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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1209715
審判番号 不服2008-16206  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 平成10年特許願第130136号「管継手」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月26日出願公開、特開平11-325362〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成10年5月13日の特許出願であって、平成20年5月16日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年7月23日付けで明細書に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審において、平成21年7月13日(起案日)付けで審尋がなされ、平成21年9月11日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1(平成19年10月29日付け手続補正)
「【請求項1】
流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に係合して該流体用チューブを前記ボデイに保持する係止部が形成されたチャックと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に当接して流体の漏洩を防止するシール部材と、
前記ボデイの内部に設けられ、前記ボデイに食い込む膨出部が外周に形成されたガイド部材と、
前記ボデイの外壁部に嵌合し、外周部が半径方向内方に押圧されることにより前記ボデイに装着され、該ボデイの変形を阻止する金属製のリング部材と、
を備え、
前記リング部材は、前記膨出部の近傍に装着されることを特徴とする管継手。」

(2)本件補正後の請求項1(平成20年7月23日付け手続補正)
「【請求項1】
一端部と他端部とを有し、前記他端部の開口部から流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に係合して該流体用チューブを前記ボデイに保持する係止部が形成されたチャックと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に当接して流体の漏洩を防止するシール部材と、
前記ボデイの内部に設けられ、前記ボデイに食い込む膨出部が外周に形成されたガイド部材と、
前記ボデイの前記他端部の外壁部に嵌合し、外周部が半径方向内方に押圧されることにより前記ボデイに装着され、該ボデイの変形を阻止する金属製のリング部材と、
を備え、
前記リング部材は、前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着されることを特徴とする管継手。」

2.補正の適否

上記補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0013】、【0017】及び図2の記載に基づき、「流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイ」を「一端部と他端部とを有し、前記他端部の開口部から流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイ」と更に限定し、「前記ボデイの外壁部に嵌合し」を「前記ボデイの前記他端部の外壁部に嵌合し」と更に限定するとともに、「前記膨出部の近傍に装着される」を「前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」と更に限定して特定するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.本件補正の内容」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開平7-83362号公報
刊行物2:特開平6-159563号公報

(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開平7-83362号公報)には、「複合エアチューブの接続構造」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、エアチューブと信号線を備えた複合エアチューブの、エアチューブと信号線の両方を一括してそれぞれの接続対象に接続するための複合エアチューブの接続構造に関する。」

(イ)「【0012】一方、複合継手としては、図1に示すように、樹脂などの絶縁材料から形成され、上記エアチューブ2が挿入されるエアチューブ挿入口5と、エアチューブ挿入口5内に配設された、エアチューブ2の電極層(信号線)3と導通する継手側電極6とを備えてなるL字型の複合継手7が用いられている。なお、この実施例においては、継手側電極6として、エアチューブ2をエアチューブ挿入口5から抜け落ちないように押え付けて固定する金属片8の先端部が継手側電極(接点)6となるように構成されている。なお、前記金属片8は、半割り状に形成されており、両者の間に所定の間隔をおくことにより、各金属片8が2本の電極層(信号線)3にまたがって両者を短絡させることがないように構成されている。また、複合継手7には、エアチューブ2をエアチューブ挿入口5に係合するための係合部材9,10,11が配設されており、さらに、係合部材9及び10を介して継手側電極(接点)6と導通する導体線路13(図4)が配設されている。そして、この導体線路13は外部に引き出されて所定の接続対象(センサーなど)に接続される。」

(ウ)「【0013】次に、上記複合エアチューブ1と複合継手7の接続方法について説明する。まず複合エアチューブ1の先端側の絶縁被覆材4を取り除いてエアチューブ2と電極層3とを露出させ、これを複合継手7のエアチューブ挿入口5に挿入することによりエアチューブ2の接続が行われ、エアチューブ挿入口5内に配設されたOリング12によりシールが行われるとともに、金属片8、係合部材9,10,11により、エアチューブ2がエアチューブ挿入口5から抜け落ちないように固定される。このとき、金属片8の先端部が係合部材9,10,11などの各部との係合関係により、エアチューブ2に形成された電極層(信号線)3に押し付けられる。これにより、金属片8、係合部材9,10を介して、エアチューブ2の電極層(信号線)3が導体線路13(図4)と導通し、所定の接続対象(センサーなど)との間で信号の伝達を行うことができるようになる。」

(エ)上記記載事項(イ)から、複合継手7は、樹脂などの絶縁材料から形成されているものであることが把握される。

(オ)図1から、上記複合継手7の本体は、一端部と他端部とを有し、上記他端部のエアチューブ挿入口5からエアチューブ2が挿入され、該エアチューブの外壁を支持していることが看取される。

(カ)図1及び上記記載事項(イ)から、上記複合継手7の本体の内部には、先端部がエアチューブ2をエアチューブ挿入口5から抜け落ちないように押え付けて固定する金属片8が設けられていることが把握される。

(キ)図1及び上記記載事項(ウ)から、本体のエアチューブ挿入口5内には、エアチューブ2の外壁に当接してシールが行われるOリング12が配設されていることが把握される。

(ク)図1及び上記記載事項(ウ)から、上記複合継手7の本体の内部には、係合部材10が係合されていることが把握される。

そうすると、上記記載事項(ア)?(ク)及び図面(特に、図1)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「一端部と他端部とを有し、上記他端部のエアチューブ挿入口5からエアチューブ2が挿入され、該エアチューブの外壁を支持する樹脂などの絶縁材料から形成された複合継手7の本体と
上記複合継手7の本体の内部には、先端部がエアチューブ2をエアチューブ挿入口5から抜け落ちないように押え付けて固定する金属片8が設けられ、
本体のエアチューブ挿入口5内には、エアチューブ2の外壁に当接してシールが行われるOリング12が配設され、
上記複合継手7の本体の内部には、係合部材10が係合されている、複合継手7。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物2(特開平6-159563号公報)には、「受口付きポリオレフィン管」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ケ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、いずれのタイプに属するにしても、上記のようなゴム輪を用いて止水するには、接合時にゴム輪を圧縮状態に保持する必要がある。このため、従来の樹脂製の管又は管継手、特に受口がポリエチレン等のポリオレフィンで構成された管等においては、次のような問題があった。
【0007】すなわち、受口内にゴム輪を圧縮した状態に保持するため、そのゴム圧縮の反作用として、ゴム輪の復元力による応力が受口を構成しているポリオレフィンに作用し、その結果として、いわゆる樹脂のコールドフロー(低温流れ)が起こる。コールドフローは、常温下で荷重が長期間に亘って作用した結果、結晶の移動が起こり、荷重を除去しても形状が元には戻らなくなって寸法変化を来す現象であるが、このようなコールドフローが受口、つまり管接合部に起こると、時間が経過するにつれて接合部の止水性が低下することとなる。
【0008】本発明は、従来における上記のような問題に対処するもので、配管路の要所で所要の伸縮しろを確保できる受口付きポリオレフィン管として、受口を構成するポリオレフィンのコールドフローが起こらず、止水性の低下を来さない管を提供することを目的とする。」

(コ)「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的達成のため、本願の第1発明は、一端が受口とされてその受口の内面にシールゴムの収納溝が形成された継手部と、この継手部の他端に接合された管部とを有する受口付きポリオレフィン管において、上記受口を、継手部を構成するポリオレフィンと、このポリオレフィンに接着性を有する変性ポリオレフィンを介して結合された補強金属コアとで構成したことを特徴とする。
【0010】また、本願の第2発明は、一端が受口とされてその受口の内面にシールゴムの収納溝が形成された継手部と、この継手部の他端に接合された管部とを有する受口付きポリオレフィン管において、上記受口を、継手部を構成するポリオレフィンと、その内周面側に配置された補強金属コアとで構成するとともに、その受口外周側には、補強金属コアの位置する内面側に向けて受口を所定の状態に締めつける金属リングを装着したことを特徴とする。」

(サ)「【0017】
【作用】本願第1発明の構成によれば、継手部と管部とを有する受口付きポリオレフィン管において、継手部の一端に設けられた受口が、当該継手部を構成するポリオレフィンと、これに結合された補強金属コアとで構成されていることにより、ポリオレフィン部分が補強金属コアで補強されることなる。従って、管接続時に受口内の収納溝に装着されるシールゴムの圧縮の反作用による応力が、受口を構成しているポリオレフィンに長期間作用しても、その受口におけるポリオレフィンはコールドフローを起こさなくなる。これにより、受口におけるポリオレフィンのコールドフローによる寸法変化を阻止することができる。
【0018】また、この場合において、受口におけるポリオレフィンと補強金属コアとの界面には接着力を有する変性ポリオレフィンが介在しているから、その変性ポリオレフィンによって受口におけるポリオレフィン及び補強金属コアは充分強固に接着され一体化される。従って、受口におけるポリオレフィンと補強金属コアとの界面が分離したり、そのような分離に伴って生じる「みず道」の形成を未然に防止することができる。
【0019】一方、本願第2発明に係る受口付きポリオレフィン管においても、その継手部の一端に設けられた受口が、当該継手部を構成するポリオレフィンと補強金属コアとで構成されているので、第1発明の場合と同様に、シールゴムの圧縮による反作用を長期間受けても、ポリオレフィンのコールドフローによる寸法変化を阻止することができる。しかも、この場合は、特に補強金属コアが受口の内周面側に装着されていることで、ポリオレフィンのコールドフローを一層効果的に防止することができる。
【0020】そして、受口の外周面側には金属リングが装着されて、内周面側の補強金属コアに向けて受口をその外周面側から所定の状態に締めつけているから、これによってポリオレフィンと補強金属コアとの間の「みず道」を遮断することができる。」

(シ)「【0033】・・・
〔第2実施例〕次に、図2に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0034】同図に示すように、このポリエチレン直管11も、拡径部を有する一端が受口12とされた継手部13と、この継手部13の他端に突き合わせ融着により接合された直管部14とで構成されている。そして、上記受口12が、継手部13を構成するポリエチレン部分13aと、その内周面側に配置された補強金属コア17とで構成され、このコア17の内周面にシールゴム用の収納溝12aが形成されている点、および、その収納溝12aにシールゴム15をセットした状態で、受口12に被接続管Aを差し込んで接続した時に、その被接続管Aの外周面と補強金属コア17の内周面との間にシールゴム15が挟まれて圧縮され、その状態で両者に密着することにより被接続管Aとポリエチレン直管1との間をシールするようになっている点は、上記第1実施例の場合と同様であるが、以下の構成が第1実施例のものと異なる。
【0035】すなわち、本実施例における補強金属コア17には、シールゴム用収納溝12aの両側に位置するコア外周面に、これに接するポリエチレン部分13aが食い込む複数の円周溝からなる凹凸部17a、17bが形成されており、この凹凸部17a、17bに対応位置する受口外周側に金属リング18、18が装着されている。そして、この金属リング18、18が縮径方向に所定量だけカシメられていることにより、補強金属コア17の位置する受口部分がその外周側から所定の状態に締めつけられて、受口12を構成する外周側のポリエチレン部分13aと内周側の補強金属コア17とが強固に一体化された構成とされている。なお、このような金属リング18、18のカシメ作業は、受口12に被接続管Aを挿入した状態で行うことも可能である。
【0036】上記構成のポリエチレン直管11によれば、受口12の内周側に補強金属コア17が配置されていることにより、第1実施例の場合と同様に、受口12の内周面に対してシールゴム15の圧縮の反作用による応力が長期間作用しても、受口12の外周側を構成しているポリエチレン部分13aにコールドフローが発生せず、従って、そのようなコールドフローによる寸法変化を回避することができる。
【0037】また、補強金属コア17の外周面には、シールゴム収納溝12aを挟む両側の位置に凹凸部17a、17bが形成されて受口外周側のポリエチレン部分13aが食い込んでいるとともに、それらの凹凸部17a、17bに対応位置する受口外周には金属リング18、18が装着されて所定量だけカシメられているので、受口12における外周側のポリエチレン部分13aと内周側の補強金属コア17とが金属リング18、18の締めつけ力によって強固に結合される。これにより、外周側のポリエチレン部分13aと内周側の補強金属コア17との間の「みず道」を確実に遮断することができ、その結果、漏水の懸念も解消されることとなる。なお、補強金属コア17の外周面に上記のような凹凸部17a、17bを形成することは、結果として「みず道」を長くすることにもなる。」

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「エアチューブ2」は、その機能からみて、本願補正発明の「流体用チューブ」に相当し、以下同様に、「樹脂などの絶縁材料」は樹脂であることを含むものであるから「樹脂製」に相当し、「本体」は「ボデイ」に相当し、「Oリング12」は「シール部材」に相当し、「複合継手7」は「管継手」に相当するものである。
また、刊行物1発明の「金属片8」は、先端部が係止部の機能を奏することによりエアチューブ2を本体に保持するものであるから、本願補正発明の「チャック」に相当するということができる。
そうすると、刊行物1発明の「一端部と他端部とを有し、上記他端部のエアチューブ挿入口5からエアチューブ2が挿入され、該エアチューブの外壁を支持する樹脂などの絶縁材料から形成された複合継手7の本体」は、実質的に、本願補正発明の「一端部と他端部とを有し、前記他端部の開口部から流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイ」に相当し、以下同様に、「上記複合継手7の本体の内部には、先端部がエアチューブ2をエアチューブ挿入口5から抜け落ちないように押え付けて固定する金属片8が設けられ」は、表現上の差異は別として「前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に係合して該流体用チューブを前記ボデイに保持する係止部が形成されたチャック」に相当し、「本体のエアチューブ挿入口5内には、エアチューブ2の外壁に当接してシールが行われるOリング12が配設され」は、「前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に当接して流体の漏洩を防止するシール部材」に相当するということができる。
さらに、刊行物1発明の「上記複合継手7の本体の内部には、係合部材10が係合されている」は、本願補正発明の「前記ボデイの内部に設けられ、前記ボデイに食い込む膨出部が外周に形成されたガイド部材」と対比して、係合する具体的構成が明らかではない点について別途検討することとすると、少なくとも「前記ボデイの内部に設けられたガイド部材」である点において共通している。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「一端部と他端部とを有し、前記他端部の開口部から流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に係合して該流体用チューブを前記ボデイに保持する係止部が形成されたチャックと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に当接して流体の漏洩を防止するシール部材と、
前記ボデイの内部に設けられたガイド部材と、
を備えた管継手。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
前記ボデイの内部に設けられたガイド部材は、本願補正発明が、上記「ボデイに食い込む膨出部が外周に形成された」ものであるのに対し、刊行物1発明は、「本体の内部には、係合部材10が係合されている」というだけで、本体に対してどのように固着されているか、その具体的構成が明らかではない点。

[相違点2]
本願補正発明が、「前記ボデイの前記他端部の外壁部に嵌合し、外周部が半径方向内方に押圧されることにより前記ボデイに装着され、該ボデイの変形を阻止する金属製のリング部材」を備え、「前記リング部材は、前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」のに対し、刊行物1発明は、本体の外壁部にはリング部材を備えていない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
本願補正発明と刊行物1発明は、上記一致点に示したとおり、樹脂製のボディ、係止部が形成されたチャック、シール部材、及びガイド部材を有する流体チューブ用の管継手である点できわめて近接した技術分野に属するものである。
そこで、本願補正発明の上記相違点1に係る「ボデイに食い込む膨出部が外周に形成された」について検討するに、特許請求の範囲の記載からこの構成の技術的意義を明確に理解することは困難であるから、発明の詳細な説明を参酌すると、本願の明細書の段落【0015】には上記構成について「ガイド部材44の外周には断面鋭利状の周回する膨出部45が形成され、膨出部45がボデイ12に食い込むことにより、ガイド部材44がボデイ12に対して抜け止めされる。」と記載されている。すなわち、上記膨出部はガイド部材44をボディ12に固着して抜け止めをする機能を有していることが理解できる。他方、刊行物1発明の係合部材10は、「本体の内部には、係合部材10が係合されている」ものであって、図1に記載された複合継手7の本体と係合部材10の関係も併せて参酌すると、膨出部と称する部分を有するか否かにかかわらず、上記係合部材10を本体に固着して抜け止めをする部分を有しているものと解されるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではないということができる。仮に、そうではないとしても、固着に関する技術分野において、一方の部材に設けた膨出部を他方の部材に食い込ませて抜け止めをすることは周知事項(例えば、実願昭63-110872号(実開平2-31991号)のマイクロフィルムの明細書の第8ページ第5?11行及び第1図,第2図の「膨出部20」や、第10ページ第14?16行及び第3図に記載された「膨出部52」は、いずれも膨出部が「ホース1」に食い込んで抜け止めがなされるものであり、実願昭53-180871号(実開昭55-94987号)のマイクロフィルムの第2図及び第5図に記載された「ニップル部2」の先端の半径方向に膨出した部分は、ホース6に食い込んで抜け止めがなされるものである。)であるから、刊行物1発明の係合部材10を固着する手段として膨出部を採用することは、当業者であれば容易に想到できることである。
いずれにしても、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、刊行物1発明から、または刊行物1発明に上記周知事項を適用して、当業者が容易に想到することができたことである。

(2)相違点2について
まず、本願補正発明が、「前記ボデイの前記他端部の外壁部に嵌合し、外周部が半径方向内方に押圧されることにより前記ボデイに装着され、該ボデイの変形を阻止する金属製のリング部材」を備えた点について検討するに、当該金属製のリング部材はボデイの変形を阻止することによりボディから流体用チューブや接続部材が脱抜してしまうことを防止するものであるが、管継手は、管などの接続部材に作用する流体圧などの条件やその接続部分に影響する温度などの環境条件などにより脱抜するおそれがあることは技術常識であって、必要に応じて脱抜を防止する手段を講じることは当業者が当然考慮すべき課題として内在しているものであるから、上記脱抜を防止する手段を採用するか否かは、上記条件に応じて当業者が適宜決定する事項にすぎない。
そこで、刊行物2の第2実施例に記載された金属リング18の技術的意義について検討するに、上記金属リング18は、縮径方向に所定量だけカシメられることにより、補強金属コア17に形成された凹凸部17a、17bにポリエチレン部分13aを食い込ませて外周側のポリエチレン部分13aと内周側の補強金属コア17とを強固に一体化し(上記記載事項(シ)の段落【0035】)、「受口12における外周側のポリエチレン部分13aと内周側の補強金属コア17とが金属リング18、18の締めつけ力によって強固に結合される」(同段落【0037】)ものである。すなわち、金属リング18、18は、上述のとおり、補強金属コア17に形成された凹凸部17a、17bにポリエチレン部分13aを食い込ませて両者を強固に一体化するとともに、当該一体化した後には、外周側のポリエチレン部分13aが、外方に向かって変形することを阻止することによってポリエチレン部分13aと補強金属コア17との結合が緩むことを防止しているものでもある。そうすると、上記金属リングは、固着をする作用を兼ねているものであって装着する位置が本願補正発明とは異なるとしても、管継手のポリエチレン部分が外方に向かって変形することを防止しているものであるということができる。
さらに、管継手などの管の結合に関する技術分野においては、上記のようなリング状の部材は、上記刊行物2の例や特開平4-50588号公報の第3(a)-(b)図、実願昭50-98216号(実開昭52-11620号)のマイクロフィルムの第1-3図の例にみられるように、管、チューブ、ホースなどの外周面に固着に伴って装着されるだけではなく、管の結合部分の近傍に装着することも当業者が必要に応じて実施している周知事項(例えば、実願昭63-110872号(実開平2-31991号)のマイクロフィルムの明細書第9ページ第12?20行及び第1?2図に記載されたホースの膨出部20の両側の近傍にリング部材(クランプ3と規制部材4)を配設して、ホース1の抜け止めと拡径を防止している。)であるから、刊行物1発明の管継手において、上記本体の外壁部の適当な部分にリング部材を装着することによって管継手が外方に向かって変形することを防止し、上記管が脱抜することを防止することは、当業者が上記管に作用する流体圧などの条件やその接続部分に影響する温度などの環境条件などを考慮して容易に推考できることである。また、上記リング部材の材料をどのような材料とするかは、管を結合する手段の構造や上記条件を考慮して当業者が適宜選定できることであって、上記周知事項においても金属の材料が適宜採用されているように、上記材料として金属製を採用することに何らかの困難な事情があるわけではない。

次に、本願補正発明における「前記リング部材は、前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」点について検討するに、この点は本件補正によって新たに加えられた構成であるが、審判請求人は、補正の根拠として、審判請求書の平成20年8月28日付けの手続補正書において、「この補正の根拠は、原明細書の段落[0013]、[0017]及び図2の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではない。」と述べている。そこで、願書に最初に添付した明細書の段落【0013】、【0017】をみると以下のように記載されている。

「【0013】ボデイ12の外周には該ボデイ12と接続部材14との接続部位を緊締するリング部材24が嵌合する。リング部材24は金属製材料で形成され、その外周部26がかしめられることによってボデイ12に装着される。
【0017】ボデイ12の外周には着脱機構32の外周に位置してリング部材58a、58bが嵌合する。リング部材58a、58bは金属製材料で形成され、その外周部60がかしめられることによってボデイ12に装着される。」
また、本願補正発明に係る管継手の効果として、同明細書の段落【0038】に以下のように記載されている。
「【0038】管継手のボデイにリング部材がかしめられて装着されているため、ボデイが樹脂の如き材料で形成されていても、外方に向かって変形することが防止される。このため、この管継手が高温雰囲気中で使用された場合に、外力によって、あるいは、管継手内部を流通する圧力流体によって、流体用チューブに対して管継手から離脱させる方向の力が作用しても、ボデイから流体用チューブや接続部材が脱抜してしまうことが確実に防止される。また、ボデイに、例えば、衝撃等の外力が付与されても、接続部材がボデイから脱抜する懸念がない。さらに、リング部材はその外周部が全周にわたって略均等に押圧されてかしめられているため、リング部材の外径を小さくすることができ、管継手を小型化することが可能である。」

上記明細書の段落【0013】、【0017】には、上記リング部材が「前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」ことについては何ら具体的な記載がないことから、結局、この点に関する補正は、図2から看取できることに基づいているものと解される。審判請求人が主張するとおり、この点に関する補正が新規事項を追加するものではないとすると、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載から自明な事項であるものとして捉えられるところ、当初明細書等の記載から自明な事項といえるためには、「当初明細書等に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない」(審査基準第III部第I節 新規事項の3.(3)参照)ことから、管継手のボディの端部と膨出部の間に上記リング部材が装着されることによって、上記ボディが外方に向かって変形することが防止される機能を有するものであるとしても、特に「最端部と前記膨出部との間」に設けた点に、当業者からみた新たな効果は認められない。
そこで、上記リング部材が「前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」について検討をすすめると、刊行物1発明の管継手において、管継手が外方に向かって変形することを防止し、上記管が脱抜することを防止するために、上記本体の外壁部の適当な部分にリング部材を装着することが当業者に容易想到であることは上記に説示したとおりであり、そのために管継手や管の結合部分に対してどのような位置に上記リング部材を設けるかは、管を結合する手段の構造やどの部分が変形しやすいかを考慮して当業者が決定できる設計上の事項であって、この点を特定することによって予測できないような効果を奏するものではない。
以上のことから、刊行物1発明に刊行物2に記載された発明及び上記周知事項を適用して上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(3)作用効果について
本願補正発明が奏する効果は、いずれも刊行物1,2に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の平成20年8月28日付けの手続補正書において、「本願発明では、ボデイの外壁部に嵌合するリング部材は、ボデイの最端部と膨出部との間に装着されており、公知文献1、2とは、リング部材と膨出部との位置関係が異なる。従って、引用文献1、公知文献1、2には、本願発明の特徴である「前記リング部材は、前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」・・・については、何ら記載されておらず、示唆もされていない。」(【本願発明が特許されるべき理由】4.(1)の項を参照)と述べるとともに、平成21年9月11日付けの審尋に対する回答書において、「2.ところで、引用文献3は、その第3図に示されるように、接続端部6に、断面鋸歯状の環溝6bが形成され、該接続端部6の外周側にアルミパイプ1が挿通された後、該アルミパイプ1の外周側から締着リング4が装着されることにより、前記アルミパイプ1及びシール層3が食い込む構成が開示されています。しかしながら、この締着リング4は、アルミパイプ1を挟んで環溝6bの外周側に設けられ、該アルミパイプ1を半径内方向に締め付けることによって前記環溝6bに食い込ませる目的で設けられたものであります。」(回答書の【回答の内容】2.の項を参照)などと述べて、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、刊行物1発明の管継手において、管継手が外方に向かって変形することを防止し、上記管が脱抜することを防止するために、上記本体の外壁部の適当な部分にリング部材を装着することが当業者に容易想到であり、そのために管継手や管の結合部分に対してどのような位置に上記リング部材を設けるかは、管を結合する手段の構造やどの部分が変形しやすいかを考慮して当業者が決定できる設計上の事項であることは、上記に説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(5)当審の判断のまとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成20年7月23日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成19年10月29日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に係合して該流体用チューブを前記ボデイに保持する係止部が形成されたチャックと、
前記ボデイの内部に設けられ、前記流体用チューブの外壁に当接して流体の漏洩を防止するシール部材と、
前記ボデイの内部に設けられ、前記ボデイに食い込む膨出部が外周に形成されたガイド部材と、
前記ボデイの外壁部に嵌合し、外周部が半径方向内方に押圧されることにより前記ボデイに装着され、該ボデイの変形を阻止する金属製のリング部材と、
を備え、
前記リング部材は、前記膨出部の近傍に装着されることを特徴とする管継手。」

2.引用刊行物とその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物1:特開平7-83362号公報
刊行物2:特開平6-159563号公報

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明における「一端部と他端部とを有し、前記他端部の開口部から流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイ」の構成を「流体用チューブが挿入され、該流体用チューブの外壁を支持する樹脂製のボデイ」と拡張し、「前記ボデイの前記他端部の外壁部に嵌合し」の構成を「前記ボデイの外壁部に嵌合し」と拡張するとともに、「前記ボデイの前記他端部の最端部と前記膨出部との間に装着される」の構成を「前記膨出部の近傍に装着される」と拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1,2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記構成を拡張した本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1,2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1,2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2009-10-27 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-25 
出願番号 特願平10-130136
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信渡邉 洋  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子
山岸 利治
発明の名称 管継手  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 大内 秀治  
代理人 鹿島 直樹  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 田久保 泰夫  

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