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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H |
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管理番号 | 1206423 |
審判番号 | 不服2007-4786 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-02-15 |
確定日 | 2009-10-29 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第529168号「耐浸透圧性植物の作出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月 3日国際公開、WO96/29857〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯及び本願発明 本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う1996年3月27日(優先日,平成7年3月27日)を国際出願日とする出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成18年5月29日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,以下のとおりのものである。 「アルスロバクター・グロビフォルムス又はアルスロバクター・パセンス由来のコリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換することからなる耐塩性および/または耐浸透圧性光合成植物の作出方法。」 第2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用例4として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である日本植物生理学会1994年度年会および第34回シンポジウム講演要旨集,(1994) p. 83 (1pD02)(以下,「引用例4」という。)には, 「光合成生物は,浸透圧ストレスを受けると細胞内で適合溶質(Compatible Solute)を合成・蓄積し,浸透圧調節を行っている。適合溶質として知られているベタイン(グリシンベタイン)は大腸菌やある種の高等植物ばかりでなく,耐塩性の高いラン藻においても蓄積する。大腸菌においては比較的研究が進んでおり,ベタインは塩ストレス下においてコリンから2段階の酸化反応(コリン→ベタインアルデヒド→ベタイン)によって合成される。これらに関する遺伝子は既にクローニングされている。 そこで,ベタインを蓄積しない淡水性形質転換型ラン藻Synechococcus sp.PCC7942へ大腸菌のベタイン合成系遺伝子を導入し,塩ストレス下におけるベタイン蓄積の生理学的意義について検討を行った。1mMコリン,200mM NaClを与えて生育させた結果,ベタイン合成系遺伝子を導入した形質転換株では,塩ストレス下で野生株に見られる黄化現象が抑制されていた。この時,形質転換株では,ベタインの蓄積がNMRにより確認された。酸素電極を用いて光化学系の部分活性を測定した結果,形質転換株ではコントロールに比べ塩による光化学系IIの活性阻害が見られなかったことから,ベタインがその活性を保護していることが強く示唆された。」と記載されている。 原査定の拒絶の理由に引用例5として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である日本植物生理学会1994年度年会および第34回シンポジウム講演要旨集,(1994) p. 61 (1aD10)(以下,「引用例5」という。)は,「アルスロバクター・グロビフォルムスからのコリンオキシダーゼ遺伝子の分子クローニング」との表題の講演要旨であり, 「多くの耐塩性の生物で引き起こされるグリシンベタインの蓄積は,塩ストレスに対する適合反応とされている。グラム陽性の土壌細菌,A.グロビフォルムスにおいて,コリンオキシダーゼはコリンをグリシンベタインに変換するキーとなる酵素である。次のように,A.グロビフォルムスのコリンオキシダーゼに関する遺伝子を単離した・・・・。その結果得られた遺伝子は約66kDaのポリペプチドをコードしている。」と記載されている。 原査定の拒絶の理由に引用例6として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるJ. Bacteriol., 173 (1991) p. 472-478(以下,「引用例6」という。)には, 「コリンオキシダーゼは,ベタインアルデヒド経由でコリンからのグリシンベタイン生合成を触媒することのできる2機能性の酵素である。グラム陽性の土壌細菌,アルスロバクター・パセンスのこの酵素をコードする遺伝子(cox)が単離され特徴付けられた。・・・」(要約)と記載され, 「ベタインの生合成は,ベタインアルデヒドを中間体とする2段階反応を経由するコリンの酸化の結果である。この反応系は,3つの異なった酵素システムによって触媒されているのであろう。微生物と哺乳動物では,膜結合コリンデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.99.1)が,可溶性ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.8)とともに使われる。植物は,可溶性コリンモノオキシゲナーゼをベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼとともに利用している。三番目のコリン酸化システムは,まだ,微生物だけでしか見つかっていないが,インビトロで両方の反応を触媒することのできる可溶性コリンオキシダーゼを含むものである。」(472頁,右欄,3-14行)と記載されている。 第3 対比 引用例4に記載される耐塩性の付与されたラン藻Synechococcus sp.PCC7942は,本願明細書第6頁下から5行?下から2行に,「本発明の方法において耐塩性および/または耐浸透圧性を付与できる植物の範囲はきわめて広く,ラン藻から高等植物にまで及ぶ。ラン藻は,光合成の機構が高等植物と基本的に同じであること,また形質転換が容易で短時間に結果が得られることから,高等植物のモデル生物として広く用いられている。」と説明されているように,本願発明における光合成植物の一種である。そこで,本願発明と引用例4に記載された発明を比較すると,植物を形質転換する耐塩性および/または耐浸透圧性光合成植物の作出方法である点で一致しているが,次の点で相違している。 本願発明が,アルスロバクター・グロビフォルムス又はアルスロバクター・パセンス由来のコリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換するものであるのに対し,引用例4のものは大腸菌のベタイン合成系遺伝子で植物を形質転換するものである点。 第4 判断 引用例6には,アルスロバクター・パセンス由来のコリンオキシダーゼが,微生物における,膜結合コリンデヒドロゲナーゼと可溶性ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼのコリン酸化システムと同じ両反応を触媒する能力があることが示されているのであるから,当業者であれば,引用例4に記載される大腸菌のベタイン合成系遺伝子に換えて,同じ作用をもっている,引用例6に記載されるアルスロバクター・パセンスのコリンオキシダーゼをコードする遺伝子を用いることを容易に想到できるものである。また,この遺伝子と類似することが予測され,引用例5に記載される,アルスロバクター・グロビフォルムスからのコリンオキシダーゼ遺伝子を用いようとすることも,当業者であれば,容易に試みることであり,そのときにGenBankなどの周知のデータベースを検索し,本願の優先日前に登録されているアクセッション番号X84895のアルスロバクター・グロビフォルムスからのコリンオキシダーゼ遺伝子の塩基配列を容易に知ることができるのであるから,遺伝子を利用することも困難ではない。そして,組換えベクターで植物を形質転換することは,周知慣用の技術手段に過ぎず,本願発明は引用例4に記載された発明に,引用例5及び6に記載された発明を組み合わせれば容易に発明できたものである。 そして,本願の明細書の記載を見ても,大腸菌のベタイン合成系遺伝子に換えて,アルスロバクター・グロビフォルムス又はアルスロバクター・パセンス由来のコリンオキシダーゼをコードする遺伝子を用いたことにより,当業者が予測できないような格別顕著な作用効果が奏されているものとも認められない。 なおこの点につき,請求人は,(1)大腸菌ではないアルスロバクター・グロビフォルムス又はアルスロバクター・パセンス由来の1段階の酸化反応でコリンをベタインに酸化することのできるコリンオキシダーゼをコードする遺伝子が光合成植物で効率よく転写,翻訳されるかどうかは到底予測できないこと,(2)ベタイン合成と耐塩性の関連について記載しているのは引用例4のみであり,これはラン藻についてであり,光合成植物,特に高等植物とは無関係であること,(3)大腸菌は光合成系をもたないので,大腸菌でコリンオキシダーゼ遺伝子が発現しても,同じ遺伝子が光合成植物で発現されることや,光合成活性が塩ストレスで阻害されないことまで予測することはできないこと,(4)本発明では,rbcSトランジットペプチドをCODに付加するという特別の工夫をすることによって,CODを葉緑体に移行させることに成功しており,発現したCODが葉緑体のストローマに局在し,コリンオキシダーゼが葉緑体まで輸送されたことを確認していることを主張するので検討する。 (1)の点について コードされているコリンオキシダーゼが,1段階の酸化反応でコリンをベタインに酸化することのできることと,その遺伝子が,効率よく転写,翻訳されるかどうかは,全く関連のない事項であるし,転写効率が低ければ,植物において利用されている,公知のプロモーターを用いればよいのであるし,利用頻度の低いコドンがあるために翻訳効率が低ければ,周知の遺伝子工学の手法によりコドンの最適化を行うことができるのであって,効率よく転写,翻訳されるかどうか予測できないとしても,引用例4に記載された発明に,引用例5及び6に記載された発明を組み合わせることを何ら阻害することはないものである。 (2)の点について 上記第3で示したように,ラン藻は本願発明における光合成植物に包含されるものである。 また仮に,ラン藻は本願発明における光合成植物に包含されないとしても,原査定の拒絶の理由に引用例1として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である日本植物生理学会,1993年度年会および第33回シンポジウム講演要旨集 (1993) p. 79 (1pC15)にベタイン合成系遺伝子をタバコへ導入して,塩ストレスに対する耐性を調べようとしていることが記載され,引用例4に記載された発明において,ラン藻に換えてタバコとすることは,当業者が容易になしえることであり,高等植物のモデル生物として広く用いられているラン藻と同様の耐塩性が得られることも,当業者が予測できる程度のことである。 (3)の点について 光合成系をもつかどうかと,外来遺伝子が発現するかどうかは直接的な関連がない事項であり,発現が予測できないことではないし,また,光合成の機構が高等植物と基本的に同じであり,高等植物のモデル生物として広く用いられているラン藻において,大腸菌のベタイン合成系遺伝子が発現し,ベタインを蓄積して耐塩性となることが引用例4に示されているのであるから,光合成活性が塩ストレスで阻害されないことは予測できることである。 (4)の点について rbcSトランジットペプチドをCODに付加することは,本願発明を特定する事項とはなっておらず,そもそも,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用できない。 また,例えその点が本願発明を特定する事項であったと仮定した場合であっても,耐塩性の植物において,ベタインが葉緑体に蓄積されることはよく知られていることであり,原査定の拒絶の理由に引用例2として引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるPlanta 193 (1994) p. 155-162には,植物のベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼが,葉緑体に標的化されていることが記載され,同じく引用例3として引用されたPlant J. 6 (1994) p. 749-758には,rbcSトランジットペプチドをベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼに付加することが記載されているのであるから,高等植物をコリンオキシダーゼ遺伝子で形質転換しようとするときに,rbcSトランジットペプチドにより葉緑体に標的化することも,当業者にとって格別に困難なことでもないのである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例4,5及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2009-09-03 |
結審通知日 | 2009-09-04 |
審決日 | 2009-09-15 |
出願番号 | 特願平8-529168 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 正展 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
吉田 佳代子 鵜飼 健 |
発明の名称 | 耐浸透圧性植物の作出方法 |
代理人 | 泉谷 玲子 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 山崎 幸作 |
代理人 | 福所 しのぶ |
代理人 | 梶田 剛 |
代理人 | 小笠原 有紀 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 押鴨 涼子 |
代理人 | 江尻 ひろ子 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 中田 尚志 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 野▲崎▼ 久子 |