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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1209385
審判番号 不服2008-3201  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-12 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 平成10年特許願第538320号「折れた骨の髄内固定用装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月11日国際公開、WO98/38918、平成13年12月25日国内公表、特表2001-527437号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は1998年3月6日(パリ条約による優先権主張1997年3月7日、米国、1997年3月7日、米国、1998年1月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年9月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「骨の外表面を介して形成されると共に髄内キャビティー中へ延びる孔部が設けられた髄内キャビティーを有する折れた骨の髄内固定用装置において、
骨の孔部を介して髄内キャビティー中へ挿入するための骨固定具を備え、前記骨固定具は外周面を有する膨張して直径拡大しうる塑性変形可能な金属バルーンからなり、前記バルーンは骨を介して髄内キャビティー中へ挿入するための減少第1直径と第2拡大直径とを有し、前記バルーンの内部に流動体が供給された際の膨張によって、前記骨固定具が前記減少第1直径から前記第2拡大直径まで半径方向に直径が増大する際に前記外周面の少なくとも1部は前記骨固定具が前記第2拡大直径まで増大すると前記髄内キャビティーの側壁の1部と接触することを特徴とする折れた骨の髄内固定用装置。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用した、国際公開第96/32899号(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。(ドイツ語特有の文字は表記の都合上英語文字で置き換えて表記している。また、括弧内は引用例1に対応する特表平11-503639号公報による訳文である。)
ア.「Die Erfindung betrifft einen Nagel zur lage- und………ist auch Rotationsstabilitat gegeben.(本発明は折れた管状骨の姿勢および形状を固定するための釘に関する。
従来、折れた長い管状骨を内部から安定させるために主として、横断面がU字状またはV字状の剛性のある比較的に大きな寸法のスチール釘が使用された。この釘はその始端部と終端部と中央範囲において三点支持の原理で骨を安定させる。このような釘を挿入するために、大きな寸法の通路を骨の表面を通ってそして髄腔に切削加工しなければならない。この通路は使用される植付け釘の直径に等しい。この方法は、この通路を形成するために、ほとんど髄腔全体を削り取らなければならず、特に骨の血液供給部が損傷するという欠点がある。三点支持によって更に、比較的に小さな面積で力が伝達され、回転安定性を確保するために、ロックねじ等のような付加的な機構を使用しなければならない。
更に、治療した後で髄釘を取り出すことは比較的に面倒である。髄腔内に固定された釘を髄腔から引き抜くためには、特殊な引抜き工具によって比較的に大きな力を加えなければならない。それによって、髄腔の損傷が激しくなる。
ドイツ連邦共和国特許第3201056号公報により、請求項1の上位概念記載の髄釘が知られている。この場合、釘のシャフトは形状記憶合金からなる中空体である。この形状記憶合金は温度に依存してその都度、2つの形状状態のうちの一つをとる。それによって、髄釘は小さな横断面から拡大された状態に移行および逆に移行することができる。この公知の釘は、釘シャフトを拡大するために加熱しなければならないので、骨および骨髄が熱負荷されるという欠点がある。
本発明の課題は、良好に安定させることができると共に、髄腔を大きく損傷させることなく植付け可能であり、骨および骨髄が熱負荷されない、折れた管状骨の姿勢(位置)および形状を固定するための釘を提供することである。
この課題は本発明に従い、請求項1記載の特徴を有する釘によって解決される。
本発明による釘は拡げられていない状態で、すなわち小さな直径のときに、比較的に小さな寸法の皮質通路を通って髄腔に挿入可能である。その際、髄腔を大きく損傷させる切除は不要である。釘が完全に植付けられた状態で、釘の横断面は折れた骨を安定させるために必要な寸法に拡げられる。その際、支持する力は大きな面積に分配される。面による連結と、髄腔の所定の形状に対する適合によって、回転安定性が得られる。)」(1ページ4行?3ページ4行)

イ.「Der in Fig.1 gezeigte Nagel fur Rohrenknochen………fur eine uber die Lange hinweg gleichmasige Anlage am Knochen. (図1に示した管状骨用釘は、特に組織親和性の合成樹脂からなる本体2を有するシャフト1を備えている。ほぼ形成安定性があってしかも好ましくはある程度の曲げ弾性を有するこの本体2は、本実施の形態では円形横断面を有し、周方向においてそれぞれ120°ずらした、長手方向に延びる3つの溝3を備えている。この溝内には、横断面が特に弾性的に膨張可能なホース状の拡大体4が収容されている。この拡大体は同様に、組織親和性の合成樹脂材料からなっている。拡大体4は負荷されていない静止状態で、好ましくは本体2の外側輪郭から突出していない。釘の頭5は、図10に示すような充填兼負荷解除弁のための接続部分として形成され、この弁のための接続ねじ6を備えている。釘の尖端部には端キャップ7が設けられ、この端キャップは釘の挿入を容易にするために円錐形に形成されている。尖端部内には好ましくは金属ピン8が設けられている。この金属ピンはレントゲンチェックで見えるので、釘の挿入を容易にする。金属ピンはくぎの全長にわたって延びていてもよい。
それぞれ1つの小室を形成する拡大体4は、ガスまたは液体(生理食塩水が医学的な観点から最も適している)を注入することによって、内側から圧力を加えられ、図4に示すように拡大体4が拡がるので、釘シャフト1の横断面全体が大きくなる。それによって、横断面はほぼ放射状(星形)の形になる。最も外側に突出する部分が外接円横断面の一部分に制限されるので、骨髄の移動のための充分な逃げ室が形成される。拡大体の横断面を適切に形成することにより、骨に対する接触面の状態および大きさに影響を与えることができる。本体2の曲げ弾性ひいてはシャフト1の曲げ弾性は、髄腔の湾曲にシャフトを追従させ、拡大体の性質と共に、全長にわたって均一に骨に接触させる。)」(4ページ16行?5ページ18行)

そして、図4には、拡大体4が半径方向に直径が増大する際に、本体2の外側輪郭から突出した態様が図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「折れた管状骨の姿勢(位置)および形状を固定するために髄腔に挿入し、植付ける釘であって、尖端部の端キャップ7は円錐形で金属ピンが設けられ、その本体2は、溝を有し、該溝には弾性的に膨張可能なホース状の拡大体4が収容され、拡大体4は、ガスまたは液体(生理食塩水が医学的な観点から最も適している)を注入することによって、内側から圧力を加えられて半径方向に直径が増大するように拡げられ、本体2の外側輪郭から突出した状態となり、髄腔の湾曲にシャフトを追従させ、全長にわたって均一に骨に接触する釘。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用した、特開昭58-124438号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(大文字を小文字で表記した箇所がある。)
ウ.「本発明の根底をなす課題は、上記の諸種の欠点を持たない、特に容易にかつ確実に骨内に固定できる髄内釘を造ることである。
この課題は以下のようにして解決される。即ち54?56重量%のニッケルと残りチタンを含有するNi-Ti-合金から成る髄内釘が温度に依存して既に公知のメモリー-効果にしたがって可塑的に行われた予備変形に相応してその都度、特に髄内釘の断面を包絡するその際最も小さな環形の種々の半径によって異なる二つの可能な形状態様のうちのいずれか一つの形状態様を有していること、および髄内釘が凹状に或いは平坦に成形された外壁を備えておりかつメモリー-効果を発現する温度を越えるかもしくはこの温度を下まわった後僅かな彎曲の凹状の外壁を備えた環形の或いは多角形の断面へ拡開可能な多角形の、しかし大抵四角形の、蛇行形の或いはクッション形の断面を備えていることによって解決される。
本発明による髄内釘の特別な利点は、この髄内釘がその形状が閉鎖されている結果高いねじれ強度を有し、骨物質の釘スリット内への成長を許容せずかつ同様に開放された断面の高い断面弾性を持っていることである。これらの利点は本発明による髄内釘にあってはメモリー-効果を最適に利用できるという可能性を附帯している。したがって、メモリ一-効果が発現した後髄内釘の外表面か管状骨の内壁に固く当接し、この場合同時に良好な安定化と良好な圧迫が保証される。メモリー-合金から成る従来公知の髄内釘に比較して、本発明による髄内釘の断面形はメモリ一-効果の発現により釘の著しく大きな直径変更を可能にし、したがって、組込みと解体が力を加えずに行うことが可能となる。」(3ページ左下欄1行?右下欄14行)

エ.「図示した本発明による髄内釘にあって共通なことは、これらが閉じられた外套部を有していることである.これは一方では例えば四角形の管のような中空の断面によって、或いは他の適当な実施形では少くとも周面の一部において二つ或いは多数の板層が互いに重なり合っている環形に曲げられ板によって達せられる。この髄内釘は端部において中空室は閉じられていても開かれていてもよい。閉じられている断面の欠点は髄内釘を組込む際半径方向での四囲の圧縮に対して著しい抵抗が生じること、即ち断面安定性が僅かであることにある。この欠点は髄内釘に適当な形状を附与することによって、即ち髄内釘部分の適当な構造によっておよび材料の適当な選択によって排除することができる。」(4ページ右上欄4?18行)

オ.「更に、空気圧或いは液圧による内圧の負荷によって附加的に髄内釘を拡張することが可能となる。成形部材を髄内釘中に導入することにより附加的な拡張も、慣性および剛性の附加的な増大も達せられる。
更に、髄内釘を極めて肉薄に形成し、これにより更に大きな直径変化を可能にすること、および引続き導入可能な内部髄内釘を強化することも可能となる。」(7ページ右上欄1?9行)

引用例2の上記記載事項ウ.ないしオ.から、髄内釘において、「断面及び端面が閉じられた中空室を金属製とし、空気圧或いは液圧による内圧の負荷を与えることにより、中空室(の直径を)拡張して塑性変形させる技術」が本願の優先権主張日前に公知であったと認められる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「釘」、「拡大体4」、「髄腔」、「ガスまたは液体」は、その機能ないし構造からみて、それぞれ、前者における「髄内固定用装置」、「骨固定具」である「バルーン」、「髄内キャビティー」、「流動体」に相当する。
そして、後者の「拡大体4」は、上記記載事項ア.の「本発明による釘は拡げられていない状態で、すなわち小さな直径のときに、比較的に小さな寸法の皮質通路を通って髄腔に挿入可能である。」及び記載事項イ.の「この端キャップは釘の挿入を容易にするために円錐形に形成されている。尖端部内には好ましくは金属ピン8が設けられている。この金属ピンはレントゲンチェックで見えるので、釘の挿入を容易にする。」から、「骨の外表面を介して形成されると共に髄内キャビティー中へ延びる」骨の孔部を介して髄内キャビティー中へ挿入されるものであると認められる。また、「内側から圧力を加えられて半径方向に直径が増大するように拡げられ、・・・髄腔の湾曲にシャフトを追従させ、全長にわたって均一に骨に接触する」から、「前記減少第1直径から前記第2拡大直径まで半径方向に直径が増大する際に前記外周面の少なくとも一部は前記骨固定具が前記第2拡大直径まで増大すると前記髄内キャビティーの側壁の一部と接触する」といえる。
したがって、両者は、
「骨の外表面を介して形成されると共に髄内キャビティー中へ延びる孔部が設けられた髄内キャビティーを有する折れた骨の髄内固定用装置において、
骨の孔部を介して髄内キャビティー中へ挿入するための骨固定具を備え、前記骨固定具は外周面を有する膨張して直径拡大しうる変形可能なバルーンからなり、前記バルーンは骨を介して髄内キャビティー中へ挿入するための減少第1直径と第2拡大直径とを有し、前記バルーンの内部に流動体が供給された際の膨張によって、前記骨固定具が前記減少第1直径から前記第2拡大直径まで半径方向に直径が増大する際に前記外周面の少なくとも1部は前記骨固定具が前記第2拡大直径まで増大すると前記髄内キャビティーの側壁の1部と接触する折れた骨の髄内固定用装置。」である点で一致しており、次の点で相違する。

相違点:「バルーン」が、 本願発明においては、「塑性変形可能な金属」からなるのに対し、引用発明においては「弾性的に膨張可能な」ものであり、金属であるか不明である点。

上記相違点について検討すると、髄内釘において、「断面及び端面が閉じられた中空室を金属製とし、空気圧或いは液圧による内圧の負荷を与えることにより、中空室(の直径を)拡張して塑性変形させる技術」は、上記引用例2に記載されているように公知であるから、引用発明にこの技術を適用して上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記相違点に係る本願発明の特定事項による効果も当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものではない。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-24 
結審通知日 2009-06-30 
審決日 2009-07-21 
出願番号 特願平10-538320
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土田 嘉一  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 中島 成
蓮井 雅之
発明の名称 折れた骨の髄内固定用装置  
代理人 金倉 喬二  

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