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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B |
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管理番号 | 1208626 |
審判番号 | 不服2007-19801 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-17 |
確定日 | 2009-12-09 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第309677号「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月18日出願公開、特開平11-128400〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成9年10月24日の出願であって、平成18年12月11日付け拒絶理由に対して平成19年2月5日付けで手続補正がされたが、同年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月17日付けで拒絶査定不服審判請求がなされたものである。 第2 本願発明について 1 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年2月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「1層構造のゴルフボールまたは1層以上のコアと1層以上のカバーとを有する2層構造以上のゴルフボールにおいて、上記1層構造のゴルフボールまたは2層構造以上のゴルフボールのコアが、ムーニー粘度が40?65のポリブタジエン(A)とムーニー粘度が20?35のポリブタジエン(B)との混合比がポリブタジエン(A)/ポリブタジエン(B)の重量比で50/50?85/15の混合物からなるベースゴム100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?60重量部含有するゴム組成物の加硫成形体からなることを特徴とするゴルフボール。」 (本審決においては、ムーニー粘度の値については、「ML_(1+4 )(100℃)」の部分を省略して数値だけで示す。) 2 引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特許第2652502号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が図とともに記載されている。 ア 「【請求項1】 一層構造または外皮と一層以上の内核を有する二層構造以上のゴルフボールにおいて、一層構造のゴルフボール中または二層構造以上のゴルフボールの内核中に加硫ゴム粉末を含有させてなり、加硫ゴム粉末の硬度がその粉砕前においてJIS-C型硬度計で40?95であり、かつ一層構造のゴルフボールまたは二層構造以上のゴルフボールの内核の硬度がJIS-C型硬度計で50?90であることを特徴とするゴルフボール。」 (【特許請求の範囲】)(下線は審決において付した。以下同じ) イ 「【0018】そして、得られたゴム組成物を140?200℃で8?60分間、好ましくは150?175℃で10?40分間プレス加硫するか、またはガンマ線などによる放射線架橋を行うことによって、加硫ゴムを作製し、その加硫ゴムを粉砕することによって目的とする加硫ゴム粉末が得られる。 【0019】粉砕前の加硫ゴムの形状は問わないが、通常の粉砕機にかかる程度の大きさのもの、または粉砕機にかかる形状に切断したものであればよい。粉砕後の加硫ゴム粉末の粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、1000μm以下にしておくことが好ましく、その下限は何ら限定されるものではないが、通常0.1μm程度のものも含まれている。 【0020】加硫ゴムの粉砕方法は、どのような方法によってもよいが、好ましくは常温で1?3mm程度のチップ状にし、その後、冷凍して(たとえば、液体窒素、液体酸素、ドライアイスなどにより冷却する)粉砕すると、より細かい加硫ゴム粉末が得られ、混練時の分散性が向上する。 【0021】このようにして得られた加硫ゴム粉末は、一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物または外皮と一層以上の内核を有する二層構造以上のゴルフボールの内核作製用のゴム組成物に配合し、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどで混練りした後、金型に充填し、加硫成形することによって、一層構造のゴルフボールまたは内核を作製する。そして、二層構造以上のゴルフボールでは、上記内核の周囲にアイオノマー樹脂などを主材とする外皮を施してゴルフボールに仕上げる。 【0022】上記加硫ゴム粉末の配合量は、一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物または内核作製用のゴム組成物のゴム成分100重量部に対して1?35重量部、特に5?30重量部にするのが好ましい。加硫ゴム粉末の配合量が上記範囲より少ない場合は耐久性を向上させる効果が充分でなく、また加硫ゴム粉末の配合量が上記範囲より多くなると混練時の作業性が悪化する。 【0023】加硫ゴム粉末の配合にあたって、そのベースとなる一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物や内核作製用のゴム組成物は従来同様のものを用いることができる。 【0024】加硫ゴム粉末の配合は、そのベースとなる一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物や内核作製用のゴム組成物の調製時にそれらの配合材料と一緒に配合し混練して加硫ゴム粉末を含有した状態のゴム組成物としてもよいし、また一旦それら一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物や内核作製用のゴム組成物を調製しておいてから、それに加硫ゴム粉末を配合することも可能である。ただし、通常は前者のように行われる。 【0025】そして、この加硫ゴム粉末を配合したゴム組成物の加硫は、従来と同様の条件下で行えばよく、たとえば140?200℃で8?40分間、好ましくは150?180℃で10?25分間行われる。」 ウ 「【0026】 【実施例】つぎに、実施例をあげて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。 【0027】実施例1?3および比較例1 まず、実施例のゴルフボールに用いる加硫ゴム粉末を得るために、表1に示すゴム組成物を調製した。 【0028】 【表1】 ┌────────────────┬─────────────┐ │ 配合成分 │ 配合量(重量部) │ ├────────────────┼─────────────┤ │ポリブタジエンゴム ※1│ 100 │ │酸化亜鉛 │ 22 │ │メタクリル酸 │ 20 │ │老化防止剤 ※2│ 0.2 │ │炭酸カルシウム │ 5 │ │加硫開始剤 ※3│ 1.6 │ └────────────────┴─────────────┘ 【0029】(注)※1:日本合成ゴム(株)製、BR11(商品名) ※2:2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、大内新興化学工業(株)製、ノクラックNS-7(商品名) ※3:ジクミルパーオキサイド、日本油脂(株)製、パークミルD(商品名) 【0030】上記ゴム組成物の調製は10リットル容のニーダーで混練することによって行い、得られたゴム組成物をオープンロールにてシーティングした後、165℃で18分間プレス加硫して板状の加硫ゴムを作製した。得られた加硫ゴムの物性を表2に示す。 【0031】 【表2】 ┌──────────────────┬───────────┐ │ 物性項目 │ 物性値 │ ├──────────────────┼───────────┤ │硬度(JIS-C) ※4│ 70 │ │反撥弾性(%) ※5│ 74 │ │引張強度(kgf/cm2 ) ※6│ 150 │ └──────────────────┴───────────┘ 【0032】(注)※4:JIS-K6301のC型硬度計により測定した硬度である。 ※5:ダンロップトリプソメーター(Dunlop Tripsometer)により常温で測定した反撥弾性である。 ※6 JIS-K6301の3.の引張強度の測定方法に準じて測定した引張強度である。 【0033】つぎに、上記板状の加硫ゴムを粉砕機で1?3mmのチップ状に荒粉砕し、さらに冷凍してから粉砕して粒子径が800μm以下の粉末にした。 【0034】得られた加硫ゴム粉末を表3に示す配合量で配合したゴム組成物を調製し、該ゴム組成物を金型に充填し、165℃で20分間加硫して外径42.7mmの一層構造のゴルフボールを作製した。なお、表3中の各配合材料の配合量を示す数値は重量部によるものである。使用したポリブタジエンゴム、老化防止剤、加硫開始剤などは表1の場合と同様のものである。また、得られたゴルフボールの物性を表4に示す。 【0035】 【表3】 ┌────────────┬────┬────┬────┬────┐ │ │実施例1│実施例2│実施例3│比較例1│ ├────────────┼────┼────┼────┼────┤ │ポリブタジエンゴム │ 100│ 100│ 100│ 100│ │酸化亜鉛 │ 23│ 23│ 23│ 23│ │メタクリル酸 │ 20│ 20│ 20│ 20│ │老化防止剤 │ 0.5│ 0.5│ 0.5│ 0.5│ │加硫開始剤 │ 1.5│ 1.5│ 1.5│ 1.5│ │加硫ゴム粉末 │ 10│ 20│ 30│ 0│ └────────────┴────┴────┴────┴────┘ 【0036】 【表4】 ┌──────────┬────┬────┬────┬────┐ │ │実施例1│実施例2│実施例3│比較例1│ ├──────────┼────┼────┼────┼────┤ │重量(g) │ 45.6 │ 45.7 │ 45.8 │ 45.5 │ │コンプレッション※7│ 92 │ 93 │ 93 │ 92 │ │反撥係数 ※8│ 1.000 │ 1.003 │ 1.002 │ 1.000 │ │硬度(JIS-C) │ │ │ │ │ │(中心-表面) ※9│ 63-76 │ 60-76.5│ 60-76.5│ 67-75.5│ │耐久性 ※10│ 155 │ 144 │ 141 │ 100 │ └──────────┴────┴────┴────┴────┘ 【0037】(注)※7:PGA表示によるもので、ATTIエンジニアリングコーポレーション製の測定器による一定歪量に要する力、このコンプレッション値が大きいほどボールは硬い。 ※8:R&A(英国ゴルフ協会)にて初速を測定するエアーガンと同機種で投射体初速45m/秒にて測定した値を比較例1のボールの値を1.000とした指数で表示する。この反撥係数値が大きいほどボールの反撥弾性が大きく、飛行性能が優れていることを示す。 ※9:JIS-K6301のC型硬度計により測定した値であり、ゴルフボールの中心の硬度と表面の硬度を示す。 ※10:エアーガンにてボールを金属板に45m/sの速度にて衝撃させ、ボールが割れるまでの回数を比較例1のボールを100とした指数で表示する。この値が大きいほどボールの耐久性が優れている。 【0038】表3および表4より明らかなように、加硫ゴム粉末を配合した実施例1?3のゴルフボールは、加硫ゴム粉末を配合していない比較例1のゴルフボールに比べて、耐久性が優れていた。 【0039】また、飛行性能の評価基準となる反撥係数においても、実施例1?3のゴルフボールは比較例1のゴルフボールと同等またはそれ以上の値を有しており、またプロゴルファーを含む10人の実打テストにおいても、実施例1?3のゴルフボールは比較例1のゴルフボールと同等以上の打球感を有しているという評価であり、加硫ゴム粉末を含有させたことによる飛行性能の低下や打球感の低下は認められなかった。 【0040】実施例4?6および比較例2 前記実施例1?3で用いたものと同様の加硫ゴム粉末を表5に示す配合量で配合したゴム組成物を調製し、該ゴム組成物を金型に充填し、160℃で25分間加硫して外径38.5mmの内核を作製し、その内核にアイオノマー樹脂100重量部と酸化チタン2重量部との混合物からなる外皮材を被覆して外皮を形成することにより、外径42.7mmの二層構造のゴルフボールを作製した。 【0041】なお、表5中の各配合材料の配合量を示す数値は重量部によるものであり、また使用した配合材料はいずれも表3の場合と同様のものである。そして、外皮の形成にあたって使用したアイオノマー樹脂は三井デュポンポリケミカル社製のハイミラン1706とハイミラン1605との重量比50:50の混合物である。 【0042】 【表5】 ┌──────────┬────┬────┬────┬────┐ │ │実施例4│実施例5│実施例6│比較例2│ ├──────────┼────┼────┼────┼────┤ │ポリブタジエンゴム │ 100│ 100│ 100│ 100│ │酸化亜鉛 │ 20│ 20│ 20│ 20│ │アクリル酸亜鉛 │ 30│ 30│ 30│ 30│ │老化防止剤 │ 3│ 3│ 3│ 3│ │加硫開始剤 │ 4│ 4│ 4│ 4│ │加硫ゴム粉末 │ 5│ 10│ 20│ 0│ └──────────┴────┴────┴────┴────┘ 【0043】得られた二層構造のゴルフボールのボール物性を表6に示す。ボール物性の測定方法はいずれも表4に示した実施例1?3の場合と同様である。ただし、反撥係数は比較例2のゴルフボールを1.000とした指数で表示し、耐久性は比較例2のゴルフボールを100とした指数で表示する。また、硬度は内核の中心の硬度と表面の硬度を示す。 【0044】 【表6】 ┌────────┬─────┬─────┬─────┬─────┐ │ │実施例4 │実施例5 │実施例6 │比較例2 │ ├────────┼─────┼─────┼─────┼─────┤ │重量(g) │ 45.1│ 45.0│ 45.0│ 45.1│ │コンプレッション│ 88 │ 88 │ 89 │ 87 │ │反撥係数 │1.000│1.002│1.002│1.000│ │硬度(JIS-C)│59-82│61-82│62.5-│67-80│ │(中心-表面) │ │ │ 83│ │ │耐久性 │ 111 │ 123 │ 114 │ 100 │ └────────┴─────┴─────┴─────┴─────┘ 【0045】表5および表6より明らかなように、内核に加硫ゴム粉末を配合した実施例4?6のゴルフボールは、加硫ゴム粉末を配合していない比較例2のゴルフボールに比べて、耐久性が優れていた。 【0046】また、飛行性能の評価基準となる反撥係数においても、実施例4?6のゴルフボールは比較例2のゴルフボールと同等またはそれ以上の値を有しており、またプロゴルファーを含む10人の実打テストにおいても、実施例4?6のゴルフボールは比較例2のゴルフボールと同等以上の打球感を有しているという評価であり、加硫ゴム粉末を内核に含有させたことによる飛行性能の低下や打球感の低下は認められなかった。 【0047】 【発明の効果】以上説明したように、本発明では、一層構造のゴルフボール中または外皮と一層以上の内核を有する二層構造以上のゴルフボールの内核中に特定硬度の加硫ゴム粉末を含有させることに基づき、耐久性の優れたゴルフボールを提供することができた。」(段落【0026】ないし【047】) エ 上記ア?ウから、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。 「一層構造または外皮と一層以上の内核を有する二層構造以上のゴルフボールにおいて、上記一層構造中または二層構造以上のゴルフボールの内核中に加硫ゴム粉末を配合させてなり、前記内核作製用のゴム組成物をポリブタジエンからなるゴム成分100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?30重量部配合し、加硫して作製したゴルフボール。」(以下「引用発明」という。) (2)原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特公平6-80123号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のア?ウの事項が記載されている。 ア 「【請求項1】シス-1,4結合を少なくとも40%以上含有するポリブタジエンと、これを架橋できる不飽和カルボン酸及び/又はその塩と、無機質充填剤と、及び遊離基発生剤とを含有する架橋可能なソリッドゴルフボール用ゴム組成物において、ポリブタジエンとして、ニッケル系触媒及び/又はコバルト系触媒を用いて合成され、且つムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が70?100であるポリブタジエンに対し、・・・又はニッケル系触媒及び/又はコバルト系触媒を用いて合成され、且つムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が20?50であるポリブタジエン20?80重量部をブレンドし、ポリブタジエンの総量を100重量部としたものを用いたことを特徴とするソリッドゴルフボール用ゴム組成物。」(【特許請求の範囲】) イ「この点につき更に説明すると、本発明者らはソリッドゴルフボールの初速度改良効果を有すると共に、作業性にも優れたソリッドゴルフボール用ゴム組成物を得るべく鋭意検討を進めた結果、ニッケル系又はコバルト系触媒を用いて得られるポリブタジエンの中で、特にムーニー粘度が70?100であるポリブタジエン(A)をソリッドゴルフボール用ゴム組成物のゴム成分として用いると、ソリッドゴルフボール初速度改良効果が大きいことを知見した。しかしながら、このポリブタジエン(A)を含有するゴム組成物はロールでの混練り性や押出機等での作業性が悪く、実用に供し得ないものであった。このため、更に検討を進めた結果、・・・或いは前記ポリブタジエン(A)とニッケル系又はコバルト系触媒を用いて得られるムーニー粘度が20?50のポリブタジエン(C)とを特定割合で併用すると、ニッケル系又はコバルト系触媒を用いて得られたムーニー粘度が70?100のポリブタジエン(A)を単独に使用した際に見られる練り生地のまとまりの悪さに起因する混練やロールでの作業性の低下が避けられるようになること、特に上述したムーニー粘度が70?100のニッケル系又はコバルト系触媒によるポリブタジエン(A)は押出工程でのロール作業性が悪いため現行設備では使用することができないが、前記(A)と・・又は(C)とのポリブタジエンブレンドは現行設備がそのまま使用できると共に、作業性が改善されるため、生産性も極めて向上するものであること、そして(A)と・・又は(C)とのポリブタジエンブレンドを用いて作製されたソリッドゴルフボールは初速度改良効果が発揮され、ボールの飛距離が確実に増加することを知見し、本発明を完成するに至ったものである。 以下、本発明につき更に詳しく説明する。 本発明のソリッドゴルフボール用ゴム組成物は、ワンピースボールの形成又はツーピースボールやスリーピースボール等のソリッドコアの形成に用いるもので、シス-1,4結合を少なくとも40%以上含有するポリブタジエンと、これを架橋できる不飽和カルボン酸及び/又はその塩と、無機質充填剤と、遊離基発生剤とを含有する架橋可能なゴム組成物において、ポリブタジエンとして、(A)ニッケル系触媒及び/又はコバルト系触媒を用いて合成され、且つムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が70?100であるポリブタジエンと、・・・・・・又は(C)ニッケル系触媒及び/又はコバルト系触媒を用いて合成され、且つムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が20?50であるポリブタジエンとをブレンドしたものを使用するものである。」(3欄37行?4欄41行) ウ「ここで、(C)成分の使用量は(A)成分と(C)成分との合計量100重量部中(A)成分80?20重量部、(C)成分20?80重量部、特に(A)成分70?30重量部、(C)成分30?70重量部とすることが好ましい。(A)成分が20重量%より少ないとソリッドゴルフボールの反発性が十分でなく、初速度が増加せず、80重量部より多いと固くなり、混練り等の作業性が悪くなる。」(6欄46行?7欄2行) 3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「外皮」、「内核」、「ゴム成分」は、それぞれ本願発明の「カバー」、「コア」、「ベースゴム」に相当する。 (2)引用発明の「一層構造またはカバー(外皮)と一層以上のコア(内核)を有する二層構造以上のゴルフボール」は、「1層構造のゴルフボールまたはカバー(外皮)と1層以上のコア(内核)を有する2層構造以上のゴルフボール」を意味するものといえる。 したがって、引用発明の「一層構造またはカバー(外皮)と一層以上のコア(内核)を有する二層構造以上のゴルフボール」は、本願発明の「1層構造のゴルフボールまたは1層以上のコアと1層以上のカバーとを有する2層構造以上のゴルフボール」の層構造上の限りにおいて包含される。 (3)引用発明は「コア(内核)中に加硫ゴム粉末を配合させてなり、前記コア(内核)作製用のゴム組成物をポリブタジエンからなるベースゴム(ゴム成分)100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?30重量部配合し、加硫して作製したゴルフボール」であることから、引用発明は「ゴルフボールのコア(内核)が、ベースゴム(ゴム成分)100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?30重量部含有するゴム組成物の加硫成形体からなるゴルフボール」であるといえる。 (4)引用発明の「ゴルフボールのコア(内核)が、ベースゴム(ゴム成分)100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?30重量部含有するゴム組成物の加硫成形体からなるゴルフボール」は、本願発明の「ゴルフボールのコアが、ベースゴム100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?60重量部含有するゴム組成物の加硫成形体からなるゴルフボール」に包含される。 (5)したがって、本願発明と引用発明とは、「1層構造のゴルフボールまたは1層以上のコアと1層以上のカバーとを有する2層構造以上のゴルフボールにおいて、上記1層構造のゴルフボールまたは2層構造以上のゴルフボールのコアが、ポリブタジエンからなるベースゴム100重量部に対して、加硫ゴム粉末を5?60重量部含有するゴム組成物の加硫成形体からなるゴルフボール。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点: 本願発明では、ベースゴムが「ムーニー粘度が40?65のポリブタジエン(A)とムーニー粘度が20?35のポリブタジエン(B)との混合比がポリブタジエン(A)/ポリブタジエン(B)の重量比で50/50?85/15の混合物からなる」のに対し、引用発明ではそのような特定がされてない点。 4 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点について ア 引用例1には、上記「2(1)イ」に「【0020】加硫ゴムの粉砕方法は、どのような方法によってもよいが、好ましくは常温で1?3mm程度のチップ状にし、その後、冷凍して(たとえば、液体窒素、液体酸素、ドライアイスなどにより冷却する)粉砕すると、より細かい加硫ゴム粉末が得られ、混練時の分散性が向上する。」、「【0022】上記加硫ゴム粉末の配合量は、一層構造のゴルフボール作製用のゴム組成物または内核作製用のゴム組成物のゴム成分100重量部に対して1?35重量部、特に5?30重量部にするのが好ましい。加硫ゴム粉末の配合量が上記範囲より少ない場合は耐久性を向上させる効果が充分でなく、また加硫ゴム粉末の配合量が上記範囲より多くなると混練時の作業性が悪化する。」と記載されていることから、引用発明は加硫ゴム粉末を前記ゴム組成物に混練する際、混練時の分散性を向上させ、混練時の作業性が悪化しないようにするという技術課題を認識していたものと認められる。 また、引用例1には、「【0039】また、飛行性能の評価基準となる反撥係数においても、実施例1?3のゴルフボールは比較例1のゴルフボールと同等またはそれ以上の値を有しており、またプロゴルファーを含む10人の実打テストにおいても、実施例1?3のゴルフボールは比較例1のゴルフボールと同等以上の打球感を有しているという評価であり、加硫ゴム粉末を含有させたことによる飛行性能の低下や打球感の低下は認められなかった。」と記載されていることから、引用発明は、反発係数についても考慮しているものと認められる。 イ 加硫成形されることによりゴルフボールのコアとなるゴム組成物の主成分として使用されるポリブタジエンとしては、様々な値のムーニー粘度を有するものが本願出願前に広く知られており、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-268132号公報(特に実施例2及び実施例6参照。)や、特開平2-177973号公報(特に3頁左下欄10行?6頁左上欄7行参照。)、特開平6-190083号公報(特に段落【0002】,【0051】?【0054】参照。)に記載されているように、ムーニー粘度が40?65のポリブタジエンも、ムーニー粘度が20?35のポリブタジエンも使用されてきたものであると認められる。 ここで、加硫成形されることによりゴルフボールのコアとなるゴム組成物の主成分としてポリブタジエンを使用する際に、高ムーニー粘度を有するポリブタジエンと低ムーニー粘度を有するポリブタジエンとを適切な混合比で混合することにより、混練り等の作業性の低下を防止しつつコアの反発性を改善する技術は、例えば、引用例2(上記2(2)の摘記参照。)、特開平2-177973号公報(特に5頁右上欄8行?6頁左上欄7行参照。)、特開平6-190083号公報(特に特許請求の範囲及び段落【0005】参照。)等に記載されているように、ゴルフボールのコアの製造という技術分野において周知のもの(以下「周知技術」という。)であったと認められる。 ウ 引用発明は上記アに示したように、加硫ゴムとポリブタジエンの混練時の作業性が悪化しないようにするとともに、コアの反撥係数について考慮しているものであるから、これらの課題を解決するために、上記周知技術を参考にして、高ムーニー粘度のポリブタジエンと低ムーニー粘度のポリブタジエンとを適切な混合比で混合したものを採用するとともに、その際の高ムーニー粘度のポリブタジエン及び低ムーニー粘度のポリブタジエンを、従来使用されてきた種々のムーニー粘度を有するポリブタジエンの中から適切なものを使用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。 エ ここで、高ムーニー粘度のポリブタジエン及び低ムーニー粘度のポリブタジエンとして、本願発明ではそれぞれ「40?65」及び「20?35」のものを採用しているが、これらの数値範囲のムーニー粘度を有するポリブタジエンを使用することに関して、本願の発明の詳細な説明の段落【0019】には「本発明において、ベースゴムとなるポリブタジエンに関し、ポリブタジエン(A)のムーニー粘度が40?65であることを必要としているのは、ポリブタジエン(A)のムーニー粘度が40より低い場合は、ゴルフボールの反発性能が低下し、ポリブタジエン(A)のムーニー粘度が65より高い場合は、ベースゴムが硬くなりすぎて作業性が低下するためである。また、ポリブタジエン(B)のムーニー粘度が20?35であることを必要としているのは、ポリブタジエン(B)のムーニー粘度が20より低い場合は、ゴルフボールの反発性能が低下し、ポリブタジエン(B)のムーニー粘度が35より高い場合は、加硫ゴム粉末を充分に含有させることができなくなるからである。」と記載されている。 しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0028】?【0056】に示される実施例では、高ムーニー粘度のポリブタジエンとしてムーニー粘度が43.5のものと、低ムーニー粘度のポリブタジエンとしてムーニー粘度が27.5のものと、を使用した実施例のみしか開示されていないことから、ムーニー粘度に関する「40?65」及び「20?35」という数値範囲の臨界的意義は見いだすことができない。 よって、高ムーニー粘度を有するポリブタジエン及び低ムーニー粘度を有するポリブタジエンとして、実験的に、混練時の作業性が悪化しない好適なムーニー粘度のものを公知のポリブタジエンから選択することにより、ムーニー粘度が「40?65」及び「20?35」のポリブタジエンを採用することは、当業者が適宜なしえた設計事項である。 オ また、本願発明では、高ムーニー粘度のポリブタジエン及び低ムーニー粘度のポリブタジエンを「重量比で50/50?85/15」で混合したものを採用しているが、この数値範囲の重量比で混合することに関して、本願の発明の詳細な説明の段落【0018】に「ベースゴムとなるポリブタジエンは、上記のようにムーニー粘度が40?65のポリブタジエン(A)とムーニー粘度が20?35のポリブタジエン(B)との混合比がポリブタジエン(A)/ポリブタジエン(B)の重量比で40/60?90/10の混合物からなるが、ポリブタジエン(A)の割合が上記範囲より多い場合は、ムーニー粘度の低いポリブタジエン(B)の減少により、加硫ゴム粉末をゴム組成物中に充分に含有させることができなくなり、その結果、ソフトな打球感や耐久性の向上を得ることができなくなる。また、ポリブタジエン(A)が上記範囲より少ない場合は、ムーニー粘度の低いポリブタジエン(B)が増えすぎることになり、ベースゴムが軟らかくなりすぎて作業性が低下し、また反発性能が低下してボールの飛行性能が低下する。このポリブタジエン(A)とポリブタジエン(B)との混合比としては上記ポリブタジエン(A)/ポリブタジエン(B)の重量比で50/50?85/15が特に好ましい。」と記載されている。 しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0028】?【0056】に示される実施例では、高ムーニー粘度のポリブタジエンと低ムーニー粘度のポリブタジエンの重量比として、67/33又は83/17の2種類の比で混合した実施例のみしか開示されていないことから、高ムーニー粘度のポリブタジエンと低ムーニー粘度のポリブタジエンを混合する際の重量比についての「50/50?85/15」という数値範囲の臨界的意義は見いだすことができない。 よって、高ムーニー粘度を有するポリブタジエンと低ムーニー粘度を有するポリブタジエンを混合する際に、混練り等の作業性の低下を防止しつつコアの反発性を改善することを考慮して、実験的に好適な重量比の範囲を選択することにより、重量比で「50/50?85/15」の範囲のものとすることは、当業者が適宜なしえた設計事項である。 カ 上記のとおりであるから、上記相違点の構成は、引用発明及び周知技術から、当業者が容易に想到することができたものである。 (3) 効果について 本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。 (4) まとめ したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-10-08 |
結審通知日 | 2009-10-13 |
審決日 | 2009-10-27 |
出願番号 | 特願平9-309677 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 上田 正樹 |
発明の名称 | ゴルフボール |
代理人 | 三輪 鐵雄 |