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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F04B
管理番号 1210182
審判番号 無効2008-800016  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-01-30 
確定日 2010-01-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3400515号「エアー・ポンプ」の特許無効審判事件についてされた平成20年6月6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10264号、平成20年12月17日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3400515号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3400515号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成6年1月17日に出願され、平成15年2月21日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

(2)これに対し、請求人は、平成20年1月30日に請求項1及び2に係る発明の特許について無効審判を請求し、平成20年6月6日付けで、請求項1及び2に係る発明の特許を無効とする審決がなされたところ、同年7月16日に該審決に対する訴えが提起され、同年10月6日に訂正審判(訂正2008-390109号、その後特許法第134条の3第4項の規定により取り下げ。)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定に基づく審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10264号、平成20年12月17日決定)がなされ確定した。

(3)審理再開にあたり、平成20年12月24日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された明細書を援用した訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなすこととなった。

2.本件訂正の可否に対する判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、本件特許の明細書(特許第3400515号掲載公報参照)を、以下、「特許明細書」という。

a)特許明細書の請求項1に、
「タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられて、ダイヤフラムの空気排出部に対接するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に略L字形に連続する空気滞留室が形成され」
とあるのを、
「タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され」
と訂正する(以下、「訂正事項a」という。)。

b)特許明細書の段落【0005】における「立ち上げられて、ダイヤフラムの」とあるのを「立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの」
と訂正する(以下、「訂正事項b」という。)。

c)同段落【0005】における「対接するダイヤフラム接合部と」とあるのを「対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と」と訂正する(以下、「訂正事項c」という。)。

d)同段落【0005】における「この両者間に略L字形に連続する」とあるのを「この両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する」と訂正する(以下、「訂正事項d」という。)。

(2)判断
これらの訂正事項について検討すると、上記訂正事項aは、特許明細書の段落【0009】ないし【0012】、及び、図1、図3、図4の記載に基づき、「ベース部から立ち上げられて、ダイヤフラムの空気排出部に対接するダイヤフラム接合部」を、「ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部」と特定し、さらに、「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に略L字形に連続する空気滞留室」を、「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。
また、上記訂正事項bないしdは、上記訂正事項aとの整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記いずれの訂正事項も、「ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生した音が水槽にまで伝わるのを防止したエアー・ポンプを提供する」という課題に変更を及ぼすものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正についてのまとめ
したがって、本件訂正は、平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し、かつ、同条第5項の規定によって準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張する無効理由
請求人は、請求項1及び2に係る発明についての特許を無効にする、との審決を求め、その理由として、請求項1及び2に係る発明はいずれも、その出願前に外国で頒布された刊行物である台湾実用新案公告第158860号(甲第1号証の2)に係る出願書類の写し(甲第1号証の1)に記載された発明、及びその出願時における技術常識(甲第2?7号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、請求項1及び2に係る発明についての特許は同法第123条第1項第2号により、無効とされるべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証を提出している。
(証拠方法)
甲第1号証の1:台湾実用新案登録願第77204725号の出願書類
の写し
甲第1号証の2:台湾実用新案公告第158860号公報
甲第1号証の3:甲第1号証の1の翻訳文
甲第1号証の4:甲第1号証の1の第1及び第2図を加工した参考図
甲第2号証 :特開昭56-77582号公報
甲第3号証 :実願昭50-59600号(実開昭51-138710
号)のマイクロフィルム
甲第4号証 :米国特許第5,232,353号明細書
甲第5号証 :米国特許第5,137,432号明細書
甲第6号証 :米国特許第4,610,608号明細書
甲第7号証 :特開平5-141756号公報
甲第8号証 :平成14年7月12日付け意見書
甲第9号証 :平成14年11月18日付け意見書
甲第10号証 :本件発明1及び2と甲第1号証の1の比較表
甲第11号証の1:台湾特許法第30条第39条第110条
甲第11号証の2:甲第11号証の1の翻訳文
甲第11号証の3:台湾弁護士 趙 珮怡氏の陳述書

4.無効理由に対する被請求人の主張
一方、被請求人は、平成20年4月18日付けの審判事件答弁書において、各甲号証に記載されたエアーポンプに関する構成をいかに組み合わせようとも請求項1及び2に係る発明の構成には至らないため、これらの発明は進歩性を有することが明らかであって特許法第29条第2項の規定が適用されず、これらの発明についての特許に無効理由は存在しない旨主張し、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
(証拠方法)
乙第1号証:特許第3400515号公報(本件特許掲載公報)
乙第2号証:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、
1/1ページ、「連続の式」

5.無効理由についての当審の判断
(1)訂正後の請求項1及び2に係る発明
訂正後の請求項1及び2に係る発明は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(請求項1)
「筐体であるハウジングと、電磁駆動機構と、この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと、このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと、ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え、吐出するタンク部材とを備え、タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され、ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成されて、空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに、空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ、ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って、ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ、タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されることを特徴とするエアー・ポンプ。」(以下、「本件発明1」という。)

(請求項2)
「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられていることを特徴とする請求項1記載のエアー・ポンプ。」(以下、「本件発明2」という。)

(2)甲号証
(2-1)甲第1号証の1
甲第1号証の1は、台湾実用新案登録願第77204725号の出願書類の写しであり、甲第1号証の2及び甲第11号証の1ないし3によれば、当該実用新案登録願が台湾実用新案公告第158860号として公告され、その公告日である1991年5月21日に、台湾で公開閲覧に供されて複写可能となった刊行物(即ち、本件特許出願前に、外国において頒布された刊行物)であると認められるところ、この点に関しては、被請求人も争っていない(平成20年6月2日に実施された口頭審理の口頭審理調書の「3」参照)。
そして、甲第1号証の1には、図面と共に次の事項が記載されているものと認められる(訳文は、甲第1号証の3に基づく。)。

a)「本考案は、消音作用を有する空気ポンプ構造に関し、特に、空気排出室と排気管との間に空間が空気排出室より大きい緩衝室が設けられ、その排気速度と排気圧力を緩和することにより、空気と当該壁面との摩擦力を降下することができ、それにより、ノイズを減少することができることを特徴とする魚の飼育用水槽に用いられる空気ポンプに関する。」(明細書2頁3?7行)

b)「従来の魚の飼育用水槽に用いられる空気ポンプとしては、添付書類1公告第59102、添付書類2公告第53223、添付書類3公告第74050、添付書類4公告第83200、添付書類5公告第087333に開示されたものが挙げられる。開示されたあらゆるポンプ構造については、いずれも空気輸送機能を持っているが、ノイズが大き過ぎるという一つの共通の欠点もあることが現状である。その原因を調べたところ、いずれの製品においても、空気排出室中の空気が、振動ダイヤフラムを介して外部から空気取込室の後に設置された回気室に吸入され、ワンウエーバルブにより気流の回流を防ぎ、回気室のすぐ後に接続された細長排気管を通って排出されるということが分かる。このような設計においては、空気がワンウエーで高速に流れ、管壁面との摩擦が大きくなってノイズが生じている(従来製品のノイズを測定した結果、いずれも約20?30dbである)。静かな居室において、うるさい感じがすると言える。夜になると、最も顕著であろう。これは、従来製品の大きな欠点と言える。」(同書2頁14行?3頁4行)

c)「第一図は、本考案のポンプ体の立体分解図である。
第二図は、本考案のポンプ体の実施例の断面図である。
第一図のように、ポンプ体10の一側に緩衝室13が設置され、当該緩衝室13の一側にさらに排気管14が設置されている。上記ポンプ体10の中に空気排出室と空気取込室を備える。上記空気排出室と空気取込室のそれぞれ中央部に、通気孔101が設けられている。各通気孔101にバルブ15が設置されている。ポンプ体10に、ポンプ体10の上周縁の凸縁により形成された凹部である空気迂回区111がある。当該迂回区111の上端にダイヤフラム20が設置されている。当該ダイヤフラム20の一側に設けれられたマグネットは、電磁コイルの電磁駆動により振動され、それにより、ダイヤフラム20を上下方向に振動させることができる。ダイヤフラム20の振動作用により空気を空気取込室からバルブ15を介して上記迂回区111に吸入させる。続いて、吸入された空気を、上記迂回区111から空気排出室におけるバルブ15を介して排出させる。このように、単方向に排気動作ができる。」(同書3頁19行?4頁6行)

d)「第二図のように、ポンプ体10における空気取込室の空間と空気排出室の空間は同じであり、上端は、上周縁の凸縁とダイヤフラム20とからなる迂回区111である。
2つのバルブ15の1つは、迂回区111の通気孔101に嵌め込まれ、それにより、空気を空気取込室11から迂回区111に吸入させることができる。もう1つのバルブ15は、空気排出室12における通気孔101に嵌め込まれ、それにより、迂回区111における空気を空気排出室12に排出させることができる。このようにして、空気は逆の方向に流れられなくなる。」(同書4頁7?14行)

e)「空気排出室12の底部と緩衝室13の間に設置された空気チャンネル131により、空気排出室12中の空気を緩衝室13に進入させる。
緩衝室13の容積は、空気取込室11と空気排出室12の容積より大きい。緩衝室13の一側に空気を排出するための排気管14が設置される。また、他のホースを介して水槽に送る。緩衝室13と排気管14との間に綿製空気透過パッド17が設けられる。この綿製空気透過パッド17により、緩衝室13に進入且つ排気管14から排出しようとする空気が排気口周辺の緩衝室壁に直接にぶつかることを避け、音を消すことができる。
また、緩衝室13、チャンネル131および空気排出室12の底部に柔軟且つ弾性のゴムパッド16が設置される。それにより、空気排出室12中の空気がチャンネル131から緩衝室13に流れる時、空気の衝突を緩和し、当該衝突によるノイズを軽減することができる。」(同書4頁15行?5頁3行)

f)「したがって、本考案は以下の効果を有する。
1.緩衝室、チャンネルおよび空気排出室の底部に設けられたゴムパッド、及び排気口周辺に設けられた綿製空気透過パッドなどにより、空気がそれらに衝突する際の緩和効果により、空気がポンプ体壁面に衝突する際のノイズよりも低いノイズの静音効果が得られる。
2.緩衝室の容積を空気取込室および空気排出室の容積より大きくすることにより、空気取込室中の空気の圧力と同じな空気排出室中の空気が緩衝室に流れるとき、圧力が小さくなり、流動速度が緩和される。また、排気ロ周辺に設けられた綿製空気透過パッドの緩衝作用により、従来のように空気が排気管を流れる時に生じる「口笛作用」によるノイズを除去できるので、静音効果が得られる。」(同書5頁4?13行)

g)「空気取込室と空気排出室とを備える消音空気ポンプ構造であって、上記空気排出室と排気管との間にさらに緩衝室が設けられ、当該緩衝室と空気排出室との底部に連通するためのチャンネルが設けられ、緩衝室の容積は、空気取込室と空気排出室のいずれの容積より大きく、且つ、緩衝室における排気管口周辺に綿製空気透過パッドが設置され、
上記緩衝室、チャンネルおよび空気排出室の底部にゴムパッドが設けられることを特徴とする消音空気ポンプ構造。」(同書6頁2?7行)

h)第一図及び第二図には、断面が枠状のハウジングと、電磁コイルと、マグネットを有するアームと、このアームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111と、空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する、空気排出室12と空気チャンネル131と緩衝室13と土台部分とで構成される一連の構造体を備えた空気ポンプの構成が示され、さらに、一連の構造体が、底部にゴムパッド16が設置されたボックス構造の土台部分と、土台部分から立ち上げられた一側面が空気迂回区111に接続される空気排出室12と、土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部と、この箱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつ土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され、空気排出室12にダイヤフラム20から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び、緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成されて、緩衝室13の空気流入口が土台部分側に設けられるとともに、緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり、ダイヤフラム20およびアームを支持して、土台部分をハウジングの底面に当接して固定取り付けされた構成が示されていると共に、円形の外周面を有するポンプ体10を、空気取込室11と空気排出室12とに二分する縦方向の仕切壁により、空気排出室12の一側面及び外周面が半円形とされた構成が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証の1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「断面が枠状のハウジングと、電磁コイルと、この電磁コイルの電磁駆動により振動するマグネットを有するアームと、このアームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111と、空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する一連の構造体とを備え、一連の構造体は、底部にゴムパッド16が設置されたボックス構造の土台部分と、土台部分から立ち上げられた半円形をした一側面が空気迂回区111に接続される半円形の外周面を有する空気排出室12と、土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部と、この箱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつ土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され、空気排出室12に空気迂回区111から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び、緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成されて、緩衝室13の空気流入口が土台部分側に設けられるとともに、緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり、空気迂回区111およびアームを支持すると共に、ダイヤフラム20の振動作用により空気がポンプの壁面等に衝突する際のノイズの静音効果が得られ、土台部分をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ、緩衝室13に排気管14が設置されホースを介して空気を水槽に送るようにした空気ポンプ。」

(2-2)甲第2号証
甲第2号証(特開昭56-77582号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「吸入室(6)の開口を塞ぐ部分のダイアフラム(1)がその中央部にセンタープレート(21)を介して連結された駆動桿(12)によつて振動して、吸入口(13)から吸引する空気を吸入室(6)より吸入弁(4)を通して空気圧縮室(3)に吸い込んでは、これを圧縮して吐出弁(5)より吐出室(7)に吐き出し、吐出口(14)(注:「(16)」は誤記)を通して外部へ圧縮空気を送り出すものである。」(3頁左上欄15行?同頁右上欄1行)

b)「本発明の空気圧縮機(A)は、第10図に示すようなハウジング(70)内に収容され、例えば、汚水浄化処理槽に組み込まれる曝気用のエアーポンプとして使用されるものであつて、図に示すように、・・・空気を吸入口(13)より空気圧縮機(A)に引込んでは、これを圧縮して吐出口(14)より吐出し、吐出ノズル(73)に接続されるホース(図示せず)に圧縮空気を送り込むものである。」(4頁左下欄7?16行)

c)第2図には、駆動桿(12)により振動するダイアフラム(1)と吸入弁(4)と吐出弁(5)と圧縮ケース(2)等で囲まれた空気圧縮室(3)を有すると共に、吐出室(7)に空気圧縮室(3)から送り出された空気を受け入れる空気取込口を有する筒状の吐出口(14)が形成された空気圧縮機の構成が示されており、また、第10図には、空気圧縮機の筒状の吐出口(14)がハウジング(70)のベース部に向けて延び、ベース部から略L字形に連続する空間に連通する空気通路として形成されており、該空間の空気流入口がベース部側に設けられ、空気出口となる吐出ノズル(73)が該空間の上部に設けられると共に、該空間に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている構成とした空気圧縮機のエアーポンプとしての使用例が示されている。

(3)本件発明1について
(3-1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者における「断面が枠状のハウジング」は前者における「筐体であるハウジング」に相当し、以下同様に、「電磁コイル」は「電磁駆動機構」に、「電磁駆動により振動する」は「電磁作用によって往復運動する」に、それぞれ相当している。
そして、後者の「空気迂回区111」は、ダイヤフラム20の往復運動により収縮・膨張して、空気を吸入・排出することは明らかであり、一方、前者の「ダイヤフラム」は、「ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作」がなされるものであると共に、特許明細書の段落【0008】の「ダイヤフラム18は外力によって収縮、膨張する内部が中空のゴム、革、強化処理された紙、或いはプラスチックなどの弾性材料から構成されるとともに弁機構を有しており」と記載されているところから、弁機構を有し、外力によって収縮、膨張する構成のものであると解されるから、後者の「アームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111」は前者の「アームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム」に相当し、後者の「空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する一連の構造体」は前者の「ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え、吐出するタンク部材」に相当する。
さらに、後者の「底部にゴムパッド16が設置されたボックス構造の土台部分」は前者の「土台となるボックス構造のベース部」に相当し、これを踏まえれば、後者の「土台部分から立ち上げられた半円形をした一側面が空気迂回区111に接続される半円形の外周面を有する空気排出室12」と前者の「ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部」とは、「ベース部から立ち上げられた所定の形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する所定の形の外周面を有するダイヤフラム接合部」との概念で共通し、後者の「土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部」は前者の「ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部」に相当しているといえる。
また、後者の「土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され」た態様と前者の「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され」た態様とは、「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、所定形状に連続する空気滞留室が形成され」たとの概念で共通し、後者の「空気排出室12に空気迂回区111から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び、緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成され」た態様と前者の「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成され」た態様とは、「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口から延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成され」たとの概念で共通し、後者の「緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ」た態様と前者の「空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ」た態様とは、「空気滞留室の空気出口が柱状部の所定部に設けられ」たとの概念で共通している。
加えて、後者の「空気迂回区111およびアームを支持すると共に、ダイヤフラム20の振動作用により空気がポンプの壁面等に衝突する際のノイズの静音効果が得られ」ることは前者の「ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って」いる態様に相当し、後者の「緩衝室13に排気管14が設置されホースを介して空気を水槽に送る」態様は前者の「タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続される」態様に相当し、後者の「空気ポンプ」は前者の「エアー・ポンプ」に相当している。

したがって、両者は、
「筐体であるハウジングと、電磁駆動機構と、この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと、このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと、ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え、吐出するタンク部材とを備え、タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられた所定の形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する所定の形の外周面を有するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、所定形状に連続する空気滞留室が形成され、ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口から延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成されて、空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに、空気滞留室の空気出口が柱状部の所定部に設けられ、ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って、ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ、タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されるエアー・ポンプ。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
ダイヤフラム接合部の一側面及び外周面の「所定の形」に関し、本件発明1が、「円形」であるのに対し、甲1発明は、「半円形」である点。
[相違点2]
ベース部及び柱状部の両者間に連続する空気滞留室の「所定形状」に関し、本件発明1が、「内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形」としているのに対し、甲1発明は、「略四角形状」である点。
[相違点3]
空気滞留室に連通する空気通路の延在方向に関し、本件発明1が、「ベース部に向けて」延びるとしているのに対し、甲1発明は、「ベース部(土台部分)に沿って」延びている点。
[相違点4]
空気滞留室の空気出口が設けられた柱状部の所定部に関し、本件発明1が、「上部」としているのに対し、甲1発明は、「中程」である点。

(3-2)判断
次に、上記の各相違点について検討する。

a)相違点1について
本件発明1において、ダイヤフラム接合部の一側面及び外周面を円形としたことの技術的意義は、特許明細書に何等記載されてはいない。
一方、甲1発明において、ダイヤフラム接合部の一側面及び外周面を如何なる形に設定するかは、当業者が必要に応じて適宜改変し得る事項である。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、単なる設計的事項にすぎないというべきである。

b)相違点2ないし4について
相違点2ないし4に係る本件発明1の構成の技術的意義について検討する。
特許明細書の段落【0006】には「タンク部材の中には、或る一定の容量の空気滞留室が形成されているので、このタンク部材に送られた空気は一時的に空気滞留室内に蓄えられ、その後出口からホースへと入る。このため、ダイヤフラムにおける空気の吸入、吐出動作に際して発生した音は、タンク部材によって消されるかまたは大幅に低下せしめられる。」と記載され、同段落【0015】には「ダイヤフラム18から排出された空気はタンク部材19の空気取込口27からタンク部材19へ取り込まれ、空気通路28を通って垂直方向下方へ流れ、先ず空気滞留室23のベース部20側部分へと流れ込む。そして、空気は一時的に前記空気滞留室23内に蓄えられる。この空気滞留室23へダイヤフラム18から次々と空気が送り込まれて来ることにより、空気滞留室23からは柱状部22の上端部に設けられたノズル部24の空気出口25を通して空気が水平方向へ吐き出される。」と記載され、同段落【0016】には「このとき、空気通路28の径に対して空気滞留室23の容積が極めて大きいためにダイヤフラム18の作動によって発生した音は大幅に軽減せしめられる。しかも、タンク部材19に取り込まれた空気はベース部20において空気滞留室23へ流れ込み、この流入位置から離れた柱状部22の上端部から吐き出されることと、空気が空気滞留室23へ流入する時とここから流出する時との空気の流れ方向が直角の向きに異なっていることとが相俟って、前記音の軽減効果はより一層促進される。」と記載され、同段落【0017】には「エアーポンプの動作時に、ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生した音は、空気滞留室の容積により大幅に軽減され、さらに空気滞留室による空気の流入位置と流出位置、さらに空気の流れる方向によって音の軽減効果はより一層促進されて、当該音は消されかまたは大幅に低下せしめられて、水槽へ静かな空気供給を行なうことができる。」と記載されている。
これらの記載によれば、相違点2ないし4に係る本件発明1の構成の技術的意義は、空気通路の径に対してその容積が極めて大きい空気滞留室に空気が一時的に蓄えられることにより、ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生した音が大幅に軽減されることが前提であると共に、空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なること、及び、空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することにあるものと解される。
なお、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、空気滞留室について、「内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した」形状とすることの技術的意義は、特許明細書に何等記載されてはいないが、一般に、空きスペースの有効活用は、当業者が適宜考慮すべき事項であるといえるから、上記の形状は、適宜設計変更可能な範囲のものというべきである。

一方、上記「(2)(2-1)」の「a)」、「e)」及び「f)」の各記載事項によれば、甲1発明において、音の軽減は、空気の排気速度と排気圧力を緩和することのできる(即ち、空気が一時的に蓄えられる)容積の大きい空気滞留室(緩衝室)により実現されるものと解される。
また、甲1発明において、空気滞留室の空気出口が土台部分側に設けられた空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行の関係にあることから、空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なり、空気滞留室中で空気流入口からの空気の流れ方向が空気出口側の壁により一旦変えられた後、さらに、空気出口からの空気の流出方向が空気流入口からの空気の流入方向に対して平行であるように変えられることになるものであると解されるから、甲1発明においても、本件発明1と同様に、空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なること、及び、空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することができるといえる。

そうすると、空気滞留室、空気通路及び空気出口に関する上記相違点2ないし4は、同様の効果を生じさせるための、単なる形状及び配置構成の相違にすぎず、空気滞留室の形状については適宜設計変更可能なものであり、また、空気通路及び空気出口の配置構成についても特別のものとはいえない(甲第2号証に開示された、ベース部から略L字形に連続する空間に連通する空気通路をベース部に向けて延びるように形成し、空気出口を空気滞留室の上部に設ける構成としたエアーポンプ参照)から、甲1発明において、上記相違点2ないし4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が適宜改変し得る設計的事項にすぎないというべきである。

そして、本件発明1の全体構成により奏される効果も、甲1発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきである。

(3-3)被請求人の本件発明1についての主張
なお、被請求人は、本件発明1の「内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室」の構成により得られる独自の作用効果として概ね次のように主張している(上記訂正審判の請求書を参照)。
a)空気が空気滞留室へ流れ込んでから、柱状部の上端部に到達するまでの間において、円形部分に沿って流れるから、風切り音が発生せず、消音効果を上げることができる。
b)ベース部から、柱状部へかけて空気流路の断面積が徐々に変化する構造となり、空気の流速自体も緩やかに変化し、空気の衝突などによる音の発生が抑制される。
c)内側角部においては、一種の面取り効果が得られ、空気滞留室の容積を拡大させる効果が得られる。

しかしながら、上記した各効果は、そもそも特許明細書に何等記載されていない効果であると共に、本件発明1と甲1発明との間で、空気の流れや空気滞留室の大きさに起因する消音の度合いに明確な差異が存在するとまでは断定し難いため、本件発明1の特徴的な効果であるとは到底認められない。
さらに、甲1発明の空気滞留室を上記の構成に改変すること自体は、既に検討したように設計的事項であるというべきであるから、被請求人の上記主張を根拠に、本件発明1の進歩性を肯定することはできない。

(4)本件発明2について
(4-1)対比
本件発明2は、本件発明1にさらに、「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている」との配置構成を限定付加したものである。
そこで、本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり」とした配置構成と本件発明2の上記限定付加した配置構成とは、「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が所定方向に向けられている」との概念で共通している。
そうすると、本件発明2と甲1発明とを対比した際の相違点は、上記「(3)」で述べた相違点1ないし4に、さらに次の相違点5が加えられることとなる。
[相違点5]
空気滞留室の空気の流入方向に対する空気の流出方向の関係が、本件発明2では「直角」であるのに対し、甲1発明では、「平行」である点。

(4-2)判断
相違点1ないし4については、上記「(3)(3-2)」で既に検討したとおりである。
そこで、相違点5について以下検討する。
本件発明2において、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている配置構成としたことの技術的意義は、特許明細書の段落【0016】及び【0017】の記載によれば、空気滞留室中での空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することにあるものと解される。
一方、甲1発明は、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行に向けられている配置構成ではあるものの、空気滞留室中での空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することができるのは、上記「(3)(3-2)」で既に述べたとおりである。
そうすると、上記相違点5は、同様の効果を生じさせるための、単なる配置構成の相違にすぎず、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている配置構成も特別のものとはいえない(甲第2号証に開示された、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている構成としたエアーポンプ参照。)から、甲1発明において、上記相違点5に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が適宜改変し得る設計的事項にすぎないというべきである。

そして、本件発明2の全体構成により奏される効果も、甲1発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本件発明2は、上記「(3)」での検討を踏まえれば、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきである。

6.むすび
以上のとおりであって、本件発明1及び2はいずれも、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアー・ポンプ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】筐体であるハウジングと、電磁駆動機構と、この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと、このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと、ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え、吐出するタンク部材とを備え、タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され、ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成されて、空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに、空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ、ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って、ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ、タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されることを特徴とするエアー・ポンプ。
【請求項2】空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられていることを特徴とする請求項1記載のエアー・ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エアー・ポンプ、特に鑑賞魚を入れた水槽に泡立て用の空気を送り込むエアー・ポンプに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
以前から一般家庭および人が多く集まる場所などにおいては、鑑賞魚を水槽に入れて飼育し室内のアクセサリーにしたり、見る者の目を楽しませたりすることが行なわれて来た。このような鑑賞魚類を飼育する水槽には、よく泡発生器具を水底に置き、この泡発生器具に小型のエアー・ポンプから空気を送り込んで空気の泡を発生させているものが見受けられるが、この種のエアー・ポンプの従来例としては、例えば図5に示すようなものがある。この図において、符号1はハウジング2に固定取り付けされ電磁回路を形成するためのヨーク、3はヨーク1に取り付けられたコア、4はコア3に巻装され且つ電源コード5に接続された電磁コイルであり、これらヨーク1、コア3および電磁コイル4によって電磁駆動機構を構成している。6はアーム、7はアーム6の先端部に取り付けられ電磁作用によって前記ヨーク1と電磁コイル4との間を往復運動するマグネットである。アーム6は、前記マグネット7の往復運動にともなって、その運動方向へ変位可能にハウジング2に取り付けられており、その長手方向中間部分にはダイヤフラム8が連結されている。このダイヤフラム8は外力によって収縮、膨張するゴムなどの弾性材料から構成され、前記電磁駆動機構の電磁作用によって空気を吸入し、さらに空気出口9から空気の吐出を行なうようになっている。したがって、空気出口9にホースを接続することにより空気を水槽に送ることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のエアー・ポンプにあっては、ダイヤフラム8の出口にホースを直接接続し、このホースを通して水槽の中に空気を送るようにしているため、ダイヤフラム8が空気を吸入、吐出を行なうときの音がそのまま空気出口9からホースを伝って水槽へと伝わり、エアー・ポンプを作動させている間中、水槽或いはその周縁から低いうなり音が発生し、耳ざわりである上、例えば一般家庭では夜中に寝静まった後でも前記音がし続け、人によっては安眠を妨害されることがある。さらに、本来は水槽の中で泡が立つのであるから、水の中を泡が立ち昇る音、或いは水面に達した泡がはじけるときの澄んだ音が人の耳に聞こえてもよいのであるが、これらの音は前記エアー・ポンプのうなり音にかき消されて聞こえないという不具合もあった。
【0004】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生した音が水槽にまで伝わるのを防止したエアー・ポンプを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のエアー・ポンプは、筐体であるハウジングと、電磁駆動機構と、この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと、このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと、ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え、吐出するタンク部材とを備え、タンク部材は、土台となるボックス構造のベース部と、ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と、ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と、この柱状部に形成され、アームの根元部分が固定される係止部とを有し、全体が一体のブロック体構造で、かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に、内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され、ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び、空気滞留室に連通する空気通路を形成されて、空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに、空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ、ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って、ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ、タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されるものである。また、空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ、空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられていることが好ましい。
【0006】
【作用】
本発明は上記構成により、ダイヤフラムは電磁駆動機構の動作によって空気の吸入および吐出動作を行なう。ダイヤフラムから吐き出された空気は、当該ダイヤフラムに接続されたタンク部材に導入され、このタンク部材の中を通った後にホースへ入り、このホースを通って水槽へ達する。タンク部材の中には、或る一定の容量の空気滞留室が形成されているので、このタンク部材に送られた空気は一時的に空気滞留室内に蓄えられ、その後出口からホースへと入る。このため、ダイヤフラムにおける空気の吸入、吐出動作に際して発生した音は、タンク部材によって消されるかまたは大幅に低下せしめられる。そして、水槽へは空気のみがホースを伝って送られ、静かな空気供給が行なわれる。
【0007】
【実施例】
図1は本発明によるエアー・ポンプの一実施例の内部構造を露出させて示す平面図である。この図において、符号11は、筐体であるハウジング12内の一方の側壁12aに固定取り付けされ電磁回路を形成するためのヨーク、13はヨーク11に取り付けられヨーク12とともに電磁回路を形成するコア、14はコア13に巻装され且つ電源コード15に接続された電磁コイルであり、これらヨーク11、コア13および電磁コイル14によってポンプ動作を行なうための電磁駆動機構を構成している。16はハウジング12内において前記ヨーク11を取り付けた側壁と対向する他方の側壁12b側から前記電磁コイル4の方へ向けて延びるアーム、17はアーム16の先端部に取り付けられ前記電磁駆動機構との間の電磁作用によって前記ヨーク11と電磁コイル14との間を往復運動するマグネットである。
【0008】
アーム16は、その根元端部が後出のタンク部材に固定連結されることにより一種の片持ち梁構造(ただし、変位方向は図1中上下の方向である)を有している。そしてこのアーム16は、前記マグネット17の往復運動にともなって、当該マグネット17の運動方向へ撓んで変位するようにハウジング12に取り付けられており、その長手方向中間部分にはダイヤフラム18が連結されている。このダイヤフラム18は外力によって収縮、膨張する内部が中空のゴム、革、強化処理された紙、或いはプラスチックなどの弾性材料から構成されるとともに弁機構を有しており、前記電磁駆動機構の電磁作用によって空気の吸入を行ない、また吐き出しを行なうようになっている。このダイヤフラム18の排気側部分にはタンク部材19が隣合わさって設置され、ダイヤフラム18から排出された空気はタンク部材19へと導かれるようになっている。
【0009】
図2は、この実施例におけるタンク部材19を示す平面図、図3は同じくタンク部材19の正面図、図4は前記タンク部材19の内部構造を説明するため図2中A-A線によって切断した正面断面図である。このタンク部材19はダイヤフラム19およびアーム16を支持するための支持台としての機能を合わせ持っており、全体としてはブロック体構造を有している。そして、このタンク部材19は、ハウジング12の底面に当接して土台となるベース部20と、ベース部20と一体的に成形されダイヤフラム18の排気部に対接するダイヤフラム接合部21と、同じくベース部20およびダイヤフラム接合部21と一体的に成形された柱状部22とを有してなる。
【0010】
柱状部22は、ダイヤフラム接合部21と隣り合わさった位置においてベース部20から立ち上がって成形されている。そして、ベース部20の内部および柱状部22の内部には両部分20、22間に連続した空気滞留室23が形成されている。すなわち、ベース部20と柱状部22とはボックス構造となっており、柱状部22はベース部20に対してほぼ垂直の方向へ立ち上がっているため、これらの部分の内部には、図4に示すように略L字状の空気滞留室23が形成される。さらに、柱状部22の上端部にはノズル部24が設けられ、このノズル部24には空気滞留室23に連通して空気をエアー・ポンプの外へ吐き出す空気出口25が設けられている。この空気出口25はタンク部材19に対して水平方向へ延びており、ホースを接続することにより空気を水槽に送ることができる。
【0011】
また、前記ノズル部24に隣接した柱状部22の部分にはアーム16を支持するための係止部33が設けられ、この係止部33にアーム16の根元部分が固定される。係止部33は、図2から明らかなように、平面形状がほぼ円環状になってタンク部材19の外側壁からはみ出し、且つ先端が途中で終端となった壁片から成り、タンク部材19本体との間に円形の一部切り欠かれた空隙34を形成している。アーム16は前記係止部33に直接取り付けられて前述のように片持梁構造とされてもよいが、この実施例では、図1および図2に示すように空隙34にゴム等の弾性を有する材料からなる保持部材35を埋め込み、この保持部材35にアーム16の根元部分を結合している。これによりアーム16の変位は保持部材の弾性変形によって規制される。
【0012】
一方、ダイヤフラム接合部21は、ダイヤフラム18の排気側部分の形状と同様の円形に成形されている。そして、このダイヤフラム接合部21の中心部にはダイヤフラム18のドラム部を固定するためのねじ通し孔26が成形されており、またねじ通し孔26の少し下側の位置にはダイヤフラム18から送り出された空気を受け入れる空気取込口27が形成されている。ダイヤフラム接合部21の空気取込口27からは空気通路28がベース部20に向けて垂直方向下方へ延びており、この空気通路28の先端はベース部20において空気滞留室23に連通している。
【0013】
タンク部材19の側部には、このタンク部材19をハウジング12に固定取り付けするため、ねじ通し穴32を有する取付フランジ29が設けられており、この取付フランジ29のねじ通し穴32にねじ30を挿通してハウジング12の底板部12cにねじ込むことによりタンク部材19はハウジング12に固定取り付けされる。ハウジング12へのタンク部材19の取り付けに当たっては、図4から明らかなように、ハウジング12の底板部12aの所定の場所にタンク部材19のベース部20が密に嵌まり込む嵌合凹部31を形成しておき、この嵌合凹部31にタンク部材19のベース部20を嵌め込んだ後、前記ねじ30をねじ込む。これにより、タンク部材19は、振動などによってガタつくことなく固定取り付けされ、騒音の発生が最大限に抑えられるとともに、ダイヤフラム18の支持台としての機能を充分に果たすことができる。
【0014】
なお、図1ではエアー・ポンプの内部を示すためにハウジング12の上半分は外してあるが、このハウジング12の上半分は蓋として被せることによりエアー・ポンプが出来上がる。
【0015】
かかる構成を有するエアー・ポンプの動作を説明する。このエアー・ポンプが動作せしめられると、電磁駆動機構の駆動作用によってマグネット17がアーム16とともに往復運動し、これにともなってダイヤフラム18が空気の吸入および排出動作を行なう。ダイヤフラム18から排出された空気はタンク部材19の空気取込口27からタンク部材19へ取り込まれ、空気通路28を通って垂直方向下方へ流れ、先ず空気滞留室23のベース部20側部分へと流れ込む。そして、空気は一時的に前記空気滞留室23内に蓄えられる。この空気滞留室23へダイヤフラム18から次々と空気が送り込まれて来ることにより、空気滞留室23からは柱状部22の上端部に設けられたノズル部24の空気出口25を通して空気が水平方向へ吐き出される。そして、この吐き出された空気は、空気出口25に接続されたホース(図示してない)によって水槽へ導かれ、水槽内で泡を生じる。
【0016】
このとき、空気通路28の径に対して空気滞留室23の容積が極めて大きいためにダイヤフラム18の作動によって発生した音は大幅に軽減せしめられる。しかも、タンク部材19に取り込まれた空気はベース部20において空気滞留室23へ流れ込み、この流入位置から離れた柱状部22の上端部から吐き出されることと、空気が空気滞留室23へ流入する時とここから流出する時との空気の流れ方向が直角の向きに異なっていることとが相俟って、前記音の軽減効果はより一層促進される。このため、空気出口25からはエアー・ポンプの音は殆ど漏れ出ることはなく、水槽へは空気のみがホースを伝って送られ、静かな空気供給動作が実現される。
【0017】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、タンク部材はダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持ってハウジングに固定取り付けされるので、タンク部材にダイヤフラムとアームとを支持してハウジングに取り付けることができるとともに、エアーポンプの動作時に、ダイヤフラムによる空気の吸入、吐出動作に際して発生した音は、空気滞留室の容積により大幅に軽減され、さらに空気滞留室による空気の流入位置と流出位置、さらに空気の流れる方向によって音の軽減効果はより一層促進されて、当該音は消されかまたは大幅に低下せしめられて、水槽へ静かな空気供給を行なうことができる。また、空気の供給が静かに行なわれるため、水槽の水の中を泡が立ち昇る音、或いは水面に達した泡がはじけるときの澄んだ音が人の耳に届き、これを聞いた人々に爽やかな感じを与え、気持ちを落ち着かせるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるエアー・ポンプの一実施例の内部構造を露出させて示す平面図である。
【図2】前記実施例におけるタンク部材を示す平面図である。
【図3】実施例におけるタンク部材の正面図である。
【図4】実施例におけるタンク部材の内部構造を説明するため図2中A-A線によって切断した正面断面図である。
【図5】従来のエアー・ポンプの一例の内部を露出して示す平面図である。
【符号の説明】
11 ヨーク
12 ハウジング
13 コア
14 電磁コイル
15 電源コード
16 アーム
17 マグネット
18 ダイヤフラム
19 タンク部材
20 ベース部
21 ダイヤフラム接合部
22 柱状部
23 空気滞留室
24 ノズル部
25 空気出口
26 ねじ通し孔
27 空気取込口
28 空気通路
31 嵌合凹部
33 係止部
35 保持部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-03-03 
結審通知日 2009-03-06 
審決日 2008-06-06 
出願番号 特願平6-3185
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (F04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 貴雄  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大河原 裕
小川 恭司
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3400515号(P3400515)
発明の名称 エアー・ポンプ  
代理人 牛久保 美香  
代理人 谷 眞人  
代理人 蔵合 正博  
代理人 牛久保 美香  
代理人 酒井 一  
代理人 津国 肇  
代理人 生川 芳徳  
代理人 牛久保 美香  
代理人 細谷 義徳  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 酒井 一  
代理人 蔵合 正博  
代理人 蔵合 正博  
代理人 谷 眞人  
代理人 谷 眞人  
代理人 酒井 一  

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