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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  E05C
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05C
管理番号 1209260
審判番号 無効2008-800184  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-24 
確定日 2009-12-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3752588号発明「開き戸の地震時ロック方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第3752588号の請求項1,3及び4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 8年 5月27日 原出願(特願平8-171559号)
国内優先権主張(特願平7-287777
号(優先日:平成7年9月27日),特願平7
-296344号(優先日:平成7年10月
7日),特願平8-160425号(優先日:
平成8年5月16日))を伴う出願〕
平成16年 6月 7日 本件出願(特願2004-197427号)
〔特許法第44条第1項の規定に基づく原出
願からの分割出願
平成16年10月28日 本件出願公開
(特開2004-300919号)
平成17年 4月26日 拒絶査定不服審判請求
(不服2005-10121号)
平成17年11月 7日 不服2005-10121号審決〔成立〕
平成17年12月22日 本件特許の設定登録
(特許第3752588号)
平成18年 3月 8日 本件特許掲載公報発行
平成20年 9月22日 本件無効審判請求
(同年9月24日差出) (無効2008-800184号)
平成20年12月 4日 答弁書提出(被請求人)
平成21年 4月30日 上申書提出(請求人)
(同年5月1日差出)
平成21年 5月 8日 第2答弁書提出(被請求人)
平成21年 6月26日 第3答弁書提出(被請求人)
(同年7月1日差出)



第2.本件特許発明
本件特許の請求項1,3及び4に係る発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,3及び4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
マグネットキャッチなしの開き戸において開き戸側でなく家具、吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け、該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具、吊り戸棚等の天板下面に取り付け、前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法」
「【請求項3】
請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた家具」
「【請求項4】
請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた吊り戸棚」
(以下,本件特許の請求項1,3及び4に係る発明を,「本件特許発明1」などといい,これらをまとめて,「本件特許発明」といい,また,その特許を,「本件特許」という。)



第3.当事者の主張の概要
〔1〕審判請求人の主張及び提出した証拠方法
審判請求人は,審判請求書において,「特許第3752588号発明の特許請求の範囲の請求項1,3及び4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし,甲第1号証乃至甲第16号証を提出して,次の無効理由を主張している。

1.[第1の無効理由](分割要件違反による新規性または進歩性欠如)
(特許法第29条第1項第3号,同条第2項〔同法第123条第1項第2号〕)
本件特許に係る特願2004-197427号出願は不適法な分割出願であるから,本件特許出願について出願日の遡及を認めることはできず,本件特許発明の特許要件の判断の基準日は,その現実の出願日である平成16年6月7日である。
そして,同基準日前である平成10年2月3日に,特願平8-171559号(原出願)に係る特開平10-30372号公報(甲第1号証)が公開されているところ,同公開公報には,本件特許発明の実施例に用いられる地震時ロック装置とまったく同一の地震時ロック装置及びその使用方法が開示されており,また,当該地震時ロック装置及びその使用方法を用いた家具,吊り戸棚等は自明のものである。
したがって,本件特許発明は,上記基準日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と同一であるか,少なくとも,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうる発明であって,特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

2.[第2の無効理由](サポート要件違反)
(特許法第36条第6項第1号〔同法第123条第1項第4号〕)
本件特許明細書は,特許庁審査基準に記載されたサポート要件違反の類型のうち,「請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合。」に該当するものである。
したがって,本件特許発明は,それに係る特許請求の範囲の記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものであって,特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合しないものであるから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

3.[第3の無効理由](明確性要件違反)
(特許法第36条第6項第2号〔同法第123条第1項第4号〕)
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には,段落【0006】乃至【0009】において,図1乃至図4に示されている実施例に関する記載しかなく,これらの記載を参酌しても,同実施例以外に如何なる構成が,「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動」,「開き戸の自由端でない位置」,「わずかに開かれる開き戸」,「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたロック位置となる開き戸」なる構成を充足するものであるか,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とするという課題との関係に照らしても,それらの意義などが明らかではない。
したがって,本件特許発明は,それに係る特許請求の範囲の記載が明確でないものであって,特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に適合しないものであるから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

4.[第4の無効理由](進歩性欠如)
(特許法第29条第2項〔同法第123条第1項第2号〕)
仮に,本件特許に係る特願2004-197427号出願が,分割要件に違反せず,出願日の遡及が認められるとしても,本件特許発明は,甲第3号証乃至甲第10号証,甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平10-30372号公報(原出願の公開公報)
甲第2号証の1:特願平7-287777号(基礎出願(1))の出願当初
の明細書及び図面
甲第2号証の3:特願平7-296344号(基礎出願(2))の出願当初
の明細書及び図面
甲第2号証の6:特願平8-160425号(基礎出願(3))の出願当初
の明細書及び図面
甲第2号証の8:特願平8-171559号(原出願)の出願当初の明細
書及び図面
甲第2号証の16:特願2004-197427号(本件出願)の平成1
6年11月30日付け拒絶理由通知書
甲第2号証の22:特願2004-197427号の平成17年7月26
日付け前置報告書
甲第3号証:米国特許第5,035,451号明細書(訳文添付)
甲第4号証:実公平2-41267号公報
甲第5号証:実用新案登録第3015552号公報
甲第6号証:実公平2-40218号公報
甲第7号証:実公平6-45582号公報
甲第8号証:特開平7-71146号公報
甲第9号証:実願平3-61397号(実開平5-6062号)のCD-
ROM
甲第10号証:実願平5-29254号(実開平6-82340号)のC
D-ROM
甲第11号証:請求人作成の「新・耐震ラッチ訴訟 明細書・図面の変遷
表」
甲第12号証:米国特許第5,152,562号明細書(訳文添付)
甲第13号証:米国特許第5,312,143号明細書(訳文添付)
甲第14号証:土井輝生作成の「合衆国特許第5,035,451号明細
書の文言の解釈」の写し
甲第15号証:三宅裕作成の平成12年3月13日付け宣誓書の写し
甲第16号証:北本達治作成の平成12年3月27日付け宣誓書の写し


〔2〕被請求人の主張及び提出した証拠方法
被請求人は,答弁書(及び第2,3答弁書)において,「無効審判請求は理由がなく,本件特許を維持する。審判費用は請求人の負担とする,との審判を求める。」ことを答弁の趣旨として,乙第1号証乃至乙第6号証を提出して,次のように主張している。

1.[第1の無効理由](分割要件違反による新規性または進歩性欠如)について
(分割は適法である。第1の無効理由は存在しない。)
本件特許発明は,原出願の出願当初の明細書及び図面(以下,「原出願当初明細書」という。)(甲第2号証の8)に比較例としてでも明示的に記載されているのであるから,本件特許発明の特許要件の判断の基準日は,原出願の出願日である平成8年5月27日まで遡及する。
原出願当初明細書の段落【0005】及び図1乃至図4は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができる程度に明確かつ十分に技術的意義を記載している。
また,原出願当初明細書の図20のロック装置の位置及び図25のT位置は,「自由端から蝶番側へ離れた位置」であり,またそれは「自由端でない位置」と同義であるから,同図20,25を,本件特許発明の図5,6とすることは何ら分割の違法とならない。
以上要するに,本件特許は分割要件を満たしているから,遡及して平成8年5月27日に出願したものとみなされ,新規性及び進歩性を有する発明である。

2.[第2の無効理由](サポート要件違反)について
(サポート要件を満たしている。第2の無効理由は存在しない。)
「自由端でない位置」としてたとえ「自由端」からその離れる距離がわずかであっても(開き戸の動きがわずかに少なくなる程度であっても)「作動が確実」との課題解決に対応している(地震時の安全確保が可能になっている)。
要するに,効果はゼロではなく,サポート要件を満たしている。
仮に,課題解決のための効果が量的に一定程度を超えていなければならない(ある一定程度以上に作動が確実でなければならない)としても,その効果を得るための具体的位置が発明の詳細な説明から当業者にとって自明であれば,サポート要件に違反することはない。
また,「自由端でない位置」との構成要件のみで課題解決の効果として不十分であったとしても,「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成要件は,それを補っても余りあるものであり,本件特許発明の「作動が確実」との課題を解決している。

3.[第3の無効理由](明確性要件違反)について
(明確性要件を満たしている。第3の無効理由は存在しない。)
本件特許発明の,「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動」,「開き戸の自由端でない位置」,「わずかに開かれる開き戸」,「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたロック位置となる開き戸」については,本件特許明細書及び図面に,その技術的思想を当業者が明確に把握することができる程度に記載されている。

4.[第4の無効理由](進歩性欠如)について
(進歩性を有する。第4の無効理由は存在しない。)
米国特許第5,035,451号明細書(甲第3号証)に記載されたロック装置は,開き戸のゆれによる開く動きでわずかに開かれて係止し,逆に開き戸のゆれによる閉じる動きで係止が外れ抵抗なく閉じられる,即ち,開き戸のゆれによる閉じる動きになる毎に係止手段はロック位置から解除位置へと戻され,開く動きと閉じる動きが繰り返される毎に係止手段はロック→解除→ロック→解除→……と繰り返され,ロック作動ミスの危険が高いものであり,この点で,本件特許発明とは決定的に異なる。
また,上記ロック装置は,「本体側の装置本体に可動な係止手段を設け」ではなく,扉側に可動な係止手段を設けている点でも,本件特許発明とは異なる。
その他の公知文献についても,「押すまで閉じられずわずかに開かれた」地震時ロック方法,言い替えればわずかに開かれた開き戸が通常想定される住宅倒壊以下のゆれの力では閉じられず使用者の押す力で閉じられるという係止状態,単なる係止でなく通常想定される住宅倒壊以下のゆれの力では閉じられず使用者の押す力で閉じられるという条件付の係止状態は,開示どころか示唆もされていない。

<証拠方法>
(答弁書に添付)
乙第1号証:特願2004-197427号(本件出願)の出願当初の特
許請求の範囲,明細書及び図面
乙第2号証:平成17年(行ケ)第10749号判決書の写し
(知財高裁平成19年3月28日判決言渡〔特許第36509
55号発明に係る無効2005-80113号事件について
の「審決を取り消す」旨の判決〕)
乙第3号証:特許第3650955号公報
(特願平11-116988号・平成11年3月18日出願)
乙第4号証:特願2004-197427号の平成17年4月26日付け
手続補正書
(第2答弁書に添付)
乙第5号証:平成21年5月7日付け控訴状の写し
(第3答弁書に添付)
乙第6号証:平成21年6月25日付け控訴理由書の写し



第4.無効理由についての判断
[1][第2の無効理由](サポート要件違反)について
審判請求人は,構成要件Dの「開き戸の自由端でない位置」との構成が本件特許明細書に記載されておらず,サポート要件を充たさない旨,主張しているので,以下,これについて検討する。

1.特許請求の範囲の記載
本件特許発明1,3及び4は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,3及び4に記載された事項により特定される,上記「第2.本件特許発明」で示したとおりのものであり,このうち,本件特許発明1の構成要件は,次のとおりに分説される(以下,各構成要件を,それぞれに付した符号に対応させて,「構成要件A」などという。)。

A マグネットキャッチなしの開き戸において
B 開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手
段を設け
C 該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移
動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック
装置を
D 開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け
E 前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれ
た前記ロック位置となる
F 開き戸の地震時ロック方法

本件特許発明においては,「地震時ロック装置」の取り付け位置について,「開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け」(本件特許発明1の上記「構成要件D」を参照。)との限定事項があるのみであり,「開き戸の自由端でない位置」が具体的にどのような範囲の位置になるかについては,何ら規定されていない。
そして,上記「開き戸の自由端でない位置」の意味を字義どおりに解釈すると,自由「端」とみなし得る程度に自由端にごく近接した領域を除く自由端に近接した位置から蝶番に近接する位置までをも含む範囲の「開き戸」における位置をいうものと解することができるから,かかる事項が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているか否かをみてみる。

2.発明の詳細な説明及び図面の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には,以下の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載
「【背景技術】
【0002】
従来において作動が確実な開き戸の地震時ロック方法は未だ開発されていない。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は以上の従来の課題を解決し作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以上の目的達成のために
マグネットキャッチなしの開き戸において地震のゆれの力でロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具、吊り戸棚等の天板下面に取り付けた開き戸の地震時ロック方法(請求項1記載の発明)等
を提案するものである。」
「【発明の効果】
【0005】
本発明の開き戸の地震時ロック方法は特に家具、吊り戸棚等の天板下面において開き戸の自由端でない位置に地震時ロック装置を取り付けるため開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下本発明の開き戸の地震時ロック方法を図面に示す実施例に従い説明する。
図1は本発明の方法に用いることが可能なロック装置を示し、該ロック装置は家具、吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。
該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。
次に開き戸(2)に係止具(5)が取り付けられ前記係止手段(4)が地震のゆれの力で動いた際にその係止部(4a)が係止される係止部(5b)を有する。一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。
以上の実施例に示した比較のための地震時ロック装置の作用は次の通りである。すなわち開き戸(2)が図1の様に閉じられた閉止状態では家具、吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)に開き戸(2)側の係止具(5)が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。
更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。
この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。
当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。
該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。
次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。
これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。
この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる。
【0008】
以上に実施例を図示したが、要するに図示の開き戸の地震時ロック装置は可動な障害物(開き戸(2)の障害物という意味である)としての係止手段(4)について該障害物自体を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置であることが判る。
【0009】
図5は本発明の方法を示し、該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。
開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。
地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。
マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成出来る。
次に図6に示されるT、B、S1、S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである)。」

(2)図面の記載
【図5】

【図6】


3.検討
段落【0002】及び【0003】の記載によれば,本件特許発明は,「作動が確実な開き戸の地震時ロック方法」の提供を目的とするものと位置づけられている。
そして,段落【0005】の記載によれば,「開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に地震時ロック装置を取り付ける」という構成要件Dの構成を採用することにより,「開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる。」との効果を奏するとされている。
しかしながら,同段落の記載においては,自由端は開き戸の動きが最も大きいから,当該自由端には地震時ロック装置を取り付けないということが消極的に示されているにすぎず,取り付け位置が,自由端でさえなければ,天板下面のあらゆる位置において地震時のロックが確実になるという効果を奏し得るものであるということが示されていると解することはできない。
また,段落【0009】には,「図5は本発明の方法を示し、該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。」,「地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。」と記載されており,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏する地震時ロック装置の取り付け位置として,「自由端から蝶番側へ離れた位置」となることが示されているとともに,図5には,「ロック装置」の位置が例示されている。(ただし,同段落の記載からは,「自由端から蝶番側へ離れた位置」が具体的にどのような範囲の位置になるかを窺い知ることはできない。)
かかる記載によれば,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するためには,自由端から蝶番側へ一定程度離れた位置に地震時ロック装置を取り付けなければならないものと解されるのであって,自由端ではないが自由端に近接した位置に地震時ロック装置を取り付けた場合では,開き戸の動きが多少小さくなるものの自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず,依然として開き戸の動きは大きいものであると解することができ,自由端に地震時ロック装置を取り付けた場合と同様にロックが不安定になるという問題が生じるおそれがあるから,上記「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するとは認められない。
地震時ロック装置の取り付け位置に関して,さらに,同段落には,「図6に示されるT、B、S1、S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである)。」とも記載されており,図6には,「T位置」が例示されている。
しかしながら,図6には,上記のように,「一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能である」位置としての「T、B、S1、S2及びS3位置」が例示されているのであるから,一般的に選択され得る位置としての「B」位置(底板上面)や,「S1、S2及びS3位置」(側板内面)ではなく,「天板下面」としての「T位置」に地震時ロック装置を取り付けることが例示されているにすぎないものと解するのが自然である。
すなわち,「T位置」について,段落【0009】には,その末尾の括弧書において,「自由端でない位置」と説明されているが,その一方で,図6に例示された「T位置」は,図5に例示された「ロック装置」の位置より,図上,相対的に自由端に近い位置にあるものと認められ,しかも,同段落には,開き戸の動きが小さくなる「自由端から蝶番側へ離れた位置」を超えて,開き戸の動きが殆ど小さくならない自由端に近接した位置でもなお「地震時のロックが確実になる」との効果を奏し得ることを示す具体的な根拠は,何ら示されていないのであるから,図6に例示された「T位置」の開示をもって,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するための地震時ロック装置の取り付け位置が示されていると解することはとうていできない。
このように,本件特許明細書の発明の詳細な説明において,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することにより,本件特許発明の課題を解決することができるものと,当業者が認識できるように記載された地震時ロック装置の取り付け位置は,あくまで,「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」であり,上記構成要件Dの限定事項に係る「開き戸の自由端でない位置」との特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものというべきである。
(そもそも,発明の詳細な説明に記載された特定の実施例しか想定できないものについて,本件特許発明1の上記構成要件Dの構成の範囲まで拡張乃至一般化できるものではない。)(特許庁審査基準,「第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」,「第36条第6項第1号」,「(3)…第36条第6項第1号の規定に適合しないと判断される類型…」を参照。)

4.被請求人の主張について
これに対し,被請求人は,「・・・たとえ『自由端に近接した位置』であっても,自由端に位置する場合より開き戸の動きはわずかでも少なくなるから課題解決のための効果はある。また,『蝶番に近接した位置』であっても,天板下面に取り付ける以上,蝶番からわずかでも離れることは明らかであるから,その位置で開き戸を『わずかに開かれた』状態にすることは調整により可能でありロックを作動させることができる。つまり,『自由端でない位置』が自由端や蝶番に近接していても課題解決は可能なのである。仮に効果がゼロであるのに効果があるとすればそれは誤りであるが,明細書の記載が一定の範囲を含み,その範囲において効果の程度が量的に異なることになったとしても,わずかでも効果があれば課題を解決しているといえるのであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明には作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を実現するための具体的な位置を余すところなく開示したものといえるのであって,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許請求したものではない。」(答弁書12頁16行?13頁6行)と主張している。
しかしながら,上記「3.」で説示したとおり,自由端に近接した位置に地震時ロック装置を取り付けた場合では,開き戸の動きが自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず大きいものであると解することができ,自由端に地震時ロック装置を取り付けた場合と同様にロックが不安定になるという問題が生じるおそれがあるのであって,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することができると一概にはいえないのであるから,上記被請求人の主張は,錯誤に基づくものであり,採用することができない。
また,被請求人は,「・・・本件特許明細書の段落番号【0009】に記載される通り,『開き戸(2)の動きが最も大きく……ロックが不安定になる』という問題を量的にどの程度解決したいのか,すなわち課題である作動を確実にする量的程度に応じていかなる程度自由端から離れた位置に地震時ロック装置を取り付ければよいかは,当業者であれば(否,本件の場合,当業者でなくとも)およそ見当が付く程度に示唆されており(実施例の図3、図4も参照すればより明らか),実際に実施しようとする者が希望する量的程度に応じた取り付け位置は,試行錯誤をしてみれば極めて容易に判明するのである。」(答弁書16頁11?19行)と主張し,「・・・希望する量的程度に応じた取り付け位置は,実際に実施しようとする者が,地震検出感度,開き戸の重量,ばね付き蝶番の力等に応じて試行錯誤してみれば極めて容易に判明する自明な事項なのである」(答弁書22頁20?22行)と主張している。
しかしながら,かかる主張は,審判請求人の,「自由端でない位置」という特許請求の範囲の記載が,本件特許明細書で記載された課題解決の手段である「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」を超えて,「広く,自由端に近接した位置をも含む『開き戸の自由端でない位置』について,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を実現するための具体的な位置(如何なる程度自由端から離れた位置)は,何ら開示しておらず,示唆すらしていない。」(審判請求書24頁「b」参照。)に対する反論にはなっていないものであるし,仮に,被請求人が主張するように,「・・・希望する量的程度に応じた取り付け位置は,実際に実施しようとする者が,地震検出感度,開き戸の重量,ばね付き蝶番の力等に応じて試行錯誤してみれば極めて容易に判明する自明な事項なのである」との認識にしたがって,係止手段の大きさや地震検出感度,地震時の係止手段の作動速度や作動時間,開き戸の開口の大きさ,及び,地震時の開き戸の開口速度や開口時間等の条件が明らかであれば,当業者は,技術常識に照らし,一定の位置を特定することも可能であるといえるが,本件特許明細書には,これらの諸条件や当該諸条件に基づく取り付け位置の決定等について,一切開示されておらず,また,示唆すらもされていないのであるから,上記被請求人の主張は,本件特許明細書の記載から飛躍したものであり,採用することができない。
さらに,被請求人は,「仮に『自由端でない位置』との構成要件のみで課題解決の効果として不十分であったとしても,『押すまで閉じられずわずかに開かれた』との構成要件は、それを補っても余りあるものであり,本件特許発明の『作動が確実』との課題を解決している。」(答弁書24頁1?4行)とも主張している。
しかしながら,そのようなことは,本件特許明細書の発明の詳細な説明において一切記載されておらず,しかも,本件特許発明において,地震時ロック装置の取り付け位置は,段落【0005】の「開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる。」との記載によれば,「係止手段」を「開き戸の係止具」に確実に係合させる(ひっかける)ための構成と位置づけられるところ,上記「押すまで閉じられずわずかに開かれた」という構成は,一旦係合した後の係合状態を維持するためものと解されるから,かかる構成をもって,自由端に近接した位置における係合が確保できると解することはできないから,上記被請求人の主張は,錯誤に基づくものであり,採用することができない。

5.小括
以上により,本件特許発明は,構成要件Dにおける「自由端でない位置」との事項が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法第36条第6項第1号に定める要件を充たすとは認められないから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。


[2][第1の無効理由](分割要件違反による新規性または進歩性欠如)について
審判請求人は,本件特許に係る特願2004-197427号出願は不適法な分割出願であるから,本件特許出願について出願日の遡及を認めることはできず,本件特許発明の特許要件の判断の基準日は,その現実の出願日である平成16年6月7日であるところ,同基準日前である平成10年2月3日に公開された特願平8-171559号出願(原出願)に係る特開平10-30372号公報(甲第1号証)には,本件特許発明の実施例に用いられる地震時ロック装置とまったく同一の地震時ロック装置及びその使用方法が開示されており,また,当該地震時ロック装置及びその使用方法を用いた家具,吊り戸棚等は自明のものであるから,本件特許発明は,上記甲第1号証に記載された発明と同一であるか,少なくとも,同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうる発明である旨,主張しているので,以下,これについて検討する。

1.原出願当初明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載
原出願当初明細書(甲第2号証の8)の図1乃至図4は本件特許明細書の図1乃至図4に示された実施例と同一の地震時ロック装置を示す図面であり,以下同様に,図20は図5と,図25は図6と,それぞれロック装置の取り付け位置として,同様の位置を示す図面である。
そうすると,本件特許発明に関連する図面としては,図1乃至図4,図20及び図25が挙げられるところ,これらについて,原出願当初明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
(1)図1乃至図4(地震時ロック装置)について
「【0005】
【発明の実施の形態】以下本発明の開き戸の地震時ロック装置を図面に示す実施例に従い説明する。ここで本発明の理解を容易にするため図1乃至図9及び図14乃至図21に比較のためのロック装置(従って本発明ではない)について説明する。図1は比較のためのロック装置を示し、該ロック装置は家具、吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。次に開き戸(2)に係止具(5)が取り付けられ前記係止手段(4)が地震のゆれの力で動いた際にその係止部(4a)が係止される係止部(5b)を有する。一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。以上の実施例に示した比較のための地震時ロック装置の作用は次の通りである。すなわち開き戸(2)が図1の様に閉じられた閉止状態では家具、吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)に開き戸(2)側の係止具(5)が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる。」
「【0012】・・・例えば図1乃至図5のものの様に静止位置から前方へのみ動くことが出来るものではゆれのエネルギーを蓄積出来ない(感度が落ちる)だけでなく振動数の選択も出来ないのであり・・・」

(2)図20及び図25(取り付け位置)について
「【0009】・・・図20は比較のための他の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けられた点に重要な特徴がある。開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成出来る。・・・図23は本発明の他の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は前述の図18の地震時ロック装置と類似する。図23の地震時ロック装置においては家具、吊り戸棚等の天板下面又は底板上面に固定された状態で係止手段(4)が横向きに突出する(図23は平面図であることに注意)。要するに以上の図21乃至図24の地震時ロック装置は図25に示されるB位置又はT位置に取り付けられそして係止手段(4)が横向きに突出するものである。図18及び図19のものは図25に示されるT位置に取り付けられそして係止手段(4)が下向きに突出するものである。逆に図21乃至図24の地震時ロック装置を図25に示されるS1、S2又はS3の位置に取り付けた場合は係止手段(4)が下向きに突出することに気付くべきである。更に図18及び図19の地震時ロック装置を図25に示されるS1、S2又はS3の位置に取り付けた場合は係止手段(4)が横向きに突出する。横向きに係止手段(4)が突出するものは前述の図10乃至図13に既に実施例が示されていたから図21乃至図24の地震時ロック装置はこれと同様に構成されただけである。以上で図25に示されるT、B、S1、S2及びS3位置を(その他の実施例もあるが)例えば図18乃至24の地震時ロック装置は選択可能であることが理解されたことと思う。」

2.検討
(1)図1乃至図4(地震時ロック装置)について
上記段落【0005】の図1乃至図4についての記載は,図1乃至図4に示された地震時ロック装置が原出願に係る発明を説明するにあたっての「比較のためのロック装置」であることを前提にして,当該ロック装置を説明していることを除き,本件特許明細書の段落【0006】の図1乃至図4(本件特許発明の地震時ロック装置の実施例)についての記載と実質的に異なるところがない。(但し,当該ロック装置が,原出願に係る発明に比して,「ゆれのエネルギーを蓄積出来ない(感度が落ちる)だけでなく振動数の選択も出来ない」(上記段落【0012】の記載参照。)ロック装置の例として示されているにすぎず,それ以上の技術的意義については,何らの開示も示唆もされていない。)

(2)図20及び図25(取り付け位置)について
上記段落【0009】の図20についての記載は,文言上,本件特許明細書の段落【0009】の図5についての記載と合致する記載部分があるものの,当該記載部分は,図20に例示された「ロック装置」の位置が,「比較のための他の地震時ロック装置」の位置であることが示されているにすぎない。
また,上記段落【0009】の図25についての記載は,文言上,本件特許明細書の段落【0009】の図6についての記載と合致する記載部分があるものの,当該記載部分は,図25に例示された「T位置」が,「家具、吊り戸棚等の天板下面」であることが示されるとともに,図18及び図19(図20)に示された「比較のための他の地震時ロック装置」,或いは,図21乃至図24に示された原出願に係る発明の「他の地震時ロック装置」の取り付け位置の一つとして選択可能であることが示されているにすぎない。

(3)分割要件のまとめ
以上により,上記段落【0005】の図1乃至図4に示された地震時ロック装置についてまで,その取り付け位置が,「開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置」としての図20に例示された「ロック装置」の位置であることを,一義的に開示しているものとすることはできないし,また,図25に例示された「T位置」の開示をもってしても,上記「[1][第2の無効理由]・・・」,「3.検討」で説示したと同様に,「T位置」が,「天板下面」として例示されているにすぎないものであって,かつ,その位置が,図20に例示された「ロック装置」の位置よりも,図上,相対的に自由端に近い位置にあるものと認められることなどからして,上記「開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置」を,一義的に開示しているものとすることはできない。
したがって,原出願当初明細書における,図1乃至図4に示された地震時ロック装置,図20に例示された「ロック装置」の位置,及び,図25に例示された「T位置」を組合わせて一つの発明とし,これを原出願から分割して,新たな特許出願(本件特許出願)とすることは,少なくとも,地震時ロック装置の取り付け位置の点で,原出願当初明細書に記載されていない事項を本件特許発明の構成要件として含むものと思量されるから,分割要件に違反するものといわざるをえない。
また,仮に,上記組合わせによる発明の創作が分割要件に妥当するとしても,本件特許発明においては,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することにより,本件特許発明の課題を解決することができるものと,当業者が認識できるように記載された地震時ロック装置の取り付け位置を,上記「開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置」の範囲を超えて,さらに,「開き戸の自由端でない位置」(本件特許発明1の構成要件Dを参照。)との事項に限定しており,当該限定事項は,上記「[1][第2の無効理由]・・・」,「3.検討」で説示したと同様に,原出願当初明細書に記載された発明の範囲を超えるものというべきであるから,本件特許出願が,分割要件に違反するものであることに変わりはない。

(4)新規性または進歩性欠如について
そうすると,本件特許出願については,出願日の遡及を認めることはできず,本件特許発明の特許要件の判断の基準日は,その現実の出願日である平成16年6月7日であるところ,同基準日前である平成10年2月3日に公開された特願平8-171559号出願(原出願)に係る特開平10-30372号公報(甲第1号証)には,本件特許発明の実施例に用いられる地震時ロック装置とまったく同一の地震時ロック装置及びその使用方法が開示されており,また,当該地震時ロック装置及びその使用方法を用いた家具,吊り戸棚等についても開示されているから,本件特許発明は,上記甲第1号証に記載された発明と同一であるといわねばならない。

3.小括
以上により,本件特許発明に係る出願は不適法な分割出願であり,出願日の遡及を認めることはできず,本件特許発明の特許要件の判断の基準日は,その現実の出願日である平成16年6月7日であるところ,本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるか,少なくとも,同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうる発明であって,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである。


[3][第3の無効理由](明確性要件違反)について
審判請求人は,本件特許発明の「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動」,「開き戸の自由端でない位置」,「わずかに開かれる開き戸」,「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたロック位置となる開き戸」との構成が明確でなく,明確性要件を充たさない旨,主張しているので,以下,これについて検討する。

1.特許請求の範囲の記載
本件特許発明1,3及び4は,上記「第2.本件特許発明」で説示したとおりのものであり,このうち,本件特許発明1の構成要件が構成要件A?Fに分説されることは,上記「[1][第2の無効理由]・・・」,「1.特許請求の範囲の記載」で説示したとおりである。
本件特許発明1において,具体的に現れる構成は,「マグネットキャッチなしの開き戸」(構成要件A),「開き戸」,「家具,吊り戸棚等の本体」(構成要件B),「家具,吊り戸棚等の天板下面」(構成要件D)などであり,その他の構成は,明りょうでないか,或いは,機能的記載を以て表現されている。
そこで,本件特許発明1の「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」(構成要件C),「開き戸の自由端でない位置」(構成要件D),「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたロック位置となる」(構成要件E)との構成が明確であるか否かをみてみる。

2.発明の詳細な説明及び図面の記載
(1)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,段落【0006】乃至【0009】において,図1乃至図4に示されている実施例に関して記載されている。(上記「[1][第2の無効理由]・・・」,「2.発明の詳細な説明及び図面の記載」,「(1)発明の詳細な説明の記載」で説示したとおりである。)

(2)図面の記載
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


3.検討
(1)「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」(構成要件C),「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれたロック位置となる」(構成要件E)について
上記各構成に関して,段落【0006】の記載をみると,上記構成における「わずかに開かれる」及び「わずかに開かれた」の文言は,極めて抽象的な表現であるところ,同段落に,「・・・ゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。」,「・・・ゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。」,「該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。」と記載されており,かかる記載に照らし,図1乃至図4を参酌すると,上記「わずかに開かれる(た)」で表される程度は,係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止されている状態であって,係止手段(4)の係止部(4a)が装置本体(3)の停止部(3a)で停止された状態から,係止手段(4)が装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられた状態にわたっての,開き戸(2)の開き位置(即ち,地震が終わり開き戸(2)を強く押した際に,弾性手段(6)による押さえが外れて,係止手段(4)が図4の状態から図1の初期状態へと戻ることができる程度の開き戸(2)の開き位置)を意味するものと,当業者が一応は理解することができるものの,上記「わずかに開かれる」及び「わずかに開かれた」の文言を含む本件特許発明1の上記各構成については,作動を確実にするとの本件特許発明の課題に照らし,また,本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】乃至【0009】全体の記載及び図面の記載を参酌し,本件特許発明1の他の構成を参酌し,さらには,当業者の技術常識を勘案しても,具体的な構造や手段に依らず機能(作用)的記載を以て特定された本件特許発明1の範囲は明らかでなく,実施例以外の具体的な構成を想定できないから,本件特許発明1の範囲が明確でないものといわざるをえない。(特許庁審査基準,「第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」,「第36条第6項第2号違反の類型」,「(6)機能・特性等により物を特定する事項を含む結果、発明の範囲が不明確となる場合…」を参照。)
ところで,本件特許発明1の上記「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」(構成要件C)の構成については,さらに,同段落の,「地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。」との記載と整合していない。即ち,上記構成は,同段落の上記記載に依拠するものと理解されるところ,上記構成においては,「係止手段が地震のゆれの力で・・・ロック位置に移動し・・・開き戸の係止具に係止する」とあるのに対し,同段落の記載においては,「係止手段(4)」が,地震のゆれの力で先ず「係止具(5)」に接触する位置まで移動し(この状態では,未だ係止手段が係止具に係止されていない。),更なるゆれの力により「開き戸(2)がわずかに開くと」その「係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止」するものとしているから,両者は,「係止手段」の作動順序の点で大きく異なっている。
(よって,本件特許発明1の上記「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」の構成が,具体的にどのような作動を意味しているのか明確でないものといわざるをえない。)

(2)「開き戸の自由端でない位置」(構成要件D)について
本件特許発明1の「開き戸の自由端でない位置」の構成が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであることは,上記「[1][第2の無効理由]・・・」で説示したとおりであるところ,同発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載の明確性についても,これを根拠とすることができ,係止手段の大きさや地震検出感度,地震時の係止手段の作動速度や作動時間,開き戸の開口の大きさ,及び,地震時の開き戸の開口速度や開口時間等の条件が明らかであれば,当業者は,技術常識に照らし,一定の位置を特定することも可能であるといえるが,本件特許明細書には,これらの諸条件や当該諸条件に基づく取り付け位置の決定等について,一切記載されておらず,また,示唆すらもされていないのであるから,「開き戸の自由端でない位置」が,具体的にどのような範囲の位置なのか,明確でないことはいうまでもない。
ところで,段落【0009】には,「図5は本発明の方法を示し、該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。」,「地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。」と記載されており,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏する地震時ロック装置の取り付け位置として,「自由端から蝶番側へ離れた位置」となることが示されているとともに,図5には,「ロック装置」の位置が例示されており,本件特許発明1の上記「開き戸の自由端でない位置」の構成が,「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」を意味するものとしても,同段落の上記記載からは,「自由端から蝶番側へ離れた位置」が具体的にどのような範囲の位置になるかを窺い知ることはできないものであり,これは,本件特許明細書のその他の記載をみても明らかでないから,依然として,明確でないことはいうまでもない。

(3)まとめ
以上によれば,本件特許発明1は,同発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載が明確でないということができ,また,本件特許発明1を引用する本件特許発明3,4についても,同発明に係る特許請求の範囲の請求項3,4の記載が明確でないということができる。

4.小括
以上により,本件特許発明は,それに係る特許請求の範囲の記載が明確でないものであって,特許法第36条第6項第2号に定める要件を充たすとは認められないから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。


[3]結論
以上のとおりであり,その余の無効理由について判断するまでもなく,本件特許は無効にすべきものである。



第5.むすび
以上のとおり,本件特許は,特許法第36条第6項第1号及び同項第2号の規定に違反してなされたものであるから,同法第123条第1項第4号の規定に該当し,また,分割要件違反による特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-14 
結審通知日 2009-07-23 
審決日 2009-08-06 
出願番号 特願2004-197427(P2004-197427)
審決分類 P 1 123・ 113- Z (E05C)
P 1 123・ 537- Z (E05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 辻野 安人多田 春奈  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 関根 裕
山口 由木
登録日 2005-12-22 
登録番号 特許第3752588号(P3752588)
発明の名称 開き戸の地震時ロック方法  
代理人 平野 和宏  
代理人 横井 盛也  
代理人 中村 理紗  
代理人 井口 喜久治  
代理人 山崎 道雄  
代理人 井▲崎▼ 康孝  
代理人 森本 純  
代理人 福田 あやこ  
代理人 宇田 浩康  
代理人 辻村 和彦  
代理人 小松 陽一郎  
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