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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C08F
管理番号 1206400
審判番号 無効2009-800047  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-24 
確定日 2009-11-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第4116326号発明「重合体組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4116326号の請求項1乃至9及び12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第4116326号に係る発明についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成14年5月14日(優先権主張 平成13年7月17日)の特許出願であって、平成20年4月25日にその請求項1乃至12に係る発明について特許権の設定登録がなされた。
平成21年2月24日に、その請求項1乃至9及び12に係る発明の特許について、審判請求人 旭硝子株式会社から本件無効審判が請求され、これに対して、平成21年3月11日付けで被請求人に対し審判請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかった。
これに対して、平成21年8月18日付けで書面審理通知がなされ、平成21年9月2日付けで審理終結通知がなされた。

第2.本件発明
本件特許第4116326号の請求項1乃至9及び12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明9」及び「本件発明12」ともいう。)は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至9及び12に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 分子鎖として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなり、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有する重合体(A)成分およびシロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分を含有する反応性組成物(以下、反応性組成物(C)成分と称す)、並びに芳香族系溶剤以外の溶剤を含有しており、芳香族系溶剤の含有量が該(C)成分全体に対して1,000ppm以下である重合体組成物であって、
重合体(A)成分が、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、重合性不飽和結合と反応性シリコン官能基を有する化合物とを重合する工程を含み、重合溶媒がアルコ-ル系溶剤およびカルボニル基含有溶剤から選ばれる1種以上であって、芳香族系溶剤を含まない溶剤を用いる製造方法により得られる共重合体であることを特徴とする重合体組成物。
【請求項2】 反応性組成物(C)成分が、該(C)成分からの空気中への有機化合物の放散量がGEV(ゲマインシャフト・エミッションコントリールテ・フェリーゲヴェルクシュトッフェ・エー・ヴェー)の定めるGEVスペシフィケーション・アンド・クラシフィケーション・クライテリア2001年2月14日版に記載の測定法において、1,500μg/m^(3)未満である請求項1記載の重合体組成物。
【請求項3】 前記(C)成分からの空気中への有機化合物の放散量が、GEVの定めるGEVスペシフィケーション・アンド・クラシフィケーション・クライテリア2001年2月14日版に記載の測定法において、500μg/m^(3)未満であるところの請求項1または2記載の重合体組成物。
【請求項4】 シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分の原料であるオキシアルキレン重合体が、苛性アルカリを用いるアニオン重合法、オキシアルキレン重合体を原料とした鎖延長反応方法、複合金属シアン化物錯体を触媒とする重合法、セシウム金属を触媒とする重合法またはポリフォスファゼン塩を触媒とする重合法からなる群から選択される少なくとも1種の方法により得られたオキシアルキレン重合体であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項5】 (A)成分および(B)成分におけるシロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基が、ジメチルモノメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジイソプロペニルオキシシリル基およびトリイソプロペニルオキシシリル基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項6】 シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分の原料であるオキシアルキレン重合体が複合金属シアン化物錯体を触媒とする重合法により得られたものであって、数平均分子量(Mn)が6,000以上かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.6以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項7】 反応性組成物(C)成分を、23℃(湿度50%)で10日、続いて50℃で14日反応せしめた硬化物からの空気中への有機化合物の放散量が、GEVの定めるGEVスペシフィケーション・アンド・クラシフィケーション・クライテリア2001年2月14日版に記載の測定法において、100μg/m^(3)未満であるところの請求項1?6のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項8】 反応性組成物(C)成分がトルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、またはホルムアルデヒドのいずれも含有しないことを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項9】 反応性組成物(C)成分からの空気中へのトルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、および、フタル酸ジ-n-ブチルの放散量が、GEVの定めるGEVスペシフィケーション・アンド・クラシフィケーション・クライテリア2001年2月14日版に記載の測定法において、いずれも1μg/m^(3)未満であり、かつホルムアルデヒドの放散量が5μg/m^(3)未満であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項12】 (メタ)アクリル酸エステル単量体が、(1)炭素数1?8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と(2)炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との混合物であることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載の重合体組成物。」

第3.請求人の主張
請求人は、「特許第4116326号の請求項1乃至9及び12に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、その証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第11号証を提出しているところ、その理由の概略は以下のとおりである。

1.無効理由1:
本件発明1乃至9及び12は、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2.無効理由2:
本件発明1乃至9及び12は、甲第9号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

3.無効理由3:
本件発明1乃至9及び12は、甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平07-090171号公報
甲第2号証:特開平11-241046号公報
甲第3号証:特開平06-016712号公報
甲第4号証:特開平06-128544号公報
甲第5号証:特開昭60-004575号公報
甲第6号証:特開2000-008012号公報
甲第7号証:特開平11-335629号公報
甲第8号証:特開平08-337765号公報
甲第9号証:特開2001-081331号公報
甲第10号証:本件出願に係る平成19年12月25日付け意見書
甲第11号証:特許第4116326号公報 (本件特許公報)

第4.当審の判断
1.甲各号証に記載された事項
(1)本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
・摘示1a.「【請求項1】複合金属シアン化物錯体(C)を触媒として開始剤にアルキレンオキシドを重合させて得られる数平均分子量5000以上のポリオキシアルキレン重合体(D)を主鎖とし、下記一般式(1)で示されるケイ素含有基を全分子平均で一分子当り0.3個以上有する有機重合体(A)および、その100重量部に対し、下記一般式(1)で示されるケイ素含有基を重合体1分子当りで1個以上有する重合性不飽和基含有モノマーの重合体(B)0.1?1000重量部を含有する硬化性組成物。
-SiX_(a)R^(1)_(3-a)・・・(1)
ただし、式中R^(1)は炭素数1?20の置換もしくは非置換の1価の炭化水素基、Xは加水分解性基、aは1、2または3である。
【請求項2】複合金属シアン化物錯体(C)が亜鉛ヘキサシアノコバルテートを主成分とする錯体である、請求項1の硬化性組成物。
【請求項3】アルキレンオキシドがエチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1の硬化性組成物。
【請求項4】重合性不飽和基含有モノマーの重合体(B)が、下記一般式(2)で示される重合性不飽和基含有モノマー(F)と、炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを含有するシリコン化合物(G)との共重合により製造しうる重合体である、請求項1の硬化性組成物。
CH_(2)=C(R^(2) )(R^(3))・・・(2)
ただし、式中R^(2)は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1?10の1価の有機基、R^(3)は炭素数1?20の1価の有機基である。
【請求項5】シリコン化合物(G)が、下記一般式(3)で示される1種もしくは2種以上である請求項4の硬化性組成物。
R^(4)SiX_(a)R^(1)_(3-a)・・・(3)
ただし、式中、R^(1) 、X、aは前記に同じ、R^(4)は重合性不飽和基を有する有機残基である。」(特許請求の範囲)
・摘示1b.「複合金属シアン化物錯体(C)を使用することにより、従来のアルカリ金属触媒を使用して製造したポリオキシアルキレン重合体よりMw /Mn が狭く、より高分子量で、より低粘度のポリオキシアルキレン重合体(D)を得ることが可能である。」(段落【0008】)
・摘示1c.「一般式(1)中のR^(1) は炭素数1?20の置換もしくは非置換の1価の有機基であり、好ましくは炭素数8以下のアルキル基、フェニル基またはフルオロアルキル基である。特に好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、プロペニル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等である。
一般式(1)中のXは加水分解性基であり、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミド基、アミノ基、アミノオキシ基、ケトキシメート基、酸アミド基、ヒドリド基である。これらのうち炭素原子を有する加水分解性基の炭素数は6以下が好ましく、特に4以下が好ましい。好ましい加水分解性基は炭素数4以下の低級アルコキシ基、特にメトキシ基やエトキシ基、プロポキシ基、プロペニルオキシ基等が例示できる。」(段落【0012】?【0013】)
・摘示1d.「本発明における有機重合体(A)としては、数平均分子量5000?30000の有機重合体が使用できる。有機重合体(A)の数平均分子量が5000より低い場合は硬化物が硬く、かつ伸びが低いものとなり、数平均分子量が30000を超えると硬化物の柔軟性および伸びは問題ないが、該重合体自体の粘度が著しく高くなってしまい、実用性が低くなる。数平均分子量は特に8000?30000が好ましい。」(段落【0021】)
・摘示1e.「本発明で用いられる(B)成分は、下記一般式(2)で示される重合性不飽和基含有モノマー(F)と、炭素-炭素2重結合と上記一般式(1)で示されるケイ素含有基とを含有するシリコン化合物(G)との共重合により製造しうる重合体であることが好ましい。
CH_(2)=C(R^(2) )(R^(3))・・・(2)
ただし、式中R^(2)は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1?10の1価の有機基、R^(3)は炭素数1?20の1価の有機基である。
具体的な重合性不飽和基含有モノマー(F)としてはスチレンやα-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸あるいはそれらのエステルやアクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル系、メタクリル系モノマー;アクリロニトリル、2,4-ジシアノブテン-1等のシアノ基含有モノマー;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;イソプレン、ブタジエン、その他のジエン系モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有モノマー;およびこれら以外のオレフィン、不飽和エステル類、ハロゲン化オレフィン、ビニルエーテル等がある。
炭素-炭素2重結合とケイ素含有基とを含有するシリコン化合物(G)は、下記一般式(3)で示される。
R^(4)SiX_(a)R^(1)_(3-a)・・・(3)
ただし、式中、R^(1) 、X、aは前記に同じ、R^(4)は重合性不飽和基を有する有機残基である。
一般式(3)で示されるシリコン化合物(G)としては、具体的にはビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン等のビニルシラン;3-アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルオキシシラン;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルオキシシラン等が挙げられるが、特に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらの他にも、例えばケイ素原子を2?30個有するポリシロキサン化合物などで、C-C2重結合と加水分解性基と結合したケイ素原子を有するものであれば使用可能である。」(段落【0022】?【0025】)
・摘示1f.「重合性不飽和基含有モノマーの重合は通常の方法で行うことができる。重合開始剤はラジカル発生剤等の重合性不飽和基含有モノマーを重合しうる各種化合物を使用でき、また場合によっては重合開始剤を用いることなく放射線や熱によって重合することができる。重合開始剤としては、例えばパーオキシド系、アゾ系、あるいはレドックス系の重合開始剤や金属化合物触媒などがある。具体的によく使用される重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、t-アルキルパーオキシエステル、アセチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネートなどが挙げられる。また、必要に応じて溶剤を使用することも可能である。」(段落【0029】)
・摘示1g.「本発明の硬化性組成物は、シーリング剤、防水剤、接着剤、コーティング剤などに使用しうるが、特に硬化物自体の十分な強度や高い接着性が要求される用途に好適である。」(段落【0034】)
・摘示1h.「【実施例】以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
参考例1?2により有機重合体(A)の製造例を、参考例3により比較例に用いる有機重合体の製造例を示す。次に、参考例4?5により重合性不飽和基含有モノマーの重合体(B)の製造例を示す。
[参考例1]特開平3-72527号公報に記載の方法により、分子量1000のジエチレングリコール-プロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体にてプロピレンオキシドの重合を行い、数平均分子量19000のポリオキシプロピレンジオールを得、末端水酸基をアリルエーテル基に変換しさらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、1分子当り平均1.6個のケイ素含有基を有する有機重合体(P1)を得た。
[参考例2]特開平3-72527号公報に記載の方法により、分子量1000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体にてプロピレンオキシドの重合を行い、数平均分子量15000のポリオキシプロピレントリオールを得、末端水酸基をアリルエーテル基に変換しさらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、1分子当り平均1.4個のケイ素含有基を有する有機重合体(P2)を得た。
[参考例3]特公昭61-49332号公報記載の方法に基づき数平均分子量4000のポリオキシプロピレンジオールをブロモクロロメタンと反応させ、さらに末端水酸基をアリルクロリドと反応させて、末端アリルエーテル基とした後、さらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、有機重合体(P3)を得た。この有機重合体のポリオキシプロピレンジオール換算の数平均分子量は11000であった。
[参考例4]グリシジルメタクリレート60g、アクリロニトリル30g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10g、溶媒としてトルエン100g、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1gを用い、N_(2)雰囲気下90℃にて4時間重合させ重合体(P4)の50%溶液を得た。
[参考例5]n-ブチルアクリレート95g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5g、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1gを用いN_(2)雰囲気下90℃にて5時間重合させ重合体(P5)を得た。
[実施例1?3および比較例1?2]参考例1?3で製造した有機重合体P1?P3のうち表1に示した有機重合体100重量部に対し、参考例4で製造した不飽和基含有モノマーの重合体(P4)を表1に示した重量部混合した後、トルエンを留去した。このものに炭酸カルシウム150重量部、酸化チタン20重量部、ジオクチルフタレート50重量部、水添ヒマシ油5重量部、フェノール系酸化防止剤1重量部、アミノシラン1重量部、ジブチルスズジラウレート1重量部を湿分の入らない条件下で混練し硬化性組成物を得た。
これらについて2mm厚のシートを作成し20℃で7日間、さらに50℃で7日間養生後にJIS3号ダンベルで打ち抜き物性の測定を行った[50%モジュラス(M_(50))、破断時強度(T_(s))破断時伸び(E_(1))]。また、JIS H4000 A1050Pに準じてアルミに対する引張せん断強度を測定した。結果を表1に示す。
[実施例4および比較例3?4]P4の代わりに、参考例5で製造した重合性不飽和基含有モノマーの重合体を表1に示した有機重合体100重量部に対して混合する以外は、実施例1?3と同様にして、硬化性組成物を得た。実施例1?3と同様ダンベル物性を測定するとともに、サンシャインウェザオメーター2000時間後の表面を観察した。結果を表2に示す。
【表1】


【表2】


」(段落【0035】?【0046】)
・摘示1i.「【発明の効果】複合金属シアン化物錯体を用いて製造したケイ素含有基を有する有機重合体と、本発明の重合性不飽和基含有モノマーの重合体でケイ素含有基を含有する重合体の組合せは、従来知られているものに比較して、接着性と耐候性に優れなおかつ優れた機械物性を発現するという効果を有する。」(段落【0047】)

(2)本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
・摘示2a.「【請求項1】 (A)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体及び当該単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体をミクロ懸濁重合して得られるアクリル系水性樹脂の水性分散体の水性媒体中に、(B)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体、カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体及びこれらの単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を構成単量体とする共重合体であって、そのカルボキシル基の一部又は全部が中和されてなるアクリル系共重合体、が溶解又は分散してなる被覆用水性硬化性組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
・摘示2b.「【従来の技術】従来、アルコキシシリル基に代表される加水分解性シリル基を有する硬化性共重合体は、接着剤、シーリング材、塗料およびコーティング剤などの用途に汎用されている。ところが、これらの用途分野では有機溶剤の揮散による人体への有害性や環境汚染を避けるため、有機溶剤を使用しない水系の材料が求められており、前記のアルコキシシリル基を有する硬化性共重合体についても水性エマルジョン化の必要性が増している。」(段落【0002】)
・摘示2c.「【発明の実施の形態】本発明の(A)成分であるアクリル系水性樹脂分散体において、重合原料として用いられるアルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体は、下記一般式(1)で表される基を有する化合物である。
【化1】

(式中、R^(1)は炭素数1 ?10のアルキル基、アリール基及びアラルキル基より選ばれる一価の炭化水素基を示し、R^(2)はラジカル重合性基を示し、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、aは0 ?2 までの整数である。Siに結合するX及びR^(1)がそれぞれ二個以上の場合、それらは同一の基であっても異なる基であっても良い。)
一般式(1)中、Xにおいて、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンタノキシ基及びヘキサノキシ基などが挙げられ、ハロゲン原子としては、F、Cl、Br及びIなどが挙げられるが、このXの好ましいものとしては、反応性と安定性のバランスから、炭素数4以下のアルコキシ基である。また、R^(2)のラジカル重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましく、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニルエステル基及びビニルエーテル基等のラジカル重合性の高い官能基が更に好ましい。
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン及びγ-メタクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン等が挙げられる。これらのうち、一種又は二種以上を併用してもよい。」(段落【0008】?【0012】)
・摘示2d.「本発明の(B)成分である水溶性又は水分散性のアクリル系共重合体は、アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体、カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体及びこれらの単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を構成単量体とする共重合体であって、そのカルボキシル基の一部又は全部が中和されてなるものである。
アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体としては、前記(A)成分のアクリル系水性樹脂で使用するものと同様のものが挙げられる。
カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基とビニル基の両方を分子中に持つ化合物が挙げられる。この中で、アクリル酸とメタクリル酸が好ましく用いられる。
上記の単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキル、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。これらの単量体は単独で使用することもできるが、一般には塗膜物性のバランスがとれるよう複数成分選定する。
これら共重合用単量体の中で、炭素数が1?8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン、炭素数が2?3のアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル及びポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが、共重合性、塗膜物性等の面から好ましい。塗膜の耐候性や強度、耐熱性等の塗膜物性を高レベルに保持するため、単量体成分の総重量100部に対し、少なくとも50部は(メタ)アクリル酸エステルを用いるのが好ましい。」(段落【0034】?【0038】)
・摘示2e.「本発明の(B)アクリル系共重合体の製造法としては、上記単量体を有機溶媒を用いて溶液重合し、これを中和する方法が好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物などが挙げられる。この中で、沸点100℃以下のアルコール系、ケトン系、酢酸エステル系溶媒が好ましく用いられ、具体的にはエタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが好ましい。」(段落【0040】)
・摘示2f.「参考例2 水溶性アクリル系共重合体((B)成分)の製造
撹拌機、還流冷却器、温度系及び窒素吹き込み管を有するガラスフラスコに、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン10部、メチルメチクリレート30部、n-ブチルメタクリレート15部、nーブチルアクリレート25部、アクリル酸10部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(NKエステルM-90G;新中村化学工業社製)10部、メルカプト酢酸1.2部及びイソプロパノール130部を仕込み、75℃に昇温した。上記フラスコに、2,2′-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)(ABN-E;日本ヒドラ陣工業社製)1.5部をイソプロパノール20部に溶解した溶液を3時間かけて供給し、滴下終了後30分間75℃に保持した。その後、更にABN-E0.5部を追加して反応液を還流温度に維持し、4時間還流させて重合を完結させた。得られた樹脂の数平均分子量は6,000 であり、重量平均分子量は14,000であった。この樹脂溶液中に、25%アンモニア水溶液6.6部と蒸留水500部の混合液を入れて混合し、フラスコ内を減圧してイソプパノール及び水の混合物約270部を留去して、アクリル系共重合体の半透明水溶液を得た。溶液の不揮発分は19.9%であり、PHは7.4であった。」(段落【0056】)

(3)本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
・摘示3a.「【請求項1】 一般式(I):
【化1】


(式中、R^(1) は炭素数1?10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基およびアミノ基から選ばれた1価の基、aは0、1または2を表す)で表わされるシリル基を有する水溶性樹脂(A)の水性溶液中で、一般式(I)で表わされるシリル基含有アクリル系共重合体(B)を分散重合する際に、水溶性樹脂(A)の重合が加水分解性エステル(C)および(または)アルコール(D)の存在下で行ってえられた水性分散型組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
・摘示3b.「シリル基含有水溶性樹脂(A)の重合は、通常実施されている重合法、すなわち乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等、いずれの方法でも実施することが可能であるが、操作の簡便性より、好ましくは溶液重合法が用いられる。
溶液重合を実施するにあたり、使用する溶剤は、共重合反応生成物を溶解しうるものなら特に限定はないが、該重合体を水性媒体中に溶解させて重合の分散安定剤として使用する際、溶剤を回収しなくてもよい方が操作が簡便であるため、水溶性の有機溶剤の使用が好ましい。また、溶剤回収を行い、単離した該共重合体を分散安定剤として用いて重合を行ってもよい。
使用する溶剤としては、炭素数1?10の直鎖および(または)分岐を持つアルコール系溶剤、HO-(CH_(2) CH_(2) -O)_(m) -R^(2 )で示される(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル(R^(2 )は炭素数1?10の直鎖および(または)分岐を持つアルキル基、mは1?5の整数)、R^(2 )CO-O-(CH_(2) CH_(2)-O)_(m) -R^(2 )で示される(ポリ)エチレングリコールエーテルエステル(R^(2)は炭素数1?10の直鎖および(または)分岐を持つアルキル基、両末端のアルキル基は同一でもよいし、異なってもよい。mは1?5の整数)、HO-(CH_(2)CH_(2) CH_(2 )-O)_(m) -R^(2 )で示される(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル(R^(2 )は炭素数1?10の直鎖および(または)分岐を持つアルキル基、mは1?5の整数)、R^(2 )CO-O-(CH_(2) CH_(2 )CH_(2) -O)_(m) -R^(2)で示される(ポリ)プロピレングリコールエーテルエステル(R^(2 )は炭素数1?10の直鎖および(または)分岐を持つアルキル。両末端のアルキル基は同一でもよいし異なってもよい。mは1?5の整数)等が使用できる。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のアルコール類;・・・、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等があげられる。」(段落【0025】?【0027】)

(4)本件出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
・摘示4a.「【従来の技術と発明が解決しようとする課題】従来より、この種のポリオレフィン用粘着剤として、耐候性良好なアクリル系感圧粘着剤が使用されている。このアクリル系感圧粘着剤は、粘着性モノマーとして炭素数4?14のアルキル(メタ)アクリレート、凝集性モノマーとしてメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリル等および架橋性モノマーとしてカルボキシル基、ヒドロキシル基または加水分解性シリル基を含有するビニル系モノマーのアクリル系共重合体を主成分とし、架橋性モノマーがカルボキシル基またはヒドロキシル基を含有するビニル系モノマーである場合はイソシアネート系架橋剤が配合される。」(段落【0002】)
・摘示4b.「【実施例】次に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
実施例1?6および比較例1?9
(1)アクリル系共重合体の製造
下記表1に示す部数の各モノマーを、窒素雰囲気下、酢酸エチル中、アゾビスイソブチロニトリルの存在下で75℃にて24時間溶液重合を行って、アクリル系共重合体溶液(70%溶液)を得る。
【表1】


」(段落【0013】?【0014】)

(5)本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。
・摘示5a.「1 ゴム成分の存在下にビニル単量体を重合するにあたり、加水分解性ケイ素含有基を含有するビニル系単量体を全ビニル単量体に対し0.1?50モル%添加重合してえられる重合物を含有してなる感圧性接着剤組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
・摘示5b.「実施例4
分子量1260のポリブテン10部、アクリル酸ブチル70部、アクリル酸2-エチルヘキシル10部、酢酸ビニル20部、メタアクリル酸トリメトキシシリルプロピル2.5部および過酸化ベンゾイル1.0部を酢酸エチル100部に溶解させ、チッ素雰囲気下、80℃で6時間攪拌して重合させた。重合転化率は97%であった。」(第5ページ右上欄下から7行?左下欄1行)

(6)本件出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
・摘示6a.「【従来の技術】従来の水性コンタクト接着剤は、酸価の低い粘着付与樹脂を、芳香族炭化水素のような有機溶剤に溶解した後に、乳化剤と水とを加えて粘着付与樹脂のエマルションを作り、これをクロロプレンゴムラテックスに配合していた。
このような方法で得られた接着剤は、環境に負荷を与える有機溶剤を含有し、かつ樹脂を乳化するために新たに乳化剤を配合するがゆえに、結果として接着在中の乳化剤が多くなり、この乳化剤が接着性能に悪影響を及ぼし、溶剤型接着剤に比べ、接着性能に劣り、コンタクト性も劣るものである。
最近では酸価の低い粘着付与樹脂を、芳香族炭化水素のような有機溶剤に溶解し、乳化剤と水とを加えて乳化液とした後に減圧で有機溶剤を除去した粘着付与樹脂のエマルションを作り、これをクロロプレンゴムラテックスに配合してなる接着剤がある。しかしながら、この方法でも製造工程中で有機溶剤を使用し、しかも完全には有機溶剤を除去することができないために、接着剤中に残存の有機溶剤を含有する。また接着性能に悪影響を及ぼす乳化剤が減量されないために、コンタクト性も劣るものである。
特開平6-322347号公報には、酸価の高い粘着付与樹脂をアルコール系の溶剤に溶解し、新たに乳化剤を添加することなく、クロロプレンゴムラテックスのようなポリマーエマルションに配合してなる接着剤組成物が示されている。これらは環境負荷の問題を改善するものの、アルコール系の溶剤で樹脂を予め溶解するがために樹脂分を高くすることができず、水性型接着剤の欠点である乾燥速度を速めることが出来ない。またコンタクト性や耐水性も十分ではなく、火災の危険性も皆無ではない。」(段落【0002】?【0005】)

(7)本件出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
・摘示7a.「前記有機溶剤型接着剤は、エタノールなどのアルコール系、トルエン、キシレンなどの芳香族系、酢酸エチルなどのエステル系、アセトンなどのケトン系等の有機溶剤中にポリマーを溶解したものであり、これら有機溶剤の揮発によって造膜、固化させるものである。したがって、必然的に揮発性溶剤や未反応の揮発性モノマー等の揮発性有機化合物(VOC)が放出されてしまう。そのため、このような有機溶剤型接着剤を用いた作業中に十分な換気を行わないと、作業者の目特に球結膜や鼻粘膜、喉粘膜等に異常刺激を与えたり、手足の痺れ、視力の低下、めまい、喘息、発熱、呼吸困難、吐き気等の種々の症状(化学物質過敏症)を起こしたり、ジンマシンや湿疹等のアレルギー、アトピー性皮膚炎の悪化等の健康障害を誘発することがあった。また、施工後にも有機溶剤型接着剤中に残存する有機溶剤は微量ではあるものの徐々に揮発する。しかも近年では高気密性住宅が増加しているため、室内は前述の揮発性有機化合物(VOC)が籠もる環境となり、人体に影響が及ぶ濃度になりがちである。したがって、この住宅に居住する生活者は、前述の作業者と同様の健康障害が懸念される。このような状況は“シックハウス症候群”或いは“シックビル症候群”などと呼ばれ、社会的問題となっている。」(段落【0003】)

(8)本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
・摘示8a.「【従来の技術】従来の水性コンタクト接着剤は、酸価の低い粘着付与樹脂を、芳香族炭化水素のような有機溶剤に溶解するか、又は微粉砕した後に、乳化剤と水とを加えて粘着付与樹脂のエマルションを作り、これをクロロプレンゴムラテックスに配合していた。
このような方法で得られた接着剤は、環境に負荷を与える有機溶剤を含有し、かつ樹脂を乳化するために新たに乳化剤を配合するがゆえに、結果として接着剤中の乳化剤が多くなり、この乳化剤が接着性能に悪影響を及ぼし、溶剤型接着剤に比べ、接着性に劣り、接着速度も遅く、半乾燥状態での粘着力が無く、コンタクト性も劣るものである。
特開平6-322347号公報には、酸価の高い粘着付与樹脂をアルコール系の溶剤に溶解し、新たに乳化剤を添加することなく、クロロプレンゴムラテックスのようなポリマ-エマルションに配合した接着剤組成物が示されている。これらは環境負荷の問題を改善し、良好なコンタクト性が得られるものの、アルコール系の溶剤で樹脂を予め溶解するがために樹脂分を高くすることができず、水性型接着剤の欠点である、乾燥を速め、初期接着強さを高めることができない。」(段落【0002】?【0004】)

(9)本件出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
・摘示9a.「【請求項1】 加水分解により架橋可能な加水分解性ケイ素基を分子内に1つ以上有する有機重合体(A)、ポリフルオロ炭化水素基を有する重合単位(p)および光硬化性官能基を有する重合単位(q)を有する含フッ素共重合体(B)、およびポリフルオロ炭化水素基含有(メタ)アクリロイルモノマーおよび/またはポリフルオロ炭化水素基含有オリゴマー(C)を含有する、硬化性組成物。
【請求項6】 加水分解により架橋可能な加水分解性ケイ素基を分子内に1つ以上有する有機重合体(A)が複合金属シアン化物錯体を触媒とし、開始剤の存在下、環状エーテルを重合させて得られる水酸基含有ポリエーテルから誘導され、式1で表される加水分解性ケイ素基を有する有機重合体である、請求項1?5のいずれかに記載の硬化性組成物。
-SiX_(a)R^(1)_(3-a)…式1
(式(1)中、R^(1)は炭素数1?20の置換または非置換の1価の炭化水素基、Xは水酸基または1価の加水分解性基、aは1?3である。)」(特許請求の範囲請求項1及び6)
・摘示9b.「【発明が解決しようとする課題】本発明は前述の欠点を解消しようとするものである。すなわち十分な柔軟性、伸縮性を有しながら表面耐汚染性も良好である硬化体が得られ、かつ組成物を配合する際の作業性も改善された成型材料、シーリング剤、塗料、接着剤などに用いられる組成物を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
・摘示9c.「【実施例】以下に本発明の実施例をあげるが、これらに限定されるものではない。なお、実施例中の分子量の測定は、ゲルパーミネーションクロマトグラフにより溶媒としてテトラヒドロフランを用いて測定した。検量線はポリスチレン標準サンプルを用いて作成した。また、粘度測定は、B型粘度計を用いて測定した。
有機重合体P1?P4は、本発明の有機重合体(A)に相当し、含フッ素重合体1?3、7、8は、(p)+(q)タイプの含フッ素共重合体(B)に相当し、また、混合物4?6、9?10は含フッ素共重合体(B)と化合物(C)との混合物に相当する。
(有機重合体P1の製造例)分子量1000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体を触媒としてプロピレンオキシドの重合をおこない、数平均分子量17000、Mw/Mn=1.4のポリオキシアルキレントリオールを得た。このものをアルカリ存在下にて塩化アリルと反応させ末端水酸基をアリルオキシ基に変換した後、精製した。得られた精製ポリマーに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、1分子当たり平均2.1個の加水分解性ケイ素基末端を有する有機重合体P1を得た。
(有機重合体P2の合成例)有機重合体P1と同様の方法で、分子量1000のジエチレングリコーループロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体にてプロピレンオキシドの重合をおこない、数平均分子量17000、Mw/Mn=1.4のポリオキシアルキレンジオールを得、末端水酸基をアリルオキシ基に変換し、さらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、1分子当たり平均1.6個の加水分解性ケイ素基を有する有機重合体P2を得た。
(有機重合体P3の合成例)有機重合体P1と同様の方法により、分子量1000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体にてプロピレンオキシドの重合をおこない、数平均分子量20000、Mw/Mn=1.4のポリオキシアルキレントリオールを得、末端水酸基をアリルオキシ基に変換し、さらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランを付加反応させ、1分子当たり平均1.7個の加水分解性ケイ素基を有する有機重合体P3を得た。
(有機重合体P4の合成例)有機重合体P2を300g耐圧容器に仕込み、100℃に加熱攪拌した中に、メタクリル酸メチル80g、スチレン30g、アクリル酸ノルマルブチル15g、メタクリル酸ステアリル30g、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル3g、メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.5gおよびアゾビスイソブチロニトリル3gの混合溶液を3時間かけて滴下攪拌し、さらにアゾビスイソブチロニトリル1gをメタノール10gに溶かした溶液を30分かけて滴下してから、さらに1時間加熱攪拌した。減圧下で、未反応モノマーおよび溶媒を留去して、有機重合体P4を得た。」(段落【0104】?【0108】)

2.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、その特許請求の範囲請求項1及び4の記載からみて、
「複合金属シアン化物錯体(C)を触媒として開始剤にアルキレンオキシドを重合させて得られる数平均分子量5000以上のポリオキシアルキレン重合体(D)を主鎖とし、下記一般式(1)で示されるケイ素含有基を全分子平均で一分子当り0.3個以上有する有機重合体(A)および、その100重量部に対し、下記一般式(2)で示される重合性不飽和基含有モノマー(F)と炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを含有するシリコン化合物(G)との共重合により製造しうる、下記一般式(1)で示されるケイ素含有基を重合体1分子当りで1個以上有する重合性不飽和基含有モノマーの重合体(B)0.1?1000重量部を含有する硬化性組成物。
-SiX_(a)R^(1)_(3-a)・・・(1)
ただし、式中R^(1)は炭素数1?20の置換もしくは非置換の1価の炭化水素基、Xは加水分解性基、aは1、2または3である。
CH_(2)=C(R^(2) )(R^(3))・・・(2)
ただし、式中R^(2)は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1?10の1価の有機基、R^(3)は炭素数1?20の1価の有機基である。」(摘示記載1a)の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本件発明1について
(2-1)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の一般式(1)で示されるケイ素含有基において、その加水分解性基として挙げられている、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミド基、アミノ基、アミノオキシ基、ケトキシメート基(摘示1c)は、本件特許明細書段落【0029】及び【0031】において、一般式(5)として示されている珪素含有官能基における加水分解性基として挙げられている基と一致している。
したがって、甲1発明の一般式(1)で示されるケイ素含有基は、本件特許明細書段落【0029】にシロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基として記載された一般式(5)の反応性シリコン官能基(一般式(5)においてR^(3)が炭素数1?20の置換もしくは非置換の1価の有機基で、Xが加水分解性基の場合)に相当する。
また、甲第1号証には、一般式(2)で示される重合性不飽和基含有モノマー(F)として「アクリル酸、メタクリル酸あるいはそれらのエステルやアクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル系、メタクリル系モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有モノマー」が挙げられているが(摘示記載1e)、これらは本件発明1の(メタ)アクリル酸エステル単量体に相当する。
さらに、甲第1号証には、炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを含有するシリコン化合物(G)として「3-アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルオキシシラン;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルオキシシラン等が挙げられるが、特に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。」ことが記載されているが(摘示記載1e)、これらは本件特許明細書段落【0034】に本件発明1の重合性不飽和結合と反応性シリコン官能基を有する化合物として挙げられている一般式(7)の化合物に相当する。
そうであるから、甲1発明の「一般式(2)で示される重合性不飽和基含有モノマー(F)と炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを含有するシリコン化合物(G)との共重合により製造しうる、一般式(1)で示されるケイ素含有基を重合体1分子当りで1個以上有する重合性不飽和基含有モノマーの重合体(B)(一般式(1)の構造式省略)」(以下、「甲1(B)成分」という。)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、重合性不飽和結合と反応性シリコン官能基を有する化合物とを重合する工程を含む製造方法により得られる共重合体であって、本件発明1の「分子鎖として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなり、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有する重合体(A)成分」(以下、「本件(A)成分」という。)に相当するものである。
また、甲1発明の「複合金属シアン化物錯体(C)を触媒として開始剤にアルキレンオキシドを重合させて得られる数平均分子量5000以上のポリオキシアルキレン重合体(D)を主鎖とし、一般式(1)で示されるケイ素含有基を全分子平均で一分子当り0.3個以上有する有機重合体(A)(一般式(1)の構造式省略)」(以下、「甲1(A)成分」という。)は、本件発明1の「シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分」(以下、「本件(B)成分」という。)に相当する。
したがって、甲1発明の「甲1(B)成分および甲1(A)成分を含有する硬化性組成物」は、本件発明1の反応性組成物(C)成分に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点1及び2を有するものといえる。

一致点:
「分子鎖として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなり、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有する重合体(A)成分およびシロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分を含有する反応性組成物(C)成分を含有する重合体組成物であって、重合体(A)成分が、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、重合性不飽和結合と反応性シリコン官能基を有する化合物とを重合する工程を含む製造方法により得られる共重合体であることを特徴とする重合体組成物。」

相違点1:
本件発明1では、重合体組成物は、「芳香族系溶剤以外の溶剤を含有しており、芳香族系溶剤の含有量が該(C)成分全体に対して1,000ppm以下である」と特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はなされていない点。

相違点2:
本件発明1では、本件(A)成分は、「重合溶媒がアルコ-ル系溶剤およびカルボニル基含有溶剤から選ばれる1種以上であって、芳香族系溶剤を含まない溶剤を用いる製造方法により得られる」と特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はなされていない点。

(2-2)相違点についての検討
(2-2-1)相違点2について
甲第1号証には、甲1(B)成分の重合は通常の方法で行うことができること、必要に応じて溶剤を使用することも可能であることが記載され(摘示1f)、参考例4には、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをトルエン溶媒中で重合させ重合体(P4)を得たことが記載されている(摘示1h)から、甲1(B)成分を溶剤を用いる製造方法により得ることが記載されているといえる。
この点について検討する。
甲第2号証には、「(A)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体及び当該単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体をミクロ懸濁重合して得られるアクリル系水性樹脂の水性分散体の水性媒体中に、(B)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体、カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体及びこれらの単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を構成単量体とする共重合体であって、そのカルボキシル基の一部又は全部が中和されてなるアクリル系共重合体、が溶解又は分散してなる被覆用水性硬化性組成物。」(摘示2a)が記載されている。
上記甲第2号証の「(B)アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体、カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体及びこれらの単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体を構成単量体とする共重合体であって、そのカルボキシル基の一部又は全部が中和されてなるアクリル系共重合体」(以下、「甲2(B)成分」という。)における、「アルコキシシリル基含有ラジカル重合性単量体」は、甲1(B)成分の「炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを有するシリコン化合物(G)」に相当し(摘示2c及び摘示1e)、同じく「カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体」及び「これらの単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体」は、甲1(B)成分の「重合性不飽和基含有モノマー(F)」に相当する(摘示2d及び1e)ものであるから、甲2(B)成分は、甲1(B)成分に相当する共重合体といえるものである。
そして、甲第2号証には、甲2(B)成分の製造に用いられる溶剤として、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、アセトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等の酢酸エステル系溶剤、トルエン等の芳香族炭化水素化合物が記載されており、その中でも好ましい溶剤の1つとしてアルコール系溶剤が挙げられており(摘示2e)、参考例2においてはイソプロパノールが用いられている(摘示2f)。
さらに、甲第6号証及び甲第8号証には、有機溶剤の中でもアルコール系の溶剤は環境負荷の問題を改善することが記載されている(摘示6a及び摘示8a)。
そうであれば、甲1発明の甲1(B)成分を溶剤を用いて製造するに際し、甲第2号証に記載の溶剤の中から、環境負荷等の問題をも考慮して、アルコール系溶剤を選択してみることは当業者が適宜行う事項に過ぎない。

(2-2-2)相違点1について
上記相違点2についてで述べたように、甲1発明の甲1(B)成分の製造に際し、溶剤としてアルコール系溶剤を選択してみることは当業者が適宜行う事項に過ぎないところ、かかる溶剤を用いれば、当然ながら、当該甲1(B)成分には、芳香族系溶剤は含まれていない。
さらに、甲第1号証には、甲1(A)成分の製造に際して、芳香族系溶剤を使うことは記載されていない。
そうであれば、甲1発明の「甲1(B)成分および甲1(A)成分を含有する硬化性組成物」には、特に単量体としてスチレン等の芳香族化合物を別途用いない限りは、芳香族溶剤は含まれていないと解するのが自然である。
したがって、当該硬化性組成物は、芳香族系溶剤以外の溶剤を含有しており、芳香族系溶剤の含有量が全体に対して1,000ppm以下のものといえる。

(2-3)まとめ
上記のように、相違点2は当業者が適宜なし得る程度のことであり、相違点1はその結果として当然得られる効果を示したものにすぎない。
そして、相違点1及び2を発明特定事項に備えることにより、本件発明1が、予期できない顕著な効果を奏するものであるとは認められない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明2、3及び7について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、「反応性組成物(C)成分が、該(C)成分からの空気中への有機化合物の放散量がGEV(ゲマインシャフト・エミッションコントリールテ・フェリーゲヴェルクシュトッフェ・エー・ヴェー)の定めるGEVスペシフィケーション・アンド・クラシフィケーション・クライテリア2001年2月14日版に記載の測定法(以下、「GEV測定法」という。)において、1,500μg/m^(3)未満である」との事項を発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるものである。
また、本件発明3及び7は、本件発明1を引用し、さらに、それぞれ「前記(C)成分からの空気中への有機化合物の放散量が、GEV測定法において、500μg/m^(3)未満である」との事項、「反応性組成物(C)成分を、23℃(湿度50%)で10日、続いて50℃で14日反応せしめた硬化物からの空気中への有機化合物の放散量が、GEV測定法において、100μg/m^(3)未満である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
この点について、検討する。
本件発明2、3及び7の上記した発明特定事項は、いずれも、反応組成物(C)成分からの空気中への有機化合物のの放散量を規定するものであるところ、接着剤、シーリング剤、塗料及びコーティング材等の用途分野においては、有機溶剤等の揮発性化合物の放出による人体への有害性や環境汚染の問題は、甲第2号証、甲第6号証乃至甲第8号証に記載されているように、本件特許出願時にはよく知られた事項である(摘示2b、摘示6a、摘示7a及び摘示8a)。
そうであれば、シーリング剤、接着剤、コーティング剤等に用いられる甲1発明の組成物(摘示1g)において、これらの揮発性化合物の空気中への放出を極力抑制しようとすること、そのために揮発性化合物を使用しないか、あるいは使用しても使用後に除去することは当業者が容易に想到し得る事項であるところ、当該技術分野において、重合後に未反応モノマーおよび溶剤を除去することも必要に応じて行われている(摘示1h、摘示2f及び摘示9c)ことであるから、揮発性化合物の不使用及び除去に格別な技術的困難があるものとも認められない。
そして、その放散量の測定に際しては、反応組成物(C)成分の用途に鑑みて、測定試料として硬化物を用い、その測定方法としてGEV測定法を採用し、これにより反応組成物(C)成分の許容される放散量を決定することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
また、その効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。
したがって、本件発明2、3及び7は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由および「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証乃至甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、さらに、「シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分の原料であるオキシアルキレン重合体が、苛性アルカリを用いるアニオン重合法、オキシアルキレン重合体を原料とした鎖延長反応方法、複合金属シアン化物錯体を触媒とする重合法、セシウム金属を触媒とする重合法またはポリフォスファゼン塩を触媒とする重合法からなる群から選択される少なくとも1種の方法により得られたオキシアルキレン重合体である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
甲1発明の甲1(A)成分 (本件(B)成分に相当)は、複合金属シアン化物錯体(C)を触媒として重合されるものであるから、触媒の点で本件発明4と差異はない。
したがって、本件発明4は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用し、さらに、「(A)成分および(B)成分におけるシロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基が、ジメチルモノメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジイソプロペニルオキシシリル基およびトリイソプロペニルオキシシリル基からなる群から選択される少なくとも1種である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
甲1発明の甲1(A)成分(本件(B)成分に相当) の一般式(1)で示されるケイ素含有基において、R^(1)が炭素数1の非置換の1価の炭化水素基、すなわちメチル基で、Xがアルコキシ基で、aが1の場合にはジメチルモノメトキシシリル基が包含され、同じくaが2の場合にはメチルジメトキシシリル基、メチルジイソプロペニルオキシシリル基およびaが3の場合にはトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロペニルオキシシリル基が包含される。
また、甲第1号証には、甲1(B)成分の炭素-炭素2重結合と加水分解性基とを含有するシリコン化合物(G)として、 3-アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルオキシシラン;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルオキシシラン等が例示されており(摘示1e)、これら例示されたものはメチルジメトキシシラン基、トリメトキシシラン基を有するものである。
したがって、上記発明特定事項においては、本件発明5と甲1発明とは差異はない。
よって、本件発明5は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1を引用し、さらに、「シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有するオキシアルキレン重合体(B)成分の原料であるオキシアルキレン重合体が複合金属シアン化物錯体を触媒とする重合法により得られたものであって、数平均分子量(Mn)が6,000以上かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.6以下である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
これについて検討する。
甲1発明の甲1(A)成分 (本件(B)成分に相当)は、複合金属シアン化物錯体(C)を触媒として重合されるものであり、その数平均分子量は5000以上のものであって、特に8000?30000が好ましいものである(摘示1d)から、その触媒及び数平均分子量において本件発明6と重複するものである。
また、甲第9号証には、甲1発明と同様にシーリング剤、塗料、接着剤などに用いられる組成物が記載され(摘示1g及び摘示9b)、その成分である、「加水分解により架橋可能な加水分解性ケイ素基を分子内に一つ以上有する有機重合体」として、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体、すなわち複合金属シアン化物錯体を触媒とする重合法により得られた数平均分子量が17000、分子量分布(Mw/Mn)が1.4のオキシアルキレン重合体が記載されている(摘示9a及び9c)。
甲第1号証には、甲1(A)成分は、複合金属シアン化物錯体(C)を使用することにより、従来のアルカリ金属触媒を使用して製造したポリオキシアルキレン重合体よりMw /Mn が狭いものであることが記載されているところ(摘示1b)、甲9号証に記載されたオキシアルキレン重合体(以下、「甲9オキシアルキレン重合体」という。)は、甲1(A)成分 と同様に複合シアン化物錯体を触媒とする重合方法により得られるものであるから、甲1(A)成分においても、甲9オキシアルキレン重合体と同様の分子量分布(Mw/Mn)のものが得られることは容易に類推されることから、当業者が甲9オキシアルキレン重合体の分子量分布(Mw/Mn)の値を考慮して、その最適範囲を決定することは当業者が適宜行う事項であり、その点に格別技術的な困難があるものとも認められない。
また、当該数平均分子量及び分子量分布を本件発明6の特定の範囲とすることにより格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件発明6は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を引用し、さらに、「反応性組成物(C)成分がトルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、またはホルムアルデヒドのいずれも含有しない」との事項を発明特定事項として備えるものである。
上記「(2)本件発明1について」で述べたように、甲1発明において、甲1(B)成分の重合の際に、アルコール系溶剤を用いることは当業者が容易に想到し得る事項であり、その場合には、芳香族溶剤、ホルムアルデヒドを含まないことは当然である。
さらに、甲第1号証には、甲1(A)成分の製造に際して、芳香族系溶剤あるいはホルムアルデヒドを使うことは記載されていない。
そうであれば、甲1発明の「甲1(B)成分および甲1(A)成分を含有する硬化性組成物」は、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ホルムアルデヒドを含まないものといえる。
したがって、本件発明8は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1を引用し、さらに、「反応性組成物(C)成分からの空気中へのトルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、および、フタル酸ジ-n-ブチルの放散量が、GEV測定法において、いずれも1μg/m^(3)未満であり、かつホルムアルデヒドの放散量が5μg/m^(3)未満である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
上記「(7)本件発明8について」で述べたように、甲1発明の「甲1(B)成分および甲1(A)成分を含有する硬化性組成物」は、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ホルムアルデヒドを含まないものといえるものである。
そうであれば、当然に、GEV測定法においてトルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチルの放散量がいずれも1μg/m^(3)未満であり、かつホルムアルデヒドの放散量が5μg/m^(3)未満であるといえる。
したがって、本件発明9は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件発明12について
本件発明12は、本件発明1を引用し、さらに、「(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(1)炭素数1?8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と(2)炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との混合物である」との事項を発明特定事項として備えるものである。
甲第1号証には、重合性不飽和モノマー(F)として、アクリル酸、メタクリル酸のエステルが挙げられているが(摘示1e)、甲第4号証に記載されているように、加水分解性シリル基を含有するアクリル系共重合体において、そのアクリル酸エステルモノマーとして、炭素数1?14のアルキル(メタ)アクリレートは通常用いられているものである(摘示4a)。
そして、斯かるアクリル系重合体において、複数のモノマーを用いることは通常行われている事項である(例えば、摘示4b)。
そうであれば、重合性不飽和モノマー(F)として、これらの中から(1)炭素数1?8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と(2)炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とを選択し、その両者を混合することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
そして、本件特許明細書の実施例及び比較例においては、残存溶剤量、GEV法での放散量(TVOC)及び厚生労働省指針値策定物質の有無を測定しているのみであって、その他の物性について何ら測定されていないことから、本件発明12が、上記した発明特定事項を備えることによって、格別顕著な効果が奏されることは何ら裏付けられていない。
したがって、本件発明12は、上記した発明特定事項以外の部分については本件発明1と同じであるから、上記した理由及び「(2)本件発明1について」で記載したとおりの理由により、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1乃至9及び12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

第5.結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2及び3については検討するまでもなく、本件発明1乃至9及び12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-02 
結審通知日 2009-09-04 
審決日 2009-09-24 
出願番号 特願2002-139033(P2002-139033)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (C08F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 渡辺 仁
内田 靖恵
登録日 2008-04-25 
登録番号 特許第4116326号(P4116326)
発明の名称 重合体組成物  
代理人 安富 康男  
代理人 山口 昭則  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 庄司 克彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 佐々木 定雄  

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