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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1210202
審判番号 不服2007-21487  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-02 
確定日 2010-01-13 
事件の表示 特願2002- 65304「CVD装置処理室のクリーニング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月19日出願公開、特開2003-264186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年3月11日の出願であって、平成19年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、平成19年8月2日付けで審判請求をするとともに、同日付けで手続補正をしたものである。

II.平成19年8月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年8月2日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
[1]本件手続補正の内容
本件手続補正は、特許請求の範囲についてするものであって、補正前に、
「【請求項1】CVD装置処理室内部を遠隔プラズマ放電装置を用いてリモートプラズマクリーニングする方法であって、
F2ガスとアルゴンガスを混合し、F2ガス濃度を20vol%から50vol%に制御したクリーニングガスを生成する工程と、
前記クリーニングガスを、前記遠隔プラズマ放電装置に供給する工程と、
前記クリーニングガスを前記遠隔プラズマ放電装置内で活性化する工程と、
活性化された前記クリーニングガスを前記処理室内に導入する工程と、
から成る方法。」
とあったものを、補正後に、
「【請求項1】CVD装置処理室内部を遠隔プラズマ放電装置を用いてリモートプラズマクリーニングする方法であって、
F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガスとアルゴンガスとを混合し、F2ガス濃度を40vol%から50vol%に制御したクリーニングガスを生成する工程と、
前記クリーニングガスを、前記遠隔プラズマ放電装置に供給する工程と、
前記クリーニングガスを前記遠隔プラズマ放電装置内で活性化する工程と、
活性化された前記クリーニングガスを前記処理室内に導入する工程と、
から成る方法。」
とする補正を含むものである。

[2]補正の適否について
すなわち、上記補正は、
(1)補正前の請求項1に記載の「F2ガスとアルゴンガスとを混合し」を、補正後に「F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガスとアルゴンガスとを混合し」と補正し、
(2)補正前の請求項1に記載の「20vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」を、「40vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」と補正する事項を含むものである。

そこで、上記補正事項が、新規事項の追加に当たるかについて検討する。

(a)まず、特許法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書又は図面…に記載した事項の範囲内において」との文言について、「明細書又は図面…に記載した事項」とは,当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

そして、明細書又は図面に記載された事項は、通常、当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから、例えば、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合において、付加される事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や、その記載から自明である事項である場合には、そのような補正は、特段の事情のない限り、新たな技術的事項を導入しないものであると認められ、「明細書又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであるということができる。

そうすると、数値限定についてする補正においては、例えば、20vol%と50vol%の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「20?50vol%」の数値限定の補正が許されることにならないが、当初明細書等の記載全体からみて20?50vol%という特定の範囲についての言及があったものと認められる場合(例えば、20vol%と50vol%が、課題・効果等の記載からみて、ある連続的な数値範囲の上限・下限等の境界値として記載されていると認められるとき)は、実施例のない場合と異なり、数値限定の記載が当初からなされていたものと評価できるので、補正は許されるものの、これとは異なり、補正により、例えば、請求項に記載された数値範囲の最小値を変更して新たな数値範囲とした場合において、新たな数値範囲の最小値が当初明細書等に記載されていない場合には、当該補正は許されないものと解される。

(b)そこで本件の上記補正事項(2)について見ると、そもそも補正事項(2)は、F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガスとアルゴンガスとを混合して所定濃度のクリーニングガスを生成する工程において、当該クリーニングガスに占めるF2ガス濃度の下限の値として「40vol%」を選択しようとするものである。しかるに、願書に最初に添付した明細書又は図面には、10、15、20、50、100vol%の各濃度における実験値等は記載されているが、F2ガス濃度の下限値として「40vol%」を選択することは記載されていない。なるほど、願書に最初に添付した明細書の【0042】には「実験1からクリーニング速度はフッ素ラジカルのアウトプットの増加量に対して比例的に向上することが分かっているので、より高純度のF2を使用することが更にクリーニング速度を向上させるための要因であることがわかった。」と記載されており、また、願書に最初に添付した図4には、F2濃度が10、15、20vol%の場合のクリーニング速度が「●」によってプロットされると共に、これら3点を通る破線が、同図のX軸の上限である50vol%まで延長して図示されていることを読み取ることが出来る。しかしながら、これらの記載から、F2濃度の下限の値として、実験値等が示されていない「40vol%」という特定の値を選択することが自明であるとは認めることはできない。

したがって、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載を総合しても、当業者が、F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガスとアルゴンガスとを混合して所定濃度のクリーニングガスを生成する工程において、該クリーニングガスに占めるF2ガス濃度の下限の値として「40vol%」を選択することが自明であるとはいえないから、本件の補正事項(2)における「20vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」を、「F2ガス濃度を40vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」とする補正事項は、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといわなければならない。

(なお、要すれば、特許庁のホームページ等で公開している「特許・実用新案 審査基準」の第III部「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」、第I節「新規事項」の「4.2各論(3)数値限定」の項、及び、同部第IV節の「類型:数値限定」の、「新規事項の判断に関する事例15及び事例16」の解説を参照されたい。)

[3]むすび
したがって、本件補正は、上記補正事項(1)については検討するまでもなく、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

<付記>

なお、仮に、上記補正が同法第17条の2第3項に規定する新規事項の追加に該当しないとしても、下記のとおり、本件補正は、同じく改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

平成19年8月2日付の上記手続補正による補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて検討する。

(1)引用刊行物及びその摘記事項
平成18年6月23日付けの拒絶理由通知の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された下記の刊行物1、刊行物2には、次の事項が記載されている。

刊行物1:特開2001-85418号公報
刊行物2:特開平3-104891号公報

<刊行物1の摘記事項>
a)「【請求項1】処理チャンバの内面上に形成された堆積物を処理チャンバからクリーニングするための方法であって、・・・前記方法は、(a)反応種を形成するため、不活性ガスとクリーニングガスを備えるガス混合物を前記処理チャンバの外側で解離するステップと、(b)前記処理チャンバに前記反応種を提供するステップと、・・・を有する方法。
【請求項2】前記不活性ガスと前記クリーニングガスの比が約2:1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】 反応種を形成するために前記処理チャンバの外側でガス混合物を解離する前記ステップが、マイクロ波でエネルギが与えられる遠隔プラズマ装置で行われる請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項5】 前記第1のガスが不活性ガスであり、前記第2のガスがハロゲン化ガスである請求項2に記載の方法。
【請求項6】 前記ハロゲン化されたガスがNF3である請求項5に記載の方法。」(【特許請求の範囲】)

b)「利用可能な洗浄方法の1つに、処理チャンバに与えられる反応種を生産するための遠隔式(リモート)プラズマジェネレータの利用がある。1995年9月12日発行のHitachiの米国特許第5,449,411号は、SiO2の堆積の前に、真空チャンバをクリーニングするためのプロセスを説明する。C2F6、CF4、CHF3、CH6、F2、HF、Cl2またはHCl等の処理ガスのマイクロ波プラズマが記載される。」(【0003】

c)「【発明の実施の形態】本発明は、処理チャンバの内面上に蓄積された処理副生成物の除去のための新しいインシチュウのクリーニングプロセスに関するものである。ここに説明された具体例では、抵抗加熱CVDチャンバを用いる。・・・ここに説明するチャンバは、五酸化タンタル(Ta2O5)の熱堆積等、多種多様な半導体製造技術に利用できるモジュール式の処理システムの一部である。以下の記載及び具体例では、Ta2O5を備える膜の堆積及びクリーニングに関して説明されるが、当業者は、本発明で説明された方法が、本発明の範囲から離れることなく市販の処理システム及び操作に適応可能であると理解されよう。」(【0009】)

d)「遠隔プラズマジェネレータ60の中で解離されるべきガスは、ガスサプライ86及び84の中に貯蔵される。バルブ及び制御メカニズム80はガスサプライ86のための、バルブ及び制御メカニズム82は、ガスサプライ84のための、それぞれ、電子流量制御ユニットを表す。・・・また、生じているガス流動出力は、サプライ配管78を介してマイクロ波アプリケータキャビティ72に提供される。本発明に従って、ガスサプライ84は、チャンバ10内に形成される堆積物の除去のための反応種に解離されるクリーニングガスのソースであってもよい。本発明の具体例がNF3の使用に関して説明されたが、反応性ガス又はクリーニングガスは多種多様なハロゲンとハロゲン化合物から選択されてもよい。例えば、反応性ガスは、塩素、弗素又はこの化合物(例えばNF3・・・)であってもよい。反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。例えば、本発明の代表的な具体例で述べられるように、反応性の弗素はTa2O5の蓄積物を取り除くか、クリーニングするために用いられてもよい。」(【0022】)

e)「また本発明に従えば、ガスサプライ86は、2倍の目的を有する希ガスのソースである。マニュアルのチューナー60を有するこれらマイクロ波ジェネレーター装置60に対して、不活性ガスを用いて、マイクロ波アプリケータキャビティ72内にプラズマを点火する。第2に、以下に記す比に従い、不活性ガスを反応性のガスと同時に流し、反応種再結合を防止することにより、チャンバ10に達する反応種の数を増加させる。また、不活性ガスを添加することは、それらの反応種のチャンバ10内の滞在時間を増加させることになる。不活性ガスとクリーニングまたは反応性のガスの比を、流量について説明したが、不活性ガスとクリーニングガスの比は、また、他のあらゆる手段により決定することができ、チャンバ10に提供される各ガスの相対量を記述することができる。」(【0023】)

f)「次に、ブロック303に示されるように、反応種を形成するために、遠隔チャンバ内でガスを励起する。ガスサプライ84は、Cl2、HCl、ClF3、NF3、SF6、F2やHF等のハロゲン支持ガスを有していてもよい。」(【0034】)

g)「不活性ガスにAr、クリーニングガスにNF3である代表的な具体例では、それぞれの流量は、NF3が約200sccm、Arが約400sccm Arに調節される。不活性ガスと反応性のガスの間の比を約2:1に維持することにより、反応性ガスの解離により生成する反応種が再結合する確率を減らす。また、反応性ガスと不活性ガスの最適な比は、利用される特定の遠隔プラズマジェネレータの特性と用いる反応性ガスのタイプに応じて変えてもよい。反応性のガスと不活性ガスの比が上記の比2:1の約25%内に維持されたときに、有利な結果が成し遂げられた。」(【0036】)

h)「本発明の特定の別の具体例では、クリーニング方法は、少なくとも2つの異なる圧力を使用し、クリーニングガスは単独で用い、また、クリーニングガスは不活性ガスによって希釈される。当初、堆積物の量が最も多いときは、高い圧力を用い、その後堆積物の量が減りチャンバ内に分散すれば、低圧のクリーニングへと続く。・・・処理チャンバ内に堆積物を形成する処理操作を行い、処理される最後のウエハを取り出した後に、3200Wのプラズマを遠隔プラズマ装置の中に点火する。・・・点火の後、反応種を発生させるためにクリーニングガスが遠隔プラズマ装置に提供される。この例では、NF3を用い、クリーニングガスの希釈は、プロセスのこの部分では使用されない(ブロック802)。・・・NF3が処理チャンバ内で解離して反応種を与える場合(ブロック804)、チャンバ圧力は約3トールの一定の圧力で維持される(ブロック805)。・・・本発明のこの代表的な遠隔クリーニングプロセスの次のステップは、ブロック807に従ってガス流れを修正し、ブロック802に従ってクリーニングガス希釈を用いることである。・・・この例では、クリーニングガスがNF3、不活性ガスがアルゴンであり、NF3が750sccm、Arが750sccmであるので、ガスは1:1の比で提供される。あるいは、クリーニングガスと不活性ガスの比を2:1で提供することによってより良いクリーニング均一性を得ることができ、これは、NF3を1000sccm とArを500sccm、好ましくは NF3を1500sccm とArを750sccmで与えるようガス流れを調整する場合がある。・・・クリーニングガスと不活性ガスの混合物が処理チャンバ内で解離し反応種を提供すれば(ブロック804)、チャンバ圧力は約1.8トールの圧力に低減される(ブロック805)。」(【0075】-【0077】)

<刊行物2の摘記事項>
a)「1.CsF、HFを主成分とする溶融塩、もしくはそれに原料化合物を添加した溶融塩中において、・・・電気分解を行い、F_(2)もしくはフッ素化合物を生成させることを特徴とする溶融塩電解法。」(特許請求の範囲)

b)「〔従来の技術、発明が解決しようとする課題〕最近、プラズマによる加工と機能化やCVD法による新しい材料の製造など特殊ガスを用いた技術が発達し、一部はすでに実用化されている。このような背景の下で、例えば半導体デバイス加工用ガスとして多種類のガスが用いられており、そのうち、F_(2)、NF_(3)、SF_(6)等の製造法として、直接的もしくは間接的に溶融塩電解法が用いられている。」(第1頁右下欄第2-10行)

c)「〔発明の効果〕請求項1の発明によれば、・・・不純物含有量の少ないF2・・・を・・・製造することが可能となる。」(第3頁右下欄第10-14行)

(2)当審の判断
(2-1)刊行物1発明
ア)上記摘記事項d)の「遠隔プラズマジェネレータ60の中で解離されるべきガスは、ガスサプライ86及び84の中に貯蔵される。・・・また、生じているガス流動出力は、サプライ配管78を介してマイクロ波アプリケータキャビティ72に提供される。」との記載、及び図1のサプライ配管78の記載からみて、ガスサプライ84、86からの反応性ガスと不活性ガスはサプライ配管78の中で混合されているものと認められる。

してみると、上記ア)の事項を考慮しつつ、上記刊行物1の摘記事項a)?摘記事項g)をまとめると、刊行物1には、
「Ta2O5を備える膜の堆積の際に抵抗加熱CVDチャンバの内面上に形成された堆積物をクリーニングするための方法であって、
(a)Arガスと、NF3ガスを、ArとNF3の比が、約2:1となるように、サプライ配管の中で混合する工程と、
(b)上記混合したガスを、前記チャンバの外側にある遠隔プラズマ装置に供給する工程と、
(c)上記混合したガスを、前記遠隔プラズマ装置の中で解離して反応種を形成する工程と、
(d)前記チャンバに前記反応種を提供する工程とからなる方法」
に関する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていることになる。

(2-2)対比・判断
上記本願補正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「抵抗加熱CVDチャンバ」、「混合したガス」、「遠隔プラズマ装置」、「解離」、「反応種」は、本願補正発明1の「CVD装置処理室」、「クリーニングガス」、「遠隔プラズマ放電装置」、「活性化」、「活性化されたクリーニングガス」に相当する。
一方、刊行物1発明の「NF3ガス」と、本願補正発明1の「F2ガス」は、「ハロゲン化ガス」の範囲で一致し、また、刊行物1発明の「比が、約2:1となるように、サプライ配管の中で混合する」と、本願補正発明1の「濃度を40vol%から50vol%に制御」は、濃度を所定の値に制御するという範囲で一致する。

そうすると、両者は、
「【請求項1】CVD装置処理室内部を遠隔プラズマ放電装置を用いてリモートプラズマクリーニングする方法であって、
ハロゲン化ガスとアルゴンガスを混合し、ハロゲン化ガス濃度を所定の値に制御したクリーニングガスを生成する工程と、
前記クリーニングガスを、前記遠隔プラズマ放電装置に供給する工程と、
前記クリーニングガスを前記遠隔プラズマ放電装置内で活性化する工程と、
活性化された前記クリーニングガスを前記処理室内に導入する工程と、
から成る方法。」
の発明である点で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1:本願補正発明1では、ハロゲン化ガスとして「F2ガス」を用いているのに対して、刊行物1発明では「NF3ガス」を用いている点。

相違点2:前記F2ガスについて、本願補正発明1のF2ガスは、「F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガス」であるのに対し、刊行物1には、この点が明示されていない点。

相違点3:クリーニングガスの濃度について、本願補正発明1のクリーニングガスは、「F2ガス濃度を40vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」であるのに対し、刊行物1発明のガスの濃度は「比が、約2:1」、すなわち約33%である点。

そこで、上記相違点1-3について検討する。

1)相違点1について
刊行物1発明は、上記で認定したとおり「Ta2O5を備える膜」の堆積の際に抵抗加熱CVDチャンバの内面上に形成された堆積物をクリーニングするための方法において、クリーニングガスとして「NF3ガス」を用いた発明である。
一方、上記刊行物1の摘記事項d)には、「本発明の具体例がNF3の使用に関して説明されたが、反応性ガス又はクリーニングガスは多種多様なハロゲンとハロゲン化合物から選択されてもよい。例えば、反応性ガスは、塩素、弗素又はこの化合物(例えばNF3・・・)であってもよい。反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」と記載されており、「反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」ことが示されている。

してみれば、刊行物1に接した当業者であれば、刊行物1の前記「反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」との記載から、刊行物1発明において用いられているハロゲン化ガスである「NF3ガス」を他のハロゲン化ガスに変更することによって、刊行物1発明を、「Ta2O5を備える膜」以外の膜の堆積の際に形成された堆積物のクリーニングに応用しようとすることは、容易に想到し得たことであり、その際に、刊行物1発明の「NF3ガス」を、「弗素」ガス、すなわち「F2ガス」に置き換えることに格別の困難は認められない。

2)相違点2について
上記刊行物2の摘記事項b)に「半導体デバイス加工用ガスとして多種類のガスが用いられており、そのうち、F_(2)、NF_(3)、SF_(6)等の製造法として、直接的もしくは間接的に溶融塩電解法が用いられている。」と記載されているように、半導体デバイス加工用ガスの製造法として、溶融塩電解法によるF_(2)の製造が知られていることからみて、刊行物1発明のF2ガスとして、刊行物2の溶融塩電解法によって製造されたF2ガスを用いることは当業者が適宜なし得たことである。そして、刊行物2の溶融塩電解法によって製造されたF2ガスは、上記刊行物2の摘記事項c)に照らせば、本願補正発明1の「F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガス」に相当するものと認められる。

3)相違点3について
上記刊行物1の摘記事項g)には「不活性ガスと反応性のガスの間の比を約2:1に維持することにより、反応性ガスの解離により生成する反応種が再結合する確率を減らす。また、反応性ガスと不活性ガスの最適な比は、利用される特定の遠隔プラズマジェネレータの特性と用いる反応性ガスのタイプに応じて変えてもよい。反応性のガスと不活性ガスの比が上記の比2:1の約25%内に維持されたときに、有利な結果が成し遂げられた。」と記載されており、また、摘記事項h)には「この例では、クリーニングガスがNF3、不活性ガスがアルゴンであり、NF3が750sccm、Arが750sccmであるので、ガスは1:1の比で提供される。」と記載されている。
してみると、上記記載から、ハロゲン化ガスに不活性ガスを混合する技術的意義は「反応性ガスの解離により生成する反応種が再結合する確率を減らす」ことにあり、また、「反応性ガスと不活性ガスの最適な比は、利用される特定の遠隔プラズマジェネレータの特性と用いる反応性ガスのタイプに応じて変えてもよい。」という技術思想を理解することができる。
してみれば、前記記載に接した当業者であれば、刊行物1発明を実施するにあたり、当該実施にあたり用いる「特定の遠隔プラズマジェネレータの特性」が、刊行物1に記載された実施例において用いられた「遠隔プラズマジェネレータの特性」と異なる場合がある可能性に思い至り、また、「用いる反応性ガスのタイプ」が、刊行物1発明の「NF3ガス」と異なる「F2ガス」であることから、前記「反応性ガスと不活性ガスの最適な比」を、刊行物1発明の「約2:1」という比から変更しようとすることは容易に想到し得たことである。
そして、その際に、上記「反応性のガスと不活性ガスの比が上記の比2:1の約25%内に維持されたときに、有利な結果が成し遂げられた。」及び「ガスは1:1の比で提供される」との記載等を参酌して実験等を行い好適な濃度を定めることは当業者の通常の創作能力の発揮であり、「F2ガス濃度を40vol%から50vol%」の範囲に含まれる値を設定することに格別の困難は認められない。また、このように設定したことによる効果も格別のものとは認められない。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「具体的には、明細書段落(0042)から(0047)に記載されるように、F2ジェネレータを使って生成した50%程度の高濃度F2ガスをクリーニングガスとして使用すれば、従来のNF3ガスに比べ、クリーニング速度が約2.8倍に増加し、ガスコストが約22%まで削減されるという、顕著な効果を奏するものであります。」と、本願補正発明1の効果を主張するが、この主張は、以下の理由により採用しない。

(a)クリーニング速度への、クリーニングガスの流量の影響について
クリーニング速度が、クリーニングガスの流量と、濃度の双方に依存することは、本願明細書の図3、図4等の記載からも明らかであるところ、審判請求人の前記「F2ジェネレータを使って生成した50%程度の高濃度F2ガスをクリーニングガスとして使用すれば、従来のNF3ガスに比べ、クリーニング速度が約2.8倍に増加し」との主張は、F2ガスの濃度のみを特定し、他の条件を考慮しない主張であるから、その対比の前提を欠き、本願発明の格別の効果として採用することはできない。
すなわち、本願補正発明1は、「F2ガス濃度を40vol%から50vol%に制御したクリーニングガス」を発明特定事項として具備するものの、F2ガスの流量を特定しない発明である。一方、本願の図3によれば、濃度20%のF2の流量が3slmのときのクリーニング速度は約500nm/minであり、図4によれば、F2濃度が50%の場合と20%の場合のクリーニング速度の比は、3.19/1.75=1.82であるから、図3と図4の実験結果を総合すれば、濃度50%のF2の流量が3slmのときのクリーニング速度は約500×1.82=910nm/minとなるものと推定され、同一流量(Ar流量2slmを含む)のNF3のクリーニング速度である1141nm/minより少なくなるといえる。してみれば、このような場合を含む補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明である本願補正発明1の進歩性の判断において、「クリーニング速度が約2.8倍に増加し」との効果を参酌することはできない。

(b)クリーニング速度への、被クリーニング被膜の材質の影響について
取り除こうとする材料ごとに、クリーニングに適したガスがあることから、クリーニングガスの選択を、被クリーニング被膜の材質に依存して行うことは周知の事項である。
一方、本願補正発明1は、被クリーニング被膜の材質(取り除こうとする材料)を特定しない発明である。してみれば、仮に、本願明細書の実施例において実験されている「プラズマ酸化膜」のクリーニングにおいて、「クリーニング速度が約2.8倍に増加し」との効果を奏したとしても、それ以外の材料においても「クリーニング速度が約2.8倍に増加し」との効果を奏するとは必ずしも認められないから、審判請求人の「クリーニング速度が約2.8倍に増加し」との効果の主張は、請求項の記載に基づかない主張であって採用することができない。

(c)ガスコストへの、ガス生成方法の違いによる影響について
審判請求人の「ガスコストが約22%まで削減される」との主張は、その根拠が明確でないから、本願補正発明1の進歩性の判断において参酌することができない。
本願の補正後の請求項1には「F2ジェネレータによって得られた高純度F2ガス」とのみ規定するだけであって、F2ジェネレータの種別、構造、及び、F2を生成するための原材料の種類等を一切特定していない。しかしながら、F2ジェネレータの製造費用、維持費用、F2を生成するための原材料の費用、装置の稼働費用等が、F2ガスのコストを大きく左右することは明らかである。してみれば、前記条件の選択によっては、F2ガスのコストが、NF3のコストを上回ることもあり得るから、「ガスコストが約22%まで削減される」との主張は、請求項の記載によらない主張であって採用することができない。

(3)むすび
したがって、本願補正発明1は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

III.本願発明について
[1]本願発明
平成19年8月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?請求項4に係る発明は、平成18年8月23日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載されたとおりのものであるところ、その内、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】CVD装置処理室内部を遠隔プラズマ放電装置を用いてリモートプラズマクリーニングする方法であって、
F2ガスとアルゴンガスを混合し、F2ガス濃度を20vol%から50vol%に制御したクリーニングガスを生成する工程と、
前記クリーニングガスを、前記遠隔プラズマ放電装置に供給する工程と、
前記クリーニングガスを前記遠隔プラズマ放電装置内で活性化する工程と、
活性化された前記クリーニングガスを前記処理室内に導入する工程と、
から成る方法。」

[2]引用刊行物及びその摘記事項
(1)平成18年6月23日付けの拒絶理由通知の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された下記の刊行物1に記載されている事項は、上記「II.<付記>(1)引用刊行物及びその摘記事項」の項で指摘したとおりである。

刊行物1:特開2001-85418号公報

(2)当審の判断
(2-1)刊行物1発明
ア)上記摘記事項d)の「遠隔プラズマジェネレータ60の中で解離されるべきガスは、ガスサプライ86及び84の中に貯蔵される。・・・また、生じているガス流動出力は、サプライ配管78を介してマイクロ波アプリケータキャビティ72に提供される。」との記載、及び図1のサプライ配管78の記載からみて、ガスサプライ84、86からの反応性ガスと不活性ガスはサプライ配管78の中で混合されているものと認められる。

してみると、上記ア)の事項を考慮しつつ、上記刊行物1の摘記事項a)?摘記事項g)をまとめると、刊行物1には、
「Ta2O5を備える膜の堆積の際に抵抗加熱CVDチャンバの内面上に形成された堆積物をクリーニングするための方法であって、
(a)Arガスと、NF3ガスを、ArとNF3の比が、約2:1となるように、サプライ配管の中で混合する工程と、
(b)上記混合したガスを、前記チャンバの外側にある遠隔プラズマ装置に供給する工程と、
(c)上記混合したガスを、前記遠隔プラズマ装置の中で解離して反応種を形成する工程と、
(d)前記チャンバに前記反応種を提供する工程とからなる方法」
に関する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていることになる。

(2-2)対比・判断
上記本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「抵抗加熱CVDチャンバ」、「混合したガス」、「遠隔プラズマ装置」、「解離」、「反応種」は、本願発明1の「CVD装置処理室」、「クリーニングガス」、「遠隔プラズマ放電装置」、「活性化」、「活性化されたクリーニングガス」に相当する。
一方、刊行物1発明の「NF3ガス」と、本願発明1の「F2ガス」は、「ハロゲン化ガス」の範囲で一致し、また、刊行物1発明の「比が、約2:1となるように、サプライ配管の中で混合する」は、濃度に換算すると約33%に該当するから、本願発明1の「濃度を20vol%から50vol%に制御」の範囲に含まれる。

そうすると、両者は、
「【請求項1】CVD装置処理室内部を遠隔プラズマ放電装置を用いてリモートプラズマクリーニングする方法であって、
ハロゲン化ガスとアルゴンガスを混合し、ハロゲン化ガス濃度を20vol%から50vol%に制御したクリーニングガスを生成する工程と、
前記クリーニングガスを、前記遠隔プラズマ放電装置に供給する工程と、
前記クリーニングガスを前記遠隔プラズマ放電装置内で活性化する工程と、
活性化された前記クリーニングガスを前記処理室内に導入する工程と、
から成る方法。」
の発明である点で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1:本願発明1では、ハロゲン化ガスとして「F2ガス」を用いているのに対して、刊行物1発明では「NF3ガス」を用いている点。
そこでに、上記相違点1について検討する。

1)相違点1について
刊行物1発明は、上記で認定したとおり「Ta2O5を備える膜」の堆積の際に抵抗加熱CVDチャンバの内面上に形成された堆積物をクリーニングするための方法において、クリーニングガスとして「NF3ガス」を用いた発明である。
一方、上記刊行物1の摘記事項d)には、「本発明の具体例がNF3の使用に関して説明されたが、反応性ガス又はクリーニングガスは多種多様なハロゲンとハロゲン化合物から選択されてもよい。例えば、反応性ガスは、塩素、弗素又はこの化合物(例えばNF3・・・)であってもよい。反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」と記載されており、「反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」ことが示されている。

してみれば、刊行物1に接した当業者であれば、刊行物1の前記「反応性のガスの選択は、取り除こうとする材料に依存する。」との記載から、刊行物1発明において用いられているハロゲン化ガスである「NF3ガス」を他のハロゲン化ガスに変更することによって、刊行物1発明を、「Ta2O5を備える膜」以外の膜の堆積の際に形成された堆積物のクリーニングに応用しようとすることは、容易に想到し得たことであり、その際に、刊行物1発明の「NF3ガス」を、「弗素」がす、すなわち「F2ガス」に置き換えることに格別の困難は認められない。

したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[3]むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の請求項2?請求項8に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-12 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願2002-65304(P2002-65304)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 靖史池渕 立  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 鈴木 正紀
加藤 浩一
発明の名称 CVD装置処理室のクリーニング方法  
代理人 堀 明▲ひこ▼  

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