従来の技術】従来、この種の愛玩動物用しつけ剤としては、愛玩動物の嫌う香料を排尿をさせたくない場所や、引っ掻いたり噛んだり等のいたずらされたくない場所等に噴霧するものとしていた。この愛玩動物用しつけ剤は、一種の揮発性有効成分のみが配合されていたり、あるいは二種以上の揮発性有効成分が配合されていても、同様の揮発度を有するものが配合されていた。
したがって、揮発性有効成分の匂いとしては、最初から最後までほとんど変化することはなく、そのままの匂いが弱くなっていくだけであった。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の愛玩動物用しつけ剤は、揮発性有効成分が上記のような配合であったため、愛玩動物がその匂いに慣れてしまい、持続時間が三時間ほどで非常に短く、しつけ効果が低いという課題を有していた。
そこで、この発明は、二種以上の揮発性有効成分を配合してなる愛玩動物用しつけ剤において、対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供することを目的としてなされたものである。」からすると、
本願補正発明の課題は、愛玩動物に排尿場所をしつけたり、いたずらされたくない場所等に近づかせないようにしつけるためのしつけ剤において、「対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供する」ことと認められる。

オ 特許請求の範囲に記載された発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
(ア)発明の詳細な説明(実施例を除く)の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)には、「対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供する」という課題に関し、上記摘示事項cには「【課題を解決するための手段】そのため、この発明の愛玩動物用しつけ剤は、愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分として、ミント系香料、シトラス系香料(但し、リモネン、シトラール、ゲラニオールを含んだシトラス系香料を除く)、グリーン系香料の成分から選ばれた少なくとも一種と、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合したエアゾール剤、液剤、乳剤のいずれかとし、噴霧処理した場合に香りが最初は揮発性の高い香料のものから、その後揮発性の低い香料のものへと変化して、愛玩動物に対して、匂いの受容器レベルでの順応を起こりにくくさせたものとしている。」と本願請求項1と同じ事項については記載されている。
一方、具体的なラベンダー系香料に関しては、摘示事項dに、「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の低い有効成分として、リナリルアセテート、リナロール等を含んだラベンダー系香料の成分が挙げられる。そして、ラベンダー系香料としては、ラベンダー油、ラバンジン油等が用いられる。」と記載されている。
そして、「香料の辞典」(藤巻正生ら 1982年8月20日 初版第4刷の第361ページ)には、ラベンダー油の組成は、酢酸リナリル(35?55%)、リナロール(15?20%)、3-オクタノン、ラバンジュロールとなっており、ラバンジン油の組成も、リナロール(15?20%)、酢酸リナリル(20%)、カンファー、シネオール、ボルネオールであることが示されている。すなわち、リナリルアセテート、リナロールはラベンダー系香料の主成分であり、本願明細書の発明の詳細な説明には、ラベンダー系香料としては、リナロールを含むものしか具体的に開示していない。
ところで、ラベンダー油等のエッセンシャルオイルは複数の化学物質の成分からなるものであるところ、一般的に、動物に対する忌避剤等の動物に対してある種の生理活性を発現させる化学物質を利用する発明においては、配合成分の化学構造からその効能を正確に予測することは困難であるから、発明の詳細な説明には、オイル中のどの成分が効能を発揮しているか等の効能を裏付けるデータまたはそれと同一視できる程度の記載が求められるものである。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)においては、「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の低い有効成分として、リナリルアセテート、リナロール等を含んだラベンダー系香料の成分が挙げられる。」とあるだけで、具体的にラベンダー系香料に含まれるどの成分が動物に対する忌避作用を示すのかは明確にしていない。
このため、ラベンダー油やラバンジン油がそこに含まれる成分の集合として、動物に対する忌避効果を示すことが本願明細書の発明の詳細に仮に記載されていたとしても、具体的にどの成分が動物に対する忌避作用を示すのか不明である発明の詳細な説明の記載から、リナロールを含まないラベンダー系香料なるものが、ラベンダー油やラバンジン油と同等な効果を奏するとまでは当業者の技術常識を考慮しても認めることはできない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)の記載により、「揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合した・・・愛玩動物用しつけ剤」が、「対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供する」という本願補正発明の課題を解決し得るものとは認められない。

(イ)実施例の記載について
実施例は、香料として単にシトラス系、ミント系、グリーン系、ラベンダー系とあるだけで、それらの香料がどのような成分から構成されているのか何ら明らかにしていない。
ところで、発明の詳細な説明において、「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の低い有効成分として、リナリルアセテート、リナロール等を含んだラベンダー系香料の成分が挙げられる。そして、ラベンダー系香料としては、ラベンダー油、ラバンジン油等が用いられる。」とあることから、実施例で使用されるラベンダー系香料として、ラベンダー油、ラバンジン油のいずれかを使用していると想定される。しかしながら、上記(ア)に示したようにラベンダー油、ラバンジン油はリナロールを主成分とするものである。
そして、先にも示したように、一般的に、動物に対する忌避剤等の動物に対してある種の生理活性を発現させる化学物質を利用する発明においては、配合成分の化学構造からその効能を正確に予測することは困難であるから、発明の詳細な説明には、オイル中のどの成分が効能を発揮しているか等の効能を裏付けるデータまたはそれと同一視できる程度の記載が求められるものである。
してみると、香料として、具体的にどのような成分が配合されているのか明らかにされておらず、仮にその香料がラベンダー油、ラバンジン油等のリナロールを含むラベンダー系香料を用いているとされる実施例の記載から、当業者の技術常識を参酌しても、リナロールを含まないラベンダー系香料が動物に対する忌避効果を示すとは当業者が予測することはできない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、本願明細書の実施例の記載により、揮発性の低い有効成分として、ラベンダー系香料(但し、リナロールを含んだラベンダー系香料を除く)の成分から選ばれた少なくとも一種を配合した・・・愛玩動物用しつけ剤が、「対象となる愛玩動物に慣れを起こさせずにその持続時間を長くし、しつけ効果の高い愛玩動物用しつけ剤を提供する」という本願補正発明の課題を解決し得るものとは認められない。

カ 小活
以上のとおり、本願補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも認められないので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合せず、本願が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしてしないから、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成18年12月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分と揮発性の低い有効成分を配合したことを特徴とする愛玩動物用しつけ剤。」(以下、「本願発明1」という。)

2 原査定の理由1及び刊行物
拒絶査定における拒絶の理由1の概要は、本願発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
刊行物1:特開平1-110602号公報(拒絶理由における刊行物3)

3 刊行物1の記載事項
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項1-a
「リモネン、リナロール及びシトラールのうちから選択された1種又はこれらの任意の2種以上を組合せてなるものを主材とすることを特徴とする猫忌避剤。」(特許請求の範囲)

・摘示事項1-b
「産業上の利用分野
この発明は、猫によって食い散らされ又は住み家とされては困るとき、そのようなことを防止する手段を提供するものである。」(第1ページ左欄第12?15行)

・摘示事項1-c
「このような忌避剤調合物又はそれを主材とする調整物を使用するに当っては、その使用法も様々である。最も簡単な方法としては猫の常宿する場所又は常宿にされたくない場所に粉末状の本発明忌避剤を散布するとか液状にしたものを噴霧するのである。・・・(中略)・・・噴霧するには格別の手段を要しない。旧来のポンプ利用による噴霧器によるもよく、又はハロンガスなどを使ったエアロゾル噴霧によってもよい。」(第2ページ右上欄第18行?右下欄第5行)

・摘示事項1-d
「実施例2
リモネン8g、リナロール1g、シトラール1gよりなる混合物10gをエチルアルコール90gに溶解した。これに展着剤12-オキサヘキサデカノリドを0.2g加えたものを忌避剤調整物とし、魚の骨を入れたポリエチレン袋10個のうち5個の袋内部に噴霧し、残りの5個は噴霧しないで置いた。これらの夫々の5個を約10mはなして一夜路上に放置したところ、噴霧した5個は1袋も噛み破れていなかったが無処理のものは5個のうち4個が噛み破れていた。
実施例3
実施例2と同じく、リモネン8g、リナロール1g、シトラール1gよりなる混合物10gをエチルアルコール90gに溶解し、これに展着剤12-オキサヘキサデカノリドを0.2g加えたものを忌避剤調整物とした。これを猫が常に排泄(糞・尿)する場所にスプレーで噴霧しておいたところ、その場所には排泄しなくなった。」(第2ページ右下欄第17行?第3ページ左上欄第16行)

・摘示事項1-e
「発明の効果
本発明の効果はいうまでもなく猫による食害や異臭の付着防止かできることである。殊に最近は家庭から出るゴミを入れる袋にうすいポリエチレンの袋がよく利用されているが、これを前夜のうちにゴミ箱とか家の角に出しておくと、朝、回収されるまでにしばしば猫に噛み破られて内容物のゴミが散乱し難澁することがある。これを防止するにはポリエチレン袋の内又は外に本件忌避剤を散布ないし噴霧しておくと極めて効果的である。」(第3ページ左上欄第19行?右上欄第7行)

4 刊行物1に記載された発明
上記摘示事項1-aには、「リモネン、リナロール及びシトラールのうちから選択された1種又はこれらの任意の2種以上を組合せてなるものを主材とすることを特徴とする猫忌避剤。」とある。
さらに、刊行物1の上記摘示事項1-dには、猫忌避剤の具体例に関し、
「実施例3
実施例2と同じく、リモネン8g、リナロール1g、シトラール1gよりなる混合物10gをエチルアルコール90gに溶解し、これに展着剤12-オキサヘキサデカノリドを0.2g加えたものを忌避剤調整物とした。」と記載されている。
してみると、上記刊行物1には、
「リモネン、リナロール及びシトラールよりなる混合物を主材とした猫忌避剤。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

5 対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比する。
本願明細書の段落【0001】には、「【発明の属する技術分野】この発明は、愛玩動物に排尿場所をしつけたり、いたずらされたくない場所等に近づかせないようにしつけるためのしつけ剤に関するものである。」と記載されていることから、引用発明の「猫忌避剤」は、本願発明1の「愛玩動物のしつけ剤」に相当する。
また、引用発明の「リモネン、リナロール及びシトラールよりなる混合物」は、その混合物を主材としたものが猫忌避剤となるのであるから、引用発明の「リモネン、リナロール及びシトラールよりなる混合物」は、本願発明1の「愛玩動物の嫌う香料」に相当する。
そして、本願明細書の段落【0010】によれば、「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の高い有効成分として、・・・リモネン、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール等を含んだシトラス系香料・・・が挙げられる。」とある。してみると、引用発明の「リモネン」及び「シトラール」は本願発明1の「揮発性の高い有効成分」に相当する。
さらに、本願明細書の段落【0011】によれば、「この発明の愛玩動物用しつけ剤に配合する揮発性の低い有効成分として、リナリルアセテート、リナロール等を含んだラベンダー系香料の成分が挙げられる。」とある。してみると、引用発明の「リナロール」は、本願発明1の「揮発性の低い有効成分」に相当する。
よって、両者は、「愛玩動物の嫌う香料であって、揮発性の高い有効成分と揮発性の低い有効成分を配合したことを特徴とする愛玩動物用しつけ剤」である点で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明である。

5 まとめ
よって、本願発明1は、本願特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-21 
結審通知日 2009-08-24 
審決日 2009-09-07 
出願番号 特願平8-222614
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 537- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 細井 龍史
西川 和子
発明の名称 愛玩動物用しつけ剤  
代理人 辻本 一義  
代理人 辻本 希世士  
代理人 上野 康成  

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