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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1205889
審判番号 不服2005-4062  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-09 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 特願2003-338683「液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日出願公開、特開2004- 90651〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年2月18日に出願された特願平9-49764号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願としたものとして、平成15年9月29日に出願されたものであって、平成16年10月22日付け拒絶理由通知(最後)に応答して平成16年12月27日付けで手続補正がされたが、平成17年1月31日付けで当該平成16年12月27日付け手続補正に対する補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成17年3月9日付けで審判請求がされたものである。

第2 平成16年12月27日付け手続補正に対する補正却下の決定の要旨
1.平成16年12月27日付け手続補正の特許請求の範囲請求項1についての補正は限定的減縮を目的とする。

2.上記本願特許請求の範囲請求項1の記載は、下記の点(1)乃至(2)で、特許法第36条に規定された要件を満たしていないので、独立して特許を受けることができない。
(1)当該補正後の請求項1に記載された「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない」という事項は、本願明細書の発明の詳細な説明に一切記載されていない。
(2)「研磨しうる弾性体」とは、どのような物性や特性を有する物質を指すのか、その基準又は程度が不明瞭であり、樹脂凸版を構成する材料が単に「研磨しうる弾性体ではない」と特定されていても、その技術内容が明確に理解できない。
よって、この補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。

第3 請求の理由の趣旨
請求人は審判請求書の【請求の理由】(平成17年6月30日付け手続補正書(方式)参照)【原査定が取り消されるべき理由】欄において、以下の1.乃至2.の旨を、同【本件各発明が特許されるべき理由】欄において、以下の3.の旨を主張する。
1.原審審査官が行った第二回手続補正書による補正却下の決定は、誤っており、取り消されるべきである。そして、補正却下の決定が取り消されれば、本件各発明の要旨は、平成16年12月27日付けの手続補正書(以下、「第二回手続補正書」という。)に記載したとおりのものとなる。原審審査官は、本件各発明の要旨を、第二回手続補正書による補正を却下したため、平成16年10月1日付けの手続補正書(以下、「第一回手続補正書」という。)に記載されたものとして認定しているから、原査定は、本件各発明の要旨を誤った違法があり、取り消されるべきである。

2.第二回手続補正書による補正却下の決定が、誤りとする理由を以下の(1)乃至(2)とする。
(1)原審審査官は、上記したように、本件請求項1には、「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版には如何なる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない」という事項は、本願明細書の発明の詳細な説明に一切記載されていないと、説示している。
しかしながら、この事項は、最後の拒絶理由通知で引用された引例1(特公平3-74380号公報)に記載された技術を除くために、追加した事項である。この事項は、平成16年12月27日付け意見書(以下、「第二回意見書」という。)において、加入事項(ii)として説明されているものである(第二回意見書、第2頁第13?16行目)。そして、この加入事項(ii)が、引例1記載の技術を除く趣旨であることも、第二回意見書で述べられている(第二回意見書、第2頁第23?28行目)。したがって、この加入事項(ii)「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないか、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版には如何なる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない」が追加された本件請求項1の記載は、いわゆる「除くクレーム」に該当する。
「除くクレーム」の場合、除く趣旨で加入された事項について、その事項を発明の詳細な説明で記載する必要はない。なぜなら、「除くクレーム」は、その技術的思想は全く異なるが、たまたま先行技術と重複するために新規性等を欠くこととなる発明について、認められたものだからである(参考資料1「特許・実用新案審査基準 第III 部」、第5頁下から6行目乃至下から3行目)。また、参考資料1の補正に関する事例集においても、「除くクレーム」は、特許請求の範囲に除く事項を記載すればよいだけであり、発明の詳細な説明の記載は、当初のままとなっている(参考資料1、第35頁の事例19)。
したがって、加入事項(ii)「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないか、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版には如何なる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない」が、本件発明の詳細な説明に記載されていないことを理由して、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条(原審審査官は特許法第36条としか説示していないが、特許法第36条第6項第1号と解される。)に規定された記載要件を満たしていないと認定するのは、誤りである。
(上記下線部は当審において加入した。)

(2)
(2-1)「研磨しうる弾性体」というのは、引例1に記載されている用語であり、この用語を用いて、「除くクレーム」を記載したのであり、何ら不明確ではない。

(2-2) 原審審査官は、最後の拒絶理由通知において、・・・引例1に記載された「天然ゴムの層1、研磨しうる弾性体の層」が、本件請求項1の「金属板又は合成樹脂板」に相当すると説示している。このように原審審査官が説示しているところから、「研磨しうる弾性体の層」の用語は明確である。なぜなら、「研磨しうる弾性体の層」が不明確であるならば、それが、「金属板又は合成樹脂板」に相当するか否か不明な筈だからである。
したがって、この「研磨しうる弾性体」が不明確であるとする原審審査官の認定は、自らが発した最後の拒絶理由通知の説示と矛盾し、誤っている。
したがって、この「研磨しうる弾性体」が不明確であるとする原審審査官の認定は、自らが発した最後の拒絶理由通知の説示と矛盾し、誤っている。

(2-3)引例1に記載された「研磨しうる弾性体」という用語は、何ら不明確でものではない。引例1に記載された「研磨しうる弾性体」とは、最後の拒絶理由通知で「天然ゴムの層1、研磨しうる弾性体の層」と説示しているとおり、天然ゴムで代表されるような適度のクッション性を持った層である。そして、この「研磨しうる弾性体」は、引例1の特許請求の範囲第1項に
「1000ミクロンまでの厚さを有する研磨しうる弾性体の層を、光重合しうる液体の、化学線照射による露光によって生成せしめた光重合した弾性体材料の層に、支持体層を介して又は介することなく、しっかりと結合させて含んでなり、該研磨しうる弾性体の層が研磨されていることにより均一な厚さを有していることを特徴とするフレキソグラフ印刷版。」(引例1、第1頁特許請求の範囲第1項)
と記載されているように、均一な厚さとなるように研磨されるものである。
したがって、「研磨しうる弾性体」とは、天然ゴムに代表されるような弾性体であって、研磨しうるものであり、何ら不明確ではない。

(2-4)本件請求項1で用いる「金属板又は合成樹脂板」は、「他の層に比べて高剛性の金属板又は合成樹脂板」であり、一般的には、適度のクッション性を持った柔軟な天然ゴム等の弾性体でない。また、本件各発明の技術的思想の観点から、一般的に、この「金属板又は合成樹脂板」は、樹脂凸版を製造する際に研磨されるものではない。したがって、本件請求項1に記載された「金属板又は合成樹脂板」が、引例1に記載された「研磨しうる弾性体」に相当しないことは、一般的に明らかである。
しかしながら、一般的な場合ではなく、極めて例外的な場合を想像すれば、「金属板又は合成樹脂板」が「研磨しうる弾性体」に相当する可能性は皆無ではない。すなわち、万に一つの可能性で、「金属板又は合成樹脂板」が「研磨しうる弾性体」に相当する場合があるかもしれない。さらに、万が一ということで想像を拡大してゆくと、本件各発明に係る樹脂凸版に、任意付加的に「研磨しうる弾性体」の層が追加したものも、本件各発明の内容から除外されていないから、本件各発明と引例1記載の技術とは構成を同じくすると認定される可能性もある。そこで、本件審判請求人は、このような万に一つの可能性を排除するために、「金属板又は合成樹脂板」から、引例1に記載された「研磨しうる弾性体」を除くと共に、本件各発明では「研磨しうる弾性体」の使用は除かれていることを明記したのである。
したがって、引例1に記載された「研磨しうる弾性体」という用語は、何ら不明確なものではなく、これを本件請求項1に導入し、それを除いた本件請求項1の記載も、何ら不明確なものではない。

3.本件各発明が特許されるべき理由は、第二回意見書の第2頁第29行目乃至第4頁第16行目に記載したとおりである(なお、第二回意見書においては、本件各発明のことを本願発明と言っている。)。上述したように、第二回意見書は、原審審査官の補正却下の決定によって、何ら検討されなかったものであるが、補正却下の決定が取り消されることにより、十分に検討されなければならない。

第4 原審における平成16年12月27日付け明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定の適否
1.本件補正の目的についての判断の適否
原審は、限定的減縮を目的としていると判断しているので、この点について検討する。
(1)本件補正の内容
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
補正前(平成16年10月1日付け手続補正書参照)に
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
【請求項2】
ベースフィルム層と感圧型接着剤層との間に存在する空気は、熱収縮によって収縮している請求項1記載の液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
【請求項3】
金属板又は合成樹脂板の剛性が、樹脂凸版本体,ベースフィルム層又は感圧型接着剤層の剛性よりも高い請求項1又は2記載の液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。」
とあったものを、
「【請求項1】
液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、
該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、
該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、
該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、
液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。
【請求項2】
ベースフィルム層と感圧型接着剤層との間に存在する空気は、熱収縮によって収縮している請求項1記載の液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。」とする補正。

つまり、本件補正は、特許請求の範囲についての以下の補正事項を含む。 〈補正1〉補正前の請求項3を削除する補正。
〈補正2〉補正前の請求項1に「該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、」を追加する補正。
〈補正3〉補正前の請求項1に「但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。」を追加する補正。

(2)本件補正の目的
〈補正2〉について
補正2は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板」の剛性について、「該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、」と特定するものであるから、補正2は補正前の請求項1に係る発明の特定事項を限定するものといえる。
よって補正2は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(以下、「改正前の特許法第17条の2第4項第2号」という。)に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。
〈補正3〉について
補正3は、補正前の請求項1に「但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。」を追加するものである。
前記「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし」は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」について、その一部を形式的に除外しようと規定したものである。
してみれば、補正3は形式的に補正前の請求項1に係る発明の特定事項を限定する部分を含んでいるものといえる。
よって補正3は、改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものを含んでいるものと認める。

(3)まとめ
上記のとおり、本件補正は改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる補正を含んでいるので、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討に至る迄の原審の手続きに誤りはない。

2.原審において特許出願の際独立して特許を受けることができないとした点についての当審の判断
I-1.
(1)本件特許請求の範囲について
特許法は特許を受けようとする発明が明確であることを要件としている。
本件特許請求の範囲の記載には、「研磨しうる弾性体」を一般的な意味以外で解釈すべきである特段の記載はない。
そこで、「研磨しうる弾性体」を一般的な意味で以下に解釈する。
「研磨しうる弾性体」を一般的な意味で解釈した場合、
一般的な金属板は、研磨しうる材料であるし、また変形量は少なくとも弾性を有しているから、「研磨しうる弾性体」に含まれ、
一般的な合成樹脂板も、同様に研磨しうる材料であるし、また変形量は少なくとも弾性を有しているから、「研磨しうる弾性体」に含まれる。
加えて一般的に固体の無機物、固体の有機物又は無機物及び有機物からなる固体の物質も、同様に研磨しうる材料であるし、また変形量は少なくとも弾性を有しているから、「研磨しうる弾性体」に含まれる。
そうすると、一般的な固体の物質は「研磨しうる弾性体」に含まれる。
したがって、「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」が「研磨しうる弾性体ではない」との特定により、一般的な固体の物質(一般的な金属板又は一般的な合成樹脂板も)が除かれることになるので、本件特許請求の範囲の「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」に何が含まれるのか明確でない。

(2)前述のように「研磨しうる弾性体」を一般的な意味で解釈すると、一般的固体の物質は全て含まれてしまい、「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」から「研磨しうる弾性体」を除くと具体的に何が残るのか特定できないので、発明の詳細な説明を含む本件明細書及び図面を参酌してみる。
本件明細書及び図面には「研磨しうる弾性体」は定義されておらず、前記「研磨しうる弾性体」が引例1に記載された用語を意味するとも記載されていない。
してみれば、本件請求項1における但し書きで「研磨しうる弾性体」を除くことによって何が残るのか解釈することができず、本件明細書及び図面を参酌しても本件請求項1における「研磨しうる弾性体」も明確でない。

I-2.上記(1)乃至(2)のまとめ
上記のとおり、本件特許請求の範囲からも、また本件明細書及び図面を参酌してもなお、「研磨しうる弾性体」を除いたものが、どのようなものであるか特定できないから、本件特許請求の範囲の記載は不明確であり、発明の詳細な説明には、その裏付けもなく、特許法第36条第6項第1,2号に規定する要件を満たしていない。

II.(3)第3 2.(2)(2-2)について、
引例1において、「研磨しうる弾性体の層」に含まれる例として、発明の詳細な説明で天然ゴムの層が挙げられているのであって、原審審査官は最後の拒絶理由通知において、単に引例1に記載された「天然ゴムの層1、研磨しうる弾性体の層」は本件請求項1の「金属板又は合成樹脂板」に相当すると説示しただけで、この点は明確である。
他方、上記「I-1.」及び「I-2.」に記載のとおり、本件請求項1における「研磨しうる弾性体」は明確でないし、「金属板又は合成樹脂板」及び「樹脂凸版を構成するその他の材料」が「研磨しうる弾性体ではない」ものがどのようなものであるか特定できない。
そして原審の補正却下の決定の要旨は、特許請求の範囲の記載では何が除かれるのか不明であるため、本件発明の詳細な説明含む明細書及び図面を参酌し解釈した上でなお不明確であることを意味しているものである。
してみれば、前記最後の拒絶理由通知においての原審審査官の説示と、本件請求項1における「研磨しうる弾性体」及び「研磨しうる弾性体でない」が不明確であるとする補正却下の決定においての原審審査官の認定とは、矛盾しない。

III.第3 2.(1)並び(2)(2-1)、(2-3)及び(2-4)について、
請求人は、引例1に記載された技術を除くために但し書きを付加した旨主張しているが、特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明を含む本件明細書及び図面を参酌してもなお、引例1に記載された技術が除かれていることがうかがえる記載はない。
したがって、上記「I-1.」及び「I-2.」に記載のとおり、本件請求項1における「研磨しうる弾性体」及び「研磨しうる弾性体でない」は不明確であり、また発明の詳細な説明を含む本件明細書及び図面において、前記「研磨しうる弾性体」及び「研磨しうる弾性体でない」について一切記載されていないことから、特許法第36条違反と判断した第3 2.(1)の原審の判断に誤りはない。

IV.上記I乃至IIIのまとめ
以上のとおり、原審の平成16年12月27日付け手続補正に対する補正却下の決定に誤りはない。

第5 当審における新たな独立特許要件の判断
「第3 請求の趣旨 3.」に基づき、当審において新たに本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(5-1)本願補正発明の認定
本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に係る発明は、次のように記載されている。
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、
該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、
該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、
該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、
液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。」
前記記載中における「但し、前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、かつ、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。」との但し書きのうち、
前記「前記金属板又は前記合成樹脂板は研磨しうる弾性体ではないし、前記樹脂凸版を構成するその他の材料もいずれも研磨しうる弾性体ではないし、」の部分は、「第4 2.」に記載のとおり、「研磨しうる弾性体ではない」の定義が明確でないことから、その技術内容が明確に理解できないので、除外して解する。
また、上記「第4 2」に記載のとおり、一般的な固体の物質は「研磨しうる弾性体」に含まれる。そうすると、前記但し書きのうち「前記樹脂凸版にはいかなる態様でも研磨しうる弾性体が付加されることはない。」の部分は、前記「前記樹脂凸版にはいかなる態様でも、前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記ベースフィルム層,前記感圧型接着剤層,及び前記金属板又は前記合成樹脂板以外のものが付加されていない。」ことを意味しているものといえる。

してみれば、本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に係る発明は、以下に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、
該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、
該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、
該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、
液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。
但し、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも、前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記ベースフィルム層,前記感圧型接着剤層,及び前記金属板又は前記合成樹脂板以外のものが付加されていない。」 (以下、「本願補正発明」という。)

(5-2)刊行物記載の発明
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特公平3-74380号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉?〈ウ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「特許請求の範囲
1 1000ミクロンまでの厚さを有する研摩しうる弾性体の層を、光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層に、支持体層を介して又は介することなく、しつかりと結合させて含んでなり、該研摩しうる弾性体の層が研摩されていることにより均一な厚さを有していることを特徴とするフレキソグラフ印刷板。
2 光重合しうる液体が約25000の分子量を有するメタクリレート末端のポリウレタンポリエーテルである特許請求の範囲第1項記載のフレキソグラフ印刷板。
3 研摩しうる弾性体が天然の、ポリプロピレン又はポリウレタンゴムである特許請求の範囲第1項記載のフレキソグラフ印刷板。
4 研摩しうる弾性体が充填剤を含有する特許請求の範囲第1?3項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
5 研摩しうる弾性体が30?80のシヨアA硬度を有する特許請求の範囲第1?4項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
6 研摩しうる弾性体が40?60のシヨアA硬度を有する特許請求の範囲第5項記載のフレキソグラフ印刷板。
7 研摩しうる弾性体の層が100?500ミクロンの厚さを有する特許請求の範囲第1?6項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
8 研摩しうる弾性体及び光重合した材料面の接着を促進するためにこれらの層間に固定層を含んでなる特許請求の範囲第1?7項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
9 支持体層が75?150ミクロンの厚さを有する特許請求の範囲第1項記載のフレキソグラフ印刷板。
10 支持体層が約100ミクロンの厚さを有する特許請求の範囲第1項記載のフレキソグラフ印刷板。
11 支持体層が金属ホイル、プラスチツク材料のシート又は架橋した表面コーテイングの層を含んでなる特許請求の範囲第1?10項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
12 支持体層がガラス又は織物繊維で強化された特許請求の範囲第11項記載のフレキソグラフ印刷板。
13 支持体層がポリエステル材料のシートを含んでなる特許請求の範囲第1?11項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
14 支持体層がその1面又は両面に、それとその各隣る層との間の接着を促進するための固定層を備えている特許請求の範囲第1?13項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。
15 1000ミクロンまでの厚さを有する研摩しうる弾性体の層を、光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層に、支持体層を介して、しつかりと結合させて含んでなり、該研摩しうる弾性体の層が研摩されていることにより均一な厚さを有しているフレキソグラフ印刷板を製造するための、1000ミクロンまでの厚さを有する研摩しうる弾性体の層を支持体層にしつかり結合させてなることを特徴とする積層物。
16 1000ミクロンまでの厚さを有する研摩しうる弾性体の層を、光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層に、支持体層を介して又は介することなく、しつかりと結合させて含んでなり、該研摩しうる弾性体の層が研摩されていることにより均一な厚さを有しているフレキソグラフ印刷板の製造方法であつて、液体の光重合しうる材料の層を、研摩しうる弾性体の層又は研摩しうる弾性体の層を含んでいてもよい支持体層に適用し、この液体を化学線照射により形像的に露光して該液体材料を像領域において光重合させ、露光した物を処理して光重合した層中に浮彫り域を与え、支持体層が研摩しうる弾性体の層を含んでいない場合にはそれを支持体層にとりつけて、該弾性体の層を研摩して均一な厚さを有する印刷板をつくることを特徴とする方法。
17 固定層を、液体の光重合しうる材料の層と研摩しうる弾性体の層との間、液体の光重合しうる材料の層と支持体層との間又は支持体層と研摩しうる弾性体の層との間に与える工程を含む、特許請求の範囲第16項記載の方法。
18 液体を化学線照射により露光するために密着露光法を用いる特許請求の範囲第16?17項のいずれか1つの方法。
19 液体を化学線照射により露光するために、非密着露光法を用いる特許請求の範囲第16?17項記載のいずれか1つの方法。」
〈イ〉「研摩しうる弾性体は、通常に入手しうるゴム、例えばポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル、ブタジエン-スチレン、イソプレン-スチレン、シリコーン、又はポリスルフイドゴムのいずれかであつてよい。好ましくは弾性体は天然ゴム、ポリクロルプレンゴム又はポリウレタンゴムである。弾性体は、より容易に研摩しうるために通常の充填剤を含有しうる。弾性体は少くとも30、但し80を越えないシヨアA硬度を有すべきである。好ましくはその硬度は40?60シヨアAである。
研摩しうる弾性体は、強化及び安定化マトリツクス又はウエツブ、例えば織布又は不織布を含有していてよく、これは支持体層が存在しない場合に特に望ましい。
液体材料が急速に重合しえないならば、弾性体は液体材料を両側から露光しうるように透明であるべきである。しかしながら、液体材料が露光時に迅速に重合するならば、弾性体は不透明であつてよい。
好ましくは、弾性体は100?500ミクロンの厚さを有し、最も好ましくは厚さが約400ミクロンである。
支持体層は、存在する場合本技術で通常使用されるもののいずれか1つであつてよい。それは例えばアルミニウム又は他の金属ホイルのシート、プラスチツク材料のシート或いは架橋した表面コーテイングの層であつてよい。また支持体層は例えばガラス又は織布繊維で強化されていてよい。
好ましくは、支持体層は厚さ約100ミクロンのポリエステルプラスチツク材料のフイルムを含んでなる。」(6欄3行乃至34行)
〈ウ〉「液体材料は、一度化学線照射による形像的露光で架橋すると、浮彫り表とその表面を取り囲む未架橋材料とを有する固体となるであろう。架橋してない材料を常法で除去すれば、板の残りの部分には浮彫り表面が残る。弾性体材料層の厚さの記述は、断らない限り浮彫り域の厚さに関するものと見なすべきである。」(7欄19行乃至24行)
〈エ〉「好ましくは、光重合された弾性体材料の層を生成する液体材料は、23℃において約500?500000、更に好ましくは5000?50000cPの粘度を有する。
この層の製造に用いるための適当な材料は、メタクリレート末端のポリウレタンポリエーテルである。これは約5000?50000、典型的には約25000の平均分子量を有していてよい。
光重合して固体弾性体を生成する及び適当な粘度を有する他の適当な液体は技術的に公知である。
一般に、液体材料は、光開始剤例えばベンゾイン或いはベンゾイン及びメタノール又はイソプロパノールから生成するエーテル、また光増感剤例えばベンゾフエノンを含有するであろう。液体は連鎖移動剤及び分子量調節剤も含有しうる。上述のメタクリレート末端の重合体の場合、アクリレート又はメタクリレート単量体の1部を包含していてよい。
液体材料は、他の通常の添加剤、例えば熱重合禁止剤(例えばp-メトキシフエノール、ハイドロキノン又はN-ニトロソシクロヘキシル-ヒドロキシルアミン)、抗酸化剤、及び可塑剤を含んでいてもよい。
液体材料は、一度化学線照射による形像的露光で架橋すると、浮彫り表とその表面を取り囲む未架橋材料とを有する固体となるであろう。架橋してない材料を常法で除去すれば、板の残りの部分には浮彫り表面が残る。弾性体材料層の厚さの記述は、断らない限り浮彫り域の厚さに関するものと見なすべきである。」(6欄40行乃至7欄25行)
〈オ〉「 従来フレキソグラフ印刷板は、板の浮彫り域に平らな表面を与えるために、露光後通常の処理に供されてきた。しかしながら、そのような板は依然弾性体材料の層は不均一な厚さを有するという欠点をもつていよう。この欠点は研摩しうる弾性体の層の一部を削ることによつて克服することができ、研摩した板は浮彫り域に均一な厚さを有するようになる。
それ故に、本発明の方法においては、前記の工程につづいて、研摩しうる弾性体を研摩してその一部分を除去することにより、均一な厚さのフレキソグラフ印刷板を製造する。
上述の常法は密着又は非密着露光を包含しうる。この両方法は、浮彫り印刷板の製造に対して、印刷工業で通常使用されている。非密着露光は新聞印刷にしばしば使用される。
研摩は、通常の研摩機で行なうことができ、好ましくは±40ミクロンを越えない公差を与えるべきである。
本発明のフレキソグラフ印刷板を用いることにより、高品質の印刷製品の製造を可能にする均一な厚さの印刷板を製造するために、液体法を用いることが可能である。」(8欄16行乃至38行)
〈カ〉「今や、単に例示の目的であるが、添付する図面を参考にして本発明を記述する。この図面は本発明によるフレキソグラフ印刷板の、輪郭だけの断面側面図を示す。
図面を参照すると、フレキソグラフ印刷板は、50のシヨアA硬度を有する充填された天然ゴムの層1を含んでなる。これはゴム接着剤2の層により層3にしつかり結合されている。層3は層5との接着を増加させるために表面コーテイング4を有するポリエステルシートからなる。この表面コーテイングされたポリエステルシート3は商品名Bexford LP40の名で市販されている(Bexford社はICIの子会社)。
図面から理解できるように、層5はそれより厚さの薄い域7によつて取り囲かれた域6を有する。層5はメタクリレート末端のポリウレタンポリエーテルを光重合することによつて製造された光重合した弾性体材料を含んでなる。この例においては、W.R.Grace社(Park Royal,London)から、Flexopolymer Type40の名で販売されている市販の液体材料を使用した。浮彫り域6は形像的露光中に光重合しうるものであり、一方他の域7は架橋してない材料を洗い出したものである。支持体層3に最も近い層5の部分は、域7がいくらかの厚さを有するように、化学線照射による裏からの露光によつて光重合した。
層1は厚さ400ミクロン、層3は厚さ100ミクロン、及び層5は厚さ約6mmで、均一でなかつた。
フレキソグラフ印刷板は、通常の機械、例えばAsahi Chemical Industry社製のALF型機を用いることにより次の方法で製造した。
ネガチブを機械のガラス製圧盤上に置き、粘着性のない、耐引き裂き性の透明なポリプロピレンフイルムで覆つた。ある量のFlexopolymer40型をポリプロピレンフイルムに適用し、同時にBexford LP40で覆つたポリエステルフイルムのシートをFlexopolymer40型の上に適用した。次いでこの積層物の両面を化学線照射より露光し、Flexopolymer40型の少くともいくらかを架橋させ、固化せしめた。また固化した材料をポリエステルフイルムに結合せしめた。
次いで露光した板を常法で処理して架橋してない材料を除去し、印刷のための浮彫り域の表面を調製した。通常の処理後、普通のゴム接着剤を用いて充填した天然ゴムのシートに板を積層した。
他の実験において、充填した天然ゴムを、ALF型の機械で用いる前にポリエステル支持体に積層する以外、同一の方法に従つた。
図面に示す如き及び上述の方法のいずれかで製造したフレキソグラフ印刷板を、Vandercookのゴム研摩機で研磨して均一な厚さにした。これらの研摩した板をフレキソグラフ印刷工程に使用したが、これは均一なインキの分布と良好な品質を有する印刷物を与えた。これに対し、上述のフレキソグラフ印刷板を研摩なしに使用した場合には、インキは浮彫り表面上に不均一に広がり、不均一な、即ち低品質な印刷物が得られた。
上記記述から、本発明は高品質の印刷物を作るために使用できる液体に基づくフレキソグラフ印刷板の使用を可能にすることが理解されよう。今までこれは高価な固体に基づく印刷板を用いて一般に可能なことであつた。」
(8欄39行乃至10欄26行)

〈キ〉上記〈ア〉特許請求の範囲1「光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層」は、上記〈イ〉の7欄3行「光重合して固体弾性体を生成する」、上記〈イ〉の7欄19行乃至21行「 液体材料は、一度化学線照射による形像的露光で架橋すると、浮彫り表とその表面を取り囲む未架橋材料とを有する固体となるであろう。」及び上記〈カ〉の10欄2行乃至4行「両面を化学線照射より露光し、Flexopolymer40型の少くともいくらかを架橋させ、固化せしめた。」より、「光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて架橋することにより生成せしめ、光重合した固体弾性体材料の層」であると把握できる。
してみれば、上記〈ア〉特許請求の範囲1「光重合しうる液体」は、露光することにより、架橋し、固体弾性体材料の層となることから、「液状光硬化性樹脂」であるといえる。
そうすると、上記〈ア〉特許請求の範囲1「光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層」は「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂層」であるといえる。
〈ク〉上記〈ア〉特許請求の範囲1「光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層」は、上記〈ア〉特許請求の範囲1「・・フレキソグラフ印刷板」、特許請求の範囲16「この液体を化学線照射により形像的に露光して該液体材料を像領域において光重合させ、露光した物を処理して光重合した層中に浮彫り域を与え浮彫り域を与え、」及び図1並びに上記〈キ〉より、フレキソグラフ印刷板に用いれ、浮彫り域を与えられていることから、液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体」であるといえる。
〈ケ〉上記〈カ〉の「50のシヨアA硬度を有する充填された天然ゴムの層1を含んでなる。これはこれはゴム接着剤2の層により層3にしつかり結合されている。」(8欄44行乃至9欄2行)より、支持体層3に、ゴム接着剤2の層、弾性体の層1が直接積層されてなることが把握できる。
〈コ〉上記〈ア〉特許請求の範囲11「支持体層が金属ホイル、プラスチツク材料のシート・・・を含んでなる特許請求の範囲第1?10項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。」及び〈ア〉特許請求の範囲14「支持体層がその1面又は両面に、それとその各隣る層との間の接着を促進するための固定層を備えている特許請求の範囲第1?13項記載のいずれか1つのフレキソグラフ印刷板。」より、支持体層が固定層である表面コーテイング層4を含まない場合も示唆されている。
してみれば、上記〈ア〉特許請求の範囲1の「1000ミクロンまでの厚さを有する研摩しうる弾性体の層を、光重合しうる液体の、化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層に、支持体層を介して・・・しつかりと結合させて含んでなり、」より、前記「化学線照射による露光によつて生成せしめた光重合した弾性体材料の層」に、前記「支持体層」が直接積層されていることが把握できる
〈サ〉上記〈ア〉特許請求の範囲1の「フレキソグラフ印刷板」は、上記〈ク〉乃至〈コ〉より、
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,支持体層,ゴム接着剤の層,研摩しうる弾性体の層の順に、直接積層されてなる樹脂凸版。」であると把握できる。
〈シ〉上記〈カ〉「支持体層3に最も近い層5の部分は、域7がいくらかの厚さを有するように、化学線照射による裏からの露光によつて光重合した。」(9欄18行乃至20行)より、上記〈サ〉の「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体」裏面は、同〈サ〉の「支持体層」を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであることが把握できる。

以上より、上記記載及び図面を含む引用例1全体の記載から、引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,支持体層,ゴム接着剤の層,研摩しうる弾性体の層の順に、直接積層されてなり、該樹脂凸版本体裏面は、該支持体層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものである樹脂凸版。」(以下、「引用発明」という。)

(5-3)対比
a.引用発明における「支持体層」は、本願補正発明における「ベースフィルム層」に相当する。
b.引用発明における「ゴム接着剤の層」と本願補正発明における「感圧型接着剤層」とは「接着剤層」である点で共通する。
c.引用発明における「研摩しうる弾性体の層」は、図1より、板状であることか把握でき、さらに引用発明における「研摩」は「研磨」と同義である( [株式会社岩波書店 広辞苑第一版](昭和40年10月1日発行)、第694頁「けん-ま【研磨・研摩】欄参照)ことから、「研磨しうる弾性体板」と称することができる。
してみれば、上記〈ア〉特許請求の範囲3「・・ポリプロピレン・・」及び上記〈イ〉の6欄3乃至9行より、引用発明における「研磨しうる弾性板」と本願補正発明における「合成樹脂板」とは、「合成樹脂板」である点で共通する。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,接着剤層,合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものである樹脂凸版。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本願補正発明においては、「但し、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも、前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記ベースフィルム層,前記感圧型接着剤層,及び前記金属板又は前記合成樹脂板以外のものが付加されていない。」 と特定されているのに対し、引用発明では、前記特定を有していない点。
〈相違点2〉
本願補正発明においては、金属板又は合成樹脂板の剛性について「該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、」と特定されているのに対し、引用発明では、前記特定を有していない点。
〈相違点3〉
本願補正発明においては、接着剤層について「感圧型接着剤層」と特定されているのに対し、引用発明では、前記特定を有していない点。
〈相違点4〉
本願補正発明においては、感圧型接着剤層の厚み及び金属板又は合成樹脂板の表面について「該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦である」と特定されているのに対し、引用発明では、前記特定を有していない点。
〈相違点5〉
本願補正発明においては、樹脂凸版について「液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版」と特定されているのに対し、引用発明では、前記特定を有していない点。

(5-4)判断
〈相違点1〉について
上記〈サ〉に記載のとおり、上記〈ア〉特許請求の範囲1の「フレキソグラフ印刷板」は、「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,支持体層,ゴム接着剤の層,研摩しうる弾性体の層の順に、直接積層されてなる樹脂凸版。」であると把握できる。
してみれば、前記樹脂凸版は「前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記支持体層,前記ゴム接着剤の層,及び前記研摩しうる弾性体の層以外のものが付加されることがない。」場合と「前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記支持体層,前記ゴム接着剤の層,及び前記研摩しうる弾性体の層以外のものが付加される」場合が含まれる。
そうすると、引用発明において、前者の場合、すなわち、「樹脂凸版はいかなる態様でも液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,支持体層,ゴム接着剤の層,及び研摩しうる弾性体の層以外のものが付加されることはない」構成を採用することは、当業者が適宜になし得る設計事項である。

したがって、相違点1に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び引用例1の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

〈相違点2〉について
本願補正発明の「剛性」が何を意味するのか必ずしも明らかでないが、本願明細書段落【0011】「比較的剛性が高いという意味は、樹脂凸版本体,ベースフィルム層又は感圧型接着剤層の剛性よりも、金属板又は合成樹脂板の剛性の方が高いということである。金属板や合成樹脂板に比較的高い剛性を与えるためには、一定厚さ以上のものを採用すれば良い。例えば、アルミニウム板の場合には0.1mm以上であれば十分であり、特に0.15?0.2mm程度であるのが好ましい。合成樹脂板の場合は、0.2mm以上であれば十分である。」を参酌すれば、金属板又は合成樹脂板を充分厚くすることにより達成し得るものと解せる。
してみれば、引用発明において、研磨しうる弾性体の層の厚さを樹脂凸版本体の厚さ、支持体層の厚さ又はゴム接着剤の層の厚さよりも充分厚くすることにより、該研磨しうる弾性体の層の剛性を、該樹脂凸版本体、該支持体層又はゴム接着剤の層の剛性よりも高くして用いるようになすことは、当業者が容易になし得ることである。

したがって、相違点2に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び引用例1の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

〈相違点3〉について
ゴム接着剤が、感圧型接着剤であることは、周知の技術事項(本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-292926号公報【0013】及び本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-91577号公報1頁右下欄下から5行乃至2頁左上欄2行参照。)であり、また本願段落【0009】に記載の感圧型接着剤も、本願出願前周知の感圧型接着剤(前記特開昭62-91577号公報1頁右下欄下から5行乃至2頁左上欄2行参照。)である。
してみれば、引用発明において、上記周知の技術事項より、接着剤層として、感圧型接着剤層を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明並びに及び引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

〈相違点4〉について
上記〈オ〉及び上記〈カ〉の10欄13乃至21行には、「均一な厚さのフレキソグラフ印刷板を製造する。」ことが記載されている。
してみれば、引用発明において、上記記載より、樹脂凸版全体を均一な厚さとなすべく、ゴム接着剤の層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該ゴム接着剤の層側に位置する該研磨しうる弾性体の層の表面は平坦である構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

したがって、相違点4に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び引用例1の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

〈相違点5〉について
樹脂凸版を 液晶表示部の配向膜印刷用途に用いることは、周知の技術事項(例えば、特開昭60-135920号公報参照)である。
加えて前記「低カッピング性」とは、本願補正発明の構成に基づく効果を単に表現したに過ぎない。
してみれば、引用発明において、上記周知の技術事項より、引用発明を液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版として用いるようになすことは、当業者が容易になし得ることである。

したがって、相違点5に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

なお、樹脂凸版本体、ベースフィルム層,接着剤層,金属板の順に、直接積層されてなる樹脂凸版は、例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-64358号公報、【0014】乃至【0015】に記載の如く、周知の技術事項であり、
金属板に樹脂凸版本体を積層した樹脂凸版は、例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-140645号公報、特に【0009】「鉄、ステンレス、アルミニウム」に記載の如く、周知の技術事項である。
(当審において下線を付した。)

〈まとめ〉
このように、相違点1乃至相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が想到容易な事項であり、これらの発明特定事項を採用したことによる本願補正発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

第6 本件補正についてのむすび
前記「第4 2.」及び前記「第5」に記載のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第7 本願発明について
1.本願発明の認定
平成16年12月27日付け明細書についての手続補正は平成17年1月31日付けで却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年10月1日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,ベースフィルム層,感圧型接着剤層,金属板又は合成樹脂板の順に、直接積層されてなり、該樹脂凸版本体裏面は、該ベースフィルム層を通して光を照射することにより、硬化せしめられたものであり、該感圧型接着剤層は全体に亙ってほぼ均一な厚みを有し、且つ該感圧型接着剤層側に位置する該金属板又は該合成樹脂板の表面は平坦であることを特徴とする、液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及びその記載事項は、前記「第5 (5-2)」に記載のとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第5」で検討した本願補正発明から「該金属板又は該合成樹脂板の剛性は、該樹脂凸版本体、該ベースフィルム層又は該感圧型接着剤層の剛性よりも高く、」及び「但し、前記樹脂凸版にはいかなる態様でも、前記液状光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された樹脂凸版本体,前記ベースフィルム層,前記感圧型接着剤層,及び前記金属板又は前記合成樹脂板以外のものが付加されていない。」との事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第5 (5-4)」に記載したとおり、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 むすび
以上のとおり、原審における補正却下の決定は妥当なものであって、誤りはない。
そして本願発明は、引用発明並びに引用例1及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-28 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-26 
出願番号 特願2003-338683(P2003-338683)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 液晶表示部の配向膜印刷用低カッピング性樹脂凸版  
代理人 奥村 茂樹  

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