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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1209681
審判番号 不服2007-18658  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-04 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 平成 9年特許願第348660号「ソリッドゴルフボール用ゴム組成物およびソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月22日出願公開、特開平11-164912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年12月3日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成19年2月19日付けで手続補正がされたが、平成19年5月28日(起案日)付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成19年7月4日付けで審判請求がされるとともに、平成19年8月2日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
これに対し、当審において、平成19年10月16日付け(起案日)で審査官により作成された前置報告書について、平成21年4月1日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年6月3日付けで回答書を提出した。

第2 平成19年8月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正前後の特許請求の範囲
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
本件補正前(平成19年2月19日付け手続補正書)に
「【請求項1】 (a)1,4-シス結合含量が80%以上、1,2-ビニル結合含量が2.0%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム50?100重量部、(b)上記(a)成分以外のジエン系ゴム50?0重量部(ここで、(a)成分と(b)成分の合計量は100重量部である)、(c)架橋性モノマー10?50重量部、(d)無機充填材20?80重量部、および(e)有効量の有機過酸化物、を含有するソリッドゴルフボール用ゴム組成物であって、上記(a)成分が、希土類元素系触媒を用いて重合し、引き続き末端変性剤を反応させて得られる変性ポリブタジエンゴムであることを特徴とするソリッドゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項2】 ソリッドゴルフボールのゴム質の一部または全部が、請求項1に記載のゴム組成物を、架橋、成形したものであることを特徴とするソリッドゴルフボール。」
とあったものを、
「【請求項1】 (a)1,4-シス結合含量が90%以上、1,2-ビニル結合含量が1.5%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム50?100重量部、(b)上記(a)成分以外のジエン系ゴム50?0重量部(ここで、(a)成分と(b)成分の合計量は100重量部である)、(c)架橋性モノマー10?50重量部、(d)無機充填材20?80重量部、および(e)有効量の有機過酸化物、を含有するソリッドゴルフボール用ゴム組成物であって、上記(a)成分が、希土類元素系触媒を用いて重合し、引き続き末端変性剤を反応させて得られる変性ポリブタジエンゴムであることを特徴とするソリッドゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項2】 上記希土類元素系触媒が、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルモキサン、ハロゲン含有化合物、及び、ランタン系列希土類元素化合物とルイス塩基の組合せからなる群より選ばれる請求項1に記載のソリッドゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項3】
上記末端変性剤が、下記(E)?(J)に記載した化合物の中から選ばれる請求項1又は2に記載のソリッドゴルフボール用ゴム組成物。
(E) R^(4)_(n)M′X_(4-n)、M′X_(4)、M′X_(3)、R^(4)_(n)M′(-R^(5)-COOR^(6))_(4-n)またはR^(4)_(n)M′(-R^(5)-COR^(6))_(4-n)(式中、R^(4)およびR^(5)は、同一または異なり、炭素数1?20の炭素原子を含む炭化水素基、R^(6)は炭素数1?20の炭素原子を含む炭化水素基であり、側鎖にカルボニル基またはエステル基を含んでいてもよく、M′はスズ原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはリン原子、Xはハロゲン原子、nは0?3の整数である)
に対応するハロゲン化有機金属化合物、ハロゲン化金属化合物または有機金属化合物
(F) 分子中に、Y=C=Z結合(式中、Yは炭素原子、酸素原子、チッ素原子またはイオウ原子、Zは酸素原子、チッ素原子またはイオウ原子である)を含有するヘテロクムレン化合物
(G) 分子中に
【化1】

結合(式中、Yは、酸素原子、チッ素原子またはイオウ原子である)を含有するヘテロ3員環化合物
(H) ハロゲン化イソシアノ化合物。
(I) R^(7)-(COOH)_(m)、R^(8)(COX)_(m)、R^(9)-(COO-R^(10))、R^(11)-OCOO-R^(12)、R^(13)-(COOCO-R^(14))_(m)、または
【化2】

(式中、R^(7)?R^(15)は、同一または異なり、炭素数1?50の炭素原子を含む炭化水素基、Xはハロゲン原子、mは1?5の整数である)
に対応するカルボン酸、酸ハロゲン化物、エステル化合物、炭酸エステル化合物または酸
無水物
(J) R^(16)_(l)M″(OCOR^(17))_(4-l)、R^(18)_(l)M″(OCO-R^(19)-COOR^(20))_(4-l)、または
【化3】

(式中、R^(16)?R^(22)は、同一または異なり、炭素数1?20の炭素原子を含む炭化水素基、M″はスズ原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子、lは0?3の整数である)に対応するカルボン酸の金属塩
【請求項4】 ソリッドゴルフボールのゴム質の一部または全部が、請求項1に記載のゴム組成物を、架橋、成形したものであることを特徴とするソリッドゴルフボール。」
と補正するものである。(下線は審決において付した。以下同じ。)

2 補正目的について
(1)本件補正により、請求項数が2から4に増加された。
そこで、本件補正の具体的内容についてみるに、本件補正は以下に示す補正内容ア及びイを含むものである。
ア 本件補正後の「請求項1」について、希土類元素系触媒について具体的な限定を行った請求項を追加して、本件補正後の「請求項2」とする。
イ 本件補正後の「請求項1」について、末端変性剤について具体的な限定を行った請求項を追加して、本件補正後の「請求項3」とする。
(2) 上記補正内容ア及びイについて検討する。
本件補正前の特許請求の範囲において、「希土類元素系触媒」及び「末端変性剤」を用いる「ソリッドゴルフボール用組成物」は、請求項1のみである。
一方、本件補正後の特許請求の範囲においては、請求項1ないし3のいずれもが、「希土類元素系触媒」及び「末端変性剤」を用いる「ソリッドゴルフボール用組成物」に関するものである。
してみると、本件補正前の請求項1が、本件補正後の請求項1ないし3に対応するものと解さざるを得ないことから、本件補正前後の請求項が、1対1またはそれに準ずる対応関係にないことは明らかである。
よって、本件補正のうち上記補正内容ア及びイは、いわゆる増項補正にあたるものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当するものであるとは認められず、また、請求項の削除(同項第1号)、誤記の訂正(同項第3号)、明りようでない記載の釈明(同項第4号)を目的とする補正のいずれにも該当しないものである。
(3)上記増項補正について、平成21年4月1日付け審尋にて指摘したところ、審判請求人は、平成21年6月3日付け回答書において、
「(1)審判請求時の補正に関して
前置報告書の中で、審査官殿は、審判請求時の補正が特許法第17条の2第4項の規定に違反し、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである旨、述べられています。
これに関しては、審査官殿のご指摘のとおりでした」と述べており、「上記補正内容(イ)を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する」旨認めている。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、上記補正内容ア及びイを含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年8月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成19年2月19日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由]1.(1)」に本件補正前の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりである。

2 引用刊行物
(1)原査定の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-106380号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
ア 「数平均分子量(Mn)が17.5×10^(4)?35×10^(4)の範囲にあって重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが4.0未満であるシス-1,4-結合を40重量%以上有するポリブタジエンゴム(A)を10重量部以上と、シス-1,4-結合を90重量%以上有するポリブタジエンゴム(B)とを合わせて80重量部以上含有してなる基材ゴム100重量部に対し、アクリル酸金属塩をアクリル酸量として5?10重量部、ウレタンアクリレートを5?30重量部、金属酸化物を5?50重量部、有機過酸化物を0.5?3.0重量部、および二酸化硅素を10?30重量部配合した組成物からなるコアを有するソリッドゴルフボール。」(特許請求の範囲)
(審決注:上記「Mn」及び「Mw」は、それぞれの「M」文字の上部における横線の標記を略す。以下同じ。)
イ 「〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、適度なコンプレッションと高い反発弾性を有するソリソドゴルフボールを提供することを目的とする。」(2頁右上欄2行?4行)
ウ 「以下、この手段につき詳しく説明する。
(1) 基材ゴム。
本発明で用いる基材ゴムは、下記のポリブタジエンゴム(A)およびポリブタジエンゴム(B)からなる。
(a) ポリブタジエンゴム(A)。
シス-1,4一結合を少なくとも40重量%、好ましくは90重量%以上有し、数平均分子量(Mn)が17.5×10^(4)?35×10^(4)の範囲にあり、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが4.0未満であるポリブタジエンゴムである。シス-1,4-結合が40重量%未満では、飛距離が向上しないので本発明の目的とするソリンドゴルフボールを得るのが困難となる。また、数平均分子量(Mn)が35×10^(4)より大きいと充填剤の分散等の加工性、混練性に劣り、一方、17.5×10^(4)より小さいとボールの特性、特に反発弾性が悪くなる。多分散度Mw/Mnは加工性の面に注目すれば数値が大きい方が望ましいが、ボールにしたときの反発弾性が悪くなるので4.0未満とする。
(b) ポリブタジエンゴム(B)。
シス-1,4一結合を90重量%以上含有するポリブタジエンゴムである。
ゴム分全量100重量部に対し、ポリブタジエンゴム(A)が10重量部以上必要で、ポリプタジエンゴム(A)とポリブタジエンゴム(B)とを合わせて80重量部以上であることが必要である。ポリブタジエンゴム(A)のシス含有量が90重量%以上である場合、このポリブタジエンゴム(A)を以てポリブタジエンゴム(B)として用いてもよい。
ポリブタジエンゴム(A)が10重量部未満では、コンプレッションを大にするためには充填剤の配合量を多くしなければならないのでゴルフボールとしての諸物性が低下してしまう。
基材ゴムとしては、これらポリブタジエンゴム(A)およびポリブタジエンゴム(B)を以て全ゴム分とすることが好ましいが、必要に応じて他のポリブタジエンゴム、または従来からソリッドゴルフボールのコア用基材ゴムとして用いられているゴム成分、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等を20重量部以下配合することができる。
(2) アクリル酸金属塩。
例えば、アクリル酸亜鉛である。アクリル酸亜鉛は下記式を有する化合物である。

このアクリル酸亜鉛としては、例えば、RTの商品名で販売されている米国のサートマー社製のジンクジアクリレートが挙げられる。なお、この商品は分散性を改善するために、10%程度のパルチミン酸亜鉛とステアリン酸亜鉛とを混入している。
(3) ウレタンアクリレート。
このウレタンアクリレートは、イソシアネート類或いはイソシアネートプレポリマーと、水酸基を有するジ又はポリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られる(メタ)アクリレート基含有ウレタン化合物である。
この場合のイソシアネートプレポリマーは、グリコール、トリオール、テトロールなどのポリオール或いは分子量2000以下のポリエーテルジオール、ポリエーテルトリオール、ポリカプロラクトンエステルジオール、ポリカプロラクトントリオールとジ又はトリイソシアネートとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーである。
水酸基を有するジ又はポリ(メタ)アクリレートは、アクリル酸又はメタアクリル酸或いはこれらの誘導体と多価アルコールとの反応によって得られるもの、またはアクリル酸又はメタクリル酸或いはこれらの誘導体とエボキシ基を有する化合物との反応によって得られるもの等である。この水酸基を有するジ又はポリ(メタ)アクリレートは、イソシアネート類と容易に反応してウレタンアクリレートを生或する。
さらに、グリコール又はポリオールとジイソシアネートとを反応させてイソシアネート基を有するアダクト体となし、これと上記の水酸基を有するジ又はポリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタンアクリレートを本発明におけるウレタンアクリレートとして用いることができる。
さらにまた、分子量2000以下のポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーと、上記の水酸基を有するジ又はポリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタンアクリレートもまた、本発明におけるウレタンアクリレートとして使用できる。ここで、分子量2000以下としたのは、分子量が2000を超えると架橋密度が低くなり、本発明の目的とする硬さ(又はコンプレッションの向上)が望めないからである。
(4) 金属酸化物。
例えば、酸化亜鉛である。一般市販のものを用いればよい。
(5) 有機過酸化物。
例えば、ジクミルパーオキサイド等の一般市版のアルキルパーオキサイドを用いればよい。アルキルパーオキサイドは重合開始剤として用いられる。
(6) 二酸化硅素。
二酸化硅素としては、BET法による比表面積が160?340m^(2)/gで、かつ純度が99%以上のものである。これには、Aerosil 200(商品名)、Aerosil 200V (商品名)、Aerosil 300(商品名)、Reolosil QS-102(商品名)などがあげられる。
(7) 本発明においては、基材ゴム100重量部に対し、上述したアクリル酸金属塩、ウレタンアクリレート、金属酸化物、有機過酸化物、二酸化硅素を配合した組成物をゴルフボールのコアに用いる。
アクリル酸金属塩の配合量は、アクリル酸量として5?10重量部である。5重量部未満では効果がなく、10重量部を超えると硬くなりすぎるからである。
ウレタンアクリレートの配合量は、5から30重量部である。5重量部未満では殆んど効果がなく、30重量部を超えるとコンプレッションがあがりすぎるからである。
金属酸化物の配合量は、5?50重量部である。
この範囲内で得られるゴルフボールの重量が規定の重さになるように調整すればよい。
有機過酸化物の配合量は、0.5?3.0重量部である。0.5重量部未満では充分な硬度が得られず、反発弾性の低下をまねき、3.0重量部を超えると架橋密度が大きくなりすぎて耐歪性が低くなり、衝撃強度が低下する。
二酸化硅素の配合量は、l0?30重量部である。10重量部未満では得られるゴルフボールの耐久性が問題となり、30重量部を超えると耐久性は向上するが、反発弾性の低下をもたらすからである。さらに、二酸化硅素の純度は99%である。
99%未満ではコンプレッション不足となる。また、BET法による比表面積は160?340m^(2)/gである。160m^(2)/g未満や340m^(2)/gを超えるとコンプレッションが不足ぎみとなる。
上述のようにして得られるゴム組成物からコアをつくるには、この組威物を通常の方法により均一に混練し、加圧下で加熱加硫して一体成形すれば良い。加硫は一般にパーオキサイド等の有機過酸化物にする。」(2頁右上欄1行?4頁左上欄5行)
エ 「以下に実施例および比較例を示して本発明の効果を具体的に説明する。
実施例1?8、比較例1?3
第1表に示すポリブタジエンゴムA?Hを用いて第2表に示した配合処方(重量部)によってゴム組成物を常法に従って調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ160℃で20分間、プレス戒形し、直径38.3mmの球状ソリッド核とし、このソリッド核にカバーとしてサーリン1707(酸化チタン2%含有)を被覆させ(厚さ約2.5mm)、2層構造ソリッドゴルフボールを製造した。これらのゴルフボールの特性を第2表の下段に示す。
第1表

第2表

第2表から明らかなように、実施例1?8では比較例1に比べてコンプレッションが増加する。比較例2のようにビスマレイミド化合物を添加してもコンプレッションは増加するが初速効率が減少する。また、実施例1?3から明らかなように、ゴムのブレンドによりコンプレッションの調整が可能である。比較例3は、ボリマーの多分散度(Mw/Mn)が本発明の範囲をはずれた場合である。この場合は、破壊強度は高くなるもののコンプレッションが増加せず、また、初速効率も低くなってしまい、満足な性能を示さない。実施例5?7はブレンド系であるが、本発明の範囲に含まれるゴムを10%以上使用することで充填剤の量を増やすことなくコンプレッション(ボールの硬度)を高めることができる。加工性の問題等で本発明の範囲に含まれるゴム単独では使用し難い場合には、この様にブレンド系を用いればよい。
〔発明の効果〕
以上説明したように本発明によって得られるゴム組成物からなるコアを有するソリッドゴルフポールは、幅広いコンプレッション域(95?120kg)において優れた反発弾性と耐久性を有する。」(4頁左上欄下から5行?6頁左上欄12行)
オ 上記ア?エから、引用例1の実施例1,2,4,7,8には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「(a)シス-1,4-結合を98.3%以上、1,2-ビニル結合含量が1.0%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム(A)50?100重量部、(b)上記(a)成分以外のポリブタジエンゴム(B)50?0重量部(ここで、(a)成分と(b)成分の合計量は100重量部である)、(c)アクリル酸亜鉛14重量部、(d)酸化亜鉛12重量部と二酸化珪素20重量部(合計32重量部)、および(e)ジクミルパーオキサイド1重量部、を含有するソリッドゴルフボール用ゴム組成物。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-268132号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】 少なくとも一部分がゴム質部分で構成されているソリッドゴルフボールにおいて、該ゴム質部分が、錫化合物で変性されたシス含量が40%以上のポリブタジエンを基材ゴムの主成分とし、この基材ゴムと共架橋剤およびパーオキサイド類を必須成分とするゴム組成物の架橋成形体からなることを特徴とするソリッドゴルフボール。
【請求項2】 錫化合物で変性される前のポリブタジエンが、稀土類元素系触媒により重合されたものである請求項1記載のソリッドゴルフボール。
【請求項3】 稀土類元素系触媒が、ネオジウム系触媒である請求項2記載のソリッドゴルフボール。」
イ 「【0014】本発明においては、基材ゴムの主成分である錫化合物で変性されたポリブタジエンにより、ゴムの強度特性が改良され、しかも共架橋剤との親和性が向上して、従来のソリッドゴルフボールより軟らかくしても、耐久性の優れたソリッドゴルフボールが得られるようになるものと考えられる。
【0015】また、錫化合物で変性されたポリブタジエンのゴム弾性が優れているので、高反撥性能が得られ、それによって飛距離の向上が達成されるものと考えられる。」
ウ 「【0026】錫化合物で変性されたポリブタジエンは、シス1,4結合を40%以上、特に80%以上含有することが、高反撥性能を得る面から好ましく、また、ムーニー粘度はML_(1+4 )(100℃)=20?80、特に30?65が好ましい。」
エ 「【0059】上記のようにして得られたツーピースソリッドゴルフボールについて、その重量、コンプレッション(PGA表示)、ボール初速、飛距離(キャリー)およびハンマリング耐久性を測定した。その結果を表3に示す。
【0060】また、得られたゴルフボールをトッププロ10人によりウッド1番クラブで実打して、その打球感を調べた。その結果も表3に併せて示す。
【0061】上記ボール初速、飛距離およびハンマリング耐久性の測定方法ならびに打球感の評価方法は次に示す通りである。
【0062】ボール初速:ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブを取り付け、ボールをヘッドスピード45m/秒で打撃し、その時のボール初速(m/秒)を測定する。
【0063】飛距離(キャリー):ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブを取り付け、ボールをヘッドスピード45m/秒で打撃した時のボールの落下点までの距離(ヤード)を測定する。
【0064】ハンマリング耐久性:ボールを45m/秒の速度で衝突板に繰り返し衝突させ、ボールが破壊するまでの衝突回数を調べ、比較例2のボールが破壊するまでの回数を100とした指数で示す。
【0065】打球感の評価方法:トッププロ10人による実打テストで評価する。打球感の評価にあたっては、従来の標準的なツーピースソリッドゴルフボールである比較例3のボールを比較の対象として打球感を評価する。評価基準は次の通りであり、評価結果を表中に表示する際も同様の記号で表示するが、その場合は評価にあたった10人のうち8人以上が同じ評価を下したことを示している。
【0066】評価基準:
○: 比較例3のボールより打球感がソフトで良い。
△: 比較例3のボールと打球感が同等である。
×: 比較例3のボールより打球感が硬くて悪い。
【0067】
【表3】

【0068】表3に示すように、、実施例1?4のボールは、比較例1?2のボールに比べて、飛距離が大きく、かつ耐久性が優れており、しかも従来の標準的ツーピースソリッドゴルフボールである比較例3のボールに比べて、打球感が良好であった。」
オ 「【0071】得られたワンピースソリッドゴルフボールについて、前記実施例1と同様に、重量、コンプレッション(PGA)、ボール初速、飛距離(キャリー)、ハンマリング耐久性を測定し、打球感を評価した。その結果を表5に示す。
【0072】ただし、打球感の評価にあたっては、従来の標準的ワンピースソリッドゴルフボールである比較例6のボールを比較の対象とした。
【0073】なお、比較例4?5は打球感を良好にするために、ボールを軟らかく、つまりコンプレッションを小さくしたものである。
【0074】
【表5】

【0075】表5に示すように、これらのワンピースソリッドゴルフボールにおいても、実施例5?8のボールは、比較例4?5のボールに比べて、飛距離が大きく、かつ耐久性が優れ、しかも従来の標準的ワンピースソリッドゴルフボールである比較例6のボールに比べて、打球感が良好であった。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「(a)シス-1,4-結合を98.3%以上、1,2-ビニル結合含量が1.0%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム(A)」、「(b)上記(a)成分以外のポリブタジエンゴム(B)」、「(c)アクリル酸亜鉛」、「(d)酸化亜鉛と二酸化珪素」、「(e)ジクミルパーオキサイド 」は、それぞれ本願発明の「(a)1,4-シス結合含量が80%以上、1,2-ビニル結合含量が2.0%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム」、「(b)上記(a)成分以外のジエン系ゴム」、「(c)架橋性モノマー」、「(d)無機充填材」、「(e)有機過酸化物」に包含される。
(2)引用発明の「(c)アクリル酸亜鉛14重量部」は本願発明の「(c)架橋性モノマー10?50重量部」に包含される。
(3)引用発明の「(d)酸化亜鉛12重量部と二酸化珪素20重量部(合計32重量部)」は本願発明の「(d)無機充填材20?80重量部」に包含される。
(4)引用発明の「(e)ジクミルパーオキサイド1重量部」は本願発明の「(e)有効量の有機過酸化物」に包含される。
(5)したがって、本願発明と引用発明とは、「(a)1,4-シス結合含量が80%以上、1,2-ビニル結合含量が2.0%以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3.5以下のポリブタジエンゴム50?100重量部、(b)上記(a)成分以外のジエン系ゴム50?0重量部(ここで、(a)成分と(b)成分の合計量は100重量部である)、(c)架橋性モノマー10?50重量部、(d)無機充填材20?80重量部、および(e)有効量の有機過酸化物、を含有するソリッドゴルフボール用ゴム組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
本願発明では、「前記(a)成分が、希土類元素系触媒を用いて重合し、引き続き末端変性剤を反応させて得られる変性ポリブタジエンゴムである」のに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点について
ア 引用発明は、引用例1の上記「2(1)イ」に記載されているように、「適度なコンプレッションと高い反発弾性を有するゴルフボールを提供する」ことを目的とするものである。
イ 引用例2には、従来のソリッドゴルフボールより軟らかくしても耐久性が優れ、高反撥特性が得られ、飛距離の向上が達成され、かつ、打球感が良好なソリッドゴルフボールを得るために、ソリッドゴルフボールのゴム組成物として、シス1,4結合を40%以上、特に80%以上含有するポリブタジエンを、稀土類元素系触媒により重合し、錫化合物で変性して、ゴム組成物の基材ゴムの主成分とする技術が記載されている。
ウ 引用例1には「適度なコンプレッション」として好適な数値範囲がどのようなものであるか明示はないものの、「コンプレッション」の値がいわゆる打球感(フィーリング)と密接な関係を有するものであることは、引用例2の段落【0073】(上記「2(2)オ」参照。)、特開昭60-249979号公報(特に2頁左上欄8行?同左下欄8行、第3図?第4図)及び特開昭61-11066号公報(特に2頁左上欄2行?同右上欄12行)に記載されているように、ソリッドゴルフボールという技術分野では広く知られていたものであるから、「適度なコンプレッション」を得ることを目的とする引用発明は、打球感の向上を考慮しているものであると、当業者ならば理解するものである。
エ してみれば、引用発明に対し、高反撥性が得られ、かつ、打球感が良好なソリッドゴルフボールのゴム組成物を提供する引用例2に記載の技術を適用することは、当業者ならば十分な動機付けを有していたものである。
オ したがって、引用発明に引用例2に記載の技術を適用することにより、ソリッドゴルフボールのゴム組成物に用いるポリブタジエンを、稀土類(希土類)元素系触媒により重合し、錫化合物(末端変性剤)で変性したものとすることは、当業者ならば容易に相当することができたものである。
よって、相違点に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び引用例2に記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。
カ なお、審判請求人は、平成19年9月13日付け審判請求書補正書及び平成21年6月3日付け回答書にて、概略以下(ア)?(ウ)に示す理由から、本願発明は進歩性を有するものである旨主張している。
(ア)引用例1及び引用例2の記載内容からみて
・引用発明のポリブタジエンは、コンプレッションの値が高い
・引用例2に記載の技術は、末端変性によりポリブタジエンのコンプレッシ
ョンの値をやや増大させる
ものであることが理解できる。
したがって、引用発明に対し引用例2に記載の技術を適用した場合には、ポリブタジエンのコンプレッションが高いものが得られることが予想される。
(イ)引用例2に記載の技術は、審判請求人による追試の結果、分子量分布(Mw/Mn)が本願発明の数値範囲に入らないものであり、かつ、ボール初速、飛距離、ハンマリング耐久性とも本願発明からは劣るものである。
(ウ)コンプレッションを低くすることにより、コアーが柔らかく打球感が良好になるものであることを踏まえれば、上記(ア)及び(イ)に示した理由から、引用発明に引用例2に記載の技術を適用しても、本願発明の奏する、飛距離、耐久性、及び打球感が向上するという効果を得られるとは、当業者といえども予測できるものではない。
キ 上記審判請求人の主張について検討する。
(ア)コンプレッションの値に関して
上記ウに示したように、引用発明は「適度なコンプレッション」を得ることをその目的の一つとしているものである。
そして、この「適度なコンプレッション」の好適な数値範囲が、使用者の要望に応じて種々の値を取り得るものであることは、上記ウに示した特開昭60-249979号公報及び特開昭61-11066号公報にも示されるように、当業者ならば当然理解していたものである。
さらに、引用発明の「コンプレッション」の値が適宜調整できることは、引用例1の上記「2(1)ウ」及び「2(1)エ」の下線部に示されている。
したがって、引用発明のポリブタジエンのコンプレッションの値を適宜調節し、望ましい数値範囲とすることは、当業者ならば適宜なし得た設計事項に過ぎない。
(イ)本願発明の奏する効果との関係について
a 引用発明は、分子量分布(Mw/Mn)を所定の範囲内とすることにより「高い反発弾性を有するゴルフボールを提供する」ものであり、引用例2に記載の技術は、稀土類(希土類)元素系触媒により重合し、錫化合物(末端変性剤)で変性したポリブタジエンを使用することにより、耐久性が優れ、高反撥特性が得られ、飛距離の向上が達成され、かつ、打球感が良好なゴルフボールを得るものである。
してみると、引用発明に引用例2に記載の技術を適用した場合には、以下の(a)ないし(c)がいえる。
(a)ソリッドゴルフボールのゴム組成物として、分子量分布(Mw/Mn)が所定の範囲内となるポリブタジエンであって、かつ、該ポリブタジエンを稀土類(希土類)元素系触媒により重合し、錫化合物(末端変性剤)で変性したものが用いられる。
(b)上記(a)の構成により、より高い反発弾性を得ることにより飛距離が向上し、かつ、耐久性が向上することが予測される。
(c)上記(ア)にて述べたコンプレッションに関する議論を踏まえれば、上記(a)の構成を採用する際に、当業者ならば、ゴム組成物のコンプレッションについて、打球感が良好になるよう調整することが予測される。
b よって、引用発明に引用例2に記載の技術を適用すると、本願発明と同じ分子量分布(Mw/Mn)を有する希土類元素系触媒で重合された末端変性ポリブタジエンが得られ、かつ、引用発明に引用例2に記載の技術を適用することによる効果と本願発明の奏する効果とは同種のものであることが、当業者ならば当然予測できたものといえる。
c ここで、本願発明の奏する効果が、引用発明及び引用例2に記載の技術に対して格別のものであるかどうかを検討するに、
・飛距離に関しては、上記のとおり、引用発明に引用例2に記載の技術を適
用することにより、引用例2のみが奏する効果よりも、より向上すること
が予測されること
・打球感(コンプレッション)を向上させることについては、引用発明に引
用例2に記載の技術を適用する際に、当業者が適宜設計できるものである
こと
から、本願発明の奏する効果のうち、格別な効果であるか否かを検討する対象となるのは「耐久性」のみと解される。
ここで、引用例2には、その「耐久性」を示すハンマリング特性が、ポリブタジエンとして末端未変性のBR-11を使用したものを100とした場合に、125?145に向上することが記載されている(上記「2(2)エ」及び「2(2)オ」参照。)。
一方、本願の発明の詳細な説明の段落【0052】及び【0057】には、本願発明の「耐久性」を示すハンマリング特性が、ポリブタジエンとして末端未変性のBR-11を使用したものを100とした場合に、126?153に向上することが記載されている。
してみると、本願発明の奏する「耐久性」の効果は、引用例2に記載の技術から格別に優れたものであるとまでは認められない。
よって、本願発明の奏する効果が、引用発明及び引用例2に記載の技術に対して格別のものであるとは認められないものである。
(ウ)審判請求人の主張に対する検討のまとめ
上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、審判請求人の上記カの主張は受け入れることができない。

(2)効果について、
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2に記載の技術の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び引用例2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-02 
結審通知日 2009-11-04 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願平9-348660
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
上田 正樹
発明の名称 ソリッドゴルフボール用ゴム組成物およびソリッドゴルフボール  
代理人 衡田 直行  

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