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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1208952
審判番号 不服2008-9004  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 特願2003-129522「電子写真感光体用基体の洗浄方法及び洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-295062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1. 手続の経緯
本願は、平成15年5月7日(優先権主張、平成14年5月10日、平成14年9月9日、平成15年2月10日)の出願であって、平成20年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年4月10日に査定不服の審判請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
さらに、平成20年11月17日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成21年4月1日付けで審尋がなされたところ、審判請求人から平成21年6月8日付けで回答書が提出されたものである。
そして、平成20年4月10日付けの手続補正は、特許請求の範囲において、旧請求項6?旧請求項10を削除するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

本願の請求項1?請求項5に係る発明は(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明5」という。)、平成20年4月10日付け手続補正書により補正された本願明細書の、特許請求の範囲の請求項1?請求項5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 少なくとも基体の(A)脱脂洗浄工程と、(B)濯ぎ工程、(C)乾燥工程、からなる電子写真感光体用基体の洗浄方法であって、(A)脱脂洗浄工程で使用する洗浄液が20?90℃のアルカリイオン水であり、(C)乾燥工程で60℃以上95℃以下の温純水を用い、該温純水の比抵抗が1MΩ・cm以下であることを特徴とする電子写真感光体用基体の洗浄方法。
【請求項2】 前記(A)脱脂洗浄工程で洗浄効果を向上させる外力を印加することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体用基体の洗浄方法。
【請求項3】 前記外力が、超音波、ブラシを単独あるいは組み合わせたものであることを特徴とする請求項2に記載の電子写真感光体用基体の洗浄方法。
【請求項4】 前記アルカリイオン水に浸漬させている際に基体を揺動させることを特徴とする請求項2又は3に記載の電子写真感光体用基体の洗浄方法。
【請求項5】 (C)乾燥工程において、加熱した純水中に基体を浸漬させ、素管が純水温度まで加熱された後に、引上げ速度3?20mm/秒で基体を引き上げることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体用基体の洗浄方法。」


2. 原査定において引用された刊行物
(1) 刊行物1
原査定における拒絶の理由に引用文献2として引用された、特開2000-225381号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(1a) 「【請求項1】 電子写真感光体用基体面を洗浄するに際して、前記基体を界面活性剤を含有するアルカリ水溶液洗浄槽に浸漬処理させた後、更に逆浸透膜処理水を用いて濯ぎ槽、水洗槽及び温水槽中に順に浸漬処理させ、且つ前記アルカリ水溶液洗浄槽での洗浄を、前記アルカリ水溶液中の固形分濃度1?6重量%下で浸漬処理させることを特徴とする電子写真感光体用基体の洗浄方法。」
(1b) 「【0003】このような感光体の性能・品質は、その積層物がその支持体である導電性基体面に、均一な塗膜として、密着形成されていることが重要である。そこで、感光体に使用される導電性基体は、通常、機械的な工程で製造されるためその製造過程で、切削油、微細な金属の切粉、錆、ゴミ・埃等の微細な異物が多く付着しているために、これらを除去して十分清浄な面にしない限り、密着性及び均一性に優れた感光層を形成させることはできない。不十分な清浄度の基体を用いて感光層を形成させると、密着不良、形成膜の不均一性等による欠陥を感光層に生じ、形成される画像に画像欠陥(黒ポチ、白ポチ、画像ムラ)を発生させて画像品質を著しく損ねる。また、感光体にクリーニング不良を生じさせたりして、このような電子写真感光体は、とても実用に供せられるものではない。」
(1c) 「【0006】このような状況下に、界面活性剤含有の水溶液系による洗浄が種々提案され、その中でも、比較的に脱脂力に優れている界面活性剤を含有するアルカリ性水溶液を洗浄剤とする洗浄方法が多用されるようになっている。例えば、特開平1-130160号、特開平3-257456号及び特開平9-6031号等の公報には、アルカリ洗浄液とスポンジや、ブラシ等の各種の摺擦部材とを併用した洗浄方法が記載されている。また、特開平5-158257号、特開平5-61215号及び特開平6-118663号及び特開平6-175374号等の公報には、界面活性剤含有の水溶液に超音波による衝撃外力を併用する洗浄方法が記載されている。また、特開平5-281758号公報には、PH5以下の水溶液洗浄剤による洗浄方法が、また特開平6-3831号公報には、PH7?9なる水溶液系洗浄液におる洗浄方法がそれぞれ記載されている。また、特開平4-320268号及び特開平6-59463号公報には、10μm/cm以下のミクロン低電気電導度水で洗浄する方法が記載されている。さらに、特開平5-127396号公報には、界面活性剤含有水中での浸漬洗浄後、濯ぎ処理に続いて、温度35?90℃の純水に浸漬させることからなる洗浄方法が記載されている。」
(1d) 「【0012】このように本発明によれば、図1の洗浄装置の概略図に示す如く、支持具35に保持された感光体用基体34は、昇降機36及びスライド装置37を駆動させることにより上述した本発明の洗浄方法に基づいて、アルカリ水溶液洗浄槽1-濯ぎ槽20-水洗槽12-温水槽26の順に、移動・浸漬・引き上げ操作を繰り返されて、浸漬洗浄されて、基体面が清浄化される。そこで、上記アルカリ水溶液洗浄槽1には、界面活性剤を含有するアルカリ水溶液洗浄液が供給ポンプ6により貯蔵槽4のアルカリ水溶液洗浄液及びこの洗浄槽1からオーバフローするアルカリ水溶液洗浄液をフィールター7を通して供給される。ここで、洗浄処理中は液面レベルセンサー3によりアルカリ水溶液洗浄槽1の液面は常に所定のレベルにコントロールされている。
【0013】また、濯ぎ槽20には、水洗槽12からオーバフローする逆浸透膜処理水が両槽の液面段差(両槽の液面位置エネルギーの落差)によって傾斜パイプ18を通して供給され、また、水洗槽12には、水道水41を逆浸透膜13で処理された新鮮な逆浸透膜処理水がポンプ38によって供給される。また、温水槽26には、同様に逆浸透膜13で処理された新鮮な逆浸透膜処理水が、所定の温度に加温されてポンプ29によって温水槽26に供給されている。さらに、この温水槽26にはヒーター24が設けられている。また、温水槽26に付属させて設けられているポンプ29は、パイプ28を介して吸い上げた温水を温水槽26へ供給すると共に、温水槽26に連通しているパイプ39を介して温水槽26の温水を、この浸漬処理中に循環させることができるものである。このようにして浸漬洗浄された感光体用基体34は、次いで、熱風槽32に移動されて、熱風乾燥に処される。」
(1e) 「【0014】以上から、上述した本発明による洗浄方法及びその洗浄装置を用いることにより、特に製造直後で、基体面に切削油、微細な金属の切粉、錆、ゴミ・埃等の微細な異物が多く付着している感光体基体であっても、後述する実施例1(表1を参照)の事実から明らかなように、高度に基体は清浄化されて、しかも、乾燥ムラ・乾燥シミもなく、得られた基体を用いたその感光体は、塗膜欠陥がなく、また、得られる画像には黒斑点、白斑点、ハーフトーン画像のムラ等を発生することなく、極めて良好であることが分かる。また、本発明によれば、特に、従来のように超音波や、洗浄液の高圧ジェット吹きつけ等の衝撃外力、また、摺擦処理等を必要とせず、良好な作業環境下で、容易且つ単純な処理で、しかも、低コストで高度に清浄化させる有機感光体用基体の洗浄方法及びそれに用いる洗浄装置を提供することができる。」
(1f) 「【0028】次いで、上記のように濯ぎ槽20-水洗槽12での浸漬洗浄後、本発明において、この基体を温水槽26に浸漬させるに、好ましくは、40?90℃、より好ましくは、50?80℃の逆浸透膜処理温水であることが好適である。さらに、使用する逆浸透膜処理温水の電導率は、本発明の浸漬洗浄において、最後の仕上げの洗浄であることから、好ましくは、可能な限り、低電導率水であることがよく、本発明においては、少なくとも11μS/cm以上であれば好適である。また、この温水浸漬の処理時間は、特に、その基体を用いた感光体の電気特性から、上記の条件を満たす範囲において、5分以上であれば好適である。」
(1g) 「【0030】従って、本発明において、このように洗浄槽-濯ぎ槽-水洗槽-温水槽での浸漬洗浄で、十分に清浄化された基体を乾燥させるに当たり、特に、基体に乾燥後、残留熱歪みを起こさせないことから、乾燥温度をむやみに高くすることができない。そこで、本発明において、好ましくは、温度45?99℃、より好ましくは、90℃以下であって、しかも、可能な限り、乾燥時間を短くして、例えば、清浄面に空気中の埃、塵等の付着を極力避けることからも、短時間で乾燥させることが好適である。ところが、本発明では、上記するように浸漬洗浄の最後が、温水槽であることが幸いして、乾燥系に基体を移す前に、基体は予め余熱されており、少なくとも40?90℃の温度範囲にあり、乾燥を上記する温度範囲でも、後述する表12に示す事実からも明らかなように、比較的に短時間で乾燥され、その時間は、好ましくは、60秒以下でよいことが分かる。また、本発明において、このような乾燥方法としては、特に限定されないが、比較的に低温度でも乾燥効率に優れている、例えば、従来から公知の熱風乾燥を好適に使用することができる。」
(1h) 「【0031】このように洗浄槽-濯ぎ槽-水洗槽-温水槽による水溶液系の浸漬洗浄及び熱風乾燥槽等によるの乾燥処理によって、その表面が高度に清浄化された感光体用の基体を得ることができる。このような本発明の洗浄方法に供せられる基体としては、その形状は、円筒状でも、ベルト状でも、プレート状でも、特に限定されないが、好ましくは、円筒状基体が好適にこの処理に供せられる。また、その材料としては、その基体面が導電性であって、且つ水溶液系の浸漬処理に十分耐えられる耐水性(例えば、溶解、膨潤、剥離)である観点から、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル及びチタン等の金属及びその合金、又は、プラスチック、ガラス及びアルミナ等のセラミックス等の絶縁体面に、アルミニウム、銅、金、銀、ニッケル、白金、パラジウム、ニッケル-クロム及び銅-インジウム等の金属又は酸化インジウム、酸化錫等の導電性金属酸化物等を蒸着させるか、金属箔をラミネートさせるか、更には、導電性のカーボンブラック、金属粉、金属酸化物粉及びヨウ化銅粉等を分散させた導電性樹脂塗料を塗布した等の導電性基体であれば適宜に本発明による洗浄に供せられる。」
(1i) 「【0042】(実施例1)製造直後でその表面が未だ未清浄(未洗浄処理)である感光体用の外径100mm、長さ360mmのアルミニウム製の円筒状基体を、図1の洗浄槽1で浸漬洗浄するために、その洗浄液として使用する界面活性剤を含有するアルカリ水溶液〔(株)アイソレート化学研究所製のアイソレートAX300〕を、表1に示すようにそのアルカリ水溶液の固形分濃度を0.5?9重量%の範囲でそれぞれ変化させて浸漬洗浄を行った。また、その時の浸漬時間は300秒で、アルカリ水溶液のpHは11であって、それぞれ表面の清浄度の異なる基体試料1?5を得た。なお、このように清浄化させるための洗浄処理は、図1に示す洗浄装置を使用して、上記洗浄層1における浸漬洗浄後、下記するその他の条件で、濯ぎ層20、水洗層12及び温水層26の順で浸漬洗浄を行った後、その基体を熱風乾燥槽32に入れて乾燥させたものである。
その他の条件 濯ぎ槽 浸漬時間 200秒
処理水の導電率 48μS/cm
水洗槽 浸漬時間 300秒
処理水の導電率 20μS/cm
温水槽 浸漬時間 5分
処理水の導電率 16μS/cm
温度 65℃
熱風乾燥 時間 30秒
温度 50℃ 」
(1j) 「【0043】また、濯ぎ層、水洗層及び温水層に供給した逆浸透膜水は、水道水をELGALTD製の装置名RO-5’S’HFの逆浸透膜を通して得られた水を使用した。次いで、これらの基体に、参考例1で調製した塗布液を用いて、各基体面に下引き層、感光層(電荷発生層及び電荷輸送層)を積層形成させて、有機感光体試料とした。なお、下引き層は、通常の浸漬塗工法で行い、塗布後100℃で10分間乾燥させて、厚さ0.3μmの下引き層を形成させた。更に、同様の浸漬塗工法で、電荷発生層及び電荷輸送層の順で、積層形成させた。なお、それぞれ引き上げ速度をコントロールしながら、乾燥膜厚0.2μmの電荷発生層、乾燥膜厚28μmの電荷輸送層を形成させた。得られた感光体を用いて画像形成を行い、それぞれの画像から黒斑点の個数を調べて、塗膜欠陥を評価し、また、その電気特性として電位立ち上がりの遅れ(pF/cm^(2 ))をそれそれ測定して、その結果を、表1にそれぞれの基体の洗浄条件であるアルカリ洗浄液の固形分濃度に対比させて示した。」
(1k) 「【0058】(実施例8)実施例1において、洗浄層1のアルカリ水溶液の固形分濃度を3重量%で、PHが11で、その浸漬時間を300秒で、温水槽26で使用した逆浸透膜処理水の電導率を5?11(μS/cm)の範囲で変化させた以外は、全て実施例1と同様の条件で基体面の清浄化を行い、清浄度の異なる基体試料36?39を得て、更に実施例1と同様にして感光体を作製して、その結果を表8に示した。但し、試料38は電導率11(μS/cm)のイオン交換樹脂によるイオン交換水を使用したものである。その結果、表8から明らかなように、温水槽26に使用する逆浸透膜処理水の電導率11(μS/cm)以上では、塗膜欠陥がおおむね良好であった。
【0059】
【表8】



前記摘記事項を総合勘案すると、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

「 電子写真感光体用のアルミニウム製の円筒状基体の面を、洗浄槽1で浸漬洗浄するために、その洗浄液として使用する、脱脂力に優れている、界面活性剤を含有するアルカリ水溶液〔(株)アイソレート化学研究所製のアイソレートAX300〕を、そのアルカリ水溶液の固形分濃度を3重量%で、300秒浸漬洗浄を行い、
導電率48μS/cmの処理水からなる濯ぎ槽20に200秒浸漬処理し、
導電率20μS/cmの処理水からなる水洗層12に300秒浸漬処理し、
導電率16μS/cmで65℃の処理水からなる温水層26に5分間浸漬処理した後、
その基体を50℃で30秒間、熱風乾燥槽32に入れて乾燥させてなる、
電子写真感光体用基体の洗浄方法。」


3. 本願発明1(前者)と刊行物1発明(後者)との対比
後者の
「洗浄槽1で浸漬洗浄するために、その洗浄液として使用する、脱脂力に優れている、界面活性剤を含有するアルカリ水溶液〔(株)アイソレート化学研究所製のアイソレートAX300〕を、そのアルカリ水溶液の固形分濃度を3重量%で、300秒浸漬洗浄」を行う工程、
「導電率48μS/cmの処理水からなる濯ぎ槽20に200秒浸漬処理し、導電率20μS/cmの処理水からなる水洗層12に300秒浸漬処理」する工程、
「導電率16μS/cmで65℃の処理水からなる温水層26に5分間浸漬処理した後、その基体を50℃で30秒間、熱風乾燥槽32に入れて乾燥」させる工程
は、それぞれ、前者の
「(A)脱脂洗浄工程」、
「(B)濯ぎ工程」、
「(C)乾燥工程」、
に該当する。

そして、後者の、「温水層26」の「処理水」の温度が「65℃」であることは、
前者の、(C)乾燥工程で「60℃以上95℃以下の温純水」を用いることに相当する。

また、後者の「温水層26」の「処理水」の導電率が「16μS/cm」であることは、比抵抗で表せば「0.06MΩ・cm」となるから、
前者の、(C)乾燥工程で「温純水」の比抵抗が「1MΩ・cm以下」であることに相当する。

してみると、両者は、
「 少なくとも基体の(A)脱脂洗浄工程と、(B)濯ぎ工程、(C)乾燥工程、からなる電子写真感光体用基体の洗浄方法であって、(C)乾燥工程で60℃以上95℃以下の温純水を用い、該温純水の比抵抗が1MΩ・cm以下である、電子写真感光体用基体の洗浄方法。」
である点で一致し、以下の点でのみ相違する。

(1) 相違点
「(A)脱脂洗浄工程で使用する洗浄液」に関して、
前者では、「20?90℃のアルカリイオン水」であるのに対し、
後者では、「界面活性剤を含有するアルカリ水溶液」である点。


4. 判断
(1) 相違点について
そこで、この相違点について検討する。
機械加工の技術分野において、製品に付着した潤滑油等の除去を行うために、アルカリイオン水を用いることは、通常良く行われていることであって格別のことではない。(必要ならば、例えば、特開平9-137287号公報、特開平10-192860号公報、特開2001-327934号公報等参照。)
本願発明1において「アルカリイオン水」の温度範囲を限定している点について、「20?90℃」が油分の除去に効果的な温度範囲であるというものであり(本願明細書段落【0012】参照)、前記周知文献特開平10-192860号公報には、「洗浄水の温度を40℃から90℃の範囲に加温すると、洗浄性が高まる」ことが開示されており(【請求項8】、段落【0046】?【0047】参照)、そして、本願発明1の温度範囲「20?90℃」が常温の「20℃」を含むものであり、「アルカリイオン水」が加温されてない場合と比較しても、格別の限定ということができない。
してみると、刊行物1発明において、「洗浄槽1」での浸漬洗浄の「脱脂洗浄液」として使用する、「界面活性剤を含有するアルカリ水溶液」に換えて、「脱脂洗浄液」として従来周知の「20?90℃のアルカリイオン水」を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2) 本願発明1の効果
従来のアルカリ水溶液を洗浄剤を使用する場合、該アルカリ性の物質の計量、溶解操作が必要になるのに対し、本願発明では、このような計量溶解操作の問題が解消するとしている(本願明細書段落【0007】参照)。
「アルカリイオン水」がこのような計量溶解操作の問題を有していないことは、脱脂技術において洗浄剤として「アルカリイオン水」を使用することにより当然奏される効果であり、格別の効果ということはできない。

(3) 請求人の主張
請求人は、回答書で、
上記「アルカリイオン水」についての周知技術について、
前記「機械加工」の分野におけるアルカリイオン水の使用は、「洗浄後のリンス(濯ぎ)を不要とするもの、つまり、アルカリイオン水の残存を前提とするものである」のに対し、
「本願発明」においては、「(洗浄液が残存すると感光層を形成した際の電気的特性に悪影響を与えることから、)脱脂洗浄工程の後に、濯ぎ工程、温純水を用いる乾燥工程を設け、洗浄液を除去する必要がある」ものであるとしている。
そして、請求人は、前記機械加工の分野と本願発明の技術分野とでは、このように脱脂の処理対象が異なるから、前記機械加工の分野におけるアルカリイオン水を、電子写真感光体基体の「脱脂洗浄液」に適用することは、容易に想到しうるものではない旨主張している。
しかしながら、脱脂洗浄剤が、脱脂の処理対象において洗浄後のリンス(濯ぎ)を不要とされる場合があるからといって、洗浄後のリンス(濯ぎ)が必要な分野に適用が不可能になるというものではない。そうすると、前記「機械加工」の分野における脱脂洗浄剤であるアルカリイオン水を、電子写真感光体基体に対する脱脂洗浄剤として使用することに阻害要因はないというべきである。
そして、電子写真感光体基体の脱脂洗浄において、「脱脂洗浄工程の後に、濯ぎ工程、温純水を用いる乾燥工程を設け、洗浄液を除去する必要がある」ことは、前記刊行物1に開示されているところである。

(4) 「温純水の比抵抗」についての請求人の主張
請求人は、回答書で、温純水を用いる乾燥工程において、温純水の比抵抗を1MΩ・cm以下とすることにより、基体表面における水酸化被膜の生成が防止されるという効果を奏する旨主張している。
しかしながら、刊行物1発明において、「温水層26」の「処理水」の導電率が「16μS/cm」であることは、比抵抗で表せば「0.06MΩ・cm」となるから、本願発明における比抵抗の条件「1MΩ・cm以下」を満たすものである。
そして、刊行物1には、温水槽26に使用する逆浸透膜処理水の電導率11μS/cm以上(比抵抗で表せば「0.09MΩ・cm」以下)では、塗膜欠陥がなく、おおむね良好である点が開示されている(前記(1k)参照)。
そうすると、刊行物1発明においても、基体表面における水酸化被膜の生成が防止されるという効果を奏しているものということができ、本願発明1の水酸化被膜の生成防止という効果は、刊行物1発明の効果に比較して、格別のものということはできない。

(5) まとめ
以上検討したとおり、刊行物1発明において、「洗浄槽1」での浸漬洗浄の「脱脂洗浄液」として使用する、「界面活性剤を含有するアルカリ水溶液」に換えて、「脱脂洗浄液」として従来周知の「20?90℃のアルカリイオン水」を用いることは、当業者が容易に想到できたことである。


5. むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の請求項2?請求項5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-05 
結審通知日 2009-10-09 
審決日 2009-10-20 
出願番号 特願2003-129522(P2003-129522)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 大森 伸一
紀本 孝
発明の名称 電子写真感光体用基体の洗浄方法及び洗浄装置  
代理人 武井 秀彦  

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