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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800171 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 判示事項別分類コード:123  F25B
管理番号 1208482
審判番号 無効2008-800043  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-03-04 
確定日 2009-11-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3934140号発明「非共沸冷媒」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3934140号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3934140号の請求項2ないし6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その6分の5を請求人の負担とし、6分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3934140号は、2002年12月3日を国際出願日とする出願であって、平成19年3月30日に、請求項1ないし6に係る発明について、特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成20年3月4日付けで、株式会社カノウ冷機(以下「請求人」という。)から、請求項1ないし6に係る発明についての特許に対して無効審判が請求され、同年3月18日付けで、特許権者日本フリーザ株式会社(以下「被請求人」という。)に審判請求書副本を送達(送達日:同年3月25日)し、答弁を求めたところ、同年5月20日付けで答弁書及び訂正請求書が提出された。
以上の手続を経て、同年8月27日に口頭審理を行った。
また、口頭審理と同日付けで、請求人から「口頭審理陳述要領書」(以下「陳述要領書(請求人)」という。)、「口頭審理陳述要領書(第2回)」(以下「陳述要領書(請求人第2回)」という。)が提出され、被請求人から「口頭審理陳述要領書」(以下「陳述要領書(被請求人)」)が提出されている。

第2 訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が行った、平成20年5月20日付けの訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正図面に記載したとおりに、即ち、次のa、bのとおりに訂正することを求めるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により構成される単段式冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、
上記高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、
上記低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であって、かつその沸点が蒸発器から熱交換器を経て圧縮機にいたる低圧下の露点より高い成分組成としたことを特徴とする非共沸冷媒。」
とあるのを、
「圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により構成される単段式冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、
上記高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、
上記低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であって、かつその沸点が蒸発器から熱交換器を経て圧縮機にいたる低圧下の露点より高いものであり、 上記高圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化され、上記低圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成としたことを特徴とする非共沸冷媒。」
と訂正する。
なお、下線部は訂正箇所である。

(2)訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の【発明の開示】について、
「本発明は、非共沸冷媒を用いる冷凍機システムにおいて、
常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなる非共沸冷媒を用い、
圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により単段式冷凍機システムを構成し、
上記圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点以上の領域において動作せしめる、
ことを特徴とする冷凍機システムであり、
また、このシステムに適する冷媒として、常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなり、
圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点以上であることを特徴とする超低温用非共沸混合冷媒である。」とあるのを
「本発明は、非共沸冷媒を用いる冷凍機システムにおいて、
常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなる非共沸冷媒を用い、
圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により単段式冷凍機システムを構成し、
上記圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点以上の領域において動作せしめる、
ことを特徴とする冷凍機システムであり、
また、このシステムに適する冷媒として、常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなり、
圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点より高いものであり、上記圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化され、上記低圧圧力に於ける冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化されることを特徴とする超低温用非共沸混合冷媒である。」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1について、特許明細書の第4頁第46?47行、第6頁第31?35行の記載に基づき、高圧下および低圧下の非共沸冷媒の状態を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、上記訂正事項1、2は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、請求人は、陳述要領書(請求人)の「第3 (1)」において、「全て凝縮・液化」及び「全て気化」に関して、本件特許明細書には何らの技術的意義が記載されていない旨、主張する。
この点に関して、本件特許明細書には、「非共沸冷媒を使用して、単一(1ユニット)の圧縮機、凝縮機、及び蒸発器からなる単段式冷凍システムによって運転する場合、以上の条件を満たせば格別の制御条件や気液分離装置は必要でなく、簡単な構成で冷凍機システムを構成することができる。
しかしながら、これらの条件を満たす範囲は前者については図に見るとおり極めて狭く、また後者については常温の環境下では達成できない。
従って、これらの条件下を達成するため、特に後者の低圧側の気相線以上の温度範囲で運転することは、蒸発過程後の冷媒が低温度であることから困難であるため前述のように高圧側の冷媒と熱交換を行い、合わせて高圧側における凝縮を促進することが行なわれているのである。」(第4頁第31?39行)と記載されており、「全て凝縮・液化」及び「全て気化」について、その意義が記載されていることから、請求人の当該主張は採用できない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2ただし書き各号に掲げる事項を目的としており、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
訂正後の本件の請求項1ないし6に係る発明は、訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)。

「【請求項1】
圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により構成される単段式冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、
上記高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、
上記低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であって、かつその沸点が蒸発器から熱交換器を経て圧縮機にいたる低圧下の露点より高いものであり、
上記高圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化され、上記低圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成としたことを特徴とする非共沸冷媒。
【請求項2】
上記室温近傍の標準沸点を有する高沸点ガスがブタン又はイソブタンであり、上記-60℃以下の標準沸点を有する低沸点ガスがエタン又はエチレンであって、これらの混合ガスにR-14(パーフルオロメタン)を添加したことを特徴とする、請求項1記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項3】
上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのブタン-エタン混合比が90/10?60/40の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、9%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項4】
上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのブタン-エチレン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、7.5%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項5】
上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのイソブタン-エタン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、15%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項6】
上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのイソブタン-エチレン混合比が90/10?80/20の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、10%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。」

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書、陳述要領書(請求人)、及び、陳述要領書(請求人第2回)によれば、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1乃至6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨主張している。

[証拠方法]
(1)審判請求書において提示された証拠
甲第1号証 :Vjacheslav Naer, Andrey Rozhentsev 、Application of hydrocarbon mixtures in small refrigerating and cryogenic machines 、International Journal of Refrigeration Z54-A544、Elsevier Science Ltd 、2002年9月、Volume 25 Number 6、表紙、表紙裏、目次、836?847頁、裏表紙。
甲第1号証の訳文(全訳)
甲第1号証の1:International Journal of Refrigeration Z54-A544の国立国会図書館への受入年月日が平成14年10月21日であることを証明する証明書。

(2)陳述要領書(請求人)において提示された証拠
甲第2号証 :「冷凍空調便覧 1巻 基礎編」、社団法人 日本冷凍協会発行、平成5年6月25日、改訂第5版、表紙、第65?66頁、第271?277頁、奥付。
甲第3号証 :「平成19年度特許出願動向調査報告書 自然冷媒を用いた加熱冷却(要約版)」、特許庁、平成20年4月、表紙、第6頁、文献の出典のサイト:http://www.jpo.go.jp/shiryou/pdf/gidou-houkoku/shizen_youyaku.pdf。
甲第4号証 :American Heritage Dictionaryの「Conventional」の定義部分、文献の出典のサイト:http://dictionary.reference.com/browse/conventional。

(3)陳述要領書(請求人第2回)において提示された証拠
甲第5号証 :「小学館ランダムハウス英和大辞典」の「virtually」の定義部分、株式会社小学館、平成59年1月10日、パーソナル版(全1巻)、2915頁。

2.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、答弁書及び陳述要領書(被請求人)において、本件発明1ないし6は、甲各号証の発明とは相違し、甲各号証の発明を組み合わせても容易に発明することができたものではない旨主張している。

第5 甲第1、2号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明
1.甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、図面とともに以下の記載がある。
(1)「Application of hydrocarbon mixtures enables the creation of simple, reliable and durable refrigerating and cryogenic Joule-Thomson micro coolers for the temperature range of -73 to -183℃. The temperature, thermal, power and hydraulic perfomances of a series of prototypes are presented. The results of tests demonstrate that small, single stage, sealed, lubricated compressors can be applied to these purposes. The start up and steady operation hydraulic perfomance of those machines are quite similar to the perfomance of domestic refrigerators. The last, together with the fact that in the studied micro coolers the lubricated compressors are used at temperatures down to -183℃, ensures a large resource of operation. That is just the reason that holds out a hope for prospects in a broad field of applications for the studied prototypes, despite their lower power performances in contrast to gas micro coolers.
(炭化水素混合物を応用することによって、簡素で、信頼性と耐久性のある、-73?-183℃の温度領域用の冷凍・極低温ジュール・トムソン小型冷凍機の創製が可能となる。一連のプロトタイプ機の温度、熱、電力及び圧力特性について発表する。試験の結果は、小型・単段・密封型潤滑油圧縮機がこれらの目的に応用できることを示している。これらの機器のスタ-トアップと定常運転時の圧力特性は、家庭用冷蔵庫の特性と全く同等である。このことは、試験した小型冷凍機では潤滑油圧縮機を-183℃以下の温度で使用されるという事実と相俟って、広範囲の運転操作を可能にする。このことは、まさに、気体小型冷凍機と比較して、動力特性が劣ってはいるが、試験したプロトタイプ機は広範囲に応用できるという期待を持つことができるという理由である。)」(第836頁の要約第1?8行、訳文は、証拠として提出された甲第1号証の訳文第1頁第8?17行、以下同様)

(2)「The choice of optimal multi-component working agents is a challenge. A lot of influences, including the type of refrigerating machine, must be taken into account considering this problem. For example, for throttle- and expander-type machines, and also for open-cycle systems, working by use of a working agent storage, decision criterions for the mixtures could be different. In the present paper application problems of multi-component mixtures are considered for throttle-type coolers only.
The results of earlier theoretical investigations have enabled the determination of basic principles, which are currently used in order to compose the mixtures for these coolers [1-3]. The main requirement for a substance, chosen as the basic low-temperature component of the mixtures, concerns its boiling temperature. The boiling temperature of the basic component at the pressure of the low-pressure stream should be close to the design refrigerating temperature. And, the features of azeotropic and non-azeotropic mixtures should be considered as well.
All the additional substances mixed with the basic component should have higher critical temperatures and, the most important, higher values of the coefficient of isothermal throttle effect, because exactly the process of throttling determines largely the cooling capacity and power efficiency of these machines.
The components possessing the critical temperatures within the range between the critical temperatures of the basic component and the component with the highest boiling temperature are called intermediate components. The total amount of the intermediate components in the mixture depends on many factors. The possible cooling capacity of the system at some interim temperatures, the type of phase equilibrium between the components(for example, the vapor-liquid equilibrium or the equilibrium for the stratification of liquid phases) are some of those factors.
Generally, it is possible to say that a thermodynamic approach should be laid down at the basement of mixture formation for the throttle-type coolers. As criteria for the approach one can choose the design cooling temperature, the cooling capacity, the feasibility of q-T diagram in recuperative heat exchangers and, of course, the maximum energy efficiency of the system.
It should be noticed that the mixture composition defined by these criteria is only a filling-up composition and it can be significantly different from the real composition of the mixture circulating in the loop of the cooler. The explanation of the last can be found in the selective solubility of the mixture components in oil, which amount in small coolers is usually ten times higher than the amount of the working agent. Especially it concerns the hydrocarbon mixtures, which have a high solubility in, for example, minerals oils. Therefore, at present, the only reliable criterion for the estimation of mixture efficiency is the experimental investigation, despite of available theoretical approaches.
(最適な多成分系冷媒の選択が課題である。この問題には、冷凍機のタイプを含む多くの影響を考慮しなければならない。例えば、絞り・膨張型機器と冷媒貯槽を使用するオープンサイクルシステムでは、冷媒混合物の決定基準が異なるであろう。この論文では、多成分混合物の応用については、絞り型冷凍機についてのみ考察する。
初期の理論的研究の結果により、基礎的原理の決定が可能になっている。この基礎的原理は、現在、これらの冷凍機用の混合物をつくるために用いられている[1-3]。混合物の基礎となる低温度成分として選択される物質の主たる必要条件は、その沸点に関係する。低圧力流の圧力におけるその基礎となる成分の沸点は、設計冷凍温度に近い温度でなければならない。さらに、共沸混合物と非共沸混合物の特徴も同様に考慮されなければならない。
基礎成分と混合される全ての追加物質は、より高い臨界温度を有しなければならず、最も重要なことは、等温絞り効果係数がより大きな値を有しなければならないということである。その理由は、絞り過程がまさに、冷凍能力及び冷凍機の出力効率を決定するからである。
基礎成分の臨界温度と最も高い沸点を有する成分の臨界温度の範囲内の臨界温度を有する成分を、中間成分類という。混合物中に中間成分類の総量は、多数の因子に依存している。ある一時的な温度におけるシステムの可能な冷凍能力、複数成分相間の相平衡の型(例えば、気液平衡又は液相層化の平衡)は、これらのいくつかの因子である。
一般に、熱力学的方法が絞り型の冷凍機用の混合物の構成の基礎に置かれるべきであると言うことができる。アプローチへの基準として、設計冷却温度、冷却能力、伝熱熱交換器におけるq-T図の実現可能性、及び、当然のこととして、システムの最大エネルギー効率を選択することができる。
これらの基準によって定義される混合物組成は、充填組成に過ぎないということを知る必要がある。そして、それは、冷凍機の閉回路を循環する混合物の現実の組成とは、大きく異なり得るということである。このことはオイル中の混合物成分の選択的な溶解度で説明がつく。そして、小型冷凍機中のその値は、通常、冷媒の値の10倍である。特に、炭化水素混合物では、そうであって、例えば、鉱物油中では高い溶解度を有している。したがって、利用できる理論的なアプローチはあるものの、現在、混合物の効率の評価のための唯一の信頼できる基準は、実験に基づく研究である。)」(第836頁左欄第2行?第837頁右欄第26行、甲第1号証の訳文第1頁第19行?第2頁第23行)

(3)「A working scheme of the cooling system is shown in Fig.1. The thermodynamic cycle of the system corresponding to Lynde's cycle is presented in the T-s diagram in Fig. 2.
(図1に、冷凍サイクルの作動スキームを示す。図2に、リンデサイクルに相当する、このシステムの熱力学的サイクルをT-s図で示す。)」(第839頁左欄第19?22行、甲第1号証の訳文第4頁第1、2行)

(4)「Fig 1. Single loop scheme of the cooling system by Lynde's cycle:1,compressor; 2,condenser, 3,filter-drier, 4,recuperative heat exchanger; 5,throttle; 6,evaporator; 7,filling valve.
(図1の説明 リンデサイクルによる冷凍システムのシングル・ループ・スキーム
1:圧縮機 2:凝縮器 3:フィルタ-乾燥機 4:復熱熱交換器
5:絞り 6:蒸発器 7:充填弁)」(第837頁左欄下3?1行、甲第1号証の訳文第4頁第3?5行)

(5)「Fig.2. Conventional cycle of the cooling system.
(図2の説明 冷凍システムの通常のサイクル)」(第837頁右欄下1行、甲第1号証の訳文第4頁下1行)

(6)「The system works with a three-compounds mixture of the following composition: isobutane (C_(4)H_(10))-74.5%, ethane(C_(3)H_(6))-21.0%, methane(CH_(4))-4.5%(mass%). The total mass charge is 0.067 kg.
The most critical unit of the system is the recuperative heat exchanger. The design of the typical heat exchanger, applied in our developments, is shown in Fig. 3.
(システムは、3成分混合物により作動し、組成は次のとおりである:イソブタン(C_(4)H_(10))74.5%、エタン(C_(3)H_(6))21.0%、メタン(CH_(4))4.5%(いずれも重量%)。総充填量は、0.067Kgである。
このシステムの最も重要なユニットは、伝熱熱交換器である。我々の開発で用いられた典型的な熱交換器のデザインを図3に示す。)」(第839頁左欄第23?右欄第1行、甲第1号証の訳文第5頁第1?5行)

(7)「Fig.3. Recuperative heat exchanger; 1 and 2, outer and interior shells; 3, tube of high-pressure stream; 4, wire; 5 and 7, inlet and outlet tubes of low-pressure stream; 6, ring; 8 and 9, collectors; 10, transitional tubes.
(図3の説明 伝熱熱交換器
1、2 外套管、内套管 ;3 高圧流管 ;4 ワイヤ ;5、7 低圧流内管、外管 ;6 リング ;8、9 集積器 ;10 遷移管)」(第838頁下2?1行、甲第1号証の訳文第5頁第6?8行)

(8)「Thermodynamic calculations of the cycle have shown that there is virtually no condensation of the mixture in the high-temperature heat exchanger (condenser). The high-pressure vapor of the mixture enters the recuperative heat exchanger.
The high-pressure stream of the mixture will be cooled down and condensed in this heat exchanger.
(サイクルの熱力学計算では、高温熱交換器(コンデンサー)内では、実際に混合物の凝縮がないことを示している。混合物の高圧蒸気は、伝熱熱交換器に流入する。
混合物の高圧流は、冷却され、この熱交換器で凝縮される。)」(第839頁第17?23行、甲第1号証の訳文第6頁第7?10行)

(9)図1には、圧縮機1、凝縮器2、蒸発器6、及び蒸発器6から圧縮機1に至る冷媒と凝縮器2から絞り5に至る冷媒との間で熱交換を行う復熱熱交換器4により構成されるシングル・ループ・スキームについて記載されている。

(10)図2には、凝縮器2出口における冷媒の状態を表す点IIが、飽和蒸気線上の「高圧下の露点」より「飽和ドーム形状」(T-s線図に描かれる冷媒の飽和液線・飽和蒸気線によって示される形状を示す。)内側に位置し、冷媒が湿り蒸気状態にあることが記載されている。

2.甲第2号証に記載された事項
(1)「同一圧力下で以上の特性があるため、非共沸混合冷媒を等圧下で蒸発および凝縮させた場合、その理想冷凍サイクルをT-s線図に示せば、図4・2・45の12341のようになる。すなわち蒸発過程は14のような右上がり線、凝縮過程は23のような左下がり線となる(Lorenz Cycle)。」(第274頁左欄第9?14行)

3.甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証において、図2が、前記「第5 1.(6)」において摘記したイソブタン74.5%、エタン21.0%、メタン4.5%の組成からなる3成分混合物により作動するこのシステムの熱力学的サイクルを示したT-s線図であるか否かについての検討。
請求人は、前記「第5 1.(5)」の訳について、証拠として提出された甲第1号証の訳文において「図2 冷凍システムの通常のサイクル」とあったものを、陳述要領書(請求人第2回)において、「この冷凍システムを、従来から広く行われてきた方法で示したサイクル」と、訳文の修正を行っている。
そして、図2が3成分混合物により作動するこのシステムの熱力学的サイクルを示したT-s線図であることは、前記「第5 1.(3)、(4)、(5)」において「the cooling system」、「the system」と定冠詞を用いていること、甲第1号証全体の記載からみて、図2がこの3成分混合物により作動する冷凍システムを説明するために用いられることから、明らかである。

(2)甲第1号証に「圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であ(る)」ことが記載されているかについての検討。
請求人は、甲第1号証の訳文において、前記「第5 1.(8)」中の「「Thermodynsmic calculations of the cycle have shown that there is virtually no condensation of the mixture in the high-temperature heat exchanger (condenser). 」について、「サイクルの熱力学計算では、高温熱交換器(コンデンサー)内では、実際に混合物の凝縮がないことを示している。」と訳した。
しかしながら、請求人は、陳述要領書(請求人第2回)において、
「上記の原文を翻訳すると、以下のようになる:
「サイクルの熱力学上の計算をすると、高温熱交換器(コンデンサー)内での混合物の凝縮はほとんどないことが示されている。」
上記原文の第1文の「virtually」という副詞は、「ほとんど、ほぼ、実質的に、実際上」という意味であるから(甲第5号証)、この文章では、「計算上は、高温熱交換器内では、ほとんど混合物の凝縮がない。」という理論上の想定を述べていることになる。そして、この文章は、むしろ高温熱交換器内でも若干の混合物の凝縮が行われる余地があることが述べられているということができる。」(第5頁第2?9行)と主張し、訳文の修正を行っている。

この点について検討する。
前記「第5 1.(10)」には、図1おいて、凝縮器2出口における冷媒の状態を表す点IIを、図2におけるT-s線図で表すと、点IIが飽和蒸気線上の「高圧下の露点」より「飽和ドーム形状」内側に位置し、冷媒が、湿り蒸気状態にあることが記載されている。この記載によると、点IIにおいて冷媒は、湿り蒸気状態にあり、その一部は凝縮した状態となっている。
そして、冷媒の一部が凝縮した状態となるためには、点IIに至るまでの間に、冷媒は室内へ熱を放出して、その一部が気体から液体へと相変化を起こす必要があり、そのためには、「高圧下の露点」における冷媒の温度は、「高圧下の露点」から点IIに至るまでの間に室内へ熱を放出することを可能とするために、点IIより高温であり、かつ、室温以上であることが必要となる。

これに対して、被請求人は、陳述要領書(被請求人)において、
「高圧下の露点を室温以上とすることは、凝縮器内において高圧下で潜熱をシステム系外である大気中に放熱して冷媒を凝縮させるためには必要である。
これに対して、甲第1号証:第839頁右欄第18?19行目(訳文P6台7?9行目)には、イソブタン74.5%、エタン21.0%及びメタン4.5%の成分組成を有する非共沸冷媒について、「サイクルの熱力学計算では、高温熱交換器(コンデンサー)内では、実際に混合物凝縮がないことを示している。」と記載されているから、凝縮器内において高圧の特定組成冷媒(混合物)は凝縮しないことが明記されている。
そして、甲第1号証が用いる冷凍システムをジュールトムソン冷凍機であると謳っている(訳文1頁9行)。甲第1号証記載のイソブタン74.5%、エタン21.0%及びメタン4.5%の成分組成を有する特定組成の非共沸冷媒を用いる冷凍システムでは、前記のように凝縮器(コンデンサー)における凝縮作用を伴わなくとも断熱圧縮効果によって高温度となった冷媒からシステム系外である室温大気中への放熱が行われれば、絞り膨張(断熱自由膨張)過程で温度が下がるというジュールトムソン効果により特定組成冷媒の温度を低下させる冷凍システムとして作動する。
したがって、凝縮器(コンデンサー)内では凝縮しない甲第1号証においては、高圧下の凝縮器(コンデンサー)内で凝縮するために特定組成冷媒の露点を室温以上とする必要はなく、これを当業者の設計事項として甲第1号証において採用することはない。」(第2頁第19行?第3頁第3行)と主張する。

しかしながら、上述の修正された訳文:「サイクルの熱力学上の計算をすると、高温熱交換器(コンデンサー)内での混合物の凝縮はほとんどないことが示されている。」によれば、高温熱交換器において冷媒の一部は凝縮する可能性のあることが示され、かつ、凝縮器2出口における状態を表す点IIが飽和蒸気線上の「高圧下の露点」より「飽和ドーム形状」内側に位置し、冷媒が湿り蒸気状態にあることを勘案すると、被請求人の陳述要領書(被請求人)における、「凝縮器内において高圧の特定組成冷媒(混合物)は凝縮しない」とする主張は、採用できない。

したがって、刊行物1には、「圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であ(る)」ことが記載されている。

(3)甲第1号証に記載された、イソブタン74.5%、エタン21.0%、メタン4.5%の組成からなる3成分混合物が「非共沸冷媒」であるか否かについての検討。
一般的に、「非共沸冷媒」は、甲第2号証に記載されているように(前記第5 2.(1))、非共沸冷媒を用いた冷凍システムのサイクルをT-s線図に示せば、蒸発過程は右上がり線となり、凝縮過程は左下がり線となる。
そして、甲第1号証のT-s線図を示す図2には、高圧下の露点から点IIIまでの凝縮過程は左下がり線となり、点IVから低圧下の露点までの蒸発過程は右上がり線となっていることから、甲第1号証に記載された3成分混合物は、「非共沸冷媒」ということができる。

(4)甲第1号証に「低圧下の非共沸冷媒が熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成とした」ことが記載されているかについての検討。
甲第1号証には、図1における、復熱熱交換器4の低圧側出口における冷媒の状態を表す点VIを、図2におけるT-s線図で表すと、「飽和ドーム形状」外側の過熱領域に存在することが示されている。
そして、点VIが過熱領域に存在することは、非共沸冷媒は全て気化されていることになるから、甲第1号証には、「低圧下の非共沸冷媒が熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成とした」ことが記載されている。

(5)まとめ
以上を踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「圧縮機1、凝縮器2、蒸発器6、及び蒸発器6から圧縮機1に至る冷媒と凝縮器2から絞り5に至る冷媒との間で熱交換を行う復熱熱交換器4により構成されるシングル・ループ・冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
非共沸冷媒の組成成分が、イソブタン、エタン、メタンからなる3成分混合物であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であり
低圧下の非共沸冷媒が熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成とした
、非共沸冷媒。」

第6 当審の判断
1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「圧縮機1」は、本件発明1の「圧縮機」に相当し、同様に、「凝縮器2」は「凝縮器」に、「蒸発器6」は「蒸発器」に、「シングル・ループ・冷凍システム」は「単段式冷凍システム」に、それぞれ相当する。
そして、本件発明1に、「蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器」とあるが、本件特許明細書の【図1】によると、熱交換される熱媒体の一方は、「凝縮器2から絞り6にいたる冷媒」であることは明らかであるから、刊行物1に記載された発明の「蒸発器6から圧縮機1に至る冷媒と凝縮器2から絞り5に至る冷媒との間で熱交換を行う復熱熱交換器4」は、本件発明1の「蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器」に相当する。
また、甲1発明の非共沸冷媒の組成成分は、イソブタン、エタン、メタンからなる3成分混合物であるが、甲1発明の「イソブタン」は、本件発明1の「高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上」に相当し、甲1発明の「エタン」は、本件発明1の「低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上」に相当することから、結局、甲1発明の「非共沸冷媒の組成成分が、イソブタン、エタン、メタンからなる3成分混合物であり」は、本件発明1の「標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり」と同義である。

したがって、両者は、
[一致点]
「圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により構成される単段式冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、
高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、
低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であり、
低圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成とした、非共沸冷媒。」の点で一致し、
次の点で、相違する。

[相違点]
本件発明1では、高圧下の沸点が蒸発器から熱交換器を経て圧縮機にいたる低圧下の露点より高いものであり、高圧下の非共沸冷媒が熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化されるのに対して、甲1発明では、この点について明らかでない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
上記相違点に関連して、被請求人は、陳述要領書(被請求人)において、
「甲第1号証の図2に示される冷凍サイクルにおけるIIIの点が、飽和ドーム内にあることは、この冷凍サイクルの蒸発過程に送られる高圧下の冷媒が、熱交換器を経ても全て凝縮していないこと、すなわち、凝縮相(液相)と気相が共存することを示す。甲第1号証のリンデサイクルによる冷凍システムでは、そもそも凝縮器(コンデンサ)で凝縮しないことが明記されているものであり、高圧高温の冷媒の熱をこの凝縮器によって大気中に放出することが重要なのであって(したがって、凝縮時の潜熱の放熱はしない)、その後、ジュールトムソン効果によって冷媒の温度を下げることによって冷凍システムを構築している場合には、蒸発過程に送られる高圧下の冷媒が凝縮相(液相)と気相とが共存していても格別の支障はない。
むしろ、甲第1号証の特定成分冷媒は、超低温度を達成するために沸点の極めて低い冷媒(メタン)をその成分として採用しているから、低温度の沸点を有する冷媒成分(メタン)の凝縮が困難であり、敢えて圧力、温度条件を変更するよりもジュールトムソン効果によることが容易であることを指摘しておく。」(第5頁第23行?第6頁第1行)と主張する。

これは、甲1発明では、図1における、復熱熱交換器4の高圧側出口における冷媒の状態を表す点IIIを、図2におけるT-s線図で表すと、「飽和ドーム形状」内側に位置し、飽和液線上に到達していないことが示されている。このことは、被請求人も主張するように、図2において、「高圧下の沸点」は存在しないこととなる。しかも、点IIIは、「飽和ドーム形状」の内側に位置することから、冷媒の一部が液化されない状態となっている。これは、非共沸混合冷媒の冷媒組成成分として、沸点が-161.49℃のメタンを含んでいるためであり、メタンの完全液化温度が極めて低く、メタンを完全に凝縮させる温度まで低下させる圧力、温度条件にさせることが装置の構成及びコスト面から制約が多いことに起因している。

ところで、甲1発明の非共沸冷媒を用いた小型冷凍機の温度領域は、甲第1号証の記載によると、-73?-183℃である(前記第5 1.(1))。そして、被請求人も認めるように、甲1発明においては、この温度領域を実現するために、沸点が-161.49℃のメタンを用いて、その温度領域を下げている(前記第5 1.(6))。
そもそも、小型冷凍機の温度領域をどのような値に設定するのかは、被冷凍物に応じて決定されるものである。

そして、本件発明1も、単段式冷凍システムが用いられる温度領域を特定するものでないことから、甲1発明の非共沸冷媒を使用する小型冷凍機において、その温度領域を被冷凍物に応じて比較的高い温度領域とした場合に、冷凍温度領域をより低くするための冷媒の組成成分であるメタンを非共沸冷媒に加える必要がなくなることは、明らかである。
また、その際に、甲1発明において、非共沸冷媒として、イソブタン、エタンのみを用い、イソブタン、エタンの沸点を考慮して、両者の混合比率を調整し、目標とする温度領域を得ることは、当業者が適宜なし得た事項である。
一方、冷凍システムの技術分野において、凝縮器による凝縮後の冷媒の状態を、飽和液線上、または、飽和液線を越えて「飽和ドーム形状」の外側の領域に位置させることは、本件出願前周知の技術事項であるとともに、慣用的に行われていた手段である。
したがって、甲1発明において、被冷凍物の目標とする温度領域に応じて、非共沸冷媒として、メタンを用いずにイソブタン、エタンを用いた場合には、イソブタン及びエタンのみを完全に凝縮させる圧力、温度条件にさせることが、装置の構成及びコストの面から制約が少ないこと、かつ、上記周知の技術事項、慣用手段を総合勘案すると、復熱熱交換器4の高圧側出口において、イソブタン及びエタンのみからなる非共沸冷媒を、完全に凝縮させること、即ち、復熱熱交換器4の高圧側出口における冷媒の状態を表す点IIIを、飽和液線上、または、飽和液線を越えて「飽和ドーム形状」の外側の領域に位置させることにより、「高圧下の沸点」を「低圧下の露点」よりも高いものとすることは、当業者が容易になし得たものである。
また、本件発明1の奏する効果は、甲1発明から予測できる範囲内のものである。
ゆえに、甲1発明において、上記相違点において、本件発明1に係る発明特定事項を具備するようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

2.本件発明2について
(1)対比
本件発明2は、本件発明1に「上記室温近傍の標準沸点を有する高沸点ガスがブタン又はイソブタンであり、上記-60℃以下の標準沸点を有する低沸点ガスがエタン又はエチレンであって、これらの混合ガスにR-14(パーフルオロメタン)を添加した」という発明特定事項を付加したものである。
そこで、本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「非共沸冷媒」の組成成分は、イソブタン、エタン、メタンであるが、本件発明2は、甲1発明の非共沸冷媒の組成として、メタンに換えてR-14を採用したものである。
この点に関して、請求人は、審判請求書において、
「溶媒の組合せについては、本件明細書にも「これら非共沸冷媒の特性は、十分に解明されていないため、定量的な関係は定められず、具体的条件を定めるための利用可能なデータも乏しいが、実用化に際しては下記のように個々の冷媒の特性から経験的・実験的に定めればよい。」(本件明細書5頁19行?21行)とされており、高沸点ガス及び低沸点ガスを選択して、その混合比を定めることについても、当業者が適宜実験を行うことによって、容易に想到できる程度のものである。
(4-3) 請求項2と甲第1号証記載の発明とは、(3)の(ウ)に述べたように、技術分野も産業の利用性も共通しているから、何らの阻害要因も存在せず、当業者にとって甲第1号証記載の発明から請求項2の発明に想到することは容易である。」(第25頁第11?21行)
と主張する。
しかしながら、請求人は、本件発明2において、本件発明1に限定的に付加した発明特定事項に関して、何等の証拠も提出していない。
また、この限定的に付加した発明特定事項が、本件出願前、周知の技術事項であるとも、単なる設計的事項であるとも、また、非共沸冷媒の分野において、技術常識であるとも認められない。

したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

以上を踏まえると、甲1発明において、非共沸冷媒として、メタンに換えてR-14を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ゆえに、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本件発明3ないし本件発明6について
本件発明3は、本件発明2に「上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのブタン-エタン混合比が90/10?60/40の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、9%以下である」という発明特定事項を付加したものであり、
本件発明4は、本件発明2に「上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのブタン-エチレン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、7.5%以下である」という発明特定事項を付加したものであり、
本件発明5は、本件発明2に「上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのイソブタン-エタン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、15%以下である」という発明特定事項を付加したものであり、
本件発明6は、本件発明2に「上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのイソブタン-エチレン混合比が90/10?80/20の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、10%以下である」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2が、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明2に上記各発明特定事項を付加した本件発明3ないし本件発明6も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
また、本件発明2ないし6に係る特許については、請求人の主張する理由及び証拠によっては無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が6分の5、被請求人が6分の1を負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非共沸冷媒
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、非共沸混合冷媒を用いて、その非共沸冷媒の特性を利用して室温環境下において単一の圧縮機、凝縮機からなる単段式冷凍機システムの運転を可能とし、-40℃以下の低温度、特に-60℃以下の超低温度を実現するシステムを実現し、またそのシステムに於いて炭化水素系冷媒ガス若しくは塩素を含まないフルオロカーボンにより超低温度を達成する超低温用冷媒に関する。
背景技術
冷凍庫、冷凍機用冷媒として、従来からフロロカーボン、いわゆるフロンが広く用いられているが、塩素を含む特定フロンが大気層上層部のオゾンを破壊することから塩素を含まないフロンやそれらの代替物としての炭化水素系冷媒の開発が望まれている。
また、塩素を含まないフロンにおいても、その多くが長波長の赤外線の吸収能が高く、地球環境の温暖化への効果があるため、これらのいわゆるグリーンハウス効果の小さい物質で且つその使用量を可能な限り少なくする工夫が必要となる。
このため、低沸点炭化水素を主成分として所定の冷媒の特性を満たすガスの探索が行われているが、単独のガスでこれらの諸条件を満足することはガスの種類も限られていることから困難であり、2種類以上のガスを混合してその特性を調整することが行われている。
しかしながら、これら2種以上の成分からなる混合冷媒においては、従来の常用されてきた単一成分の冷媒ガスと同様に一定の沸点を示す共沸冷媒は、その組合せ、組成共に限られており、多くは非共沸特性を示す。
これらの非共沸冷媒は、単一成分から成る冷媒や共沸冷媒と異なり、成分となるガス組成を選ぶことにより単独のガスの性質を組合せて中間的な望ましい特性を持たせることができるが、その反面、沸点と露点とが分離しているため液相と気相とが共存する条件下ではガス相と液化した凝縮相との組成が異なり、凝縮過程に於いて一定温度・一定圧力で凝縮せず、冷凍システムの安定した運転が困難であった。
このような問題に対して、例えば特開昭61-83258号公報や特公平5-45877号公報記載のものにおいては、非共沸冷媒を用いた冷凍システムに於いて、非共沸混合冷媒の蒸発圧力とこれに対応する飽和温度との関係に基づき、膨張弁を介して冷凍システム内の温度・圧力を制御すると共に、これらの制御条件が一定範囲を外れると警告手段を作動するようにし、特に後者においては、蒸発器から圧縮機に至る過程の低温の吸入冷媒と圧縮機から蒸発器にいたる高圧の冷媒との間で熱交換を行ことが記載されている。
すなわち、使用する成分冷媒の組合せが、低沸点のR-22と高沸点の冷媒R-114であって、それぞれ標準沸点が-40.8℃及び3.85℃であるため非共沸冷媒の特有の露点と沸点の差が大きく、このため圧縮機に於ける液相状態の冷媒吸入などの問題を生じるのであって、冷凍機システムの制御によってこのような状態となることを回避しているものである。
一方、特開平8-166172号公報記載のものに於いては、実施例に挙げられている冷媒成分は、いずれもフロロカーボンで、その標準沸点は、R-32:-51.7℃、R-125:-48.5℃、R-134a:-26.5℃であって、これらからなる非共沸混合冷媒は、当然のことながら常温よりも著しく低温度でなければ液化せず、このため、圧縮機、凝縮器、受液器、減圧器、蒸発器から構成し、凝縮器から受液器に流れる冷媒と蒸発器から圧縮機に流れる冷媒とを熱交換させる熱交換器を備えた冷凍システムとしている。
これらの冷媒に於いては、沸点の差が小さく、すなわち混合冷媒としての露点と沸点の差を小さくして、上記の問題を回避しているが、システム中における気相と液相との共存する状態に対しては、液化した非共沸冷媒のみを受液器によって分離して蒸発器に送っており、また、圧縮機に入る冷媒ガスに液体状態の冷媒が混入して液圧縮を生じるのを防止するため、サクション配管においても気液分離を行なっている。
しかしながら、このようなシステム構成は複雑であるばかりでなく、上述のように非共沸冷媒は気液共存状態で気相と液相の組成が異なるから、このような気液分離を行うシステム構成は、安定した定常状態に至る制御を却って困難にしている。
発明の開示
本発明は、非共沸冷媒を用いる冷凍機システムにおいて、
常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなる非共沸冷媒を用い、
圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により単段式冷凍機システムを構成し、
上記圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点以上の領域において動作せしめる、
ことを特徴とする冷凍機システムであり、
また、このシステムに適する冷媒として、常温近傍の標準沸点を有する冷媒と-60℃以下の低い標準沸点を有する冷媒との組合せからなり、
圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒の露点が常温以上であり、
且つ、その圧力に於ける沸点が蒸発器から圧縮機に至る過程の低圧圧力における露点より高いものであり、
上記圧縮後の凝縮過程の圧力に於ける冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化され、上記低圧圧力に於ける冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化されることを特徴とする超低温用非共沸混合冷媒である。
さらに、上記室温近傍の沸点を有する高沸点ガスがブタン又はイソブタンであり、上記-60℃以下の低沸点ガスがエタン又はエチレンであり、これにR-14(パーフルオロメタン)を添加することにより、特性を向上した非共沸混合冷媒である。
ことを特徴とする、
また、上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのブタン-エタン混合比が90/10?60/40の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、9%以下とし、
上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのブタン-エチレン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、0.7%以下とし、
上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのイソブタン-エタン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、15%以下とし、
さらに、上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのイソブタン-エチレン混合比が90/10?80/20の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、10%以下として、特性を向上した超低温用非共沸混合冷媒である。
発明を実施するための最良の形態
本発明者らは、塩素を含まない炭化水素系超低温度用共沸冷媒を探索する過程で、-60℃以下の超低温度を実現する炭化水素系冷媒ガス、即ち標準沸点の極めて低い炭化水素に対して、標準沸点が高く、常温近傍の標準沸点を有すると共に蒸気圧の低い炭化水素を組合せることにより、常温環境下で使用できる非共沸冷媒を実現することを試みた。
即ち、常温付近での圧縮過程によって凝縮可能であり、或いは上記のような蒸発器からの冷媒との熱交換による冷却によって凝縮可能であれば、非共沸冷媒に於いても気液分離などの複雑な機構は不要であって構成を簡素化でき、また沸点と露点とが分離する非共沸冷媒固有の特性に起因する上記のような冷凍機運転の不安定は解消できることに着目した。
以下に非共沸冷媒の特性とその特性を利用するシステムについて説明する。
図20に、非共沸混合冷媒としてブタン及びエチレンを例にとって模式的に状態図を示す。
ブタン(沸点:-0.5℃)及びエチレン(沸点:-103.7℃)を例に採ると、概ね図のように露点と沸点を表す気相線と液相線とが上下に分かれる。
大気圧における状態図と共に、圧縮機から送り出されて凝縮過程にある高圧下での状態図と蒸発過程にある低圧下の状態図を示すと、それぞれ一点鎖線と破線で示すようにほぼ上下に平行に移動した関係になる。
ブタンとエチレンのように沸点が著しく異なる成分ガスの組合せによると、図のように高沸点から低沸点に向けて著しく傾斜した状態図となり、組成の僅かな変化により沸点や露点が大きく変わる特性が得られる。
図において、冷凍機の運転環境である常温温度域(R)の範囲をハッチで示したように35℃以下?20℃程度とすると、この温度条件下で運転可能な範囲は、高圧側液相線がこの温度域より上方にあることが必要となる。同時に圧縮機に於いて液圧縮を起こさないためには低圧側気相線が圧縮機吸入時の冷媒の温度以下でなければならない。
図において前者の条件を満たす範囲は、35℃を通る水平線が高圧側液相線と交わる点A‘を通る垂線が表すE0%以下の組成となり、後者は、その垂線と低圧側気相線の交わるA‘‘より左の気相線以上の温度域で運転することが必要となる。
非共沸冷媒を使用して、単一(1ユニット)の圧縮機、凝縮機、及び蒸発器からなる単段式冷凍システムによって運転する場合、以上の条件を満たせば格別の制御条件や気液分離装置は必要でなく、簡単な構成で冷凍機システムを構成することができる。
しかしながら、これらの条件を満たす範囲は前者については図に見るとおり極めて狭く、また後者については常温の環境下では達成できない。
従って、これらの条件下を達成するため、特に後者の低圧側の気相線以上の温度範囲で運転することは、蒸発過程後の冷媒が低温度であることから困難であるため前述のように高圧側の冷媒と熱交換を行い、合わせて高圧側における凝縮を促進することが行なわれているのである。
本発明者らは、この熱交換の条件を非共沸冷媒の露点と沸点の異なる特性を利用することにより、欠点ともなっていたこれらの特性からくる問題点を解決できることを見出した。
図において、常温温度域以上の露点を有する冷媒の組成範囲は、冷媒に高沸点成分を含む場合比較的広いことが解る。従って、この範囲に於いて、冷凍機システムはシステムの系外、即ち常温の大気中に熱を放出することができる。
一方、システム系内においては、熱交換によって高圧側ガスを全て凝縮・液化し、同時に低圧側冷媒を全て気化できる条件が達成できれば良い。
即ち、上記した単段式冷凍機システムは、系外との熱の授受から見れば、システム系内に取り込まれた熱量を環境温度下にある凝縮機において汲み出せればよいのであって、一方達成可能な最低冷凍温度は凝縮過程で凝縮可能な冷媒の沸点によって定まり、また、高圧側冷媒の凝縮・液化と低圧側冷媒の蒸発・気化の条件が満たされれば、上記の目的とする単段式冷凍機システムが成立する。
従って、環境温度以上の露点を有する冷媒と共に、このような凝縮・液化と蒸発・気化の条件が、これらの冷媒の間の熱交換によって達成できればこの問題を解消できることになる。
この条件を上記の非共沸冷媒の状態図から見ると、高圧側液相線が低圧側気相線よりも上にあればよいことが解る。
即ち,図において高圧側気相線が常温以上であるエチレンE%の組成の冷媒と温度との関係をみると、点Eを通る垂線とそれぞれの圧力下にある冷媒の気・液相線との交点は、上からA,B,C,Dとなるが、A点が大気温度以上であり、B点がC点以上であれば上記の条件は達成可能であることが解る。また、熱損失を無視すれば、D点が達成可能な最低温度となる。
無論、これらのシステムが成立するためには、理想条件からの損失を考慮する必要があり、またシステム系外との熱収支との関係を挙げていないが、凝縮機における潜熱による熱放出量が十分に大きく、かつ、B点とC点の間の間隔が大きくかつ十分な量の熱量移動ができることが必要であり、この熱量は高沸点冷媒に富む成分組成で決まるから、目的とする冷凍温度を達成するためには、これらの条件と合わせて最適な範囲を決める必要がある。
これら非共沸冷媒の特性は、十分に解明されていないため、定量的な関係は定められず、具体的な条件を定めるための利用可能なデータも乏しいが、実用化に際しては下記のように個々の冷媒の特性から経験的・実験的に定めればよい。
このようなシステムに利用可能な、標準沸点が室温近傍にある高沸点ガスとして、ブタン、イソブタン、各種ブテン(C_(4)H_(8))類の異性体、エチルアセチレン(C_(4)H_(6))、R-134a(CH_(2)FCF_(3))などが挙げられ、また本発明の目指す超低温度を実現する低沸点ガスとして、エタン、エチレン、或いは塩素を含まないフロロカーボンのR-14(パーフルオロメタン)などが挙げられる。
これらの混合ガスにより超低温度を実現するには、そのガス組成は低沸点ガスを相当量含有する必要があり、このため凝縮過程の圧力は相当に高くなるが、上記の通り非共沸冷媒の特徴として広い温度範囲・圧力範囲にわたって気相と液相とが共存するため、蒸発過程を経た後に高沸点成分に富んだ液相が相当量残存することを利用して、この液相による潜熱によって圧縮機からの高圧冷媒を冷却することにより、圧縮機の実用能力である15気圧(最大20気圧)以下の範囲での凝縮過程を促進させ、単段式冷凍機システムによる運転が可能となる。
以下に本発明に適した冷媒ガスの例とこれらの冷媒としての特性を挙げる。

本発明の非共沸冷媒における高沸点ガス成分として、上記のブタン及びイソブタンはいずれも燃料などとして広く用いられている炭化水素であるが、上記の通り沸点が-0.5℃及び-11.7℃であって常温近傍にあり、しかも蒸気圧が極めて低いため比較的低圧で液化可能である。ブテン類及びエチルアセチレン、R-134aも同様の特性を有している。
また、超低温度を実現する低沸点成分として、上記の表中のエタン、エチレン及びこれらからなる混合冷媒に添加する成分としてR-14はいずれも標準沸点が-60℃以下であり、超低温度を達成する上で有効であるが、臨界温度が低く、蒸気圧も高いため常温環境下では凝縮困難であり、特にR-14は単独では単段式冷凍システムでは使用できないが、蒸気圧の低い上記高沸点成分と組合せることにより、液化凝縮温度を上げると共に蒸気圧を低下させ、圧縮機から蒸発器に向かう高温・高圧の冷媒を蒸発器から圧縮機に至る低温度の冷媒と熱交換させて冷却することにより、常用されている圧縮機能力範囲である15気圧以下、最大20気圧(1.5?2.0MPa)の範囲で凝縮・液化させて冷凍システムを稼動することができる。
これらの熱交換による熱エネルギーの交換は、あくまで冷凍機システム内の熱のやり取りに過ぎないから、冷凍システム全体を稼動するには、系内の熱を常温の外部環境に効果的に放出することが必要であり、本発明に於いては蒸気圧の低い高沸点成分に富む冷媒の潜熱を凝縮器から放出することによって系の冷凍力を保持している。
従って、上記の高沸点成分が常温環境で液化すること、及び冷凍システムを維持するに十分な潜熱を放出するための冷媒充填量、凝縮器能力が必要である。
図1に、本発明の実施例に用いた冷凍機システムの概要を示す。
図において、1は圧縮機であり、圧縮機から吐出された冷媒ガスは往路配管10によって凝縮器2及び熱交換器50を経て、絞り弁(キャピラリーチューブ)6で減圧されて冷凍庫8内の蒸発器7において気化し、冷凍庫内を冷却する。蒸発器からの戻りガスは戻り配管12により熱交換器50で往路の冷媒を冷却して後、圧縮機に戻る。
非共沸冷媒を使用する冷凍システムにおいては、蒸発器に於いて減圧された状態の冷媒の組成は、圧力低下に伴って低沸点成分に富む気相と高沸点成分に富む凝縮した液相とからなり、いわゆる湿潤なガスとして圧縮機吸入側に送られるが、この凝縮した液体の吸入は圧縮機に対して好ましくないため、上記の先行技術に於いては、この戻り冷媒に凝縮相を伴わない条件で運転し、或いはアキュムレータにより気液分離されていたのである。
本発明に於いては、従来は冷凍機の運転上トラブルの原因ともなっていた、これらの非共沸冷媒の特徴を逆に活用するものであり、戻り冷媒と高圧側冷媒との熱交換に於いて、戻り冷媒の凝縮液相の潜熱により高圧側のガスを全量凝縮させ、一方戻り冷媒の液相を全て気化することによって、システムを巡る冷媒ガス組成を初期設定値に維持して安定した操業条件を実現するものである。
熱交換器の機能はこのため重要であるが、その形式そのものはどのような構造でも格別かまわないが、ただしその熱交換能は大きい必要がある。
本発明に於いて使用した熱交換器は、図2に示す構造のもので、圧縮機からの往路菅10と蒸発器からの戻り菅12とをロウ付け15して成るが、上記の本発明における熱交換条件を満たすため、熱交換器全長Lは3mとした。
この熱交換器の動作条件及び結果を以下に示す。
実験に使用した冷凍機システムは、次のとおりである。
冷凍機機種:ダンフォース社製機種名SC-15CNX、容量:213リットル
絞り弁としてキャピラリチューブ使用
実験1は、エチレンを15%混合したブタン-エチレン混合非共沸冷媒250gを充填し、実験2は、これにさらにR-14(フルオロメタン)を10g(4%)を加えて運転した。
測定点は、図2において下記のとおり。
温度はいずれも配管温度であり、圧力はゲージ圧である。
低圧側入口:A、高圧側出口:B、
低圧側出口:E、高圧側入口:F

表2のデータに於いて高圧側入口温度が室温以下となっているのは、熱交換器器壁温度を測定しているため、熱交換する相手側の温度に影響されたのものであって、実際の温度は此れよりも若干高く、室温以上である。高圧側出口に於ける温度も同様であって、測定温度よりもさらに低温度となり、また低圧側においても同様の温度差が生じている。
これによって圧縮機吸入側の戻りガスは略室温程度となり、一方蒸発器に向かう高圧側の冷媒はその圧力下で沸点以下であるから、上記の条件を満たすことが解る。
さらに、以下の表-3及び4に、ブタン-エチレン混合比:90/10、及びブタン-エチレン混合比:85/15の冷媒にそれぞれR-14を0?3.85%の範囲で添加した場合の熱交換器において達成できた高圧側及び低圧側の冷媒の圧力及び温度の関係について示す。
実験に使用した冷凍機システムは、上記(1)と同一条件である。


(1)ブタン-エタン系、及びブタン-エタン系混合ガスにR-14を添加した非共沸冷媒の特性確認
実験1
図1に示す冷凍機システムを用い、実機運転により基礎データとしてブタン、エタン混合ガスの冷媒としての特性を確認した。
その結果を表-5及び図3に示す。

図3のグラフからエタン濃度20?30%付近を頂点として庫内温度-60℃付近を達成するごく緩やかなピークがあるが、一方、高圧側即ち圧縮機側の圧力はエタン添加量の増加と共に上昇し、エタン含有量30%を越えると急激に上昇することが判る。
超低温用冷凍機としては、-60℃以下の庫内温度達成と、さらに-80℃以下を目指すが、エタン20?30%近傍で-60℃付近になるもののその前後を含めてほぼフラットであり、エタン10%以下及び30%以上に向けて緩やかに効果が低下するが、なお-55℃近傍にある。また、エタン添加量は40%を越える付近から再び庫内温度は低下するが、高圧側圧力も急激に上昇するため好ましくない。
そこで、これら庫内温度が-60℃付近を保ち、さらにほぼフラットとなる領域での冷媒特性を向上するため、ブタン-エタン系冷媒ガスの成分をこれらの範囲に相当するエタン:10、20、30及び40%、即ち混合比90/10、80/20、70/30、及び60/40のそれぞれの範囲においてR-14ガスを添加して、その添加量に対する特性変化を確認した結果を次に示す。
実験条件は、上記と同様であり、その結果を、それぞれ表-6、7、8、9及び図4、5、6、7に示す。
実験-2
ブタン-エタン混合比が90/10の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表6のデータをプロットした図4のグラフによると、R-14:0%で-50℃台の庫内温度で、それ以後R-14を添加してもほとんど変化は無く、むしろ7%近傍から庫内温度が上昇する傾向が見られる。一方、高圧側圧力は、それにも拘わらず急激に上昇し、ほぼR-14添加量9%付近で実用限界に達する。
実験-3
ブタン-エタン混合比が80/20の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表7のデータをプロットした図5のグラフによると、R-14:1%以下の添加で庫内温度-60℃以下が達成され、その添加量増加とともに庫内温度の低下効果が得られている。特に、R-14:8%近傍から庫内温度低下が著しく、-80℃以下となるが、高圧側及び低圧側の圧力が共に上昇し、R-14:9%付近でほぼ実用限界となる。
実験-4
ブタン-エタン混合比が70/30の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表8のデータをプロットした図6のグラフによると、R-14:0%で-60℃以下となっているが、R-14量の増加と共に庫内温度の低下効果が得られている。高圧側及び低圧側の圧力はR-14添加量の増加と共に上昇しており、R-14:9?10%で庫内温度-85℃以下が得られるが、低圧側圧力も1.0となり、ほぼその実用限界となる。
実験-5
ブタン-エタン混合比が60/40の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表9のデータをプロットした図7のグラフによると、庫内温度は、R-14の添加量が4%以上で-60℃を達成するが、それ以降、R-14の添加量の増加に対する庫内温度低下は極く緩やかで、効果に乏しい。
他方、高圧側、低圧側ともに圧力は上昇し、特に低圧側圧力は、R-14の無添加時から実用限界付近にある。
以上から、本発明の目指す冷媒の特性は、ブタン-エタン系混合成分のエタン含有量10%を越え40%未満、即ち混合比90/10を越え60/40未満の領域であって、R-14:0%を超え、9%以下の範囲で達成できることが判る。
そして、この範囲においてこれら3成分系非共沸混合冷媒は、高圧側圧力、低圧側圧力及び庫内温度ともに広い範囲にわたって安定した条件を維持することができた。
(2)ブタン-エチレン及びブタン-エチレン系混合ガスとR-14添加による非共沸冷媒の特性確認
エチレンは沸点が極めて低く、超低温度用冷媒として好適な特性を有しているが、蒸気圧が極めて高く、室温で作動する冷凍機システムでは取り扱えない(表1参照)。
そこで、先に示したブタンを加えてこれらのガスを混合した冷媒ガスの特性を確認し、室温で作動する冷凍機システムの冷媒として使用可能な範囲を探索し、更にこれにR-14(パーフルオロメタン)を加えて超低温用冷媒としての特性を向上することによって、複雑な2元系冷凍機システムを使用することなく、本発明者らの目指す、室温で動作する冷凍機システムによって-60℃を超え、-80℃以下の超低温度の庫内温度を実現する混合冷媒の特性及び組成範囲を確認した。
冷凍機システムなど、運転条件は上記と同じである。
実験-1:ブタン、エチレン混合ガスの冷媒としての特性確認
図1に示す冷凍機システムを用い、実機運転により基礎データとしてブタン、エチレン混合ガスの冷媒としての特性を確認した。
その結果を表10及び図8に示す。

表-10の結果をプロットした図8のグラフからエチレン濃度の増加に従って冷凍庫
庫内温度が著しく低下するが、それにつれて圧縮機側の圧力も上昇することが判る。
超低温用冷凍機としては、-60℃以下の庫内温度を容易に達成し、さらに-80℃以下を実現することを目指すが、エチレン6%以上の領域で-60℃以下の庫内温度を達成できるものの、それ以上の濃度においても-70℃を超えるとほぼフラットとなる傾向があり、30%近傍で再び-70℃を越える庫内温度に達しているが、30%を越えると実機運転では不安定になり、35%以上での確認はできなかった。
そこで、これら庫内温度が-60℃以下となり、さらにほぼフラットとなる領域での冷媒特性を向上するため、ブタン-エチレン系冷媒ガスの成分をこれらの範囲に相当するエチレン:10、15、20、30%、即ちブタン-エチレン混合比:90/10、85/15、80/20、70/30のそれぞれの範囲にある合計250gの混合ガスに、R-14ガス5?20gを添加して、その添加量に対する特性変化を確認した。なお、ブタン-エチレン混合比:95/5の混合ガスにR-14を添加する実験は、R-14:1.96%において庫内温度が、-60℃以下に低下せず、所期の効果が見込めないため実験を打ち切った。
実験条件は、上記と同様であり、その結果を、それぞれ表-11、12、13、14、及び図9,10,11、12に示す。
実験-2
ブタン-エチレン混合比が90/10の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表-11のデータをプロットした図9のグラフによると、R-14:0%で-60℃の庫内温度を達成しているが、R-14:2%付近で-80℃以下となり、R-14の添加効果が顕著であることが判る。
但し、その効果はほぼR-14:5.0%程度で飽和しており、一方高圧側圧力が急激に上昇する傾向があり、7.4%程度で実用限界付近に達して、実機運転ではそれ以上の安定な運転は困難となった。
実験-3
ブタン-エチレン混合比が85/15の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表-12のデータをプロットした図10のグラフによると、R-14濃度増加により、庫内温度の低下効果が得られるが、4%前後から温度低下効果は緩やかとなり、上記同様にR-14:7.4%程近傍で高圧側圧力の上昇が著しくなって、実機運転に困難を来たした。
実験-4
ブタン-エチレン混合比が80/20の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表-13のデータをプロットした図11のグラフによると、R-14量の増加により庫内温度の低下効果が得られているが、R-14の増加による効果は6.0%近傍でピークとなり、それより緩やかに効果が低下する傾向がある。
同時に、高圧側圧力の上昇があり、7.4%以上での実機運転による効果は期待できない。
実験-5
ブタン-エチレン混合比が70/30の混合ガス合計250gにR-14を5g刻みで添加してその添加の効果を確認した。

表-14のデータをプロットした図12のグラフによると、庫内温度は、R-14添加と共に逆に上昇し、所期の効果が得られない。一方、高圧側圧力はR-14の濃度と共に急上昇し,R-14:6%近傍で実機運転上の実用限界に近くなる。
また、低圧側のゲージ圧も大きく、R-14:1%強で実用限界となり、冷媒としての効果は期待できない。
以上から、本発明の目指す冷媒の特性は、ブタン-エチレン系混合成分のブタン10以上?30%以下、R-14:0%を越え、7.5%以下において達成できることが判る。
そして、この範囲においてこれら3成分系非共沸混合冷媒は、高圧側圧力、低圧側圧力及び庫内温度ともに広い範囲にわたって安定した条件を維持することができる。
(3)イソブタン-エタン及びイソブタン-エタン系混合ガスとR-14添加による非共沸冷媒の特性確認
ブタンに替えて異性体であるイソブタンを用いても、上記の表1のデータの通り、その物理的性質は略同様であるから、同様の特性を有する非共沸冷媒を得ることができる。
冷凍機システムの構成は上記の(1)、(2)と変わらないが、冷凍機としてダンフォース 社製:NLE6F、製品名:FB-75を使用した。冷媒ガス充填量が100g?125gと半減しており、容量が小さいため冷凍庫内温度など冷凍能力が若干劣る結果が得られた。



表-15?17のデータをプロットした図13?15によると、ブタン-エタン混合冷媒の特性と比較して上記したように容量の小さいことにより庫内温度が若干高く表れるほか、システム内の圧力も高圧側、低圧側ともに若干高くなる傾向があるが、その冷媒としての特性はほぼ共通することが解る。
これらのデータから、ブタン-エタン混合ガスの場合と同様、イソブタンとエタンとの混合比は、90/10から徐々に効果が現れるが、エタン40%で高圧側圧力の略実用限界となる。
また、イソブタン-エタン混合ガスの混合比90/10?70/30に於いて、R-14の添加による効果は、微量に於いても効果があるが、高圧圧力がそれに伴って急激に上昇し、特にエタン濃度の増加と連動する傾向があるため、イソブタン-エタン70/30が略限界であり、またR-14添加量も略15%で実用限界となる。
(4)イソブタン-エチレン及びイソブタン-エチレン系混合ガスとR-14添加による非共沸冷媒の特性確認
冷凍機システムの構成は(1)?(3)と変わらないが、イソブタン-エチレン混合ガスの特性確認には冷凍機としてユニダット社製:GL-99EJ、製品名:F-14L(冷媒充填量:120g?160g):を用い、
その他の実験では、ダンフォース社製:NLE6F、製品名:FB-75を使用した。冷媒充填量が100g?125gと半減しており、容量が小さいため冷凍庫内温度など冷凍能力が若干劣る結果が得られた。




表-18?21のデータを図16?19にプロットして示す、
図-16によれば、冷媒充填量が半減するなど容量が小さいため、ブタン-エチレン混合ガスの特性に比較して庫内温度が若干高いなどの相違が見られるほか、エチレンの比率が増すと蒸気圧が高いというその特性の影響が現れて高圧側の圧力が急激に高まり、低圧側も含めて圧力が安定しないという傾向があり、それがより低濃度で表れる。
この理由については、(3)の実験の場合と同様に冷凍機の容量が小さいことに起因すると考えられ、冷媒の基本的な特性としては、ブタン-エチレン混合ガスと同様の特性であることが解る。
また、図17?19によると、ブタン-エチレン混合ガスをベースにした場合と比較して、庫内温度が若干高いと共に、圧力が高圧側、低圧側ともに高く表れ、特に庫内温度と関係の深い低圧側の圧力が高い傾向があるが、(3)の場合と同様に冷凍機容量の小さいことを考慮すると冷媒ガスの特性として、ブタン-エチレン系混合冷媒と同様に扱えることが解る。
これらのデータから、ブタン-エチレン混合ガスの場合と同様、イソブタンとエチレンとの超低温用冷媒としての特性は、混合比90/10から評価できるが、エチレン20%近傍で圧力条件が不安定となり、冷凍機容量による面もあるが略実用限界となる。
また、イソブタン-エチレン混合ガスの混合比90/10?80/20に於いて、R-14の添加による効果は、微量に於いても効果があるが、高圧圧力がそれに伴って上昇するのに対して庫内温度は左程低下せず、10%近傍で略飽和する。
以上の実験例から明らかなように、室温近傍の沸点を有する蒸気圧の低いガスと超低温を達成する上で必要な低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒により、常温環境下で単段式冷凍機システムにより、-40℃,特に-60℃以下の超低温を実現できる。
この非共沸冷媒により目的とする超低温度を実現するためには、冷凍機システムとして冷媒の非共沸特性を利用することが必要であって、圧縮後の冷媒ガスの高沸点ガスリッチのガス成分の凝縮機における凝縮による系外への熱の排出と共に、凝縮機における排熱後の冷媒ガスと蒸発器からの冷媒との熱交換による、高沸点ガスリッチの液相成分の蒸発熱による高圧冷媒ガスの冷却により低沸点成分ガスの凝縮を伴う系内の熱交換を行うのである。
即ち、本発明は、これらの熱交換システムと非共沸冷媒の特性との組合せからなる非共沸冷媒の冷凍能力を最大限に発揮する冷凍システムであり、そのシステムに好適な冷媒である。そして、これらのガスの性質及び実験に於いて観察された挙動からみて、それぞれ高沸点ガス及び低沸点ガスの2以上を組合せても同様に適用可能な領域があることが明らかである。
本発明において採用可能な冷媒としてこれらの実験例以外にも、表-1に挙げた1-ブテンとエチレンの混合冷媒においても、1-ブテン70部、エチレン30部の混合冷媒によって、-74.5℃(高圧側圧力:1.2MPa、低圧側圧力:0.1MPa、それぞれゲージ圧、以下同じ。)の庫内温度が達成され、さらにR-14をそれぞれ5、10部加えて、それぞれ-77℃(高圧側圧力:1.4MPa、低圧側圧力:0.13MPa)、-88℃(高圧側圧力:2.0MPa、低圧側圧力:0.17MPa)の庫内温度が達成された。
その他、表-1に挙げたブテン類及びエチルアセチレン、R-134aもその性質から同様に適用可能であって、また、これらの例に限らず同様の高沸点、低蒸気圧特性を有する物質と低沸点物質との組合せであれば、本発明の適用が可能である。
産業上の利用性
本発明は、以上のとおり簡単な構成からなる冷凍機システムにおいて、長期間にわたって安定した操業が可能であり、又、メインテナンス上もその簡単な構造、安価な素材を使用していることから低コストで且つ冷凍機の温度条件に大きな変動をきたすことなく、整備・維持作業が可能である。
本発明の超低温度用非共沸混合冷媒は、安価なガス成分により-60℃以下の超低温度を容易に達成することができ、特に-80℃以下の超低温度を安定して維持できることから従来からの食品類はもとより、生体組織、特に移植用や組織培養に用いる貴重な生体組織の長期保存にも広く用いることができるものであり、これらバイオ産業の要請に応えてこれらの産業の発展に寄与するものである。
また、炭化水素系冷媒と組合わせてフロロカーボンを冷媒として使用することにより、効果的に冷凍能力を向上できると共にフロン使用量を極く少量にすることが可能となり、グリーンハウス効果などの環境破壊に対する効果も極めて少ない。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の冷凍システムの概念図である。
図2は、本発明に使用した熱交換器例を示す。これらの図において、1 圧縮機、2 凝縮器(コンデンサー)、6 絞り弁(キャピラリ-)、7 蒸発器(エバポレータ)、8 冷凍庫、10 圧縮ガス往路菅、12 戻りガス管、50 熱交換器、15 接合部(ロウ付け)である。
図3は、ブタン-エタン混合ガスの特性、
図4は、ブタン-エタン:90/10混合ガス+R14の特性、
図5は、ブタン-エタン:80/20混合ガス+R14の特性、
図6は、ブタン-エタン:70/30混合ガス+R14の特性、
図7は、ブタン-エタン:60/40混合ガス+R14の特性、
図8は、ブタン-エチレン混合ガスの特性、
図9は、ブタン-エチレン:90/10混合ガス+R-14の特性、
図10は、ブタン-エチレン:85/15混合ガス+R-14の特性、
図11は、ブタン-エチレン:80/20混合ガス+R-14の特性、
図12は、ブタン-エチレン:70/30混合ガス+R-14の特性、
図13は、イソブタン-エタン混合ガスの特性、
図14は、イソブタン-エタン:90/10混合ガス+R-14の特性、
図15は、イソブタン-エタン:70/30混合ガス+R-14の特性、
図16、イソブタン-エチレン混合ガスの特性、
図17、イソブタン-エチレン:90/10混合ガス+R-14の特性、
図18、イソブタン-エチレン:80/20混合ガス+R-14の特性、
図19、イソブタン-エチレン:70/30混合ガス+R-14の特性、
図20、非共沸冷媒(ブタン-エチレン)の気・液相状態(模式図)をそれぞれ示す。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、蒸発器、及び蒸発器から圧縮機に至る冷媒と凝縮器から蒸発器にいたる過程の冷媒との間で熱交換を行なう熱交換器により構成される単段式冷凍システムに使用する非共沸冷媒であって、
標準沸点が室温近傍である高沸点ガスと標準沸点が-60℃以下である低沸点ガスとの組合せからなる非共沸冷媒であって、
上記高沸点ガスがブタン、イソブタン、各種ブテン類、及びエチルアセチレンから選択した1種以上であり、
上記低沸点ガスがエタン、エチレン及びR-14から選択した一種以上であり、
圧縮機から熱交換器を経て蒸発器にいたる高圧下の露点が室温以上であって、かつその沸点が蒸発器から熱交換器を経て圧縮機にいたる低圧下の露点より高いものであり、
上記高圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て凝縮・液化され、上記低圧下の非共沸冷媒が上記熱交換器による熱交換によって全て気化される成分組成としたことを特徴とする非共沸冷媒。
【請求項2】
上記室温近傍の標準沸点を有する高沸点ガスがブタン又はイソブタンであり、上記-60℃以下の標準沸点を有する低沸点ガスがエタン又はエチレンであって、これらの混合ガスにR-14(パーフルオロメタン)を添加したことを特徴とする、請求項1記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項3】
上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのブタン-エタン混合比が90/10?60/40の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、9%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項4】
上記高沸点ガスがブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのブタン-エチレン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、7.5%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項5】
上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエタンである混合ガスのイソブタン-エタン混合比が90/10?70/30の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、15%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
【請求項6】
上記高沸点ガスがイソブタンであり、低沸点ガスがエチレンである混合ガスのイソブタン-エチレン混合比が90/10?80/20の範囲にあり、この混合ガスに対するR-14(パーフルオロメタン)の添加量が0%を超え、10%以下であることを特徴とする請求項2記載の超低温用非共沸混合冷媒。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-11-10 
結審通知日 2008-11-12 
審決日 2008-12-05 
出願番号 特願2004-556800(P2004-556800)
審決分類 P 1 113・ 123- ZD (F25B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 川上 佳  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
清水 富夫
登録日 2007-03-30 
登録番号 特許第3934140号(P3934140)
発明の名称 非共沸冷媒  
代理人 入交 孝雄  
代理人 辻本 恵太  
代理人 田倉 保  
代理人 入交 孝雄  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 苗村 新一  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 辻本 恵太  

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