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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B08B
管理番号 1208560
審判番号 不服2005-19346  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-06 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 平成 8年特許願第271718号「圧縮空気のブロー装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月14日出願公開、特開平10- 94769〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月20日の出願であって、平成17年8月30日付けで拒絶査定がなされ(同年9月6日発送)、これに対し、同年10月6日に審判請求がなされた。そして、当審により平成20年7月30日付けで拒絶の理由が通知され(同年8月5日発送)、これに対して、同年10月6日付けで意見書が提出された。その後、当審により平成21年1月15日付けで拒絶の理由が通知され(同年1月20日発送)、これに対して、同年3月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明は、平成21年3月23日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるものである(以下「本願発明1」、「本願発明2」という。)。

【請求項1】 圧力設定手段によって所定の圧力に設定された圧縮空気が供給される圧縮空気の供給配管と、該供給配管の先端に取付けられた圧縮空気の吹き出しノズルとを備えた圧縮空気のブロー装置において、
上記ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を、1:2.0ないし1:4.0とした、
ことを特徴とする圧縮空気のブロー装置。
【請求項2】 圧力設定手段によって所定の圧力に設定された圧縮空気が供給される圧縮空気の供給配管と、該供給配管の先端に取付けられた圧縮空気の吹き出しノズルとを備えた圧縮空気のブロー装置において、
上記ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の合成有効断面積STとの比を、1:2.0ないし1:4.0とした、
ことを特徴とする圧縮空気のブロー装置。

3.平成21年1月15日付けの拒絶の理由の概要
平成21年1月15日付けの拒絶の理由のうち、特許法第36条第6項1号違反の理由の概要は以下のとおりである。(ただし、「(A)」「(B)」「(C)」「(D)」「(E)」の項目を細別する記号は請求人の主張に対応して、当審で書き加えたものである。)

理由1
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。(サポート要件を満たしていない。)

請求項1、2において、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

本願の発明の詳細な説明の段落【0002】、【0003】には、【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】として、次のように記載されている。
「【従来の技術】圧力設定手段によって所定の圧力に設定された圧縮空気が供給される圧縮空気の供給配管と、該供給配管の先端に取付けられた圧縮空気の吹き出しノズルとを備えた圧縮空気のブロー装置は、既に知られている。しかしながら、上記公知のブロー装置は、供給配管を流れる圧縮空気の圧力降下や圧縮空気の吹き出し量の不足等によって、ワークのブロー作業が不完全にならないように、ブロー作業に必要以上の圧力を有する圧縮空気を大量にブローしているために、エネルギーの消費量が多く、また圧縮空気の圧力を高くしたり供給配管を大径にしたりするために設備費(イニシアルコスト)が高いものであった。即ち、圧縮空気のブロー装置においては、圧縮空気の吹き出し量(消費量)及び圧力降下が少なく、かつ設備費が低廉であることが望ましいが、公知のブロー装置は、これらについての考慮が払われていなかった。
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、エネルギーの消費少なく、かつ設備費を安価にできる圧縮空気のブロー装置を提供することにある。」
また、本願の発明の詳細な説明の段落【0007】には、「図3は、上記ブロー装置1の実験例を示し、減圧弁6の出口ポート6aとノズル8との間の供給配管7の有効断面積S2とノズル8の有効断面積S1との比と、空気消費量、空気圧比(P2 /P1 )及びブロー装置のイニシャルコストとの関係を示している。図3で明らかなように、空気消費量、空気圧比及びイニシャルコストが、ノズル8有効断面積S1と供給配管7の有効断面積S2との比が1:2.0ないし1:4.0の範囲において変動が比較的少ない。したがって、これらを総合勘案すると、上記有効断面積の比を1:2.0ないし1:4.0することによって、ブロー装置のエネルギー消費量が少なく、かつイニシャルコストを低減することができる。また、特に上記有効断面積比を1:3.0とした場合は、これら3つの数値がほぼ一致するので最も好ましい。」と記載されている。

(A)これらの記載によれば、本発明が解決しようとする課題は、「エネルギーの消費が少なく、かつ設備費(イニシャルコストコスト)を安価にできる圧縮空気のブロー装置を提供すること」であって、有効断面積の比を1:2.0ないし1:4.0することによって、空気消費量、空気圧比及びイニシャルコスト〔の合成値(すなわち図3の空気消費量、空気圧比、イニシャルコストのそれぞれの曲線を合成した曲線)〕の変動が比較的少ないこと、さらに、有効断面積比を1:3.0とすれば空気消費量、空気圧比及びイニシャルコストの3つの数値がほぼ一致するので好ましいものというものである。
しかし、100%の基準を1:3.0以外の、有効断面積比1:4又は1:5あるいは1:6と変更した場合、空気消費量の曲線、イニシャルコストの曲線及び合成した曲線は、基準を1:3.0としたときとは異なる曲線となるものの、各々基準とした有効断面積比のところで、合成した曲線の変動が比較的少なくなること、及び、3つの数値がほぼ一致することは、そこを基準の100%にした以上当然のことであり、有効断面積比を1:3.0のときに限られるものではない。
してみれば、100%の基準を有効断面積比1:3.0にした図3を根拠にして有効断面積比の数値の限定範囲の効果を主張しても、何ら技術的意味がない。
(B)また、イニシャルコストについてみると、供給配管の径を一定にしてノズルの有効断面積を小さく(より絞られたノズルとする)すれば、有効断面積比は変化するので、ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を小さく(図3によれば、有効断面積比(S2/S1)を大きく)しても、供給配管の径は同じであるからイニシャルコストは変わらないので、図3のように大きくはならない。
したがって、イニシャルコストと有効断面積比は図3に示されたような関係になるとは限らないものであり、圧力や流量や管径やノズル等の使用条件により異なるものである。
(C)しかも、イニシャルコストは最初だけの固定的なコストであるのに対し、空気消費量等のランニングコストは使用するにつれて累積され増加していくコストであり、イニシャルコストとランニングコストの総和のコスト及び両コストの割合は、使用時間の経過と共に変化して行くものであり、図3のように有効断面積比だけで決まるものではない。
これは、平成17年12月28日付けの審判請求書の手続補正書の参考図に、設定圧力P1の値に応じて同じ有効断面積比でも圧力比が異なることが記載されていることからもいえることであり、イニシャルコストや空気消費量も圧力や流量や管径やノズル等の様々な条件により、同じ有効断面積比でも異なるものとなることを示唆しており、図3のように有効断面積比だけで、イニシャルコスト、圧力比、空気消費量が決まる理由が不明である。

(D)また、図3に記載された、空気消費量、圧力比、イニシャルコストのそれぞれの曲線を合成した曲線の意味について、請求人は、平成20年10月6日付けの意見書〔(2)(2-1)〕において、「この「合成した曲線」は、それらの「イニシャルコスト」、「空気消費量」及び「圧力比」の各値を単純に加算したものではなく、それらの値、特に「イニシャルコスト」及び「空気消費量」を重要視し、ブロー装置として、エネルギーの消費量が少なく、かつ設備費を安価にできる指数の増減傾向を求めたものであり、具体的には、それぞれの値に適切な重み付けを行って加え合わせた、ということになる。」と述べている。
しかし、「エネルギーの消費量が少なく、かつ設備費を安価にできる指数の増減傾向」がどのように技術的意味があるのか不明である。(イニシャルコスト及びランニングコストと、この「指数」がどのような関係にあるのか不明である。)
(E)また、「イニシャルコスト」、「空気消費量」及び「圧力比」の各々に対する重み付けの度合いにより、「合成した曲線」は様々に変わるものであるが、各々に対しどのような重み付けするかについてはもちろんのこと、重み付けすることすら明細書及び図面には記載も示唆もない。
さらに、本願の発明の詳細な説明及び図面には、実験例が図3に記載されているが、供給配管やノズルの寸法、設定圧力、流量等の条件や数値は全く記載されていないし、どのような条件での実験例なのか、全く開示されていない。

(F)したがって、本願の請求項1に係る発明の「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を、1:2.0ないし1:4.0とした」こと、本願の請求項2に係る発明の「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の合成有効断面積STとの比を、1:2.0ないし1:4.0とした」範囲内であれば、課題を解決できると、当業者が認識できる程度に、発明の詳細な説明に具体例が開示されているとは認められない。

4.請求人の主張
これに対して、請求人は意見書において、次のように主張する。
(A)について
「本願明細書の段落[0007]における「空気消費量、空気圧比及びイニシャルコストの3つの数値がほぼ一致するので好ましい」という記載は、別途提出した手続補正書において、「圧力比がほぼ1になってイニシャルコストが比較的低い状態でノズルからの噴射が行われるので最も好ましい」旨の記載に補正している。したがって、拒絶理由で指摘されているところの、100%の基準を1:3.0以外の有効断面積比1:4又は1:5あるいは1:6と変更した場合に、空気消費量の曲線、イニシャルコストの曲線及び合成した曲線は、基準を1:3.0としたときとは異なる曲線となるとしても、グラフが示している趣旨が変わることはない。この場合に、どの位置を100%にしても、グラフの各曲線はそれぞれの増減傾向を示すだけのものであるから、問題はない。」と主張する。

(B)について
「一般に、ブロー装置の性能(仕事量)は、P2(ノズルにおける空気圧)とQ(空気流量)との積によって評価され、したがって、ノズルにおける空気圧P2が小さければ、それだけ空気流量Qを増大しなければ、所期の仕事量が得られない。逆に、ノズルにおける空気圧P2が大きければ、それだけ空気流量Qを少なくすることができる。
上述したところを前提とすれば、上述の「供給配管の径を一定にしてノズルの有効断面積を小さくすれば、」という前提はあり得ないことである。」と主張する。

(C)について
「ランニングコストは、累積するコストの積算値ではなく、単位時間内におけるランニングコストと理解すべきである。審判請求理由に関連して提出した参考図において、設定圧力P1の値に応じて同じ有効断面積比でも圧力比が異なるのは当然であり、上記指摘事項とは関係がない。」と主張する。

(D)について
「図3に記載された空気消費量、圧力比、イニシャルコストのそれぞれの曲線を合成した曲線は、有効断面積比が3.0の前後において圧力比が1に接近している(効率的な噴射が行われる)こと、その圧力比が1に接近することにより空気消費量(ランニングコスト)が少なくなっていること、有効断面積比が増加するにしたがってイニシャルコストが増大していることを総合した指数を示すものであり、この値が低いことは、「エネルギーの消費量が少なく、かつ設備費を安価にできる」ことを意味しているのは明らかである。指数の増減傾向の技術的意味はこの点にある。」と主張する。

(E)について
請求人は、図3の合成曲線に、「空気消費量、圧力比、イニシャルコストのそれぞれの曲線を合成した曲線」と説明を付加しているところから、当業者であれば、次のように理解することができる。即ち、当該曲線は、単位が異なる空気消費量、圧力比及びイニシャルコストを合成していることから、それらの数値を単に加算して得たものでないことは明らかであり、そして、このような複数の曲線によって示された事項の傾向を総合する場合に、その総合の目的に応じて、どの値にどのような重み付けをするかを判断して合成することは、一般に極めて常識的に行われていることである。本願発明の場合には、前項で述べたところから明らかなように、有効断面積比が3.0の前後において圧力比が1に接近しているために、その近辺がエネルギー消費が少ないという観点から極めて望ましいこと、その圧力比が1に接近することにより空気消費量が少なくなって経済的に有利になること、有効断面積比が増加するにしたがってどの程度の勾配でイニシャルコストが増大するかを、上記空気消費量の少量化との兼ね合いで評価し、つまり、空気消費量の曲線とイニシャルコストの曲線との縦軸目盛りのバランスを考慮したうえで、それらの曲線から総合した指数としての合成曲線を導き出している。したがって、この合成曲線はエネルギーの消費量が少なく、かつ設備費を安価にできる指標を与えることは明らかである。
また、図3の実験例がどのよう条件での実験例なのか、全く開示されていない旨の指摘を受けているが、資料1(本願発明に関連する実験データの一部)に示すような、多くの例についての計算及び確認の実験を行ったうえで、得られたデータを無次元化して図3を作製したものである。
資料1の表について簡単に説明すると、そこに示すデータは、本願の図4に示す実施例の場合のものであって、請求人会社で製造販売しているところの仕様が異なる各種の二方弁(1)?(4)、上記二方弁に適合する各種の内径の配管用チューブ(1)?(4)、そのチューブに適合するサイズの各種管接手、及び表中に示すサイズのノズルを用いた場合について、設定圧(減圧弁の出口圧力)を0.3MPaとしてノズル圧力P2を求め他場合のものである。本願発明の実験例は、上述した装置におけるノズル径とそれに流す供給配管の有効断面積S2を種々変えることにより、審判請求理由に添付した参考図を作成すると共に、それらの製品の販売価格からイニシャルコストを、またそのノズルから単位時間に噴出させた空気量からランニングコストを求めたもので、図3はこの種の多数の実験例のデータを無次元化して一枚の表にまとめたものである。
つまり、本願発明の図3のデータを得るために、簡単に説明できる特定の設備を使用したのではなく、したがって、簡単な実験条件として示すことができないものである。

(F)について
請求人は、「以上に述べたところから、ノズルの有効断面積S1と、供給配管の有効断面積S2あるいは合成有効断面積STとの比を、1:2.0ないし1:4.0とすることにより、本願発明の課題が解決できることは、当業者において容易に認識できる筈である。」と主張する。

5.当審の判断
本願の発明の詳細な説明及び図面の記載、並びに、請求人の審判請求書及び意見書等の記載からみて、本願発明が解決しようとする課題は、「エネルギーの消費が少なく、かつ設備費(イニシャルコストコスト)を安価にできる圧縮空気のブロー装置を提供すること」である。
そして、その解決手段として有効断面積比をノズルの有効断面積S1と供給配管の有効断面積S2との比、又はノズルの有効断面積S1と供給配管の合成有効断面積STとの比を1:2.0ないし1:4.0の範囲に特定しているが、このような数値範囲に特定する根拠は、実験例である図3のように、有効断面積比(S2/S1)が大きくなるにつれて、イニシャルコストが増加し、これとは逆に、空気消費量や圧力降下等は小さくなりランニングコストが減少することで、イニシャルコストとランニングコストの総和が前記数値範囲で小さくなることを前提にしているものと解される。

そこで、特許請求の範囲をみると、特許請求の範囲請求項1には、「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を、1:2.0ないし1:4.0とした」こと(図3では、有効断面積比(S2/S1)を2ないし4)、請求項2には、「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の合成有効断面積STとの比を、1:2.0ないし1:4.0とした」と特定されているが、どのような条件における、S1とS2との比、S1とSTとの比であるのかは特定されていない。

特許請求の範囲請求項1において、他に条件がないときの有効断面積比S2/S1の技術的意義について検討する。
(なお、特許請求の範囲の請求項1では、「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比」とあるが、ここでは、便宜上、その逆比である、図3での有効断面積比(S2/S1)を代用して説明する。)
供給配管の有効断面積は、供給配管の径だけでなく、供給配管の長さ、供給配管内の摩擦係数(材質によって異なる)によっても変わる。
したがって、供給配管とノズルとの有効断面積の比も、供給配管の径だけで変わるものではないし、供給配管とノズルとの有効断面積の比であるから、ノズルの径によっても変わることは当然のことである。
また、同じ有効断面積比の値(例えば、S2/S1=3)であっても、無数の場合があり得る(例えば、S2/S1=3mm^(2)/1mm^(2)=9mm^(2)/3mm^(2)=12mm^(2)/4mm^(2)=3)。

さらに、有効断面積比S2/S1を変えるに際し、管の径を一定にしてノズルの径を変える、ノズルの径を一定にして管の径を変える、あるいは、流量×ノズルの圧力=一定など、様々な条件のうちどれを適用するかによっても有効断面積比S2/S1の変化に対するイニシャルコストや空気消費量等の変化の仕方は異なる。

発明の詳細な説明及び図面に記載されているのは、有効断面積比S2/S1が大きくなるとイニシャルコストが増加する場合のみである。
しかし、有効断面積比(S2/S1)を大きくしても、例えば、配管径を一定にして、ノズル径を減少させる場合には、イニシャルコストは変わらないし、配管径及びノズル径を一定にして、配管の長さを短くする場合には、イニシャルコストは減ることになる。
このように、有効断面積比(S2/S1)を大きくしても、イニシャルコストが大きくならない場合もあり、同じ有効断面積比であっても、その有効断面積比を変える条件によっては、前提条件に適合しない場合もあり、発明の課題を解決できないものを含むことになる。
請求人は、拒絶理由の(B)に対して、P2(ノズルにおける空気圧)とQ(空気流量)との積から評価される仕事量が一定であることが前提であるから、配管径を一定にして、ノズル径を減少させる場合は、あり得ない旨を主張するが、本願の特許請求の範囲の請求項1、2には、そのような前提を示す事項は何ら特定されておらず、ノズルと供給配管の有効断面積比のみを特定するものであるから、請求人の主張は採用できない。

このように、ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を小さく(図3によれば、有効断面積比(S2/S1)を大きく)しても、イニシャルコストが大きくならない場合もあることから、本発明の課題の前提の条件に反するこれらの場合も含めて単に有効断面積比を特定して一般化することは、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

また、請求人は、拒絶理由の(C)に対して、意見書において、ランニングコストは、累積するコストの積算値ではなく、単位時間内におけるランニングコストと理解すべきである旨主張する。
しかし、請求人が平成16年11月12日付けの意見書の「〔4〕本願発明が特許されるべき理由 1記載不備について」において主張しているように、本願発明は、設備費(イニシャルコスト)とランニングコスト(空気消費量)のトータルコストが図3の合成した曲線として低いほうがよいとするものであって、一般に、このトータルコストとしては、長期間の使用を前提として求められるものであり、ランニングコストも当然使用時間を考慮した累積するコストの積算値すなわちトータルランニングコストとすべきである。
したがって、イニシャルコストは最初だけの固定的なコストであるのに対し、空気消費量等のランニングコストは使用するにつれて累積され増加していくコストであるから、イニシャルコストとランニングコストの両コストの割合は、使用時間の経過とともに、次第にイニシャルコストの割合が減少するように変化して行くものであり、それに伴いイニシャルコストとランニングコストの総和のトータルコストも時間の経過とともに変化して行くので、図3のように有効断面積比だけで決まるものではない。
たとえ、請求人の主張するように、ランニングコストを、単位時間内におけるランニングコストだとしても、これに合算するイニシャルコストも単位時間内におけるものに換算しなければならないから、イニシャルコストを「使用総時間/単位時間」で除算したものとすべきである。この場合、当然のことであるが、使用時間の経過とともに次第に単位時間当たりのイニシャルコストは低下するように変化することになる。
図3がいつの時点(ごく初期の時点か、数年経過時点か)のイニシャルコスト及びランニングコストをあらわしたものかも不明であり、イニシャルコスト及びランニングコストの各々の具体的な金額も不明であるが、その各金額の大きさ及び使用年数によっては、図3のトータルコストを示す合成曲線が有効断面積比(S2/S1)が2?4において、極小値をとるとは限らない。
このように、使用時間の経過によっても、トータルコストは変化するものであるから、トータルコストの最小値は、使用時間の条件と無関係に有効断面積比だけで決まるものではない。

また、拒絶理由の(E)に対して、請求人は、「このような複数の曲線によって示された事項の傾向を総合する場合に、その総合の目的に応じて、どの値にどのような重み付けをするかを判断して合成することは、一般に極めて常識的に行われていることである。」と主張する。
しかし、「イニシャルコスト」、「空気消費量」及び「圧力比」の各々に対する重み付けの度合いにより、「合成した曲線」は様々に変わるものであるが、各々に対しどのような重み付けするかについてはもちろんのこと、重み付けすることすら明細書及び図面には記載も示唆もないので、請求人の主張は採用できない。
例え、図3が重み付けしたものであるとしても、図3の合成曲線をどのような重み付けにより求めたものかは全く不明であり、各曲線の重み付けの仕方により、合成曲線は様々に変わるものであるから、重み付けの仕方を特定しなくとも、常に、図3のトータルコストを示す合成曲線が有効断面積比(S2/S1)が2?4において、極小値をとるとは限らない。
さらに、拒絶理由の(E)に対して、請求人は、「資料1の表について簡単に説明すると、そこに示すデータは、本願の図4に示す実施例の場合のものであって、請求人会社で製造販売しているところの仕様が異なる各種の二方弁(1)?(4)、上記二方弁に適合する各種の内径の配管用チューブ(1)?(4)、そのチューブに適合するサイズの各種管接手、及び表中に示すサイズのノズルを用いた場合について、設定圧(減圧弁の出口圧力)を0.3MPaとしてノズル圧力P2を求め他場合のものである。本願発明の実験例は、上述した装置におけるノズル径とそれに流す供給配管の有効断面積S2を種々変えることにより、審判請求理由に添付した参考図を作成すると共に、それらの製品の販売価格からイニシャルコストを、またそのノズルから単位時間に噴出させた空気量からランニングコストを求めたもので、図3はこの種の多数の実験例のデータを無次元化して一枚の表にまとめたものである。」とも主張する。
しかし、具体的なコストがどの程度であるか示してあれば、コストの大小を比較することが可能であるが、本願の明細書及び図面には、具体的なイニシャルコストとランニングコストが各々どの程度であるかも全く記載されていないし、平成21年3月23日付けの意見書の「資料1」にも具体的なコストは記載されていない。
したがって、前述のように、重み付けの仕方、時間の経過等によりトータルコスト(図3の合成曲線)が変わることを勘案すれば、具体的なコストを明示しない請求人の主張は採用できない。

以上のように、本願の請求項1に係る発明の「ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を、1:2.0ないし1:4.0とした」範囲内であれば、他の条件と無関係に課題を解決できると、当業者が認識できる程度に、発明の詳細な説明に具体例が開示されているとは認められない。

したがって、請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

そして、請求項2についても「供給配管の有効断面積S2」を「供給配管の合成有効断面積ST」としたものであるが、請求項1と同様の判断であり、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項1、2において、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


4.まとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しているとはいえないから、本願は同項に規定する要件を満たしているものではない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
このように、ノズルの有効断面積S1と上記供給配管の有効断面積S2との比を小さく(図3によれば、有効断面積比(S2/S1)を大きく)しても、イニシャルコストが大きくならない場合もあることから、本発明の課題の前提の条件に反するこれらの場合も含めて単に有効断面積比を特定して一般化することは、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
そして、請求項2についても「供給配管の有効断面積S2」を「供給配管の合成有効断面積ST」としたものであるが、請求項1と同様に、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項1、2において、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


4.まとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しているとはいえないから、本願は同項に規定する要件を満たしているものではない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願平8-271718
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 佐野 遵
長浜 義憲
発明の名称 圧縮空気のブロー装置  
代理人 林 直生樹  
代理人 後藤 正彦  
代理人 林 宏  

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