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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200520859 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1208055 |
審判番号 | 不服2006-3741 |
総通号数 | 121 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-02 |
確定日 | 2009-12-01 |
事件の表示 | 特願2002-547449「尿素変性チキソトロピー剤を含有するマニキュア液組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月13日国際公開、WO02/45663、平成16年 5月20日国内公表、特表2004-514728〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年12月4日を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年8月22日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成17年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月2日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年6月15日受付けで請求理由の補正書(方式)が提出され、それに伴い手続補足書、上申書、手続補足書が提出されたものである。 2.本願発明 本願請求項1?23に係る発明は、平成17年8月22日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ジアセトンアルコール及びC_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコールから選ばれる少なくとも1つの追加の溶媒から成る、香粧品として許容し得る溶媒系中に、 少なくとも1つの皮膜形成物質及び 少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤を含み、前記少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤は 次の式: R-O-CO-NH-R'-NH-CO-NH-R''-NH-CO-NH-R'-NH-CO-OR (式中、 RはC_(n)H_(2n+1)-及びC_(m)H_(2m+1)(C_(p)H_(2p)O)_(r)-から選ばれ、 nは4?22の整数であり、 mは1?18の整数であり、 pは2?4の整数であり、 rは1?10の整数であり、 R’は から選ばれ、 R”は から選ばれる) を有する尿素ウレタンである、マニキュア液組成物。」 3.引用例 原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である、国際公開第00/27347号(以下、「引用例1」という。)と、特開昭54-156040号公報(以下、「引用例2」という。)、特開2000-319627号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 [引用例1](英文であるため翻訳文で示す。) (1-i)「1.化粧料として許容しうる媒質中に、微小球及び少なくとも一種のフィルム形成物質を含有するつめ被覆組成物。 」(第16頁のCLAIM1参照) (1-ii)「本発明に係るつめ被覆組成物に有用なフィルム形成物質としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、ビニル重合体、ニトロセルロースまたはその誘導体、アクリル樹脂またはウレタン類が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。・・・」(第5頁11?14行参照) (1-iii)「本発明に使用できる化粧料として許容しうる媒質の例としては、非限定的に、アルキルアセテート(例えばメチル、エチル、プロピル、またはアミルアセテート)、アルコール類(例えばエチル、イソプロピル、n-ブチルアルコール)、短鎖アルカン(例えばペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン)、塩素化媒質(例えばメチレンクロリド、クロロホルム、またはメチルクロロホルム)、非塩素化媒質(例えばトルエンまたはN-メチル-ピロリドン)、セロソルブおよび誘導体(例えばセロソルブブチルアセテート、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、またはエチルセロソルブ)、環状エーテル類(例えばテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサン)が挙げられる。一態様においては、用いる媒質は、1から約4個の炭素を有するアルキル部分をもつアルキルアセテートである。媒質あるいは混合媒質は、本発明組成物中に、組成物の全重量に対して約30重量%から約80重量%、より好ましくは組成物の全重量に対して約65重量%から約78重量%の量で存在させてもよい。」(第7頁1?13行参照) (1-iv)「本発明つめ被覆組成物は、組成物を濃厚化し、つめ上によく展着させ、着色材を懸濁させるために、チキソトロープ剤乃至沈降遅延剤を含有してよい。この型の従来からの薬剤は、コロイドケイ酸およびクレー(例えば、ステアラルコニウムヘクトライト、ステアラルコニウムベントナイトまたはその混合物)といった化合物を含む二酸化ケイ素である。他の有用なチキソトロープ剤には、尿素で修飾されたチキソトロープ剤、例えば米国特許第4,314,924号明細書に記載のものがある。一つのこのようなチキソトロープ剤は商品名BYK-410としてBYK-Chemieから入手できる。ネイルエナメル組成物に使用される媒質の殆どはこれらのクレーを膨潤させるので、良好なチキソトロピー性をもつゲルが得られる。即ち組成物を単にかきまぜるだけでゲル化状態から液体状態へ、また静置後に液体からゲルへと移行させることができるようにする。このようなゲルを含む組成物は、このようにして長時間にわたり沈降あるいは分離を起こすことなく比較的良い分散安定性を示す。チキソトロープ剤はコロイドゲルをつくり出すために十分な量でネイルエナメル組成物中に入れる。例えば、チキソトロープ剤は全組成物の重量の約0.05%から約15%の量で存在せしめてもよい。好ましくは、チキソトロープ剤は全組成物の重量の約0.5%から約5%の量で存在させる。」(第9頁6?22行参照) (1-v)「下記の例は例示を意図するのであって、限定的なものではない。 実施例 実施例1 下記製品を着色した質感のあるネイルエナメル組成物として調製した。 成分 %w/w エチルアセテート 33.86 ブチルアセテート 15.75 ニトロセルロース 10.59 イソプロピルアルコール 7.36 ヘプタン 4.96 プロピルアセテート 4.95 ポリエステル樹脂^(a) 4.58 ジブチルフタレート 4.75 ブチルアルコール 1.41 ショウノウ 1.41 ステアラルコニウムヘクトライト 0.47 ビニルシリコーン共重合体^(b) 0.47 エトクリレン 0.47 ベンゾフェノン-1 0.37 ジメチコーン(350センチストーク) 0.10 グアニン 0.17 オキシ塩化ビスマス 0.48 フェロシアン化第二鉄アンモニウム 0.05 D & C Red #7 カルシウムレーキ 0.10 アルミニウム 1.70 W1012 Z-LIGHT SPHERES^(TM c) 6.00 100.00 a:Unitex Co.から得られるUNIPLEX670-P b:Minnesota Mining and Manufaturingから得られるビニルシリコーン共重合体VS-80 c:W1012 Z-LIGHT SPHERES^(TM)は真密度0.7g/ccを有し、粒径分布は約50ミクロンから約105ミクロンである、即ち、粒子の10%は50ミクロン未満の粒径をもち、50%は60ミクロン未満の粒径をもち、90%は95ミクロン未満の粒径をもつ。」(第10頁末行?第11頁末行参照) [引用例2] (2-i)「1.尿素基当たり0.1?2.0モルの塩化リチウムを含有する非プロトン性極性溶媒に溶解した下記の式を有する尿素ウレタンを基礎とするチクソトロープ組成物 」(特許請求の範囲の請求項1参照) (2-ii)「発明の詳細な説明 本発明は、尿素ウレタンに基づくチクソトロープ組成物に関するものであり、詳しく述べると、チクソトロープ剤として尿素ウレタンを含有する被覆材料として使用されるチクソトロープ剤に関するものである。 例えば塗料、ラッカー、ワニス、オーバーレイ組成物等のような被覆組成物に使用される公知のチクソトロープ剤は、水素化ひまし油、有機的に変性したベントナイト、親水性ケイ酸および金属石けんをベースとして製造される。これらの公知の組成物の欠点は、固体生成物で粒子化により被覆障害が起こりかつ例えばつや消し、曇り、白化等が生じ、またビニル樹脂ラッカーのようなあるラッカー系では密着不良をしばしば起こすということにある。」(第2頁右上欄14行?同頁左下欄9行参照) (2-iii)「したがって、本発明の目的はチクソトロピーを有する薬剤を提供することにあり、他の目的は潜在状態で物性が有するチクソトロープ基を高濃度で有する薬剤を提供することにあり、さらに他の目的は液状のチクソトロープ剤を提供することにある。」(第3頁左上欄3?8行参照) (2-iv)「本発明の組成物が被覆配合物に使用される場合、非プロトン性極性溶媒の代わりに、アルコール、KW-混合物、ケトン、エステル等のような適当なラッカー溶媒が使用でき、・・・」(第3頁右上欄下から2行?同頁左下欄2行参照) [引用例3] (3-i)「【請求項1】 モノヒドロキシル化合物をジイソシアネートと反応させて得られたモノイソシアネート付加物を非プロトン性溶媒中、リチウム塩の存在下、ジアミンと更に反応させて生成した尿素ウレタンを含有する、チキソトロープ剤として有効な溶液を製造する方法において、一般式(I): R-OH (I) (式中、Rは炭素数4?22のn-アルキルもしくはイソアルキル、炭素数6?12のシクロアルキル、炭素数7?12のアラールキル、又はC_(m)H_(2m+1)(O-C_(n)H_(2n))_(x)-もしくはC_(m)H_(2m+1)(OOC-C_(v)H_(2v))_(x)-(ただし、m=1?22、n=2?4、x=1?15及びV=4又は5)で表される残基)で表されるモノヒドロキシル化合物を1.5?5倍モル過剰のトルイレンジイソシアネートと反応させ、未反応のトルイレンジイソシアネートを反応混合物より除去し、次いで、得られたモノイソシアネート付加物を、リチウム塩の存在下で、一般式(II): H_(2)N-R''-NH_(2) (II) (式中、R''は-C_(y)H_(2y)-を表し、yは2?12である)で表される化合物、下記式で表される化合物: 及び、下記式で表される化合物: (式中、R'''はメチル基又は水素原子である)からなる群より選ばれた少なくとも一のジアミン類と反応させることを特徴とするチキソトロープ剤として有効な溶液の製造方法。 」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照) (3-ii)「【0002】 【従来の技術】液状塗料組成物のレオロジーを制御するために、有機変性ベントナイト,珪酸,水素化ひまし油及びポリアミドワックス類が主に用いられている。これらの物質は通常、乾燥固体であり、半製品とするためには剪断応力により溶媒に分散させる必要があり、また、液状塗料組成物に添加する際には系統的な温度制御が必要であるなどの欠点を有している。適切な温度に保持されない場合、塗膜の欠陥となる微結晶が塗料組成物製品中に生成する。現在使用されているこれらのレオロジー助剤に一般的な欠点は、これらが透明塗膜の濁りと曇り(ヘーズ)を生じることである。更に、製造工程において、乾燥粉末化した物質を取り扱うことはダスト発生の原因となり好ましくない。」(段落【0002】参照) (3-iii)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】よって、本発明の目的は、明確な構造を有するチキソトロープ剤を製造する方法を見出すことであり、また、そのような方法で得られた溶液を数カ月以上安定に貯蔵することを可能にし、前記溶液の使用信頼性を一層高めることにある。」(段落【0006】参照) 4.対比、判断 そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する 引用例1には、上記「3.」の[引用例1]の摘示、特に摘示(1-i)及び(1-iv)のチキソトロープ剤の記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。 「化粧料として許容しうる媒質中に、微小球及び少なくとも一種のフィルム形成物質を含有し、BYK-Chemieから入手できる商品名BYK-410のような尿素で修飾されたチキソトロープ剤を含有してよい、つめ被覆組成物。」 そして、 (a)引用例発明の「つめ被覆組成物」は、ネイルエナメル組成物(摘示(1-iv),(1-v)参照)であって、本願発明の「マニキュア液組成物」に相当する。 (b)引用例発明の「化粧料として許容しうる媒質」は、本願発明の「香粧品として許容し得る溶媒系」に相当する。 (c)引用例発明の「少なくとも一種のフィルム形成物質」は、本願発明の「少なくとも1つの皮膜形成物質」に相当する。 (d)引用例発明の「BYK-Chemieから入手できる商品名BYK-410のような尿素で修飾されたチキソトロープ剤」は、本願発明の実施例でも用いられている「変性尿素-ウレタン(BYK-410)」(BYK-ケミー社製;段落【0018】参照)であると認められることから、本願発明の「前記少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤は次の式: R-O-CO-NH-R'-NH-CO-NH-R''-NH-CO-NH-R'-NH-CO-OR (式中、RはC_(n)H_(2n+1)-及びC_(m)H_(2m+1)(C_(p)H_(2p)O)_(r)-から選ばれ、 nは4?22の整数であり、mは1?18の整数であり、 pは2?4の整数であり、rは1?10の整数であり、 R’は ・・( 構造式略 )・・ から選ばれ、 R”は ・・( 構造式略 )・・ から選ばれる) を有する尿素ウレタンである」に相当し、両者は、「前記少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤は変性尿素-ウレタン(BYK-410)を含む尿素ウレタンである」と言える点で一致する。 (e)引用例発明では「微小球」が含有されている。しかし、本願発明では、可塑剤、着色剤、繊維、ナノ微粒子の二酸化チタンなどの紫外線吸収剤等の各種添加剤が配合して良いのであり、また実施例2の組成物5ではポリエチレンテレフタレート粒子が含有されている(段落【0043】参照)ことから、「微小球」を含有することは、本願発明との相違点とはなり得ない。 してみると、両発明は、 「香粧品として許容し得る溶媒系中に、少なくとも1つの皮膜形成物質を含有し、及び、少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤を含有してよい(または含有する)、前記少なくとも1つの尿素変性チキソトロピー剤は変性尿素-ウレタン(BYK-410)を含む尿素ウレタンである、マニキュア液組成物。」 で一致し、次の相違点A,Bで一応相違している。 <相違点> A.尿素変性チキソトロピー剤に関し、本願発明では、「含有する」とされているのに対し、引用例発明では、「含有してよい」とされている点 B.香粧品として許容し得る溶媒系に関し、本願発明では、「ジアセトンアルコール及びC_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコールから選ばれる少なくとも1つの追加の溶媒から成る」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点。 そこで、これらの相違点について検討する。 (1)相違点Aについて 液状の塗布液のレオロジーを制御するためにチキソトロピー剤を含有させることは知られているところ、引用例2,3には、チキソトロピー剤として有機変性ベントナイトや(親水性)ケイ酸、水素化ヒマシ油などが汎用されているが、それらを用いたのでは透明塗膜の濁りや曇りが生じることが明らかにされており、それを改善するために、尿素ウレタンをチキソトロープ剤に用いることが記載されている(摘示(2-i)?(2-iv),(3-i)?(3-iii)参照)。 そうであるから、引用例発明において、含有してよいとの記載ではあっても、具体的に明示された、尿素で修飾されたチキソトロープ剤であるBYK-Chemie社のBYK-410を含有させることは、当業者であれば容易に為し得る態様であると言える。 (2)相違点Bについて 引用例1には、媒質(溶媒)の例として、「アルキルアセテート(例えばメチル、エチル、プロピル、またはアミルアセテート)、アルコール類(例えばエチル、イソプロピル、n-ブチルアルコール)」などが例示され、実施例1ではエチルアセテートとブチルアセテートとプロピルアセテートとイソプロピルアルコールとブチルアルコールが併用されている(摘示(1-v)参照)ところ、それらは本願発明で用いる「C_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコール」に相当するものであることは明らかであるものの、「ジアセトンアルコール」については言及されていない。 しかし、原査定の備考において周知例とともに指摘されているように、「ジアセトンアルコール」も、ネイルエナメル組成物で汎用されている溶媒にすぎない。ここに、周知例として例示された文献である、特開2000-143447号公報には、ニトロセルロースなどを含有する美爪組成物の溶媒について「有機溶媒としては、・・・ケトン類;-エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール、・・等の室温で液体のアルコール類;・・・;-酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸n-ブチル及び酢酸イソペンチル等の短鎖エステル類・・・;-上記の混合物」(段落【0029】参照)、特開平11-335241号公報には、ネールエナメルの溶剤成分について「比較的低沸点のものとして・・酢酸エチル、酢酸イソプロピル・・・、中沸点のものとして酢酸ブチル、酢酸アミル、・・・、比較的高沸点のものとして・・ジアセトンアルコール・・・が使用可能であり、助溶剤としてエチルアルコール、イソプロピルアルコール及びブタノールが使用可能であり」(段落【0032】参照)、特表平11-509869号公報には、ネイルエナメル組成物の溶剤について「非-水性溶剤が、アセトン、ジアセトンアルコール、・・・、メタノール、プロパノール、・・ブチルアルコール、・・イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、またはこれらの混合物である」(請求項4参照)、特開平10-167932号公報には、ネイルエナメルの溶剤成分について「溶剤成分としては、真溶剤である酢酸エチル、酢酸ブチル、ジアセトンアルコール等のエステル系、ケトン系が使用され、助溶剤としてIPA、ブタノールなどのアルコール系が使用され、・・・」(段落【0010】参照)と説明されている。 そうすると、引用例発明においても、その媒質(溶媒)として、「C_(1)?C_(6)アルキルアセテート」や「C_(1)?C_(6)アルキルアルコール」に加えて、「ジアセトンアルコール」を併用してみることは、当業者が容易に想到し得たものと言える。 (3)作用効果について 本願明細書には、「クレーのチキソトロープは濁った懸濁液を生じ、組成物を乳白色にして、しばしば見た目に不快な、瓶の中に多少黄色かがった色を生じる。この不透明は、一般に組成物中に着色剤及び/又は色素の存在によりマスクされるが、クレーチキソトロープの使用は、最終処方されたマニュキュア液の光沢を減少される。」(段落【0004】参照)との問題点が記載され、「従来の技術のクレーチキソトロープの代わりに、又はそれに加えて尿素変性チキソトロピー剤の使用が光沢を改良した透明な懸濁液を得ることができることを発見し、そして更に懸濁液の透明度は尿素変性チキソトロピー剤が、ジアセトンアルコール及び、C_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコールから選ばれる少なくとも1つの追加の溶媒を含む溶媒系中に存在するとき更に促進し得ることを発見した。」(段落【0011】参照)と説明されている。 しかし、前記(1)で検討しているように、クレーなどを用いたのでは透明塗膜の濁りや曇りが生じることが明らかにされていて、そのため尿素ウレタンをチキソトロピー剤として用いることが明らかにされているのであるから、尿素変性チキソトロピー剤を用いることによって透明な懸濁液が得られることは期待されることにすぎず、格別予想外の作用効果を奏しているとは認められない。 また、本願明細書の実施例を検討すると、実施例2では「ジアセトンアルコール」を併用しているが、実施例1では「ジアセトンアルコール」を使用していない。それにもかかわらず、「ジアセトンアルコール」を用いない実施例1では、古典的な組成物と比較したとき優れた透明度を維持した(組成物1について)と説明(段落【0036】参照)されているし、「全体として、本発明の組成物は、「古典的な組成物と比較したとき、高い光沢、より良好な安定性、すなわち、普通は懸濁させることが困難である顔料を有していてさえも安定で、そして適用性が改善され、例えば、組成物が乾燥後爪にブラシマークが殆んど知覚できないという特性を有していた。」(段落【0039】参照;なお、”「古典的な組成物”は、閉じる”」”が脱落していると認められる。)と説明されていて、「ジアセトンアルコール」を用いなくとも所期の作用効果は奏されている。 しかも、「ジアセトンアルコール」を併用した実施例2でも、「全体として、本発明の組成物は、「古典的な組成物と比較したとき、高い光沢、より良好な安定性、すなわち、普通は懸濁させることが困難である顔料を有していてさえも安定で、そして向上した適用性、例えば、組成物が乾燥後爪にブラシマークが殆んど知覚できないという特長を有していた。」(段落【0045】参照)と説明されていて、前記実施例1の場合の説明(段落【0039】参照)と実質的な差異はないから、「ジアセトンアルコール」の使用の有無によって格別の相違がないことは明らかであると言う他ない。 そうすると、前記摘示した段落【0011】に記載された、「懸濁液の透明度は尿素変性チキソトロピー剤が、ジアセトンアルコール及び、C_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコールから選ばれる少なくとも1つの追加の溶媒を含む溶媒系中に存在するとき更に促進し得る」ことは、実証されていない。 これに対し、審判請求人は、審判請求理由において、「本願発明の特定の溶媒系がもたらす顕著な効果を証明するため、本願出願人は比較試験を行ったので、以下にその結果について記載する。 比較試験では、溶媒系のみ異なる2つのマニキュア液組成物を作製し、その安定性や均一性を目視により比較した。すなわち、本願発明の溶媒系を含有するマニキュア液組成物として、「ジアセトンアルコール、及びC_(1)?C_(6)アルキルアセテートとC_(1)?C_(6)アルキルアルコールから選ばれる少なくとも1つの追加の溶媒から成る溶媒系」を含有する組成物を作製し、また、比較として、上記の本願発明の溶媒系において、ジアセトンアルコールを含まない溶媒を含有するマニキュア液組成物を作製した。 2つのマニキュア液組成物を比較したところ、本願発明の組成物は、非常に安定性に優れることがわかった。通常、マニキュア液組成物の全体に亘って顔料を浮かべることは困難であるが、本願発明の組成物は、均一に顔料を溶液中に浮遊させることができ、本願発明の溶媒系を含有する組成物の優れた安定性を確認することができた。これに対して、比較組成物では、組成物の溶液中に顔料の固まりが顕著に見られ、容器の首の部分では顔料の分離が生じていた。」と主張し、比較試験結果を示す写真の写し及び写真を、1回目及び2回目の手続補足書で提示している。 しかし、比較試験に用いたマニュキュア組成物については、ジアセトンアルコール含有の有無があるとするだけで、使用されたマニュキュア液がどのような組成のものか、その具体的な成分が全く記載されておらず、また、安定性がどの程度の時間経過の状態での対比であるのかなど、データとして評価し得る程度に記載されていないから、対比データとして検討できる状態であると言えず、到底勘案できるものではない。 加えて、前記で検討したように、本願明細書に記載された実施例1と実施例2との対比によって、ジアセトンアルコール含有の有無によっても作用効果に差異がないのであるから、仮に、提示されたデータが適切なもので、差異が示されたとしても、特定の条件(被覆成分、顔料、チキソトロピー剤などの種類やそれらの使用割合など)において差異があり得るとされるだけであって、本願発明に包含される全ての場合にまで、格別の差異があるとすることはできるものではない。 以上のとおり、相違点A,Bに係る本願発明の発明特定事項をいずれも又併せ採用することは、当業者が容易に想到し得るものであり、それによって得られる作用効果も格別予想外と言えるほど顕著なものと言うことができない。 よって、本願発明は、引用例2,3の記載並びに周知事項を勘案し、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-09 |
結審通知日 | 2009-07-10 |
審決日 | 2009-07-22 |
出願番号 | 特願2002-547449(P2002-547449) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福井 悟、福井 美穂 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
内田 淳子 弘實 謙二 |
発明の名称 | 尿素変性チキソトロピー剤を含有するマニキュア液組成物 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 長沼 暉夫 |