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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1207941
審判番号 不服2007-35153  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2009-12-07 
事件の表示 特願2003-139177「バッテリ残量表示機能を備えた電子機器、バッテリ残量表示方法及びバッテリ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日出願公開、特開2004- 48986〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年5月16日(優先権主張平成14年5月16日)の出願であって、平成19年11月22日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月27日に拒絶査定に対する審判が請求されると共に、平成20年1月28日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年1月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年1月28日付けの手続補正を却下する。
[理由1:新規事項について]
(1)補正の内容
上記手続き補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を次のように変更する補正を含むものである。
「少なくとも、表示モードに対応して消費電力が相違した複数の表示部を有する電子機器本体を駆動するための装着可能なバッテリを備え、かつ、当該バッテリの残量表示機能を備えた電子機器において、
前記バッテリは、
バッテリセルと、
前記バッテリセルの温度を検出する温度センサと、
前記バッテリセルの放電電流情報を生成し、生成した前記放電電流情報及び前記温度センサから得られる温度情報を前記電子機器本体に送信する制御手段とを有し、
前記電子機器本体にはバッテリ残量情報生成手段と、
前記バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段とが設けられ、
前記バッテリ残量情報生成手段では、
前記バッテリの制御手段から受信した当該バッテリの放電電流情報及び温度情報と、前記記憶手段から読み出した当該バッテリの温度補正係数に基づいて前記複数の表示部の使用態様に応じた現在のバッテリ容量でのバッテリ使用可能時間がそれぞれ算出され、
算出された前記バッテリ使用可能時間が表示モードに対応したバッテリ残量情報として前記電子機器本体の表示部上に一覧表示又は切り替え表示されることを特徴とするバッテリ残量表示機能を備えた電子機器。」

(2)補正の適否
上記補正によれば、少なくとも、特許請求の範囲の請求項1における「電子機器本体」について「バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段が設けられ」との構成が付加されたということができる。
これに対して、バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段に関しては、願書に最初に添付した明細書の段落【0035】、【0048】、【0053】に記載されている。
そして、段落【0035】には、「ここに、Tはバッテリセルの温度を、h1(T)は電力依存係数f(wi)の温度補正係数を、h2(T)はバッテリ終止残量g(wi)の温度補正係数を示す。電力依存係数f(wi)も、バッテリ終止残量g(wi)も共に温度Tによって変動するため、夫々に対して温度補正係数h1(T),h2(T)が必要になる。放電電流積算残量Qと、温度依存係数h1(T),h2(T)は、バッテリパック50よりそれぞれ送信され、そしてこれら係数f(wi)(i=1,2,3,4),g(wi)(i=1,2,3,4)は、消費電力値w1?w4と同様に、計算回路23内に予め記憶されている。」と記載されており、係数f(wi)とg(wi)は電子機器本体10内の計算回路23内に記憶されることが示されているが、温度依存係数h1(T)、h2(T)が電子機器本体に記憶されることは示されていない。
段落【0048】には、「再び、図2を参照して説明する。バッテリパック50内のマイコン55を構成する情報生成部71では、電圧検出回路52より得られたバッテリセル51の電圧検出出力、温度センサ53の出力および充放電電流検出回路54の出力に基づいて、バッテリセル51の放電電流積算残量や、温度依存係数などがバッテリ情報として算出、生成される。そして、機器本体10内のマイコン21からの要求信号がバッファアンプ57aを介してマイコン55に供給されると、通信回路73が動作して、上述したバッテリ情報がバッファアンプ57bおよび通信端子57,19を介して機器本体10内のマイコン21に供給される。」と記載されており、温度依存係数が、バッテリパック50内のマイコン55で算出、生成され、機器本体10内のマイコン21からの要求信号に応じて同マイコン21に供給されることは示されているが、温度依存係数が電子機器本体内に記憶されることについては示されていない。
段落【0051】?【0053】には、「【0051】図9はこのような残量表示処理例を示すもので、図9はマイコン21での特にバッテリ充電中での残量表示処理例を示す。・・・【0053】因みに、第1の表示モードにおいては、上述した放電電流積算残量Q、温度依存係数h1(T)、h2(T)および予め記憶されている電力依存係数f(w1)及びバッテリ終止時残量g(w1)を用いて、バッテリ終止までの使用可能時間つまり、EVR撮影時の使用可能時間R1が算出される。
R1={Q-g(w1)×h2(T)}×f(w1)×h1(T)」と記載されており、温度依存係数が電子機器本体内に記憶されることについては示されていない。
(本願明細書中では、「温度補正係数」と「温度依存係数」の異なる用語が用いられているが、これら「温度補正係数」と「温度依存係数」は同一の記号「h1(T),h2(T)」に対して用いられており、技術的に同一の事項を意味していると解するのが相当である。)

そうすると、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

〔理由2:独立特許要件について〕
さらに、仮に本件補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとした場合について以下に検討する。

(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、上記2.[理由1:新規事項について](1)のとおり補正された。

上記補正は、実質的に請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「バッテリ」について「装着可能」との限定を付加し、同じく「バッテリセル」についてその「温度を検出する温度センサ」、及び「温度センサから得られる温度情報を電子機器本体に送信する制御手段」を有するものとの限定を付加し、同じく「電子機器本体」について「バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段が設けられ」との限定を付加し、同じく「バッテリ残量情報生成手段」が算出する「複数の表示部の使用態様に応じた現在のバッテリ容量でのバッテリ使用可能時間」について「バッテリの制御手段から受信した当該バッテリの放電電流情報及び温度情報と、記憶手段から読み出した当該バッテリの温度補正係数に基づいて」算出するものとの限定を付加し、同じく「残量情報」を「表示部上に表示する」態様について「一覧表示又は切り替え」表示するとの限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-297166号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビデオカメラ、携帯用電話機、あるいはパーソナルコンピュータ等電子機器の電源として使用されるバッテリパックの使用可能な残時間等を表示するバッテリ残量表示機能付き電子機器及びバッテリ残量の表示方法に関するものである。」

・「【0013】図1には、本発明のバッテリパック1とこのバッテリパック1が装填されるバッテリ残量表示機能付きの電子機器の一例としてのカメラ一体型ビデオテープレコーダ(以下ビデオカメラ60とする)とからなるシステムの一構成例を示す。
【0014】この図1において、上記ビデオカメラ60は、バッテリ残容量情報と充放電電流検出情報とバッテリセル電圧検出情報とを少なくとも出力するバッテリパック1が装着され、上記バッテリパック1からの上記各情報を受信する通信回路65と、上記通信回路65により受信された上記バッテリパック1からの上記各情報に基づいて現在のバッテリ残量を計算する計算回路66と、上記計算回路66の計算結果に基づいて表示信号を生成する表示制御回路67とを少なくとも備えるマイクロコンピュータ(以下、マイコンと言う)63と、マイコン63の上記計算回路66における計算結果に応じた表示信号が供給され、この表示信号から上記バッテリ残量を表示する表示デバイス64とを有するものである。なお、ビデオカメラ60は、撮影のための構成や撮影した映像信号を記録/再生するための各種構成を有するが、図1の例では本発明の主要構成要素としてマイコン63と表示デバイス64等を図示している。
【0015】一方、バッテリパック1には、上記マイコン10と、バッテリセル20と、充放電電流を検出する充放電電流検出回路80と、バッテリセル20の端子間電圧を検出する電圧検出回路18と、バッテリセル20の温度を検出する温度センサ19とを少なくとも有してなる。上記マイコン10には、ビデオカメラ60との間で通信を行うための通信回路72と、このバッテリパック1の状態を示す情報を生成する情報生成回路71とが内蔵されている。この構成例の情報生成回路71では、上記バッテリパック1の状態を示す情報として、上記バッテリ残容量情報と充放電電流検出情報とバッテリセル電圧検出情報と共に温度検出情報を生成する。この情報生成回路71からのバッテリ残容量等の情報は、通信回路72を介してビデオカメラ60に送られる。このバッテリパック1の詳細な構成については後述する。
【0016】上記バッテリパック1のプラス端子はビデオカメラ60のプラス端子と接続され、バッテリパック1のマイナス端子はビデオカメラ60のマイナス端子と接続され、これらプラス端子とマイナス端子を介してバッテリパック1からビデオカメラ60に対して電源が供給される。・・・」

・「【0018】マイコン63の通信回路65を介して受信された情報は、計算回路66に送られ、ここで上記バッテリ残容量等の情報から例えば当該ビデオカメラ60が使用可能な残時間(言い換えればバッテリの使用可能な残時間)等を求めるための各種の計算が行われる。・・・
【0019】表示制御回路67は、上記計算回路66にて求めた例えばバッテリ残時間情報に基づいて、いわゆるオンスクリーンディスプレイ(OSD)表示、或いはビデオカメラ60本体の表示デバイス64の表示手段上に表示するバッテリ残時間表示信号を生成する。
【0020】当該表示デバイス64は、上記表示手段として例えばビューファインダ(EVF)102や液晶パネル101等を有してなるものであり、これら表示手段の表示画面上に上記表示制御回路67から供給されたバッテリ残時間表示信号に基づいた表示を行う。当該表示手段上に表示されるバッテリ残時間の具体例としては、例えば図2に示すような表示例を挙げることができる。すなわちこの図2においては、バッテリ残時間の数字による時間表示122(図2の例では例えば40分、英語表記の場合は40minとなる)と、バッテリ満充電状態のレベルを100%とした場合の現在のバッテリ残時間の割合を直感的に分かり易く視覚化するためのレベル表示121とを、表示手段の表示画面120上に表示した例を示している。・・・」

・「【0025】さらに、ビデオカメラ60の消費電力が例えば大きい場合には、放電電流も大きくなるので、この場合の放電特性は図5に示すグラフのようになる。この図5のグラフからは、前記図4のように消費電力が小さい場合に比べて、同じ放電電流積算残量に対する残時間の割合が小さくなることがわかる。バッテリ終止時から完全放電までの放電電流積算残量に関しても、消費電力が大きい場合は、バッテリセル20の内部インピーダンスの影響により変化する。
【0026】このことを数式で表すと、以下の式(1)に示すようになる。
【0027】
R=Qd×f(W)
=(Q-g(W))×f(W) (1)
なお、この式(1)中のRはバッテリ終止までの時間(残時間)を示し、Qdはバッテリ終止までの放電電流積算量を、Wはセット(ビデオカメラ60)の消費電力を、f(W)は係数(電力依存)を、Qは放電電流積算残量を、g(W)はバッテリ終止時残量(電力依存)を示す。
【0028】この式(1)において、f(W)は放電電流積算残量を残時間に変換する係数であり、消費電力に依存している。また、g(W)はバッテリ終止から完全放電までの放電電流積算残量であり、消費電力に依存している。
【0029】また、バッテリセル20の温度変化を考慮すると、上記式(1)は式(2)に示すような計算式となる。
【0030】
R=Qd×f(W)×h1(T)
=(Q-g(W)×h2(T))×f(W)×h1(T) (2)
なお、この式(2)中のTはバッテリセルの温度を、h1(T)とh2(T)はバッテリセルの温度依存係数を示し、Q,h1(T),h2(T)はバッテリパック1が保有し、f(W),g(W)はビデオカメラ60が保有している。
【0031】この式(2)からは、f(W)とh(W)にそれぞれ温度依存係数h1(T),h2(T)を乗じた形をとっていることがわかる。
【0032】また、この温度依存係数h1(T),h2(T)は、バッテリセルの種類によって異なる値をとる。これにより、バッテリセルの違いによる数式の違いを吸収することが可能となる。
【0033】さらに、上記式(1)や式(2)において、ビデオカメラ60の使用状況によっては、上記消費電力Wが変化することになる。例えば消費電力がW1であるときのバッテリ終止までの時間R1や、消費電力W2(W1≠W2)であるときのバッテリ終止までの時間R2は、式(3),式(4)や式(5),式(6)に示すようになる。なお、式(3)及び式(4)は式(1)に対応し、式(5)及び式(6)は式(2)に対応している。
【0034】
R1=(Q-g(W1))×f(W1) (3)
R2=(Q-g(W2))×f(W2) (4)
R1=(Q-g(W1)×h2(T))×f(W1)×h1(T) (5)
R2=(Q-g(W2)×h2(T))×f(W2)×h1(T) (6)
これら式(3)?式(6)のように、ビデオカメラ60の消費電力Wが変化した場合にも、本実施例システムでは当該消費電力変化に応じてバッテリ残量が計算されるため、ビデオカメラ60の使用状況の変化に対応したバッテリ残時間表示が可能となる。」

・「【0060】本実施例のビデオカメラ60は、上述したように表示デバイス64としてビューファインダ102と液晶パネル101とを備えており、当該ビデオカメラ60の使用状況によっては、例えば上記ビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合がある。すなわち、本実施例のビデオカメラ60においては、使用状況によって上記ビューファインダ102と液晶パネル101を使用したりしなかったりするため、消費電力が変化することになる。
【0061】本実施例のシステムでは、このようにビデオカメラ60の使用状況によって消費電力が変化したとしても、前述したように消費電力の変化に応じてバッテリ残量が計算されるため、ビデオカメラ60の使用状況の変化に対応したバッテリ残時間表示が可能となっている。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
「ビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合に応じて消費電力が変化するビデオカメラ60本体に対して電源が供給されるバッテリパック1を備え、かつ、当該バッテリパック1のバッテリ残量表示機能付きのビデオカメラ60において、
前記バッテリパック1は、
バッテリセル20と、
前記バッテリセル20の温度を検出する温度センサ19と、
前記バッテリセル20の充放電電流検出情報を生成し、生成した前記充放電電流検出情報及び前記温度センサ19から得られる温度検出情報を前記ビデオカメラ60本体に送信するマイコン10とを有し、
前記ビデオカメラ60本体にはバッテリ残量を計算する計算回路66と、
が設けられ、
前記バッテリ残量を計算する計算回路66では、
前記バッテリパック1のマイコン10から受信した当該バッテリパック1の充放電電流検出情報及び温度検出情報と、
に基づいて前記ビューファインダ102と液晶パネル101の使用態様に応じた現在のバッテリ容量でのバッテリ残時間がそれぞれ算出され、
算出された前記バッテリ残時間がビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合に応じて個別に表示されるバッテリ残容量情報表示機能を備えたビデオカメラ60。」

(2-2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-21867号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1及び第2使用モードを備えると共に、バッテリと、該バッテリの充電状態をモニタする装置とを有するセル式電話において、・・・上記装置が、上記第1使用モードにおける上記バッテリの残存時間及び上記第2使用モードにおける上記バッテリの残存時間をダイナミックに表示することができることを特徴とするセル式電話。」

・「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・携帯式セル式電話の使用者にとっては、セル式電話のバッテリの残存量(充電量)を知ることがしばしば最も重要なことになる。
【0003】多くのセル式電話はバッテリの残存量の状態やレベルを示す手段を有しているものの、セル式電話の使用者にとっては、バッテリの状態を意見のある情報に変換することは難しい(例えば、バッテリの残存量の状態を見ても、電話使用者はこれから別の電話をするのに十分なバッテリが残存しているのか、どれくらいの長さ(時間)の通話ならば自分からできるのか、また、どれくらいの長さの通話ならば相手から受けることができるのかわからない)。」

・「【0007】本発明のリアルタイム表示によれば、セル式電話のスタンバイモードと通話モードの双方において残存作動時間を使用者に示すことができる。【0008】セル式電話の残存作動時間(スタンバイモード及び通話モード)をリアルタイムで表示することによって、セル式電話の使用者はセル式電話のバッテリの残存状態を直ちに知ることができるばかりでなく、バッテリがなくなる前に次の電話をどのくらいの時間することができるかを知ることができる。」

・「【0011】図1はキーパッド1、ディスプレイ2及びスクロールキー3a,3bを有する携帯用セル式電話10を示している。・・・図1に示されるように、ディスプレイ2はバッテリ充電量の現状を表示する。また、ディスプレイ2は携帯用セル式電話10を残存スタンバイ時間(即ち、相手からの通話を受けられる時間)と通話モードでどれくらいの時間使用できるかを表示することができる。図1からわかるように、図示例では残存スタンバイ時間は455 分、残存通話時間は102 分である。」

・「【0013】図2は図1の表示を行うための回路の一例を概略的に示している。・・・
【0015】残存時間の計算は電力消費量(または一定電圧での電流の消費量)によってダイナミックに予測することができる。異なる使用モードにおける電力消費を計算して、上記予測計算のためにマイクロプロセッサ5に保存しておくことができる。」

・「【0026】図4に示されるように、表示ルーチンはセル式電話10のスイッチオンによって、あるいは適当な「バッテリモニタ」キーの使用による表示ルーチンの選択によってステップ200 で選択される。・・・使用可能なバッテリ電流(例えばミリアンプ)が使用割合(速度)(例えばミリアンプ/分)で割算され、セル式電話の各動作モードについて、あとどれくらいの時間(分単位)使用できるかがわかる。
【0027】ステップ240 では、計算された時間の値がセル式電話10のディスプレイ2に表示される。本実施例では、スタンバイモード及び通話モードについて、残りの使用可能時間が分単位で表示される。・・・」

(2-3)引用例3
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-285879号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0002】
【従来の技術】上記のような小型電子機器は、乾電池や充電池によっても駆動されるもので、この場合、電池あるいは充電池による電源電圧が所定電圧を下回ると、電池交換あるいは充電の必要があるとして警報が発せられる。
【0003】このような小型電子機器において、FDDやメモリカード等の種々の周辺機器を接続可能なものでは、使用される周辺機器によって消費電力が異なるため、上記電圧低下の警報後、すなわち、電池電圧が所定電圧に低下してから動作不能に至るまでの時間も、上記使用される周辺機器によって異なるようになる。」

・「【0005】本発明は上記課題に鑑みなされたもので、本体に接続使用中の周辺機器の種類に応じて、電圧低下に伴い動作不能に至るまでの寿命時間を容易に知ることが可能になる小型電子機器を提供することを目的とする。」

・「【0008】
【実施例】以下図面により本発明の一実施例について説明する。
【0009】図1はパーソナルコンピュータの電子回路の構成を示すもので、同図において、11は回路各部の動作制御を司る制御部であり、この制御部11には、キー入力部12及び表示制御部13,表示部14の他、演算部15、FDDインターフェイス16、メモリカードインターフェイス17が接続される。・・・
【0014】一方、このパーソナルコンピュータは、乾電池あるいは充電池の電池電源18により駆動されるもので、この電池電源18における電圧レベルはA/D変換部19においてデジタル値に変換され制御部11に常時与えられる。・・・
【0017】消費電流記憶メモリ21は、このパーソナルコンピュータにおいて、FDDを接続使用した場合の平均消費電流値と、メモリカードを接続使用した場合の平均消費電流値とを予め記憶するもので、上記電池寿命報知キー22が操作された場合には、上記電圧/電気量変換テーブル20により得られた電池電源18の保有電気量データと、この消費電流記憶メモリ21に予め記憶された平均消費電流値とが演算部15に与えられ、現在から動作不能に至るまでの電池電源18の寿命時間が算出される。」

・「【0021】図2は上記パーソナルコンピュータにおける電池電源18の保有電気量に対応するFDDあるいはメモリカード使用の場合の動作可能時間表示状態を示すもので、同図(A)は、FDD使用の場合の残り時間が1時間、メモリカード使用の場合の残り時間が2時間弱あることを示し、また、同図(B)は、FDD使用の場合の残り時間が略“0”に近く、メモリカード使用の場合の残り時間が約1.5時間あることを示している。
【0022】・・・FDD使用の場合の電池寿命時間とメモリカード使用の場合の電池寿命時間とを、表示部14に対し個々に表示させるので、現在使用中の周辺機器に応じてユーザはその動作可能時間を正確に知ることができ、特にFDD等、消費電力の高い周辺機器の接続使用時において、機器操作中に動作不能に至る等の不具合を未然に防ぐことができる。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・作用からみて、後者の「ビューファインダ102と液晶パネル101」,「両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合」がそれぞれ前者の「複数の表示部」,「表示モード」に相当するので、後者の「ビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合に応じて消費電力が変化するビデオカメラ60本体」が前者の「少なくとも、表示モードに対応して消費電力が相違した複数の表示部を有する電子機器本体」に相当し、以下同様に、「に対して電源が供給されるバッテリパック1」が「を駆動するための装着可能なバッテリ」に、「バッテリ残量表示機能付きの」態様が「バッテリの残量表示機能を備えた」態様に、「ビデオカメラ60」が「電子機器」に、「バッテリセル20」が「バッテリセル」に、「温度センサ19」が「温度センサ」に、「充放電電流検出情報」が「放電電流情報」に、「温度検出情報」が「温度情報」に、「マイコン10」が「制御手段」に、「バッテリ残量を計算する計算回路66」が「バッテリ残量情報生成手段」に、「ビューファインダ102と液晶パネル101」が「複数の表示部」に、「バッテリ残時間」が「バッテリ使用可能時間」に、それぞれ相当している。
また、引用発明の「ビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合に応じて個別に表示される」と、本願補正発明の「表示モードに対応したバッテリ残量情報として前記電子機器本体の表示部上に一覧表示又は切り替え表示される」とは、「表示モードに対応したバッテリ残量情報として表示される」との概念において共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも、表示モードに対応して消費電力が相違した複数の表示部を有する電子機器本体を駆動するための装着可能なバッテリを備え、かつ、当該バッテリの残量表示機能を備えた電子機器において、
前記バッテリは、
バッテリセルと、
前記バッテリセルの温度を検出する温度センサと、
前記バッテリセルの放電電流情報を生成し、生成した前記放電電流情報及び前記温度センサから得られる温度検出情報を前記電子機器本体に送信する制御手段とを有し、
前記電子機器本体にはバッテリ残量情報生成手段と、
が設けられ、
前記バッテリ残量情報生成手段では、
前記バッテリの制御手段から受信した当該バッテリの放電電流情報及び温度情報と、
に基づいて前記複数の表示部の使用態様に応じた現在のバッテリ容量でのバッテリ使用可能時間がそれぞれ算出され、
算出された前記バッテリ使用可能時間が表示モードに対応したバッテリ残量情報として表示されるバッテリ残量表示機能を備えた電子機器。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、「電子機器本体に・・・バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段」を設け、バッテリ使用可能時間の算出の際に「前記記憶手段から読み出した当該バッテリの温度補正係数」を用いているのに対し、引用発明では、そのような特定をしていない点。

[相違点2]
表示モードに対応したバッテリ残量情報の表示に関し、本願補正発明においては、「電子機器本体の表示部上に一覧表示又は切り替え表示される」のに対し、引用発明では、「ビューファインダ102と液晶パネル101の両方を同時に使用したり、一方のみを使用したり、或いは両方とも使用しなかったりする場合に応じて個別に表示される」点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
電子機器本体側でバッテリ使用可能時間を計算する際に、温度補正係数を、電子機器本体に設けられた記憶手段に一旦記憶しておき、計算時に読み出して用いるようにするか、記憶しないで直に計算するようにするするかは、当業者が設計に応じて適宜選択する事項である。
そうすると、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜設計し得る事項と認められる。

・相違点2について
電子機器のバッテリ使用可能時間を、消費電流の異なる複数の表示モードに対応したバッテリ残量情報として前記電子機器本体の表示部上に一覧表示することは、引用例2、3に示されるように周知技術である。
これらの周知技術は、電子機器のバッテリ残量情報の表示という技術分野で引用発明と共通するものであり、かつ作用、機能が共通するものであるから、引用発明のバッテリ残量表示に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

そうすると、引用発明に、上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明、及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明、及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.本願発明について
本件補正は、上記理由1又は理由2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成19年7月23日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「表示モードに対応して消費電力が相違した複数の表示部を有する電子機器本体と、
前記電子機器本体を駆動するバッテリであって、バッテリセルおよび、当該バッテリセルの放電電流情報を生成し、生成した前記放電電流情報を前記電子機器本体に送信する機能を有した制御手段を備えたバッテリと、
前記電子機器本体に設けられたバッテリ残量情報生成手段とを有し、
前記バッテリ残量情報生成手段では、現在のバッテリ容量でのバッテリ使用可能時間が、前記複数の表示部の使用態様に応じてそれぞれ算出され、
算出された前記バッテリ使用可能時間が表示モードに対応したバッテリ残量情報として前記表示部上に表示されることを特徴とするバッテリ残量表示機能を備えた電子機器。」

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「3.〔理由2:独立特許要件について〕(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「3.〔理由2:独立特許要件について〕(1)」で検討した本願補正発明から、実質的に「バッテリ」について「装着可能」との限定を省き、同じく「バッテリセル」についてその「温度を検出する温度センサ」、及び「温度センサから得られる温度情報を電子機器本体に送信する制御手段」を有するものとの限定を省き、同じく「電子機器本体」について「バッテリの温度に応じた温度補正係数を記憶した記憶手段が設けられ」との限定を省き、同じく「バッテリ残量情報生成手段」が算出する「複数の表示部の使用態様に応じた現在のバッテリ容量でのバッテリ使用可能時間」について「バッテリの制御手段から受信した当該バッテリの放電電流情報及び温度情報と、記憶手段から読み出した当該バッテリの温度補正係数に基づいて」算出するものとの限定を省き、同じく「残量情報」を「表示部上に表示する」態様について「一覧表示又は切り替え」表示するとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した際の相違点は、前記「理由2.(3)」で挙げた相違点のうち、[相違点2]のみとなる。
したがって、前記「理由2.(4)」での検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-28 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-20 
出願番号 特願2003-139177(P2003-139177)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 561- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 小川 恭司
大河原 裕
発明の名称 バッテリ残量表示機能を備えた電子機器、バッテリ残量表示方法及びバッテリ  
代理人 山口 邦夫  
代理人 西川 孝  
代理人 稲本 義雄  

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