• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1206997
審判番号 不服2007-11945  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-25 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2001-364528号「バルーンカテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月10日出願公開、特開2003-164528号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年11月29日の出願であって、平成19年3月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年5月25日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年5月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられた可撓性を有するディスタルシャフトと、
前記ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され、基端部にコネクタ部が設けられた剛性を有するハイポチューブと、
前記ハイポチューブの先端部から前記バルーンの近傍の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられ、前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和するためのコアワイヤーとを備えてなり、
前記ハイポチューブの先端を含む前記先端部の一部を、一方の壁部から対向する壁部に向かって前記バルーン側が薄くなるように傾斜させて形成したことを特徴とするバルーンカテーテル。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

(2)補正の目的の適否
本件補正は、平成18年11月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(以下、「拒絶査定時の特許請求の範囲」という。)の請求項1に記載された発明における「コアワイヤー」について、「前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和するための」との限定を付加するもので、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内で発明を限定するものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

ア.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成9年11月11日に頒布された刊行物である、特表平9-511159号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載され、また、図示されている。
(ア)「単軌道形式カテーテルにおいては、膨張バルーンを通って延長する案内管とガイドワイヤ自体の両方が、本体管の側壁に設けたガイドワイヤ口から治療用カテーテル本体を出る。カテーテルのこの領域はガイドワイヤ口により弱体化され、カテーテルが血管通路に沿って移動し、ワイヤがガイドワイヤ口を横切ると、激しくねじれる傾向がある。
したがって、本発明の目的は、前記問題点を回避または最小限に抑えるバルーン拡張カテーテルを提供することである。
発明の要旨
本発明の原理を実施するに際し、本発明の好ましい実施態様によれば、細長い近位および遠位本体管部分は、互いに溶着され、拡大可能拡張バルーンは遠位本体管の遠位端に接着された近位端を有する。2つの本体管部分は、まとまって治療用カテーテル本体を形成し、拡大可能拡張バルーンの近位端より近位にガイドワイヤ口を有する。案内管は、バルーンおよび本体溶着域の口を通って延長し、バルーンの遠位端で開放し、これに接続される遠位端を有し、ガイドワイヤ口で開放し、これに封止される近位端を有する。本体管内にあるのが、比較的剛性のハイポチューブであり、近位本体管部分の近位端に隣接する開放近位端を有し、ガイドワイヤ口に隣接する開放遠位端を有する。ハイポチューブは、カテーテル本体管とともに、内部に流体を通すための入れ子状になった内側および外側流れ通路を形成する。ハイポチューブは、ガイドワイヤ口の近位部分から遠位部分へカテーテル本体管内に延長する中実な補強遠位先細ワイヤ部分を具備する。ハイポチューブは、本体管に対して固定取付しても、着脱可能としてもよい。ある実施態様においては、内側流れ通路および外側流れ通路は、完全パージ操作を達成できるように互いから別個に封止され、流体を通路の一方を通してバルーン方向に遠位に流し、流体を通路の他方を通してバルーンから近位に流す。ハイポチューブは、流れ通路領域を大幅に減らすことなく近位本体管部分を補強する。これにより、押圧性の改善、軌道追従性の改善、および膨張ならびに収縮の時間の減少が達成される。」(8頁8行?9頁7行)

(イ)「図2は、治療用カテーテルおよびガイドワイヤを示し、その両方が案内カテーテル内部の管腔内へ挿入される。案内カテーテルは、図2-図8には図示されていない。図2は、治療用カテーテル全体を示す。図3は、治療用カテーテルの遠位端を示す。カテーテルは、相対的により可撓性のある遠位本体管部分を提供するために、例えば、70/30のポリエチレン管(70%の高密度ポリエチレンおよび30%の低密度ポリエチレンを利用する)で作成される遠位本体管部分40から形成される。遠位本体管部分40の近位端には、近位本体管部分42が溶着され、2つは溶着域44(図3)で互いに溶着される。近位本体管部分42はより剛性であり、90/10ポリエチレン管(90%の高密度ポリエチレンおよび10%の低密度ポリエチレン)で作成される。
遠位本体管40の遠位端には、46でのように、膨張可能壁50および遠位端52を備える拡大可能拡張バルーン48が接着される。スリット60が、遠位本体管と近位本体管の間の溶着域44に形成される。可撓性案内管62は、拡張バルーン内で軸方向に延長し、その遠位端64は膨張バルーンの遠位端52に接着され、これを封止する。。案内管62は、拡張バルーンの近位端並びに遠位本体管40を通ってスリット60まで近位に延長する。このスリットは、遠位管部分と近位管部分との間の溶着域の壁にガイドワイヤ口を規定する。案内管の近位開放端は、ガイドワイヤ口60に封止される。」(10頁25行?11頁15行)

(ウ)「近位本体管42内に取り付けられ、その近位端近くの点から遠位に溶着域44に向かって延長するのが、薄い壁で形成される、中空でステンレス・スチール製の比較的剛性の管から形成されるハイポチューブ76である。ハイポチューブは、遠位開口部80で形成され、それに固定される遠位補強部分84を有する遠位端78(図3)を有する。ハイポチューブの遠位端は傾斜して切断され、遠位先端部で高さ約0.016インチ(0.41mm)のハイポチューブの端の一部と遠位開口部80とをその遠位端に残す。約0.003インチ(0.076mm)の細い方の遠位端および約0.016インチ(0.41mm)の太い方の近位端を持つ中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84は、その近位端をハイポチューブの遠位端78の中に配置され、その遠位端78に溶接され(図4および図5を参照)、ハイポチューブに中実な先細カテーテル補強拡張部を提供する。このようにして、ハイポチューブの遠位端部分は、ハイポチューブの内部(および遠位本体管部分40の内部)と連通する開口部80、および中実な補強先細ワイヤ部分84の両方を具備する。先細ワイヤ部分84は、ハイポチューブの遠位端から、溶着域44の長さ全体を遠位に横切って、溶着域の遠位の点まで延長する。図5に図示されるように、中実な先細ワイヤ84は、ハイポチューブの上方に開放する遠位端78の中に定置し、そこに溶接されている。先細補強ワイヤ84は、ガイドワイヤ口60を完全に横切ってその下を、その両方の側面を越えて延長し、ガイドワイヤ口が内部に形成されるカテーテルの部分に改善された剛性を与える。これにより、以下にさらに特に説明するように、(口60により)弱められたカテーテルの領域が、治療用カテーテルがガイドワイヤに沿って案内カテーテルに出入りするに従ってねじれる傾向が最小限となる。
図6に図解されるように、近位本体管42部分は、近位接続取付具90まで近位に延長し、そこに近位本体管部分42の近位端92はしっかりと接着される。」(11頁24行?12頁19行)

(エ)「ハイポチューブ76および近位本体管部分42は、治療用カテーテル本体管の内部を、入れ子状の内側流れ通路110および外側流れ通路112に分割する(図7)。内側通路は、ハイポチューブの内部により形成されるのに対し、外側通路はハイポチューブの外面と近位本体管部分の内部との間に形成される環状の通路である。接続フック94によって、軸方向開口部104を通して注入される流体が内側通路110と外側通路112の両方の近位端の中に流れ込むことができるようになるため、図2-8の装置におけるこれらの2つの通路は、ハイポチューブの近位端と遠位端の両方で互いに流体連通している。補強探り針ワイヤ116(図2および図3、ただし図6および図7には図示されない)は、近位端が端部キャップ118に固定取付され、軸方向開口部104を通って、取付具90を通って、さらにハイポチューブ76を長手方向に通って、その遠位端まで延長する。キャップ118は、ルアー管継ぎ手102と着脱可能に係合するので、補強探り針は取付具およびハイポチューブ内部に着脱可能に挿入できる。探り針ワイヤが取り外された状態で、軸方向開口部104は、膨張および収縮に使用できる。膨張流体を取付具90に適用すると、流体は内側通路110と外側通路112の両方を通って流れる。同様に、軸方向開口部104に負圧を適用すると、内側通路と外側通路両方を通る流体の流れにより収縮が生じる。」(13頁6行?13頁23行)

(オ)図3には、「ハイポチューブ76の先端部が溶着域44の内腔に挿入された」態様が図示されている。

(カ)図6には、「近位本体管42及びハイポチューブ76の基端部に近位接続取付具90が設けられた」態様が図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「相対的により可撓性のある遠位本体管40の近位端には、より剛性である近位本体管42が溶着域44で溶着され、
遠位本体管40の遠位端には、膨張可能壁50および遠位端52を備える拡大可能拡張バルーン48が接着され、可撓性案内管62は、拡大可能拡張バルーン48内で軸方向に延長し、その遠位端64は拡大可能拡張バルーン48の遠位端52に接着されてこれを封止するとともに、可撓性案内管62は、拡大可能拡張バルーン48の近位端並びに遠位本体管40を通ってスリット60まで近位に延長して、遠位本体管40と近位本体管42との間の溶着域44の壁にガイドワイヤ口60が規定され、
溶着域44の内腔にハイポチューブ76の先端部が挿入されるとともに、ハイポチューブ76の基端部に近位接続取付具90が設けられ、
近位本体管42内には、その近位端近くの点から遠位に溶着域44に向かって延長する中空でステンレス・スチール製の比較的剛性の管から形成されるハイポチューブ76が取り付けられ、
ハイポチューブ76の遠位端78は傾斜して切断され、遠位先端部でハイポチューブの端の一部と遠位開口部80とをその遠位端78に残し、
遠位開口部80には、中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84が固定され、
中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84は、ガイドワイヤ口60を完全に横切ってその下を、その両方の側面を越えて延長し、ガイドワイヤ口が内部に形成されるカテーテルの部分に改善された剛性を与えるバルーン拡張カテーテル。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前である平成5年6月1日に頒布された刊行物である、特開平5-137793号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載され、また、図示されている。
(キ)「【課題を解決するための手段】本願発明は小外形を有する血管カテーテル、とりわけ遠端部において小さな外形を有し、予較性が改良された血管カテーテルである。
ここで広く解釈された血管治療手術または血管診断手術を行なう細長状のカテーテルは、第1内腔とこの第1内腔に連通する遠端開口を有する内側管状部材であって、第1内腔および遠端開口がガイドワイヤを摺動自在に受入れる内側管状部材と、内側管状部材に外周に配置され、内側管状部の外側に少なくとも5%の周面が接着する遠端部を有する外側管状部材とを備え、この接着部分は内側管状部材の外面と同一形状を有し、外側管状部材は内側管状部材と外側管状部材との間に長手方向に延びる第2内腔を形成する非接着部を有することを特徴とするカテーテルである。」(段落【0010】?【0011】)

(ク)「図6乃至図10に示す実施例において、カテーテル本体30は、外側管状部材31を有しており、この外側管状部材31は2層構造の基端部32を有している。すなわち、この基端部32は内側管状部34と、この内側管状部34に収縮させて容接に嵌込まれた外側プラスチック管状部33とからなっており、アダプタ35がカテーテル本体の基端に固着されている。
外側プラスチック管状部33は内側管状部34の遠端を越えて延び、比較的非弾性的なバルーン36がその基端において外側管状部材31の外側プラスチック部33の遠端に固着されている。バルーン36の遠端は内側管状部材37の遠端に接着されている。外側管状部材31の外側プラスチック管状部33は遠端部38を有しており、この遠端部38は外側プラスチック部の延長部となっている。この遠端部38は、上述の実施例のように少なくとも一つの断面方向において小形状を有している。遠端部38の内面の大部分は、長手部39に沿って内側管状部材37の外面に接着されている。この範囲において、本実施例の遠端部は、図1乃至図5に示す実施例と同一となっている。本実施例の内側管状部材37は、図1乃至図5に示す実施例の内側管状部材と比較して短くなっている。
図6乃至図10に示す実施例において、カテーテル本体30はガイドワイヤ開口40を有しており、このガイドワイヤ開口40は内側管状部材37と外側管状部材31の接着された壁41および42を各々貫通している。そしてガイドワイヤ開口40は、比較的短い内腔43と連通し、この内腔43は内側管状部材37の遠端部内まで延びている。ガイドワイヤ44は、内腔43内に延び、基端側開口40から外へ出る。ガイドワイヤ44の遠端部に設けられたコイル44は、カテーテル本体30の遠端47の遠端開口46から外方へ延びている。」(段落【0022】?【0024】)

(ケ)「外側プラスチック管状部33が固着された内側プラスチック管状部34は、好ましくは皮下管となっており、ステンレススチールまたはNiTi合金から形成することができるが、とりわけ超弾性特性を有するNiTi合金が好ましい。この点については、本件出願人と同一のアドバンスカーディオバスキュラーシステム社の継続出願、すなわち1990年12月18日付の米国出願第07/629,381「超弾性ガイド部材」に詳述されている。内側管状部34の遠端において、その上方部は取除かれ内腔48がバルーン36の内部に露出している。このため膨張液がバルーン36内に直接向うようになっている。内側管状部材37を内側管状部すなわち皮下管の遠端の下方部に、外側プラスチック管状部33を内側管状部に熱収縮させることによって固着させることが好ましい。この場合、内側管状部材の平担端部がこれらの間に配置される。」(段落【0025】)

(コ)図6には、「バルーン36は、先端部に膨張部を有するとともに、膨張部から基端部まで膨張部より細い管状部を有し、バルーン36の細い管状部は、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端に内側管状部材37が設けられ、
外側管状部材31は、先端部がバルーン36の基端部内腔に差し入れられるとともに、先端部の外周面がバルーン36の基端部内腔の内周面に接した」態様が図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「バルーン36は、先端部に膨張部を有するとともに、膨張部から基端部まで膨張部より細い管状部を有し、
バルーン36の細い管状部は、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端にガイドワイヤを摺動自在に受け入れる内側管状部材37が設けられ、
外側管状部材31は、先端部がバルーン36の基端部内腔に差し入れられるとともに、先端部の外周面がバルーン36の基端部内腔の内周面に接したバルーン膨張カテーテル。」

イ.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「拡大可能拡張バルーン48」は本願補正発明の「バルーン」に相当し、以下同様に、「可撓性案内管62」は「ガイドワイヤー用セグメント」に、「溶着域44」と「相対的により可撓性のある遠位本体管40」とからなる領域は「可撓性を有するディスタルシャフト」に、「溶着域44」が「ディスタルシャフトの基端部」に、「近位接続取付具90」は「コネクタ部」に、「ハイポチューブ76」は「ハイポチューブ」に、「中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84」は「コアワイヤー」に、「バルーン拡張カテーテル」は「バルーンカテーテル」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明1において、「可撓性案内管62」(ガイドワイヤー用セグメント)は、「スリット60まで近位に延長して、遠位本体管40と近位本体管42との間の溶着域44の壁にガイドワイヤ口60が規定され」るとともに、「溶着域44」は、「溶着域44」と「相対的により可撓性のある遠位本体管40」とからなる領域(ディスタルシャフト)の所定位置にあるといえるから、本願補正発明と引用発明1とは、「ディスタルシャフト」が「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向の所定位置から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられた可撓性を有する」点で一致する。
また、「ハイポチューブ」の「先端部がディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され」た本願補正発明と、「ハイポチューブ76の先端部が溶着域44の内腔に挿入され」た引用発明1とは、「ハイポチューブ」の「先端部がディスタルシャフトの基端部内腔に『配置』され」ている点で一致する。
さらに、引用発明1において、「ハイポチューブ76」の「遠位開口部80」に固定された「中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84は、ガイドワイヤ口60を完全に横切ってその下を、その両方の側面を越えて延長し」ているから、本願補正発明と引用発明1とは、「コアワイヤー」が「前記ハイポチューブの先端部から前記バルーン方向側の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられ」ている点で一致する。
加えて、引用発明1において、「ハイポチューブ76の遠位端78は傾斜して切断され」ているから、図3からも明らかなように、本願補正発明と引用発明1とは、「前記ハイポチューブの先端を含む前記先端部の一部を、一方の壁部から対向する壁部に向かって前記バルーン側が薄くなるように傾斜させて形成し」ている点で一致する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明1とは、
「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向の所定位置から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられた可撓性を有するディスタルシャフトと、
先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に配置され、基端部にコネクタ部が設けられた剛性を有するハイポチューブと、
前記ハイポチューブの先端部から前記バルーン方向側の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられたコアワイヤーとを備えてなり、
前記ハイポチューブの先端を含む前記先端部の一部を、一方の壁部から対向する壁部に向かって前記バルーン側が薄くなるように傾斜させて形成したバルーンカテーテル。」
である点で一致しており、以下の点で相違する。

相違点1:本願補正発明では、「ガイドワイヤー用セグメント」が「ディスタルシャフト」の「内腔の軸方向のほぼ中間部から先端に」設けられているのに対して、引用発明1では、「可撓性案内管62」が「溶着域44」から先端に設けられている点。

相違点2:本願補正発明では、「ハイポチューブ」が「前記ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され」ているのに対して、引用発明1では、「溶着域44」の内腔に「ハイポチューブ76」の先端部が挿入されている点。

相違点3:本願補正発明では、「コアワイヤー」が「前記ハイポチューブの先端部から前記バルーンの近傍の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられ、前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和するため」のものであるのに対して、引用発明1では、「ハイポチューブ76」の「遠位開口部80には、中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84が固定され、中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84は、ガイドワイヤ口60を完全に横切ってその下を、その両方の側面を越えて延長し、ガイドワイヤ口が内部に形成されるカテーテルの部分に改善された剛性を与える」ものである点。

ウ.当審の判断
各相違点について検討するに当たり、まず引用発明2を参酌すると、引用発明2の「バルーン36の膨張部」は本願補正発明の「バルーン」に相当し、以下同様に、「バルーン36の膨張部から基端部までの膨張部より細い管状部」は「ディスタルシャフト」に、「ガイドワイヤを摺動自在に受け入れる内側管状部材37」は「ガイドワイヤー用セグメント」に、「外側管状部材31」は「ハイポチューブ」に、「バルーン拡張カテーテル」は「バルーンカテーテル」にそれぞれ相当する。
また、図6の「外側管状部材31は、先端部がバルーン36の基端部内腔に差し入れられるとともに、先端部の外周面がバルーン36の基端部内腔の内周面に接した」態様から、当業者であれば、「外側管状部材31は、バルーン36の基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部がバルーン36の基端部内腔に嵌入された」態様を理解するから、引用発明2は、本願補正発明に係る以下の特定事項を備えた「バルーンカテーテル」といえる。
「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられたディスタルシャフトと、
前記ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され、基端部にコネクタ部が設けられたハイポチューブとを備えてなるバルーンカテーテル。」
上記引用発明2を参酌しつつ、各相違点について、以下検討する。

(相違点1)
引用発明2の「バルーンカテーテル」が、「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられたディスタルシャフト」を備えていることは上述のとおりであって、引用発明1と引用発明2とは、「ディスタルシャフト」に「ガイドワイヤー用セグメント」を設けた「バルーンカテーテル」という同一の技術分野に属するものである。
してみると、引用発明1において、「ディスタルシャフト」に「ガイドワイヤー用セグメント」を設ける位置として、引用発明2のものを採用し、本願補正発明の相違点1に係る特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

さらに、引用発明1のみから、本願補正発明の相違点1に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向の所定位置から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられた可撓性を有するディスタルシャフトを備えたバルーンカテーテル」である引用発明1において、ガイドワイヤー用セグメントをディスタルシャフトのどの位置から設けるかは、バルーンカテーテルを円滑にガイドできる範囲内で設計上の各種要素を考慮して適宜決定される程度の事項にすぎない。
してみると、引用発明1において、「ガイドワイヤー用セグメント」を「ディスタルシャフト」の「内腔の軸方向のほぼ中間部から先端に」設け、本願補正発明の相違点1に係る特定事項とすることは、「ディスタルシャフト」や「ガイドワイヤー用セグメント」等の材質、長さ、肉厚、外径、形状等に応じて、当業者が必要に応じて適宜行う設計事項である。
したがって、本願補正発明の相違点1に係る特定事項は、引用発明1のみから当業者が容易に想到し得たものでもある。

(相違点2)
引用発明2の「バルーンカテーテル」が、「ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され、基端部にコネクタ部が設けられたハイポチューブ」を備えていることは上述のとおりであって、引用発明1と引用発明2とは、「ハイポチューブ」を「ディスタルシャフトの基端部内腔」に配置した「バルーンカテーテル」という同一の技術分野に属するものである。
してみると、引用発明1において、「ハイポチューブ」を「ディスタルシャフトの基端部内腔」に配置する構成として、引用発明2のものを採用し、本願補正発明の相違点2に係る特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

さらに、引用発明1のみから、本願補正発明の相違点2に係る特定事項を当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
引用発明1において「ハイポチューブ76」と「近位本体管部分42」とは、摘記事項(エ)にあるように、「治療用カテーテル本体管の内部を、入れ子状の内側流れ通路110および外側流れ通路112に分割」し、「膨張流体を取付具90に適用すると、流体は内側通路110と外側通路112の両方を通って流れ・・・軸方向開口部104に負圧を適用すると、内側通路と外側通路両方を通る流体の流れにより収縮が生じる」ものである。
してみると、引用発明1において、「ハイポチューブ76」と「近位本体管部分42」は、流体を同方向に流すための2重管を構成しているといえる。
他方、流体を特定方向に流す際の管路として、単一の管路を用いることは例示するまでもなく本願の出願の日前に周知であるから、引用発明1において、流体を流すための「ハイポチューブ76」と「近位本体管部分42」とからなる2重管構造を、「ハイポチューブ76」のみからなる単一の管路構造とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、引用発明1において、「ハイポチューブ76」から「遠位本体管40」へ流体を流すためには、「ハイポチューブ76」と「溶着域44」との間から流体が漏れないように、両者を密接に接合する必要があることが明らかだから、「溶着域44」(ディスタルシャフト基端部)の内腔に挿入されている「ハイポチューブ76」(ハイポチューブ)の先端部を、「溶着域44」(ディスタルシャフト基端部)の内腔に、密接に嵌め入れるようにし、本願補正発明の相違点2に係る特定事項(前記ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され)とすることは、当業者が必要に応じて成し得る設計事項である。
したがって、本願補正発明の相違点2に係る特定事項は、引用発明1のみから当業者が容易に想到し得たものでもある。

(相違点3)
引用発明1において、「壁にガイドワイヤ口60が規定され」る溶着域44(ディスタルシャフトの基端部)は、ガイドワイヤ口60が形成されて弱くなる、つまり剛性が低下すると解されるが、「中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84」(コアワイヤー)は、摘記事項(ウ)にあるように、「改善された剛性を与え」るから、本願補正発明同様、「ディスタルシャフトの急な剛性変化を緩和する」といえる。
また、引用発明1において、「ハイポチューブ76」は、「遠位開口部80が一方の壁部から対向する壁部に向かって拡大可能拡張バルーン48側が薄くなるように傾斜して切断されて形成され」ているから、その剛性は遠位端に近づくにつれて低下すると解されるが、「中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84」は、摘記事項(ウ)にあるように、「その近位端をハイポチューブの遠位端78の中に配置され、その遠位端78に溶接され」、「ハイポチューブに中実な先細カテーテル補強拡張部を提供する」から、本願補正発明同様、「ハイポチューブの急な剛性変化を緩和する」ものであるといえる。
さらに、引用発明1において、「コアワイヤー」が「前記ハイポチューブの先端部から前記バルーン方向側の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられ」ていることは、本願補正発明と引用発明1との対比のとおりであって、「コアワイヤー」が「ディスタルシャフト」と「ハイポチューブ」の内部へ設けられれば、程度のは差はあるかもしれないが、本願補正発明同様、「ディスタルシャフトとハイポチューブの急な剛性変化を緩和する」ことになるのも明らかである。
してみると、引用発明1において、「中実な先細ステンレス・スチール製ワイヤ84」(コアワイヤー)は、本願補正発明同様、「前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和するため」のものである。
そして、「コアワイヤー」が「前記ハイポチューブの先端部から前記バルーン方向側の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられ」ている引用発明1において、コアワイヤーをバルーン側にどこまで延長するかは、「前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和する」機能を確保できる範囲内で設計上の各種要素を考慮して適宜決定される程度の事項にすぎない。
してみると、引用発明1において、「コアワイヤー」を、「前記ハイポチューブの先端部から前記バルーンの近傍の前記ディスタルシャフトの内腔に設け」、本願補正発明の相違点3に係る特定事項とすることは、「コアワイヤ-」、「ディスタルシャフト」、「ハイポチューブ」等の材質、長さ、肉厚、外径、形状等に応じて、当業者が必要に応じて適宜行う設計事項である。

(効果)
そして、本願補正発明による効果も、引用発明1や引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものはいえない。

(結論)
したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2、或いは引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「先端部にバルーンを有し、内腔の軸方向のほぼ中間部から先端にガイドワイヤー用セグメントが設けられた可撓性を有するディスタルシャフトと、
前記ディスタルシャフトの基端部内腔の径と略同一の外径を有し、先端部が前記ディスタルシャフトの基端部内腔に嵌入され、基端部にコネクタ部が設けられた剛性を有するハイポチューブと、
前記ハイポチューブの先端部から前記バルーンの近傍の前記ディスタルシャフトの内腔に設けられたコアワイヤーとを備えてなり、
前記ハイポチューブの先端を含む前記先端部の一部を、一方の壁部から対向する壁部に向かって前記バルーン側が薄くなるように傾斜させて形成したことを特徴とするバルーンカテーテル。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例及びその記載事項は、上記「2.(3)ア.」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明の特定事項を全て含み、更に「コアワイヤー」について、「前記ディスタルシャフトと前記ハイポチューブの急な剛性変化を緩和するための」との限定を付加する本願補正発明が、上記「2.(3)ウ.」に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2、或いは引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2、或いは引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-14 
結審通知日 2009-09-18 
審決日 2009-09-29 
出願番号 特願2001-364528(P2001-364528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡崎 克彦  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 岩田 洋一
蓮井 雅之
発明の名称 バルーンカテーテル  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ