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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1208969 |
審判番号 | 不服2008-26727 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-16 |
確定日 | 2009-12-10 |
事件の表示 | 特願2002-182028「電子写真用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 29160〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成14年 6月21日 特許出願 平成18年11月 8日 拒絶理由通知 平成19年 1月11日 手続補正書の提出 平成19年11月15日 最後の拒絶理由通知 平成20年 1月17日 手続補正書の提出 平成20年 8月28日 平成20年1月17日付け補正に対する 却下の決定、及び、拒絶査定 平成20年10月16日 拒絶査定不服審判の請求 平成20年11月11日 手続補正書の提出 平成21年 7月17日 審尋に対する回答書の提出 第2.平成20年11月11日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年11月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の概要 平成20年11月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりとする補正事項を含むものである。 「【請求項1】結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有するフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナーにおいて、 前記結着樹脂は酸価が7?20mgKOH/gのポリエステル樹脂から成り、 前記ワックスは酸価が6?25mgKOH/gのカルボン酸変性パラフィンワックスから成り、前記ワックスの添加量が、前記結着樹脂100重量部に対して1?10重量部の範囲であることを特徴とするフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナー。」 2.補正の適否の判断 上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した電子写真用トナーに係る発明を特定するために必要な事項である「ワックス」に関して、その添加量を「結着樹脂100重量部に対して1?10重量部」の範囲のものに限定するものである。 したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。 3.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな、 引用文献1:特開2002-91087号公報、 引用文献2:特開平8-106173号公報、 には以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。) 〔引用文献1〕 (1a)「【請求項1】 結着樹脂、着色剤及びワックスを少なくとも含有するトナーであり、 該結着樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)ポリエステルユニットとビニル系共重合体ユニットとを有しているハイブリッド樹脂、又は(c)それらの混合物を少なくとも含有しており、 該ワックスは、極性基を有するワックスを含有しており、 該極性基を有するワックスは、下記式(I)乃至(IV)のいずれかの構造ユニットを有しているか、又は、下記式(V)の構造式を有している ワックスを少なくとも1種以上有することを特徴とするトナー。」 ここで、上記式(I)の構造ユニット、式(II)の構造ユニットは、それぞれ、「アルコール変性ユニット」、「カルボン酸変性ユニット」と呼んでよいもので、以下、そのように呼ぶことにする。 (1b)「【請求項14】 式(II)の構造ユニットを有する該極性基含有ワックスは、酸価が1?60mgKOH/gの範囲であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載のトナー。」 ここで、式(II)の構造ユニットを有する該極性基含有ワックスは、「カルボン酸変性ワックス」と呼んでよいものである。 (1c)「【請求項23】 極性基を有するワックスは、トナーの質量基準で0.1?10質量%トナーに含有されていることを特徴とする請求項1乃至22のいずれかに記載のトナー。 【請求項24】 極性基を有していないワックスは、トナーの質量基準で0.1?10質量%トナーに含有されていることを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載のトナー。 【請求項25】 ワックスは、トナーの質量基準で0.4?14質量%トナーに含有されていることを特徴とする請求項1乃至24のいずれかに記載のトナー。 【請求項26】 トナーは、カラートナーであることを特徴とする請求項1乃至25のいずれかに記載のトナー。 【請求項27】 トナーは、シアントナー,マゼンタトナー及びイエロートナーからなるグループから選択されるカラートナーであることを特徴とする請求項1乃至26のいずれかに記載のトナー。」 (1d)「【請求項28】 (i)像担持体に第1の静電荷像を形成し、 シアントナー,マゼンタトナー,イエロートナー及びブラックトナーからなるグループ選択される第1のトナーで静電荷像を現像して第1のトナー画像を像担持体上に形成し、 第1のトナー画像を中間転写体を介して、または、介さずに転写材に転写し、 (ii)像担持体に第2の静電荷像を形成し、 シアントナー,マゼンタトナー,イエロートナー及びブラックトナーからなるグループから選択される第2のトナーで静電荷像を現像して第2のトナー画像を像担持体上に形成し、 第2のトナー画像を中間転写体を介して、または、介さずに転写材に転写し、 (iii)像担持体に第3の静電荷像を形成し、 シアントナー,マゼンタトナー,イエロートナー及びブラックトナーからなるグループから選択される第3のトナーで静電荷像を現像して第3のトナー画像を像担持体上に形成し、 第3のトナー画像を中間転写体を介して、または、介さずに転写材に転写し、 (iv)像担持体に第4の静電荷像を形成し、 シアントナー,マゼンタトナー,イエロートナー及びブラックトナーからなるグループから選択される第4のトナーで静電荷像を現像して第4のトナー画像を像担持体上に形成し、 第4のトナー画像を中間転写体を介して、または、介さずに転写材に転写し、 (v)転写材上のシアントナー画像、マゼンタトナー画像、イエロートナー画像及びブラックトナー画像を加熱加圧定着することにより、転写材にフルカラー画像を形成するフルカラー画像形成方法であり、 (a)シアントナーは、結着樹脂、シアン着色剤及びワックスを少なくとも含有しており、 該結着樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)ポリエステルユニットとビニル系共重合体ユニットとを有しているハイブリッド樹脂、又は(c)それらの混合物を少なくとも含有しており、 該ワックスは、極性基を有するワックスを含有しており、 該極性基を有するワックスは、下記式(I)乃至(IV)のいずれかの構造ユニットを有しているか、又は、下記式(V)の構造式を有している (当審注:(I)乃至(V)は省略。) ワックスを少なくとも1種以上有しており、 (b)マゼンタトナーは、結着樹脂、マゼンタ着色剤及びワックスを少なくとも含有しており、 該結着樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)ポリエステルユニットとビニル系共重合体ユニットとを有しているハイブリッド樹脂、又は(c)それらの混合物を少なくとも含有しており、 該ワックスは、極性基を有するワックスを含有しており、 該極性基を有するワックスは、下記式(I)乃至(IV)のいずれかの構造ユニットを有しているか、又は、下記式(V)の構造式を有している (当審注:式(I)乃至(V)は省略。) ワックスを少なくとも1種以上有しており、 (c)イエロートナーは、結着樹脂、イエロー着色剤及びワックスを少なくとも含有しており、 該結着樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)ポリエステルユニットとビニル系共重合体ユニットとを有しているハイブリッド樹脂、又は(c)それらの混合物を少なくとも含有しており、 該ワックスは、極性基を有するワックスを含有しており、 該極性基を有するワックスは、下記式(I)乃至(IV)のいずれかの構造ユニットを有しているか、又は、下記式(V)の構造式を有している (当審注:式(I)乃至(V)は省略。) ワックスを少なくとも1種以上有しており、 (d)ブラックトナーは、結着樹脂、ブラック着色剤及びワックスを少なくとも含有しており、 該結着樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)ポリエステルユニットとビニル系共重合体ユニットとを有しているハイブリッド樹脂、又は(c)それらの混合物を少なくとも含有しており、 該ワックスは、極性基を有するワックスを含有しており、 該極性基を有するワックスは、下記式(I)乃至(IV)のいずれかの構造ユニットを有しているか、又は、下記式(V)の構造式を有している (当審注:式(I)乃至(V)は省略。) ワックスを少なくとも1種以上有することを特徴とするフルカラー画像形成方法。」 (1e)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法の如き画像形成方法において形成される静電荷像の現像に用いるトナー及び該トナーを使用するフルカラー画像形成方法に関するものである。」 (1f)「【0017】本発明の目的は、多量のオイルを塗布することなく、またはオイルを全く塗布することなく定着し得るトナーを提供することにある。 【0018】本発明の目的は、OHPでの透明性が良好で且つ二次色の混色性が良好なため、色再現範囲が広いトナーを提供することにある。 【0019】本発明の目的は、流動性と現像性が良好なトナーを提供することにある。 【0020】本発明の目的は、低温定着性に優れ且つ耐高温オフセット性に優れた非オフセット温度領域の広いトナーを提供することにある。 【0021】本発明の目的は、高温環境放置時における保存性に優れたトナーを提供することにある。 【0022】本発明の目的は、上記トナーを使用したフルカラー画像を形成するための画像形成方法を提供することにある。」 (1g)「【0066】(I)の構造ユニットを有するワックスは、パラフィンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックスに水酸基を付与(アルコール変性)することにより得られる。 【0067】(I)の構造ユニットを有するワックスは、平均炭素数が20?60の範囲にある脂肪族炭化水素系ワックス(パラフィンワックス)を硼酸、無水硼酸、もしくはメタ硼酸の如き触媒の存在下に分子状酸素含有ガスで液相酸化することによりアルコールに転化できることにより生成することができる。液相酸化反応終了後、反応系内には硼酸、無水硼酸、もしくはメタ硼酸の如き触媒の固形成分は全く存在せず、アルコールは硼酸エステルを形成し、液相中に溶存する。使用される触媒添加量は、原料脂肪族炭化水素ワックス1molに対して0.01?1mol、特に0.3?0.5molが好ましい。 【0068】反応系に吹き込む分子状酸素含有ガスとしては、酸素、空気又はそれらを不活性ガスで希釈した広範囲のものが使用可能である。酸素濃度3?20%が好ましく、特に白色度に優れた水酸基を有するワックスは酸素濃度が5?10%のときに得られる。また、反応温度は、150?250℃、好ましくは170?200℃である。脂肪族炭化水素はパラフィンワックスが好ましい。」 (1h)「【0072】アルコール変性過程において、生成されたアルコール成分は逐次酸化を受け、一部、カルボキシル基を有するポリメチレン分子(脂肪酸)が生成される。 【0073】ワックスは、式(I)で示される構成ユニットと式(II)で示される構成ユニットとを有していることがより好ましい。そして、その場合、ワックスは水酸基価が5?80mgKOH/g(より好ましくは、10?70mgKOH/g)であり、ワックスの酸価が、1?20mgKOH/gのものが好ましく、さらに好ましい酸価が、2?15mgKOH/gの範囲である。」 (1i)「【0083】(II)の構造ユニットを有するワックスは、前述した(II)の構造を有するワックスの製法と同様にして、パラフィンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックスをアルコール変性した後、さらに酸化をすることにより得られる。 【0084】この様にして得られた(II)の構造ユニットを有するワックスの酸価は、1?60mgKOH/gの範囲にあるものが好ましく、さらに好ましい酸価は、2?45mgKOH/gの範囲である。 【0085】酸価は、耐熱性に与える影響の指標となる数値であるが、酸価が1mgKOH/g未満の場合は、メインバインダーの一部を占めるポリエステル樹脂中への相溶性もしくは分散性が低下し、ワックスの遊離に起因する画像欠陥が発生する傾向にある。酸価が60mgKOH/gを超える場合は、トナーにしたときに、ワックスの軟化が発生し、トナーの耐熱ブロッキング性能が低下する。」 (1j)「【0191】極性基を有するワックス(A)?(G)の製造例 製造例(A) 平均炭素数35で最大吸熱ピーク温度(融点)が69.5℃のパラフィンワックスの1200gをガラス製の円筒型反応容器に入れ、硼酸と無水硼酸のmol比1.5の混合触媒35.2gを温度140℃で添加し、直ちに空気50vol%と窒素50vol%の酸素濃度約10vol%の混合ガスを毎分20リットルの割合で吹き込み、180℃で2.5時間反応させた反応終了後、反応液に温水を加え、95℃で2時間加水分解を行い、静置後上層の反応物を分取した。 【0192】得られたワックスは、水酸基価が35mgKOH/gであり、酸価が5mgKOH/gであり、DSC曲線における吸熱メインピーク温度が67℃であり、発熱メインピーク温度が63℃であった。得られたワックスを極性基を有するワックス(A)とする。 【0193】 【化14】 【0194】製造例(B) 製造例(A)における反応終了後に、さらに、混合触媒40gを添加し180℃で6時間反応を行うことを除いて製造例(A)と同様にして、極性基を有するワックス(B)を調製した。得られたワックス(B)は酸価が30mgKOH/gであり、DSC曲線における吸熱メインピーク温度が66℃であり、発熱ピークメイン温度が62℃であった。」 ここで、ワックス(B)は、【0083】の記載事項からすると、ワックス(A)よりもさらに酸化が進み、特許請求の範囲の記式(II)、すなわち、カルボン酸変性ユニットが多くて、全体として、「カルボン酸変性パラフィンワックス」と呼んでよいものになっているということができる、。 (1k)「【0201】 実施例1 ・結着樹脂:ハイブリッド樹脂(1) 100質量部 ・極性基を有するワックス:極性基を有するワックス(A) 3質量部 ・極性基を有しないワックス:パラフィンワックス(1)(吸熱メインピーク温度72℃、平均炭素数37) 3質量部 ・ネガ荷電制御剤:3,5-ジーターシャリーブチルサリチル酸のアルミニウム化合物 6質量部 ・顔料:銅フタロシアニン 4質量部 上記材料をヘンシェルミキサーにより十分予備混合を行った後、二軸式押出機で溶融混練し、冷却後ハンマーミルを用いて粒径約1?2mm程度に粗粉砕した。次いでエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕した。さらに、得られた微粉砕物を多分割分級装置(エルボジェット分級機)で分級して、重量平均粒径7.0μmのシアン系樹脂粒子(シアントナー粒子)を得た。」 (1L)「【0216】実施例5?9 極性基を有するワックス(A)のかわりに極性基を有するワックス(B)?(E)を使用した以外は実施例1と同様にしてシアントナー(2)?(6)を作製した。 【0217】実施例1と同様にして各トナーを評価した。その評価結果を表5に示す。」 ここで、実施例5は、上記(1j)ワックス(B)を使用したものである。 (1m)「【0235】 実施例20 結着樹脂:ハイブリッド樹脂(5) 100質量部 極性基を有するワックス(A)(アルコール変性パラフィンワックス) 3質量部 荷電制御剤:ジ-ターシャリーブチルサリチル酸のアルミニウム化合物 6質量部 顔料:銅フタロシアニン 5質量部 上記材料をヘンシェルミキサーにより十分予備混合を行った後、二軸式押出機で溶融混練し、冷却後ハンマーミルを用いて粒径約1?2mm程度に粗粉砕した。次いでエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕した。さらに、得られた微粉砕物を多分割分級装置で分級して、重量平均粒径7.0μmのシアン系樹脂粒子を得た。 【0236】上記シアン系樹脂粒子100質量部に対して、n-C_(4)H_(9)Si(OCH_(3))_(3)で処理した疎水性酸化チタン(BET110m^(2)/g)1.0質量部を外添しシアントナー(17)とした。さらにシアントナー(17)と、シリコーン樹脂で表面被覆した磁性フェライトキャリア粒子(平均粒径50μm)とを、トナー濃度が7質量%になるように混合し、二成分系シアン現像剤(17)とした。 【0237】このシアン現像剤(17)を用いて、カラー複写機CLC-800(キヤノン製)にて、未定着画像を作成した。得られた未定着画像は、図2に示した定着装置からローラークリーニング装置Cを取り外した定着装置を用い、定着温度と速度を変えて定着試験をおこなった。このときの画像面積比率は25%であり、単位面積当たりのトナー載り量は、0.7mg/cm^(2)に設定した。 【0238】実施例20で得られた画像は光沢性、OHT透光性ともに良く、非オフセット定着温度領域が広く、且つ、良好な耐ブロッキング性を示した。トナーのGPC測定結果を表8に、また評価結果を表10に示す。 (1n)「【0239】実施例21 ハイブリッド樹脂(5)に替えてポリエステル樹脂(4)を使用した以外は実施例20と同様にしてシアントナー(18)及びシアン現像剤(18)を得た。 【0240】さらに、実施例20と同様にしてトナーを評価した。トナーのGPC測定結果を表8に、また評価結果を表10に示す。」 (1o) 【表8】には、 実施例26として、分子中にポリエステル部分を有するハイブリッド樹脂(5)及び酸価が13mgKOH/gのアルコール変性パラフィンワックス(I)を使用して、実施例20と同様にに二成分シアン現像剤を作成したこと、さらに、 実施例27として、分子中にポリエステル部分を有するハイブリッド樹脂(5)及び酸価が17mgKOH/gのアルコール変性パラフィンワックス(J)を使用して、実施例20と同様にに二成分シアン現像剤を作成したこと、が記載されている。 これら記載(特に(1n)の実施例21を中心とする記載)によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「電子写真法によりフルカラー画像を形成するために用いられる、結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有する、シアントナーにおいて、 前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂100質量部から成り、 前記ワックスは、酸価が5mgKOH/gである、極性基を有する下記ワックス(A)3質量部からなる、 シアントナー。 」 〔引用文献2〕 (2a)「【請求項3】 着色材と、ポリエステル樹脂またはポリエステル樹脂とスチレン-アクリル樹脂の混合物からなる5ないし50KOHmg/gの酸価を有するバインダー樹脂と、2ないし18KOHmg/gの酸価及び60ないし90℃の融点を有する第1のワックスと、5KOHmg/g以下の酸価及び第1のワックスとは異なる90ないし160℃の融点を有する第2のワックスとを含む現像剤。」 (2b)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、低温定着性、耐オフセット性、耐キャリア汚染性、一成分現像における現像ローラーへの耐フィルミング性を満足し、高速の定着にも十分利用しうる現像剤を提供することを目的とする。」 (2c)「【0012】 【作用】 (樹脂の酸価と混合比)バインダー樹脂に5?50KOHmg/gの酸価を持たせることにより、一成分現像方式では帯電の立上りが良好になり、二成分現像方式で高速型電子写真複写機ではトナー飛散が少なくなる。しかし酸価を50KOHmg/g以上にすると、一成分現像方式では高温高湿の環境下ではかぶりが多くなり、二成分現像方式ではトナー飛散が多くなってしまう。一方、酸価が5KOHmg/g以下であると両現像方式において帯電性が悪くなる。よって、最適なバインダー樹脂の酸価は5?50KOHmg/gである。」 (2d)「【0015】(第1のワックスの酸価)ワックスに酸価を持たせることにより樹脂との相溶性がよくなり分散性が良くなる傾向がある。しかし、ワックスの酸価が2以下であると、ワックスの分散性が悪化する事により、トナーの流動性が低下する傾向がある為、一成分現像方式では現像ローラーへのトナー搬送不良を起こし二成分現像方式では画質が低下してしまう可能性がある。また、酸価が18以上では環境依存性が大きくため傾向があるため、一成分現像方式では高温高湿の環境下でかぶりが多くなり、二成分現像方式ではトナー飛散が多くなる傾向がある。よって第1のワックスの酸価は2?18KOHmg/gであり、好ましくは2?10KOHmg/gである。」 (2e)「【0025】合成例1)ポリオキシプロピレン(2,3)-2,2,-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10モルと無水マレイン酸10.2モルから常法の脱水縮合反応により酸価20KOHmg/gのポリエステル樹脂を得た。」 (2f)「【0028】合成例2)合成例1と同様の方法により得られたポリエステル樹脂は、酸価17KOHmg/g、軟化点148℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂2とする。 合成例3)合成例1と同様の方法により、得られたポリエステル樹脂は酸価33KOHmg/g、軟化点104℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂3とする。 合成例4)合成例1と同様の方法により、得られたポリエステル樹脂は酸価11KOHmg/g、軟化点137℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂4とする。 合成例5)合成例1と同様の方法により、得られたポリエステル樹脂は酸価45KOHmg/g、軟化点126℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂5とする。 合成例6)合成例1と同様の方法により得られたポリエステル樹脂は、酸価17KOHmg/g、軟化点157℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂6とする。 合成例7)合成例1と同様の方法により、得られたポリエステル樹脂は、酸価52KOHmg/g、軟化点98℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂7とする。 【0029】合成例8)合成例1と同様の方法により、得られたポリエステル樹脂は、酸価3KOHmg/g、軟化点138℃であった。このポリエステル樹脂を樹脂8とする。」 4.対比、判断 そこで、本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、 引用文献1記載の発明の「電子写真法によりフルカラー画像を形成するために用いられる、結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有する、シアントナー」は、本願補正発明の「結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有するフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナー」のシアントナーに相当する。 引用文献1記載の発明の「前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂100質量部から成り、前記ワックスは、酸価が5mgKOH/gである、極性基を有する下記ワックス(A)3質量部からなる」は、ワックスの添加量が、結着樹脂100重量部に対して3重量部の範囲であるから、本願補正発明の「ワックスの添加量が、結着樹脂100重量部に対して1?10重量部の範囲である」に相当する。 そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。 [一致点] 「結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有するフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナーにおいて、 前記結着樹脂はポリエステル樹脂から成り、 前記ワックスの添加量が、前記結着樹脂100重量部に対して1?10重量部の範囲である、 フルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナー。」 [相違点1] ポリエステル樹脂の酸価が、 本願補正発明1では、7?20mgKOH/gであるのに対し、 引用文献1記載の発明では、特定されていない点。 [相違点2] ワックスが、 本願補正発明では、酸価が6?25mgKOH/gのカルボン酸変性パラフィンワックスから成るのに対し、 引用文献1記載の発明では、酸価が5mgKOH/gである、極性基を有するワックス(A)、すなわち、アルコール変性ユニットとカルボン酸変性ユニットとを有するワックスからなる点。 そこで、相違点について検討する。 (相違点1について) 引用文献2には、トナーの結着樹脂であるポリエステル樹脂に、5?50KOHmg/gの酸価を持たせることにより、一成分現像方式では帯電の立上りが良好になり、二成分現像方式で高速型電子写真複写機ではトナー飛散が少なくなることが記載されている。 そして、引用文献2の合成例では、本願補正発明の範囲に含まれる、20mgKOH/g、17mgKOH/g、11mgKOH/gのものが示されている。 そうすると、引用文献1記載の発明において、帯電の良好な立上りやトナー飛散抑制の観点から、ポリエステル樹脂の酸価として、引用文献2に記載の数値に着目することは、当業者であれば当然に想起するところである。 また、ワックスを含むポリエステル系トナーにおいて、バインダー樹脂となるポリエステル樹脂の酸価を20mgKOH/g以下の適当な値に設定することは、耐湿性(湿度依存性)等の観点から、周知のことでもある。例えば、特開2002-131972号公報の段落【0027】、特開2000-305320号公報の段落【0030】、特開2000-305316号公報の段落【0015】、特開2000-305315号公報の段落【0016】、特開2000-242030号公報の段落【0024】、特開平10-115950号公報の段落【0025】、特開平5-27478号公報の段落【0016】を参照。 以上のことを勘案すると、引用文献1記載の発明において、ポリエステル樹脂の酸価を、適宜調整して、本願補正発明のごとく7?20mgKOH/gの範囲とすることは、当業者が容易になし得ることである。 (相違点2について) 引用文献1記載の発明の、極性基を有するワックス(A)は、アルコール変性ユニットとカルボン酸変性ユニットとを有するワックスであって、アルコール変性ユニットが、カルボン酸変性ユニットの約7倍存在しており、実施例20、実施例21等では、「アルコール変性パラフィンワックス」と呼んでいる(1m)。 これに対し、本願補正発明のワックスは、「カルボン酸変性パラフィンワックス」であるところ、その概念に、アルコール変性ユニットが多少なりとも存在するものを含むかどうかは、発明の詳細な説明を参照しても、必ずしも明確でないが、ここでは、一応、カルボン酸変性ユニットのみであり、アルコール変性ユニットが存在しないものとして、以下に検討する。 引用文献1では、純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」のみからなるワックスを用いた実施例はないものの、実施例5((1L)(1j)参照)では、純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」に近いとみられるワックス(B)を使用している例もあり(但し極性基を有しないワックスと併用)、また、引用文献1には、「【請求項14】式(II)の構造ユニットを有する該極性基含有ワックスは、酸価が1?60mgKOH/gの範囲であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載のトナー。」という請求項があり(ここで、式(II)の構造ユニットは「カルボン酸変性ユニット」である。)、また、(1j)の【0083】【0084】の記載は、純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」に関する説明といえるものである。 そうすると、引用文献1記載の発明において、極性基を有するワックス(A)(アルコール変性ユニットとカルボン酸変性ユニットとを有するワックスであって、アルコール変性ユニットが優勢なもの)に代えて、「カルボン酸変性パラフィンワックス」を用いることは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。 なお、本願の現在の特許請求の範囲は、ワックスとして、「カルボン酸変性パラフィンワックス」に限定しているものの、 出願当初の特許請求の範囲には、「【請求項15】結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有するフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナーにおいて、前記結着樹脂は酸価が5?20mgKOH/gのポリエステル樹脂から成り、前記ワックスは酸価が4?15mgKOH/gのアルコール変性パラフィンワックスから成ることを特徴とするフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナー。」という、「アルコール変性パラフィンワックス」を用いた請求項も存在しており、 発明の詳細な説明では、「アルコール変性パラフィンワックス」を用いた実施例等も記載されていた。 この「アルコール変性パラフィンワックス」が、アルコール変性ユニットのみであり、カルボン酸変性ユニットが存在しないものかどうかは、必ずしも明確でないが、一応、アルコール変性ユニットのみであるとしても、 本願の明細書では、結局のところ、「カルボン酸変性パラフィンワックス」「アルコール変性パラフィンワックス」のどちらを用いても、好適な酸価の範囲も大部分が重複しており、良好な評価結果が得られることを示しているといえる。 これに対し、引用文献1記載の発明の、極性基を有するワックス(A)は、アルコール変性ユニットとカルボン酸変性ユニットとを有するワックスであって、アルコール変性ユニットが優勢なものであるが、本願の明細書での純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」又は「アルコール変性パラフィンワックス」と比べても、機能的にそれほど異なるものではないことが推察される。 次に、引用文献1記載の発明の、極性基を有するワックス(A)は、酸価が5mgKOH/gであり、また、ワックス(A)をさらに酸化していくと、純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」に近いとみられるワックス(B)になるが、その酸価は30mgKOH/gである。これらの酸価は、本願補正発明の酸価「6?25mgKOH/g」の範囲から外れるものである。 しかし、引用文献1において、純粋な「カルボン酸変性パラフィンワックス」に関する説明といえる【0084】には、「この様にして得られた(II)の構造ユニットを有するワックスの酸価は、1?60mgKOH/gの範囲にあるものが好ましく、さらに好ましい酸価は、2?45mgKOH/gの範囲である。」とされ、本願補正発明の範囲を含む範囲が示されている。 また、引用文献1の実施例26、実施例27((1o)参照)には、アルコール変性パラフィンワックスであるが、それぞれ、酸価が13mgKOH/g、17mgKOH/gのものが示されており、これらは本願補正発明の範囲に入る値である。 これらのことを勘案すると、引用文献1記載の発明において、極性基を有するワックス(A)に代えて、「カルボン酸変性パラフィンワックス」を用いるとともに、その際に、「カルボン酸変性パラフィンワックス」の酸価を、本願補正発明のごとく、「6?25mgKOH/g」とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。 (本願補正発明の効果、臨界的意義について) 本願明細書に記載された比較例12?15は、本願補正発明で規定する、ポリエステル樹脂の酸価が7?20mgKOH/gの範囲から外れた場合、カルボン酸変性パラフィンワックスの酸価が6?25mgKOH/gの範囲から外れた場合には、非オフセット領域の温度幅が狭い、定着強度が低い等の問題が生じることを示すものである(表5,表6等を参照)。 しかし、その後に記載された比較例16?20は、ポリエステル樹脂の酸価、カルボン酸変性パラフィンワックスの酸価、ワックスの添加量(含有量)の全てが、本願補正発明の範囲に入るにもかかわらず、非オフセット領域の温度幅が狭い、定着強度が低い等の問題が生じるものであり、これは、本願補正発明で規定される事項だけでは不十分であることを示している。 そうすると、本願補正発明の構成のみでは、特有の効果を奏するものとは認められず、引いては、本願補正発明の数値範囲は、臨界的意義が明確でない。 本願補正発明の効果や臨界的意義が明確でない以上、引用文献1記載の発明において、ポリエステル樹脂の酸価、及び、カルボン酸変性パラフィンワックスの酸価を、本願補正発明の範囲とすることは、格別のこととはいえず、当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。 この点からも、上記(相違点1について)(相違点2について)で示した容易想到性の判断は妥当である。 (まとめ) よって、本願補正発明は、引用文献1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願の請求項に係る発明 平成20年11月11日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成20年1月17日付けの手続補正は、前審において平成20年8月28日付けで補正却下の決定がなされているので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成19年1月11日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】結着樹脂、ワックスおよび着色剤を含有するフルカラー画像形成用シアン、マゼンタ、イエローまたはブラック電子写真用トナーにおいて、 前記結着樹脂は酸価が7?20mgKOH/gのポリエステル樹脂から成り、 前記ワックスは酸価が6?25mgKOH/gのカルボン酸変性パラフィンワックスから成ることを特徴とするフルカラー画像形成用シアン、マゼン タ、イエローまたはブラック電子写真用トナー。」 2.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな、 引用文献1(特開2002-91087号公報)、 引用文献2(特開平8-106173号公報)、 には、上記「第2.3.」欄に摘示したとおりの事項が記載されている。 3.判断 本願発明1は、上記「第2.1.」欄に示した本願補正発明から、「前記ワックスの添加量が、前記結着樹脂100重量部に対して1?10重量部の範囲である」という限定を省いたものに相当する。 そうすると、本願補正発明が、上記「第2.4.」欄に記載したとおり、引用文献1、2に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、基本的に同様の理由により、引用文献1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-10-05 |
結審通知日 | 2009-10-06 |
審決日 | 2009-10-19 |
出願番号 | 特願2002-182028(P2002-182028) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 雅雄 |
特許庁審判長 |
木村 史郎 |
特許庁審判官 |
伊藤 裕美 赤木 啓二 |
発明の名称 | 電子写真用トナー |
代理人 | 西教 圭一郎 |
代理人 | 杉山 毅至 |