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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1209568
審判番号 不服2007-20490  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-24 
確定日 2010-01-05 
事件の表示 特願2005-311031号「単層微粒子膜と累積微粒子膜およびそれらの製造方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月17日出願公開、特開2007-118276号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年10月26日の出願であって、平成19年3月22日付けで手続補正がなされた後、平成19年6月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年7月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年7月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年7月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年7月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「基材表面を少なくとも第1のエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、微粒子を少なくとも第2のイミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、第1の反応性の有機膜の形成された基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を接触させて反応させる工程と、余分な第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を洗浄除去して単層微粒子膜を製造する方法において、イミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中のシラノール縮合触媒として有機酸を用いることを特徴とする単層微粒子膜の製造方法。」
と補正された。

本件補正は、補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「イミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中」の「シラノール縮合触媒」について「有機酸」に限定するものであり、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶理由に引用された特開2003-168606号公報(以下、「引用例1」という。)、同じく特開2005-280020号公報(以下、「引用例2」という。)、及び同じく特開平8-337654号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

a.引用例1;

記載事項ア.段落【0001】
「【発明が属する技術分野】本発明は、微粒子表面に有機コーティング膜を形成させた上で基板表面上に微粒子からなる微粒子配列体とその製造方法及びこれを用いたデバイスに関するものである。また、工業的な応用例として磁性微粒子を基板上に整列して配列し、高密度磁気記録再生に対応した磁気記録媒体、磁気抵抗効果素子、微粒子を利用した半導体素子に関するものである。」

記載事項イ.段落【0035】
「前記微粒子に形成した単分子膜と、基板に形成した単分子膜の結合の一例を図27-28に示したが、下記にも示す。
(1) アミノ基と-ClCO基反応系
(2) 水酸基と-ROSi基反応系
(3) ベンジル基とアミノ基反応系
(4) ベンジル基とフェニル基反応系
(5) アルデヒド基とアミノ基反応系
(6) フェニル基とアルキル基反応系
(7) フェニル基と-ClCO基反応系
(8) ベンジル基とベンゾアルデヒド基反応系
(9) イソシアネート基とアミノ基反応系
(10) イソシアネート基と水酸基反応系
(11) エポキシ基とアミノ基反応系
(12) カルボキシル基と水酸基反応系
(13) 不飽和結合基とハロゲン基反応系
(14) カルボキシル基とアミノ基反応系
図27-28において、R_(1),R_(2)はそれぞれ炭素数1以上30以下のアルキル鎖を主とする基、ただし、R_(1)およびR_(2)には基板または微粒子と結合可能な官能基(クロロシラン基、チオール基、イソシアネート基、アルコキシシラン基、配位結合を形成する基)がある。また、当該官能基に不飽和結合、環状基(ベンゼン環、ヘテロ環、シクロ環、単環式炭化水素基、多環式炭化水素基など)、化学合成上必要な結合基(エステル結合基、エーテル結合基、イオウを含む結合基、チッソを含む結合基など)を含む場合がある。R_(1)およびR_(2)は同一の基であっても別々の基であってもよい。」

記載事項ウ.【図28】


「 エポキシ基とアミノ基反応系





記載事項エ.段落【0130】?【0132】
「【0130】(実施例3)本実施例について図7A-C、図8A-C及び図9A-Bを用いて説明する。
【0131】エチルアルコールを溶媒にして末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))の0.01モル溶液を作成した。この溶液50mLに磁性Co微粒子20を10mgを加えて、緩やかに攪拌し、つぎに反応促進のため1M塩化水素水を1mL加えてさらに攪拌した。半時間後に固液分離を行って、平均粒子直径9nmの磁性Co微粒子を取り出し、エチルアルコール100mL中に当該磁性Co微粒子約10mgを入れて、緩やかに攪拌して洗浄した。その後、再び固液分離を行って磁性微粒子を取り出した。次に当該磁性微粒子を120℃に設定した加熱装置に入れて、半時間静置した。これらの操作によって磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜21が形成された(図7A-C)。
【0132】図7Aは磁性微粒子20の断面図であり、図7Bは磁性微粒子20の表面が単分子膜21で覆われている断面図であり、図7Cは図7BのEの部分拡大断面図である。」

記載事項オ.段落【0133】、【0134】
「【0133】一方、シリコン基材22の表面にも同様の処理を行い、単分子膜を形成した。エチルアルコールを溶媒にして末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))の0.01モル溶液を作成した。この溶液50mLをシャーレに採り、その溶液に塩化水素水を1mL加えた後に、2cm×3cmのシリコン基板22を浸漬し、約1時間静地した。次にシリコン基板を溶液から取り出し、エチルアルコールで数度基板表面を洗った。基板表面に乾燥窒素ガスを当てて基板表面を乾燥し、その後、120℃に維持したベーク装置に当該基板を入れて、半時間静地した。これらの操作を経てシリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜23が形成された(図8A-C)。
【0134】図8Aはシリコン基板22の断面図であり、図8Bは同基板22の表面が単分子膜23で覆われている断面図であり、図8Cは図8BのFの部分拡大断面図である。」

記載事項カ.段落【0135】、【0136】
「【0135】次に、上記磁性微粒子約10mgをエチルアルコール10mLに加えて上記単分子膜形成を終えた磁性微粒子をエチルアルコールに分散させた液を調整した。その濃度は適宜でよい。上記基板をホットプレート上に置き、上記基板上にスポイトを用いて上記エチルアルコール溶液を数箇所滴下して、基板表面が上記エチルアルコール溶液で濡れた状態にした。次いでホットプレートの温度を上げて、150℃程度に設定し、加熱した。基板上のエチルアルコールはすぐに気化し、基板上には磁性微粒子が残り、磁性微粒子と基板の双方の表面に形成された単分子膜の官能基同士の脱水反応が行われた。この反応は基板表面に形成された単分子膜の官能基と磁性微粒子表面に形成された単分子膜表面の官能基に対してだけ行われ、磁性微粒子表面に形成された単分子膜の官能基同士では反応が起きず、反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落とすことができ、基板上には反応が起きた磁性微粒子が化学結合24で固定された。図9Aには、基板上に脱水反応が起き、アミド結合(-NHCO-)24を含む分子21,23で固定されている例を示す。
【0136】以上の操作により、基板22表面上に微粒子配列体25が形成できた(図9B)。」

記載事項キ.段落【0137】、【0138】
「【0137】(実施例4)本実施例について図10A-Bを用いて説明する。
【0138】実施例2に示すように、水酸基を末端官能基として有するチオール化合物からなる単分子膜31を第1の磁性Co微粒子30(平均粒子直径9nm)の表面上に形成し、上記第1の磁性微粒子を保持する基板32に対してもエポキシ基を末端官能基として有するクロロシラン化合物からなる単分子膜33を形成し、その後、上記基板表面に上記第1の磁性微粒子を保持する化学結合反応の操作を行い、上記第1の磁性微粒子は基板表面上で化学結合34を形成し、第1の微粒子配列体35を形成した(図10A)。」

記載事項ク.提出日、平成15年12月12日の手続補正書の【特許請求の範囲】【請求項1】
「基板上に微粒子配列体を製造する方法であって、
個々の前記微粒子表面に、分子末端に官能基を有する単分子膜からなる第1の有機コーティング膜を形成し、
前記基板表面に、分子末端に官能基を有する単分子膜からなる第2の有機コーティング膜を形成し、
前記第1の有機コーティング膜と前記第2の有機コーティング膜とを接触させ、双方の有機コーティング膜の官能基間で化学結合を形成させることを特徴とする微粒子配列体の製造方法。」

前記記載事項ア.?ク.の記載内容からして、引用例1には、
「基板上に微粒子配列体を製造する方法であって、
個々の前記微粒子表面に、分子末端に官能基を有する単分子膜からなる第1の有機コーティング膜を形成し、
前記基板表面に、分子末端に官能基を有する単分子膜からなる第2の有機コーティング膜を形成し、
前記第1の有機コーティング膜と前記第2の有機コーティング膜とを接触させ、双方の有機コーティング膜の官能基間で化学結合を形成させる微粒子配列体の製造方法であって、
エチルアルコールを溶媒にして末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))の溶液を作成し、この溶液に磁性Co微粒子20を加えて緩やかに攪拌し、つぎに反応促進のため1M塩化水素水を加えてさらに攪拌し、固液分離を行って、平均粒子直径9nmの磁性Co微粒子を取り出し、エチルアルコール中に当該磁性Co微粒子を入れて緩やかに攪拌して洗浄し、その後、再び固液分離を行って磁性微粒子を取り出し、次に当該磁性微粒子を加熱装置に入れて、半時間静置して磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜21を形成し、同様に、エチルアルコールを溶媒にして末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))の溶液を作成し、この溶液に塩化水素水を加えた後に、シリコン基板22を浸漬し、静置した後シリコン基板を溶液から取り出し、エチルアルコールで数度基板表面を洗った後、基板表面を乾燥し、その後、ベーク装置に当該基板を入れて静置することにより、シリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜23を形成し、次に、上記磁性微粒子をエチルアルコールに加えて上記単分子膜形成を終えた磁性微粒子をエチルアルコールに分散させた液を調整し、上記基板をホットプレート上に置き、上記基板上に上記エチルアルコール溶液を数箇所滴下して、基板表面が上記エチルアルコール溶液で濡れた状態にして加熱し、磁性微粒子と基板の双方の表面に形成された単分子膜の官能基同士の脱水反応を行わせ、反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落とし、基板上には反応が起きた磁性微粒子が化学結合24で固定されて基板22表面上に微粒子配列体25を形成している、
基板上に微粒子配列体を製造する方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2;

離型性金型とその製造方法に関するもので、
記載事項ケ.【特許請求の範囲】の項中【請求項13】、【請求項16】、【請求項17】
「【請求項13】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質とシラノール縮合触媒を非水系有機溶媒で混合希釈した複合膜形成溶液を金型表面に接触させて反応させ被膜を形成する工程と、前記金型表面の余分な溶液を溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程と、実質的に酸素を含まない雰囲気中で焼成する工程とを含むことを特徴とする離型性金型の製造方法。
【請求項16】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質としてCF_(3)-(CF_(2))_(n)-(CH_(2))_(2)-Si(OA)_(3)(nは整数、Aはアルキル基)を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質として(AO)_(3)Si(OSi(OA)_(2))_(m)OA(mは0または整数、Aはアルキル基)を用い、混合時の分子組成比を1:10?10:1にすることを特徴とする請求項12乃至15に記載の離型性金型の製造方法。」
【請求項17】
シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする請求項12乃至16に記載の離型性金型の製造方法。」

記載事項コ.【発明を実施するための最良の形態】の項中(実施の形態2)の段落【0127】、【0128】
「【0127】
さらにまた、シラノール縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2-エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能である。
【0128】
なお、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いると、反応時間を2倍程度早くでき、製膜時間を半分程度に短縮できる。」

c.引用例3;

化学吸着膜の製造方法及びこれを用いる化学吸着液に関するもので、
記載事項サ.段落【0006】?【0008】
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の化学吸着単分子膜の製造方法は、クロロシラン系の界面活性剤と基材表面の活性水素との脱塩酸反応で被膜を形成していたため、膜製造時に有害な塩酸ガスが発生するという極めて大きい問題があった。また、アルコキシシラン界面活性剤を脱アルコール反応して分子膜を形成することの試みもあるが、反応速度が遅く膜形成を手軽に行えないという問題があった。また、脱アルコール触媒の使用も考えられるが、単に脱アルコール触媒の添加するだけでは、空気中の水分により界面活性剤が自ら架橋してしまい失活するという問題がある。すなわち、表面処理剤に水が含まれるようになると、基材表面と反応する前に界面活性剤が自ら架橋してしまい、基材表面の固液界面での反応が阻害されて化学吸着膜ができにくくなるという問題がある。
【0007】本発明は、前記従来技術の課題を解決するため、膜製造時に有害な塩酸ガスが発生せず、反応速度も実用的に十分である化学吸着膜の製造方法及びこれに用いる化学吸着液を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の化学吸着膜の製造方法は、活性水素を含む基材の表面に化学吸着膜を形成する方法において、少なくともアルコキシシラン系界面活性剤と、活性水素を含まない非水系溶媒と、シラノール縮合触媒を含む混合溶液を、前記基材表面に接触させて、前記基材表面にシロキサン結合を介して共有結合した化学吸着膜を形成することを特徴とする。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(a)引用発明の「基板22表面上に微粒子配列体25を形成している、基板上に微粒子配列体を製造する方法」は、引用例1の図9(A)、(B)を参酌すると基板22表面上に形成された微粒子配列体25が単層となっているから、本願補正発明の「単層微粒子膜の製造方法」に相当する。
また、引用発明の「基板」は、本願補正発明の「基材」に相当する。

(b)引用発明の「シリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜23を形成」する工程は、本願補正発明の「基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程」に相当し、引用発明の「磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜21を形成」する工程は、本願補正発明の「微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程」に相当する。

(c)引用発明の「末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物」と本願補正発明の「第1のエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物」とは、「第1の官能基を含むアルコキシシラン化合物」の概念に包含されるものである点で一致する。

(d)引用発明の「エチルアルコールを溶媒にして末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))の溶液を作成し、この溶液に磁性Co微粒子20を加えて緩やかに攪拌し、つぎに反応促進のため1M塩化水素水を加えてさらに攪拌し、固液分離を行って、平均粒子直径9nmの磁性Co微粒子を取り出し、エチルアルコール中に当該磁性Co微粒子を入れて緩やかに攪拌して洗浄し、その後、再び固液分離を行って磁性微粒子を取り出し、次に当該磁性微粒子を加熱装置に入れて、半時間静置して磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜21を形成」する工程において、「塩化水素水」は、シラノール縮合反応を促進するために用いるものと認められるから、本願補正発明における「シラノール縮合触媒」に相当する。また、引用発明の「磁性Co微粒子20」は本願補正発明の「微粒子」に相当し、同様に引用発明の「アミノ基を有するメトキシシラン化合物」は本願補正発明の「第2のアミノ基を含むアルコキシシラン化合物」に、引用発明の「エチルアルコール」は本願補正発明の「非水系の有機溶媒」に、それぞれ相当するから、引用発明は「微粒子を少なくとも第2のアミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程」を備えているといえ、引用発明の「アミノ基」と本願補正発明の「イミノ基」とは、「窒素-水素を含む官能基」の概念に包含されるものである点で一致するから、本願補正発明の「微粒子を少なくとも第2のイミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程」とは、「微粒子を少なくとも第2の窒素-水素を含む官能基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程」である点で一致しているといえる。
また、引用発明は、単分子膜23を単分子膜21と同様に形成するものであるから、引用発明の「エチルアルコールを溶媒にして末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))の溶液を作成し、この溶液に塩化水素水を加えた後に、シリコン基板22を浸漬し、静地した後シリコン基板を溶液から取り出し、エチルアルコールで数度基板表面を洗った後、基板表面を乾燥し、その後、ベーク装置に当該基板を入れて静地することにより、シリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜23を形成」する工程と、本願補正発明の「基材表面を少なくとも第1のエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程」とは「基材表面を少なくとも第1の官能基を含むアルコキシシラン化合物と、シラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程」である点で一致している。

(e)引用発明は、微粒子表面に形成した単分子膜21からなる第1の反応性の有機コーティング膜と、基板表面に形成した単分子膜23からなる第2の反応性の有機コーティング膜とを接触させ、双方の有機コーティング膜の官能基間で化学結合を形成させるものであるから、引用発明は、本願補正発明の「第1の反応性の有機膜の形成された基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を接触させて反応させる工程」を有するといえる。

(f)引用発明は、「磁性微粒子と基板の双方の表面に形成された単分子膜の官能基同士の脱水反応を行わせ、反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落とし、基板上には反応が起きた磁性微粒子が化学結合24で固定されて基板22表面上に微粒子配列体25を形成している」から、引用発明は本願補正発明の「余分な第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を洗浄除去して単層微粒子膜を製造する方法」に相当する特定事項を備えているといえる。

そうすると、本願補正発明と引用発明との両者は、
「基材表面を少なくとも第1の官能基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、微粒子を少なくとも第2の窒素-水素を含む官能基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、第1の反応性の有機膜の形成された基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を接触させて反応させる工程と、余分な第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を洗浄除去して単層微粒子膜を製造する方法。」
である点で一致し、次の相違点が存在する。

相違点(A);
アルコキシシラン化合物に含まれる第1の官能基が、本願補正発明では、エポキシ基であるのに対して、引用発明では、カルボキシル基である点。

相違点(B);
第2の窒素-水素を含む官能基を含むアルコキシシラン化合物が、本願補正発明では、イミノ基を含むアルコキシシラン化合物であるのに対して、引用発明では、アミノ基を含むアルコキシシラン化合物であり、さらに、本願補正発明は、イミノ基を含むアルコキシシラン化合物を用いた化学吸着液中のシラノール縮合触媒として有機酸を用いるのに対して、引用発明は、アミノ基を含むアルコキシシラン化合物を用いた化学吸着液中のシラノール縮合触媒として塩化水素水を用いるものである点。

(4)当審の判断
相違点について検討する。

相違点(A)について;

引用例1の記載事項イ.には、微粒子に形成した単分子膜と、基板に形成した単分子膜の結合の一例として、「カルボキシル基とアミノ基反応系」と共に「エポキシ基とアミノ基反応系」が記載されており、「エポキシ基とアミノ基反応系」のR_(1)(引用例1の図28(記載事項ウ.参照))には、基板または微粒子と結合可能な官能基としてアルコキシシラン基が記載されている。
また、引用例2、3に記載されているように、基材表面とシラノール結合する化合物としてアルコキシシラン化合物を用いることや基材表面にシラノール縮合反応性アルコキシシラン有機膜を形成するのに用いる化学吸着液中に、シラノール縮合触媒を添加することは従来より知られていることを考慮すると、引用発明における「カルボキシル基を含むアルコキシシラン化合物」に代えて「エポキシ基を含むアルコキシシラン化合物」を採用して、上記相違点(A)に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

相違点(B)について;

本願補正発明のイミノ基を含むアルコキシシラン化合物と、引用発明のアミノ基を含むアルコキシシラン化合物とは、窒素-水素を含む官能基を含むアルコキシシラン化合物である点で、機能が共通する化合物であるといえ、本願補正発明の「エポキシ基とイミノ基との反応系」が、引用発明の「エポキシ基とアミノ基との反応系」と同様な反応をするであろうことは、当業者であれば容易に想起し得ることであるから、必要に応じて引用発明の「エポキシ基とアミノ基との反応系」に代えて「エポキシ基とイミノ基との反応系」を採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、引用例2には、基材表面にシラノール縮合反応性アルコキシシラン有機膜を形成するのに用いる化学吸着液中に、シラノール縮合触媒として有機酸を用いることが記載されており(記載事項コ.参照)、イミノ基を含むアルコキシシラン化合物を用いた化学吸着液中のシラノール縮合触媒として有機酸を使用し得ない特別の事情もないから、引用発明の「エポキシ基とアミノ基との反応系」に代えて「エポキシ基とイミノ基との反応系」を採用した際に、必要に応じて有機酸をシラノール縮合触媒として使用し、上記相違点(B)に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

本願補正発明の作用・効果についても、引用発明、引用例2及び引用例3に記載された発明から予測される範囲を逸脱するものとは認めがたい。

したがって、本願補正発明は、引用例1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

平成19年7月26日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明は、平成19年3月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)

「基材表面を少なくとも第1のエポキシ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、微粒子を少なくとも第2のイミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、第1の反応性の有機膜の形成された基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を接触させて反応させる工程と、余分な第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を洗浄除去することを特徴とする単層微粒子膜の製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「イミノ基を含むアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中のシラノール縮合触媒」の限定事項である「有機酸」の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-02 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-27 
出願番号 特願2005-311031(P2005-311031)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 秋月 美紀子
今関 雅子
発明の名称 単層微粒子膜と累積微粒子膜およびそれらの製造方法。  
代理人 中嶋 和昭  

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