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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1208612
審判番号 不服2007-13239  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2009-12-10 
事件の表示 特願2002- 484「空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月15日出願公開、特開2003-200706〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年1月7日の出願であって、平成18年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月30日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年7月20日付けで前置報告がなされ、その後、当審において平成20年10月20日付けで審尋がなされ、同年12月5日に回答書が提出され、さらに当審において平成21年7月14日付けで補正の却下の決定(平成19年5月30日提出の手続補正書による補正に対するもの)がされるとともに拒絶理由が通知され、同年9月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明の認定
本願の請求項1?7に係る発明は、平成21年9月8日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)とジエン系エラストマーを配合してなる層(B)とを含む空気入りタイヤ用インナーライナーであって、
前記層(A)が電子線により架橋されていることを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー。」

3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が通知した平成21年7月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のとおりである。

「本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項1?11について
<引用刊行物>
刊行物1:特開2000-177307号公報
刊行物2:特開平1-314164号公報
刊行物3:特開平7-194651号公報
刊行物4:(略)
刊行物5:特開平10-324780号公報
刊行物6:(略)
刊行物7:(略)」

4.引用刊行物の記載事項
上記刊行物1?3及び5には、それぞれ以下の事項が記載されている。

<刊行物1>
(1a)「【請求項1】 リム(R)の外周に装着されるタイヤ本体(1)が、その内面(1f)とリム(R)との間に環状の空気室(C)を直接形成するようにしたチューブレスタイヤにおいて、
前記タイヤ本体(1)に、該本体(1)の内面(1f)を気密に覆うエチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層(S)を一体的に設けたことを特徴とする、チューブレスタイヤ。
【請求項2】 前記空気不透過層(S)及びタイヤ本体(1)間には、該タイヤ本体(1)の内面(1f)に接着されるエラストマー(E)と、そのエラストマー(E)及び該空気不透過層(S)間を接着する接着性樹脂(A)とを介在させたことを特徴とする、請求項1に記載のチューブレスタイヤ。」(特許請求の範囲)

(1b)「図7に示す第5実施例では、エチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層Sおよびタイヤ本体1の相互間に、該タイヤ本体1の内面1fに接着される層状のエラストマーEと、そのエラストマーE及び該空気不透過層S間を強固に接着する接着性樹脂Aとを介在させている。前記接着性樹脂Aとして本実施例では、ポリオレフィンに特殊な官能基を導入して強力な接着性を得た接着性ポリオレフィン(三井化学社製,商品名アドマー)が用いられ、また前記エラストマーEとして本実施例では前記接着製樹脂Aにより接着可能な熱可塑性樹脂、例えばオレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学社製,商品名ミラストマー)が用いられる。
タイヤ本体1の製造工程においては、例えばフィルム状に形成した空気不透過層Sの一面に前記接着性樹脂Aを介して前記エラストマーEの一面を接着した後に、そのエラストマーEの他面をタイヤ本体内面1fに接着することにより、該空気不透過層Sがタイヤ本体1に接合される。
而してこの第5実施例によれば、エチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層Sは、これをタイヤ本体内面1fに直接接着するのではなくて、該空気不透過層Sに上記接着性樹脂Aを以て強固に接着されたエラストマーEを介して接着されるため、該空気不透過層Sをタイヤ本体内面1fに直接接着する場合と比べ、タイヤ本体内面1fに対する接着性が高められ、該内面1fより剥がれにくくなる。」(段落【0022】?【0024】)

(1c)「

」(図7)

<刊行物2>
(2a)「1.気体透過度の低い気体遮断フィルムを含む、空気入り物品用の気体遮断構造物であって、このとき前記気体遮断フィルムが2つの弾性表面層の間に積層されて結合されていて、23℃において0.05×10^(-10)cc-cm/cm^(2)-cmHg-sec以下の空気透過度を有する非弾性重合体層であることを特徴とする前記気体遮断構造物。
7.前記気体遮断フィルムがエチレンとビニルアルコールとの共重合体(EVOH)であることをさらに特徴とする、請求項1又は2に記載の空気入り物品用気体遮断構造物。
10.スチレン-イソプレン熱可塑性エラストマーもしくはスチレン-ブタジエン熱可塑性エラストマー又はこのいずれかの水素化物と無水マレイン酸-グラフト化ポリプロピレンとのブレンドからなるつなぎ層が、前記気体遮断フィルムと前記弾性表面層のそれぞれの層との間に積層されて結合されていることをさらに特徴とする、請求項7、8、又は9に記載の空気入り物品用気体遮断構造物。
11.前記弾性表面層が熱可塑性エラストマー又は熱可塑性エラストマーと他の合成エラストマーもしくは天然エラストマーとのブレンドから構成されていることをさらに特徴とする、請求項1?10のいずれかに記載の空気入り物品用気体遮断構造物。
12.前記弾性表面層がスチレンブロック共重合体熱可塑性エラストマーを含むことをさらに特徴とする、請求項11記載の空気入り物品用気体遮断構造物。
14.前記弾性表面層中に加硫剤が組み込まれることをさらに特徴とする、請求項1?13のいずれかに記載の空気入り物品用気体遮断構造物。
15.空気入り物品用気体遮断構造物が、弾性表面層のうちの1つがタイヤのもう1つの弾性層に結合されている加硫したチューブなしの空気入り車両用タイヤのインナーライナーであることをさらに特徴とする、請求項14記載の空気入り物品用気体遮断構造物。」(特許請求の範囲の請求項1、7、10?12、14、15)

(2b)「積層体のゴム表面層に使用する物質は、適切に配合作製された熱可塑性エラストマーも含めて、従来のいかなるエラストマーでもよい。異なる組成のゴム層を遮断層の両面に施すこともでき、むしろこうした方が望ましいことさえある。この理由としては、経済性、有効性、製造し易さ、又は他の機能要件に対する適合性などが挙げられる。タイヤインナーライナーの場合、外側ゴム表面層の組成は、遮断層だけでなくカーカスのインナーライナーに対しても強力な接着力を与えるよう選定しなければならない。
ゴム表面層には熱可塑性エラストマー(TPE)を使用することができる。TPEは、SBR又はブチルゴムや天然ゴムのような従来のエラストマーより薄手フィルムの形に押出し易い。しかしながら、従来のエラストマーの方がカレンダーによる圧延が容易である。タイヤインナーライナーの場合、タイヤのカーカス層及び遮断物質に必要な接着力を与えるTPE又は従来のエラストマー又はこの両方のブレンドを使用して、表面層を作製することができる。有用なTPEの例としては、シェル・ケミカル社から“クラトン(Kraton)”の商標で販売されているスチレンブロック共重合体TPE、モンサント社から“サントプレン(Santoprene)”の商標で販売されているポリオレフィンTPE、及びデュポン社から“ハイトレル(Hytrel)”の商標で販売されているポリエステルTPEなどが挙げられる。」(第5頁左下欄第4行?右下欄第10行)

(2c)「 実施例2
A-C-A構造の3層積層シートからなる、本発明によるライナーを作製した。
層Aは以下の各成分を含有した表面層である。

ブロック共重合体TPE^(1) 100.0部
ステアリン酸 1.5部
エイジ・ライト・レジンD 1.0部
酸化亜鉛 1.5部
カーボンブラック 25.0部
ピッコペイル100樹脂 15.0部
フェノール樹脂,熱反応性^(2) 5.0部
フェノール樹脂,非熱反応性^(3) 3.0部
サントキュアー 0.3部
スルファサンR 4.0部
イオウ 0.3部
^(1.)クラトン1117
^(2.)シェネクタディ・ケミカルズ社のシェネクタディ SP-1045
^(3.)シェネクタディ・ケミカルズ社のシェネクタディ SP-1077

バンバリー・ミキサー、2本ロールミル、及び他の補助装置を使用し、ゴム工業に標準的な方法に従って混合物を配合・作製した。
層C(遮断層)は、押出グレードのエチレン-ビニルアルコール(EVOH)共重合体樹脂(クラレCo.,Ltd.のEVAL-G)を、EVOH樹脂の重量を基準として4%のエチレングリコールでさらに変性して加工性を改良したものである。
3層フィードブロックを通して、別々の押出機からこれら2種の構成成分を同時押出した。構成成分Aを2つの流れに分けて、遮断層Cを挟み込んだ形の表面層を形成させた。その後、独立性を維持しつつ各層を一体にまとめ、所望のダイギャップ・クリアランスにて設定された通常のダイを通して押し出した。層の厚さは、個々の押出機の押出量を調節することによって制御した。得られた層の厚さは、A,C,及びAに対してそれぞれ0.229,0.025,及び0.229mm(9,1,及び9ミル)であった。
本シートは優れた空気遮断特性を有することが見出された。本シートの空気透過量は65.5℃において1日大気当たり49.6cc/m^(2)であり、プレミアムグレードの市販インナーライナー〔厚さ0.140mm(55ミル)のハロブチルゴム〕の1日当たり210.8cc/m^(2)よりかなり低い。本シートのサンプルを伸び率150%まで伸張した。これは、タイヤ製造プロセス又はタイヤ使用期間中においてインナーライナーが耐えるべき伸び率をはるかに凌ぐ値である。応力を取り除くと、本シートは実質的にその初期寸法に戻った。空気透過量は65.5℃において1日大気当たり57.4cc/m^(2)であることが判明し、従って本発明の物質をタイヤインナーライナーとして使用すると、優れた空気遮断特性が確実に得られることを示している。
実施例3
A-C-A構造の3層積層シートからなる、実施例2の場合と類似のインナーライナーを作製した。層Aは表面層であり、以下のような成分を含有している。

ブロック共重合体 TPE^((1)) 100.0部
ステアリン酸 1.5部
エイジ・ライト・レジンD 1.0部
酸化亜鉛 1.5部
カーボンブラック 35.0部
ピッコペイル100樹脂 15.0部
フェノール樹脂,熱反応性^((2)) 5.0部
フェノール樹脂,非熱反応性^((3)) 3.0部
サントキュアー 0.3部
スルファサンR 3.0部
イオウ 0.3部
^((1))クラトン1117
^((2))シェネクタディ SP-1045
^((3))シェネクタディ SP-1077

前述したような標準的方法に従って、混合物を配合・作製した。
層C(遮断層)には、エチレン-ビニルアルコール(EVOH)共重合体樹脂(クラレCo.のEVAL-E)の厚さ0.8ミルの押出フィルムを使用した。
3-ロール・カレンダーで層Aを圧延して約12ミルの厚さにし、層Cの両面にこれを積層してA-C-A配列の3層積層シートを得た。
厚さ25ミルのシートの空気透過量は65.5℃において1日大気当たり51.3cc/m^(2)であり、この値は55ミル厚さのプレミアムグレードのハロブチルゴムインナーライナーに対する空気透過量(同一試験条件にて1日大気当たり210.8cc/m^(2))のわずか1/4である。13インチのチューブなしタイヤ用のハロブチルインナーライナーの重量は2.02ポンドであり、一方本発明による同サイズのインナーライナーの重量のわずか0.73ポンドであって、重量が63.8%減少していることを示している。
本シートは、従来より使用されている13インチのチューブなし乗用車用タイヤのインナーライナーの代わりに直接使用することができた。得られたタイヤは、45psiの初期圧力の99%を2週間の試験期間にわたって保持することによって、標準空気圧保持試験に合格した。」(第7頁左下欄第11行?第8頁左下欄第14行)

<刊行物3>
(3a)「クラトン1117は65%のカップリング効率および17%のスチレンを有する商業的に入手可能な熱可塑性ゴムである。クラトン1117はShell 社により販売されるポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン熱可塑性エラストマーであり、約35部のA-Bおよび約65部のA-B-Aを含有すると思われる。」(段落【0031】)

<刊行物5>
(5a)「本発明に従ったエラストマー組成物に配合される電子線架橋型熱可塑性樹脂は、電子線を照射したときに架橋する特性を有する熱可塑性樹脂を用いることができ、これには、単独で電子線照射により架橋するタイプの熱可塑性樹脂と、そのまゝ空気中で電子線を照射すると崩壊するが、アクリル基やアリル基などをもつものを架橋助剤(例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルシアヌレート等)として用いると空気中で照射しても架橋するタイプの熱可塑性樹脂の両者がある。
前者のタイプの熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルクロライド、ポリ酢酸ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエステルなどが含まれ、また、後者のタイプの熱可塑性樹脂には、例えば、ポリアミド、ポリ塩化ビニルなどが含まれる。」(段落【0007】?【0008】)

5.対比
5-1.刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1の摘示(1a)の請求項1からみて、刊行物1には、「リム(R)の外周に装着されるタイヤ本体(1)が、その内面(1f)とリム(R)との間に環状の空気室(C)を直接形成するようにしたチューブレスタイヤ本体(1)に一体的に設けられ、該本体(1)の内面(1f)を気密に覆うエチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層(S)」が記載されている。
さらに、同摘示(1a)の請求項2及び同摘示(1c)の図7には、「空気不透過層(S)及びタイヤ本体(1)間には、該タイヤ本体(1)の内面(1f)に接着されるエラストマー(E)と、そのエラストマー(E)及び該空気不透過層(S)間を接着する接着性樹脂(A)とを介在させた」ことが記載されており、「空気不透過層(S)」と、「エラストマー(E)」と、「接着性樹脂(A)」とからなるものが積層体であると認められる。
してみると、刊行物1には、「リム(R)の外周に装着されるタイヤ本体(1)が、その内面(1f)とリム(R)との間に環状の空気室(C)を直接形成するようにしたチューブレスタイヤ本体(1)に一体的に設けられ、該本体(1)の内面(1f)を気密に覆うエチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層(S)と、空気不透過層(S)及びタイヤ本体(1)間に介在させた、該タイヤ本体(1)の内面(1f)に接着されるエラストマー(E)と、そのエラストマー(E)及び該空気不透過層(S)間を接着する接着性樹脂(A)とからなる積層体」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

5-2.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エチレン・ビニールアルコール共重合体よりなる空気不透過層(S)」及び「空気不透過層(S)及びタイヤ本体(1)間に介在させた、該タイヤ本体(1)の内面(1f)に接着されるエラストマー(E)」は、本願発明における「ポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)」及び「エラストマーを配合してなる層(B)」にそれぞれ相当するものと認められる。
ここで、引用発明に係る「積層体」は、「リム(R)の外周に装着されるタイヤ本体(1)が、その内面(1f)とリム(R)との間に環状の空気室(C)を直接形成するようにしたチューブレスタイヤ本体(1)に一体的に設けられ」るものであることから、本願発明における「空気入りタイヤ用インナーライナー」に相当するものと認められる。
してみると、本願発明と引用発明とは、「ポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)とエラストマーを配合してなる層(B)とを含む空気入りタイヤ用インナーライナー」である点で一致しているが、以下の点において相違している。

<相違点1>
層(B)のエラストマーについて、本願発明は、「ジエン系エラストマー」と規定するのに対し、引用発明は、かかる規定がなされていない点

<相違点2>
層(A)について、本願発明は、「電子線により架橋されている」と規定するのに対し、引用発明は、かかる規定がなされていない点

6.判断
上記各相違点について、以下に検討する。

6-1.相違点1についての検討
刊行物2の摘示(2a)の請求項1、7及び15には、 タイヤのインナーライナーにおける気体遮断フィルムとしてのエチレンとビニルアルコールとの共重合体(EVOH)を、弾性表面層と積層することが記載されている。
ここで、同摘示(2b)には、弾性表面層としては、SBR又は天然ゴム(本願発明における「ジエン系エラストマー」に相当)のような従来のいかなるエラストマーでもよいこと、並びにカーカスのインナーライナーに対して強力な接着力を与えるように選定することが記載されている。
また、同摘示(2a)の請求項11及び12には、弾性表面層として、スチレンブロック共重合体熱可塑性エラストマーを用いることも記載され、具体的には、同摘示(2c)の実施例2及び3において、クラトン1117を用いることが記載されているところ、例えば、刊行物3の摘示(3a)に記載のように、クラトン1117は、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン熱可塑性エラストマー(本願発明における「ジエン系エラストマー」に相当)とされているものである。
してみると、引用発明におけるエラストマーは、刊行物1の摘示(1b)に記載のように、タイヤ本体内面に対する接着性を高めるものであるところ、当該エラストマーとして、「ジエン系エラストマー」を用いることは、刊行物2及び3の記載から、当業者が適宜選択し得ることであり、その選択を阻害する特段の要因は認められない。
そして、インナーライナーのエラストマーとして「ジエン系エラストマー」を用いることにより、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

6-2.相違点2についての検討
例えば、刊行物5の摘示(5a)に記載されているように、電子線照射を施して架橋させる電子線架橋型熱可塑性樹脂として、ポリビニルアルコールは周知のものである。
ここで、引用発明におけるエチレン・ビニールアルコール共重合体は、ポリビニルアルコールと同様に(-CH_(2)CH(OH)-)の繰り返し単位を有することから、ポリビニルアルコールと同様に電子線照射により架橋できるものであり、また、架橋によりポリマー同士を連結することにより、ポリマーの耐熱性や強度が向上することは明らかである。
してみると、タイヤのインナーライナーの耐熱性や強度を向上させることは、当該技術分野において当然に考慮される課題であるといえることから、引用発明において、空気不透過層であるエチレン・ビニールアルコール共重合体の耐熱性や強度を向上させるために、それ自体周知のものにすぎない電子線により架橋させてなるエチレン・ビニールアルコール共重合体を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、インナーライナーのポリビニルアルコール系重合体を「電子線により架橋」させたものとすることにより、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

この点について、請求人は、平成21年9月8日提出の意見書において、「刊行物5は、柔軟性を維持したまま、耐熱性及び耐久性を向上させることを目的として、エラストマー組成物中の電子線崩壊型エラストマーの割合を全ポリマー成分の20?85重量%としているため、ポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)(全ポリマー成分の100重量%がポリビニルアルコール系重合体)を電子線により架橋することは、刊行物5からも容易に想到できません。」と主張している。
しかしながら、刊行物5は、ポリビニルアルコールが電子線架橋型熱可塑性樹脂であることを例示するための文献であって、摘示(5a)の記載は、ポリビニルアルコール単独で、電子線照射により架橋することを示しているものである。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

6-3.まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1?3及び5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2002-484(P2002-484)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
小野寺 務
発明の名称 空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ  
代理人 冨田 和幸  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 憲司  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 興作  

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