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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1209727
審判番号 不服2008-26637  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 平成10年特許願第 7158号「高額紙幣が使用可能な台間遊技媒体貸出機」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月27日出願公開、特開平11-197344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件の経緯概要は以下のとおりである。

特許出願 平成10年1月19日
審査請求 平成17年1月13日
拒絶理由 平成20年5月26日
手続補正 平成20年8月1日
拒絶査定 平成20年9月9日
審判請求 平成20年10月16日
手続補正 平成20年10月23日

第2 平成20年10月23日付の手続補正についての補正却下の決定

[結論]

平成20年10月23日付の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正前(平成20年8月1日付の手続補正書)の請求項1及び本件補正後(平成20年10月23日付の手続補正書)の請求項1の記載は、それぞれ次のとおりのものである。

[本件補正前の請求項1]
「遊技機の台間に設置された遊技媒体貸出機と、
前記遊技媒体貸出機の上方側に該遊技媒体貸出機と分離して設置され、紙幣投入口、該紙幣投入口に投入された紙幣の種別を判別する紙幣種別検知器、千円札を収納する紙幣収納部、該紙幣収納部に収納された千円札の枚数を検知する紙幣枚数検知器及び前記紙幣収納部に収納された千円札を釣り銭として払出す釣り銭払出口を有する紙幣投入堆積部と、
前記遊技機の島端部に設けられ、千円札を収納する千円札収納部と五千円札または一万円札を収納する高額紙幣収納部とを備えるとともに、該千円札収納部には千円札の在否を検知する紙幣検知器が設けられた紙幣収納庫と、
前記紙幣投入堆積部と前記紙幣収納庫間で紙幣を搬送する紙幣搬送コンベアとを備え、
前記紙幣投入堆積部は、前記紙幣投入口に投入された紙幣の種別を前記紙幣種別検知器で検知すると共に、前記紙幣収納部における紙幣の枚数を前記紙幣枚数検知器で検知し、前記紙幣収納部における紙幣の枚数が所定枚数に満たない場合に前記紙幣投入口に千円札が投入されると該千円札を該紙幣収納部に収納し、前記紙幣収納部が所定枚数の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口に高額紙幣が投入されると該紙幣収納部が収納している千円札を釣り銭として前記釣り銭払出口から払出し、前記紙幣投入口から投入された高額紙幣及び前記紙幣収納部が所定枚数の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口から投入された千円札を前記紙幣搬送コンベアへ受け渡して前記紙幣収納庫に収納させるように構成されており、
前記紙幣収納庫及び前記紙幣搬送コンベアは、該紙幣収納庫の千円札収納部内に千円札が在り、前記紙幣投入堆積部の紙幣収納部内の千円札の収納枚数が所定枚数を切ったときには、該紙幣収納庫の千円札収納部内の千円札を、該紙幣投入堆積部の紙幣収納部内に戻すように構成されている
ことを特徴とする高額紙幣が使用可能な台間遊技媒体貸出機。」

[本件補正後の請求項1]
「遊技機の台間に設置された遊技媒体貸出機と、
前記遊技媒体貸出機の上方側に該遊技媒体貸出機と分離して設置され、紙幣投入口、該紙幣投入口に投入された紙幣の種別を判別する紙幣種別検知器、千円札を9枚まで収納する紙幣収納部、該紙幣収納部に収納された千円札の枚数を検知する紙幣枚数検知器及び前記紙幣収納部に収納された千円札を釣り銭として払出す釣り銭払出口を有する紙幣投入堆積部と、
前記遊技機の島端部に設けられ、千円札を収納する千円札収納部と五千円札または一万円札を収納する高額紙幣収納部とを備えるとともに、該千円札収納部には千円札の在否を検知する紙幣検知器が設けられた紙幣収納庫と、
前記紙幣投入堆積部と前記紙幣収納庫間で紙幣を搬送する紙幣搬送コンベアとを備え、
前記紙幣投入堆積部は、前記紙幣投入口に投入された紙幣の種別を前記紙幣種別検知器で検知すると共に、前記紙幣収納部における紙幣の枚数を前記紙幣枚数検知器で検知し、前記紙幣収納部における紙幣の枚数が9枚に満たない場合に前記紙幣投入口に千円札が投入されると該千円札を該紙幣収納部に収納し、前記紙幣収納部が4枚または9枚の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口に高額紙幣が投入されると該紙幣収納部が収納している千円札を釣り銭として前記釣り銭払出口から払出し、前記紙幣投入口から投入された高額紙幣及び前記紙幣収納部での収納枚数が9枚を超えた分の千円札を前記紙幣搬送コンベアへ受け渡して前記紙幣収納庫に収納させるように構成されており、
前記紙幣収納庫及び前記紙幣搬送コンベアは、該紙幣収納庫の千円札収納部内に千円札が在り、前記紙幣投入堆積部の紙幣収納部内の千円札の収納枚数が4枚または9枚を切ったときには、該紙幣収納庫の千円札収納部内の千円札を、該紙幣投入堆積部の紙幣収納部内に戻すように構成されている
ことを特徴とする高額紙幣が使用可能な台間遊技媒体貸出機。」

2.本件補正についての検討

本件補正によって、以下の点が変更された。
(a)本件補正前の「千円札を収納する紙幣収納部」を「千円札を9枚まで収納する紙幣収納部」に変更
(b)本件補正前の「前記紙幣収納部における紙幣の枚数が所定枚数に満たない場合」を「前記紙幣収納部における紙幣の枚数が9枚に満たない場合」に変更
(c)本件補正前の「前記紙幣収納部が所定枚数の千円札を収納している状態」を「前記紙幣収納部が4枚または9枚の千円札を収納している状態」に変更
(d)本件補正前の「前記紙幣収納部が所定枚数の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口から投入された千円札」を「前記紙幣収納部での収納枚数が9枚を超えた分の千円札」に変更
(e)本件補正前の「前記紙幣投入堆積部の紙幣収納部内の千円札の収納枚数が所定枚数を切ったとき」を「前記紙幣投入堆積部の紙幣収納部内の千円札の収納枚数が4枚または9枚を切ったとき」に変更

これについて検討すると、(a)?(c)及び(e)の変更点は枚数を具体的に限定しているから限定的減縮に該当する。また、(d)の変更点について検討すれば、「紙幣収納部での収納枚数が9枚を超えた分の千円札」とは、「9枚の千円札を収納している状態で紙幣投入口から投入された千円札」に実質的に該当すると判断できるから、補正後の内容は、補正前の内容に加えて紙幣収納部の所定枚数が「9枚」に限定されたものと判断できる。
とすれば、上記の変更点はいずれも限定を付加したものであって、請求項1は限定的に減縮されたものと判断でき、よって、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討することとする。

3.引用例

原査定の拒絶の理由において引用された特開平4-144583号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。

「本発明は、千円札以外に、5千円札や1万円札の高額紙幣で千円分の玉と釣銭を払い出すことができる遊技用玉貸機の高額紙幣両替装置に関する。」(公報1ページ右下欄)
「パチンコ島に配備した玉貸機の正面側には、千円紙幣A、5千円および1万円紙幣を投入できる紙幣投入口2を形成し、該投入口2の内方延長方向には、両駆動ローラ7a、7bに掛装する搬送ベルト5の一側面にガイド1aを沿わせて形成するメイン通路1を延設し、前記ガイド1aの外側方には圧着ローラ8a、8bおよびテンションローラ9を配備し、紙幣投入口2の内方両側には光センサ10を配備し、前記メイン通路1に沿って、識別機である光センサ11a、11b、磁気センサ12、真券信号センサ13をそれぞれ配備し、メイン通路1の延長側には紙幣用計数整列機(図示省略)を連通連設して構成する。
また、前記駆動ローラ7bの側方には可変圧着ローラ14aを架設するとともに、前記メイン通路1の終端側に接離できる切換ガイド4を配備し、前記駆動ローラ7aの側方には可変圧着ローラ14bを架設し、両可変圧着ローラ14a、14bの間となって前記搬送ベルト5の他側面側には20枚前後の千円紙幣Aを貯溜できる釣銭保管部3を設け、その前方側には光センサ15とローラ16aおよび逆転ローラ16bをそれぞれ配備して構成する。」(公報2ページ左下欄?右下欄)
「なお、釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると「5千円札使用可」あるいは「1万円札使用可」という表示をするようにしたり、各玉貸機や島単位や景品交換所や事務所あるいはPOSやホール用のコンピュータに取り付けた釣銭回収スイッチを押すと、釣銭保管部3の千円紙幣Aを紙幣用計数整列機側の千円札収納エリアに給送できるようにしたり、また、最初から釣銭を釣銭保管部3に入れおく場合には、玉貸機を切り替えスイッチにより釣銭投入モードにして、紙幣投入口2から釣銭を投入することができるようにして構成するが、図示省略する。
したがって、第1図に示すように千円紙幣Aを紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし、贋札の場合は紙幣投入口2から返却し、真券の場合は千円分の玉を貸し出すことになるが、釣銭保管部3に20枚前後の千円紙幣Aが溜るまでは、第2図に示すように切換ガイド4と可変圧着ローラ14aが変位して千円紙幣Aはメイン通路1から釣銭保管部3に給送されることになり、所定枚数に溜ると、その後に投入される千円紙幣Aはメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納されることになる。
そのようにして、光センサ15により計数しながら第3図に示すように釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると、「5千円札使用可」あるいは「1万円札使用可」の表示がでることになるが、その表示がでていない状態で5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると、真券であっても返却されることになる。
使用可の状態で、5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし、贋札の場合は紙幣投入口2から返却し、真券の場合は千円分の玉を貸し出すとともに、そのままメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納されることになるがその直後に、第4図に示すように、切換ガイド4、可変圧着ローラ14a、ローラ16aおよび逆転ローラ16bが作動する状態となって、真券信号センサ13が内部に退入する状態で、搬送ベルト5が逆転しながら、該搬送ベルト5とローラ16aにより釣銭保管部3の千円紙幣Aを釣銭相当枚数だけ送り出し、その枚数は光センサ15によりカウントして、紙幣投入口2より次々に払い出すことができることになり、所定枚数を払い出すと、ローラ16aと逆転ローラ16bが元の位置に復帰して紙幣の送り出しは中止されることになる。」(公報2ページ右下欄?3ページ左下欄)
「また、閉店後には、釣銭回収スイッチを操作すると、釣銭保管部3内に残る千円札を紙幣用計数整列機側の千円札収納エリアに給送して回収することができる。
第5図および第6図は他の実施例を示し、前記実施例とは同一符号で示すように略同様に構成するが、可変圧着ローラ14bの側にローラ16aと逆転ローラ16bを接近させ、その外方側に連通連設した釣銭専用払出口6の内方に光センサ17を配備して構成したものであり、前記実施例と略同様に作動させながら、高額紙幣を投入した場合には、搬送ベルト5が正転して釣銭の千円紙幣Aを釣銭専用払出口6に払い出すことができることになる。」(公報3ページ左下欄?右下欄)
「釣銭は、搬送機で運ばれてきたのを釣銭払い出し部に溜めておき、釣銭として使用する方式もある。
客が使用した千円札をそのままストックして、不足分を搬送機で供給することも工夫できる。
高額紙幣を受け付けると、無条件で千円分の玉またはメダルを払い出し、残りを釣銭として払い出す方式と、無条件に玉を払い出さずに選択ボタンによって払出し玉数または払出し金額を何段階かに選択できる方式がある。
第7図および第8図はそれぞれ別の実施例を示し、Aはパチンコ台、Bは玉貸機、19は3ウェイ方式(1口タイプ)または1+2ウェイ方式(2口)の紙幣投入口、20は選択ボタン、21は自動ジェットカウンタ、22は持玉数表示器、23はレシートまたはカード取り出し口、24は呼出しスイッチまたは兼用精算スイッチである。」(公報3ページ右下欄?4ページ左上欄)

第5,6図の実施例で示されている釣銭専用払出口6を設けた例を採用し、引用文献1における記載事項及び図面を総合的に勘案すれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「パチンコ島に配備した玉貸機の正面側には、千円紙幣A、5千円および1万円紙幣を投入できる紙幣投入口2を形成し、該投入口2の内方延長方向にはメイン通路1を延設し、前記メイン通路1に沿って、識別機である光センサ11a、11b、磁気センサ12、真券信号センサ13をそれぞれ配備し、メイン通路1の延長側には紙幣用計数整列機を連通連設して構成し、また、20枚前後の千円紙幣Aを貯溜できる釣銭保管部3を設け、
千円紙幣Aを紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし、贋札の場合は紙幣投入口2から返却し、真券の場合は千円分の玉を貸し出し、釣銭保管部3に20枚前後の千円紙幣Aが溜るまでは千円紙幣Aはメイン通路1から釣銭保管部3に給送され、所定枚数に溜るとその後に投入される千円紙幣Aはメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納され、
光センサ15により計数しながら釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると「5千円札使用可」あるいは「1万円札使用可」の表示がでることになり、その表示がでていない状態で5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると真券であっても返却されることになり、使用可の状態で5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし、贋札の場合は紙幣投入口2から返却し、真券の場合は千円分の玉を貸し出すとともに、そのままメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納されると共に、釣銭保管部3の千円紙幣Aを釣銭相当枚数だけ送り出し釣銭専用払出口6より払い出し、
釣銭は、搬送機で運ばれてきたのを釣銭払い出し部に溜めておき、釣銭として使用する方式もあり、また客が使用した千円札をそのままストックして、不足分を搬送機で供給することも工夫できる
千円札以外に、5千円札や1万円札の高額紙幣で千円分の玉と釣銭を払い出すことができる遊技用玉貸機。」

4.対比

ここで引用発明と本願補正発明を対比する。
引用発明の「玉」は本願補正発明の「遊技媒体」に相当する。引用発明の「(遊技用)玉貸機」は「パチンコ島に配備」されているものであり、また引用文献1の図7,8及び技術常識を参照すれば「遊技機の台間に設置」されるものであることは明らかである。よって、引用発明の「(遊技用)玉貸機」は本願補正発明の「(台間)遊技媒体貸出機」に相当する。
引用発明には「識別機である光センサ11a,11b,磁気センサ12,真券信号センサ13をそれぞれ配備」とあり、そして当該識別機によって投入された紙幣の「真贋チェック」を行った上で紙幣種別(「千円紙幣A」又は「5千円紙幣あるいは1万円紙幣」)に応じた処理を行っているものであるから、引用発明の「識別機」は本願補正発明の「紙幣種別検知器」に相当する。
引用発明の「釣銭保管部3」は「紙幣収納部」に相当する。
引用発明においては「光センサ15により計数しながら釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると」とあり、引用発明の「釣銭保管部3」も貯溜している千円紙幣の枚数を検知していることが明らかであるから、本願補正発明の「紙幣枚数検知器」に相当する。
引用発明の「釣銭専用払出口6」は本願補正発明の「釣り銭払出口」に相当する。
そして、引用発明の「紙幣投入口2」、「識別機」、「釣銭保管部3」、「光センサ15」及び「釣銭専用払出口6」からなる部分が、本願補正発明の「紙幣投入堆積部」に相当する。
引用発明における「5千円紙幣」、「1万円紙幣」とは本願補正発明の「高額紙幣」に相当し、また引用発明において「千円紙幣Aはメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納され」、「5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると、…そのままメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納される」とあるから、引用発明の「紙幣用計数整列機」は本願補正発明の「紙幣収納庫」に相当する。

さらに引用発明から以下の点も云える。
引用発明も紙幣をメイン通路1から紙幣用計数整列機に搬送しているから、紙幣を搬送するための何らかの機構を備えていることは明らかであり、当該機構は「紙幣を搬送する」点で本願補正発明の「紙幣搬送コンベア」と共通している。よって、引用発明と本願補正発明は「紙幣搬送機構」を備えている点で共通している。
引用発明において「千円紙幣Aを紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし」、「5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると、識別機が真贋チェックをし」とあるから、本願補正発明の「前記紙幣投入口に投入された紙幣の種別を前記紙幣種別検知器で検知する」点の構成を具備している。
引用発明においても「光センサ15により計数しながら釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると」、「釣銭保管部3に20枚前後の千円紙幣Aが溜るまでは」とあり、千円紙幣Aの枚数を検知していることは明らかであるから、引用発明は本願補正発明の「前記紙幣収納部における紙幣の枚数を前記紙幣枚数検知器で検知」する点の構成を具備している。
引用発明も「千円紙幣Aを紙幣投入口2から投入すると…釣銭保管部3に20枚前後の千円紙幣Aが溜るまでは千円紙幣Aはメイン通路1から釣銭保管部3に給送され」とあり、また引用発明の「20枚前後」も本願補正発明の「9枚」も『所定枚数』である点で共通するから、引用発明は本願補正発明の「前記紙幣収納部における紙幣の枚数が『所定枚数』に満たない場合に前記紙幣投入口に千円札が投入されると該千円札を該紙幣収納部に収納」する構成を具備している。
引用発明も「釣銭保管部3に4枚あるいは9枚の千円紙幣Aが溜ると…5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると…釣銭保管部3の千円紙幣Aを釣銭相当枚数だけ送り出し釣銭専用払出口6より払い出し」ているものであり、本願補正発明の「前記紙幣収納部が4枚または9枚の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口に高額紙幣が投入されると該紙幣収納部が収納している千円札を釣り銭として前記釣り銭払出口から払出」す点の構成を具備している。
引用発明も「千円紙幣Aを紙幣投入口2から投入すると…所定枚数に溜るとその後に投入される千円紙幣Aはメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納され」、また「5千円紙幣あるいは1万円紙幣を紙幣投入口2から投入すると…そのままメイン通路1から搬出されて紙幣用計数整列機に収納される」ものであって、本願補正発明の「9枚」とは『所定枚数』に相当するから、引用発明の「所定枚数に溜るとその後に投入される千円紙幣A」とは本願補正発明の「収納枚数が『所定枚数』を超えた分の千円札」に相当する。よって引用発明は本願補正発明の「前記紙幣投入口から投入された高額紙幣及び前記紙幣収納部での収納枚数が『所定枚数』を超えた分の千円札を紙幣搬送機構へ受け渡して前記紙幣収納庫に収納させる」点の構成を具備している。

よって、引用発明と本願補正発明は、
「遊技機の台間に設置された遊技媒体貸出機と、
紙幣投入口、該紙幣投入口に投入された紙幣の種別を判別する紙幣種別検知器、千円札を9枚まで収納する紙幣収納部、該紙幣収納部に収納された千円札の枚数を検知する紙幣枚数検知器及び前記紙幣収納部に収納された千円札を釣り銭として払出す釣り銭払出口を有する紙幣投入堆積部と、
紙幣収納庫と、
前記紙幣投入堆積部と前記紙幣収納庫間で紙幣を搬送する紙幣搬送機構とを備え、
前記紙幣投入堆積部は、前記紙幣投入口に投入された紙幣の種別を前記紙幣種別検知器で検知すると共に、前記紙幣収納部における紙幣の枚数を前記紙幣枚数検知器で検知し、前記紙幣収納部における紙幣の枚数が所定枚数に満たない場合に前記紙幣投入口に千円札が投入されると該千円札を該紙幣収納部に収納し、前記紙幣収納部が4枚または9枚の千円札を収納している状態で前記紙幣投入口に高額紙幣が投入されると該紙幣収納部が収納している千円札を釣り銭として前記釣り銭払出口から払出し、前記紙幣投入口から投入された高額紙幣及び前記紙幣収納部での収納枚数が所定枚数を超えた分の千円札を前記紙幣搬送機構へ受け渡して前記紙幣収納庫に収納させるように構成されている
高額紙幣が使用可能な台間遊技媒体貸出機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明においては、紙幣投入堆積部が「前記遊技媒体貸出機の上方側に該遊技媒体貸出機と分離して設置され」ているのに対して、引用発明がかかる構成となっているか不明である点。

[相違点2]
本願補正発明においては紙幣収納庫が「前記遊技機の島端部に設けられ、千円札を収納する千円札収納部と五千円札または一万円札を収納する高額紙幣収納部とを備えるとともに、該千円札収納部には千円札の在否を検知する紙幣検知器が設けられ」ているのに対して、引用発明がかかる構成を備えているか不明である点。

[相違点3]
上記一致点における「紙幣搬送機構」が、本願補正発明では「紙幣搬送コンベア」であるのに対して、引用発明では不明である点。

[相違点4]
上記一致点における紙幣収納部にかかる「所定枚数」が、本願補正発明では「9枚」であるのに対して、引用発明では「20枚前後」である点。

[相違点5]
本願補正発明においては「該紙幣収納庫の千円札収納部内に千円札が在り、前記紙幣投入堆積部の紙幣収納部内の千円札の収納枚数が4枚または9枚を切ったときには、該紙幣収納庫の千円札収納部内の千円札を、該紙幣投入堆積部の紙幣収納部内に戻すように構成されている」のに対して、引用発明がかかる構成を備えているか不明である点。

5.相違点の判断

上記相違点について検討する。

[相違点1について]

引用文献1の第8図を参照すれば、貸し出された玉がパチンコ機の上皿に払い出される部分よりも上方に紙幣投入口が位置することが図示されている。また、引用発明において、紙幣投入口の部分とは、識別機、釣銭保管部3、光センサ15及び釣銭専用払出口6といった部分とほぼ一体に設けられているものであるから、とすれば引用発明には「紙幣投入堆積部」を遊技媒体貸出機の上方側に設ける思想は開示されていると云える。
ただし、引用発明においては、「紙幣投入堆積部」と「遊技媒体貸出機」とが分離している点については開示がない。しかし、機械構造一般において構成要素を一体とするか別体とするかは当業者が適宜選択できる設計事項であって、「紙幣投入堆積部」と「遊技媒体貸出機」を別体とすることに特段の阻害要因があるものでもない。
よって、引用発明に基づいて、本願補正発明の相違点1にかかる構成とすることは当業者にとって容易に想到できたことである。

[相違点2について]

引用発明においても、千円紙幣Aが紙幣用計数整列機に収納されると共に、5千円紙幣あるいは1万円紙幣も紙幣用計数整列機に収納されている。さらに引用文献1には「紙幣用計数整列機側の千円札収納エリア」(公報3ページ左下欄)という記載もあるから、5千円札や1万円札も紙幣用計数整列機に収納される以上、その収納エリアも同様に設けられていることは当然のことであり、また、引用発明には具体的な開示はないが、紙幣の収納部において紙幣の検知機構を設けることは常識的になし得る程度の事項である。
また、例えば特開平9-299600号公報(以下「文献2」という。)の段落【0022】や特開平9-99165号公報(以下「文献3」という。)の図面(金庫31)に記載があるように、島端部に紙幣を回収する収納部を設けることは周知技術(以下「周知技術1」という。)に過ぎない。
したがって、引用発明及び周知技術1に基づいて、本願補正発明の相違点2にかかる構成とすることは、当業者にとって容易に想到できたことである。

[相違点3について]

例えば文献2の段落【0022】、【0026】等や文献3の段落【0011】に記載があるように、コンベアによる紙幣の搬送機構は周知技術(以下「周知技術2」という。)に過ぎない。
よって、引用発明及び周知技術2に基づいて、本願補正発明の相違点3にかかる構成とすることは、当業者にとって容易に想到できたことである。

[相違点4について]

引用発明は「千円分の玉を貸し出す」ものであって、一万円札が挿入された場合であっても、釣り札の払い出しにおいて千円札としては9枚あれば足りることは当然であり、すなわち、千円札をストックしておく収納部としては9枚あれば最低限の機能は果たすことができるものである。とすれば、引用発明では20枚前後としているものの、収納枚数としては最低限の機能を果たし得る9枚以上であればどの程度とするかは当業者の選択事項であって、「9枚」とすることも当業者が設計できた範囲のことである。
よって、引用発明に基づいて、本願補正発明の相違点4にかかる構成とすることは、当業者にとって容易に想到できたことである。

[相違点5について]

引用発明において「釣銭は…客が使用した千円札をそのままストックして、不足分を搬送機で供給することも工夫できる」とあるが、具体的な開示はなく詳細は不明である。
しかし、台間玉貸機に投入された紙幣を回収・収納すると共に、当該収納された紙幣を再度釣札として使用する点は、例えば登録実用新案第3018591号公報(段落【0006】等参照)や特開平9-128646号公報(【請求項5】等参照)にあるように周知技術(以下「周知技術3」という。)に過ぎないから、引用発明において、紙幣用計数整列機に収納された千円紙幣があれば、これを釣札として再使用すべく搬送機で玉貸機に供給することは、当業者にとって容易に想到できることである。
また、不足分の供給にあたっては、引用発明における釣銭保管部3の収納枚数が9枚に満たない場合、一万円札が挿入された場合の釣札が不足している状態であることは当然のことであって、そして台間玉貸機において釣銭として使用する貨幣が所定量を下回った場合に、自動的に不足分を補給する点も特開平6-114158号公報(段落【0015】)、実願平4-29925号(実開平5-83881号)のCD-ROM(段落【0020】)や特開平4-12783号公報(公報2ページ右上[作用]欄)にあるように周知技術(以下「周知技術4」という。)に過ぎないから、不足分を供給するタイミングとして、釣銭保管部3の収納枚数が9枚を切ったときとすることも当業者が適宜設計できたことに過ぎない。
したがって、本願補正発明の相違点5にかかる構成は、引用発明及び周知技術3,4に基づき、当業者が容易に想到できたことである。

[相違点の判断のむすび]

よって、引用発明及び周知技術1?4に基づいて、本願補正発明の上記相違点にかかる構成とすることは、当業者にとって容易に想到できることである。
また、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術1?4から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1?4に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.補正却下の決定におけるむすび

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1にかかる発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1.に[本件補正前の請求項1]として記載されたとおりのものである。

2.引用例

引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]3.に記載したとおりのものである。

3.対比・判断

上記第2[理由]2.及び5.において検討したように、本願発明に限定的減縮を加えたと認められる本願補正発明が、引用発明及び周知技術1?4に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。
とすれば、本願補正発明から限定を解除した本願発明も同様に、引用発明及び周知技術1?4に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび

以上のとおり、本件補正は却下され、そして、本願発明は原査定の拒絶の理由に基づいて特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-30 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-25 
出願番号 特願平10-7158
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 立川 功
特許庁審判官 川島 陵司
池谷 香次郎
発明の名称 高額紙幣が使用可能な台間遊技媒体貸出機  

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