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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1209097
審判番号 不服2007-12902  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 特願2004-137665「誘電層を形成する方法及び関連するデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-336057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
出願 :平成16年 5月 6日
(パリ条約による優先権主張2003年 5月 8日、米国(US))
拒絶理由通知 :平成18年 6月26日付け
意見書提出及び手続補正 :平成18年12月28日付け
拒絶査定 :平成19年 1月25日付け
審判請求 :平成19年 5月 7日
手続補正 :平成19年 5月 7日付け
前置報告 :平成19年10月 3日付け
審尋 :平成21年11月 5日付け
回答書提出 :平成21年 2月 4日付け
補正却下の決定 :平成21年 3月31日付け
拒絶理由通知(最後) :平成21年 3月31日付け
意見書提出及び手続補正 :平成21年 7月 7日付け

第2 平成21年7月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成21年7月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.補正の経緯及び内容
本件補正は、当審による平成21年3月31日付け拒絶理由通知(最後)に対して、平成21年7月7日付けでなされたものであり、補正後の特許請求の範囲の請求項1を次のとおりとする補正事項を含むものである。

「【請求項1】
半導体基板にゲート誘電層を形成する方法であって、該方法は、
(1)中間の厚さに初期の誘電層を沈着するステップと、
(2)窒化処理で中間の厚さの前記初期の誘電層に窒素を組み込むステップと、
(3)最終的な厚さを有するゲート誘電層を形成するために最終的な誘電層を沈着するステップと、を有し、
前記ステップ(1)で、前記中間の厚さは前記ゲート誘電層の最終的な厚さよりも薄く、前記ステップ(2)で、窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮し、前記ステップ(3)で、前記最終的な誘電層の沈着は、主に、窒化された初期の誘電層の最上面に発生することを特徴とする方法。」

2.補正の適否
上記補正後の請求項1には、上記「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」されることが記載されている。

一方、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本願当初明細書等」という。)には、上記初期の誘電層に窒素を組み込むステップにおける窒素の分配に関して、以下の記載がある。

〔本a〕「本発明の実施態様は、一般的に、誘電層を形成する方法を導き、デバイスとシステムに帰着する。本発明の実施態様において、誘電層は半導体物質からなる基板の表面上の中間の厚さに沈着される。次いで、窒化処理は、誘電層に窒素を組み入れるために中間の厚さの誘電層に適用される。次に、誘電層は、該誘電層の最終的な厚さまで沈着される。上述したように、従来の窒化処理は、後の窒化及び事前窒化に限定される。後の窒化処理において、窒素原子は誘電層の全体にわたって均質に分配される。事前の窒化処理において、窒素原子は誘電層と基板との間のインターフェースで濃縮される。対照的に、本発明の実施態様は、窒素原子が実際に誘電層内のいかなる場所にも濃縮されることを可能にする。」(【0009】)

〔本b〕「図1Aは、誘電層120が中間の厚さ135に沈着される概略図である。中間の厚さ135は、本発明の例示された実施態様において、所望の誘電層の厚さにおいておよそ1乃至5パーセントである。窒化処理は、窒素を組み込むために中間の厚さ135の誘電層に適用される。窒化処理は、熱的窒化又は化学的/物理的窒化を含んでよい。窒化処理は、図2を参照してより完全に記載される。・・・
次いで、誘電層120は、最終的な所望の厚さに沈着される。中間の厚さの影付けされたエリア135は、本発明の例示された実施態様において、窒素原子が基板105とのインターフェースで濃縮されたことを示す。インターフェースで窒素原子が濃縮される理由は、誘電層が誘電層の最終の厚さのおよそ1乃至5パーセントの中間の厚さに沈着された場合に窒化処理が実行されたからである。」(【0013】?【0014】)

〔本c〕「図1Bは、誘電層125が中間の厚さ140に沈着される概略図である。本発明の例示された実施態様において、中間の厚さ140は、所望の誘電層の厚さのほぼ50パーセントである。窒化処理は、かかる領域に窒素を組み込むために中間の厚さ140の誘電層に適用される。次いで、誘電層125は最終的な所望の厚さまで沈着される。影付け領域によって例示されるように、窒素原子は誘電層125の下半分で最初に分配される。したがって、図1Bは、従来の事前の窒化処理又は後の窒化処理を使用して可能でない窒化濃度の概略図である。」(【0015】)

〔本d〕「図1Cは、誘電層130が中間の厚さ150に沈着される概略図である。本発明の例示された実施態様において、中間の厚さ150は、所望の誘電層の厚さのほぼ95乃至99パーセントである。窒化処理は、かかる領域に窒素を組み込むために中間の厚さ150の誘電層に適用される。次いで、誘電層130は最終的な所望の厚さまで沈着される。影付け領域によって例示されるように、中間層150が誘電層130の最終の(例えば、所望の)厚さに非常に近いので、窒素原子は誘電層130の全体にわたって完全に分配される。」(【0016】)

〔本e〕「図3は、本発明の実施態様にしたがって、沈着された典型的な誘電層の濃度プロファイルを例示する。典型的な濃度プロファイルは、二次イオン質量スペクトロスコピー(SIMS)を使用して得られた。図3に例示された実施態様において、誘電層はAl_(2)O_(3)から構成される。濃度レベル310、320、330及び340は、アルミニウム(Al)、酸素(O)、窒素(N)、及びシリコン(Si)の濃度レベルをそれぞれ示す。本発明の実施態様にしたがって、誘電層は原子層沈着(ALD)を使用する中間の厚さまで沈着された。遠隔のプラズマ窒化(RPN)は、中間の厚さの誘電層に窒素を組み込むために使用された。次いで、ALDは、最終的な所望の厚さまで誘電層を沈着するために使用された。本発明の例示された実施態様において、参照番号350は、窒素が基板と誘電層との間のインターフェースの近傍で濃縮されたことを示す。」(【0031】)

〔本f〕本発明の実施形態による沈着された典型的な誘電層の濃度を示す図である図3には、
「処理:
・10オングストロームのAl_(2)O_(3)・RPN、250℃、3分間
・20オングストロ-ムのAl_(2)O_(3)・熱なまし、800℃、酸素1%」
と記載されるとともに、アルミニウム(Al)、酸素(O)、窒素(N)、及びシリコン(Si)の濃度レベルが示されている。

以上を前提として、補正後の請求項1に記載された「窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」との技術的事項が、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たに導入されたものであるか否かについて以下に検討する。

まず、本願当初明細書等には、上記摘記事項〔本a〕の「本発明の実施態様は、窒素原子が実際に誘電層内のいかなる場所にも濃縮されることを可能にする。」との記載、上記摘記事項〔本b〕の「中間の厚さの影付けされたエリア135は、本発明の例示された実施態様において、窒素原子が基板105とのインターフェースで濃縮されたことを示す。」との記載、上記摘記事項〔本c〕の「影付け領域によって例示されるように、窒素原子は誘電層125の下半分で最初に分配される。したがって、図1Bは、従来の事前の窒化処理又は後の窒化処理を使用して可能でない窒化濃度の概略図である。」との記載、上記摘記事項〔本d〕の「影付け領域によって例示されるように、中間層150が誘電層130の最終の(例えば、所望の)厚さに非常に近いので、窒素原子は誘電層130の全体にわたって完全に分配される。」との記載、及び上記摘記事項〔本f〕の「本発明の例示された実施態様において、参照番号350は、窒素が基板と誘電層との間のインターフェースの近傍で濃縮されたことを示す。」との記載はあるものの、補正後の請求項1に記載された「窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」した点に対応する明示的な記載はない。

そして、本願当初明細書等の図3には、「本発明の実施態様にしたがって、沈着された典型的な誘電層の濃度プロファイル」として、窒素(N)の濃度レベルが330が示されるとともに、参照番号350として、窒素が基板と誘電層との間のインターフェースの近傍で濃縮されたことが示されている(上記摘記事項〔本e〕参照)が、そもそも図3に示された濃度プロファイルは、上記摘記事項〔本e〕及び〔本f〕の記載からすると、最終的な所望の厚さに沈着された誘電層のものと考えざるを得ず、初期の誘電層内でどのように窒素等が分配(分布)していたかを示すものでないことは明らかであるから、図3の記載をもって、上記「窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」との技術的事項の示唆があるとも到底いえない。
なお、上記摘記事項〔本f〕の記載からすると、図3に示された典型的な誘電層(Al_(2)O_(3))について、その初期の膜厚は、10オングストローム(1nm)であり、最終的な膜厚は、30オングストローム(3nm)であると認められるが、図3に示される窒素の濃度レベルは、少なくとも表面(膜厚0)から膜厚3nm以下の範囲内では最大になっていないことからしても、図3が「主に初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」との技術的事項を示唆しないものであることは明らかである。

この点について、請求人は、平成21年7月7日付け意見書において、
「本願の願書に最初に添付した明細書の段落(0009)には、実質的に
(i)半導体基板上に、中間の厚さで誘電層が設置され、
(ii)次に、中間厚さの誘電層に、窒化処理が行われ、誘電層に窒素が組み込まれ、
(iii)その後、最終厚さまで誘電層が設置されること、および
(iV)窒素が初期の誘電層内で実質的に全体に濃縮される
ことが記載されています。
また、図3には、初期の誘電層内の窒素の濃度プロファイルが示されており、この図から、Al_(2)O_(3)誘電層が約10Åの厚さを有すること、および窒素プロファイル350は、ベル型形態のプロファイルを示し、初期の誘電層内全体に分布していることがわかります。さらに、窒素プロファイルは、厚さ約5Åの位置、すなわち10Åの初期の誘電層厚さの中心領域で最大ピークを示しています。
以上のことから、本願の願書に最初に添付した明細書等には、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」してことが十分に示されていることは明らかです。」
と主張している。
しかしながら、本願当初明細書等の【0009】には、「本発明の実施態様は、窒素原子が実際に誘電層内のいかなる場所にも濃縮されることを可能にする。」等の記載があるのみで、「窒素が初期の誘電層内で実質的に全体に濃縮される」ことは記載も示唆もされていないし、また、「本発明の実施態様による沈着された典型的な誘電層の濃度を示す図」である図3についても、上記摘記事項〔本e〕及び〔本f〕の記載からすると、「初期の誘電層内の窒素の濃度プロファイル」を示すものとは認められないことは、上述のとおりであり、さらに、上記図3の横軸が表すものが、「膜厚」であり、その単位が「nm」であることからすると、当該図3から「Al_(2)O_(3)誘電層が約10Åの厚さを有すること、および窒素プロファイル350は、ベル型形態のプロファイルを示し、初期の誘電層内全体に分布していることがわかります。さらに、窒素プロファイルは、厚さ約5Åの位置、すなわち10Åの初期の誘電層厚さの中心領域で最大ピークを示しています」というような認定を行うことは、極めて困難なことである。
したがって、上記主張は、採用することができない。

加えて、本願当初明細書等には、他に上記「窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」との技術的事項を示唆するような記載は見あたらない。

以上のとおりであるから、補正後の請求項1に記載された「窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」との技術的事項は、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たに導入されたものである。

3.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 平成21年3月31日付け拒絶理由通知(最後)の概要
平成21年7月7日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面、並びに平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲であると認める。

これに対して、当審において、平成21年3月31日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。

〔理由1〕
平成18年12月28日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項15には、その「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」されることが記載されている(なお、当該記載における「前記初期層」は、「前記初期の誘電層」を誤記したものと認められる。)が、このような技術的事項は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たに導入されたものといわざるを得ない。

〔理由2〕
本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項、同条第6項第1号又は同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項15には、その「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」されることが記載されているが、本願明細書及び図面には、これに対応する技術的事項の記載がないので、本願の請求項1、15に係る発明及びこれらを引用する請求項2?14及び16?29に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)本願明細書及び図面には、「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」するとの発明特定事項を含む本願請求項1?29に係る発明の具体的な製造方法が記載されていないので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?29に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(3)請求項10には、「基本的な半導体」との記載があるが、どのような半導体を意味するのか明確でない。

〔理由3〕
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項1?14、21?23
・引用文献1:特開2003-60198号公報
引用文献2:特開2001-189314号公報
引用文献3:特開2003-69011号公報

第4 当審の判断
1.新規事項追加の有無(特許法第17条の2第3項)について
平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項15には、その「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」されることが記載されている(なお、当該記載における「前記初期層」は、「前記初期の誘電層」を誤記したものと認められる。)が、このような技術的事項が、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たに導入されたものといわざるを得ないことは、上記「第2 〔理由〕2.」において述べたとおりであり、したがって、平成18年12月28日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.実施可能要件及びサポート要件充足性(特許法第36条第4項及び第6項第1号)について
平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項15には、その「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」されることが記載されているが、本願明細書及び図面には、これに対応する技術的事項の記載がないので、本願の請求項1、15に係る発明及びこれらを引用する請求項2?14及び16?29に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本願明細書及び図面には、「初期の誘電層に窒素を組み込むステップ」において、「窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮」するとの発明特定事項を含む本願請求項1?29に係る発明の具体的な製造方法が記載されていないので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?29に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本願は、特許法第36条第4項又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.特許請求の範囲の明確性(特許法第36条第6項第2号)について
特許請求の範囲の請求項10には、「基本的な半導体」との記載があるが、どのような半導体を意味するのか依然として明確でない。
よって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4.進歩性(特許法第29条第2項)について
(4-1)本願発明
上記のとおり平成21年7月7日付け手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、
「【請求項1】
半導体基板に誘電層を形成する方法であって、該方法は、
(1)中間の厚さに初期の誘電層を沈着するステップと、
(2)窒化処理で中間の厚さの前記初期の誘電層に窒素を組み込むステップと、
(3)最終的な厚さを有する誘電層を形成するために最終的な誘電層を沈着するステップと、を有し、
前記ステップ(1)で、前記中間の厚さは前記誘電層の最終的な厚さよりも薄く、前記ステップ(2)で、窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮し、前記ステップ(3)で、前記最終的な誘電層の沈着は、主に、窒化された初期の誘電層の最上面に発生することを特徴とする方法。」
であると認める。
なお、平成18年12月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1には、「前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期層の中央域の範囲内に濃縮し」と記載されているが、「前記初期層」が「前記初期の誘電層」を誤記したものであることは、明らかであるので、本願発明を上記のように認定した。

(4-2)引用例及びその記載事項並びに引用発明
これに対して、当審における、平成21年3月31日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-60198号公報(以下、「引用文献1」という。)及び特開2001-189314号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(4-2-1)引用文献1
〔1a〕「【請求項10】 半導体基板と、上記半導体基板上に設けられたゲート電極と、上記半導体基板と上記ゲート電極との間に介設され、少なくとも一部にシリコン酸窒化膜を含むゲート絶縁膜とを備えた半導体装置の製造方法であって、
半導体基板上にベースシリコン酸化膜を形成する工程(a)と、
プラズマにより発生させた窒素ラジカル雰囲気中で、上記半導体基板を常温?800℃のいずれかの温度に保持した状態で、上記ベースシリコン酸化膜に窒素を導入することにより、上記シリコン酸窒化膜を形成する工程(b)とを含み、
上記シリコン酸窒化膜は、上記半導体基板に接する領域における窒素濃度が0atm %(アトミック%)より大きく2atm%以下であり、かつ、最大窒素濃度を示す領域における窒素濃度が5atm%以上で20atm%以下であるような窒素濃度プロファイルを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
・・・
【請求項12】 請求項10又は11記載の半導体装置の製造方法において、
上記工程(b)の後で、CVDにより、上記シリコン酸窒化膜の上にシリコン窒化膜を堆積する工程をさらに含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

〔1b〕「図16(b)に示すように、シリコン酸窒化膜を形成する際に、窒化性ガスとしてN_(2)O,NO,NH_(3)などを用いた場合には、ゲート絶縁膜102中を窒化種又は酸窒化種が拡散していき、ゲート絶縁膜102とSi基板101との間の境界付近の領域で窒化反応又は酸窒化反応が生じる。その結果、窒素濃度のピークは、ゲート絶縁膜102内におけるシリコン基板101との境界付近に存在する。そして、ゲート絶縁膜中における窒素の存在により、ゲートリークが抑制される。また、窒素の存在により、ゲート電極中の不純物のSi基板への浸みだしに起因するトランジスタのしきい値電圧の変動などの不具合を抑制することができる。・・・
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の構造を有するシリコン酸窒化膜からなるゲート絶縁膜を採用した場合、ゲート絶縁膜の誘電率を高めるためにゲート絶縁膜102中の窒素含有量を増大させると、シリコン基板101とゲート絶縁膜102との間の境界付近の窒素濃度も上昇する。特に、Si基板101とゲート絶縁膜102との間の界面に過剰な窒素が存在することにより、トランジスタの移動度の低下(駆動力の低下)、ストレス印加後のホールまたは電子トラップによるトランジスタしきい値電圧の変動、などの不具合が生じるおそれがある。」(【0006】?【0007】)

〔1c〕「これにより、シリコン酸窒化膜の半導体基板に接する領域における窒素濃度が0?2atmの範囲にあるので、半導体基板に大きなストレスを与えることがなく、ストレスに起因する半導体装置の動作特性の悪化を抑制することができる。一方、シリコン酸窒化膜中における最大窒素濃度が5?20atm%であることにより、ゲート電極から半導体基板への不純物の浸みだしの抑制により半導体装置のしきい値電圧の変動等を抑制することができるとともに、ゲートリークの抑制及びゲート絶縁膜の電気的厚みの低減のために必要な程度に高い窒素濃度を確保することができるので、半導体装置の駆動力の向上を図ることができる。」(【0010】)

〔1d〕「本発明の第2の半導体装置の製造方法は、半導体基板と、上記半導体基板上に設けられたゲート電極と、上記半導体基板と上記ゲート電極との間に介設され、少なくとも一部にシリコン酸窒化膜を含むゲート絶縁膜とを備えた半導体装置の製造方法であって、半導体基板上にベースシリコン酸化膜を形成する工程(a)と、プラズマにより発生させた窒素ラジカル雰囲気中で、上記半導体基板を常温?800℃のいずれかの温度に保持した状態で、上記ベースシリコン酸化膜に窒素を導入することにより、上記シリコン酸窒化膜を形成する工程(b)とを含み、上記シリコン酸窒化膜は、上記半導体基板に接する領域における窒素濃度が0atm%(アトミック%)より大きく2atm%以下であり、かつ、最大窒素濃度を示す領域における窒素濃度が5atm%以上で20atm%以下であるような窒素濃度プロファイルを有する。・・・
この方法により、ベースシリコン酸化膜に対する窒化処理条件を最適化することで、ストレスに起因する半導体装置の動作特性の悪化の抑制と、ゲート電極から半導体基板への不純物の浸みだしの抑制による半導体装置のしきい値電圧の変動等の抑制と、ゲート絶縁膜の電気的厚みの低減による半導体装置の駆動力の向上とを、併せて実現しうるゲート絶縁膜が得られる。・・・
上記ステップ(b)の後で、上記半導体基板を上記工程(b)よりも高い温度に保持した状態で、不活性ガス雰囲気中でアニールする工程をさらに含むことにより、プラズマ窒化処理の際に生じたシリコン酸窒化膜中のダメージを回復させることができる。・・・
上記工程(b)の後で、CVDにより、上記シリコン酸窒化膜の上にシリコン窒化膜を堆積する工程をさらに含むことにより、スタック型ゲート絶縁膜を有する半導体装置が得られる。」(【0021】?【0024】)

〔1e〕「(第2の実施形態)図4(a)?(c)は、本発明の第2の実施形態の半導体装置の製造工程のうちゲート絶縁膜を形成する工程を抜き出して示す断面図である。本実施形態の説明においては、半導体装置(MISトランジスタ)の基本的な構造は、第1の実施形態(図1(a)参照)と同じであり、その図示を省略する。・・・
まず、図4(a)に示すように、チャンバ(図示せず)内にSi基板1を設置し、Si基板1を1000?1050℃程度に加熱しながらチャンバ内に酸化性ガス15を流して、Si基板1の表面領域を酸化する。酸化性ガスとしては、O_(2) や水蒸気などがある。
・・・
これにより、図4(b)に示すように、Si基板1の上に、厚み2.5nmのシリコン酸化膜17が形成される。次に、チャンバ内において窒素を含む雰囲気下で、プラズマ中の窒素ラジカル16をシリコン酸化膜17に照射する。このとき、窒素ラジカル16が存在する雰囲気中で、基板を約750℃の温度に保持する。これにより、図4(c)に示すように、厚み約3nmのシリコン酸窒化膜であるゲート絶縁膜2Bが形成される。このとき、プラズマとしては、リモートプラズマ(RPN)を用いることができる。このときの適正な条件については、後述する。・・・
その後の工程の図示は省略するが、ゲート絶縁膜2B上へのポリシリコン膜の堆積と、ポリシリコン膜及びゲート絶縁膜2Bのパターニングによるゲート電極3の形成と、ゲート電極3をマスクとする不純物イオンの注入及びその活性化のための熱処理(例えばRTA)によるソース・ドレイン領域4の形成とを経て、図1(a)に示すような半導体装置(MISトランジスタ)が形成される。・・・
図5は、本実施形態の半導体装置(MISトランジスタ)のゲート絶縁膜2B中の窒素濃度プロファイルを示す図である。同図に示すように、本実施形態の半導体装置中のゲート絶縁膜2Bにおいては、Si基板1に接する領域にはほとんど窒素が存在せず、ゲート電極3に近い領域のみに、5?20atm%の濃度の窒素を含むピークが形成されている。
・・・
本実施形態の半導体装置(MISトランジスタ)によれば、ゲート絶縁膜2B中のSi基板1に接する領域における窒素濃度を極めて低濃度に抑制しつつ、ゲート絶縁膜2Bのゲート電極3に近い領域のみに高濃度の窒素を導入することができる。したがって、本実施形態のMISトランジスタにより、第1の実施形態と同様に、ゲート絶縁膜のSi基板に接する領域においては、窒素濃度をゲート絶縁膜とSi基板との間の界面のダングリングボンドやブロークンボンドを窒素によって置換しうる程度に維持しつつ、ゲート電極との境界付近においては、窒素濃度を不純物の浸みだしを抑制する程度に高め、かつ、ゲート絶縁膜の比誘電率をゲートリークの増大を抑制しうる程度に高めることができる。・・・
したがって、本実施形態によれば、ゲート絶縁膜2B中の窒素濃度プロファイルの改善により、不純物の浸みだしに対する耐性と、ゲートリークの抑制と、トランジスタの駆動力の低下の抑制という効果を併せて発揮することができる。」(【0047】?【0053】)

〔1f〕「(第4の実施形態)図8(a)?(d)は、本発明の第4の実施形態の半導体装置の製造工程のうちゲート絶縁膜を形成する工程を抜き出して示す断面図である。本実施形態の説明においては、半導体装置(MISトランジスタ)の基本的な構造は、ゲート絶縁膜がスタック型構造になる点を除けば、第1の実施形態(図1(a)参照)と同じであり、その図示を省略する。・・・
まず、図8(a)に示すように、チャンバ(図示せず)内にSi基板1を設置し、Si基板1を800℃程度に加熱しながらチャンバ内に酸化性ガス15を流して、Si基板1の表面領域を酸化する。酸化性ガスとしては、O_(2 )や水蒸気などがある。・・・
これにより、図8(b)に示すように、Si基板1の上に、厚み2.5nmのシリコン酸化膜17が形成される。次に、チャンバ内において、窒素を含む雰囲気下で、プラズマ中の窒素ラジカル16をシリコン酸化膜17に照射する。このとき、窒素ラジカル16が存在する雰囲気中で、基板を約500℃の温度に保持する。これにより、図8(c)に示すように、厚み約3nmのシリコン酸窒化膜20が形成される。このとき、プラズマとしては、マイクロウェーブで発生させたプラズマを用いることができる。また、例えばICPプラズマやヘリコン波プラズマなどを用いる場合には、基板を加熱することなく室温で窒化処理することができる。・・・
この熱処理の際に、700℃以下の低温領域を用いることにより、窒化種がシリコン酸化膜17中を拡散するのを抑制するとともに、窒素ラジカル16が存在する雰囲気を用いることにより、シリコン酸化膜17の窒化反応性を高めることができ、シリコン酸化膜17の表面のみを窒化することが可能となる。よって、シリコン酸化膜17中における窒化種の拡散を抑制するためには、窒化処理温度は、700℃以下であることが好ましい。
・・・
さらに、LPCVD法などを用いて、チャンバ内にアンモニア/シラン混合ガス21を流すことにより、図8(d)に示すように、シリコン酸窒化膜20の上にシリコン窒化膜22を堆積する。これにより、シリコン窒化膜22とシリコン酸窒化膜20とを積層してなるスタック型のゲート絶縁膜2Dが形成される。・・・
その後の工程の図示は省略するが、ゲート絶縁膜2D上へのポリシリコン膜の堆積と、ポリシリコン膜及びゲート絶縁膜2Dのパターニングによるゲート電極3の形成と、ゲート電極3をマスクとする不純物イオンの注入及びその活性化のための熱処理(例えばRTA)によるソース・ドレイン領域4の形成とを経て、図1(a)に示すような半導体装置(MISトランジスタ)が形成される。・・・
ここで、本実施形態では、図8(d)に示すシリコン窒化膜22の堆積前に、核の形成やインキュベーションタイムの制御を目的として、アンモニアガス単独でのパージを行なう。そして、その後、アンモニア/シラン混合ガスによるCVDを行なって、シリコン窒化膜22を堆積する。・・・
一般には、シリコン酸化膜などに長時間のアンモニアガスのパージを行なうと、シリコン酸化膜のうちSi基板に近い領域が窒化されて、Si基板にストレスが印加されるなど、ゲート絶縁膜-基板間の界面特性の低下を招くことが多い。しかし、本実施形態の製造方法においては、シリコン酸窒化膜20の表面領域がすでに強く窒化されているために、アンモニアパージ時間を短時間で済ませることができるとともに、シリコン酸窒化膜20中の窒化種の拡散も抑制されるため、シリコン酸窒化膜20のSi基板1との界面に接する領域における窒素濃度を低く抑制することが可能となる。・・・
図9は、従来のSiN/SiO_(2)スタック型ゲート絶縁膜,本実施形態のスタック型ゲート絶縁膜及びSiO_(2)単独膜における容量のバイアス依存特性を示す図である。同図に示すように、本実施形態のスタック型ゲート絶縁膜2Dは、従来のスタック型ゲート絶縁膜に比べて、ゲートバイアスがより高い領域まで大きな容量値を保持することができる利点がある。・・・
本実施形態の半導体装置(MISトランジスタ)によれば、図8(a)?(c)に示す工程で、第2の実施形態の製造工程における図4(a)?(c)と同じ処理を行なうので、第2の実施形態の効果と基本的には同じ効果を発揮することができる。加えて、本実施形態では、図8(d)に示す工程で、短時間のアンモニアガスパージの後に、窒化膜を堆積してスタック型ゲート絶縁膜2Dを形成するので、ゲートバイアスがより高い領域まで大きな容量値を保持しうるスタック型ゲート絶縁膜を有する半導体装置を得ることができる。」(【0069】?【0078】)

〔1g〕図5に示されるゲート絶縁膜中の窒素濃度プロファイルによれば、最大窒素濃度を示す領域は、ゲート電極側に寄ってはいるものの、ゲート絶縁膜の表面より下の領域であることが読み取れる。

(4-2-2)引用文献2
〔2a〕「【発明の属する技術分野】本発明は、不揮発性メモリの半導体装置の製造方法に係わり、特に、トンネル酸化膜としてオキシナイトライド膜を利用する場合の半導体装置の製造方法に関する。」(【0001】)

〔2b〕「[第1の実施例]第1の実施例は、オキシナイトライド膜の形成において、従来の熱酸化膜の代わりにHTO(High Temperature Oxide)膜を使用し、窒化ガスとしてNH_(3)ガスを使用した場合である。このHTO膜は、減圧CVD法により形成する酸化膜である。その成膜には、SiH_(4)ガス、SiH_(2)Cl_(2)ガス、SiCl_(4)等のシリコン材料ガスと、N_(2)Oガス、NOガス等の酸化剤が用いられる。ここで、SiCl_(4)ガスとN_(2)Oガスを使用する場合、水素の含有量の少ない酸化膜が形成できる。水素の含有量の少ない酸化膜を用いれば、オキシナイトライド膜の電気的特性が向上できる。このため、第1の実施例によるHTO膜の形成は、例えばSiCl_(4)ガスとN_(2)Oガスを使用する。・・・
図1は、第1の実施例によるオキシナイトライド膜を形成するためのシーケンスを示す。以下、図1に示すシーケンスに沿って、オキシナイトライド膜の形成について説明する。
・・・
まず、減圧CVD装置を用いて、圧力が例えば50Torr以下で、温度が例えば700℃乃至950℃の範囲に保たれた反応管内に、材料ガスとしてN_(2)Oガス(1000sccm)とSiCl_(4)ガス(10sccm)が供給される。この材料ガスの供給は、シリコン基板上に膜厚が例えば10ÅのHTO膜が得られるまで継続される。その後、反応管内にN_(2)ガス(1000sccm)が供給され、このN_(2)ガスの供給はHTO膜の形成に使用した材料ガスの置換がなされるまで継続される。・・・
この材料ガスの置換が終了した後、圧力が例えば50Torr以下で、温度が例えば700℃乃至950℃の範囲に保たれた反応管内に、NH_(3)ガス(1000sccm)を例えば5分間供給することにより、先に形成したHTO膜の窒化処理が行われる。その後、反応管内にN_(2)ガス(1000sccm)が供給され、このN_(2)ガスの供給はNH_(3)ガスの置換がなされるまで継続される。・・・
このNH_(3)ガスの置換が終了した後、反応管内に酸素ガスが供給され、再酸化が行われる。その後、反応管にN_(2)ガス(1000sccm)が供給され、反応管内の置換処理が行われる。・・・
このように、10ÅのHTO膜の形成から窒化処理後の再酸化処理及び置換処理までの工程を1サイクルとする。この1サイクルをオキシナイトライド膜の所望の膜厚が得られるまで繰り返される。このようにして、図2に示すように、シリコン基板上に例えば80Åのオキシナイトライド膜が形成される。・・・
上記第1の実施例によれば、HTO膜の形成とその窒化処理を繰り返すことによりオキシナイトライド膜が形成される。その結果、図3に示すように、オキシナイトライド膜中の全域に渡って均一な窒素濃度プロファイルが得られる。・・・
尚、図4に示すように、再酸化処理は各サイクル毎に行わず、所望のオキシナイトライド膜が形成された後に一括して行ってもよい。この場合、上記第1の実施例と同様に、オキシナイトライド膜中の全域に渡って均一な窒素濃度プロファイルが得られる。さらに、プロセス時間が短縮できる。」(【0023】?【0030】)

(4-2-3)引用発明
引用文献1の上記摘記事項〔1a〕?〔1g〕、図4、図5及び図8の記載を総合勘案すると、引用文献1には、
「半導体基板と、上記半導体基板上に設けられたゲート電極と、上記半導体基板と上記ゲート電極との間に介設され、少なくとも一部にシリコン酸窒化膜を含むゲート絶縁膜とを備えた半導体装置において、上記半導体基板上に上記ゲート絶縁膜を形成する方法であって、
半導体基板上にベースシリコン酸化膜を形成する工程(a)と、
プラズマにより発生させた窒素ラジカル雰囲気中で、上記半導体基板を常温?800℃のいずれかの温度に保持した状態で、上記ベースシリコン酸化膜に窒素を導入することにより、上記シリコン酸窒化膜を形成する工程(b)とを含み、
上記シリコン酸窒化膜は、上記半導体基板に接する領域における窒素濃度が0atm%より大きく2atm%以下であり、かつ、ゲート電極に近い最大窒素濃度を示す領域における窒素濃度が5atm%以上で20atm%以下であるような膜厚の全体にわたる非一様な窒素濃度プロファイルを有し、
上記工程(b)の後で、CVDにより、上記シリコン酸窒化膜上にシリコン窒化膜を堆積する工程をさらに含む半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する方法」の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

(4-3)対比
そこで、本願発明と引用文献1発明とを対比すると、引用文献1発明における「少なくとも一部にシリコン酸窒化膜を含むゲート絶縁膜」、「ベースシリコン酸化膜」、「シリコン窒化膜」及び「CVD」は、本願発明における「誘電層」、「初期の誘電層」、「最終的な誘電層」及び「沈着」に相当するので、両者は、次の点で一致する。

<一致点>
「半導体基板に誘電層を形成する方法であって、該方法は、(1)中間の厚さに初期の誘電層を形成するステップと、(2)窒化処理で中間の厚さの前記初期の誘電層に窒素を組み込むステップと、(3)最終的な厚さを有する誘電層を形成するために最終的な誘電層を沈着するステップと、を有し、前記ステップ(1)で、前記中間の厚さは前記誘電層の最終的な厚さよりも薄く、前記ステップ(2)で、窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の膜厚方向における所定域の範囲内に濃縮し、前記ステップ(3)で、前記最終的な誘電層の沈着は、主に、窒化された初期の誘電層の最上面に発生する方法」

一方で、両者は次の点で相違する。

<相違点1>
初期の誘電層を形成する手段が、本願発明では「沈着」であるのに対して、引用文献1発明では、「沈着」か否か不明な点

<相違点2>
ステップ(2)における窒素の分配が濃縮する領域が、本願発明では、「主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内」であるのに対して、引用文献1発明では、「ゲート電極に近い」領域である点

(4-4)判断
以下、上記相違点について検討する。

<相違点1について>
引用文献2の上記摘記事項〔2a〕及び〔2b〕によれば、引用文献2には、シリコン基板上にトンネル酸化膜として形成されるオキシナイトライド膜の形成方法として、減圧CVD法(本願発明の「沈着」に相当)によるHTO膜の成膜と、NH_(3)による窒化とを繰り返し行う工程を含む方法が記載されており、この内のCVD、即ち沈着による成膜方法を引用文献1発明におけるベースシリコン酸化膜、即ち「初期の誘電層」の形成手段に適用することは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は、平成21年7月7日付け意見書において、「引用文献1では、ゲート電極にバイアス電圧が印加された際に、ゲート誘電層に電荷は流れません。一方、引用文献2では、ゲート電極にバイアス電圧が印加されると、ゲート誘電層に電荷が流れます。従って、両者の動作および発想は、全く逆であり、当業者には、2つの引用文献を組み合わせる理由がありません。動作が全く反対の装置を組み合わせても、適正な動作は得られないからです。従って、当業者は、引用文献1、2を組み合わせることはできません。」と主張している。
しかしながら、引用文献2に記載された発明における「オキシナイトライド膜」が、不揮発性メモリのトンネル酸化膜として利用されるものであるとしても、常に高電界を印加して電荷のトンネル現象を発生させるものではなく、そのようなトンネル現象が生じない範囲の電界を印加して情報の読み出し動作等を行うことも通常行われることであるから、引用文献1発明と引用文献2記載の発明に係る半導体装置が「動作および発想が全く逆である」とはいえない。よって、この点は、引用文献2に記載の沈着による初期の誘電層の成膜方法を引用文献1発明に適用するに際しての阻害事由とはいえない。
したがって、上記主張は、採用することができない。

<相違点2について>
引用文献1の上記摘記事項〔1g〕によれば、図5に示されるゲート絶縁膜中の窒素濃度プロファイルから、最大窒素濃度を示す領域は、ゲート電極側に寄ってはいるものの、ゲート絶縁膜の表面より下の領域であることが読み取れるから、この領域は「中央域」の一部を構成すると考えられる。よって、この点は実質的な相違点ではない。
また、仮に、上記「中央域」が、膜厚の中央の領域を意味するとしても、引用文献1発明において、膜厚の中央の領域に濃縮した窒素濃度プロファイルを採用することは、当業者が適宜なし得た設計的事項といえる。

なお、請求人は、平成21年7月7日付け意見書において、「引用文献1には、図5の説明として、「Si基板1に接する領域には、ほとんど窒素が存在せず、ゲート電極3に近い領域のみに、5?20atm%の濃度の窒素を含むピークが形成されている」と記載されています(段落0051)。このことから、窒素は、ゲート絶縁膜の全体に存在してはいないこと、すなわち、Si基板の界面には、実質的に存在しないこと、および窒素のピークがゲート絶縁膜内における外方側にあることは明らかです。」と主張している。
しかしながら、引用文献1の上記摘記事項〔1a〕、〔1d〕、〔1e〕及び〔1g〕の記載からすれば、シリコン酸窒化膜からなるゲート絶縁膜の膜厚方向の窒素濃度プロファイルを見たとき、当該ゲート絶縁膜と半導体基板とが接する領域において、上記窒素濃度は、「0atm%より大きく2atm%以下」の最低値をとるものと認められるので、上記ゲート絶縁膜と半導体基板とが接する領域以外の領域においてはもちろんのこと、上記ゲート絶縁膜と半導体基板とが接する領域においても少量の窒素が存在することは明らかであり、引用文献1記載の上記ゲート絶縁膜において、「窒素は、ゲート絶縁膜の全体に存在してはいない」とはいえない。
また、本願明細書及び図面には、「初期の誘電層の中央域の範囲」がどのような範囲であるのかについての具体的な記載は見あたらないから、上記「中央域」を上記初期の誘電層の上面及び下面の近傍の領域を除く領域と広義に解釈することも可能であるといえるところ、引用文献1の図5に示されるゲート絶縁膜中の窒素濃度プロファイルからは、その最大窒素濃度を示す領域が、ゲート電極側に寄っているもののゲート絶縁膜の表面より下の領域であることが読み取れるから、当該最大窒素濃度を示す領域、即ち窒素の濃度が濃縮する領域は、広義の「中央域」の範囲に含まれるものと認められる。よって、「窒素のピークがゲート絶縁膜内における外方側にあることは明らか」であるとの主張は、前提を欠くものといわざるをえない。
したがって、上記主張は、採用することができない。

さらに、請求人は、同じく平成21年7月7日付け意見書において、「引用文献1には、「窒素種がシリコン酸窒化膜13内を拡散するのを抑制するとともに...シリコン酸窒化膜13の表面のみを窒化することが可能となる」と記載されており(段落0043)、引用文献1では、シリコン酸窒化膜13の内部での窒素の濃縮が、全く意図されていないこと、あるいはむしろシリコン酸窒化膜13の内部での窒素の濃縮を回避しようとしていることは、当業者には明らかです。従って、引用文献1に接した当業者が、「前記ステップ(2)で、窒素は中間の厚さの初期の誘電層にわたって非一様に分配され、前記窒素の分配は、前記初期の誘電層の全体にわたるが、主に前記初期の誘電層の中央域の範囲内に濃縮」するという特徴を見出すことは不可能です。」とも主張している。
しかしながら、引用文献1の図5には、「ゲート電極3に近い領域のみに、5?20atm%の濃度の窒素を含むピークが形成されている」ことが示されており、上記ピークにおいて、窒素が濃縮されていることは明らかであるから、上記主張は、採用することができない。

そして、本願発明の効果は、引用文献1発明及び引用文献2に記載された事項から予測可能な範囲のものであって、格別顕著でない。

したがって、本願発明は、引用文献1発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、請求人(特許出願人)が平成18年12月28日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶されるべきものである。
また、本願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項、同条第6項第1号又は同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶されるべきものである。
さらに、本願発明(本願請求項1に係る発明)は、引用文献1発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-24 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-11 
出願番号 特願2004-137665(P2004-137665)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 55- WZ (H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 粟野 正明
鈴木 正紀
発明の名称 誘電層を形成する方法及び関連するデバイス  
代理人 伊東 忠彦  

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