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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1209219
審判番号 不服2005-10302  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-03 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 平成 7年特許願第505570号「ヒドロキシ酸を含有する化粧品用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 2月 9日国際公開、WO95/03779、平成 9年 1月28日国内公表、特表平 9-500889〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年7月29日(パリ条約による優先権主張 1993年7月30日,米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年12月27日付で手続補正がなされたが、平成17年2月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年6月3日に拒絶査定不服審判が請求され、平成17年7月4日付で手続補正がなされたものであり、その後、当審から審尋がなされ、それに応答して平成21年3月31日付の回答書及び平成21年4月3日付の上申書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?10に係る発明は、平成17年7月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 i)0.1?10%の、C_(7)?C_(30)β-ヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩、C_(1)?C_(25)α-ヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩並びにそれらの混合物からなる1種またはそれ以上の角質溶解剤、
ii)各々0.0001?5重量%の、
(a)C_(20)?C_(100)サポニンである水溶性抗刺激剤および
(b)1種またはそれ以上のC_(7)?C_(30)多環式ポリエン、C_(15)?C_(40)テルペンおよびそれらの混合物からなる水不溶性抗刺激剤
からなる抗刺激剤組合わせであって、該水溶性抗刺激剤および該水不溶性抗刺激剤が約20:1ないし1:20の相対重量比にて存在する該抗刺激剤組合わせおよび
iii)1?99.8998重量%の化粧品上受容され得るキャリヤー
からなる化粧品用組成物。」

3.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先権主張日前の刊行物である、特開昭63-280006号公報(以下、「引用例A」という。)、特開平3-157311号公報(以下、「引用例B」という。)、及び特開昭61-72707号公報(以下、「引用例C」という。)には、次のような技術事項が記載されている。なお、○付き数字は、<>で表記し、下線は当審で付したものである。

[引用例A]
(a-1)「2.次の<1>?<6>、
<1> オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸から選ばれる脂肪酸、
<2> コレステロール、コレステロールエステル類、ポリオキシエチレンコレステロールおよびスクワレンから選ばれる皮脂成分またはその誘導体、
<3> ステアリルグリチルレチネート、グリチルリチン酸塩およびα-ビサボロールから選ばれる抗炎症剤、
<4> ガングリオシド、
<5> カルシウム拮抗剤、
<6> オレイン酸エステル系またはイソステアリン酸エステル系界面活性剤
から選ばれる一種若しくは二種以上の物質を含有する皮膚刺激感抑制剤を配合してなる化粧料。」(特許請求の範囲の請求項2、1頁右下欄2?18行参照)
(a-2)「本発明は皮膚刺激感抑制剤及びこれを配合してなる化粧料に関し、更に詳細には化粧料等の皮膚外用剤を皮膚に塗布した場合に生ずる炎症を伴なわない一過性の刺激感の抑制剤及びこれを配合することにより該刺激感が抑制された化粧料に関する。」(2頁左上欄1?6行参照)
(a-3)「化粧料等の皮膚外用剤を皮膚に塗布したとき感じる「ヒリヒリする」、「チクチクする」、「痛がゆい」等の刺激感は、通常炎症を伴わず、一過性であり、重度の障害を伴わないことから、これまで無視されたり「肌に合わない」という表現でかたづけられていた。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかし、近年化粧品等の皮膚外用剤の安全性試験法の発達により、他の炎症、肌あれ等の皮膚症状を伴う皮膚障害は大きく減少してきた。
これに伴い、従来軽視される傾向にあった前記皮膚刺激感が大きな問題となってきた。この皮膚刺激感の問題は、とりわけ肌の弱い人、敏感な人、化粧品の過度愛用者に高頻度にみられ、特に化粧品の分野においては消費者が一度刺激感を感じた化粧品を二度と使用しなくなってしまうことから極めて重要である。
そして、この皮膚刺激感はスティンギング(Stinging)、ティングリング(Tingling)等と命名され、その試験方法、誘因物質についての研究が行なわれている〔 P.J. Frosch and A.N. K1lgman,J.Soc.Cosmet. Chem.,28,197-209 (1977);本田ら、粧技誌、20(1),12-18(1988);岡野ら,SCCJ研究討論会講演要旨集、59-83(1986)〕。この誘因物質としては、パラオキシ安息香酸エステル類(以下単にパラベン類とする)が知られているが、本発明者らはパラベン類が誘因物質であることを確認するとともにイソプロピルメチルフェノール、安息香酸類、サリチル酸類なども皮膚刺激感を引き起こすことを見い出した。」(2頁左上欄8行?同頁右上欄18行参照)
(a-4)「本発明の皮膚刺激感抑制剤の有効成分のうち、<5>のカルシウム拮抗剤としては、ベラパミル等があげられ、<8>のオレイン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノオレエート、グリセリルモノオレエート、グリセリルジオレエート等が挙げられる。また、イソステアリン酸エステル系界面活性剤としては、グリセリルモノイソステアレート、ソルビタンモノイソステアレート等が挙げられる。該有効成分のうち特に<1>の脂肪酸、<2>のコレステロール、コレステロールステアレート、コレステロールオレエート、コレステロールイソステアレート、コレステロール12-ヒドロキシステアレート、ポリオキシエチレン(E.O.=1?50)コレステロール、<3>のα-ビサボロール、ステアリルグリチルレチネート、グリチルリチン酸ジカリウムが好ましい。」(3頁左上欄1?18行参照)
(a-5)「本発明の皮膚刺激感抑制剤は、パラベン類、イソプロピルメチルフェノール、安息香酸、サリチル酸類等により発生する皮膚刺激感に対して有効である・・・」(3頁左上欄19行?同頁右上欄2行参照)
(a-6)「本発明の皮膚刺激感抑制剤は、・・・パラベン類等の皮膚刺激感を呈する化粧料に有効量を配合することもできる。」(3頁右上欄8?11行参照)
(a-7)「本発明の皮膚刺激感抑制剤配合化粧料には、前記<1>?<6>の有効成分がそれぞれ次の量配合されるのが好ましい、すなわち、全化粧料組成に対して・・・<3>、・・・の場合には、0.01%以上、特に0.1?5.0%が好ましい。・・・
また2種以上を併用する場合は、組み合わせる物質によって多少異なるが、いずれか一の成分がその有効量以上となるように配合するのが好ましい。」(3頁右上欄13行?同頁左下欄6行参照)
(a-8)「本発明の化粧料には、前記有効成分のほかにその効果を損なわない範囲で通常化粧料に使用されている成分を配合することができる。・・・」(3頁左下欄7?9行参照)
(a-9)「(発明の効果)
本発明の皮膚刺激感抑制剤は近年スティンギング、ティングリング等と称され大きな問題となっている化粧料等に配合されるパラベン類等による刺激感を有意に抑制する。従って、これらの皮膚刺激感抑制剤を配合した本発明化粧料は、皮膚刺激感がなく、優れた使用感を有する。」(3頁左下欄13?19行参照)
(a-10)「(実施例)
次に実施例を挙げて本発明を説明する。
以下の実施例においては、次に示す試験方法により皮膚刺激感を判定した。なお、十分な洗顔をすることにより、パラベン類等による刺激感を再現性よく感じる者を被検者とした。
<試験方法>
洗顔クリームにて十分に洗顔(3回洗顔)し、あらかじめ皮膚刺激感が生じることがわかっているサンプルを顔面、ほほ部?眼下部に塗布し、皮膚刺激感が感じられることを確認した後、試験を実施した。
試験は、<1>サンプル塗布(0.05g/20cm^(2))、<2>皮膚刺激感の判定、<3>ティッシュペーパーにてふき取りのくり返しで行ない、1サンプルにつきブラインド法で2回実施し、各被験者の2回の平均を数値化し、総被験者の平均を皮膚刺激値(S.V.)とした。
皮膚刺激感判定基準
(判定) (判定内容) (点数)
- 何も感じない 0.0
± 違和感 0.5
±?+ わずかなピリビリ感 1.0
+ 明らかなピリピリ感 2.0
++ 痛い 4.0
+++ 非常に痛い 6.0
実施例1
常法に従い次に示す組成の乳液を製造した。
組成;
(重量%)
ステアリン酸 1.0
ベヘニン酸 0.5
流動パラフイン 3.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 0.6
牛 脂 1.2
バラオキシ安息香酸ブチル 0.1
グリセリルモノステアレート 1.5
ポリオキシエチレン(25)モノステアレート 2.3
1.3-ブチレングリコール 3.0
キサンタンガム 0.25
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
皮膚刺激感抑制物質 0?2.0
香 料 0.3
精製水 全体を100とする量
上記組成の乳液を前記試験方法に従い、皮膚刺激感を試験した。その結果を表1-1?1-8に示す。なお、表中の抑制率は無添加の場合を基準として算出した。
・・・

」(3頁左下欄20行?5頁左上欄末行参照)
(a-11)「実施例10
組成(乳液):
(%)
<1> ステアリン酸 2.0
<2> セタノール 1.0
<3> ワセリン 4.0
<4> スクワラン 6.0
<5> ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル 0.6
<6> ソルビタンモノステアレート 1.5
<7> パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
<8> 1,3-ブチレングリコール 5.0
<9> カルボキシビニルポリマー 0.2
<10> 水酸化カリウム 0.2
<11> パラオキシ安息香酸メチル 0.2
<12> 精製水 全体を100とする量
<13> 香 料 0.2
<14> 皮膚刺激感抑制物質 2.0
(コレステロール12-ヒドロキシステアレート)
<15> 皮膚刺激感抑制物質 0.5
(α-ビサボロール〕
実施例11?15 ・・・中略・・・
実施例16
組成(日焼け止めクリーム):
(%)
<1> ステアリン酸 4.0
<2> 自己乳化型クリセリルモノステアレート 3.0
<3> セタノール 1.0
<4> ジメチルポリシロキサン 2.0
<5> 流動パラフィン 8.0
<6> シノキサート 2.0
<7> スクワラン 4.0
<8> バラオキシ安息香酸ブチル 0.2
<9> トリエタノールアミン 1.0
<10> バラオキシ安息香酸メチル 0.2
<11> 精製水 全体を100とする量
<12> 酸化チタン 8.0
<13> カオリン 2.0
<14> 顔 料 適量
<15> 香 料 0.25
<16> 皮膚刺激感抑制物質 1.0
〔ステアリルグリチルレチネート〕
<17> 皮膚刺激感抑制物質 1.0
〔α-ビサボロール〕
実施例17?21 ・・・中略・・・
実施例22
組成(エモリエントクリーム):
(%)
<1> ミリスチン酸オクチルドデシル 5.0
<2> スクワラン 10.0
<3> ホホバ油 5.0
<4> ミツロウ 4.0
<5> セタノール 4.0
<6> ステアリン酸 2.0
<7> 皮膚刺激感抑制物質 2.4
(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)
<8> ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート
0.5
<9> ソルビタンモノステアレート 2.6
<10> 皮膚刺激感抑制物質 2.0
(コレステロール)
<11> バラオキシ安息香酸ブチル 0.1
<12> 1.3-ブチレングリコール 8.0
<13> バラオキシ安息香酸メチル 0.2
<14> 精製水 全体を100とする量
<15> 香 料 0.2
」(6頁左上欄2行?8頁左下欄10行参照)

[引用例B]
(b-1)「 (従来の技術)
にきび(ざ瘡)は、皮膚の体裁を醜くし、かつしばしば厄介な症状を伴い、皮脂腺に冨む皮膚の成る領域、特に、顔、頚、背に発生する。にきびの発生因子は、主として、<1>皮脂の過剰排出、<2>皮脂成分の異常、<3>毛包脂腺系排出管の閉塞、<4>毛包脂腺管内の細菌の棲息などである。これらの発生因子によって、特徴的なにきびの面皰、丘疹、膿庖等の症状が現れる。
現在、主流を占めているにきびの予防法、処置法、或いは治療法は、<1>過剰な皮脂分泌を抑制すること、<2>毛孔閉塞を除くこと、<3>細菌の増殖を抑制し、更には殺菌処理を施こすこと等にある。
例えば、従来より・・・、毛孔閉塞を解消する一助となる角質溶解剤としては、サリチル酸、・・・等が適用されている。
(発明が解決しようとする課題)
しかし、・・・、角質溶解剤・・・は、本質的には皮膚の紅斑或いは剥落を生じる物質であって、皮膚を極端に荒らすなど皮膚刺激性が伴いその含有量は抑制され、充分にその効果を発揮することは困難であった。」(1頁右下欄7行?2頁左上欄12行参照)
(b-2)「上記の角質溶解作用・・・を有する成分を本発明のにきび用化粧料に含有する量は、各々の成分の作用効果、皮膚刺激性及び当該化粧料の剤型等を考慮して適宜調整されるものであるが、一例を示すと通常第1表に示す含有量が好適である。
尚、含有量は当該化粧料の総量を基準とする。

」(2頁右下欄10行?3頁左上欄11行参照)

[引用例C]
(c-1)「(従来技術)
にきび(ざ瘡)は、皮膚の体裁を醜くし、かつしばしば厄介な症状を伴い、皮脂腺に富む皮膚のある領域、特に、顔、頚、背に発生する。にきびの発生因子は、主として、<1>皮脂の過剰排出、<2>皮脂成分の異常、<3>毛包脂腺系排出管の閉塞、<4>毛包脂腺管内の細菌の棲息などである。これらの発生因子によって、特徴的なにきびの面皰、丘疹、膿疱等の症状が現れる。
現在、主流を占めているにきびの予防法、処置法、或いは治療法は、<1>過剰な皮脂分泌を抑制すること、<2>毛孔閉塞を除くこと、<3>細菌の増殖を抑制し、更には殺菌処理を施こすこと等にある。
例えば、従来より・・・、毛孔閉塞を解消する一助となる角質溶解剤としては、サリチル酸、・・・等が、・・・適用されているが、・・・角質溶解剤・・・は、本質的には皮膚の紅斑或いは剥落を生じる物質であって、皮膚を極端に荒らすなど皮膚刺激性が伴いその含有量は抑制され、充分にその効果を発揮することは困難であった。」(1頁右下欄12行?2頁左上欄15行参照)
(c-2)「角質溶解作用・・・を有する成分を本発明のにきび用化粧料に含有する量は、各々の成分の作用効果、皮膚刺激性及び当該化粧料の剤型等を考慮して適宜調整されるものであるが、一例を示すと通常第1表に示す含有量が好適である。
尚、含有量は当該化粧料の総量を基準とする。

」(3頁左上欄20行?同頁右上欄末行参照)

4.対比、判断
引用例Aには、「皮膚刺激感抑制剤を配合してなる化粧料」(摘示(a-1)参照)が記載されているところ、(イ)皮膚刺激感抑制剤として、「<3> ・・・、グリチルリチン酸塩およびα-ビサボロールから選ばれる抗炎症剤。」が選択肢として記載され、特に好ましいとされていること(摘示(a-1)、(a-4)参照)、及び(ロ)一過性の皮膚刺激感を引き起こす誘引物質として、パラベン類とともに「サリチル酸類」が挙げられていること(摘示(a-3)、(a-5)参照)を勘案すると、引用例Aには、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。
「サリチル酸類などの皮膚刺激感を引き起こす誘引物質が配合された化粧料であって、グリチルリチン酸塩およびα-ビサボロールから選ばれる皮膚刺激感抑制剤を配合してなる化粧料。」

そこで、本願発明と引用例発明を対比する。
(a)引用例発明の「サリチル酸類」は、サリチル酸類にサリチル酸が該当し、サリチル酸が角質溶解剤であることは知られている(例えば引用例Bの摘示(b-1)、引用例Cの(c-1)参照)。一方、本願発明のi)の「C_(7)?C_(30)β-ヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩、C_(1)?C_(25)α-ヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩並びにそれらの混合物からなる1種またはそれ以上の角質溶解剤」は、該β-ヒドロキシカルボン酸が「サリチル酸並びにそのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である」(本願明細書段落【0010】参照)と説明されている。そうすると、両発明は、「角質溶解剤であるサリチル酸」を含有する点で一致する。
(b)本願発明のii)の(a)「C_(20)?C_(100)サポニンである水溶性抗刺激剤」は、具体的には「グリチルリチン酸およびその塩」である(本願請求項5参照)から、引用例発明の皮膚刺激感抑制剤である「グリチルリチン酸塩」に相当する。なお、当然に「グリチルリチン酸塩」は水溶性である。
(c)本願発明のii)の(b)「C_(15)?C_(40)テルペンである水不溶性抗刺激剤」は、具体的には「α-ビサボロール」であってよい(本願請求項7参照)ことから、引用例発明の皮膚刺激感抑制剤である「α-ビサボロール」に相当する。なお、当然に「α-ビサボロール」は水不溶性である。
(d)引用例発明の「皮膚刺激感抑制剤」は、本願発明の「抗刺激剤」に相当する。
(e)引用例発明の「化粧料」は、本願発明の「化粧品組成物」に相当する。

してみると、両発明は、
「i)サリチル酸からなる角質溶解剤、
ii)、(a)グリチルリチン酸塩(水溶性抗刺激剤)または(b)α-ビサボロール(水不溶性抗刺激剤)から選ばれる抗刺激剤、
を含む化粧品用組成物。」
である点で一致し、次の相違点1?4で相違する。
<相違点>
1.サリチル酸について、本願発明では、その量を「0.1?10%」と特定しているのに対し、引用例発明では、その量を特定していない点
2.抗刺激剤について、本願発明では、グリチルリチン酸塩などの水溶性抗刺激剤およびα-ビサボロールなどの水不溶性抗刺激剤の「組合わせである」と特定しているのに対し、引用例発明では、そのように特定していない点
3.抗刺激剤の量について、本願発明では、グリチルリチン酸塩とα-ビサボロールの配合量を「各々0.0001?5重量%」、その両者の割合を「約20:1ないし1:20の相対重量比」と特定しているのに対し、引用例発明では、そのように特定していない点
4.本願発明では、「1?99.8998重量%の化粧品上受容され得るキャリヤー」を配合すると特定しているのに対し、引用例発明では、その配合成分と配合量が明示的に記載されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
<相違点1>について
本願発明において、角質溶解剤として用いる「サリチル酸」即ち「β-ヒドロキシカルボン酸」の配合量を「0.1?10%」と特定している理由について、本願明細書を検討すると、「好都合には0.1?10%」(段落【0013】参照)と説明されているだけで、何が好都合であるのかは何ら説明されていない。そこで、処方例や実施例を検討してみても、0.5?2.0%(重量%)の範囲で使用されているだけで、特定する範囲を外れた場合との対比もなくその技術的意義は明らかではない。ただ、段落【0053】において「サリチル酸の効力もまた、わずか3%のきずの大きさの減少である処方23(0.5%のサリチル酸)と対照して17%のきずの大きさの減少を示す処方22(1.3%のサリチル酸)を比較することにより実証された。」と記載されているが、いずれも本願発明で特定する範囲「0.1?10%」内での使用量であるから、その記載も特定する範囲の技術的意義を明らかにするものではない。せいぜい、薬効成分の使用量が多いほど作用効果が大きくなるとの当然に期待される一般的な示唆を示す可能性が窺い知れるにすぎない。
そもそも、本願発明では化粧品用組成物としてどのような具体的用途に用いるのかが特定されていないものの、「本発明は、皮膚特に顔に施用される場合吹き出物および発赤に対して効果がある化粧品用組成物に関する。」(段落【0001】参照)と説明されていて、更に、「吹き出物および赤くなった皮膚部は、年少者および大人の両者にとって大きな心配事である。これらの皮膚上の問題は、病的状態からあるいは老化またはホルモンの変化に関連した皮膚の変化の結果として生じ得る。病的状態は、乾燥性の皮膚、魚鱗症、湿疹、手のひらおよび足の裏の過角化症、ふけ、痙瘡およびいぼの状態を含む。老化に関連した皮膚の変化は、老齢斑点、シワの発生および関連の老化による変化のような徴候を含み得る。」(段落【0002】参照)と記載されていることからすると、「痙瘡」すなわち「にきび」に対して効果がある化粧品用組成物がその具体的用途の一つと認められる。このことは、審尋に対する回答書(平成21年3月31日付け)で「きず」とは「斑点」であること、及び審判請求理由補充書に記載の参考資料の臨床テストでは「ニキビ斑点」である旨記載しているから、本願発明に係る化粧料組成物もにきびを治療するための化粧料組成物を対象とするものと認められる。
そうすると、「0.1?10%」と特定する範囲は、単に、ニキビ用として用いると効果を奏するとの主旨と解する他なく、臨界的な技術的意義があるとまでは言えない。

一方、引用例Aでも、化粧品等の皮膚外用剤について検討されている皮膚刺激感の誘引物質として列挙されている化合物のうち、サリチル酸がどのような作用効果を狙って用いられるものか言及されていない。
しかし、化粧料に用いる「サリチル酸」が、にきびなどの治療に用いる角質溶解剤として知られている(例えば、摘示事項(b-1)、(c-1)参照)のであるから、引用例発明の化粧料をにきび治療用に用いることは自然なことと言える。
そして、引用例B及び引用例Cには、「現在、主流を占めているにきびの予防法、処置法、或いは治療法の一方法である、毛孔閉塞を除き、毛孔閉塞を解消する一助となる角質溶解剤としては、サリチル酸が適用されているが、角質溶解剤は、本質的には皮膚の紅斑或いは剥落を生じる物質であって、皮膚を極端に荒らすなど皮膚刺激性が伴いその含有量は抑制され、充分にその効果を発揮することは困難であった」(摘示事項(b-1)、(c-1))旨、及び「角質溶解作用を有する成分を本発明のにきび用化粧料に含有する量は、各々の成分の作用効果、皮膚刺激性及び当該化粧料の剤型等を考慮して適宜調整されるものであるが、一例を示すと通常第1表に示す含有量が好適であるとして、サリチル酸は0.005?0.1(wt%)である」(摘示事項(b-2)、(c-2))旨記載されているのであるから、引用例B及び引用例Cには、にきびの治療に用いられるサリチル酸が皮膚刺激性を伴い、その配合量として本願発明と重複する配合量である0.1重量%が示され、また配合量は、角質溶解作用を有する成分の作用効果、皮膚刺激性及び当該化粧料の剤型等を考慮して適宜調整されるものである旨記載されているといえる。
そうすると、引用例発明において皮膚刺激の誘因物質として明示されているサリチル酸はにきび治療用に用いる皮膚刺激性のサリチル酸であると解するのが自然であり、他方、引用例発明の皮膚刺激感抑制剤を用いるとサリチル酸の皮膚刺激が抑制されると期待されるのであるから、皮膚刺激感抑制剤を配合する引用例発明において、皮膚刺激作用を有するサリチル酸の配合量を従来より多く用いることが可能となり、引用例B、Cに記載された0.1重量%及びそれを超える範囲、例えば0.1?10%(重量%)に設定することは、当業者であれば容易になし得たことである。

<相違点2、3>について
引用例Aには、皮膚刺激感抑制剤に関し、<1>?<6>から選ばれる一種若しくは二種以上の物質を含有するとされ、2種以上併用する場合の配合量まで言及されている(摘示(a-1)、(a-7)参照)のであるから、<1>?<6>で示された物質の複数を組合せて使用することは明らかであり、しかも、実施例10、16、22には、2種類の皮膚刺激感抑制物質の使用例が示されている。
そして、実施例10では、α-ビサボロール(<3>に該当)とコレステロール12-ヒドロキシステアレート(<2>に該当)、実施例16では、α-ビサボロール(<3>に該当)とステアリルグリチルレチネート(<3>に該当)、実施例22では、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(<6>に該当)とコレステロール(<2>に該当)を配合していることからすると、引用例発明では、二種以上の皮膚刺激感抑制剤を選択するにあたり、<1>?<6>として一括りに記載されている異なる一群の皮膚刺激感抑制剤のうちから二種の皮膚刺激感抑制剤を選択する場合(実施例10で<2>と<3>、実施例22で<2>と<6>)だけでなく、同一の一群の皮膚刺激感抑制剤のうちから二種の皮膚刺激感抑制剤を選択する場合(実施例16で<3>と<3>)をも含むものである。
してみると、引用例発明において、グリチルリチン酸塩とα-ビサボロールを組合せて用いることは、当業者が容易に想到し得たことと言える。

次に、引用例Aには、「本発明の皮膚刺激感抑制剤配合化粧料には、前記<1>?<6>の有効成分がそれぞれ次の量配合されるのが好ましい、すなわち、全化粧料組成に対して・・・<3>の場合には、・・・0.01%以上、特に0.1?5.0%が好ましい。また2種以上を併用する場合は、組み合わせる物質によって多少異なるが、いずれか一の成分がその有効量以上となるように配合するのが好ましい。」(摘示(a-7)参照)と記載されているから、皮膚刺激感抑制剤を二種組み合わせる場合の配合量は、本願発明の配合量である各々0.0001?5重量%と重複し、実施例16の処方例では、相対重量比が、1.0:1.0、すなわち1:1であって本願発明と重複する。また、いずれか一の成分がその有効量以上となるように配合することは当業者が適宜なし得ることである。
そして、引用例Aには、実施例1の、皮膚刺激感の誘引物質としてパラベン類(パラオキシ安息香酸ブチル、及びパラオキシ安息香酸メチル)を含む場合ではあるが、皮膚刺激感抑制物質として、ステアリルグリチルレチネート、グリチルリチン酸ジカリウム、又はα-ビサボロール(いずれも<3>に該当)を配合した乳液について皮膚刺激感の抑制率を試験した結果、皮膚刺激感抑制率として、グリチルリチン酸ジカリウムが、配合量2.0重量%で91%、1.0重量%で68%、0.5重量%で58%であり、αービサボロールが、配合量2.0重量%で90%、1.0重量%で54%、0.2重量%で49%であるのに対して、ステアリルグリチルレチネートが、配合量2.0重量%で67%、1.0重量%で49%であることが表1-4及び表1-5に記載(摘示事項(a-10))されているから、グリチルリチン酸塩、及びα-ビサボロールは、ステアリルグリチルレチネートよりも優れた皮膚刺激感抑制率を有することを窺い知ることができる。

してみれば、引用例発明において、皮膚刺激感抑制剤の組合わせとして、グリチルリチン酸塩及びα-ビサボロールを選択するとともに、グリチルリチン酸塩とα-ビサボロールの各配合量を本願発明と重複する0.01%以上、特に0.1?5.0%とし、その相対重量比を約20:1ないし1:20と設定することは、当業者であれば容易になし得たことである。

<相違点4>について
キャリヤーについて本願明細書を検討すると、「総体的に、水、溶媒、シリコーン、エステル、保湿剤および/または増粘剤は、角質溶解剤および抗刺激剤用の化粧品上受容され得るキャリヤーと考えられる」(段落【0036】参照)、及び「水のほかに、比較的揮発性の溶媒もまた好都合に本発明の組成物内に混合され得る。最も好ましいものは、一価のC_(1) ?C_(3) アルカノールである。これらは、エチルアルコール、メチルアルコールおよびイソプロピルアルコールを含む。」(段落【0027】参照)と記載されている。
一方、引用例Aには、「本発明の化粧料には、前記有効成分のほかにその効果を損なわない範囲で通常化粧料に使用されている成分を配合することができる。」(摘示事項(a-8))と記載されていて、実施例10、16、又は22には、水、シリコーン、エステル、保湿剤および/または増粘剤を配合した処方例が配合されている(摘示事項(a-11))のであるから、引用例Aに記載された通常化粧料に使用されている成分とは、本願発明の化粧品上受容され得るキャリヤーとして例示されている成分に相当するものである。
また、化粧品上受容され得るキャリヤーの配合量を、キャリヤー以外の配合成分である有効成分の配合量に応じて所望の量に設定することは当業者が適宜なし得ることである。
してみれば、引用例発明において、化粧品上受容され得るキャリヤーを配合し、その配合量を1?99.8998重量%の範囲内のものとすることは当業者であれば容易になし得たことである。

<作用効果について>
本願発明は、水溶性抗刺激剤と水不溶性抗刺激剤を組合わせて使用するものであるところ、水溶性抗刺激剤と水不溶性抗刺激剤を組合わせることにより効果については、本願明細書を検討すると、「本発明者は、α-ヒドロキシまたはβ-ヒドロキシカルボン酸のいずれかである少なくとも1種の角質溶解剤を2つのタイプの抗刺激剤の組合わせとともに処方された化粧品用組成物が速やかにきずの大きさを減少し並びに全体的発赤を低減することを見出した。ヒドロキシカルボン酸にしばしば伴なうひりひりする痛みの感覚は、本活性物の組合わせではもはや問題がない。」(段落【0011】参照)との記載が見出される。
しかし、抗刺激剤(皮膚刺激感抑制剤)を配合することによって、サリチル酸(即ち、β-ヒドロキシカルボン酸)などの皮膚刺激を誘因する物質によって誘引された皮膚刺激が抑制されることは、上記「<相違点>1について」、「<上記相違点2、3>について」で検討したとおり、引用例発明から期待されることと言えるし、その抑制された反映として、サリチル酸の配合量を多くできることも容易に想い到る程度のことと言える。

次に、臨床的性能を評価した処方20?25(例6)を検討すると、いずれも、サリチル酸(β-ヒドロキシカルボン酸)及びグリコール酸(α-ヒドロキシカルボン酸)の混合物を配合し、その配合量は本願発明で特定する範囲内であるところ、水溶性抗刺激剤(グリチルリチン酸ジカリウム)と水不溶性抗刺激剤(α-ビサボロール)を組合わせても、水溶性抗刺激剤(グリチルリチン酸ジカリウム)を配合しないで水不溶性抗刺激剤(α-ビサボロール)のみを配合した処方20と比較して、処方23のように効果が劣る処方例もあることからみて、水溶性抗刺激剤と水不溶性抗刺激剤を組合わせたことにより、格段に優れた効果を有するものとは認めることはできない。
また、グリチルリチン酸ジカリウムはグリチルリチン酸のカリウム塩であって、抗炎症剤(摘示事項(a-1)、(a-4))であり、グリチルリチン酸はにきびにも有効であることが知られている(例えば、代表者:関根茂、編集者:蔵多淑子外4名、「化粧品原料辞典」、日光ケミカルズ株式会社外2社、平成3年11月29日発行、第145頁参照)から、処方20よりも処方21の方が斑点(キズ)の大きさが減少しているのは、グリチルリチン酸ジカリウムが更に配合されていることに起因する当然の効果であるとも解されるから、格別予想外であるとは言えない。そして、サリチル酸はニキビの治療に有効な化合物である(摘示事項(b-1)、(c-1)から、処方例22と処方例23、及び処方例24と処方例25との対のように、サリチル酸量の増加につれて、有効性が向上することは当然に期待される結果であると言える。

更に、臨床的性能を評価した例が、角質溶解剤としてサリチル酸及びグリコール酸の混合物のみであり、抗刺激剤としてグリチルリチン酸ジカリウムとα-ビサボロールの配合例のみであることからすると、本願発明に包含される、任意のヒドロキシカルボン酸の角質溶解剤と、任意のサポニンの水溶性抗刺激剤と、任意の多環式ポリエンまたはテルペンの水不溶性抗刺激剤の広範囲な組合せ全てにおいてまで、その作用効果が優れていると敷衍できるものではない。
そして、他に格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

なお、請求人は、審尋に対する回答書(平成21年3月31日付)において、例6の結果については、「ここで重要なことは、処方例のセットが対として比較され検討されたという点です。即ち、処方例20と処方例21との対、処方例22と処方例23との対、および処方例24と処方例25との対がそれぞれ比較され検討されました。 処方例20と処方例21との対の結果を比較すれば、斑点サイズの減少が、グリチルリチン酸ジカリウム添加によって劇的に増大したことが観察されます。処方例22と処方例23との対の比較からは、サリチル酸量の増加(処方例22)につれて有効性が向上したことが観察されます。さらに、処方例24と処方例25との対の比較から、サリチル酸量の増加(処方例25)につれ、やはり有効性が向上したことが確認されます。」と主張するが、前記検討のとおりであるから、該主張は採用できない。
また、審判請求理由において、本願出願後に作成された参考資料(米国、コネティカット州、ミルフォード所在のピープルズ チョイス テスト センターで実施された本願発明組成物のニキビ治療臨床テストの報告書写し)を提示し、「同報告書によれば、「一晩」の処置で、成人女性の場合ニキビの大きさが平均「42%」減少し、ティーンエイジャーの場合平均「29%」減少したという結果が得られた、ということである。」と主張しているが、この提示された結果は、本願明細書に記載されたデータと著しく異なるものであり、到底参考にできるものではない。

<まとめ>
上記のとおりであり、前記相違点1?4に係る本願発明の発明特定事項を合わせ採用することも格別の創意工夫が必要であるとは認められず、また、本願発明の効果も格別顕著なものとは認められないから、本願発明は、引用例B、Cの記載を勘案し引用例発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

なお、請求人は、上申書(平成21年4月3日付)および前記回答書において、化粧料組成物の用途等を限定する特許請求の範囲の補正案を提示し、特許請求の範囲を補正することを希望しているが、特許法では審判請求に際して補正できる期間を定めているところ、その期間内に既に手続補正書を提出しているのであるから、それ以上の補正の機会を与えることは法律の想定するところではなく、その要請は受け入れられない。
また、請求人は、同上申書で、処方23を削除したい旨を希望しているが、処方23が不明瞭な記載或いは誤記であるとは認められないから、処方23を削除することにより、処方23の一晩での平均のきず(斑点)の大きさの減少%が「-3」であるという臨床的調査結果の事実は、覆るものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-23 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-10 
出願番号 特願平7-505570
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 弘實 謙二
星野 紹英
発明の名称 ヒドロキシ酸を含有する化粧品用組成物  
代理人 川口 義雄  

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