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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1208973
審判番号 不服2008-32552  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2009-12-11 
事件の表示 特願2004- 20038「鉄道車両用ブレーキディスク」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-214263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月28日の出願であって、平成20年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年12月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成20年4月22日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
車軸又は車輪に締結され、片面より入熱されるブレーキディスクにおいて、
前記締結される内周部と、摺動面を有する外周部のつなぎ目部に溝を形成し、当該つなぎ目部の剛性を低減させると共に、前記摺動面の裏面側にフィンを設け、当該フィンと車輪又は車軸に取り付けられたボスとの接触位置を、前記摺動面における半径方向の中心位置より内周側としたことを特徴とする鉄道車両用ブレーキディスク。
【請求項2】
前記フィンの半径方向の断面形状を矩形状となしたことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキディスク。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記2.のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
実願昭54-141458号(実開昭56-59470号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「本考案は、ブレーキディスクを車輪に取付けた鉄道車両用車輪ディスクに関するものである。」(明細書第1頁第12?13行参照)
(い)「従来の車輪ディスクを第1図の正面図および第2図の第1図A-A断面図によって説明する。図において、車輪1に取付けるディスクである側板2の裏面にはフイン3が、内径寄りのところには通風口4がそれぞれ設けられており、車輪1の両面に前記側板2をボルト5とナット6で取付けている。」(明細書第1頁第14?20行参照)
(う)「本考案は、側板と取付板との間に熱膨張を緩和する緩衝部を設けることにより、側板の引張り残留応力による亀裂の発生を防止することを目的としたものである。」(明細書第2頁第10?13行参照)
(え)「図において、車輪11に取付けるディスクである側板12の反摺動側に円筒形をした外当筒13と内当筒14が設けられており、側板12の内径寄りに熱膨張を緩和する緩衝部である薄板15および該薄板15の内径寄りに薄肉円筒形の薄筒16を設け、さらに薄筒16の内径寄りに前記側板12を車輪に取付けるための取付板17が設けられており、側板12から取付板17までは薄板15と薄筒16の熱膨張緩衝部によって連結されている。この側板12は車輪11の両面に取付板17およびボルト18,ナット19を介して取付けられている。」(明細書第2頁第18行?3頁8行参照)
(お)「外当筒13と内当筒14は締付け力を側板12が受けた場合に、車輪11に対して側板12を支持するためのものであり、その形状は第1図のようなフインのようなものでも良いし、丸形お角形の当座を側板12の裏側に数個から数十個設けたものでも効果は同じで、車輪11と側板12の間隙を保つものであれば良い。」(明細書第3頁第8?14行参照)
(か)「薄板15は締付け力によって側板12と取付板17の間で軸方向に変形しやすいようにしたものであり、局部的な過大応力が発生するのを防止している。薄筒16は、取付板17を車輪11に強固に取付けても側板12のブレーキ熱による熱膨張を拘束せず、変形しやすくして、側板12に局部的な降伏が生じないようにしたものである。したがって冷却後に過大な引張り残留応力が生じることがなく、ディスクの亀裂発生を防止している。
以上説明したように本考案によれば、制動時の締付け力およびブレーキ熱に対して変形しやすい構造とすることにより側板や取付板の亀裂発生を防止することができる。」 (明細書第3頁第14行?第4頁第7行参照)
また、上記(え)に摘記したとおり、第3?5図には車輪11に取付けるディスクである側板12の反摺動側に円筒形をした外当筒13と内当筒14が設けられているが、上記(お)に摘記したとおり、外当筒13と内当筒14の形状は第1図のようなフインのようなものでも良く、効果は同じ旨が記載されている。
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「車輪11の両面にディスクである側板12を設けた鉄道車両用車軸ディスクにおいて、
側板12の内径寄りに熱膨張を緩和する緩衝部である薄板15及び該薄板15の内径寄りに薄肉円筒形の薄筒16を設け、さらに薄筒16の内径寄りに側板12を車輪に取付けるための取付板17が設けられており、
側板12は車輪11の両面に取付板17及びボルト18、ナット19を介して取付けられており、
側板12の裏面に、車輪11と側板12との隙間を確保し、側板12が締付け力を受けた場合に側板12を支持するためのフインを設けた鉄道車両用車軸ディスク。」
(2-2)引用例2
特開平2000-170805号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(き)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、一体型の鉄道車両用ブレーキディスクに関するものである。」
(く)「【0011】そこで、この発明の課題は、高速走行中に非常用に使用しても、過大な熱応力の発生を防止できる鉄道車両用ブレーキディスクを提供することである。」
(け)「【0012】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、この発明は、鉄道車両の車輪側面両側に取り付けられ、表面側にパッドとの摺動面が、裏面側に放熱用のフィンが設けられた2枚一対のディスクより成る鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、前記フィンの先端と車輪側面の間に0.2?1.5mmの隙間を設けた構成を採用したのである。
【0013】すなわち、フィンの先端と車輪側面の間にわずかの隙間を設けることにより、摺動面での過大な発熱による熱膨張をディスクの厚み方向に逃がし、前記周方向の圧縮と引張の熱応力を低減できるようにしたのである。前記隙間の下限値0.2mmと上限値1.5mmは、後述するブレーキ試験結果に基づいて決定したものであり、隙間が0.2mm未満では熱応力を十分に低減できず、1.5mmを越えると、パッドの押し付け力でディスクが車輪側面側に逃げ、摺動面でのパッドとの摩擦力を十分に確保できない。
【0014】前記隙間を、前記ディスクの外周側ほど大きくなるように形成することにより、前記周方向熱応力の半径方向の応力勾配をより小さくすることができる。すなわち、摺動面での発熱量は摺動距離の長い外周側の方が大きいため、ディスク外周側ほど熱膨張量は大きくなる。前記半径方向の隙間の変化は、テーパ状や段差状等とすることができる。」
(こ)「【0017】前記ディスク1の裏面側には、図2および図3に示すように、放射状に多数の放熱用フィン6が設けられ、これらのフィン6の内周側には、前記締結ボルト3用の孔7が設けられている。なお、最外周部には、車輪2との接触を避けるために、逃げ面8が設けられている。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認められる。
「車輪2の側面両側に取り付けられ、表面側にパッド5との摺動面4が、裏面側に放熱用のフィン6が設けられた2枚一対のディスク1より成る鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、
前記フィンの先端と車輪側面の間に0.2?1.5mmの隙間を設け、前記隙間を前記ディスクの外周側ほど大きくなるようにテーパ状や段差状に形成した鉄道車両用ブレーキディスク。」

3.対比
本願発明と上記引用例1発明とを対比すると、後者の「鉄道車両用車軸ディスク」は前者の「鉄道車両用ブレーキディスク」に相当し、同様に、「取付板17」は「内周部」に、「側板12」は「摺動面を有する外周部」に、「側板12の内径寄りに熱膨張を緩和する緩衝部である薄板15及び該薄板15の内径寄りに薄肉円筒形の薄筒16を設け、」という事項は「摺動面を有する外周部のつなぎ目部に溝を形成し、」という事項に、それぞれ相当すると認められる。
したがって、本願発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「車軸又は車輪に締結され、片面より入熱されるブレーキディスクにおいて、
前記締結される内周部と、摺動面を有する外周部のつなぎ目部に溝を形成し、当該つなぎ目部の剛性を低減させると共に、前記摺動面の裏面側にフィンを設けた鉄道車両用ブレーキディスク」の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明は、「フィンと車輪又は車軸に取り付けられたボスとの接触位置を、前記摺動面における半径方向の中心位置より内周側とした」のに対して、引用例1発明は、このようなものか不明な点。

4.相違点についての判断
引用例2発明の「鉄道車両用ブレーキディスク」は「前記フィンの先端と車輪側面の間に0.2?1.5mmの隙間を設け、前記隙間を前記ディスクの外周側ほど大きくなるようにテーパ状や段差状に形成した」という事項を具備しており、これは、上記(け)に摘記した【0013】、【0014】に記載されているとおり、摺動面での過大な発熱による熱膨張をディスクの厚み方向に逃がすこと、及びその場合にディスク外周側ほど熱膨張量が大きくなることを考慮したものである。このような事情は引用例1発明においても格別異なるものではないから、引用例1発明に引用例2発明の上記事項を適用することは容易に想到し得たものと認められる。
ただ、引用例2発明は「前記隙間を前記ディスクの外周側ほど大きくなるようにテーパ状や段差状に形成」しているが、引用例1発明に引用例2発明の上記事項を適用するにあたって、熱膨張をディスクの厚み方向に逃がすためにどのような形状とするかは適宜の設計的事項にすぎない。例えば、ディスク外周側における熱膨張を逃がすという観点からみれば、ディスクの外周側において熱膨張による拘束が生じない程度に外周側における隙間を十分に大きくとるという構成が望ましいことは当業者に明らかであり、そのような構成は上述の適宜の設計の一例にすぎない。このようにしたものが、実質的にみて、相違点に係る本願発明1の事項を具備することは明らかである。
このような構成は、上記(こ)に摘記した段落【0017】の「なお、最外周部には、車輪2との接触を避けるために、逃げ面8が設けられている。」という記載事項に実質的に示されているともいえるし、引用例2の図4あるいは図5の記載から看取できるともいえる。
以上の点に関して、引用例2の段落【0013】には「1.5mmを越えると、パッドの押し付け力でディスクが車輪側面側に逃げ、摺動面でのパッドとの摩擦力を十分に確保できない。」との記載があり、これは、パッドが押し付けられたときにフィンの外周側においてもディスクと車輪側面とが接触することを想定しているともみられるが、どの程度の摩擦力を発生させ、どの程度の熱膨張を逃がすかは、所要の特性や特定の用途・構造等に応じて適宜設計すべきものであり、ディスク外周側における熱膨張を逃がすという観点からみれば、ディスクの外周側において熱膨張による拘束が生じない程度に外周側における隙間を十分に大きくとるという構成が望ましいことは上述のとおりである。
そして、本願発明の作用効果は、引用例1,2に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、請求人は、審判請求の理由において、「前記引用文献2には、「フィンの先端と車輪側面の間にわずかの隙間を設けることにより、摺動面での過大な発熱による熱膨張をディスクの厚み方向に逃がし、前記周方向の圧縮と引張の熱応力を低減できるようにしたのである。…隙間が0.2mm未満では熱応力を十分に低減できず(段落0013)」と、また、隙間を0.1mmとした従来のブレーキディスク(比較例2)は、回転速度を230km/hとしたときに締結用ボルト孔の部分にクラックが発生した(段落0022,0025)と記載されています。つまり、引用文献2に記載の発明は、フィンは車輪の側面とは接触しないものであります。」と主張している。しかし、引用例2の「【0007】前記各ディスク11は、車輪12側面の限られた空間に納めるために、厚みを薄くする必要があり、パッド16の押し付け力による弾性変形でディスク11が車輪12側面側に逃げて、摺動面14でのパッド16との摩擦力が低下しないように、前記フィン15の先端は車輪12の側面にほぼ接するように設計されている。」、「【0009】すなわち、摺動面での過大な発熱でディスクが熱膨張すると、摺動面が設けられたディスク外周側では周方向の圧縮応力が、締結用ボルト孔が設けられたディスク内周側では周方向に引張応力が発生する。従来のディスクは、前述したように、フィンが設けられた裏面側が車輪側面で厚み方向を拘束されているため、周方向の圧縮応力と引張応力の絶対値が大きくなる。」との記載事項を参酌すれば、段落【0013】の記載事項が、0.2mm未満では、熱膨張時にフィンが設けられたディスク裏面側が車輪側面に拘束されて熱膨張をディスクの厚み方向に逃がすことができないこと、1.5mmを超えると、熱膨張時にパッドの押し付け力でディスクが車輪側面側に逃げる余地があることを意味し、したがって、熱膨張時にフィンと車輪側面とが接触することは明らかである。また、引用例1発明に引用例2発明の上記事項を適用するにあたって、熱膨張をディスクの厚み方向に逃がすためにどのような形状とするかは適宜の設計的事項にすぎないこと、例えば、ディスク外周側における熱膨張を逃がすという観点からみれば、ディスクの外周側において熱膨張による拘束が生じない程度に外周側における隙間を十分に大きくとるという構成が望ましいことは、上述のとおりである。
同じく、「しかしながら、本願の請求項1に係る発明と、フィンをボスに接触させない場合とでは、参考図2に示しましたように、作用効果に大きな差が認められます。参考図2は、参考図1に示す、フィンとボスとの接触位置を、摺動面における半径方向の中心位置より内周側としたブレーキディスクモデルを用い、270km/hから90秒間非常ブレーキを負荷することを3回繰り返す条件でFEM解析を行い、ディスクと車輪の隙間を変化させたときの締結ボルトに発生する応力を示したものであります。この参考図2より、本願の請求項1に係る発明のように、ブレーキディスクと車輪を接触させたとき(隙間は0mm)に、締結ボルトに発生する応力が最も小さくなって(0MPa)、熱応力が小さくなることが分かります。」と主張している。しかし、「270km/hから90秒間非常ブレーキを負荷することを3回繰り返す条件」のもとで、「締結ボルトに発生する応力が最も小さくなって(0MPa)…」であるとする根拠が、参考図2をみても必ずしも明確でない。また、上記主張と審判請求の理由に記載された「ブレーキ時の熱膨張の拘束を緩和してディスクに発生する反りを効果的に低減でき、摩擦特性を安定できる(段落0014、0021)という顕著な作用効果」との関連がそもそも明らかでないとともに、参考図1、2は特定の条件・モデルについてのものにすぎず、例えば、どの程度内周側にするかに関わりなく上記の「顕著な作用効果」を奏し得るのかどうか、必ずしも明らかではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2004-20038(P2004-20038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間中 耕治  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 鉄道車両用ブレーキディスク  
代理人 岩原 義則  
代理人 溝上 哲也  

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