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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1208889
審判番号 不服2008-12905  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-22 
確定日 2009-12-17 
事件の表示 特願2004- 15035「モータへのシールド付きリード線の接続構造」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日出願公開、特開2005-210837〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月23日の出願であって、平成20年4月15日に拒絶査定がなされ同年5月22日に審判請求がなされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成20年1月21日付手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「モータハウジングの全部または一部が導電性材料で構成されるとともに、モータへの電力供給用のシールド付きリード線を有し、上記シールド付きリード線は弾性体であるグロメットを通してモータ外部へ導出され、また上記グロメットは導電性材料からなる押さえ部材によって上記モータハウジングに固定される一方、上記シールド付きリード線から露出させたシールド線には導電性材料からなる筒状のスリーブが嵌着され、このスリーブが上記グロメットと上記押さえ部材との間に挟持され、上記シールド線が上記スリーブおよび上記押さえ部材を介してモータハウジングに電気的に導通されていることを特徴とするモータへのシールド付きリード線の接続構造。」

2.引用刊行物
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-178270号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固定子コイルと電気的に接続されたリード線を、電動機の外部に引き出すリード線引出し構造に関するものである。」
・「【0002】
【従来の技術】従来の電動機のリード線引出し構造は、図2に示すようになっている。……3aは磁気的ノイズを遮断するために設けられている前記リード線3のシールドで、リード線の外周部に折り返している。4は導電性のゴムブッシュで、リード穴4aに前記リード線3を通した状態で、前記リード線通し穴2の内周面に取り付けている。このとき前記リード線3のシールド3aは、前記ゴムブッシュ4のリード穴4aの内周面と接触し、これによりアース接続をしている。」
・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の電動機のリード線引出し構造においては、つぎのような問題があった。
(1)リード線3を、ゴムブッシュ4とシール材5の摩擦力だけで保持するので、保持力が弱く、万一、リード線3が何らかの力で引っ張られた場合、リード線3が電動機内部から引き出されるおそれがある。
(2)導電性のゴムブッシュ4は、電気的な抵抗値が高いので、リード線3と電動機の外枠1のアース接続が不安定である。」
・「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の実施例を示す電動機のリード線引出し構造の側断面図である。図において、6はリード線3の周囲にモールドした樹脂、7および8は、前記樹脂6を前記リード線3の長さ方向の両側から挟持した導電性のリング状のクランプ材である。前記クランプ材8は、シールド3aの位置と合致させて、内周面において、前記シールド3aと接触するようにしている。9は鍔部と円筒部からなるリング状のパッキンで、前記鍔部を前記クランプ材8と前記外枠1との間に介挿させ、前記円筒部を前記リード線3と外枠1との間に介挿している。10はボルトで、クランプ材7、8を押圧するように前記外枠1に締め付けている。このような構造において、リード線3は、外枠1のリード線通し穴2の位置における周囲に、樹脂6をモールドし、この樹脂6をクランプ材7、8で挟持し、かつこれらのクランプ材7、8を電動機の外枠1に締め付けているので、保持力が強く、万一、リード線3が何らかの力で引っ張られたとしても、リード線3が電動機内部から引き出されることはない。また、導電性のクランプ材7、8は、導電性のゴムブッシュ4よりも電気的な抵抗値が低いので、リード線3と電動機の外枠1のアース接続は安定する。さらに、前記樹脂6を前記クランプ材7、8で強固に挟持しているので、前記リード線3を伝ってきた水滴等は、クランプ材7、8と樹脂6との間から電動機内部に侵入することはできず、また、クランプ材7、8相互間から電動機内部に侵入することはできない。加えて、クランプ材7、8およびパッキン9を、リード線通し穴2を囲んで電動機の外枠1に押しつけているので、水滴等が、クランプ材8と外枠1との間から電動機内部に侵入することはない。なお、前記クランプ材8と前記外枠1とが密着が良好に行われる場合は、必ずしもパッキン9は設ける必要はない。」
・上記記載によれば、電動機の外枠1は導電性材料で構成されているといえる。

したがって、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「電動機の外枠1が導電性材料で構成されるとともに、固定子コイルと電気的に接続され磁気的ノイズを遮断するために設けられたシールド3a付きリード線3を有し、上記シールド3a付きリード線3はパッキン9を通して電動機外部へ引き出され、また上記パッキン9は導電性材料からなるクランプ材7及びクランプ材8によって上記電動機の外枠1に固定される一方、上記シールド3a付きリード線3からリード線の外周部に折り返しているシールド3aには導電性材料からなるクランプ材8の内周面が接触され、このクランプ材8が上記パッキン9と上記クランプ材7との間に挟持され、上記シールド3aが上記クランプ材7および上記クランプ材8を介して電動機の外枠1にアース接続されている電動機へのシールド3a付きリード線3の引出し構造。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「電動機の外枠1」は、前者の「モータハウジングの全部または一部」に相当し、以下同様に「固定子コイルと電気的に接続され磁気的ノイズを遮断するために設けられたシールド3a付きリード線3」及び「シールド3a付きリード線3」は「モータへの電力供給用のシールド付きリード線」及び「シールド付きリード線」に、それぞれ相当する。
また、後者の「パッキン9」と前者の「弾性体であるグロメット」及び「グロメット」とは「リード線導出部材」である点で共通する。
さらに、後者の「引き出され」る態様は前者の「導出され」る態様に相当し、後者の「クランプ材7」は前者の「押さえ部材」に相当し、以下同様に「電動機」は「モータ」に、「シールド3a」は「シールド線」に、「リード線の外周部に折り返している」態様は「露出させた」態様に、「クランプ材8」は「筒状のスリーブ」及び「スリーブ」に、「引出し構造」は「接続構造」に、「内周面が接触」される態様は「嵌着」される態様に、「アース接続」は「電気的に導通」に、それぞれ相当する。
したがって両者は、
[一致点]
「モータハウジングの全部または一部が導電性材料で構成されるとともに、モータへの電力供給用のシールド付きリード線を有し、上記シールド付きリード線はリード線導出部材を通してモータ外部へ導出され、また上記リード線導出部材は導電性材料からなる押さえ部材によって上記モータハウジングに固定される一方、上記シールド付きリード線から露出させたシールド線には導電性材料からなる筒状のスリーブが嵌着され、このスリーブが上記リード線導出部材と上記押さえ部材との間に挟持され、上記シールド線が上記スリーブおよび上記押さえ部材を介してモータハウジングに電気的に導通されているモータへのシールド付きリード線の接続構造。」で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]「リード線導出部材」に関して、本願発明が「弾性体であるグロメット」及び「グロメット」としているのに対して引用発明では「パッキン9」である点。
[相違点2]
リード線導出部材のモータハウジングへの固定手段に関して本願発明が導電性材料からなる「押さえ部材によって」固定されるのに対し、引用発明は導電性材料からなる「クランプ材7及びクランプ材8によって」固定される点。

4.相違点に対する判断
相違点1について
まず、弾性体であるグロメットの意味について検討する。マグローヒル科学技術用語大辞典第2版(株式会社日刊工業新聞社、昭和60年3月25日発行、433頁)には、「グロメット grommet [工学]1.座金やはとめ.2.パッキン材料に含まれている短繊維.ボルトやナットの下に使用してゆるみ止めに使用する.」と記載されている。
これらのことと、本願発明の実施例におけるグロメット34の形状から、弾性体であるグロメットとは、筐体に開けた貫通孔の縁を取り巻いて設けられる弾性体、と解するのが相当である。
これに対して、引用例におけるパッキン9は、電動機の外枠1に開けたリード線通し穴2の縁を取り巻いて設けられ、電動機の外枠1とクランプ材8とに挟持されることによって両者間の水滴等の漏れを防いでいることから弾性を有するものと認めることができる。
また、リード線通し穴2の縁とリード線との間にパッキン9の円筒部が挿入されていることから、リード線を保護するというグロメットの作用も奏し得るものである。

そうすると、引用発明において、「パッキン9」を「弾性体であるグロメット」とすることで相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

相違点2について
本願発明において、グロメットは図5に記載されているように引用発明のクランプ材8に相当する導電性スリーブのフランジ部41aを介して引用発明のクランプ材7に相当する押さえ部材によりモータケースに固定されており、したがって、この点は実質的な相違ではない。

なお請求人は、平成20年6月20日付手続補正書の審判請求の理由において、引用刊行物に記載された「樹脂6」が本願発明のグロメット34に対応するものとして相違を主張しているが、本願発明において「グロメット」は、「シールド付きリード線」を「リード線導出部材を通してモータ外部へ導出」するものであるとともに、「導電性材料からなる押さえ部材によってモータハウジングに固定され」る一方、シールド付きリード線から露出させたシールド線には導電性材料からなる筒状のスリーブが嵌着され、「このスリーブが上記グロメットと上記押さえ部材との間に挟持され」るものである。
そして、引用刊行物に記載された「樹脂6」は「リード線3が何らかの力で引っ張られた場合、リード線3が電動機内部から引き出される」ことを防止するものであってリード線3を電動機(モータ)外部に導出するものではないので、上記3.のとおり、本願発明の「グロメット」に相当するのは、引用発明においてリード線3を電動機外部へ引き出す(導出する)とともに導電性材料からなるクランプ材7及びクランプ材8によって上記電動機の外枠1に固定される一方、シールド3aに内周面が接触する導電性のクランプ材8をクランプ材7との間に挟持する「パッキン9」であるというべきである。
そしてこの点は,原査定の拒絶理由通知書(平成19年11月20日付)において「引用文献1には、……電力供給用のシールド3a付きリード線は導電性のクランプ材8が嵌着され、クランプ材8がクランプ材7とパッキン9との間に挟持され、シールド3aがクランプ材8とパッキン9を介して電動機の外枠1にアース接続されている電動機へのシールド3a付きリード線の接続方法」が記載されている(参照 引用文献1 段落【0001】、【0005】、図1)。」と指摘して「パッキン9」を本願発明のグロメットに対応させているとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

また、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明から予測し得る程度のものと認められる。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-13 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-04 
出願番号 特願2004-15035(P2004-15035)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 槙原 進
仁木 浩
発明の名称 モータへのシールド付きリード線の接続構造  
代理人 村上 啓吾  
代理人 竹中 岑生  
代理人 大岩 増雄  
代理人 児玉 俊英  

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