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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1207745
審判番号 不服2008-3746  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-18 
確定日 2009-11-25 
事件の表示 特願2004- 36560「スピンドルモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日出願公開,特開2005-229741〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成16年2月13日の出願であって,平成20年1月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年2月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年3月6日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年3月6日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「径方向空隙型ブラシレスモータを用いたスピンドルモータにおいて,
ロータ部は,回転軸と前記回転軸に対して直角な平面部及び前記回転軸と平行な円筒部を有し,前記円筒部は前記回転軸と一体に固定され,前記円筒部の内周面には駆動用マグネットが配されており,
ステータ部は,コイルが巻かれた磁性体から成るコアと,内側に軸受を設け外側に前記コアを取り付ける円筒状の軸受ハウジングと,前記軸受ハウジングを支持する基部からなり,
前記平面部が磁性体で形成されるとともに,角度180度以内の円弧状着磁領域に軸方向に異なる極が着磁された付勢用マグネットが前記回転軸と同心で前記平面部に対向して前記軸受ハウジングに形成された弾性を有するクランプ用爪により取り付けられていることを特徴とするスピンドルモータ。」
と補正された。
上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「クランプ用爪」について「軸受ハウジングに形成された」との限定を付加するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-134892号公報(以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 シャフトと,前記シャフトと一体的に回転可能なロータと,前記シャフト及び前記ロータを回転自在に支持するために前記シャフトと固定部材との間に介在するベアリングと,前記固定部材に支持されたステータと,前記ステータに対向して前記ロータに装着されたロータマグネットとにより構成されるモータにおいて,
前記固定部材には,前記ロータに対向配置されて前記ロータを磁気吸引する円弧状の補助マグネットを備えていることを特徴とするモータ。」

・「【0009】また,図5に示すモータのように,薄型化のために1個のボールベアリング6のみでロータの回転を支持する場合は,ベアリングの軸支持力が十分ではなく,またロータの回転がシャフト5や透孔4の加工精度やベアリング6の組付精度の影響を受け易くなることから,非繰り返し性振れ成分(NRRO)や繰り返し性振れ成分(RRO)等の振れ回りの発生を防止することが困難である。
【0010】この発明が解決しようとする課題は,薄型のモータであっても,ベアリングに十分な予圧をかけ,更にはロータに側圧を付与して安定したモータ回転が得られるようにすることにある。」

・「【0011】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するために,本発明は,シャフトと,前記シャフトと一体的に回転可能なロータと,前記シャフト及び前記ロータを回転自在に支持するために前記シャフトと固定部材との間に介在するベアリングと,前記固定部材に支持されたステータと,前記ステータに対向して前記ロータに装着されたロータマグネットとにより構成されるモータにおいて,前記固定部材には,前記ロータに対向配置されて前記ロータを磁気吸引する円弧状の補助マグネットを備えていることを特徴としている。
【0012】このような構成によれば,補助マグネットによりロータがシャフトの軸線方向に磁気吸引され,従来のようなボールベアリングの予圧の不足分を補助マグネットの磁力により補うことが可能になるため,ベアリングに十分な予圧をかけることができ安定したモータの回転を得ることが可能になる。
【0013】本発明のように補助マグネットを円弧状とすることで,補助マグネットによりロータの特定範囲のみが集中的に磁気吸引され,ロータに半径方向への押圧力(側圧)が付加され,この側圧によってロータを意図的に補助マグネット方向に偏心させ,ベアリングとロータとが半径方向に部分的に密接した状態で回転することとなり,NRROやRRO等の振れ回りを抑制し,モータの回転を更に安定化することができる。」

・「【0017】この構成において,ロータを回転自在に支持するためのベアリングとしてボールベアリングを使用する場合,ロータが補助マグネットにより軸線方向に磁気吸引されることによって,ボールベアリングに予圧を確実に付与することができ,モータの回転の安定化を図ることができる。また,例えばボールベアリングを1個のみ使用することによって,モータの更なる薄型化を実現することができるが,その際,円弧状の補助マグネットによって側圧が付与されることとなるため,1個のボールベアリングでロータの回転を支持する場合でも,NRROやRRO等の振れ回りが生じることなく,安定して回転することができる。」

・「【0031】図1において,21はシャーシ等の固定部材,22及び23は固定部材21に取り付けられた支持部材であり,一方の支持部材22の内周壁22aと半径方向に対向して他方の支持部材23が配設されている。また,他方の支持部材23は皿状を成し,その中央部分には透孔24が透設されている。更に,25は透孔24内に配設されたシャフト,26はシャフト25と支持部材23の透孔24の周面との間に介在された1個のボールベアリングであり,その内輪26aがシャフト25に外嵌され接着固定されると共に,外輪26bが透孔24に嵌入されて支持部材23に支持されている。
【0032】また図1において,28はシャフト25の上端部にシャフト25と一体に形成されたロータハブ,29はロータハブ28の外周部分に嵌着されロータハブ28と共にロータを構成する鉄等の磁性材料から成るロータヨーク,30はチャッキングマグネットであり,ロータヨーク29の上面に埋設され,このチャッキングマグネット30によりフロッピディスク中央の金属部分31が吸着されて固定されるようになっている。」

・「【0033】更に図1において,33は支持部材23の上面内周側に形成された凹所,34は円弧状の補助マグネットであり,例えばフェライト系の磁性材を用いたゴムマグネットから成り,補助マグネット34とロータヨーク29の下面との間の間隔が所定値になり,かつボールベアリング26の外輪26bのすぐ外側に位置するように,支持部材23の凹所33に補助マグネット34が配設されて接着剤などにより固定されている。
【0034】そして,この補助マグネット34によって磁性材から成るロータヨーク29が磁気吸引され,ロータハブ28及びシャフト25を介しボールベアリング26に対して軸線方向に下向き(図1中のA矢印方向)に予圧がかけられる。
【0035】ところで,補助マグネットが完全なリング状を成していると,この補助マグネット及びこれに吸引されるロータヨーク29の各表面の微少なうねりが原因で,モータの回転中に完全なリング状の補助マグネットとロータヨーク29との間のギャップが頻繁に変化し,その結果モータ全体として回転のうねりが生じることになる。
【0036】これに対し,補助マグネット34が図2に示すような円弧状を成していると,補助マグネット34によりロータの補助マグネット34上に位置する部分のみが集中的に磁気吸引され,ロータに半径方向への押圧力(側圧)が付加され,この側圧によってロータを意図的に補助マグネット34方向に偏心させることで,ボールベアリング26の内輪26aとシャフト25とが半径方向に部分的に密接した状態で回転することとなるため,NRROやRRO等の振れ回りを抑制し,モータの回転を更に安定化することができ,また,ロータに補助マグネット34による側圧を付与することで,補助マグネット34とロータヨーク29との間のギャップの変化によるうねりの発生は側圧によって抑制され,モータの回転に影響を与えることはない。
【0037】尚,モータの回転時におけるうねりが最も小さくなるように,円弧状の補助マグネットの材質,磁力及び長さを選定するのが望ましく,上記したように補助マグネット34をフェライト系のゴムマグネットにより形成した場合には,補助マグネット34を全周の約1/4に相当する長さ(図2参照)に設定することが好ましい。
【0038】また,補助マグネット34をNd-Fe-B系(ネオジミウム系)の磁性材を用いたプラスチックマグネットにより形成してもよいのは勿論であり,この場合には補助マグネット34を全周の約1/8若しくは約1/6に相当する長さに設定するとよい。」

・「【0039】また図1において,36はロータヨーク29の外周部分に外嵌された駆動用メインマグネット,37はステータであり,このステータ37はコア37aに巻線37bが巻装されて形成されており,メインマグネット36に所定間隔をあけて対向するようにステータ37が支持部材22に支持されている。このとき,コア37aが支持部材22の内周壁22aの内周部分に固定されると共に,固定部材21に形成された切欠部39内にコア37aに巻装された巻線37bの下部が収容されている。
【0040】このモータは,図1に示されるように,ロータハブ28とロータヨーク29とから構成されるロータの回転中心から外周端部までの寸法,言い換えるとシャフト25の軸心線からロータハブ28の外周端部までの寸法(回転半径)がシャフト25の軸線方向の寸法の2倍以上となるよう設定されており,厚さ数mmという薄型化を図るために,シャフト25と支持部材23との間に介在されるボールベアリング26を1個にし,ステータ37の巻線37aの下部を固定部材21の切欠部39内に収容するといった工夫が成されている。」

・「【0052】なお,上記した各実施形態において,補助マグネット34の配置場所は図1,図3及び図4に示す位置に限るものでないのは勿論である。その際,ロータの回転が最も安定する補助マグネット34による予圧及び側圧の作用方向とフロッピディスクに情報を読み書きする磁気ヘッドの位置が合致するよう,補助マグネット34を配置することによって,磁気ヘッドによる情報の読み書き性能が安定し,装置の信頼性を向上することができる。この場合,補助マグネット34の材質,磁力または長さは,モータの大きさ,設定コスト等に会わせて適宜選択することが可能である。
【0053】また,上記した各実施形態では,円弧状の補助マグネット34を1個配置する場合について説明したが,円弧状の補助マグネットを複数個配置してもよいのは勿論である。
【0054】また,上記した各実施形態では,フロッピディスクを記録ディスクとした場合にの例を示したが,フロッピディスク以外の記録ディスクを駆動するモータにも本発明を適用できるのはいうまでもない。」

・「【0056】
【発明の効果】以上のように,請求項1に記載の発明によれば,ロータを磁気吸引する円弧状の補助マグネットを設けたため,ロータをシャフトの軸線方向に吸引することができ,従来のようなボールベアリングの予圧の不足分を補助マグネットの磁力により補うことが可能になり,ボールベアリングに十分な予圧をかけることができ,ロータの回転時のがたつきの発生を防止して安定したモータの回転を得ることが可能になり,フロッピディスク等の記録ディスクの書き込みエラーや読み出しエラーを防止することができて信頼性の向上を図ることができる。
【0057】更に,補助マグネットが円弧状であるため,補助マグネットによりロータの特定範囲のみが集中的に磁気吸引され,ロータに半径方向への押圧力(側圧)が付加され,この側圧によってロータを意図的に補助マグネット方向に偏心させることで,ベアリングとロータとが半径方向に部分的に密接した状態で回転することとなり,NRROやRROなどの振れ回りを抑制し,モータの回転を更に安定化することができる。また,補助マグネットを円弧状とすることで,ロータに補助マグネットによる側圧が付与され,ロータと補助マグネットとの間のギャップの変化によるうねりの発生が抑制される。」

・図1には,ロータに装着した駆動用メインマグネット36に所定間隔をあけてステータ37が径方向に対向する態様が示されている。

・図1には,ロータが,シャフト25に対して直角なロータヨーク29の補助マグネット34と対向する平面の部分を有する態様が示されている。
ここで,ロータヨーク29の補助マグネット34と対向する部分は,図1において直線状となっており,ロータの回転時のがたつきの発生を防止して安定したモータの回転を得ることを考慮すると,全周において同じ状態であるといえるから,平面といえる。

・図1には,ロータが,シャフト25と平行なロータヨーク29の外周部分を形成する垂下した部分を有する態様が示されている。

・図1には,ロータヨーク29の外周部分に駆動用メインマグネットが配される態様が示されている。

・図2には,補助マグネット34が,角度180度以内の円弧状を成している態様が示されている。

・図1及び図2には,補助マグネット34が,シャフト25と同心に取り付けられている態様が示されている。

そして,補助マグネット34はロータをシャフトの軸線方向に吸引するのであるから,軸線方向に異なる極が着磁されているのは明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ロータに装着した駆動用メインマグネット36に所定間隔をあけてステータ37が径方向に対向した記録ディスクを駆動するモータにおいて,
前記ロータは,シャフト25と前記シャフト25に対して直角なロータヨーク29の補助マグネット34と対向する平面の部分及び前記シャフト25と平行な前記ロータヨーク29の外周部分を形成する垂下した部分を有し,前記ロータヨーク29は前記シャフト25と一体に形成されたロータハブ28の外周部分に嵌着され,前記ロータヨーク29の前記垂下した部分によって形成された外周部分には前記駆動用メインマグネット36が外嵌されており,
前記ステータ37は,巻線37bが巻装されたコア37aと,内周壁22aに前記コア37aが固定される一方の支持部材22と,中央部分に透設された透孔24にボールベアリング26を嵌入する他方の支持部材23と,前記一方の支持部材22及び前記他方の支持部材23を取り付ける固定部材21からなり,
前記ロータヨーク29の前記補助マグネット34と対向する前記平面の部分が磁性材料から成るとともに,角度180度以内の円弧状を成し,軸線方向に異なる極が着磁された補助マグネット34が前記シャフト25と同心で前記ロータヨーク29の前記平面の部分に対向して前記他方の支持部材23に接着剤などにより固定されている記録ディスクを駆動するモータ。」

(3)対比
そこで,本願補正発明と引用発明とを,その機能・作用を考慮して比較する。

・後者の「ロータに装着した駆動用メインマグネット36に所定間隔をあけてステータ37が径方向に対向した記録ディスクを駆動するモータ」は,ロータとステータ37とが径方向に所定間隔をあけているのであるから径方向空隙型といえ,また,ロータに駆動用メインマグネット36を装着しているのであるから,ロータに巻線は存在せずブラシは不要であり,ブラシレスモータといえ,さらに,記録ディスクを駆動するのであるからスピンドルモータといえるので,前者の「径方向空隙型ブラシレスモータを用いたスピンドルモータ」に相当する。
・後者の「ロータ」は前者の「ロータ部」に相当し,同様に「シャフト25」は「回転軸」に,「ロータヨーク29の補助マグネット34と対向する平面の部分」は「平面部」にそれぞれ相当する。
・後者の「ロータヨーク29の外周部分を形成する垂下した部分」は,これにより形成される外周部分に駆動用メインマグネット36が外嵌されることを考慮すると,前者の「円筒部」に相当する。
・後者の「ロータヨーク29はシャフト25と一体に形成されたロータハブ28の外周部分に嵌着され」との態様は,これにより「ロータヨーク29の外周部分を形成する垂下した部分」がシャフト25と一体に固定されるのであるから,前者の「円筒部は回転軸と一体に固定され」との態様に相当する。
・後者の「駆動用メインマグネット36」は前者の「駆動用マグネット」に相当し,後者の「ロータヨーク29の垂下した部分によって形成された外周部分には前記駆動用メインマグネット36が外嵌され」る態様と,前者の「円筒部の内周面には駆動用マグネットが配され」る態様とは,「円筒部には駆動用マグネットが配され」るとの概念で共通する。
・後者の「ステータ37」は前者の「ステータ部」に相当し,同様に「巻線37b」は「コイル」に,「巻装された」は「巻かれた」にそれぞれ相当する。
・後者の「中央部分に透設された透孔24」は,他方の支持部材23の中央部分に位置するのであるから,前者の「内側」に相当する。
・後者の「ボールベアリング26」は前者の「軸受」に相当し,同様に,「嵌入する」は「設け」るに,「他方の支持部材23」は「円筒状の軸受ハウジング」に,「取り付ける」は「支持する」に,「固定部材21」は「基部」にそれぞれ相当する。
・後者の「磁性材料から成る」は前者の「磁性体で形成される」に相当し,後者の「角度180度以内の円弧状を成し,軸線方向に異なる極が着磁された」との態様は前者の「角度180度以内の円弧状着磁領域に軸方向に異なる極が着磁された」との態様に相当し,後者の「補助マグネット34」は前者の「付勢用マグネット」に相当し,さらに,後者の「補助マグネット34がシャフト25と同心でロータヨーク29の平面の部分に対向して他方の支持部材23に接着剤などにより固定されている」との態様と前者の「付勢用マグネットが回転軸と同心で平面部に対向して軸受ハウジングに形成された弾性を有するクランプ用爪により取り付けられている」との態様とは,「付勢用マグネットが回転軸と同心で平面部に対向して軸受ハウジングに取り付けられている」との概念で共通する。

したがって,両者は,
「径方向空隙型ブラシレスモータを用いたスピンドルモータにおいて,
ロータ部は,回転軸と前記回転軸に対して直角な平面部及び前記回転軸と平行な円筒部を有し,前記円筒部は前記回転軸と一体に固定され,前記円筒部には駆動用マグネットが配されており,
ステータ部は,コイルが巻かれたコアと,内側に軸受を設ける円筒状の軸受ハウジングと,前記軸受ハウジングを支持する基部からなり,
前記平面部が磁性体で形成されるとともに,角度180度以内の円弧状着磁領域に軸方向に異なる極が着磁された付勢用マグネットが前記回転軸と同心で前記平面部に対向して前記軸受ハウジングに取り付けられているスピンドルモータ。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
ロータ部において駆動用マグネットを配する位置が,本願補正発明では円筒部の内周面であるのに対して,引用発明では円筒部(ロータヨーク29の外周部分を形成する垂下した部分)の外周部分である点。

[相違点2]
ステータ部のコアの材質が,本願補正発明では磁性体であるのに対して,引用発明では特定されていない点。

[相違点3]
ステータ部におけるコアの取付け位置が,本願補正発明では軸受ハウジングの外側であるのに対して,引用発明では一方の支持部材22の内周壁22aである点。

[相違点4]
軸受ハウジングに付勢用マグネットを取り付ける手段が,本願補正発明では軸受ハウジングに形成された弾性を有するクランプ用爪であるのに対して,引用発明では接着剤などである点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1及び3について]
スピンドルモータにおいて,ロータ部の円筒部の内周面に駆動用マグネットを配すること,及び,ステータ部のコアを軸受ハウジングの外側に取り付けることは,本願の出願前に周知の技術(以下,「周知技術1」という。)であり,スピンドルモータという技術分野において引用発明とは共通し,これを引用発明に適用することが技術的に困難であるとする理由は見当たらないから,引用発明において,上記周知技術1を適用して上記相違点1及び3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができた物と認められる。
なお,上記周知技術1は,例えば特開2004-7905号公報(特に,段落【0013】の「また,磁性体のロータヨーク2は,その底部がタ-ンテーブル1の底部にインサート成形などにより取り付けられ,その内周側面に駆動マグネット4が固着されている。」なる記載,段落【0015】の「ステータコア22の中央環状部22aは,ステータベース21に取り付けられた軸受ハウジング24に圧入され,さらに軸受ハウジング24の中央孔にはラジアル軸受25の一部が圧入されている。」なる記載及び図1を参照。)及び特開2002-112517号公報(特に,段落【0020】の「このうちステータ組10においては,固定基板(ベースプレート)11の略中央部分に固定された軸受ホルダー12の内部側に,摺動軸受部材としてのメタル軸受13が取り付けられている。」なる記載,段落【0022】の「また,上記メタル軸受12の半径方向外方側の領域は,コア支持部12aに構成されていて,そのコア支持部12aの外周側に,電磁鋼板の積層体からなるステータコア16が固着されているとともに,そのステータコア16に設けられた各突極部に対して駆動コイル17がそれぞれ巻回されている。」なる記載,段落【0027】の「さらに,前記回転軸21の上方突出部分には,薄底の皿形状をなすアウターロータ型のロータケース22のボス部が固定されていて,そのボス部から半径方向外方に向かって延出する当該ロータケース22の最外周部分には,環状をなす円筒状立壁22aが設けられており,その円筒状立壁22aの内周面に,同じく環状に形成された駆動マグネット(永久磁石)23が取り付けられている。」なる記載及び図1を参照。)等に開示されている。

[相違点2について]
モータにおいて,ステータ部のコアを磁性体で構成することは技術常識といえるから,引用発明においても,ステータ部(ステータ37)のコアが磁性体から成るものと認められ,上記相違点2は実質的な相違ではない。

[相違点4について]
部材の取付けを容易にするために,被取付側に弾性を有するクランプ用爪を設けて部材の取付けを行うことは本願の出願前に周知の技術(以下,「周知技術2」という。)であり,上記周知技術2は固着の技術として汎用的なものであって,引用発明においても,補助マグネット34(付勢用マグネットに相当。)の他方の支持部材23(軸受ハウジングに相当。)への取付けを容易にすることは設計上考慮されるべきことといえるから,引用発明において,補助マグネット34(付勢用マグネットに相当。)の他方の支持部材23(軸受ハウジングに相当。)への取付けに上記周知技術2を適用し,上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものと認められる。
なお,上記周知技術2は,例えば特開2000-130384号公報(特に,段落【0011】の「このような形状のインペラーは,例えば合成樹脂による成形にて形成できる。この場合,爪15も一体に成形して作成する。そして環状のマグネットは,この爪の弾性を利用して図示するようにマグネットを保持固定できる。」なる記載,段落【0014】の「本発明の遠心ポンプは,インペラーと従動マグネットとを一体に組み合わせるための構造が極めて簡単であり,また組み立ても単に従動マグネットをインペラーに形成した爪にて保持するのみで容易であり,したがってポンプを低コストになし得る利点を有している。」なる記載,図1及び図2を参照。),登録実用新案第3029380号公報(特に,段落【0019】の「これらの図から明らかなように,起立部3aには,ステータ20の抜止め用の突起3fが等間隔に3個設けられており,また,その間には適当な深さの割り部3gが3個設けられている。割り部3gは,コア17を挿入するときに起立部3aが縮小して入り易いようにするものである。」なる記載,段落【0026】の「本考案は以上説明したように,軸受箱部の内側に介装したベアリングで軸を回転自在に支持し,この軸受箱部の外側にステータを固定したモータにおいて,軸受箱部の外側のステータ挿入側の先端部に,外方に向けた突起を複数個設けると共に,該突起の間に上端から適当な深さを有する部分的な割り部を複数個設けたモータのステータ固定構造であるから,組立時において軸受箱部の起立部を縮径することができ,これによってステータの組付けを容易に行えることになる。」なる記載,図1,図3及び図4を参照。),特開平6-150452号公報(特に,段落【0013】の「ここのように構成される回転検出機構部におけるマグネット12の取付構造としては,従来図5に示す如く,伝達ギヤ8,9の上面側に,先端にフック状の係止爪部13aを有する固定片13を垂直に複数立設し,この固定片13に上方からマグネット12を嵌め込んで係合させる構造が一般的に採用されている。」なる記載及び図5を参照。)及び実願昭63-101693号(実開平2-24390号)のマイクロフィルム(特に,請求項1の「ホルダ付き磁気センサ素子において,前記ホルダの磁気センサ素子を取り付ける磁気センサ素子保持部の裏面側に,バイアス磁石の両側面を支持する柱体の上部が内側に突出する爪部を形成した少なくとも2つのバイアス磁石固定用爪と前記バイアス磁石の裏面を支持するバイアス磁石押え板とを形成したことを特徴とするホルダ付き磁気センサ素子のバイアス磁石取り付け構造。」なる記載,「同図に示すように,ホルダ13の上面の中央部に突設した磁気センサ素子保持部17とバイアス磁石固定用爪18,18とバイアス磁石押え板19,19に囲まれる部分に,爪部18aの先端テーパーとバイアス磁石固定用爪18の柱部分の弾性を利用して前記バイアス磁石15をスナップインする。」(10ページ1?7行),「以上詳細に説明したように,本考案に係るホルダ付き磁気センサ素子のバイアス磁石取り付け構造によれば,バイアス磁石を磁気センサ素子とホルダに接着する必要はなく,容易且つ確実にバイアス磁石を磁気センサ素子の後ろ側に固定でき,その組立て作業も容易となり」(14ページ5?10行)なる記載及び第1図)等に開示されている。

そして,本願補正発明の全体構成により奏される作用効果は,引用発明,上記周知技術1及び上記周知技術2から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明,上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,平成19年12月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「径方向空隙型ブラシレスモータを用いたスピンドルモータにおいて,
ロータ部は,回転軸と前記回転軸に対して直角な平面部及び前記回転軸と平行な円筒部を有し,前記円筒部は前記回転軸と一体に固定され,前記円筒部の内周面には駆動用マグネットが配されており,
ステータ部は,コイルが巻かれた磁性体から成るコアと,内側に軸受を設け外側に前記コアを取り付ける円筒状の軸受ハウジングと,前記軸受ハウジングを支持する基部からなり,
前記平面部が磁性体で形成されるとともに,角度180度以内の円弧状着磁領域に軸方向に異なる極が着磁された付勢用マグネットが前記回転軸と同心で前記平面部に対向して前記ステータ部に弾性を有するクランプ用爪により取り付けられていることを特徴とするスピンドルモータ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「クランプ用爪」の限定事項である「軸受ハウジングに形成された」との限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり,引用発明,上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明,上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-29 
結審通知日 2009-09-30 
審決日 2009-10-14 
出願番号 特願2004-36560(P2004-36560)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 小川 恭司
槙原 進
発明の名称 スピンドルモータ  

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